その日、ユキは得意料理のちらし寿司を後輩の小雪に作ってあげる為に、自分で寿司酢を購入していた。
「(昔は、真島さんによく買ってもらったなぁ)」
今や“伝説のキャバ嬢”だの“フォーシャインの女帝”などと大仰に呼ばれているユキが、まだ“地味で貧乳で彼氏いない歴=年齢の女の子”と呼ばれていた頃の時代。
あの頃から随分と街は変わった。表の世界も、裏の世界も、その狭間の世界も驚くほどに変化を繰り返し、ユキ自身も随分と変わってきたと思う。
本物の漢たちに救われて、成功を重ねながら生きてきた果てに、OLに転職という夢は叶わなかったけれど、こうして後輩にご飯を奢ってあげるくらいなら特に悩まず出来るようになった。
「(きっと真島さんや桐生さんも、今のわたしを見たら成長したって言ってくれるでしょうね)」
「あの、お客さん、こちらの商品でよろしかったですか?」
買った具材でちらし寿司を作るのは分かると思わしいので、どうやら赤酢を買ったことを質問されているらしい。
御飯に色がほんのりと付いて、上品な味になるのだが、あまり一般的では無いので心配されているのだろう。
「はい、大丈夫です。これでちらし寿司を作ると、すっごく美味しいんですよ!」
「……え、赤ワインでちらし寿司?」
「え? 赤ワイン?」
……見れば赤酢だと思って入れた籠には、赤ワインが確かに鎮座していた。
「ユキさん、これ」
気まずい空気が流れる中、横からさっと赤酢の瓶が出される。
顔を向ければ、部屋で待っているはずの後輩……小雪の姿があった。
「小雪ちゃん! どうしてここに?」
「いや、こういうことがあるかなあと思ったので……ほら、早く会計しないと」
「あ、あ、そうだったわね。すいません、お手数おかけしました」
……もしかしたら、自分はあんまり成長していないのかも知れない。
さっきとは真逆のことを想うユキであったが、それはそれとして頼りになる後輩を誇らしく感じる辺り、底なしの前向きさを持つユキであった……。
※
「それじゃあ、酢飯が冷めたら続きをしましょうか」
「あれ? あのうちわでぱたぱたーみたいなのはしなくていいんですか?」
「あれは最低限にしないと、表面がパリパリになっちゃうから」
二人はソファの上で並んで座って休憩し、ユキは小雪の部屋をざっと見まわす。
セキュリティもしっかりしているし、内装も落ち着いた良い部屋だと思う。小雪たち、店のキャバ嬢たちに良い部屋に住んでもらえているのは、苦労してきたことが多少は報われているような気持ちになった。
「ユキさん、ユキさん」
「ん? どうしたの、小雪ちゃん」
「えへへ……呼んだだけです」
横合いから抱き着かれて、友達のような距離感になごんだ気持ちになる。
こうやって小雪のような若い子になついてもらえるのは、ユキにとってはうれしい経験だった。自分ではまだまだイケると思うのだけれど、それはそれとして現実では年が年なので、二つ名しか知らない若い娘たちには萎縮されてしまうこともある。それに比べれば、こうやって甘えられる方がユキとしては気分がいい。
そんな風に思っていたのだけれど、すぅー……はぁー……と胸の下あたりに顔を埋めて深呼吸している小雪を見ると、なんだか普通に年上の女性に甘えているという感じではない気がしてくる。
「小雪ちゃん、何か悩みとかあるの?」
髪を梳くように撫でてやっていると、小雪はびくっと肩を震わせてみせた。
しばらく、どう反応するかで悩んだようだが、やがて小雪はぽよんと雪の胸の谷間に顎を乗せて、真剣な目で見つめながらこう言ってきた。
「ユキさん、こうして部屋にまで来てくれたんですから、少しは期待していいんですよね?」
「小雪ちゃん……期待って、まさか」
「私、ユキさんが好きなんです……恋人になりたいんです」
大阪最大の歓楽街である蒼天堀で店を出しているのだから、ユキは理解があるという……よりも根本的に同性愛嗜好に対する差別意識が無い。
人を好きになった時、本当に大切なのは互いの相性と“何を守りたいか”という一点だけで、それ以外のことは極論どうでもいいとすら、鷹揚な性格のユキは思っていた。
しかし、それはそれとしてユキと小雪では年の差があり過ぎる。流石に孫と祖母というほどは離れていないが、歓楽街では珍しくない程度の母娘くらいの年齢差はあるのだ。
「小雪ちゃん、落ち着いて? 好いてもらえるのは、とてもうれしいわ。わたしも、小雪ちゃんのこと可愛いと思っているし、好きよ。けれど、こんなに年が離れていたら、周りから変な目で見られちゃうわ。年増がお金で小雪ちゃん相手にママ活してるみたいに、きっと見られちゃうわよ?」
「むしろ、これからもっと稼いで、ユキさんが引退後は生活費も自分が出します!」
「す、すごい甲斐性を見せてくるのね……あのね、小雪ちゃん。多分、小雪ちゃんはわたしが男性関係のトラブルが無かったから、綺麗な体だと思ってるんでしょう? キャバ嬢でそういう娘、少ないものね……でも、それは違うの」
あまりにも男前な宣言を可愛い顔で言われて、思わずキュンとしてしまったが、ここはきちんと説明をしておかないといけない。
ユキは語る……かつてまだ、フォーシャインが“サンシャイン”と呼ばれていた頃、ユキがようやくキャバ嬢としての才能を開花させ始めた頃のこと。
実はその頃、ユキには複数のキャバ嬢との交際経験があった。それも、きちんと告白を挟んだものではなく、肉体関係優先のもので、当時激烈だった他店からの引き抜きに対して、店に残って欲しいという純粋な思いからしていたものではあったが、天然過ぎた当時は分からなかったとしても、それは体を売って店を盛り立てていたのと変わらない行いだ。
ユキとしてはあくまで「外のお店で働くよりも、わたしと一緒に働く方が気持ちいいですよ」くらいの気持ちで、何ならその当時は真島吾郎に対して淡い想いを抱いていたくらいだったのだが、それは結局フォーシャインに店名を変えた時に不満となって噴き出し、多くのキャバ嬢が「ユキに弄ばれた」として店を離れる結果に繋がってしまった。
その最たる一人が、小雪もよく知っているサンシャイン時代のNo.2・キララだ。
「わたしは深く考えもせずに、いろんな女の人と体を交わすような女なの。綺麗な体の小雪ちゃんとお付き合いをできるような、真っ当な身じゃないのよ……小雪ちゃんにもきっと、あなたに相応しいパートナーが見つかるから……きゃんっ!」
自分でもそろそろ年に似合わないと思うような、可愛らしい悲鳴が喉から勝手に出た。
見上げれば、先までは胸の合間でじっと話を聞いていた小雪が、ユキの体を押し倒して、膝の間に自分の膝を割り込ませていた。
「そんなの覚悟の上です! というか、一緒にキャバクラグランプリに出たんだから、知ってますよ!」
「ええ!? ば、バレてたの?」
「急に“今明かすわね、わたしの穢れた過去……”みたいなテンションで話し出すから、逆にびっくりしましたよ。そういうのも全部覚悟の上で! おばあちゃんになってもユキさんしか好きになれないって思ったから、告白してるんです!」
あまりにも若さと情熱に満ちた告白に、ユキは完全に困ってしまい、反論の言葉を失う。
そもそも、小雪のことはかなり好きだし、なんなら「昔だったらエッチしてたなー」くらいは思ったことが実はある。今言うとそのまま襲われてしまいそうだから口には出せないけれど、小雪を想って自慰をしたことも……実はある。
そんな相手にこうやって情熱的に押し倒され、全身甘くていい匂いがする体を擦り付けられると、ユキの中の“女”が勝手に目を醒ましてしまう。
「他の女の人との経験も、私で塗りつぶしてあげます……真島さんや桐生さんへの未練だって、私が断ち切ってみせますから……私だけ好きになってください、ユキさん……」
そう言って、まっすぐな瞳で口づけを落とされてしまう。
くちゅっ……れりゅっ……と水音が部屋の中に響き、とんとんと膝で大切なところを軽く蹴られるだけで、もうユキの体は蕩けてしまっていた。
小雪にされるがままに服を脱がされ、下着まで放り捨てられて、ぴちゃぴちゃと腋の下を舐められる。
下手したらお大事を舐められるよりも恥ずかしい行為に、真っ赤になっていたら「おいしい……いい匂い……ユキさんの汗、好き……♥」と囁かれてしまい、自虐に逃げることも出来なくなってしまった。
「ユキさん、濡れやすいんですね……♥ ほら、少し触っただけで“ぐちゅん”ってエッチな音がしますよ♥ 本当は店の為じゃなくて、ユキさん自身がレズだから女の子たちとエッチしてたんじゃないんですか♥ ん……つんって甘酸っぱい匂いが体からします♥ 興奮してる証拠ですよね♥」
「ああ……♥ 小雪ちゃん、いつの間にそんなトークテクニックを……んあっ♥ あんっ♥ こ、小雪ちゃんこそ、ちょっと上手過ぎないかしら……♥ わたし以外にも、女の子とお付き合いしてるんじゃないの……♥」
「嫉妬、してくれるんですか? 可愛い……好き♥」
ごまかしたのか、本音なのか分からない言葉と共に、すっかり白く掻き混ざられた秘所に口づけをされ、わざわざ音を立てて“じゅるるるるっ♥ じゅずっ、ちゅずずずずっ♥ ぴちゃぴちゃっ……れるぅぅぅっ……♥”と愛液を啜られると、何度も何度も弓のように体をしならせてイッてしまった。
ただ気持ちいいとか、小雪がセックスが上手いというだけではない……完全に、同性を恋に堕とす手管だった。
「ユキさん、もう私のこと好きでしょう……♥ 私も告白したんだから、ユキさんからも告白してほしいです♥」
「あっ、やっ……は、恥ずかしいから……んはぁっ♥ あっ♥ 舌のお口同士で、キスだめぇ♥」
「ちゅっ♥ ちゅっ♥ こうやっておマ〇コ同士のキスはしてあげます、ユキさんが好きだから……♥ でも、ユキさんがちゃんと告白してくれないと、貝合わせはしてあげません……♥ 気持ちいいですよ、すごく♥ ね、告白してくださいよ♥」
ちゅっ♥ くちゅっ♥ ずりゅっ♥ ちゅー……♥
腰を軽く打ち付けられる、下の口同士のディープキスで、完全に魅了されてしまったユキは、もう自分をごまかすことができなくなってしまった。
目の前の、若く美しいキャバ嬢に……自分は惹かれてしまっている。
「あっ♥ あぁぁっ♥ わかった、わかったからぁ……こ、小雪ちゃんの、お嫁さんになるからぁっ♥」
「……! い、一足飛びで結婚申し込まれるとはおもいませんでした……♥」
「え、なにか変だった……?」
最後の最後で、天然ぶりを披露して小雪を圧倒したユキだったが、すぐに小雪の顔は喜悦に満ちて、激しい貝合わせが始まる。
「全然♥ 変じゃないです♥ ユキさんは、私のお嫁さんですから♥ 結婚♥ 結婚します♥ 一生、ユキさんと添い遂げますからぁ♥ んっ♥ はぁぁっ♥ 舌、出して♥ べろちゅーしてください、ユキさん♥」
「は、はいっ……んちゅっ♥ ちゅぴっ……ああ……小雪ちゃんのキス、気持ちよすぎるわ……♥ あっ、あっ……♥ またイッちゃう♥ 上でも下でもキスしながら、年下の女の子に嫁入りしながらイッちゃうぅぅっ♥ 好きぃぃぃぃっ♥」
「ちゅるっ、じゅずずずずっ♥ ユキさんは私のですっ♥ 一生そうですからね♥ 介護だった私がやります♥ ムラムラしたらすぐにレズパコしちゃうでしょうけど、許してくださいね♥」
「ちょ、ちょっと生々しい話だけれど……それじゃあ、お任せしちゃおうかな……♥」
こうして年の差カップルとなった二人は、外が暗くなるまでひたすらに行為を続け……酢飯が冷めるどころかぱりぱりになってしまった為、仕方なくちらし寿司用の具材を上に乗せて、漁師風のお茶漬けとして食べた。
それはそれで、なんだかキャバ嬢カップルらしい、なんとも微笑ましい光景であった……。
屋根が高い
2024-01-17 11:27:31 +0000 UTCまりね
2024-01-17 11:02:02 +0000 UTC