またまたSkebで依頼を頂きました! ありがとうございますm(__)m
今回は『餓狼 MARK OF THE WOLVES』より、双葉ほたる×B.ジェニーのラブラブ敗北、マゾ堕ちお嫁入りのお話です。
こちらのお話(https://www.fanbox.cc/@fallen02side/posts/5254438)と少しだけ関係があるかも?
それでは、下記よりどうぞ!
あ、プラン登録者の方で全体参加企画のこと気にしてくださってる方がいましたが、もうちょっと……もうちょっと待ってくださいね……今月中に始められるように頑張るので……。
──舌先を足の指で柔らかく挟まれて、口の外へと引きずり出される。
仄かに感じる甘い味と温もりに、涎が自然と湧き出しぽたぽたと零れて、顎が冷たくなっていく。
「可愛い。まるで、犬みたい」
笑みを含んだ声が投げかけられ、すっかりと躾けられた脳髄は、無数の妄想を一瞬にして巡らせる。
首輪を付けて飼われている姿。夜の散歩に連れ出されている痴態。小水を強要されて足を広げている哀れな様子。
そのどれもがあまりにも甘美で、舌を取られて言葉にならないままに「きゅぅん♥」という“鳴き声”が喉から漏れた。
降り注ぐように向けられている笑顔が、深みを増したように感じる。自分よりも年下の、少女と言っても彼女が笑ってくれるのが嬉しくて、もう一度あわれっぽく鳴こうかと思っていたら、もう片方の足が伸びてきて喉の下をぐりぐりと撫でた。
少しだけ、苦しい。ただでさえ舌を取られて上手に呼吸ができていないのに、これで更に喉を抑えられるなんて。
はっ♥ はっ♥ とそれこそ犬のように息を荒くしていたら、また優しい……どこまでも柔らかくすべてを包み込むような、あるいはそのまま、ぎゅうと押しつぶされてしまうような、たまらない声音が降り注ぐ。
「本当に、可愛いです。私だけの“負け犬”……一生、大切にしてあげます。誰にも触れさせないんだから……」
苦しいと感じていたことすらも、その一言ですべて快感へと変じた。
命をも、この子に掌握されている。一生大切にするという言葉は、逆に言えば永遠に閉じ込めて奪い続けるということだ。
なんて──刺激的な告白!
「(あぁ……素敵……素敵よぉ……♥ 私から、なにもかもを奪ってぇ……あなたにぜんぶ捧げたい♥ ぜんぶ預けたい♥ ぜんぶ、ぜんぶ、あなたのモノにしてほしいのぉ……♥ 好き、好き、好きぃ♥)」
喉から漏れるのは、心の中の好意が漏れ出した告白ではなく「かはっ♥」という苦し気な喘ぎ。
すぅと喉下から足がのけられて、そのことを残念だと思う間もなく、今度はぐりぐりと顔を踏まれて、舌が更に無理やり引きずり出された。
「あひゃひふぅぅぅ……♥ ひゃっ、ひゃふへぇぇぇっ……♥」
「何を言ってるのか、全然わからないけれど……これだけはわかりますよ」
少女がぐりっと顔をにじり、限界まで引き出された舌の赤さを見つめながら、どこまでも包容力に満ちた笑みで言った。
「私のこと、大好きなんですね──ジェニーさん♥」
B.ジェニーは……今さらと言ってもいいような繰り返されてきた問いかけに、それでも尻尾を激しく振る犬のように頷いてみせた。
ああ、こんな満たされた日々、きっと少し前の自分には想像もできないに違いない──。
※
「──ふぅ」
ため息を吐くと幸せが逃げていくというのは、元はキューバの革命家が言い出したことなんだそうだ。
確かに心の奥底にため息の原因となる憂鬱を抱えていると、日々に感じる幸せが色あせていくような気はすると、B.ジェニー……海賊リーリンナイツの首領は感じていた。
「今のは意識せずに吐き出しちゃったわ……ダメねん、ちゃんと隠しておかないと」
豪放磊落、快刀乱麻、焼肉大食(※ステーキ)。
リーリンナイツの艦長を務めるジェニーへ多くの人々が抱く印象であり、その本質と大きくズレていないと彼女自身も考えている。
そもそも欧州の名家であるバーン家を飛び出して、刺激を求めて海賊団を結成。大胆な行動と最新兵器の数々、そしてジェニーの腕っぷしで領海侵犯と義賊稼業を繰り返す、そんな彼女の日々に退屈など存在するはずもなく、それならば常に充足していて、ため息の出番など無いのが普通だろう。
「ふぅ……」
今度は意図的に吐き出した。
間違っても、リーリンナイツの仲間たち……無理無法を繰り返すジェニーを慕ってくれる、大事な仲間たちに聞かせたりしないように。
セカンドサウスを独立国家として成立させ、力ある者が幾らでも理を変えていける世界……それを目指した野望の男カイン・R・ハインラインが開催した、格闘大会キング・オブ・ファイターズがジェニーの勝利によって幕を閉じて、しばらくの時間が経っていた。
最後の戦いの後、自分以外の責任まで背負おうとした男にかけた「人生を楽しく過ごせればそれでいい」という言葉に、嘘はなかった。今でも、そう思っているし実行している。
「(けれど、彼の言っていた“世界をもっと創造的なものに変える”という言葉に、心が惹かれたのも本音だわ……精々がリーリンナイツのみんなまでしか抱えられない私と違って、あいつは街を、世界を背負おうとしていた……私が目指すのとは違うけれど“退屈の無い刺激的な世界”を本気で目指してた……)」
最後の瞬間、カインはジェニーに「澄んだ心を持っている」、そして「そんな顔をするな」と告げた。
確かな共感を胸に抱いた彼が、崩れ去る城の中に消えた後、リーリンナイツの仲間たちに救出されたジェニーの胸には、一つの問いかけが宿るようになった。
「(私も、心の何処かであんな大げさな……大っぴらに語れないような、けれど大切な夢を抱いているのかしら? リーリンナイツのみんなとの義賊稼業は心から望んでる。私を私にしてくれる、大事な望み……けれど、突き詰めれば“私だけが楽しければいい”って考えで、本当にいいの?)」
そもそもジェニーは貴族の家を飛び出したこと自体、あくまで刺激を求めてのことであり……義賊活動にもそれが覗く通り、いわゆる貴族の嗜み──ノブリス・オブ・ルージュについては決して否定的ではない。
持たざる何処かの誰かの為に志を掲げた英雄が心の安寧を提供し、戦う爪や牙を持たない人を背中に守って力ある者が戦うことには、ジェニーは非常に前向きだ……“飢えた狼”の二つ名を冠しながら、サウスタウンの街を幾度も救った初恋の相手のように。
憧れの人と、分かりあえたかも知れない人、そのどちらとも今のジェニーの生き方はズレてしまっている。
しかも、初恋の人……テリー・ボガードはマリー・ライアンと結ばれて既に既婚者、意識して止まなくなったカインは生死不明ときた。
「泣けてくるわねん……泣かないけど」
そう言いながら、目元を拭うと甲が少しだけ濡れていた。
リーリンナイツのみんなの前に出るまでには、元の“艦長ジェニー”でないといけない。
ぺちぺちと頬を叩いていると……自室の扉の向こうから、柔らかで“キレイ”な声がした。
「こんにちは、ジェニーさん」
「──ほたる!」
現金なもので、ジェニーの顔にはそれこそお宝を見つけた時のような、眩い笑顔が浮かんでいた。
スキップでもするように近づいて扉を開き、そこに立っている愛らしい少女……首にテンの“イトカツ”をマフラーのようにして巻いている……を迎え入れる。
双葉ほたる。キング・オブ・ファイターズで知り合った、中国拳法の使い手の少女。同じ女性格闘家であることや、ジェニーの言葉にいつも新鮮に反応してくれる純朴さから交友を深め、カインとの対戦の前に立ちふさがった“力の殉教者”──グラントとの戦いを引き受けてくれた恩義もある。
リーリンナイツの面々と共に崩れる城から助けてもらった恩義もあって……ジェニーが目覚める前に何かあったのか、その時は少しだけ寂しそうな顔をしていたが……向こうから訪ねてきた時は快く迎えて、遊んだり手合わせをしたりを繰り返している。
可愛らしくて、ジェニーがいつの間にか忘れていた“瑞々しい純真”を感じさせる、ほたるは今やジェニーの日々にとっての癒しとなっていた。
「もしかして待たせちゃった? ごめんねぇ、これでも艦長として色々お仕事があるのよん。でも、ほたるが来てくれたから、ここからはフリータイム! さあ、存分に楽しみましょう!」
「は、はい、ジェニーさん!」
ほたるはそう言ってジェニーに付き合ってくれるが……嘘の下手な彼女の顔には、少しだけ気遣うような光が宿っている。
リーリンナイツのみんなに、何か教えられたのかもしれない……いけない、いけないと改めて表情を“天真爛漫な笑み”に固定すると、ほたるの手を引くようにジェニーは歩き出した。
※
「(──ジェニーさん、やっぱり少しだけ、何か悩んでるみたいに見える……)」
ジェニーの努力も虚しくと言おうか、それとも本人が意識していないだけで“人を騙す”才能がまるきり無いせいか、淡い憧れを抱く女性の懊悩に、ほたるは想いを馳せていた。
……ジェニーの部屋を訪ねる、少し前。
「それにしても艦長、ほたるちゃんが来てくれるとすっかり元気になるんだよなぁ」
「あれで艦長は結構繊細で、キング・オブ・ファイターズからずっと何か気にしてる様子なのよねぇ」
「皆さんも、やっぱりそう思われますか?」
リーリンナイツの面々ともすっかり打ち解け、談笑している中で漏らされた言葉に、ほたるは同意する。
「艦長は、豪快な女海賊を意図して演じているところがあるからのう」
「んだ、強くてしっかり者だからこそ、オデたちに弱みを見せてくんね」
「そんな艦長だから尊敬してるし、付いてきたんだけれど……不甲斐ないとも思うんだよねぇ」
うんうんと頷いて見せるリーリンナイツの面々。
心からの信頼を預け、大切なものだと億面なく言い切る仲間ではあるが、同時に強い──それこそ“魔人”と呼ばれたグラントよりも強かったと思わしい……ほたるがグラントに勝てたのは、本当に運が良かったのと『ジェニーに任された場所で無様を晒せない』という意思のお陰だ……カインを打ち倒してしまうほどの実力を備えるジェニー。
彼女にとって、どうしたってリーリンナイツは“庇護対象”なのだろう。
ほたるは、そんなジェニーが少しだけ異なる反応を……守りたい相手というだけでなく、対等に付き合いたいという意思を見せる、数少ない相手なのだとリーリンナイツの皆は語る。
「だから、ほたるさんが艦長の“何か”を変えてくれるんじゃないかって、期待してるところもあるんでさぁ」
「あ、もちろん、そういう下心だけじゃなくて! 艦長によくしてもらってる感謝もあるッスよ!」
「皆さん……」
そんな風に言われると、ほたるの中にもある、ジェニーに恩を返したいという気持ちが強くなっていく。
母の死、父と兄の失踪。イトカツを除き、ほたるの家族はみんな居なくなってしまった。
そんな寂しさに任せるまま兄との繋がりである拳法にのめり込み、兄を探して危うい精神状況でキング・オブ・ファイターズに参加した、ほたるの心の迷いを払ってくれたのがジェニーだった。
彼女の一見すると自己中心的に見える、けれど誰かの喜びを自分のものに変えられる豪放さは、ほたるの心を強く捉えた。その後に対戦した“牙刀”を名乗っていた兄……だと、ほたるは信じている……と冷静に拳を交わすことができたのも、ジェニーとの出会いがあったからだ。
「(私は、他人に自分のことをすぐに預けてしまっていた。お兄ちゃんはお兄ちゃん、私は私……違う人同士だから寂しい、優しさが欲しいって気持ちが芽生えるんだって、ジェニーさんが教えてくれた。お兄ちゃんの言っていた“人間ほど寂しがり屋な生き物はいない”っていう言葉の、本当の意味がわかった気がするの)」
憧れの人、ほたるに“双葉ほたる”を取り戻してくれた人。そんなジェニーの負担を、自分が少しでも背負えるなら……そう、願ってしまう。
──けれど。
「弾幕ぅ! ファイナルグンナーイ!!」
「きゃぁぁぁっ!」
それこそ魚雷のような強力な蹴撃の嵐によって、ほたるのちいさな体は弾き飛ばされ、訓練場の床を転がることになる。
ほたるが思いに任せて拳を奮っても、それよりも更にパワフルな攻撃で以てジェニーは打ち払ってくるのだ。
「ビューティフルビクトリー! はぁっ! やっぱり、ほたるとの対戦って最高! やなことぜぇーんぶ忘れちゃう!」
「こほっ……よ、良かったです……」
完全に無意識なのだろうが、胸の内に「やなこと」を抱えているのをバラしてしまうジェニーに、ほたるは己の弱さを噛み締める。
残念ながら二人の戦績は、かなりジェニーの方に分があった。
キング・オブ・ファイターズの時、ほぼ完封に近い形で敗れたのを思えば、ほたるの実力も数段増している。しかし、大会覇者であるジェニーには及ばず、今日もひたすらに翻弄され、敗北してしまった。
「(ジェニーさん、私があなたより強くなれたら、その胸の内を相談してくれますか……? 私だって、迷ってばかりだけれど)」
「今日はまだ時間、あるわよね? もう一回、やらない? ほたるの実力を、もっとお姉さんに見せてよねん♥」
「は、はいっ! ぜ、全力でいきます!」
……そうして全力で挑んだ果てに六戦六敗を喫し、ジェニーの晴れやかな笑顔を心の支えにしつつも、ほたるは項垂れるしかなかった。
※
「はっ! やぁっ! たぁぁっ!」
後日、ほたるはひたすらに技の修練に励んでいた。
休むのも忘れて、ひたすらに己の中に描くジェニーとの対戦、イメージファイトを繰り返す。
ほたるの深い執心の表れであろう、幻想のジェニーは圧倒的な力で追い込んでは、ほたるをKOしていく。
体を実際に動かしていると言っても、敗北でダメージを受けたりはしない。代わりに精神力はごっそりと削られていく。
ふらふらになっても続ける姿にイトカツもフィヤフィヤと鳴いて心配そうだ。
「(ごめんね、イトカツ。でも、今はただジェニーさんに追い付きたいの! 弱い私のままじゃ嫌だ! ジェニーさんまで、お兄ちゃんやお父さんみたいに居なくなっちゃったら……)」
恐れを抱くことは拳法の修練において、邪魔にしかならないのは分かっている。
ほたるはそれでも、ジェニーをいつか失ってしまうのではないかという不安に突き動かされるまま、幻影の彼女と死闘を演じ続ける。
「はぁ……はぁ……はぁ……ダメ。むしろ、遠ざかっていく気さえする……ジェニーさん……」
ぎゅぅと胸元で拳を握り、ほたるはまるで恋に悩む少女のような悲痛な声を零す。
恋……? いや、そんなまさか。
「ご、ごめんね、イトカツ。ちょっと休憩しようか!」
照れ隠しにそう叫んだ瞬間、“大きな声を出す”という作業が、想像よりも体力を使うということを、ほたるは思い知らされた。
限界以上まで自分を追い込んでいた彼女は、前のめりに体が崩れ落ちるのを感じる。イトカツが悲痛な鳴き声をあげた。
「(ごめん、イトカツ……私、格好悪いね……これじゃ、ジェニーさんに勝てないのも……当然……)」
心身を限界以上に追い込んだせいで、指先一つも動かせない。イトカツが寄り添ってくれるのが分かるが、小さな彼では幾ら小柄と言えど、ほたるの身体を引きずることも出来ない。
そんな中で……ふと、とてつもなく大きな力によって、体が包まれ、持ち上げられるのを感じた。
「(ジェニー、さん……? ううん、これは……お兄ちゃん……?)」
抱きかかえられて感じるのは、穏やかな安心感。幼いころから幾度も経験してきた、安寧の時間の追体験。
意識は薄っすらと取り戻してきたものの、疲労のあまり目を開けることもできない。そんなほたるに向けて、厳しくも的確な言葉が投げかけられる。
「己の拳の本質、それを見失うな」
「(私の拳の……本質?)」
「お前の拳は、砕き侵す修羅の拳に非ず。柔拳とは、相手を包み、いなす時に最大の威力を発揮する。持ち味を殺した拳法では、都合の良い幻影さえ倒せん」
その言葉は、どこまでも優しくそして寂しがり屋だった、そんな兄とは変わりきってしまった、あの日に対峙した“牙刀”のものだった。しかし、その根底には格闘技に対する真摯さと、ほたるへの気遣いがあることを、はっきりと感じる。
「(そうか……私、がむしゃらにジェニーさんを越えようとしてたんだ……力には力が向かってくる……力ずくで挑むだけでは、向かってくる力に押し負けて、打ち倒されてしまう……でも、相手の力を包み込めれば……ジェニーさんを越えるんじゃなく、彼女の技を抱きしめられるのなら……)」
──目が覚めれば、そこはホテルの一室。
兄の姿は既になく、ケージの中で心配そうに鳴いているイトカツが見上げてくる。
ほたる以外には、兄にしか懐かないイトカツが、大人しくケージの中に納まっている。それこそが、ほたるを運んでくれたのが兄であり、あの言葉が兄よりかけられたものである証左に思えた。
ずっと昔、厳しい“牙刀”の表情に上書きされてしまいそうになる、兄の優しかった姿が、今日は鮮明に思い出された。
「お兄ちゃん、ありがとう。いつか、会えるよね……」
その時には、更なる格闘家の高みに達してみせる。
ほたるは静かに目を閉じ、体を無理に動かすことなく、瞼の裏の闇にジェニーの幻影を浮かべる。
……ちょうど部屋の清掃を行っていたホテルの従業員が、何か重たいものが床に叩きつけられた音を聞き、慌てて部屋の中へと飛び込む。
そこにはベッドの上で静かに腰かけている少女がいるばかり。
従業員は声もかけずに入室したことを詫びて、首をひねりながら部屋を出ていった。
彼は気付かなかったが、ベッドで腰掛ける少女の眼前のカーペットには、ちょうど叩き伏せられたような人型の跡が付いていた……。
※
「あぐっ!? あぁっ……こ、こんな……うぅっ!?」
その日も、ほたるが訪ねて来てくれたことで、胸の懊悩から目を逸らすために、ジェニーは彼女との組み手を行っていた。
しかし……この日は、様子がまるで違っていたのだ。
すべての技が流される。受け止められ、いなされ、かわされる。当たらない。一撃たりとも当たらない。
それでいて、ほたるの拳はことごとくがジェニーの身体に突き刺さり、そのすべてが重い……ほたるの小柄な体から放たれているとは思えない、圧倒的な威力が備わっている。
「こっ、のぉっ……! そぉれっ!」
旋風を巻き起こし、距離を取ろうと試みるジェニーだったが、ほたるはその時には先を読んでいたかのように、気功を込めた足を振り上げていた。
「(なに、暴発? ほたるらしくなっ……ぎゃんっ!?)」
バッフルズ……自身が引き起こした旋風が、綺麗に己に返ってきた。
技を放つ際の無防備な姿勢に叩き込まれた衝撃に、ジェニーの身体は吹き飛ばされ、それが決着の合図となった。
パーフェクト負け。ほたるとの初戦でも、完封に“近い”まではいったが、無傷で済んだことはなかったのに、ほたる相手に一撃も当てられないまま敗れた。
驚き以上に感動を覚えながら、体を起こしたジェニーは、ほたるに問う。
「ヤッフー……信じらんない! なんで急にそんなに強くなったの!? こんな強い格闘家、テリー・ボガードくらいしか知らない!」
「……強くなった訳じゃ、ないんです」
少しだけ照れたように俯き、ほたるが告げる。
「意識を、変えたんです。勝ちたいとか、越えたいじゃなくて、ただジェニーさんを包み込んであげたい、受け止めてあげたい、抱きしめてあげたい……そんな風に」
「あっ……♥」
胸が、大きく二度、高鳴った。
強い己に不満など無い。リーリンナイツの仲間を守り、富をため込む悪党を制す為に、力は絶対に必要だ。
けれど、自分よりも強い相手がいるというのは、こんなにも頼り甲斐のあることなのか……“サウスタウンの英雄”テリーに恋をしたのも、そのそもそもの契機は彼の顔かたちではなく、その生き方と魂の形に惹かれて、受け止めてほしいと願ったことからだとジェニーは思い出す。
今、時を越えて、ジェニーを抱きとめてくれる相手が現れたのだ。
「(ほたる……ほたる……ほたる♥ あなたになら、胸のモヤモヤを全部ぶつけてもいいの……? 受け止めて、くれるの……?)」
ドキドキと胸の鼓動が収まらないままに、ジェニーは立ち上がって「もう一回、お願い!」と迫る。
ほたるは海より深いような、天より高いような包容力を見せながら、ジェニーの問いかけに頷いた。
……それからは、朝から晩まで、ほたる相手にジェニーはひたすら手合わせを続けた。
徹底的にあしらわれ、全ての技を打ち返され、床に叩きつけられ、拳や蹴りが突き刺さる。そして、パーフェクト負け。
何十回、何百回……体力の続く限りに挑みかかっては、ほたるに柔らかいもので包んで“ぶじゅんっ!”と潰すような、そんな惨敗を繰り返す。
気を失っている間は、ほたるの膝枕で頭を撫でられ、泡を噴いて気絶した時は胸元に抱かれ、次第に負ける度にほたるの口からは慈しみの言葉が漏れる。
「ジェニーさん可愛い♥」
「とても色っぽくてステキです♥」
「もっと、もっと見せてください♥」
「私に負けて、とろけてしまうところを♥」
負ける度に褒められ、負ける度に愛でられ、いつしか負ける過程でも愛でられ、ほたるとの戦いの全ては愛撫のようにジェニーを包み込むものになった。
「おっ♥ あっ♥ ひうぅぅっ♥ あひっ♥ くひぃぃっ♥ おー……お゛っ♥」
ほたるの拳が腹にめり込む度に、子宮は疼く。
ほたるの足が閃き胸を蹴り上げる度に、乳首がぴんと屹立する。
ほたるの掌底で地を舐めさせられた時、股間からじわぁ……と愛液がしみ出す。
いつしか不敗であること、弱さを見せないことに固執していた女海賊は、負けることこそが快楽になっていた……心の解放であり、悩みの相談であり、セックスにも似たコミュニケーションになっていたのだ。
「ほたる♥ ほたるぅ♥ 戦って♥ 今日も戦いましょ♥ お願いよん♥ ほたると戦わないと♥ 戦わないとぉ♥ はっ♥ はぁっ♥ 頭がおかしくなっちゃう♥ 私が、私じゃなくなっちゃうぅぅ♥」
「えー、今日は普通に遊ぼうって約束だったじゃないですか♥ 私、ジェニーさんとのデート、楽しみにしてたのに♥」
「い、一回だけ♥ 一回だけ、ね♥ いいでしょ、ほたるぅ♥ 私の、ほたる♥ 何でも言うこと聞くからぁ♥」
「そんな約束しなくても、戦いますよ……我儘も、受け止めてあげたいから……♥」
まるで中毒のように対戦を求め、ほたると距離を取った瞬間に、ジェニーは「ラブリーシャワァ―ッ!!」と叫びながら、足から突っ込んで連続蹴りを放った。
メニメニトーピードゥ……かつて、ほたるを一撃で屠った技。
しかし、それを放った時、ほたるの姿は見えなくなっていた。
「(あ、れ? ──ぎゃほぉぉぉぉぉぉっ♥)」
ジェニーの身体の下に潜り込み、ほたるは掬い上げるようにして彼女の身体をかち上げ、吹っ飛ぶジェニーを追いかけると、急降下膝蹴りでその豊満な体を捕らえ、胸を鷲掴みにして地面に叩きつけた。
「(ぎゃぴぃぃっ♥ あっ、あっ……♥ これぇ……この、技ぁ……♥)」
ほたるとジェニーの初めての対戦の時、圧倒していたジェニーがトドメと放ったメニメニトーピードゥの、迎撃で放たれた唯一の手傷。
天翔乱姫──ほたるの奥義だ。
「ふぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁっ!」
「いっ、きゃはぁぁぁぁぁぁぁっ♥ おっ、おっ、お~っ♥ ひぎゅっ、いひぃぃぃぃぃぃっ♥」
胸に、心臓に、命の中核に、ほたるの気功が叩き込まれる。ジェニーの一番深いところに、ほたるの中で練られたそれが打ち込まれ、弾けていく。
それは、あるいは射精以上の快楽だ。男女のセックスさえも超えて、深く魂の領域で結び合う……格闘家同士しかたどり着けない、至高の快楽の領域。
「(あぁぁぁ……ほたるぅ……♥ 私のなか、ほたるで満たされるのぉぉ……♥ ほたる、様……ほたる様ぁぁぁ……♥)」
ジェニーの深い部分、貴族令嬢として育てられた真面目かつ封建的な性質が顔を覗かせ、ほたるに屈服し、心を預け、媚びようと必死になる。何もかもを、ほたるに預けたい……ほたるのモノになりたいという、そんな欲望が抑えきれなくなった。
「素敵ですよ、ジェニーさん……んちゅっ……♥」
そんなジェニーの欲望に蕩けた顔を、見破られてしまったのだろう。
ほたるはそっとキスをジェニーに落とし、彼女の「媚びたい」「従いたい」「何もかも奪って」という気持ちに、答えてくれた。
「(あ……キス、初めてぇ……ほたる様の唇……甘いぃ……♥)」
くちっ……と舌を絡めながら、ジェニーはぷしゅっ♥ と秘所から潮を噴き出して達した。
※
それからの二人の手合わせは、完全に性的な感情を伴ったもの……実質的なレズセックスとなった。
負ける度にほたるへと媚び、年下の少女への情けない敗北宣言や、腰をへこつかせる無様踊りが癖になってしまったジェニー。
ほたるにしか見せない浅ましい姿を少女は受け止め、愛情のこもった加虐を以て、ジェニーの迷いや懊悩を取り除いていく。
──ある時は、ジェニーは仰向けに転がされて、ほたるはその顔の上に座り、イトカツと仲良く戯れていた。
まるきり、今のジェニーは“物”扱いだ。
「むっ……んむぅ……♥ ふ、ほぉぉっ……むぎゅっ♥ へっ……ほぉぉっ……んへぇっ♥」
まるで座布団のように尻の下に敷かれて、ほたるが身を捩る度に柔らかい体にジェニーの鼻先がめり込み、心地よい圧迫とズボン越しの甘い少女の匂いを感じる。
「(ほたる様、柔らかい……いい匂い……♥ 息できないのが気持ちいい……♥ 深海の静けさ、思い出しちゃう……気持ちよく、なっちゃうのぉぉ……♥ 私、ここに住むぅ……ほたるさまのお尻の下で、一生過ごすのぉ……♥ ほへぇぇぇっ♥)」
ぐじょぐじょになって下着に形が浮き出してしまったクリストリスを、ほたるがぴんと指で弾く。
その痛みと快楽で以て、ジェニーは腰を上下にヘコつかせながら絶頂し、酸欠で堕ちると共にしょろろろろ……と小水を噴き零した。
──またある時は、うつぶせに倒れているジェニーの頭を、ほたる“様”がぐりぐりと踏みつけてくれた。
「あっ♥ あっ♥ あはあぁぁぁ~っ♥ 負けまちた♥ ジェニーは、ほたる様にボロ負けしましたぁ~んっ♥ 雑魚海賊のマゾ負けに、いつも付き合って頂いてありがとうございますぅぅっ♥ 好き、大好きぃ♥ ほぉぉぉっ♥ 頭ぐりぐり気持ちいいぃぃっ♥ 頭ぜんぶ性感帯になっちゃふぅぅうっ♥」
「裸足で踏みつけられるの、気持ちいですか? ふふ、素直なジェニーさん、たまらなく可愛い♥ ほら、素直になれたご褒美に、いい子いい子してあげます♥」
「あひっ♥ くひゅっ♥ ふぅぅぅぅっ♥ あへっ、うひへぇぇっ……♥ と、止まんない♥ おマ〇コびゅーするの止まんないぃぃっ♥ 興奮と♥ 安心感で♥ ほたる様感じて♥ 頭バグって♥ おマ〇コぴゅっぴゅ止まらないのぉぉぉっ♥ 狂うぅぅぅっ♥ 狂っちゃうぅぅぅっ♥ えへへへへへぇっ♥」
「狂って、壊れて、ダメになってもいいですよ♥ 私はずっと、ジェニーさんを大事にしますから♥」
ほたるの柔らかな足裏で、頭を優しく撫でるように幾度も踏まれ、興奮と安心感でマンイキが止まらなくなっていたところに、トドメとばかりに生涯に渡って可愛がり抜くという宣言が降り注ぐ。
狂っても、壊れても、ダメになっても……仮に死んでも。ほたる様は絶対にジェニーを離してくれない……そのことが嬉しすぎて、脱水症状寸前までイクのが止まらなかった。
その後は、ほたる様をおしっこをごくごく飲ませて頂いた。
──またある時は、ほたるが手合わせの前に動物たちと戯れているのを見て、嫉妬が止まらなかった。
ほたるはイトカツ以外の動物にも好かれる性質で、鳥が上着を持ってあげたりするような、地上に降りてきた天使である(※ジェニー談)。
ほたるの柔肌に、鼻先や嘴を遠慮なく押し付ける禽獣たちを見ていると、ほたるへの好意で脳を焼かれたジェニーの心には嫉妬がメラメラと宿るのだ。
「(ほたる様は私のご主人様なのに……私がほたる様の一番……いや、まあ、一番はイトカツ先輩に譲るとしても……大切なペット嫁なんだから! ズルい、ズルい、動物だからって距離が近くてズルい……!)」
……その日も、足しか使わないままに、ほたるに股間を気絶するまで蹴り上げられ、潮と小水の混ざった粘っこい淫液を撒き散らして負けたジェニーは、動物たちへ向ける尋常ではない視線に気づかれていたことで、ほたる様によって全身をコーディネートされていた。
頭に付けられた可愛らしい犬の耳、そして尻に挿入された可愛くないサイズのバイブから繋がる尻尾。
「ジェニーさんは、私に全然勝てない“負け犬”じゃないですか♥ だから、それにふさわしい格好をしましょうね……♥」
「わぅぅっ♥ あんっ♥ あぉんっ♥」
負け犬……なんて甘美な響き♥
遂にほたる様のペットとしての地位を確立したジェニーは、投げられた靴をマン汁を垂らしながら追いかけ、四つん這いになって咥えて戻って来る。
褒めて褒めて♥ と甘えるジェニーに、ほたるの足が伸ばされる。素足で撫でられ、その柔らかさに快感を覚えるが……そのままぐいぐいと、頭に力が籠められ続けた。
「あ、あおっ♥ あぉんっ♥ はっ、はっ……わ、ふぅぅぅぅぅっ♥ ふんぎゅぅぅぅぅぅっ♥」
そのままグリグリと地面に押し付けられ、咥えていた靴の中に鼻先を突っ込んだ姿勢のまま固定されてしまった。
ほたるの恥ずかし匂い……パーフェクト勝ちを治めているとはいえ、激しい格闘戦を終えた後の匂いがジェニーの肺腑の空気を完全に入れ替え、体の中身から所有され、支配され、占有されていく。
「良い子、良い子……負け犬のジェニーさん♥ ずっとずっと、可愛がってあげますからね♥」
「(んぎゅっ……わうぅぅんっ♥)」
嬉ションと共に、歓喜しすぎて失神し、起きたらまだ靴の中で、匂いでイッて気を失う。
そんなことを三回ほど繰り返し……完全にジェニーの中からは懊悩の陰が消え去っていた。
※
──月日は過ぎて。
ほたるがジェニーの元に“遊び”に来るようになって、それなりの時間が流れた。
海賊がいるには珍しい、丘の上でジェニー含めたリーリンナイツの面々が集合している。
「みんな、随分と長く心配をかけたわねん♥ B.ジェニー、完全復活よん!」
「艦長! 遂に復調したんですね!」
「“かんちょう”が“ふくちょう”ってなんかややこしくね?」
「黙っとれ、まだ話があるようじゃぞ」
「それともう一つ、今日はサプライズでみんなにお知らせがあるの!」
リーリンナイツのリーダー、B.ジェニーの復活宣言。本来ならばそれだけでもリーリンナイツにとっては劇的なものなのだが、ジェニーは更にみなに伝えることがあるという。
もっとも、メンバーたちも薄々はその内容を分かっている……何しろ傍らに立つ少女、双葉ほたるとジェニーは手を組み合って朗らかに笑いあっているのだから。
「みんな、はいはい分かってるよって顔ねん♥ その通り、私たちは結婚するわ♥ 私は、ほたるのお嫁さんになるの♥」
「うっひょー! 艦長、めでてぇ!」
「あーん、あたしも狙ってたのにぃ。でも、ほたるさん相手じゃ仕方ないよね」
「んあ、めでたい。艦長、じあわせになぁ」
激しいキスを交わす二人を、祝福しないものは誰一人としていない。性別なんぞ、大した問題ではない……リーリンナイツ自体が、世代も性も超えて集められた精鋭の義賊たちなのだから。
祝福の声の中、二人はそれぞれの心の中で、自身の人生にとって重要な意味を持つ男性たちに言葉を送っていた。
「(お兄ちゃん、私はジェニーさんと共に歩んでいく……もっともっと、強くて立派な格闘家になるよ。ジェニーさんと一緒なら、いずれは世界中……この星丸ごとだって、包み込んで守れるような格闘家になれるかも知れない……だから、待っていて、お兄ちゃん。私がまず幸せになって、お兄ちゃんを迎えに行くよ!)」
「(カイン……私、結婚するのよん。あなたとは、短い時間しか話せなかったけれど、私はあなたの言葉を無視して生きていけないわ……この世界に何ができるか、まだわからないけれど、しばらくは奥さんと一緒に力ない人々の支えになるつもり……力のない人でも、困難な世界を変えていけるようになるまで!)」
ジェニーの悩みは晴れた訳ではない。いいや、それはB.ジェニーという女性が、生涯をかけて立ち向かうべき命題だ……何しろ相手は、残酷で苛烈な世界そのものなのだから。
ほたるが兄を探す道程も、恐らくは苦難と試練が数多く待ち受けるだろう。修羅道を行く者を現世へと返すためには、修羅を越え鬼をも食らうほどの力と、それを制御する愛が必要なのだから。
それでも、きっとこの二人ならば……酷い現実に諦めず、されど打ちのめされることなく、歩み続けることが出来るはずだ。
「んっ……あっ……ほ、ほたる、様ぁ……ここじゃ、ダメぇ……♥」
「流石に、みんなの前でおしっこを漏らすのは、恥ずかしいですか♥」
ジェニーを抱く力は少しだけ強く、ほたるの掌はちょうどジェニーの尾てい骨の辺りに触れている。
ここで発勁を撃てば……即座にジェニーは、大事なリーリンナイツの前で小便を漏らしながらイキ狂うだろう。
「くすっ……それじゃあ、もうしばらく、この秘密を“包み込む”のは、私だけにしましょうね……♥」
「は、はいぃ……ほたる、様……わんっ♥」
ほたるとジェニーが、そして、ほたる様と“負け犬”ジェニーが深くつながる限り、きっと不可能は無いのだから……。
※
「──妹の晴れ舞台だ。行ってやらなくても良いのか。身内の式典に参加できないのは……後から、効いてくるぞ」
「祝福の場に立つ権利があるのは、天地和合の理を知る人間のみ。悪鬼羅刹や修羅の立ち入ることは許されない」
「真面目な男だ。もっとも、あの場に立つ権利がないという意味では、私も同類だがな。お前の父親の気まぐれで命を救われ、グラントのお陰でこうしておめおめと生き延びている。お前の妹の柔拳……人を受け止め、生かす拳法以外なら、グラントはあの場で倒れていただろう。感謝を、すべきかな」
「人を殺せない拳が、貴様のような存在を半端に生かすことになる。ふん、やはり俺の目指す拳とは相容れん」
「お前は、優しい男だな」
「……寝ぼけているのか。親父の件でまだ聞くことがあるから、貴様を生かしていると忘れるな」
「褒めているんだ。創造的な世界などと語りながら、私は拳の本質は“妬み”だった。平穏に生きているだけの……どれだけその裏で何処かの誰かが苦しんでいようと、その罪を着せられる謂れのない者たちに、責を負わそうとした私とは違う」
「あの海賊の女に、惚れたか」
「どうかな。ただ、私はサウスタウンの路地裏で生きて、姉を失い、権力を打ち立てて事を成そうとした。彼女は、恵まれた環境を飛び出し、家族を捨て、己の最良だけで世界を面白きものしようとしている。そんな二人の間に共感が生まれる……人の情という奴を、見直しても良いと思うには十分な体験だった」
「……俺はもう行く。他者の平穏を祈る、最後の人の欠片はここに埋めよう。俺は完全なる修羅となり、親父に答えを問いに行く」
「私も、心を通わせられたかも知れない女性の為に、祈るのはここまでとしよう。彼女が陽の世界を変えて行こうとするのなら、私はもう二度と“あんな顔”は見ずに済むように……より深い闇の世界を変えていくことにする」
「……貴様と、行く先が重なるのが気に入らん」
「そう言うな。これからしばらくは、同じ男の元で世話になるのだからな。謁見と行こうじゃないか……現在のサウスタウンの闇の帝王、アンディ・ボガードに」
※
──その日、ほたるはジェニーが“野暮用”で出かけている間、イトカツの散歩をしながら友人に会う為、サウスタウンの街を歩いていた。
一時を考えれば、信じられないほどにこの街の治安は回復したような気がする。ほたるは腕に覚えがあるとはいえ、ギース・ハワードの死から続くサウスタウンの抗争は苛烈なもので、女一人で出歩くことなどできなかったのに。
まるで誰かの長い手で守られているような、不思議な感覚が今のサウスタウンにはある。
「それにしても、耀ちゃんは何の用だろう? キサラにも連絡がついたら呼んで欲しいって言われたけれど、また翔くんを追いかけていったみたいで繋がらないんだよね……」
何か、三人でなければ聞けない用事なのだろうか。三人……? いや、まさか。
「どいたどいたどいた~! 姉ちゃん、そこどいてんかぁ~!」
「え?」
聞こえてきた声に、ほたるは目を丸くする。
それはサウスタウンでは滅多に聞かないもの……日本語、それも関西弁だったからだ。
ほたるは戸惑い、どいてくれという指示が聞けなかったのだが、その足元に狸が……そう、狸がまとわりつき、怯えたようにほたるを盾にしてくる。
「ええかげんにせぇよ、ポン太! ウチの怒りはまきしまむや言うたやろ! れでぃに恥かかせたんや、絶対に逃がさんでぇ!」
「ちょっ、ちょっと待って? この子、ポン太くんって言うの? いじめたら、可哀そうだよ」
「いじめられたんはウチの方や! 化けくさって、ウチのフリしてイタズラして回ってからに……んん?」
頭にピンと髪を跳ねさせた、奇妙な……まるで時代ものの“陰陽師”のような恰好をした少女は、ほたるの姿を見て首を傾げる。
首を傾げたいのは、ほたるの方なのだが。
「なんや、せんす溢れる格好の姉ちゃんやなぁ。ていうか、ここ、どこやろ? 京都を出てしもたんかなぁ」
「京都? ここは、アメリカだよ。サウスタウン、知らない?」
「は……? あめりけん? ここがぁ!?」
素っ頓狂な声をあげる少女を見て、ほたるは心配そうに眉を潜め、イトカツは呆れたように鼻をすぴすぴ鳴らし、足元のポン太はニシシと意地悪く笑っていた。
……これが後に、キング・オブ・ファイターズにおいてチームを組むことになる、双葉ほたると一条あかりの出会いであり、ほたるの兄と秘密裏に交流していたジェニーが、全国放送の舞台で派手に“お仕置き”されることになる前振りであった──。
To Be Continued……?
屋根が高い
2023-02-10 10:29:59 +0000 UTCminasaba
2023-02-10 10:04:42 +0000 UTC