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極聖交差エクスカディア外伝~それは、畏怖すべき美

『──人に非ず 獣に非ず 奇怪言うべからざる何かが 人間の形に変じて やがて、ついに死が来た』


(アーサー・マッケン著 『パンの大神』より)



 1890年、あるいは1894年のことであるという。

 ──メアリという少女は、決して学のある方では無く……世論が女性に学問を気軽に許さない風潮は当時あったのだが……どちらかと言えば情緒や心の動きというものに己の人生を預けている節があり、それ故に奇怪かつ冒涜的なレイモンド博士の実験へと、彼に抱いた恋心のままに案内されてしまったという面はあった。

 17歳、とても美しい乙女だった。レイモンド博士は、彼女をあくまで被検体としてみていたが、少なくとも高次世界への到達という栄誉を少女に与えたのは事実であり、それまでの無数の試行の中で彼女を使い潰したりはしなかった。

 幾ばくかの男女の行為を結んだのも、高尚な研究意欲の為に貴重な“なんでも支持を聞く”被検体が希少だったというのもあるが、少女の若い肉体が持つ魅力に一定は魅了されていたのは間違いないと思われる。

 そんなメアリは脳の白灰質にほんの微細な、少なくとも思考力や人格に影響のない部分に傷を付ける外科手術の上で、複数の香草を混ぜ合わせた麻薬的な成分を摂取することで、レイモンド博士が追い求める“森羅万象の向こう側にある世界”へと到達する……そう考えられていた。

 事実、メアリの意識は肉体を離れ、催眠状態のままで離魂病めいて高次世界へと至り、真っ青なその世界を飛行していた。


「私、空を飛んでいるわ。こんなことが人間に可能になるだなんて、やっぱりレイモンド教授はすごいお方だわ」


 自身をここへ飛ばした医師のことを湛え乍ら、彼女は人間が本来は知覚できない世界を昇っていく。

 それは、とてもとても奇妙な光景だった。

 あちこちにカチカチと点滅する、奇妙な“ゆらぎ”のようなものが見える、全体としては真っ青な牧場を思わせる風景。

 それが縦向けにメアリを覆うように四方に広がっており、どちらを向いても真っ青な牧場が“下に落ちていく”ように見えるという、不思議な空間であった。

 牧場には家畜の類もいるようなのだが、メアリの常識の中の生物とはまるで異なった形状をしており、学の無い彼女は根本的な素養をそもそも持たないが、例えば鋼鉄製のキリンであったりだとか、頭部が存在していない巨大な怪鳥であるだとか、無数の猿を乗せた四角い電気機関車であるとか、知識のある者が見れば発狂するような忌まわしい者たちが牧場に遊んでいる。

 けれど、メアリはそもそも眼前の異形たちを「そういう動物もいるのだろう」と大らかに受け止めており、発狂どころか少しだけおかしい気分にすらなっていた。

 そうやってしばらくの間、縦に流れていく青い牧場と奇怪な生物たちを見送った頃だろうか。

 メアリの耳に、とても美しい歌声が響いてきた。


『──来よ 愛しい人 私の唱を聞いておくれ 私は此処に 夢の渚に いあ いあ しゅうぷ にっくらとふ てぃび まぐぬむ いのみなんどぅむ しぐなぁ すてらるむ にぐらるむ でるみぃそ ふぉるみす……♪』


 後半の歌詞の意味はまるで分からなかったが、誰か恋人を呼んでいるように思われた。

 その歌声に導かれるように、メアリの体は浮上を続けて──。

 真っ青な空間の奥、ねじくれた漆黒の木々が玉座を自然と作り上げたような、角度の狂った装飾品が溢れる王座に、彼の者は居た。

 メアリも美しい乙女であるが、それすらも霞むほど、冗談抜きで男性やあるいは同性を愛する病にかかっている者……同性愛が病気としての認定から外れるのは、この110年も後だ……は、見た瞬間に即死してしまうのではないか。

 そんな風に思ってしまうほどに、畏怖すべき美を湛えた女神が其処に居た。

 黒山羊の体毛を思わせる、黒い毛皮で薄く体のあちらこちらを覆っているが、乳房も、臀部も、太股も、女としての色気を強調する部位はほとんど露になっている。あるいは、あれは本当に体毛を適当に剃って整えているだけで、乳首や陰核が隠れているのすらもたまたまなのではないかと思えるほどに、そのいでたちは扇情的だ。

 真っ黒な髪は夜の色、メアリがこれまで見たことのあるどんな黒よりも黒く、それでいて鮮やかだった。長く見ていると、あらゆる光が飲み込まれて、目がめしいてしまうのではないかと不安になるほどにつややかで美しく、そして色合いだけで邪悪を感じさせた。牧場に遊ぶ異形たちを野生動物と流したメアリすら、根源的に邪悪を感じる何かがその“黒”にはあった。

 ここからは女神が人ならざる存在であるという証左に移っていくのだが、彼女の黒髪からは巻角が二本生えている。これもまた、メアリの知る限りのあらゆる家畜よりも立派なものであったが左側が何者かに鋭利に切断されたようになっている。女神もそれを気にしているのか、切断面をうたいながら時おり撫でてみせていた。

 もっとも異形と称してよいのは、足だ。関節がどうこうという話はレイモンド博士の領分だが、メアリも家畜の体の構造は知っている。女神の足は山羊のそれであり、あまりにもすらりと美しい乙女の足が、ちょうど腿から下で山羊のものに立ち代わり、関節も逆に付いているのだ。

 ギリシャ神話の牧羊神、あるいは森の妖精サテュロスを思わせる、そんな異形の女神……異形だからこそ、人の造形では限界のある美しさを称う彼女は、メアリの方へとその視線を向けた。


「……ナユタ、ではないのね。ああ、愛しいナユタ……あなたは今どこにいるの……あなたが死んだなどと、私は信じない……ずっとずっと、待っている……」


 メアリは誰とも知れぬ、どこか東洋的な響きのある名前を聞かされて困惑するが、そんな人の子の感情になど思いを寄せる様子も無く、女神は黒い樹木の玉座から立ち上がり、生きているように道を開けていく木々の中をこちらに向かってくる。

 あまりにも美しいその姿を見た瞬間に、メアリの中でレイモンド博士への思慕は消え去ってしまっており、ただただ美麗なる女神の望むことあらば、それに応えねばならぬと妄信する、羊の如く従順な奴隷になっていた。

 見ただけで。観測しただけで。同性愛者でもない、恋偲ぶ相手すらいた少女の精神が、奴隷のそれへと変じた。

 メアリは満面の笑みで両手を広げ、抱擁を求めるように女神の到来を待つ。

 そして、遂に、女神がメアリの前に到達した。


「人の子、名は?」

「め、メアリ、です」

「そう、メアリ。私はグラス──お前たちが“パンの大神”と呼ぶ者」

「“パンの大神”……レイモンド先生が、おっしゃられていた……」


 既に恋心は消え果てていたが、まるで残滓のように残った博士から教わった知識が、喉から零れ落ちた。

 それを聞き届け、にっこりとグラスが笑いかけると同時に……メアリの視界が塞がれた。

 あまりにも美しい、黒の女神を見つめ過ぎて、視力を失ってしまったのか。

 一瞬そう思ったが、視界を上に向けると、そこには青い空間が広がっていた。視力は失われていない。

 ならばなぜ、女神の姿が隠れたのか……視線を下げ、そしてようやくすべてを理解した時、メアリの顔には根源的な恐怖が浮かんでいた。

 先までは魔術的な手段で隠していたのか、それとも不可視になっていたのか……女神グラスの股間には、男性器が備わっており……あまりの大きさに、メアリの視界が全て見せ槍に塞がれてしまったのだ。

 

「ここで待ち続けるのも、飽いたわ。ナユタに、私から会いに行きましょう……あなたの力を借りるわ、メアリ──」


 メアリが意識の中で纏っていた白い服がはじけ飛び……そして、絶望の絶叫が青い空間に乱打された。



「お゛ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥ お゛ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♥」


 ぼごぉぉぉっ♥ とメアリの腹がグラスの肉竿の形に変化し、内臓を押しつぶしながら子宮を突き上げる。

 美しく若い少女は、これまで感じたことも無い未知なる快楽と、常識外の肉棒の与える圧迫に、絶叫と絶頂を繰り返す。

 人知を超えた存在の魔力によるものだろうか、本来ならば弾け飛んでしまうか、あるいは内臓を損壊して即死するはずのメアリの精神体は、これほどの剛直で貫かれたにも関わらず五体を無事に保っており、何処をどう経由したものか口から際限なく先走りの汁を噴き出しながら、完全なる性奴隷へと滑落していた。


「んおぉぉぉっ♥ ほぉぉぉぉぉぉぉっ♥ おげあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♥ こ、これがセックス♥ 性行為ぃぃぃぃぃっ♥ わ、わたひがっ、レイモンド先生としていたのはあ……な、なんだったのぉぉぉっ……♥」

「雄と交わった経験があるのね? 劣等雄との性交など、お遊びと一緒よ♥ これが本当の交情、神と一体になる神秘体験……♥ この機会を長らく奪っていた、その男はひどい奴ねぇ?」

「ふほっ♥ ほぉぉぉぉっ♥ 死ねっ♥ 粗チン死ねっ♥ わたしとグラス様の中を邪魔しやがってえぇぇっ♥ んぼぉぉぉぉぉぉぉっ♥」


 恋心を粉砕されたばかりか、グラスによって憎しみを吹き込まれ、メアリはギラギラと危険な光を放つ瞳を輝かせながら、異形の女神がもたらす破滅的な快感を己の全てだと受け止めていく。


「可愛いメアリ……お前に最高の栄誉をあげましょうねぇ……♥ こんな牢獄へ、わざわざ遊び半分に乗り込むような栄誉では無いわ……♥ お前には、私を生む栄誉を上げる♥ あなたは私のお母さんになるの♥ どう、嬉しいでしょう?」

「う、うれひっ♥ うれひぃですぅぅぅぅっ♥ なりゅっ♥ 産みますっ♥ いあっ♥ いあっ♥ グラス様をこの世に産みますぅぅぅぅぅっ♥」

「くすくすくすくすくす……これで、あの憎たらしい魔王が作った牢獄を出られるわ……おらっ♥ 孕めっ♥ 私のこと孕めっ♥ お前が、私のママになるのよぉっ♥」

「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♥ 飛ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーっ♥」


 女神の射精の勢いはあまりにも強すぎて、竿の先からメアリは“発射”されてしまい、一直線に青い世界を堕ちていく。

 しかし、その表情は満面の笑みに……宇宙的恐怖を世界に蔓延させる使命を与えられた、狂信者の笑みとなっていた。



「──レイモンド! 一体どうなっているんだ、レイモンド! “パンの大神”とは何なんだ!?」

「分からない、分からないんだ、クラーク! こんなことになるなんて、想定していなっ……」

「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 精神世界での女神との交合の影響であろう。ボテ胎に変化したメアリがケダモノのように絶叫し、その股間から“何か”をひり出す。

 それは、邪悪なほどに黒い髪を湛えた少女だった。赤ん坊ではない。それどころか、下手をすればメアリよりも大きな体躯を持った少女だ。

 生物学の常識を超えた悪夢の奇跡を前に、レイモンド博士は顔を押さえて絶叫し、クラークは背を向けて一目散に逃亡した。

 それが、二人の命運を分けた……この世のものとは思えない異音と、レイモンドの絶叫が混ざり合い、クラークの背中を乱打する。

 走り続けているのに、荒涼とした丘の上のレイモンドの実験場を飛び出した後なのに、いつまでも背中に声が飛んでくる。

 まるで、どこに逃げても同じだぞ、この世界に私が来たからにはもう、何処にいる誰であっても同じなのだと、そう宣告されているかのようだった。


「ふぅ……随分と久しい球形限界世界への顕現だわ。メアリ母さん、さあ、旅に出ましょう? 私は探さなくてはいけないの……この角を切り落とした、愛しいナユタを探さないといけない」

「は、へぇぇぇぇ……グラス、様ぁぁぁぁ……♥」

「その名を名乗り続けていると、魔物娘どもや道を違った同胞たちに見つかると厄介ね……そうねえ、古代ギリシャの時代、私は“パンの大神”以外にもヘレネーと呼ばれた……ヘレン・ホーン、いいえ、これだと露骨すぎるから、ヘレン・ヴォーンと名乗りましょう。待っていなさい、愛しい神の斬獲者……必ず見つけ出して、お前の愛しい者も奪い去ってから、ゆっくりと愛してあげる──」


 それは、別の世界においては人類の敵を滅ぼし尽くす旅団の同胞……その中でも始原の一柱が、明確な全宇宙の危機と化した瞬間だった。




今回の攻め役

※“パンの大神”グラス(ヘレン・ヴォーン)

・多次元を彷徨う“偉大なる旅団”、怪女たちの巣窟である『瑠璃宮』が、まだ“青色”の生み出した生物兵器であった頃の個体……即ち応龍渡碗の第一世代に当たる存在。“生成”、“増殖”、“変異”を司る女神であり、その真名はシュブ=ニグラス。

・邪悪さすら感じさせる夜の黒を長髪として纏い、山羊を思わせる体毛で最低限の個所を隠している、畏怖すべき美を纏った女神の姿で顕現する。その美しさは、美を理解できる精神性を持つすべての生物にとって凶器であり、狂死や精神的変貌を引き起こす。また瑠璃宮の怪女たちの中にあってなお、常識外の大きさの雌チ〇ポを持つ。

・本来は人間程度であれば、遭遇した瞬間に問答無用でテクノブレイクを引き起こす、どこぞの魔性菩薩の上位互換のような存在なのだが、かつての『創世記戦争』の際に“ナユタ”なる存在に角を切断されて美貌が損なわれている為、何とか相対できる存在もいる(メアリは精神的変貌を遂げている為、これには当てはまらない)。

・レイモンド博士の実験によって、とある魔王が施した封印の中に居たグラスとメアリが遭遇してしまったことから、球形限界世界と可能性無限宇宙に解き放たれた。その精神は生物兵器であった宇宙的脅威のままであり、他の瑠璃宮と明確に異なる“世界の敵”である。

極聖交差エクスカディア外伝~それは、畏怖すべき美

Comments

まさかアーサー・マッケン卿も、クトゥルフ神話に組み込まれた本作が、更にふたなり二次創作になるとは想像もしておられなかったでしょう…w メアリに霊媒としての才能が想定以上にあった、封印を施した魔王様の想定的に人類は那由多の遺伝子を受けてインフレしていくはずだった(だから矮小すぎる存在はすり抜けてしまう牢獄になった)という二点はあるにしても、レイモンド博士が古今独歩の大天才だったのは間違いないでしょうね…ただ“パンの大神”の本質を思いっきり誤解してただけで そうなんです、男性を差別し、ヤンデレ衝動で動く「世界の敵」であるグラスですが、それでも女性に対しては“青色”の基本姿勢である「接触と融合」を参考にしているので、一方的に痛めつけるのではなく快楽を媒介にしようとするんですよね

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まさかの近代英国怪奇文学作品が原作のエロ小説… メアリ本人の素質もあるのでしょうけど冷静に考えるとレイモンド博士めちゃくちゃ凄いことしてるのでは? それと腹ボコSEXって女の子側はただ痛くて苦しいだけな作品も多いですけどちゃんとメアリ側も気持ち良くなってるのが良かったです

ヨネザワ伍長

これまでの第一世代は、なんなら他の世代より優しかったり、人間よりだったりして「クトゥルフ神話モチーフでこれかよwww」と思われていたかも知れませんが、それはまあ大分と矯正された結果だった訳です… 他の瑠璃宮は「人類種の敵」になることはあっても「世界の味方」ですが、グラス(ヘレン)だけはマジで世界の敵、女尊男卑の使者なのです…

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前にコメントで「方針の違いで離反した元応龍渡碗」って記述があったから、そういうのもいるのかって思ってたらまさかの那由多のヤンデレストーカーが出てくるのは予想外にも程がある(震え) 瑠璃宮の設定上なら思わない筈の「劣等雄」呼びを平気でしてたり、根本的に精神性が違うんだなぁ……。

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