「(──これはもしかしたら、好機というものかもしれません)」
白梅梅は、佐藤洋の従姉弟である著莪あやめが、最愛の少女である白粉花に抱き着いたことを見咎め、更なるスキンシップを与えるという形で仕置きを行おうとしていた。
その方法が今の状況……あやめが同性同士とはいえ顔を赤らめ、視線をさ迷わせている浴室……風呂へと連行することである。
本来ならばこれはあくまで花に行ったことへの制裁であり、梅はレズビアンではあるが女なら誰でもいいという訳でもないので、それ以上に意図することは無かったのだが……この時、邪悪な囁きが梅の耳元に響いたのだ。
「(この人、あやめさんを利用すれば……佐藤くんに引導を渡すことができるかも知れません)」
現代社会に生きる高校生が、引導を渡すという言葉を常用する異常事態。
もっとも、同性愛気質であることをオープンにしていないとはいえ、佐藤からは時おり「マイワイフ」などという激キモ呼称を投げかけられたり、何故か梅の両親が佐藤を婿候補だと勝手に決めつけていたりと、そこまで嫌っても仕方ない事情が背景にはある。
これがLGBTの概念が一般化する前の、同性愛がギャグのように扱われ、正当な報復すら“暴力ヒロイン”の一言で冷遇された、ライトノベルの全盛期辺りなら梅は「やり過ぎ」とか「悪女」という評価を受けたかも知れないが、現代の価値観で鑑みれば自衛のできる強い同性愛者というだけである。
そんな彼女は花に接近してくることも含めて、いい加減に佐藤へ制裁を加えようと考えていたこともあり……彼と親しいあやめがこうして裸体を晒しているのを、神の采配だと理解したのだ。
「な、なあ、もういいだろ? 白坂さんだっけ、もうこれ以上は勘弁してくれ……」
「誰が身長142cmのアンデッド系アイドルですか。制裁を受けている側が中止を申し出てくるというのは、正直なところ誠意に欠けるとしか言いようがないですね」
「うっ……いやいや、あの程度のスキンシップで何考えてるんだよ! 頭おかしいんじゃないの!」
「ふぅ……反省の色がまったく見られないようです。仕方ありません、それなら反省できるように、私の言葉を正しく顧みることができるように……あなたを、私の恋人にすることにしましょう」
梅が何を言ったのかが理解できず、あやめは「は?」と口を開いたまま固まっていたが……秘所を隠していた右腕を弾き、そのままつぷっ……と指を沈め、手マンを開始する。
「お゛なぁっ♥ な、なにをしてっ……んはぁぁぁぁっ♥ なっ、なにこれっ、あひっ♥ お、オナニーよりも、全然気持ちいいっ……んおぉぉぉぉっ♥」
「自慰行為など日常的に行っているんですか、いやらしい……そんないやらしい娘は、私のことを想像して体を弄るようになるまで、嗜好を矯正しないといけませんね」
ぐちゅっ、ずちゅっ、じゅちゅっ……あやめの秘所からは淫らな音が漏れ堕ちて、体を震わせながら何度も気をやりそうになっては耐えるを繰り返す。実際には梅が巧みに力を加減して、イキかけたら引いているだけなのだが、あやめの焦燥はすさまじいものがあった。
あやめはこれでも、東区の実力のある狼……半額弁当を求めてスーパーで暴力を含めて争い合う武人(奇人)のこと……であり、《湖の麗人》の二つ名を関するほどの実力者なのだが、一方的に梅にリードされるばかりで、続けて乳首へと伸ばされた指も防ぐことが出来ず、ぷっくらと勃起したそこを摘ままれてしまう。
もっとも、それも当然だと言えるだろう……ここは「おさかな天国」が流れるスーパーマーケットではなく、乙女と乙女の向かい合う浴室。あやめの信念や覚悟はこの場ではまったく機能せず、しかしレズビアンである梅の方は覚悟完了、臨戦態勢である。狼であろうと、こうなれば子犬と大差ない。
「あぁぁっ♥ や、やめてっ……ほ、本当にヤバいっ……んんっ♥ ひうぅぅっ……無理、だってばぁ……♥ あっ、あっ、あっ……♥ い、嫌だ、イキたくないぃっ……♥ お、女相手にイクとか、頭おかしいだろ……お、へぇぇぇぇっ♥」
「半額弁当を巡って暴力を行使し合い、ルールを熟知していない一般人を傷付けることすら厭わないのも、大概頭がおかしいと思いますが……あやめさんは、普段イク時は佐藤くんを思い浮かべているんですか?」
「な、何を言ってっ……ひあぁぁぁっ♥」
「こうやって、乳首を指でちゅこちゅことコキ挙げられて長く延ばされてしまって、指を一本、二本……三本も飲み込むほどにぐしょぐしょに濡れるまで秘所を湿らせて、それで佐藤くんを迎え入れる妄想で達しているんですか? と聞いているんですが」
梅の手技は正に絶技であり、中指から小指まで縦に挿入してぐりぐちと左右に拡張しながら、陰核を人差し指と親指で掴んで扱き上げるという、余すことなく指で与えられる快楽を享受できるフルコースを受けて、あやめは体を仰け反らせてしまう。
同性に、イカされる……そう覚悟したはずなのに、絶頂は訪れない。
梅は巧みに刺激を抑制し、しかし間断なく与え続けながら、淡々と冷たい声を投げつけ続ける。
「答を聞いていないのに、どうして果てられると思ったんですか? 佐藤くんで自慰をしているんですか、イッているんですかと、そう聞いているんですけれど」
「はひぃぃぃぃっ♥ あぐっ、いぎぃぃぃぃぃっ♥ そ、そんなの言えないっ♥ 言えないからぁぁぁぁっ♥ あ、はぁぁぁっ♥ 許してぇぇぇぇっ♥」
「その“許す”というのは、愛撫をやめることですか? それとも私の指で、同性から与えられる刺激で、絶頂を迎えたいという意味ですか?」
「ほぉぉぉぉっ……♥ そ、それはぁ……♥」
すぅぅ……と大きく息を吸い込んだ梅が、ふぅー……と甘い吐息を鼻先に吹きかける。
たっぷりとフェロモンを含んだそれを浴びて、あやめは「んへっ♥」と明らかに堕ちかけの表情を浮かべ、終わりのない刺激の中で脳を焼き続けられた結果……。
「そ、そう、だからぁ……佐藤で、イッてるっ♥ 佐藤でオナってるぅぅぅっ♥ い、言ったからぁぁぁっ♥」
「不純ですね」
ぐりっとこれまでよりも深く、ちょうど陰核の裏側に当たるGスポットを指で掻かれて、あやめは「うひぃぃぃぃぃっ♥」と顔をかきむしるようなポーズのまま絶頂し、びゅーっ♥ と勢いよく愛液を噴きだした。
まるでお漏らしのような勢いに加え、自慰で感じたことのないほどの快楽を脳に刻まれてしまったこと、自分の性事情を無理やり引きずり出されたことなどが重なり、あやめはがくがくと膝を震わせて崩れ落ちそうになる。
しかし、先までの冷徹な様子が嘘だったかのように、梅はその体を優しく抱き留め、柔らかな胸同士が重なってぬくもりをもたらした。
「あっ……♥」
「無理をさせたようでごめんなさい。けれど、これであなたは……あやめさんは、私で絶頂を迎えたということになりますね」
「あ、うぅぅ……そ、そう、です……♥」
「つまり、私も佐藤くんと並んだことになります……いいえ、彼を想像して股間を弄った時と、快楽は段違いだったでしょう? つまり、あやめさんは、私の方を佐藤くんより愛しています」
滅茶苦茶な理論である。本来ならば、あやめは聡明な一面を見せて「いや、それはおかしいだろ……」と突っ込みいれる場面だと言える。
しかし、今の彼女は人生最大の絶頂を迎えたばかりな上に、気持ち良すぎて脳内情報が一度リセットされてしまっており、花に抱き着いた件でここへ連行されたのを忘却してしまっている。
すると、どうなるのか……あやめはこう考えてしまうのだ。
「なんか状況はよく覚えていないけれど、自分から一緒に風呂に入って、こんなに気持ちよくイケたんだから、私はこの娘のことが好きなんじゃね?」
そんなバグを脳内に打ち込まれてしまったが最後、梅は非常に整った外見の持ち主であり、ついでにくっそ甘い体臭のする麗人である。あやめは狼であることも手伝って、自分よりも強い相手には好意を抱く一面がある。梅は防御不能な手技を放ってきたこともあって、勝手に好感度が上昇していく。
「キスをしましょう、あやめさん。両想いのキスです」
「りょ、両想い……♥ ま、待て、待って……あ、あんた、花ちゃんが好きなんじゃないの……?」
「美しい花を愛でることに、本数を気にする方ですか?」
「あっ……んむぅぅっ♥ んちゅっ、れるぅぅっ……ほぉぉぉっ……じゅるっ、じゅるるるっ♥」
本来ならばクリティカルになりそうな質問を華麗に回避され、梅によって唇を奪われてしまうと、あやめは濃厚な舌遣いと流し込まれる唾液の甘さに、たちまち梅に魅了されていく。本気で彼女が好きになってきてしまう。
「(うわっ、睫毛ながっ……お人形さんみたいな容貌の女の子って、本当にいるんだ……そ、そんな子が、私を好いてくれていて? こんな気持ちのいいキスをしてくれている……? 嬉しい……♥)」
あやめはもう、梅の虜。佐藤を遥か下方に置き去りにして、好感度No.1を不動の元とする。
だが、梅はこの程度で終わらすつもりは、さらさらない。
ちゅぽぉっ……と唇を離し、銀の橋を繋げて、それを赤い舌で巻き取って。
官能を高め、性感を開き、更なる高みへ登らんとした、そのタイミングで。
「……やはり、やめておきましょう。これ以上は、できません」
「え……ど、どうして!? 私、魅力的じゃない!?」
先までは「やめてほしい」「同性でイキたくない」と叫びちらかしていたのに、あやめは逆に強く梅へと迫る。梅は「とても、魅力的です。けれど……」と思わせぶりに視線を逸らす。
「これ以上はきっと、佐藤くんの逆鱗に触れてしまいます……これ以上、彼から嫌がらせを受けたくありません」
「なっ……佐藤が、あんたに何かしてるの!?」
「私のことを周囲に自分の女だと言って回ったり、私が好意を抱いているのを分かりながら花にちょっかいをけたり、両親を篭絡して結婚しようと企んだり……」
適当にでっち上げるつもりだったが、割と深刻に迷惑な被害が出てきて、梅は今まで佐藤を放置してきた自分の寛大さにちょっと驚く。
実際は、羽虫をいちいち潰さないくらいの気持ちなのだろうが、あやめは今は梅のナイト気取りである。その目に、先までは自慰の時におかずにまでしていた男への、憎悪と殺意の光が宿った。
「(許せない、あいつ……! 私の梅ちゃんに、なんて卑劣なことを! 思えばあいつは、昔から女たらしで、いろんな女に囲まれるのを、さも当然でございって顔してて気に入らなかったんだ! 何が狼だ、あのハイエナ野郎!)」
元より恋心の裏側の複雑な感情があったところで、その気持ちが反転すれば憎さ百倍。
ちなみに、ハイエナは本来は優秀なハンターであり、逆に狼はスカベンジャー……死体漁りの食性があることを、ハイエナの名誉のためにここに記しておく。
「これ以上の嫌がらせをされたら、きっと私は心が壊れてしまいます。いえ、こんな行為に及んでしまったのは、きっともう心にヒビが入っているからでしょう。ご迷惑をおかけしましたが、今日は何もなかったとして、ここでお別れを……」
あやめが、力強く梅のことを抱きしめる。胸が花よりも大きいため、少しだけ役得だと感じる。
「もう、怖がることなんてない! 私が、佐藤の糞野郎から梅ちゃんを守るから……!」
「あやめさん……」
「梅ちゃん……♥」
……チョロ過ぎであるが、あやめは見事にミサンドリーが入ったレズビアンへと変貌した。
梅はこの時点で満足だが、最後のご褒美をやることに決める。
「あやめさん……恋人同士の証として、一番気持ち良いことをしても……構いませんか?」
「い、一番? さっきよりも、気持ちいいの!?」
「ええ、相手になんてなりません。私のここと」
くぱぁっ……と、しっとり濡れた秘所を指で開く。
「あなたのここを、重ねてこすり上げるんです」
「あひっ♥ そ、そんなことしたら……あ、頭がおかしくなるかも……♥」
梅の洗脳で、あやめは既におかしくなっているのだが、更なる快楽の誘惑には逆らえない。
梅に促されるままに、あやめはタイルの上に尻を下す。冷たい感触が、これから起こることへの期待と興奮を高めていく。
その細く美しい足を、あやめの足の間へと差し入れると、梅はそっと肩を抱き、そして一気に腰を沈めてきた。
くちゅっ、ずりゅっ……ぐちゅんっ♥
「う、あぁぁぁぁぁっ♥ な、なに、これぇぇぇっ♥ 全然違うっ♥ さっきまでの、指とは全然違い過ぎるぅぅぅぅっ♥ うあぁぁっ♥ あひっ、あうぅぅっ……♥ あっ、あっ、焼けるっ♥ 体が、焼けるぅぅぅっ♥ 熱いっ、熱いよぉぉぉぉっ♥」
「ふふっ、可愛いですよ、あやめさん。私の本命は花ですし、それ以外にも多くの女性を愛する性を抑えることはできませんが、それでもあなたを特別に愛することを誓います」
それは「ハーレムを築いたら、第二婦人くらいにはしてやる」というろくでもない宣言のはずなのだが、あやめは感動で泣き出してしまい、快楽も手伝って完全に情緒が崩壊してしまう。
「あぁぁぁぁっ♥ ふあぁぁぁぁぁぁっ♥ 梅ちゃんっ♥ 梅ちゃん♥ 何番でもいいっ♥ あなたが私を愛してくれるなら、それだけでいいよぉっ♥ 梅ちゃんが飽きないように、他の女の子を連れてきたってかまわない♥ だから、私を恋人にして♥ 梅ちゃんの傍に置いてよぉぉぉっ♥」
「まあ、なんて素敵な宣言でしょう。私、あやめさんを本気で愛してしまいました。愛し抜き、添い遂げてみせます。あなたは私のモノです、あやめ。絶対に手放しません」
「あっ、うぅぅっ♥ 嬉しいっ……♥ あぁぁぁぁぁっ♥ イクっ、イクぅぅぅぅぅぅっ♥」
先の手マンすらも相手にならない激しい絶頂と共に、体を弓なりに逸らして潮吹きを迎え、あやめは白目を剥くほど感じながら失神した。
力が抜けて弛緩したからだろう、じょぼじょぼと股間からは小水が零れ落ち、浴室を淫靡な匂いに染めていく。
「少し、やり過ぎてしまいましたか。それにしても、こんなに魅力的な人をほぼキープ扱いとは、やはり佐藤くんとは分かり合えませんね。この調子で、あなたの周りのすべての女子を幸福にしてあげましょう。あなたは一人で、半額弁当に恋をしているのがお似合いです」
あやめの陥落、そして梅の恐ろしい呟きと共に、佐藤の人生は急転直下で破滅に向かっていく。
もっとも、梅としては女性たちが幸せであれば、それでハッピーエンドなのだけれど。
LW
2023-08-30 05:25:24 +0000 UTC