それは人間の言語を模してはいるが、既に相互理解の手段としての役割は放棄されている。
同族の声を真似て、餌を間近に寄せる野生動物の“狩り”のように。
そこには感情も記憶も反映されているが……もはや通常の生命が持つ“意志”はない。
「寒い...…苦しい...…あたしの...ごちそぉ……ど~こ~……?」
「誰か~……誰か開けてぇ~……誰かぁ~……」
病棟と思わしい建物の中を彷徨する二体の影。
片方は、かつてレイチェル・フォリーと呼ばれていた頃の面影を残しているが、感染した“T-abyssウィルス”が細胞膜と融合する際に、変異のため過剰に水分を吸収させた後、浸透圧で異常に膨れ上がらせ細胞膜と溶けるという過程を繰り返した結果、白い軟体状の異形へと変貌した存在だ。
もう片方は、病棟に居ることに関してはレイチェルよりは説得力のある、看護師のような恰好をしており、こちらも生前の河辺幸江と呼ばれていた頃の特徴を残してはいるものの、その頭部からはナマコやフジツボのような海洋生物を想起させる“露出した脳”が張り付いた姿へと変わっている。
「ちょうだぁい..….血液をちょうだい~……」
「誰ですかぁ? 出てきなさいよぉ、いるんでしょお……」
もはや“二人”と数えるべきではない異形の乙女たちは、並ぶようにして病棟の中をさ迷っているが、互いに何某かの干渉を行うことは無い。
レイチェルは“ウーズ”と呼ばれる変異B.O.W.(有機生命体兵器)と化しているのだが、急速な変異によって大概に浸透圧で水分が排出されてしまっており、潤んだ軟体の体を持ちながら感覚としては常に“乾いて”いる。故に本能に従って、生物の血液を吸収しようと行動するのだ。
しかし、傍らの幸江は体内に入り込んだ“赤い水”によって屍人と呼ばれる存在に変貌しており、体内を循環する血液はウーズの求めるそれとは異なってしまっている為、レイチェルは幸江を無視している。
対して屍人が人を襲う理由も、自分が見ている天上楽土の如き光景を共有しようとする善意である為、人間から外れてしまった化け物に対しては、冷徹に切り捨ててみせていた。
そもそもレイチェルは、地中海の洋上を漂う豪華客船クイーン・ゼノビア号にて発生したバイオハザードに巻き込まれ、異形の存在へとなり果てたはずであり、幸江も看護師を務めていた羽生蛇村で儀式の生贄として殺害され、赤い水が体に入り込んだことで変異したはずだ。
二体がうろつきまわっている病棟は、船上に設置できるようなサイズではなく、また羽生蛇村の診療所とはまるきり規模が異なっている。自分たちはどこから来たのか、どこをさ迷っているのか……正常な人間ならば悩ましく感じることを、彼女たちが思考することは無い。
「もっとぉ..….あそんでぇぇぇえ……!」
「手術始めまぁ~す……!」
二体が求めるのは、生きた人間、ただそれだけ。場所も、環境も、もはや気にすることは無い。
白い粘液と赤い水を垂れ流しながら、廊下を穢して歩き続ける異形たちの前に……こつこつと足音を鳴らしながら、颯爽と白衣を纏う影が現れたのは、その時だった。
「……ぅあ」
「……えぅ」
それまでは生前の記憶を真似た“鳴き声”を挙げていた二体が、思わず詰まる。
それほどまでに、二体の前に現れたのは美しい人であった。
手術のを考えてのことなのか、ボブカットにして方よりも上で揃えた髪。背はアメリカ人であるレイチェルと並ぶほどに高く、白衣の下にはぴっちりと体のラインが出るボディスーツのようなものを身に着けている。
顔立ちは怜悧で、異形の怪物たちを前にしながら、まるで焦りや恐怖を感じさせない。しかし、無感情という様子でもなく、二人を見比べて悼むような視線を向けても居た。
生前はレイチェルも幸江も、自分の美貌に関してはそれなりに意識していたが、謎の女医の容貌はそれらに並ぶほど麗しい。
何よりも女医の全身を覆う、何処か超然とした雰囲気が、彼女をただの美女ではなく“高嶺の華”として完成させているかのようだった。
名札がズレて横を向いてしまっている為、名前については確認できなくなっている。
「ぜったい、ころすぅ...…!」
「暴れると、もっと痛くするわよぉ~……!」
レイチェルも幸江も異形の存在、もはや人の規範で行動することは無い。しかし、それでもなお、女医に向かって同時に襲い掛かる姿は、嫉妬に駈られたかのような情念の感じ取れるものだった。
レイチェルの髪だった部位がどりゅりゅりゅと回転を加えながら女医の体へと突き刺さり、幸江は狂暴性を露にして爪から赤い水を滴らせて女医の顔を引っ掻く。
内臓がまろび出て、眼球がほじくり出される……そんな光景をレイチェルも幸江も想起していたはずだ。
「……あ、れぇ……?」
「なに……どこに、隠したの……?」
ボディスーツが何か特別な素材であれば、レイチェルの攻撃が硬質な輝きを放つ薄布で阻まれている理由は分かる。
けれども、幸江の肉体のリミッターを取り払った爪での一撃で白い線が入ることすらなく、無論のこと赤い水が体の内側に入る様子が無いのは、明らかにおかしかった。
「──診察完了。アンブレラ社のウィルス兵器と、堕辰子……いえ、蚕子の血液による影響だと判別。治療を開始します」
屈強な特殊部隊の兵士や訓練を受けた対バイオテロ部隊でも、一撃で吹き飛ぶようなレイチェルの猛攻も、精神を確実に苛み侵食していく赤い水の浸透も、まるで影響を受けて居る様子のない女医は、素早く白衣の内側から注射器を二本取り出すと、子供が大人にじゃれつくように夢中で攻撃を繰り返しているレイチェルと幸江の首筋へと突き刺す。
幸江はまだしも、レイチェルは完全に形状が人間から離れてしまっているにも関わらず、正確に注射針は静脈を捉えており……二体の体を循環するウィルスと赤い水に混じるように、薬液は全身を巡っていく。
「えぎっ……えひっ……お゛……お゛ぉぉぉぉぉぉぉっ♥ チ〇ポぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥ ふざけ、ないでぇぇ……お、おちんちん……♥」
二体の股間からは、これまでは存在していなかったはずの雌チ〇ポがビキビキと屹立しており、どちらも体内の血液が減少している状態で勃起を引き起こしていることから、忽ちに行動は胡乱になり、よたよたと体を揺らし始める。
そっと女医が手袋を装着する。手術の際などに、清潔性を保つためのものか……そう思われたが、手袋の内側が大量のゴム製のぼつぼつが付いていた。
「人体に有毒な成分を“瀉精”します……なるべく、耐えてください。苦しかったら、手をあげて知らせてくださいね」
まるで子供に言い聞かすように淡々と告げると、女医は二体に備わった極太雌チ〇ポを鷲掴み、ゴム手袋の摩擦のままに擦り上げた。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥」
「えひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♥ んおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉっ♥」
竿を擦り上げる、ゴムの質感。敏感な部分に食い込んで刺激する、無数の突起。それに加わる、女医の繊細ですらある手の動き。
忽ちに二体はチン先から大量の精液をびゅくびゅくと噴き出し始めるが……吐き出される精液は、色合いが通常のものと異なっていた。
黄色の混ざる不潔な白濁ではなく、レイチェルの方が灰色に濁って磯臭い香りが強まっており、逆に幸江のそれは薄まってほんのりと紅に染まっている。
ウィルスと赤い水を、搾り出している……端から見れば、そんな信じがたいことが見て取れるが、当然ながらこのような治療法は、まだ何処でも見つかっていない。
「やべてっ♥ おぢんぢん、いじめないでぇぇぇぇぇぇぇっ♥ ああ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥ ゆ、ゆるざなっ……ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♥ お゛ぉぉぉぉぉぉぉぉ~っ♥ くしゃいミルクでゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♥」
「ひぎっ♥ いひぃぃぃぃぃぃ~っ♥ ひゃはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥ ば、馬鹿にしない、で……お゛ほぉぉぉぉぉぉぉっ♥ 犀賀先生思ってするよりきもちーのぉぉぉぉぉぉっ♥ やらっ♥ ああぁーっ♥」
二体がどれほど泣き声に似た声音で懇願し、自然と頭の後ろで腕を組んでへこ♥ へこ♥ と無様腰ヘコしてしまっても、女医は手コキを止める様子はない。
それどころか、これまでは加減していたとでも言うように、チン先をぐりぐりと指で弄ってみせたり、余り皮の中に指を突っ込んでチンカスほじったり、睾丸を優しくふにふにと揉みあげてから竿をぐしゅぐしゅと激しく前後させたりする。
二体の声はどんどん明瞭になっていき、明確な自意識の籠ったものへと変わっていく。信じがたいことだが、完全にクリーチャーへと変貌したはずの“二人”に……人間性が取り戻されていく。
床や壁にまき散らされ、時に天井まで届くぶっこき精子の色も、どんどん通常の白く濁ったザー汁ミルクへと変わっていく。
「あぁぁぁぁ~っ……♥ おちんちん、もうやべてぇぇぇぇぇ……す、すきになっちゃう♥ やさしくシコシコくせになるぅぅぅ……♥」
「ほぉぉぉぉっ♥ ふほぉぉぉぉぉっ♥ こんなのらめぇぇぇぇぇっ♥ しゅきっ♥ チンコキよちよちしゅきぃぃぃっ……♥」
レイチェルの体を覆う白い粘膜がどろどろと流れ落ち、露出していた幸江の疑似脳がぽろぽろと乾いて地面に転がり始める頃、女医は自らがこくんとカプセルのようなものを呑み……ぼちゅんっ♥ と可塑性持ったボディスーツの中で爆乳化する。
レイチェルの片目も、疑似脳が取り払われて露出した幸江の瞳も、むっちむちのドスケベおっぱいに釘付けになり、むわぁぁぁぁ……♥ と密閉されたボディスーツ越しですら抑えきれないミルク臭に腰ヘコする。
じぃぃ……とボディスーツが降ろされ、どりゅんっ♥ と流体の如き勢いでぱんぱんに母乳で膨れた豊乳が露になり、二人の口へと無理やりねじ込まれた。
「んほぉぉぉぉぉぉぉっ……ミルクうまうまぁぁぁ……♥ ひぎっ、んぎゅっ♥ 授乳されながらの手コキすごいっ♥ すごいのぉぉぉっ♥」
「あぁぁぁぁぁぁっ♥ 欠けてたものが……戻る、みたいぃ……♥ おいちっ♥ ミルク、おいちぃ……♥ 好きぃぃぃっ……♥」
たらふく母乳を飲まされる度、喉がごくりと嚥下する度に、二人の体色は人間のそれに近づき、匂いが甘い女性のそれに変わっていき……遂には雌チ〇ポを生やして「さわって♥ さわって♥」しているだけの、美女二人が残されるばかりとなった。
まるで赤ん坊のように女医の胸に吸い付き、手コキが終わった後も懸命に太腿へおちんちんを擦り付けて好き好きアピールをするレイチェルと幸江は、完全に恋する乙女に戻っており……女医は二人の頭も撫でてやりながら、何処までも冷静な声で「──施術、終了」と宣言するのだった。
※
「レイチェルさん、書類は出したらしまってくれない? 整理整頓の概念がないの!」
「あーもう、うるさいなあ、ユキエは。気づいた人がしまえばいいでしょ? ガミガミ言わないでよ」
「……それじゃあ、先生が見つけて、あなたの好感度が下がってもいいんですか」
「……ごめんなさい、それは困る」
レイチェルはいそいそと書類をしまうと、幸江に「ごめんね?」と言いながらキスを落とし、舌を絡めて甘い唾液を飲み込みながら「んふっ……いいんですっ……♥」と仲直りする。
コンドームの先がパンパンに膨れたチ〇ポ同士がちゅっ♥ ちゅっ♥ とゴム越しに濃厚キスを繰り返すが、休憩時間までは何とかゴム一枚で我慢したいところだった。
レイチェルと幸江は無事に人間に戻り、ついでに女医と互いのことが大好きなふたなりレズビアンになったのだが、レイチェルは2005年、幸江は2007年に死亡あるいは失踪したことになっており、既に十年以上の時が過ぎている。
羽生蛇村は災害で滅びてしまったようだし、古巣のFBCも本国で解体されてしまった。
仕方なく……というのは建前で、二人とも女医のお嫁さんになる気満々なので、ノリノリで……女医の手伝いをする為に看護師と助手、レイチェルは時どき露払いを務めることになった。
この病院を訪れるのは、常識を遥かに超えたような“症状”の患者ばかり……その治療は、いずれも死闘と言って過言ではない。
女医は淡々と死線を潜るような治療を繰り返しており、驚くべきことに二人に対する行為も完全に治療と割り切ったもので、恋愛感情や性欲は微塵も混じっていなかったらしい。
「恋人ですか? わかりました、お付き合いしましょう。二人とも、私には勿体ないほど器量よしさんですし」
……告白したらそう言ってもらえたので、善しではあるのだけれど。
「それにしても、先生って何者なのかしら? この二十年近くブランクがあるとは言え、女性を両性具有にする技術なんて大革新過ぎるわ。なんで先生、ノーベル賞を取ってないの?」
「──二人に投与してしまった物への評価としては問題があるかも知れませんが、それは“失敗作”だからです」
「失敗作?」
レイチェルと幸江がおちんちん相撲しながらディープキスをしているところに、相変わらず平静な表情をした女医が現れる。
ただ、これまでと違い……少しだけ彼女は、遠い目をしていた。
「本来は、両性具有で“無くす”為の薬品を研究していたのですが、残念ながら強壮な両性具有者に有効な薬物は作れませんでした。だから、失敗作です」
「ふたなりで、無くす? 究極の性とか、今の世の中では謂われて持て囃されてるんでしょ? どうして、そんな……」
「──妹の為です。彼女は両性具有の体に、ずっとコンプレックスを抱いていて……“普通の女の子になりたい”と、よく私に泣きつきました。結局、あの子は自分でそれを乗り越えてしまって、私は妹の“治療”をすることはありませんでしたが……それでも“普通の女の子になりたい”という願いを、何処かの誰かが叫ぶなら叶え続けようと、こうして医者になりました」
「先生……」
レイチェルと幸江が、性欲抜きで支えたいと、その身を寄せる。
女医は本当に……恋人になった二人が辛うじてわかるくらいに、薄く笑ってみせた。
「ありがとうございます、二人とも……さあ、次の患者が待っています。治療にかかりましょう。十五年近くHIVの闘病に励み、AIDSを発症してから三年間は、メディキュボイドから一度も出ていない少女──必ず私が“普通の女の子”を取り戻して見せます」
そう言って女医は、胸の“伊歩原 真澄”と刻印された名札の位置を直すと、颯爽と歩きだした。
屋根が高い
2023-12-17 08:58:22 +0000 UTC屋根が高い
2023-12-17 08:56:10 +0000 UTCソウシップ
2023-12-17 08:54:48 +0000 UTCとろがけ
2023-12-17 08:41:57 +0000 UTC