4月の無料公開サンプルとして書いていたら、なんかえらい文字数になってしまったので公開します。
『月華の剣士』の高嶺響が『るろうの剣心』の剣心の代わりに神谷道場に住み着いたら……というIFクロスオーバーものとなります。
薫殿のレズ堕ちはずっと書きたくて、恵さんに生やしてパコってもらうとか、操に腋臭で堕としてもらおうかなとか、TSした鎌足を逆に襲わせようかなとかいろいろ考えてたんですが、響の嫁になってもらいました(何故)。
仮に続き書くなら、弥彦ポジに『刀使ノ巫女』の燕結芽ちゃん(のご先祖)出したり、佐之助ポジに『ギルティギア』の梅喧姉さん出すとか、斎藤さんポジを熟れ熟れ爆乳熟女になった〇〇さんにするとか考えたり、考えなかったり。
それでは、どうぞ!
「──見つけたわよ! 人斬り抜刀さ……い……?」
「……なんでしょうか?」
赤と燈色の中間のような旅装束を纏った少女が、神谷薫の方をゆっくりと振り向く。
寂しそうな顔をしているな、というのが薫の感じた印象だった。
明治の御代を迎えて、はや十と一年。廃刀令が施行されてから二年になる。
そんな時代、深夜に真剣を持ち歩く人影を見やった薫は、自身の流派“神谷活心流”を騙り、凶行を繰り返す通り魔……“人斬り抜刀斎”だと決めつけたのだが……まさか、自分と同年代の可憐な少女であろうとは思いもしなかった。
「えっと、ごめんなさい。多分、人違いだわ……念のために聞くけれど、人斬り抜刀斎?」
「いえ、私は抜刀斎“では”ありません」
「そうよね~。人斬り抜刀斎は覆面をした、雲突くような大男だって話だし……それじゃあ」
どうして通り魔の噂が飛び交う夜の街を、白木の鞘とは言え真剣を持ち歩いて少女が闊歩しているのか。
それを薫が質問するよりも早く、警官たちが応援を呼ぶための笛の音が響き渡り、薫は少しだけ逡巡した後で、少女の手をぱっと握った。
「あの、ちょっと……」
「音の方向からして、私の道場を途中で通るから。来て、女の子を一人で置いていけない!」
薫も少女と同年代なのだが、完全に姉貴分の風を吹かせ、手を取って駆けだす。薫も急いている為、走り出してから少し急ぎ過ぎたかと思ったのだが、見れば少女は薫を追い抜きかねないほどの速度で並走していた。
「わっ!? あ、あなた、もしかして剣を学んでるの?」
「……一応は」
あまり素性を語りたがっていないと感じた薫は、自身の道場までやって来ると、少女を門扉の中に入れ「朝になったら、勝手に出て行ってくれても大丈夫だから」とだけ告げると、笛の音の方へ駆け去ってしまう。
恐らく手を握られたのなど、久しぶりだったのだろう。少女は薫のぬくもりが離れていった掌を、何度か握ったり開いたりを繰り返して見つめていたが、やがてなんだか寂れて荒れてしまっている道場を見つめ、首を静かに傾げてみせた。
※
「──まったく、なんて失礼な! 権力横暴よ!」
薫はぶんぶんと木刀を振り回して不満を示しながら、長い夜を終えて自身の道場……今や門下生の一人もいなくなってしまったそこへと帰還した。
昨日はようやく人斬り抜刀斎と遭遇したのだが、熊かと思うほどの大男の剣技はすさまじいものであり、警官隊を易々と蹴散らし、薫の一撃までいなして見せて「我こそは神谷活心流、人斬り抜刀斎」と名乗り駆け去って行った。
ケガ人の応急処置、それに市民の務めとして聴取に協力していた薫だが、第一声に「ああ、あの人斬り道場の」と言われてしまい、怒り心頭に発している。
こちらとしては勝手に名を語られ、刃傷沙汰を起こされたせいで門下生も居なくなり、親しいご近所は分かってくれるものの世間の目は厳しい。そこに来て、下手人を取り逃し続けている警官からのこの言葉である。
顔から湯気が出るかと思うくらいに怒りで赤くなっていた薫だが……門扉を開いたところで、勝手知ったる道場から嗅ぎなれない匂いがすることに気付いた。
華の匂い。昨夜は意識しなかったが、それは少女が持ち歩いている香の匂いであるらしく、つまりは少女はそのまま神谷邸に身を寄せたままで、何故か道場にいるということになる。
「もしかして、道場以外の部屋を使うのを、遠慮したとか?」
ひょいと覗いてみると、少女は刀をまるでお守りの類のようにぎゅっと抱いて、体を小さく丸めて眠っていた。
毛布なども渡してやったほうがよかったかと反省する薫の耳元に、魘されているらしい少女の声が聞こえてくる。
「んっ……い、や……私は……ちがう……人を……私欲で……ったり、しない……ちがう、の……お父さん…うぅ……」
「(……この子も、お父さんと別れたのかしら……)」
薫の父・神谷越路郎は西南戦争に従軍した際も自身の創始した活人剣を貫き、その果てに亡くなったと聞いている。
年若く、剣の道に通じ、父を亡くした少女……不思議なしんぱしぃを感じた薫は、湯浴みをして即座に寝ると決めていたことも忘れて、薫は少女の髪をさらさらと撫でてやった。
旅の途上であろうに、後ろでまとめたその黒髪は流体のように指に馴染み、不思議な快感を薫にもたらす。
「んっ……すぅ……すぅ……」
「ちょっとは落ち着いたみたいね。人の事は言えないけれど、こんな年頃の娘が真剣を抱えて旅の途上なんて、一体どんな事情が……んっ♥」
撫でていた頭が少しだけ上がったと思った、次の瞬間には膝の上にぽんと乗っており、その鼻先が薫の腹へとぎゅむと食い込んできた。
少女の動きはあまりにも自然なものであり、薫は咄嗟に対応が出来ない。太腿に伝わる暖かさと、指先を捕えるしなやかな黒髪、そして女の“芯”をぐいぐいと鼻先で押されるという、未知の感覚。
「ちょっ、ちょっとやめて……あっ……んんっ♥ ま、待ってってば……あ、くぅ……♥」
「すぅぅ……はぁぁ……♥ いい、匂い……これ、好き……んっ……♥」
「ひゃぁぁっ♥」
一晩中駆け回り、立ち回りまで演じた薫の胴着は少しばかり開けていたが、そこに顔を埋めて、匂いを嗅ぎながら臍に小さく口づけをされる。
ここまでされては、流石に慈愛の表情で頭を撫で続けることも出来ず、慌てて飛び退ると少女は転げ落ち、ごいんと道場の床で頭を打った。
「あぁっ!? ご、ごめんなさい、大丈夫!?」
「うぐっ……あ、あれ、花畑は……?」
汗臭い薫の腹に顔を埋めて、少女は花畑で遊ぶ夢で見ていたらしい。
何故か無性に恥ずかしくなった薫は、少女の顔を真っすぐ見ることが出来ず「ゆ、湯浴みの後でご飯作るから!」と叫ぶと、湯を溜めるべく道場を飛び出していった。
少女は悼む頭をしばらく抑えていたが、先に夢の中で嗅いだ匂いが名残惜しいのか、妙に幼く見える顔で鼻をすんと鳴らして見せた。
※
「──響と言います」
薫の巧みとは言えない出来の食事を、文句ひとつなく平らげた少女は、そう言って深々と頭を下げた。
「一宿一飯の恩義を受けました。どうか、少ないですが受け取っていただければ」
「ちょっ、ちょっと!? こんな大金、受け取れないわよ!」
差し出された金は目を見張るような量で、堂々と高級な宿に泊まって牛鍋など他所で頂いても釣りがくる額だった。
響は「そうなのですか?」と、旅慣れている様子なのにまるで金銭へ執着していない様子を見せ、薫に「この子、大丈夫なのかしら?」と不安を湧き上がらせる。
「私は、神谷薫。この神谷活心流の現道場主よ」
「神谷、活心流……」
「お父さんが起こした流派だから、知らないのも無理はないわね。うちの道場は“人を活かす”ことを掲げる、いわゆる活人剣の道場なの」
剣を志す者、特に真剣をこの時世に持ち歩くような相手には、嘲笑されることもある信念だ。
響の様子を上目遣いで窺うと……彼女は眼を潤ませて感動していた。
「素晴らしいです……! 流派として大成するほどに、人を活かす剣を掲げている方がいるなんて! ああ、この時代はやっぱり、素敵……!」
「た、大成って……お父さんが居た頃だって、門下生は十人前後の小さな道場よ。それに時代って、なんだか大げさな……」
普段は笑われ慣れているせいで、こうして持ちあげられると自分から腐すようなことを口にしてしまう程度には、薫は褒められ慣れていない。まして年の近い、剣を知る少女に褒められるなど初めての経験だ。
神谷活心流の場合は“人斬り抜刀斎”騒動のせいだが、維新や廃刀令、文明開化の影響で門下生を失う剣術道場など珍しくもない。薫も出稽古でなんとか食い扶持を稼いでいるのだが、その稽古先まで失うこともざらだ。
「少しも大げさではありません。剣は凶器、剣術は殺人術、そんな風に訳知り顔に宣う輩も、人を斬る刃は義の名であれ己に返るという真理は無視をする。手前勝手な都合のいい殺人剣を“世の理”と嘯く輩の跋扈する中で、人の命運を剣で守ろうという志の尊さは誇るべきだと思います」
「だ、だから、ちょっと大げさだってば。もう、門下生のみんなより神谷活心流の神髄を分かってくれてるんじゃないかしら……?」
赤く火照る顔をパタパタと仰いでみせる薫に、しかし響は持ちあげるだけ持ちあげて、下げないままに天井に叩きつけてきた。
「しかし、それほど立派な志の活人道場に、何故人がいないのですか……?」
「うぐっ! も、元々、お父さんが西南戦争で亡くなった頃から人は減ってたんだけれど……あなたも知っているでしょう、人斬り抜刀斎」
響は急に眼をすぅ……と細めて、それから「はい、人並みには」と答えてみせた。
その様子が“幕末の伝説的な人斬りの内、恐怖の代名詞とされた片割れの復活”という、巷説的なものでないように感じられ、薫は少しだけ疑問に感じる。
「最近になって、急に人斬り抜刀斎が再び活動を始めたのよ。奴は何故かうちの流派の名を語り、刃傷沙汰を起こして回って、道場の地位を地に堕としているというワケ」
「……ありえません。抜刀斎は──いえ、それは本物なのですか?」
「剣の腕はかなりのものよ。私だって、神谷活心流師範代としての実力はあるつもりだけど、あの大男は私の一振りをものともしなかった」
「大男……」
先ほどから響は、それほど感情豊かでないと思っていた顔に妙な表情を幾度も浮かべ、もしや抜刀斎について何か知っているのかと思ったほどだ。
響の歳の頃は、薫と同年代……十七歳前後だろう。そうなると、抜刀斎が猛威を振るった頃は三~四歳だった計算になるはず。知っているとしても、子供を寝かしつける脅しに、少々血なまぐさい名前が使われた程度だろう。
「……薫さん、お金は支払います。しばらくの間、私もこの道場でお手伝いをさせて頂いてもよいでしょうか?」
「え? 旅の目的はいいの? まだ、途中なんでしょう?」
「急ぐ旅ではありません。報われる確信もないような旅路です。私も武芸を志す者として、人斬り抜刀斎を騙るような与太者の顔を見てやりたいです」
何故か響は、抜刀斎を偽物だと決めつけているらしかった。
薫としても、剣の話が出来る同年代の娘が、乞うて道場に手を貸してくれるとなれば、諸手を上げて喜ぶところだ。
「それじゃあ、よろしくね、響! あ、でも、響って呼んでいいのかしら?」
「……ええ、構いません。薫さんの傍に居る間は、私はただの響です」
「……あ、うん。傍に居るって、うん、そういう意味よね。変な意味でなく!」
膝枕から、臍を嗅がれたのを思い出し、今度は両手で真っ赤な顔を仰ぎ始める薫。響はその間に「それでは、お世話になる立場として、家事をばさせて頂きます」と告げると、止める間もなく食器を手に道場を出て行ってしまった。
「……なんというか、いい子なんだけれど色々と堅苦しいというか、極端な子ね。流浪人って訳でもないらしいし、真剣なんて手にして何を望んでるのかしら……」
真っ先に思い浮かんだのが敵討ち・仇討ちの類だが、それらはとうに法律で禁じられている。
それに響の立ち振る舞いは、いわゆる“士族”のものとは異なっているように薫には見えた。
「……なんにしても、剣を志す女の子に“響”ね。親は、何を考えて付けたんだか」
響の居ないところで、薫はそう呟いて顔をしかめる。
別に、女の名前としてそこまでおかしなものではない……いや、無かったのだ。幕末に血塗られるまでは──。
薫は「自分は気にしていないと、接してあげないと」と思い直し、響との日々に想いを馳せ始めていた。
※
「……あー、楽しい♥」
「薫さん、今の姿勢で言う言葉ではないと思います」
何時かとは逆で、薫は道場で響に膝枕をされながら、整った少女の美貌を見上げて呟く。
行き倒れていたのを助けたことから、奉公人として世話をしてくれている比留間喜兵衛を覗いて、家にいる間に会話を交わす相手など長らく居なかった。
それが会話どころか剣の修練にまで付き合ってくれるし、家事全般も薫より達者という同居人が現れて、日々が楽しくない訳もない。
薄々は感じ取っていたが、響の剣の腕は薫をも上回るもので、こうして面を受けてひっくり返ってもなお、響がまだ実力を隠しているように感じるほどだ。
流派を聞けば「無双真伝流です」と答が返り「あの剣聖・中山博道を流祖とする夢想神伝流!?」と驚いたら、なんと響は中山先生を知らなかった。
明治六年に先生が夢想神伝流を起こされた時は、まだ存命だった父と共に大いに興奮したというのに、そういう意外性も響の魅力と言えた。
「響って、不思議な子ね。なんでも知ってるように見えることもあるし、明治の御代のこと何にも知らないように思うこともある。お姉さんみたいに感じることもあるし、放っておけない妹みたいに思うこともあるわ」
「薫さんに、親しみを感じて貰えてうれしいです」
すっと、響が体を前に倒す。
薫は「あ、まずい」と思ったが、本気で抵抗する気も何時しか失せている為、響のするがままに任せ……彼女が薫の腹に顔を埋めて、すぅー……はぁー……と深呼吸するのを見逃す。
「んっ……薫さんの、汗の匂い……落ち着きます……♥」
「く、ぅんっ……あっ……♥ 響、恥ずかしいったら……♥ あ、汗臭い、でしょ……?」
「すんすん……ええ、とても♥ けれど、お花みたいな香りがして、私は好きです♥ ふぅー……♥」
「もう……♥ これじゃあ、姉でも妹でもなく、赤ちゃんじゃない……♥」
最初は膝枕をされていたのに、体をよじって、互いに身を寄せ合う内に、まるで中国の陰陽太極図みたいな形で向かい合い、響は夢中で薫のお腹に顔を埋めてくる。
「命の、匂い……華の、香り……好きです、薫さん……♥」
「ちょっ、ちょっと響? その言葉の意味、分かって……ひゃっ♥」
響が鼻先を腹に産めるみたいに動かして、それで胴着と袴が緩んで。
神聖な道場の中なのに、薫はあられもない姿で冷たい床に寝そべり、響に覆いかぶさられるままとなっていた。
響は、眠っている時には必ず酷い悪夢で魘されている。自分は何もしていないという弁明と、父親の名を呼ぶ苦渋の嘆き。それを少しでも癒そうと、共に寝たのがまずかった。
響はどうも、同性の体に触れる、匂いを嗅ぐといった行いで心を落ち着かせる節があるようで、腹、胸、腋……汗のたまる場所に顔を寄せてくる。
今回は腋のようで、薫のそこに顔を埋めて、さらしを器用に避けて舌を這わせてみせている。
ぴちゃっ……ぴちゃり……という、水音。
響の手は片方は薫の手にかかり、恥ずかしがって下げないように抑えているが、もう片方の手は薫の脱がした袴の奥……薫の秘奥の周りへくぅる、くぅるとなぞるように触れていた。
薫が許可をくれるまでは、直接触れたり、まして挿れたりしないと約束してくれているが、いつまでそんなお題目を守れるかは、薫の方も怪しいと思い始めている。
「ん、じゅっ……♥ 強く腋をすすると、薫さんは軽く気をやるようになってきましたね……♥ ふふっ、可愛い……♥」
「い、いたずら、しないで……♥ これは、響の為に……んっ♥ やってあげてるんだからぁ……あっ♥」
「分かっています……嬉しいです、薫さん……♥」
とん、とんと褌越しに指で幾度か秘奥を打ってから、薫の唇へと己のモノを落とし、響は口吸いを仕掛けてくる。
腰が勝手に小さく跳ねて、下穿きにじわりと……恥蜜が染みていくのが分かる。
覚えさせられている。響と口づけをしたら、気持ちよくなって達すると、そう思うようにされている。
分かっているのに、薫はやはり抵抗ができない。孤独な時間が長かったのもあるし、未知の快感に呆けてしまっているのもある。何よりも、拒否して響を失うことが怖かった。
「(想像していたよりも、悪い女の子なんだから、響ったら……♥)」
「ぷはっ……♥ ごちそうさまでした、薫さん……♥ お湯を張ってきますので、少し休んでいてください……♥」
もう一度、腋に強めに吸い付かれ、薫の体は追って達する。ぼーっと頭の中が痺れたようになり、服を正すことも忘れて天井を見つめることしかできなくなる。
だから薫は……響が湯を沸かしに行くと言ったのに、自身の愛刀を手にしていったことに気付かなかった。
※
「──その後ろに控えさせているのが、偽抜刀斎ですか、喜兵衛さん」
響が愛刀を手に門戸を訪れたことで、抜刀斎騒動の黒幕である比留間喜兵衛と、彼の弟である偽抜刀斎こと比留間伍兵衛は驚きの表情を浮かべた。
抜刀斎騒動で神経を張り詰めていた薫が、響と暮らすようになってからすっかりと穏やかになり、却って不意打ちが効くだろうと二人は響を放置していたのだが、彼らの響の印象は「刀を持った変な女」以上でも以下でもない。
そんな響が企みを理解しているようなことを口にしたことで、本性を明かして薫に道場の権利を譲るよう迫るつもりだった喜兵衛は、伍兵衛に向って「構わん、切り殺せ」と命じた。
「おいおい、兄貴。あっちの嬢ちゃんには死んでもらうしかないが、こっちの女は結構な上玉じゃねぇか。復讐も兼ねた乗っ取りの前哨戦ってことで、女剣道としゃれこんでも構わねぇだろ?」
「ふん、女同士で乳繰り合っているような変態だぞ、その女は。我が弟ながら趣味が悪いな」
「……復讐。その親指ですか」
挑発的な台詞や罵倒にはまるで反応せず、響はついと腕を上げ、伍兵衛の右の親指が何かにへし切られたように潰れているのを指摘する。
それはかつて、神谷道場の門弟でありながら、殺人剣を奮った上に当時の師範代だった薫の父・越路郎にまで襲い掛かった伍兵衛が、破門の意を込めてその場で動かずに圧し切られたものだ。
完全に自業自得なのに、まるで恥をかかされたとでも言うように怒り狂った伍兵衛は、“楽しむ”為に手足はいらないとばかりに、刀を振りかぶる。
対する響は居合の構え。かつては神谷道場の教えを受け、現在は鬼兵館道場なる破落戸の集まりを束ねる伍兵衛は、失笑を抑えようとしない。
抜刀術は最速の剣技だが、女の力で筋肉の塊の伍兵衛の体に、致命の傷など与えられるはずもない。
「──二つ、訂正しておいてあげましょう。人斬り抜刀斎が使う流派は“飛天御剣流”。剣士の間で“陸の黒船”とまで畏れられた殺人剣です」
「は……?」
次の瞬間、響の姿が消えた。
彼女の細い体は、いつの間にか伍兵衛の背後に回っており、横から見ていた喜兵衛の目にも、何が起きたかはまるで分からなかった。
「神気──発勝」
先までは完全に収まっていた鯉口を響が納めると、青い光が伍兵衛の体から弾け飛ぶように立ち上り、その体を“全方向に吹き飛ばした”。
「あばがぼぐぼうがぶぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
最終的に伍兵衛の巨体は軽々と門戸を越えて縦に吹き飛び、そのまま外でずずんと落下した音がした。
妖術の類としか見えない一閃だった。
放った響としては、己が最も得意とする技の一つであり、その実態は“剣を使った発勁”という単純明快なものなのだが……単純と容易が同意で無いのは別として。
「そ、そそそそ、そんな馬鹿な……!? ひ、人斬り抜刀斎を名乗っても、誰も疑わなかった伍兵衛がぁ!?」
「国の偉い人たちに聞けば、きっと全員が疑問に思ったんじゃないですか。訂正の二つ目です……人斬り抜刀斎は“女と見まがうばかりの美少年”ですよ。もっとも、私より三つ年下だったので……今は二十八になっているはずですが」
「は、あぁ?」
響はどこからどう見ても、十代の小娘、薫と同年代である。
この娘が言う通りだとすれば、響は三十路を越えていることになるが。
「お、お前、一体なにもので……!?」
「人斬り抜刀斎と、脅威を二分にした悪鬼を知らないとは言わせませんよ──抜刀斎が、一応は討幕派というくくりの中にあったのに対して、無慈悲・無差別に人を切った殺人剣の使い手──“六人斬”高嶺響を」
「た、たたたたたた、高嶺響ぃぃぃぃっ!?」
それは、日本の“制度”事態を揺るがした恐怖の象徴。
人斬り抜刀斎と二分する脅威と畏れられた、幕末の魔姫“六人斬の高嶺響”。
一人を殺せば、その妻と子を丁寧に殺し、敵対者とその妻と子も殺す。一人を切っただけで六人殺しが確定する悪鬼羅刹。
“響”という名を女に付けること自体を忌避する風潮を生みだしたほど、殺して殺して殺して殺した悪姫は、しかして幕末の動乱の中で姿を消した。
明治政府に消されたのだろうと、一部では言われている。そして一部では……今でも世間の闇に潜み、凶行を繰り返していると。
「あなた、弟以外に家族は居ますか? 六人、なんとか数を揃えないと──無理ならば、あなたに“三人分”はしてもらわないと、いけませんね?」
響が刀を自分の顔の横へと持ち上げて……笑った。
こんな小娘が高嶺響のはずがない。頭で分かっていても、高嶺響を妖怪変化の類と同一視する心が、万が一、もしかしたらと囁きかける。
結局、喜兵衛は懐に隠していた拳銃を使うことすら思いつかず、失禁して動かなくなった。
「……ふぅ」
響は刀を下げて、ゆっくり息を吐き出す。
喜兵衛は勿論だが、道の外で痙攣している伍兵衛も命を奪ってなどいない。
「殺すはずがないでしょう、薫さんという“強い”人の前で、そんな恥など晒すはずもない」
道場の方から「響ー、そろそろ寒いんだけどー」と薫の声がする。
響は「もう少しだけ、待ってください」と声がけすると、喜兵衛と伍兵衛を軽々と持ち上げて見せ……この程度“白虎の示源”に比べれば軽いものだ……そのまま風のように駆け去り、二分もせずに戻ってきた。
※
「はあ……スッキリしないわ」
薫は当事者であったにも関わらず、人斬り抜刀斎騒動の解決を新聞で知ることになり、警察からの謝罪もない上に、喜兵衛とも別れることになってしまって、不満をたらたらと零していた。
抜刀斎を騙っていた比留間伍兵衛は半死半生で自首をして、抜刀斎の正体を生き別れの弟と知り、涙ながらに説得して共に自首した喜兵衛は、響に「薫さんに合わせる顔もありませんので」と幾度も謝っていたという。
薫としては“喜兵衛が謀略の絵を描いていた訳でも無し”そのまま通ってくれた良かったのだが、それはそれで彼の心を苛むだろうとも思う。
動機は、かつて薫の父・越路郎に破門を受けた逆恨み。それだけで大勢の人に迷惑をかけたことになる。越路郎や薫が責められることなど無かったが、同時に門弟が帰ってくることもない、何とも複雑な幕切れである。
……当然、これは薫の心を守る為、警察署の前まで高速で引きずり回した比留間兄弟に、響が吹き込んだ内容である。
「切られたくないなら、大人しく官憲に身を委ねなさい」と脅された二人は、涙ながらに響に従い、自首していったのだった。
「それにしても、不思議な縁ってあると思わない? 幕末の二大人斬りと言えば“人斬り抜刀斎”か“六人斬の高嶺響”だけど、抜刀斎を騙っていたのは小悪党で、響と名付けられら女の子が、こんなに心優しくていい子なんだもの!」
「……私は全然、優しく無いですよ」
何しろ自分が“高嶺響”であることを、薫にまだ話せていないのだから。
正確に言えば、響は“高嶺響”だが“六人斬の高嶺響”ではない。
父の敵討ちの為に旅をしていた最中、奇妙な瘴気のようなものに体を覆われた響は、気付けば天明七年……百年近くの時を超えて老中・松平定信が改革を行っていた時代に飛ばされてしまったのだ。
その奇妙な現象の原因であった怨念……あの源義経の妻“静御前”をアイヌの巫女と共に封じた響だったが、時越えの代償なのか戻った時間もズレてしまっており、響が旅をしていた頃から十五年近くが経過した世界に放り出された。
それだけならば、既に天涯孤独の身であった響は、新たな生き方を模索することもできただろう。
だが帰ってきたそこは、そもそも響の知る世界とは致命的に剥離していた。
響は幕末に姿を消し、明治になって十年以上過ぎてから姿を現したはずなのに、この世界の幕末には人斬りの魅力に憑かれ、殺人狂と化した“高嶺響”が存在していたのだ。
「(この世界の私、とでも言うのでしょうか……高嶺響は復讐を完遂した結果、人を斬る快楽に目覚め、幕末を血みどろに染め上げた。仇は奪われ、私の名前は血に塗れて呪われた物となっていた……)」
“六人斬の響”の行方は誰も知れない。暗殺の証拠もない。
きっと生きている、今でも剣の道を穢し続けている……そう考えた響は、己自身と決着をつける為、惨殺事件の起こる場所へと流離い続けているのだった。
「(人斬り抜刀斎……剣心くんは、巴さんと出会って変わっていった。この世界でも、幸せに生きてくれていることを願うばかり。幕末の最後の悪夢は、必ず私が終わらせる……!)」
薫はどうやら、体を動かして気を紛らわすことにしたらしい。
汗を輝かせて竹刀を振る姿に、響は心から安堵と称賛を捧げる。
悪鬼と化してしまった己が、剣術に堕とした影は深いだろう……活人剣は、それを切り裂く光明のようなものだ。後は“高嶺響”がこの世から消えれば、きっと剣術は人を守る力に変えていける……。
「(この人を守ろう、私の……ううん、幕末を生きた武芸者、そのすべての宝。それが薫さんなのだから……)」
しばらくは薫を見つめていた響だが、その汗の甘い匂いに惹かれて、そっと背中に寄り添い、首筋を吸う。
その匂いは強くなり、声は甘くなる。響は癒しの性に溺れるように、薫との行為に耽っていく……。
※
──京都、某所にて。
妖艶な娼婦と、三十路を越えて熟れ切った美女が、激しい性交を交わしていた。
どちらも目を張るほどの美女なのだが、娼婦の方には退廃が、そしてもう一人の女からは堕落の臭いが強く香り、女同士の性交は妖しさや昏さを感じさせるものとなっている。
「んっ……ふぅ……由美さん、もっと頻繁に来てほしいわ……♥ あなたを抱く楽しみが無くなれば、有象無象を刻むくらいしか、退屈の潰しが利かなくなる……♥」
女は、同性を抱く行為と無差別殺人を、軽々と同格に扱って魅せた。
女の目には少しばかりも疑問はなく、彼女にとっての殺人行為が純粋な“快楽の希求”であることを表している。
「うふふっ♥ それなら、志々雄様に挑んでみればいいじゃない♥ 私を自分のモノにしたいですぅって……♥ ぼやぼやしていると、宇水に先を越されるわよ♥」
「だって……まだ貴女は志々雄くんのモノでしょう? せめて、天秤にかけるくらいになってから、切らないと……彼との殺し合いは、きっとひと際楽しくなるわ。だから、最高の状態で斬り合いたいの……♥」
「くすっ、志々雄様を殺そうって時点で、私の心が傾くはずないじゃない♥」
ふぅ……と息を吹きかけられて、女は冷たく笑って見せる。
そんな状態から、会えば抱くまでに持ち込んだのだから、いずれは心も奪ってみせるというように。
「ああ……志々雄くん、早く國盗りを始めてくれないかな。焼いて、壊して、侵して、殺して……幕末の興奮が蘇る。もう一度、名だたる英雄、美姫の悲鳴と血を浴びたい♥」
「色々と段取りがあるのよ。それまでは月一で由美姉さんを抱けるので、我慢しなさい♥ 才槌老人と不二くんを無理やり“一本分”にまとめるくらいには、志々雄様は貴女に期待してるんだから……」
「ねえ──十本刀の、高嶺響ちゃん♥」
おまけ
※この世界の剣心は何してるの?
・巴を“闇の武”に攫われた際に、偶然にも『月華の剣士』の斬鉄が“闇の武”潰しに動いており、剣心は期せずして最強の忍と共闘。
・これによって剣心の消耗が少なく、かつ剣心が「冷徹な人斬り」でなくなっている確信が持てなかった“闇の武”は、巴の犠牲無しで敗北。
・剣心と斬鉄がその後に決闘する運びとなるが、そこに縁が乱入。決闘を穢されたとしつつも、縁の才能に気付いた斬鉄は彼を後継者として鍛えることに(縁の方も“抜刀斎を倒す力が得られるなら”と乗り気)。
・剣心は巴との婚姻を続け、桂小五郎からの要請を受け戦地へ。激戦を乗り越え、夫婦揃って明治維新を迎える(そのため、剣心の頬には一本傷しかない)。
・その後は時おり襲撃をかけてくる縁をあしらい乍ら静かな暮らしを送っている為、流浪人にはなっていない。この世界ではどんどん強くなる縁を殺すわけにはいかないので悩んでいたところで、逆刃刀を荒井赤空から受け取っている。
・……もしかして斬鉄の出自を考えると、この世界の如月影二(『龍虎の拳』)って縁の子孫だったりするんだろうか。
・響への印象は世界ごとに異なり
“人斬りにならなかった響”
・敵討ちの旅路の路銀稼ぎとして幕府側の要人警護をしていた時に、幾度か交戦して互角の死闘を繰り広げる。その後の旅路で巴と隠遁した後の剣心と出会い、殺人剣の使い手も変わっていけるという希望を響にもたらした。こちらでは響のことを“誇り高き不殺の剣士”として敬意を抱いている。
“人斬りになった響”
・互いに“最強の人斬り”と認識しあっており、響の方は剣心を斬りたがっていたが、剣心的には眼中になかった為、交戦はしなかった。響が“より大勢斬れるから”と討幕派に与するようになってからは、戦場でニアミスは何度かしたらしい。巴の死がなく精神的に安定してる剣心と、人斬りに染まり切った響の戦いとか、もし起きてれば完全にラスボス戦だったと思われる。