ひぃっ……ひぃっ……ひっ、ぐぅぅぅ……」
恐怖、当惑、混乱、逃避。
頭の中で思考がうまく形を成さず、ケダモノのように唸りながら、殺生院キアラは駆け続ける。
救世を理由にして、自己愛を動機とする……相反する要素の果てに獣の仏性──魔性菩薩の域に到達したはずのキアラが、こけつまろびつ逃げ続ける……ただひたすらに、理解不能の“善意”から離れようと試みる。
「ど、どうして……どうして……どうしてぇっ……!」
悲喜こもごもを手玉に取り、まるで電脳の上で人の思考を再現するかのように、何もかも掌握していたはずだったのに。
何がトリガーとなって、この現状にまで落ち込んでしまったのかが分からない。
かつてのキアラならば……清廉な電子セラピストであった頃のキアラならば、分からない事態があることは当たり前であるのだから、却って訪れた事態に対して平静でいられたかもしれない。
しかして、悪魔のささやきを知り、平行世界の己を知り、他社を堕落させる蜜を知り、快楽を知り尽くし……全能感に酔っていたキアラにとって、分からないことはひたすらに恐ろしい。理解できないことは、ただただ恐慌に変わりキアラを走らせる。
どこをどう走ったのか、それも分からないままに疾駆を続け、遂にその足が止まる。
体力の限界にまでは、まだ余裕があった。けれど、心臓が裂けるまで逃げ続けることは、キアラの性格上できなかったのだ。
どこかで侮りがあった。何かを期待していた。だって、だって……たかだか、あの程度のことで、こんなにも“許されない”なんて、あるはずがないと心のどこかで思っていた。
「──もう逃げないのですか?」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ!?」
だから耳元で声がした時点で、キアラの体はミサイルのように飛び出そうとして……ばつんっ! と筋肉が吊って、地面に顔を叩きつける形で転倒した。
歯が折れる。口の中に血の味が広がる。自分が魔性菩薩などではない、矮小な快楽狂いの人間だと思い知らされる。
ゆらりと、視界が揺らいだような気がして、勝手に涙が浮かび上がってくるぼやけた風景の中、少女の姿が見えた。
白い上着に青いスカート、金色の髪に青い瞳、一見すれば清楚なお嬢さんに見える……史上最強の“暴”の化身の姿が。
「あっ、あっ、あっ、あっ……」
「殺生院キアラ──“私の”大河に……何をしようとしましたか?」
それは問いかけではない。知りたいことはもう、とっくに彼女はすべて把握している。
むしろ逆……これは宣告。
お前から聞き出すことは何もない。知るべきことは既に把握し、情報で差し出せるものは一つとして存在しない。
ただ祈れと、そんな宣告……もっとも、今のキアラにはもう、祈りの対象など無いのだが。
まさか今さら、ダキニ天にでも救いを求めろとでも言うのか。
目前に現れた理不尽の権化を相手に……“中世騎士道物語”から飛び出してきた、伝説の騎士王を相手に。
※
──反省点はごく単純、仮にやり直しが許されるならば、簡単に回避できる事象。
殺生院キアラは……藤村大河という女性に、手を出すべきでなかった。
大河は“奇運”とでも言うべき性質の持ち主であり、自分自身は致命的な事態からスルリと潜り抜けてしまうという、実に奇妙な運命の下にある。
故に大河を巻き込むならば、身内を理由とすればいい……“ちょっとした嫌がらせ”の為に、大河の子供の病気を理由にして、己の教団への入信と、その延長としてかつての身内と“少しだけ”争うように“お願い”せんとした時、既にキアラの死刑執行は済んでいた。
「あっ、あっ、あぁぁっ♥ し、知ってる♥ あたしっ♥ あんっ♥ このおちんちん、知ってるぅぅっ♥ き、気持ちいいっ♥ 好きっ♥ あ、あうぅぅっ♥ せ、セイバーちゃん♥ そうセイバーちゃんの、おちんちんだぁ♥」
「ふふ……大河、子供を産み落としてもあなたは美しいですね。いいえ、今があなたにとって最も綺麗な時間なのです……あなたは生きているだけで、最高の輝きを更新し続ける。桜の儚いから煌めく美しさとも、凜の苛烈なようでいて繊細な美とも、あなたの纏う野生の美しさは違っている……もう、二度と手放しません」
「あっ、あふぅぅ……んっ♥ んちゅっ♥ ちゅぴっ……♥ き、キスしながら囁かれたら♥ し、信用しちゃうからね♥ あなたなら、何もかもうまく成し遂げちゃうって……信じちゃう、からねぇ♥ んんっ♥ ごめん、背中に爪立てちゃうっ♥ た、立って、られなくてぇ♥」
「良いのですよ、ここまであなたの元に駆け付けるのが遅れた、その罰を刻んでください……その間に、もう一度あなたのナカを私の形に戻さないといけませんね、可愛い大河……♥」
目の前では、大河と金髪の少女が、キアラなどまるで存在していないように、心から思い合って睦みあっている。
キアラの知る大河の表情は暗く沈んだものか、キアラの言葉に絡めとられていく無表情だけなのだが、これほどまでにこの女性は美しかったのかと……まるで野生の虎が番にだけ優しさを見せるような、そんな表情を瞬かせるのかと、そう思い知らされる。
平素のキアラであれば、目の前で行われている性交に自ら混ざりに行くくらいのことはしたかも知れない。己の快楽の経験値に、キアラは絶対の自信があったし、それは無根拠なものではなかったからだ。
けれど……おのれが作り上げた教団と、その拠点となった施設を“物理的に”すべて灰燼に帰された今、キアラにそんな気力は湧いてこなかった。
「射精しますよ、大河……♥ あなたの子供に妹をこさえてあげますからね♥ 私と大河の子供として、強く優しく育てましょう……♥ あなたは永遠に私のモノです、大河♥ 次元が違おうと、世界を超えようと♥」
「あっ、あぁぁぁぁっ♥ 出てるっ♥ せーし出てるぅぅっ♥ お、女に戻っちゃう♥ 雌の表情でるぅぅぅっ♥」
とくとくと大河の中に精液が注ぎ込まれ、舌を突き出すようにしてアクメを決める乙女。
あまりにも美しい光景。あまりにも幸せな情景。ただ快楽を貪り、他者を餌としてきたキアラが、恐怖すら覚えてしまう……美しい輝きが、その性交にはあった。
けれど、キアラはただ怯えるのではなく、この時に気付くべきだったのだ……一応、セックス慣れしているのだから。
射精は、性行為において一区切りであると。
「……それで」
ぐるんっ! と金髪の乙女──セイバーと呼ばれた少女が、キアラへと首を向ける。
もうとっくに、何もかもを決めてしまっている目だった。目の前にいる存在を、どのような理由があろうと障害があろうと滅ぼし去ると、決定してしまっている者の目だった。
キアラはかつては常に傍らにあり、強く賢くなったと思い込んで忘却していたものを、この瞬間に思い出していた。
彼の者の名は、恐怖。誰の中にも住まう、根源の感情。
「我が妻、藤村大河に手を出したのです……明確な害意を以て傷つけ、苛み、相争わせようとしたのです。覚悟の時間は与えたつもりですが、お祈りは済みましたか? 私はカソリックなので、残念ながら仏教の祈りには詳しくないのです」
「あ、あなた、様は……?」
「……知っているはずでしょう? あなたが観測した光景の中で、既にセラフにアルキメデスが細工を始めていたはずです。“その未来”の私は、既にプログラムの世界で活動していたはずですよ……」
……知っている。
不要な情報だと流すように観測しただけだが、確かに平行世界のヴィジョンとしてみたのだ。
星を食らい、知識を啜る宇宙存在を恐怖させる、赤と青の競演を。その時の彼女は、騎士を思わせる甲冑姿だったはずだが。
「──アルトリア・ペンドラゴン。あ、アーサー王……!」
「正解です。そして、さようなら」
セイバー……アルトリアの腕が伸ばされる。
キアラは己の中に芽生えていた全能感を含めた、何もかもを投げ捨てて逃げ出した。
※
「あぁぁぁーっ♥ や、やめてくださいませぇぇぇつ♥ んおっ♥ んおぉぉぉーっ♥」
ぱんっ♥ ぱんっ♥ ぱんっ♥
激しく背後から突かれる度に、勢いよく愛液が秘所から噴き出し……その度にせっかく構成した電子情報が、魔性菩薩としての己が、消えていく。潮吹きと共に、少しずつ少しずつ“排泄”されていく、そんな感覚……絶対の自信を持っていた性交で以て、キアラはじわじわと“処刑”される最中にあった。
「やめろ? あなたは私の大河に手を出したのですよ? 清らかで、優しく、我が正妻・桜の心を救ってくれた慈愛の乙女……藤村大河の生に汚点を刻もうとしておいて、や・め・ろ? ふざけるな、そのまま薄汚い寡欲ともども、地面の染みとして消え入るがいい」
「あひぃぃぃぃぃぃっ♥ やめでぇぇぇぇぇぇぇぇっ♥ 消えたくなっ……ぎえたく、ないぃぃぃぃぃっ♥ いぎぃぃぃぃぃっ♥ お゛ほぉぉぉぉっ♥ またでゆっ♥ おマ〇コからびゅーしてじぬぅぅぅぅぅっ♥」
どれだけ耐えようとしても無意味だった。
性行為において妙な自信を抱いていたキアラだが、最強の性とも言われる両性具有を相手にしたことは、情けないことに一度も無かった。
その中でも最強クラスのアルトリアに背後から突かれる度、絶頂は抑えきれずに何度も到来し、キアラの中に構成された“ビースト・殺生院キアラ”が削り殺されていく。
低俗な文化も知識として収集する中で、その単語についてキアラは知っていた。自分はそれを、もたらす側だと思っていた。
──デスアクメ。
「ひあぁぁぁっ……や、やめてくださいませぇぇ……♥ ぎもちよすぎてっ♥ あだまやけるぅぅ……は、反省しますっ♥ 生涯をかけて自分が迷惑をかけた人たちに♥ 謝罪と補填を行いますからぁぁっ♥ もうパンパンしないで♥ セックスもう嫌なのぉぉぉっ♥」
「……そうですか。なら、安心ですね」
許された、完全に消されずに保たれた。一瞬だけ、キアラはそう思った。
「なら、安心してその体から消え去るといい……自己愛の獣、私の大河の敵」
「えひっ……?な、なんで……ゆるじで、くださるのではぁぁ……ほひっ♥」
「気付いていないのですか? お前がそんな殊勝な言葉など、演技でも口にするはずがないでしょう。今のはお前が発した言葉ではなく……薄汚い寡欲に押し潰されて消えかけていた“本物”の殺生院キアラの言葉ですよ」
それは、人格の主客転倒が起こりかかっているということ。
完全なる消滅を前に、セイバーがゆっくりと腰を引く。最強のピストンが、来る……!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 誰か、誰かたしゅけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「おらっ♥ 排泄♥」
「ぴぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ♥ んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおっ♥」
子宮の最奥、女にとっての芯をボコ殴りされ、薄汚い“染み”がすべて排泄されて地面の染みになっていく。
後に残るのは、セイバーの手の中で優しく抱かれ、アヘ顔を晒しながらも明らかに“浄化”されたのが分かる、殺生院キアラ……心優しきセラピストの、本来の姿だけであった。
追ってきたのだろうか、それとも最愛の相手が分かるのか。大河がセイバーの背中から抱き着く。
セイバーは守り切った乙女と救い出した乙女を、交互に撫でて力強く微笑んだ。
※
「──じゅるるっ♥ ちゅぽっ、ちゅぽっ……♥ セイバーちゃんのおちんちん、おフェラするの幸せぇ……♥」
「私も大河にチ〇ポ舐めてもらうと、心まで洗われるようですよ……お子さん、いえ、私と大河の子供の具合はどうです?」
「もうすっかり元気♥ セイバーちゃんって、本当に何でもできるのね♥ 神様みたい♥」
「今回は姉上を頼ったので、私の力ではありません。けれど、本当に良かった……これからは責任を取って、あなたがおばあちゃんになるまで、家族そろって愛し抜きますからね、私の大河♥」
セイバーの雌チ〇ポを愛し気にしゃぶり上げる大河と、その髪をさらさらと撫でるセイバー。美しい、婦婦の情景がそこにある。
その傍ら、セイバーの新たな嫁となった清らの乙女……殺生院キアラが、腰をヘコつかせて伴侶へと懇願する。
「セイバー様ぁ♥ 大河様ばかり可愛がるのは、殺生ですぅぅ……♥ どうかキアラのことも愛してくださいませぇ♥ あなたの妻として、この体のすべてを捧げますぅ♥」
「焦らなくても構いません。時間はゆったりとあるのですから……おいでなさい、私のキアラ」
呼び寄せられたキアラは、大河と共に仲良くセイバーの雌チ〇ポを舐めしゃぶり、時おり舌を絡め合わせる。
これからの贖罪の日々も、セイバーと大河が傍に居るのなら、きっとキアラは超えていけるだろう……。
屋根が高い
2023-12-03 08:20:35 +0000 UTCソウシップ
2023-12-03 08:18:17 +0000 UTC