「──あんたがたどこさ 肥後さ
肥後どこさ 熊本さ
熊本どこさ 船場さ──♪」
儚げな歌声と共に、毬が上下に跳ねている。
ぽーん、ぽーんと、小気味よく。併せて、茶色い着物の袖が躍る。
おかっぱ髪の愛らしい少女による、毬つきの真っ最中である。
毬が上下する度に、左目だけ緑色の光を放つ瞳が、くりくりと踊る。
古風な遊びあるが、少女の儚げで市松人形を想起させるような外見もあり、彼女に──斑目るりに、とても似合っていた。
「船場山には 狸がおってさ
それを猟師が 鉄砲で撃ってさ
煮てさ 焼いてさ 食ってさ──♪」
ぽーんと、るりの顔のちょうど真横辺りまで、毬が大きく跳ねた。
るりはその毬をじっと見つめていたが、やがて手のひらを振り下ろし、ばしんと前へと打ち出す。
まるで砲弾のような勢いで叩きつけられた毬が、男の胴体に直撃して、反吐と鮮血を噴きださせた。
「おげぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「──それを木の葉で ちょいとかぶせ……そうやって兄さまは、るりの体を隠すつもりだったんだ?」
毬の強烈な一撃でグロッキーになっている男……長姉である斑目舘羽の婚約者・小野寺将之に近づくと、るりはその頬を横に叩いて質問する。
るりは普段から何処か冷めた瞳をしており、そのうちに膨大な感情を閉じ込めているように見えるのだが、今はそれが暴力を行使しながら冷徹さを揺るがせない、歳に似合わない恐ろしいものであるように見えた。
「う、ぐあぁぁっ……ゆ、許して……許して、くれぇぇ……」
「兄さまは、私たちの父さまの誇りを奪われて、母さまに裏切られたと勘違いして、るりたちを殺そうとしたのでしょう? それを許せないのに、るりには許せと言うの?」
「わ、私たち……勘違い……えぎぃぃぃぃぃっ!?」
振り下ろされた小さな足が正確に肝臓を踏みつけ、小野寺から抵抗の力を一切奪う。
小野寺の瞳からはカラーコンタクトが外れ、その左目が少女と同じ緑の輝きを放っているのが分かる。
るりが彼を兄さまと呼ぶのは、舘羽の恋人だからだけでなく、小野寺がこの斑目家の三姉妹と両親を同じくする兄妹だからだ……もっとも、両親ともに同じであることを把握しているのは、るりを除けば母である緑だけなのだが。
それを知らないまま小野寺は、父・須賀実の研究していた夜行蝶を奪った斑目家当主・紫紋への復讐心に駈られ、危うく斑目家の人間を皆殺しにするつもりだったという。それも須賀の一方的な遺書を信じ込んでの、盲目的な行動だ。
母の緑に関しては、紫紋と三人も娘を作ったように見せかけて、実際にその娘たちは人工授精で妊娠した須賀の子供であったと、臨終の場で囁くという気の長い復讐の為に近づいたのが真相なのだが、要するに須賀も緑も互いの意図を説明しなかったばかりに起きた、すれ違いの悲劇であった。
「(けれど、あの男はそんなことを告げられても、きっと少しも傷つかない。母さまに、あんなひどいことをする男だもの)」
緑の復讐は常人相手には有効だろうが、紫紋のような罪悪感を持たない、異常な性癖を持ち合わせる男への効果は怪しいものだと、るりは真相を知った時から思っていた。
そして遂に、その復讐が呼び水になってしまい、実の兄に殺されかける憂き目にあったことで、るりは覚悟を決めることにした。
「兄さま、緑母さまは、私たちの父さまを裏切っていない。夜光蝶……黒死蝶の話を、あの男に持ち込んだのは、大学教授の山野。母さまは、紫紋への復讐の為に近づいた」
「なっ……なんで、そんな情報を……そ、そもそも、お前は何なんだ? そりゃあ、俺は別に屈強な方でもないが……大人を、まるで相手にしない小学生、なんて……ぐぇっ!?」
「事情はわかるけれど、るりを殺そうとしたことは許さない。消えて、どこへなりと。復讐は、るりが引き継いであげる」
尻を蹴られ、小野寺は「わぁぁっ……!」と悲鳴をあげながら、るりの部屋から遠ざかっていく。
せっかく東京から遊びに来てくれたお兄さんたちと、楽しい時間が過ごせると思っていたのに……ころころと独りでに、るりの手元に毬が戻ってきた。
「──兄さまは、好きになれる人ではなかったけれど、るりより一つだけ、すごいところはあった。嫌いなものは、消せばいい。その思い切りは、見習わせてもらうわね」
ぽーん、ぽーんと毬を突きながら、るりは地下へと降りていく。
斑目紫紋という男が、もっとも下卑た本性を現す場面を、粉みじんに粉砕するために。
※
──日本中で凄惨な事件が頻発するのは、名探偵・金田一耕助の時代からの負の伝統である。
その内の一つ、悲報島と呼ばれた島で起きた連続殺人は、その手口の悍ましさや被害者の数もさることながら、幼児虐待を背景にした悲しい真相が知られることとなり、るりたちの住む石川県金沢市でも子供を守るための様々な取り組みがなされるようになった。
斑目紫紋という男は、人を蝶に見立てて縛り上げたり、傷口を眺めたりすることを喜ぶ異常者であり、るりの母である緑も、姉である舘羽や揚羽、記憶喪失の助手・深山日影もその対象としていた。
その性癖が、るりまで及ぶのはそう遠くない未来であったが……流石に長らく自分の異常性と付き合っているだけあり、保身にも長けた紫紋は、一時的にるりを東京の小学校に通わせたのだ。
母や姉と別れ、古郷から離れて心細い思いをしていた彼女だったが、そんな思いは数日で吹き飛んだ。
その小学校の学友たちは、とても親切で優しくて……紫紋など相手にならないほど、異常な娘たちだったから。
るりはその小学校での日々で、年上の女性や同性の近親者を性の対象とすることを覚え、また小学生離れした情報収集力や諜報力も身に着けた。本家はバスケットボールを使うのだが、理不尽と戦う術までも教えてもらった。
本当に短い期間ではあったが、るりは大きく成長して蝶屋敷へと戻り、そこで緑の隠していた様々な秘密や、大学教授・山野が行った背信行為を知った。
るり自身には自衛の手段がある為、ある程度まで母の復讐に付き合い、紫紋が自身を欲望の標的とすれば返り討ちにしてやろうと考えていたが、その結果が小野寺の襲来である。
兄として慕うことはできないが、誤解から身内を虐殺する業を背負うところだったのは大いに同情できるし、なんだかんだと彼を気に入った舘羽も傷つくことになるだろう。
それを自分が事勿れで母や姉の苦痛を見過ごした罰と解釈し──るりは毬で以て鉄製の扉を粉砕し、つるし上げた緑をろうそくの火で照らすという、狂気の行為に耽っていた紫紋へと襲い掛かった。
「なっ……る、るり!? お前は……ぎあぁぁっ!?」
中国拳法には“鞭打”という技術があり、力を抜いた状態の手足を叩きつけて、相手の皮膚にダメージを与えるというものである。
るりはこれを着物の袖で実行し、紫紋の顔の皮膚をべろりと剥がし、そのまま蝋燭を突き付けて肉を焼いて見せる。
その間に跳ね返ってきた毬を喉に叩きつけて声帯を破壊、皮膚を失い直焼きされた顔がまだ燃えているのを抑えたせいで、指紋を消す手順を省いてくれた紫紋を、ゴミを廃棄する為のダストシュートへ蹴り込む。
悲鳴もなく汚濁の闇に消える紫紋。死んではいないだろうから、やがてゴミの海からはい出し、他のゴミ捨て場から出てくることだろう。
後は……知らぬ存ぜぬで突き通せば、紫紋は哀れな浮浪者として処理される。仮に誰かが失踪した蝶屋敷の当主・斑目紫紋と結び付けたとしても、家族の誰ともDNA情報が一致しないのだ。科学が、斑目家を守ってくれることだろう。
「る、り……あ、なたは……」
縛られ、吊られたままの母・緑は、るりの行為の凄惨さには驚いたようだが、紫紋を案ずる様子はまるでない。そこに、それなりに長く過ごしてきた結果の情などが芽生えていないことに、るりはホッとする。
こうして母がひどいことをされるのが、昔から大嫌いだった。あの男を父と呼ぶ度に、胸の中でヘドロが泡立つような気がした。
そんな悪夢のような日々は終わり、復讐は完遂された。緑と須賀実の子によって、悪党は成敗されて悲惨な末路をたどるだろう。
そうして、るりは……縛られている緑にそっと近づき、着物の裾を開いて秘所を覗く。
あの小学校での日々以来、性の対象として毎夜のように自慰の共としてきた、実母の女陰……綺麗に毛を揃えたそこに、るりは顔を「んっ……」と埋めると、ぴちゃぴちゃと愛撫を始めた。
「あっ、あぁぁっ♥ あひぃぃっ♥ る、るり!? や、やめなさっ……ほぉぉぉっ♥ だ、だめぇぇぇっ♥ 母さんの、そんなところ……んんっ♥ 一番気持ちいいところ、お口で咥えるなんてぇぇ……♥ ど、どこでそんないけないことを覚えたのぉぉっ……♥」
「母さま、もうあの男はいないの……母さまの復讐は、成功した……だから、これからはまた、幸せに暮らしてほしいの……♥ るりの母さまとして、そして、お嫁さんとして……♥」
「な、何を言っているの、るり……! わ、私たちは母娘で……んほぉぉぉぉっ♥ や、やめっ、ひぅぅぅぅぅぅっ♥ そ、そんなの、知らないぃぃぃっ♥ そ、そこは飴玉じゃないのよぉぉぉっ♥ しゃぶるのだめっ♥ だめぇぇっ♥ あぁぁっ♥ 娘のお口で……いっ、くぅぅぅぅっ……♥」
「くすっ……そうだよ、母さま♥ るりは、母さまと父さまの子だよ……♥ ほら、こんな風に父さまは、母さまを気持ちよくしてくれたの? 教えて、母さま……♥ もう隠さなくていいから、思い出を知りたいの……♥」
ひょいひょいと、それこそ蝶の羽でも生えているかのように縄を上り、緑の服をはだけさせると、るりはそこに顔を埋め、乳房と乳首、それに強い汗の匂いの籠った腋を舐める。
赤ん坊が母親に甘えるように見えて、美しい蝶を肉食の更に大型の蝶が捕食しているような、そんな光景。
紫紋の精行為自体は淡白であり、彼の精の発散の方法は主に人を蝶に見立てることであった為、実質的に緑は長らく男日照りの状態であった。
最愛の男、須賀実に抱かれたのはもう二十年以上前が最後……そんな体にしみいる快楽としては、るりのもたらすそれはあまりにも過激で、強いものだった。
腋を吸われながら乳首を指で弄られ、とんとんとその間にも膝で秘所を軽く刺激される。しかもそれは、足がついていない状態で行われているのだ。
「痛くない縛り方だけは、あの男からは学ぶところはある……これからは、るりが母さまの伴侶として可愛がってあげるからね……誓いのキスをしましょう、緑♥」
「あぁぁぁ……♥」
達するほどに全身を愛撫された上で、名前を呼び捨てにされてしまった緑は、幼い少女の濃厚な口づけに溶かされ、堕ちていく。
元より復讐の修羅道に堕ちた時から、人倫の道など外れている。
喉から漏れた「ああ……るりぃ……♥」という甘い声には、罪の味がたっぷりと染みていた。
※
「──それにしても、この手の集まりにお前がやってきて、事件が何も起こらないとか前代未聞だな、金田一」
「俺は元から、事件を解決したいわけじゃないんだって! 大体、俺が巻き込まれたんじゃなくて、いつきサンに要請されたり、明智に勝負挑まれたせいも結構あるだろ?」
「たはは……そ、それを言われるとだなぁ」
「いいじゃない、るりちゃんと仲良く遊んであげて、それだけでも立派だったわ、はじめちゃん。けれど、日影さんは……」
「……いいんだよ。あの人は深山日影だ。殺人鬼ジェイソンとは、別人だよ。きっと、そうだ」
「そうね……そう言えば、紫紋さんが老齢だからって、緑さんが正式に当主を継がれたのも、びっくりだったわよね……」
※
──新当主の元で、新しく動き出した斑目家。
紫紋の研究資料……そのほとんどは、実際には須賀実から奪った功績だが……は大学へと提供され、コレクションの多くも博物館や在野のコレクターに寄贈されたことで、蝶屋敷はすっかりと普通の、単に蝶が大勢住んでいるだけの館に変わりつつある。
緑は諸所の雑事ですっかりと疲れ果て、自室で息を吐いていた。汗を流すために風呂に行きたいが、少し休んでからでないと体が動きそうにない。
「母さん、ちょっといい?」
「ああ、舘羽……いいわよ、どうしたの?」
てっきりもう寝入っているものと思っていた舘羽は、着物姿で室内に入ってきた。
婚約者の小野寺が逃げてしまったのだが、その表情にはほとんど陰りのようなものは無い。
「あのね、母さん……きょ、今日はぁ……母さんも交えて、三人でしようって、るり“さん”が……♥」
「あっ……で、でも、私、まだ湯あみが済んでないから……♥」
「──そのままでいいよ♥ るり、母さまの匂い、大好き♥」
部屋の中に新たな影……斑目るりが入ってきた瞬間に、はじかれた様にふたりは立ち上がり、そして着物のをはだけて胸や秘所を露わにする。
一日着物で過ごしたことから、むわぁぁっ……と甘い雌の匂いが湯気のように立ち込め、互いの匂いを嗅ぎ合って「ほぉぉっ……母さん、臭ぁぁっ……♥」「舘羽ったら♥ なんて恥ずかしい匂い……♥」と発情し合う。
二人の左乳首には、それぞれ婚約指輪がピアスのように嵌められており、るりが正式に当主となり次第、左手の薬指に収まることになっている……そう、斑目家の真の支配者はるりであり、緑はもちろん、舘羽も妹からもたらされるレズセックスの快楽におぼれ、彼女と妻となることを了承していた。
「あぁんっ♥ るりっ♥ るりさぁんっ♥ 一日中、おマ〇コ可愛がってもらうことしか、考えられなかったのぉ♥ おほっ、ほぉぉぉっ……♥ スケベなお姉ちゃんの体、可愛がってぇ♥ 真正ロリコンの近親セックス中毒者、可愛いおててで躾てぇぇんっ♥」
「ほぉぉっ♥ ふほぉぉっ♥ 緑がるりさんの正妻なのぉぉっ♥ 娘にだって負けたくないんだからぁぁぁっ♥ おばさんだけどぉ、るりさんに抱いてもらえるようになって♥ えっちな肉付きになってきたでしょうぉぉ♥ 今夜も可愛がってぇぇ♥ よちよちしてぇぇ♥」
頭の後ろで手を組んで、甘い匂いのする腋と秘所を突き出すように腰をヘコらせながら、着物をはためかせれる姿は、生き生きと羽搏く蝶のよう。
るりは二人に手マンして仰け反り絶頂させながら、「今夜もいっぱい、可愛がってあげるわ、緑、舘羽♥」と微笑みかけた。
東京の友人たちが、今度訪ねてきてくれるという話なので、その時にしっかりと躾けられた二人を恋人として紹介できたらな、とるりは夢想する。
本当は一番なついていた揚羽のことも狙っていたのだが、るりの目から見てもなお、深山日影は姉を任せても安心できる完ぺきな男であるため、そちらは諦めることにしていた。
「(でも、みんなは手を出したがるかも知れないし、未練を断つためにも、そのうち食事にいろいろ入れちゃおうかな……♥)」
緑が人工授精の研究をしていた関係もあり、この館には排卵誘発剤や精力増強剤も揃っている。
相思相愛のカップルにちょっかいをかける妄想をしつつ、るりは姉より少しだけ毛深い緑の秘所へと頬ずりし、それだけで「はへぇぇぇっ……♥」と潮を噴かせてみせるのだった。
屋根が高い
2023-09-01 09:56:05 +0000 UTCとろがけ
2023-09-01 09:49:24 +0000 UTC屋根が高い
2023-09-01 08:38:30 +0000 UTCソウシップ
2023-09-01 08:31:28 +0000 UTC