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ミズニフェイム閉塞戦記~女王ハウメア、その虚無と顛末

※SKEBにてオリジナル作品のリクエストを頂きました!

 PIXIVの方でやっている「ルズワーレ王国史」シリーズの流れを汲む作品をというご依頼、その第2段となります!

 前回のお話はこちらです、是非下記からどうぞ!

(https://fallen02side.fanbox.cc/posts/6750387)






 ──忘れ去られるような遠い昔か、それとも似通っているだけで近くも異なる世界か、ともあれ似たような境遇のお姫様は居たらしい。

 環境が彼女の好悪の全てを作り上げ、しかし、そこに彼女が選択する余地はなく。

 すべての罪を背負わされ、陵辱と蹂躙の中で消えた、言語道断の極悪国家消滅の象徴。

 だが、致命的に“似ている”彼女が大きく異なっている点があるとすれば……本来なら僅かな希望であったはずの、母親からしてろくでもなかったという、下方修正だろうか。



 ──じょぼじょぼと、体に小便が降り注いでくる。

 何度も何度も問いかけられた『どんな気分だ?』という言葉に、しかし彼女は……ハウメア・ミズニフェイムは答える言葉を持たない。

 肉体的に辛いのは間違いないし、そろそろ身体の機能が制御を失っているらしく、異様に汗が出たり涙が勝手に零れたりする。

 小便、愛液、潮噴き、そして時どき「どの面下げて」と言いたくなる、男たちの精液。

 それらが降り注いでくるから、脱水症状で死ぬことはないが……どの道、既に生命として弱り切っている体には、未来などありはしない。

 そもそも、未来なんて最初からあったのだろうか。生まれた時から、思考することも学習することも成長することも望まれなかった、存在の意味が世界一怪しい女王になんて。


「(痛いことをされるのは嫌だなって思う……苦しいのも嫌だ、寒いのも辛い。けれど、そもそも“好き”が何が何だか分からないから、私は“イヤ”は分かっても“嫌い”はわからないんですよね)」


 ありとあらゆる分泌物で穢し尽くされた体を晒し、彼女を辱め苦しめる為に次々に人が訪れる状況で、死を前にしても割とハウメアは冷静な思考が出来ていた。

 むしろ生まれた時から……生まれる前から思考することを望まれていなかった身。

今さらながら、ぐるぐると答えの無い問いに胸の内で問答してみるのは楽しくすらあった。

『どんな気分だ』にすら、解答出来ないのだけれど。

 ……例えば、立ち入り禁止を示す立て看板があったとする。

 それが無数に、一つや二つではなく張り巡らされるように立ち並んでいたとしたら、恐らくは懸命な者ですら奥に何があるのかを気にしてしまうはずだ。

 禁忌を設定するのならば、加減がいる。恐らくハウメアの育成に、何らかの方向性を付けようとした何処かの誰かは──致命的なレベルでこれが下手だった。いや、上手い下手ではなく根本的にできていなかったと言った方がいい。

 何しろ母親の腹の中に居た時から、ハウメアは「異性愛は素晴らしいものだ」と教え込まれてきた。

 胎教という、今の時代においては宗教にも近いような一種の儀式によるものだったらしいが、その教育が洗脳に近い熱狂を帯びれば帯びる程……立ち入り禁止の立て看板の奥に“何か”があることを悟ってしまう。


「(その“何か”を覗きたいと思っている訳では無いのです。そちらの方が正しいと、そう思いたい訳でもない。けれど、奥に何かあるという事実を糊塗できないのに、禁忌への憎悪だけを煽られれば……どうしようもなく、欺瞞は感じてしまうものでしょう?)」


 いくらでも自然に思考や嗜好を誘導する方法はあっただろうに、狂ったように思想と示相を植え付けられて、しかも気付いた時には他人の婚約者を好きなのだと周囲に認定されていた。

 ハウメアはそれを否定しなかったが、何処が好きかという具体例も挙げられず、何故好きになったかという劇的なエピソードもなく、加えて妄信せよ妄信せよと繰り返されてきた異性愛に絡む事象とくれば……もはや信用する方が難しい。

 これは勝手な想像なのだが、ハウメアは“何処かの誰かの焼き直し”であることを望まれているのだと思う。状況を変えて再現しようとしている方が近いのかもしれない。

 けれど残念なことに、それを計画している誰かは恐らく、何処かの誰かへの理解度が致命的なレベルで低いのだと思う。だから、こんな小娘にすら見透かされてしまうのだ。


「(……見透かしたところで、私にはそれ以外なにもなかったのですけどね)」


 異性愛を至上とするこの国が何かを懸命に隠していて、ハウメアは個ではなくかつて居た誰かさんのリフレインであることを求められていて、胸に宿る恋心は何処からどう見ても人工物の輝きを放っていた。

 それでもハウメアは異性愛至上主義国家のお飾りじみた女王でいなければいかなかったし、自分の喉から漏れ落ちることにどうしようもない違和感を覚えながら“ヒトヒナ”と呼ばれる同性愛者たちの差別政策を母から受け継いだし、彼……ゲラウス・ギールに対しては好意を示して振る舞うことしかできなかった。

 だって……中身に他のものがないから。

 自分を満たしているものが、どうしようもない欺瞞に満ちていると分かっていてもなお、配られたカード以外でゲームは出来ない。

 結果として、ハウメアは史上最悪の同性愛差別国家ミズニフェイムの君主として、怨念滾る元ヒトヒナ……同性愛者たちと、お前らは何処でそんなもの溜めてたんだと問いたくなる「鬱憤を溜めていた」と主張する男性たちの慰み者のなりながら、今に至る。

 この結末は、ハウメアの元になった何処かの誰かも通ったのだろうか。このまま干物のようになって死ぬことが、ハウメアの産みの親でも育ての親でもない“運命の親”の望むことなのか。何もかも分からない。


「(……オルシア様がこの国を裏切ったのは──彼女の自由意思によるものなのでしょうか。そうだったら、いいな)」


 今でもハウメアの胸の内には、ミズニフェイムという国が欺瞞であることへの確信はあるのに、憎しみや怒りは無い。それらを注がれなかったからだ。知識としてはあっても、感情として処理が出来ない。

 けれどオルシアは……レモイーサ姓を捨てたと言い放った、ミズニフェイムの元最強の姫騎士は、ミズニフェイムという国への激しい憎悪を燃やしているように見えた。国を、育ての親を、元婚約者を憎み、怒り、嫌い……体に卑猥な同性愛賛美の落書きをして、秘密通路から脱出しようとしていたハウメアの前に現れたオルシア。

 ハウメアは、本来なら絶望の悲鳴を上げて腰を抜かし、失禁の一つもするべきだったのだろうが……オルシアの姿を見て、思わず笑顔がこぼれてしまった。


「(ああ、なんだ……“こう”すれば良かったのか──そう、希望を感じたから)」


 意識を失い瞬間、オルシアが誰かと親し気に話しているのを聞いた。対等な相手との会話、相手は女性だったように思う。

 オルシアは欺瞞だらけのミズニフェイムから飛び立った。ハウメアは、この国の“中身”として朽ちていく。それが、運命。明確な分岐点。

 すべてから憎悪され、何もかもから嫌悪され、森羅万象から軽蔑され……何にもない空っぽの器の中に、それらを抱えて逝くことで、多分ミズニフェイムという国は真の意味で消滅するのだ。

 新たな人物が、ハウメアの元へやって来る。最初の三日間はハウメアの蹂躙に長蛇の列ができる程だったが、今は夜ともなればほとんど人が訪れることはない。

 ハウメアは、証人と思わしい女性に向かい、ぎこちなく微笑んで見せる。それはもう、自分の体が制御できていない今、どんな意味があるのかも自分で考えることのできない、反射のような動きであった。

 ──これが“無能女王”ハウメア・ミズニフェイム失踪の前日の出来事であり、彼女と生涯を共にする商人……リンス・ケイプとの出会いだった。



 ──若き騎士団長オルシア・レモイーサが姿を消したと聞き、リンス・ケイプは商売の為にミズニフェイム王国を訪れることにした。

 異性愛を神聖視する……むしろ異性愛への賛美が強すぎて逆に貶めているのではと疑問に思うこともあるミズニフェイムは、レズ寄りのバイ気質であるリンスにとっては忌避すべき土地であった。

 そんな狂った恋愛脳国歌にわざわざ訪れようと思ったのは、武器や兵器の類が大量に売れるだろうと思ったからだ。


「(無敵の騎士団様が、反乱分子を追ったまま姿を消して三か月……無敵を誇ったミズニフェイム騎士団も、今や複数の外敵の猛攻によってボロボロだと聞くわ。この状況なら、言い値で武器や防具が売れることでしょう)」


 両性愛者であるリンスにとって、ミズニフェイムから金を巻き上げてやることは、なかなかに痛快なことであったし、何より大きな儲けが期待できた。どうせ“西国”が本気を出せば、今のミズニフェイムなど塵芥の如く踏みつぶされることだろう。その前に搾れるだけ搾り取ってやろう……売った武器が奪う命の数など、戦乱に喘ぐこの大陸で数えていれば瞬く間に干上がってしまう。


「(大体ミズニフェイムは、そんなお優しい商人だった私の母さんを、西国と取引があるという理由だけで処刑し、財産は何とかというハゲに接収されたと聞いているわ……自分で処刑台の刃を磨いたことを、自覚するといい)」


 母から商会を受け継いだリンスにとって、ミズニフェイムに私財を吐き出させるのは“復讐”まで兼ねる完璧な自慰行為なのだ。

 準備を終えたリンスは、馬車を駆りミズニフェイムへと急いだ。

 ……しかし、歴史の流れる速度というのは、商人の健脚をも上回るものだ。

 リンスが旅を初めて三日、ようやくミズニフェイム領に入り、関所でのチェックにセクハラめいたものが混ざり始めた……バイだからギリギリ耐えられるが、純正レズビアンの商人なら嘔吐するレベル……頃、電撃的にオルシア将軍が反乱組織“ヨツンセスク”に寝返ったことで、ミズニフェイムは信じがたいほどの超速で以て滅びてしまったのである。

 儲け損ねた形になったリンスは、しかし女王ハウメアが慰み者にされているという話を聞き、ここまで来たのだからと観光も兼ねて首都イオキスを目指したのである。

 巨大国家が滅びた後とは思えないほど、関所での対応は実に丁寧でこまやか、当然だがセクハラも無い。

 訪れたイオキスの街も、徹底的な破壊や略奪の後はあれども、同性同士で手を繋いだり腕を組んだりする者があちこちに見られ、また異性愛者が逆に差別されていたり、男性が貶められたりといった様子も見られなかった。


「……本当に、これ戦後?」


 治安の回復には西国や複領海連盟も協力したということで、あと数日もすれば残る火種を全て掻き消す為に“世界の姫騎士”から戦姫たちが送られてくるだろう。

 地獄のような略奪や蹂躙が今も続いていると思っていたリンスはなんだか拍子抜けして……そして、自分の中に「ミズニフェイムが酷いことになっていて欲しかった」という想いがあることに気付き、何ともバツの悪い苦笑を浮かべた。


「(母さんのことは、割り切ろう。“ヨツンセクス”だかという組織が、敵を討ってくれたと思うことにする。“目覚めた人”オルシアに感謝したっていい……女王ハウメアを一目見たら、元のクールな商人に戻るのよ)」


 しかし今さら女王を陵辱したいという気持ちにもなれず、昼間のあいだは飲んで時間を潰すことにしたリンスは、そこで意外な指摘を受けることになる。


「──もしかして姐さん、両性具有の人?」

「……驚いたわね。元が付くとは言えミズニフェイムに、両性具有の見分けがつく者がいるなんて」

「同胞にしか分からないことだからねえ。ふたなりは、歩き方に特徴が出る……お姉さんはアタイと同じ、任意に生やせるタイプだ。竿や玉は常時生えてるのと比べると控えめだけど、小回りが利く」


 人懐っこい様子の少女と意気投合し、リンスは夜まで飲むことになった。少女は名を、ウラールと名乗った。


「──それで、姐さんは女王を一目見たら、再び旅の途上って訳だ」

「まあ、そのつもり。私にとっても、ミズニフェイムは悪い意味で意識していた国だったから……その崩壊をきちんと受け止めれば、前に進んでいけるかなと思ったの」

「……この国は、女王ハウメアのせいでおかしかったと、姐さんは思う?」


 急にウラールの口調が少し変わった気がした。リンスは疑問を感じたものの、苦笑と共に「まさか」と零して、酒を煽る。

 生来リンスは、ノリはいい方だ。今のイオキスは言論の自由(ついでに恋愛の自由)が確保されていると考え、ウラールに向かって小さな小箱を取り出す。


「それは?」

「結婚指輪。常日頃から、プロポーズに相応しいだけの指輪は持ち歩いておけと、母の教えなの。指のサイズもあるから、五つは持ち歩く羽目になってるけどね」

「それはすごい。姐さんは愛に生きる人なんだね」

「彼女、いないけどねー……母さんは昔、なにかの理想の賛同者として西国と交易してたんだけど、例の“使節団”の件で西区へミズニフェイムが宣戦布告したせいで、商売は半端に終わって。私のもう一人の母親……この人も両性具有ね……は、西国の人らしいの。それで会えなくなった。それから、行商人やるようになって、口酸っぱく指輪は持ち歩けって……多分、渡せなかったんでしょうね」

「……そちらのお母様は?」

「ミズニフェイムに処刑されちゃった。財産の接収目当てだったみたい。かなり大きな商会だったのに、私に残された分はカツカツよー……この国は昔からおかしかった。女王と関係なくね」


 出来るだけ暗くならないように話したつもりだったが、ウラールはなんだかこちらを真剣に見てくる。フタナリ同士は悪くないが、可能ならリンスの理想はそれなりにセックスはこなれた女性が好みなのだが……。


「──姐さんなら“アリ”かも知れないね」


 もう少ししたら女王ハウメアの元へ案内してくれると言った、ウラールが意味深にウィンクをした。



 ──関所を通ってもほとんどチェックらしいチェックはなく、大抵はハゲ・デブ・短足・悪臭の四重苦のおっさんが飛び出してきては“追加検査”を仕掛けてきたのが嘘のようだ。

 来るときの三分の一程度の時間で、リンスはミズニフェイムから遠ざかっていく。

 時おり後ろの荷台に乗っている“同行者”に「乗り心地は平気?」などと確認するが、彼女が返答することはあまりない。

 単純に体力がまだ回復しきっていないし、リンスが手渡した指輪をじっと見つめていて気付かないことも多い。


「(てっきり、天下のミズニフェイムのお姫様なんだから、宝石も装飾品も思うがままだと思ってた……あんな安物の指輪で、ずっと嬉しそうに……)」


 そう、荷台で身を隠し、婚約者に渡すべく持ち歩いていた指輪を眺めているのは、ミズニフェイム王国の最後の女王ハウメア・ミズニフェイムその人だ。

 髪の毛は心労と激烈な陵辱によって真っ白になってしまっており、胸や尻などは乱暴に使われ過ぎたのか垂れ気味だが、驚くほどにその外見は今以て美しい。けれどリンスにとってその美貌は、彼女を連れての旅路に至る理由という訳ではない。

 ──あの日、陵辱に晒され続けているハウメアの元を訪れたリンスが感じたのは、自分がミズニフェイムに被って欲しかった“報い”は、絶対にこんな形をしていない……という種類の怒りだった。


「(信じられない……部外者の、それも家族の恨みまである私が、この娘が全ての元凶などではないと分かっているのに、ミズニフェイムの民や革命組織がそれを理解していなかったとでもいうの!? ここまでやって……それで何が達成されたっていうのよ!)」

「──どうする、姐さん。その女性は、一応はミズニフェイムの近年の暴走の原因の一つではある。今なら、どんな行為を働いてもあなたを責める人はいない」

「……どんな行為でもいいのね?」

「勿論、殴るでも犯すでも……このままなら、恐らくは数日の命だろうし」

「なら、連れて行くわ」


 リンスの突発的な言葉を、何処かでウラールは知っていたような気がした。

 「本気かい?」などと疑っても居ないのに口にして見せるウラールへ、リンスは自分へ微笑みかけた……何の意味も無いが、あまりにも重い笑みを向けてきたハウメアの指に婚約リングをハメると「これでいいでしょ?」とウィンクしてみせた。

 その後は、まるで準備でもされていたかのようにウラールの支援でハウメアを連れてミズニフェイムを脱出し、こうして旅の途上にある。

 ウラールは最後に「また、いつか」と笑ってみせたが……多分、二度と再会しないのが互いにとっていいのだろう。

 あれだけの手際だ、恐らくはウラールは“ヨツンセクス”の一員……女王の処理を任されていた辺り、幹部格であった可能性すらある。それがわかった後で会えば、ハウメアへの扱いを責めてしまうかもしれない。ただの奇妙な飲み仲間……それで終わるのがいいのだ。


「……川か」


 人気のない、清涼な川に付く。

 ミズニフェイムから出来るだけ遠ざかる為の強行軍だった為、水浴びをした欲求があった。

 ハウメアは容姿が変わり果てているし、まさかミズニフェイムの重臣がこの辺りまで落ち延びているとも思えない。

 リンスは少しだけ、呼びかけ方を悩んだが、仕方なく「あの……」と声をかけた。


「そこに川があるんですけれど……」

「──飛び込むんですか?」

「んぁ? まあ、そうしたら気持ちよいかも知れませんね──」


 直後、まるで雪の妖精のようにハウメアが荷台からふわりと飛び降り、服を着たままで川に向かって走り出す。

 足が弱り切っているので、走り切れずに転倒したが、それでも這いずって川へ向かおうとする。


「ちょっとちょっと! 悪い冗談はやめてよ!?」

「……川で入水しろと、そういう意味では無いのですか?」

「あのねえ、楽しい水浴びタイムだったこと! 仮に私が、貴女に本気で死んでほしいと思っていたとしても! 水死体が目に入る範囲で水浴びしたいっておもうわきゃないでしょうが! サイコか、私は!」


 ハウメアは美しいだけで、本当に虚無を感じさせる表情で以て「すいません、生きていて……」と呟き、そしてリンスに笑いかけてみせる。

 その笑顔が本当に“魔性”と呼ぶべきもので、リンスは直視できずに、代わりに自分の渡した指輪を指して「大事にしてよね」と告げた。

 こう指示した時、僅かな間だけ、ハウメアには生気が戻る。

 どうも彼女は「己は空っぽのがらんどうであり、もはや人どころか生物として失格である」と考えているようで、あの笑みも楽しいからとか嬉しいからではなく、リンスが反応をかえした表情だから浮かべているに過ぎないようだ。

 幸いにもリンスには恩義というか、好意というか、依存というか……とりあえず、特別な感情と執着を覚えてくれているようで、こちらの指示には“ある程度”まで従う。

 厄介なことに、ほんの僅かでも解釈の余地があると、自殺に向かって突撃していくのだが。


「私の中に閉じ込められた、ミズニフェイムの罪と共に消えなければ……それが、私の最後の役目です」

「役目、役目って、誰に強制されてる訳? 国は滅び、重臣たちは討ち死んで、親もいないでしょうに」

「運命、でしょうか。私は、誰かを真似て作られたようですから……その人の後を追わないと」


 どんな教育を受ければ、異性愛者至上主義の国の女王が、ここまで自己肯定感も無く、そもそも“自己”もなく育つのか、恐ろしくなる。

 恐ろしくなる度……勢いで娶ったはずの彼女が、酷く愛しくなった。

 真っ白な髪に水をかけ、すいてやっているとまるで子供の世話をしているような気がする。けれど同時に、散々ばらあらゆる性に犯されてきた体が、リンスの性欲を刺激もする。


「……その誰かってのが誰かも知らないんでしょうが。だったら、自分で誰の後を追うのか、誰のように生きるのか決めなさいよ」

「え……?」

「そうね、私たち商人の間に、もう歴史どころか神話くらいに古い言い伝えがあるの。まだ複領海連盟が出来たばかりの頃に、亡国の姫を攫って、己の妻として生涯幸福にした伝説の商人の話……こことは違う大陸の話らしいけれど、複領海連盟を通してこの大陸にも伝わってる……私たち商人の誇りよ」

「何故です? 滅びたということは……その国は、悪い国だったのでしょう? その姫も、悪い姫だったに決まっています」


 虚ろにぽつぽつと呟くハウメアの首筋に、すっと口づけしながら、「んぅ……」と甘い声を耳に届けつつ、リンスは言う。


「決まっているわ。商人とは一人一人が“王”なのよ。自分の領土の中で、裁量に沿って富を増やし、財を成して、幸福を舞いこませる。そんな私たち商人が、姫を迎え入れることを誉にしないはずがない……私は伝説のように生きるわ、そう決めた」

「え、あ……あうぅっ……」


 弱り切っているハウメアを押し倒すのは簡単で、荷台の陰になるようにしながらも、背中から抱き着いて股間に竿を擦り付ける。

 柔らかな感触を背に感じているのに、股間が熱いもので刺激されている……その状態に、ハウメアは戸惑っているようだった。

 どうやら同性愛者や憂さ晴らしの男たちに輪姦はされたが、ふたなりの相手だけはしたことが無いらしい。


「ふふっ……あなたの驚いた顔、初めてみたかも。可愛いわ、すごく……」

「やっ……う、器を褒めないでください……私は、外面しかなくて……あっ♥」

「いやよ、お姫様♥ もう遠慮しないわ……指輪を渡したのに、死のうとされるなんて完全に甘く見られているじゃない? 思い知らせてあげる……商人のモノになるって、どういうことか」


 既に複数回の性行為を経験している為だろう、ハウメアのそこは驚くほど濡れやすく、軽く指で弄り、竿を擦り付けるだけでぱくぱくと少しだけグロくなった秘所を開閉させる。

 そして、リンスはそういう女性こそ好みなのだ……処女も未通も可愛いとは感じるが、使い込まれた女が自分に触れた時に「こんなの初めて……♥」とほれ込む……そんなワンダーを好んでいる。

 ぐちゅっ……と中に挿入すると、ハウメアは驚くほど簡単に「あへぇぇぇ……♥」と蕩けて見せ、舌を出して喘ぎ始めた。


「そ、そんなっ♥ あんっ♥ あふぅぅぅっ♥ し、信じられないぃぃっ♥ こ、こんな……あんっ♥ あうぅぅっ♥ 散々、犯されて、穢されてぇ……♥ あっ、あっ♥ なのに、あうっ……♥」

「ふたなりは初めてでしょう……私みたいに、生やせるのを隠してる娘も多いからね♥ どう、ここ♥ この辺りが弱いかしら、さっきの手マンの感じだと♥」

「ひゃんっ♥ ひあぁぁっ……ダメっ♥ ダメぇぇっ♥ 満たさないでっ♥ 私はもう、ミズニフェイムの災厄をいっぱいに……そのまま、消えなければいけなくてぇ……んほぉぉぉぉぉぉっ♥」

「黙れっ♥ こんなにアヘオホ喘いでいる癖に、立派な亡国の女王ぶるんじゃないわよ♥」


 リンスはぱちゅぱちゅと激しく腰を打ち付け、ハウメアの中を耕していく。

 これまで受けたのが、快楽を与える目的皆無の蹂躙ばかりである為、マ〇コの入り口はガバガバなのに、ハウメアのナカはむしろ開発のし甲斐がある未開の大地だった。


「ふあぁぁっ♥ おっ♥ おお~っ♥ それ、知りませんっ♥ んくぅぅっ……♥ お腹、ぎゅーって……♥ あんっ、あふぅぅぅっ♥ はっ、はっ……♥ ダメ、気持ちよくなっちゃダメです……私は、最低の屑でぇぇ……あぎゃんっ♥」

「うるさいって言ってるの♥ 空っぽなんだったら、最低とか言われる要素は中に入ってないでしょうが♥ せめて設定貫きなさい♥ お馬鹿でかわいすぎてムカついてきた♥ 孕ませてあげる♥ ここで終わるつもりだった女王様に、お世継ぎうませてあげるんだから♥」

「あぁぁっ♥ ダメ、ダメですぅぅぅっ♥ 子供なんて作ったら♥ 私は、私はそんなの……♥」

「出すわっ♥ 私の赤ちゃん孕めっ♥ ウチの商会の跡取り産めぇぇぇっ♥」


 懸命に伸ばした指を抱え込むようにしながら、リンスはハウメアの中に精液を注ぎ込む。男のそれよりも、はるかに命中率の高いとされる両性具有の精液……ぽこぉっ♥ と早くも妊娠したように、ハウメアのお腹が膨らんだ。


「これでもう、ミズニフェイムの女王なんて、くだらない職務はこなせないわね♥ 私の奥さんとして生まれ変わりなさい、ハウメア♥」

「あぁぁぁぁ……幸せに、されちゃうぅぅっ……♥」


 そもそも、ここまで他人に執着されたことが初めてのハウメアに、リンスからの愛情はあまりにも特攻過ぎた。

 愛され抜いた結果、ハウメアは完全に陥落し……ようやく、ゼロから始めなおすことが出来たのだった。



  ──禿頭の男が壁にめり込み、血を噴いて痙攣しているのを横目に、ぶよぶよとゴム状の肌を持つ異形の男が、玉座に腰掛けた荘厳な空気を纏う人物へと語り掛ける。


「このハゲ、オルシア嬢は完璧に調教できなかったわ、ハウメア女王には逃げられるわ、散々な醜態だったそうですねぇ」


 キチキキチキチキチ……。

 機械のきしむような音は、禿頭の男──ゲラウス・ギールへの怒りの如く響いているが、玉座の男は言葉を発することはない。

 異形はしかし、気にすることなく言葉を続ける。


「国は滅びましたが、ミズニフェイムはまだまだ“使えます”。この地にはまだ、異性愛者の楽園を夢見、男人雌畜の理想の走狗となる者が溢れている……次はわたくしにお任せください。あなたの理想──ヨツンオイス共和国への“復讐”、叶えてみせましょう……我ら“知性魔獣”の王たる、魔王の夢を──」


 キチキキチキチキチキキチキチキチキチキチキチキチキチ──。

 

ミズニフェイム閉塞戦記~女王ハウメア、その虚無と顛末

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