──目覚めると、ホテルの一室らしき天井が目に入ってきた。
体を起こそうとして、マキマは両手に手錠が付けられているのに気付き、不便そうになんとか状態だけを起こす。寝台の上で女の子座りする形になったマキマは、眼帯を付けた美女がじっとりと湿度を含んだ目で、自身の事を見つめていることに気付いた。
「……クァンシ」
元デビルハンターで、世界中の人間が「よーいドン」で殴り合えば最強と言われる女。
マキマも幾度か、まるで一人だけカートゥーンコミックスから飛び出てきたような、圧倒的な戦闘能力を見る機会があったが、自身の“支配の悪魔”としての力を封じる手かせをはめられた状態で対面するのは、さしもの彼女であっても緊張が走った。
「あの乱戦の中で、よく生き延びられたものですね。それで、私の寝姿を眺めていた理由を尋ねても? あなたが如何に同性愛者であっても……愛人の少女たちの仇を抱く趣味があるとは思えませんが」
四人の凶悪無比な力を秘めた魔人たちを、手元において真っ当に生活させようとしていたクァンシ。
狙ってやったものばかりではないが、明確に排除の意思を持って相対したのは事実で、マキマが彼女たちが全滅した理由なのは間違いない。
クァンシと魔人たちに肉体関係があったのは間違いないが、そんな仇と寝たがるほど彼女に節操が無いとは思えなかった……彼女が既に死んでいて、マキマが人形のように“支配”しているなら、また別だが。
「──その手錠は、まだあの子たちが加減が利かない時分に、乞うて付けていてもらったもの」
「それはそれは。形見の品を、ありがとうございます」
わざと挑発するような物言いを繰り返しているのは、早めにクァンシにこの状況を“無駄”だと悟らせ、自身を開放させる為だ。
クァンシを攻撃することは出来ないが、マキマが日本政府と交わした密約は悪魔の力を封じられても有効であり、仮にクァンシの剛腕が襲い掛かってきても、その被害は日本に住まう何処かかの誰かに振り掛かるのみだ。どちらも互いを傷つけられない、千日手など無駄な状況としか言いようがない。
聡明な彼女にそれを伝え、己の目的に戻ろうとするマキマだが……クァンシ挑発めいた正論に乗ろうとはせず、椅子から立ち上がると自然な動くでマキマの隣に座った。
マキマの感性は独特な部分があるが、クァンシの造形が片目の欠損など問題にならないほど、整っているのは理解できる。
「あの子たちは、懸命に学び、変わり、生きていた。その継続はもう、失われた。地獄で生まれ変わっても、彼女たちにはもう、私と過ごした日々の記憶も、学習の痕跡も無い」
「今さら御高説は結構。何しろ“出身地”ですので、地獄の法則はよく分かっています」
「──だから、あの子たちがそこにいた記憶をとどめるには、もう縁の一番深いあんたを“使う”しかない」
そう言うと、クァンシはマキマの身体を後ろから抱きしめ、ちょうど子宮の上辺り……赤ん坊を孕む為の女性の核とも言える場所で手を組むと、ころんとそのまま横になった。
そのままマキマの首筋に顔を埋めて、すぅ……と小さく浅い呼吸を繰り返す。
「……何のつもりですか?」
「手洗いに行きたくなったら、言って。そういうのは、もう少し関係が進んでからの方が楽しい」
通じているようで通じていない会話。
クァンシに殴られれば粉砕しそうな柔い体に、少しだけ手をめり込ませて抱きしめられ、耳元では寝息すら聞こえ始める。
彼女の目的がまるで理解できないまま、取り敢えずマキマに外傷を与える気はないことだけを理解して、マキマも同心円を宿した瞳を閉じる。
この時に感じた温もり、クァンシの鍛えられた肉体から香るには少し甘い体臭。
それらを放置した時点で……とっくにマキマは負けていたのだが、この時は長らく好き放題に事態を動かしていた慢心が、彼女の警戒心を完全にマヒさせていた。
※
「あっ……♥ うっ、あぁぁ……♥ ん、くぅぅっ……ふっ……ふっ……♥」
「息が上がってきてる。手洗いに行きたいの? 連れていってあげようか」
「け、結構、です……あんな姿勢では、出すものもだせなっ……ん、ぉっ……♥」
マキマは一度手洗いを要求し、子供が母親に小水を手伝ってもらうような姿勢……両足を抱え上げて便所まで連行された時点で、クァンシに何も期待しないことに決めていた。
決めているのに……体は容易く心を裏切ろうとする。
「(んっ……あっ、あっ、あぁっ……♥ し、子宮に少しだけめりこむ手が……ん、おぉっ……♥ 気持ち……んはっ……気持ち、よくて……♥ ふっ、ふぅっ……♥ こんな、肉の快楽で……私が支配されるワケ……ふ、うぅぅっ……♥ クァンシの匂い♥ 甘い……♥)」
気付けば自身の身体の不調を抑える為と言い訳し、夢中になって深呼吸をしてしまっている。
クァンシの甘い体臭は、まるで何かの薬物のように鼻腔から、口から入り込んで肺腑を犯し、中毒症状を引き起こす。顔を埋めて深呼吸したいなどという衝動が湧き上がり、体に宿る熱を更に手のつけがたい獄炎へと変えていく。
マキマは、クァンシのことを「圧倒的に強いデビルハンターで、レズビアン」と、分けて物を考えていた。
これは愛情や依存心が支配欲と混ざってしまっているマキマにとって、致命的に人間と異なる感性の表象なのだが……そのせいで彼女は、クァンシが「レズビアンとしても圧倒的に強い」という単純な事実に気付いていなかったのだ。ノンケの女など、数時間で自ら腰を振らせるのは容易だという、その事実に。
「自分の身体の変化に戸惑ってるのか、支配の悪魔? 男は相手にする気にもならないけれど、女を支配するのは私にだって出来る……そして、お前だって支配できる」
「あっ……か、かっこ、い……はっ! 何を、考えて……」
「惜しい。でも、もう私に強く迫られると“嬉しい”と感じる心が、芽生えてるだろう? あの子たちも、こうやって一晩焦らしてあげれば、頭の後ろで手を組んで、腰をヘコヘコさせて『触って♥ 触って♥』と甘えてきた……お前も、今からそうなる。あの子たちの“続き”になるんだよ、マキマ」
本来のマキマの感性ならば、このクァンシの物言いには全面的に不快を示すはずだ。
しかし今は……マキマの中に「この美しい人に、期待されている」「この要望に応えたら、もしかしたら自身の欲求を振りかざす以上の充足が得られるのでは?」という思考が、ノイズのように混ざり込んでくるのだ。
クァンシは何もしない。ただマキマに抱き着き、子宮を少しだけ圧迫して、匂いを嗅がせてくるだけ。
それだけでもう……マキマは限界を迎えつつあり、荒い息を吐きながらびくびくと体を震わせ始めていた。
「(あっ、うぅぅっ♥ こんなことが、あるはずが……♥ 何もされてない……目立った動きすらない……♥ それなのに、気持ちが盛り上がって……♥ た、達してしまいそうになる……♥ まずい、まずいまずい……にげ、ないと……♥)」
マキマはそもそも、地獄の四騎士と知られる悪魔の先方だが、姉たちからの扱いはかなり雑なものだった。
戦争、飢餓、死……いずれも支配よりも人間に恐れられてきた概念であり、終息のメタファー。
だからこそ日本政府と契約まで取り付け、自身の安全を確保したのだが……その結果、安寧のぬるま湯に浸っていたマキマは、そもそも“上手に逃げる”ことを完全に忘却していた。
ごく単純に……本当にすっぽりと抜け落ちるようにして、今の体勢でクァンシから逃れようとすれば──子宮にクァンシの手がより深く食い込むのに思い当たらなかったのだ。
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥」
完全なる自爆。天に唾するような愚行の代償は大きく、自身のもっとも深いところにより強く、より熱くクァンシを感じてしまい、みるみる内にマキマのスーツの股間は色濃く湿っていく。
仰け反って舌を突き出すマキマを相手に、これまではひらすら抱きしめるだけだったクァンシが動いた。
その舌を絡め取るように己の口内に導き、自分の舌を絡めてじゅぞぞぞぞぞっ……と音を立てて扱きあげ、唾液を交換する。
先までは子宮部位に定着していた指が白い喉に伸び、そこを撫で上げながら濃厚な口づけが続く。
もう片方の腕はマキマのズボンの中に潜り込み、ぐちゅっ……ぐりゅっ……と愛液を掻き混ぜる卑猥な水音を響かせた。
「(ふあぁぁぁぁっ♥ んっ、んはぁぁぁぁっ♥ だ、ダメ……染まるっ♥ 体のなかから、染め変えられるっ……♥ んおぉぉっ……わ、私の自我が……欲望が、塗り替えられて……ああぁ……たすけて、チェンソーマ──)」
「私以外のことを考えるのは、許可しないよ」
「んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♥」
陰核をクァンシにぎゅぅぅぅ……と指で押し潰され、止まらない絶頂の中でマキマの意識が書き換えられる。日本をも手玉に取り、己の欲望の為に動き続けたマキマだったが、快楽……自分によって快いものを、他者に押し付けることができないという弱点を突かれる形で、クァンシの前に完全敗北した。
「──マキマ、あなたの恋人は?」
「あ、ひゅぅぅぅぅっ……♥ く、クァンシ様、ですぅぅ……♥」
「そう、ちゃんと言えて、いい子だね。それじゃあ、恋人同士のキスをしようか」
クァンシが立ち上がり、下履きを脱ぐ。
マキマをひたすら冷静に攻めていたクァンシだが、露わになった秘所はぐっしょりと濡れており、マキマを理由に感じてくれたのが伝わっていた。
くぱぁぁ……と秘所が開かれて、淫臭が室内に広がる。
クァンシの望むことを正確に理解して、マキマは頭の後ろで腕を組むと、腰をへこへこと前後に動かす、無様踊りを披露し始めた。
手錠は、もう外されている。ステゴロにおいては最強のクァンシも、悪魔の力を十全に扱うマキマ相手ならば、深くを取りかねない。
しかし、今のマキマには愛しいご主人様に……支配の悪魔を支配する者に逆らう気など微塵も無く、粘っこい潮噴きを繰り返しながら、ガニ股腰ヘコが少しでもエロく見えるように気を遣いつつ、懸命に腰を振りたくり、クァンシに懇願した。
「あぁぁ……舐めささせてぇ♥ クァンシ様のお大事に、キスさせてくださいっ♥ マキマはクァンシ様の忠実な奴隷ですからぁぁっ♥」
「奴隷って言い方は好きじゃないな……恋人って言いなおせたら、キスしてもいいよ」
「は、はいぃっ♥ マキマは、クァンシ様の恋人です♥ 恋、恋、恋♥ ようやく私、恋とか愛とか完全に理解できましたぁぁぁ~♥ クァンシ様へ向ける感情こそが、本物の好意ですぅぅぅっ♥」
許可を受けたマキマは四つん這いになってクァンシの秘所に鼻先を埋めると、じゅぅぅぅっ……と音を立てて唇を捧げる。
髪の毛を撫でられながらの忠誠クンニで、マキマは絶え間なく絶頂を繰り返していた。
※
その日、公安のデビルハンターであるコベニと、マキマと契約している“血の悪魔”パワーは、長らく行方不明になっていたマキマが帰還した途端に、彼女の部屋へと呼び出されていた。
「は、はひゅっ……た、多分、何もしてないはずなのにぃ……」
「ワシは何も問題を起こしておらん。やらかしたとすればコベニが悪い。ヌシはワシを連帯責任で巻き込むのか?」
「ぱ、パワーちゃん、マキマさんがいなくなった途端に『これで下等な人間どもに従う理由は1ミクロンも無いわ! 皆殺しにしてくれるぞぉっ!』って襲い掛かって、みんなにボコボコにされてたじゃん……」
「知らん。そんなことをしておらん。やったとすればお前じゃ。人に罪を擦り付けるとは、性根が腐っておる」
パワーの滅茶苦茶な物言いに、マキマがいない間のお目付け役をやらされていたコベニは、メンタルが限界を迎えているのを示すように、左右が非対称の引き攣った笑みを浮かべていた。
二人がノックなどを行う必要もなく、マキマの部屋のドアは開いていた。コベニは「変だな」と思ったが、パワーは「おうおうおう! 出戻り女がデカくでおってぇ!」と迷わず扉に飛び込んでいって……直後に「んへぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ♥ ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥」とパワーのオホ声が響き渡った。
誰かの腋に顔を挟まれ、ガニ股腰ヘコしているパワーが目に入り、コベニはへなへなとその場に腰を下ろしかける。
「大丈夫、コベニちゃん?」
「ま、マキマさんっ……!」
崩れ落ちかけたコベニを支えたのは、部屋の主であるはずのマキマだった。パワーの惨状を伝えようと振り返るが……マキマの首には見覚えのないチョーカーがついて鎖が下がっており、乳首と陰核がいつでも見られるように、服にはハートマークの切り込みが入っていた。
「あ、ひっ……ぶひゅっ……!?」
「私としたことが、自分の飼い犬を忘れてワンちゃんになってしまったからね……大丈夫、ちゃんと責任をとって、二人ともクァンシ様のハーレムに加えてあげる……きっちりと教育してね……♥」
パワーとは思えないような甘ったるく媚びた声で「ほぉぉぉっ♥ クァンシ様の腋ぃぃぃっ♥ ワシはクァンシ様のモノじゃぁぁぁ♥」と響く部屋の中へ、コベニも優しく乳首をカリカリされ、股間を撫で回されながら、引きずり込まれていく……。