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屋根が高い
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山姫の天蓋

※SKEBにてリクエストを頂きました!

 『幽明録』の「天台の神女」を元に、日本の山を舞台に起きる怪奇なるガール・ミーツ・ガールとなっております。

 それでは下記よりどうぞ!




  

 ──しゃぶりっ……と果実から滴る蜜が顎を濡らしていく。

 焦がれるような渇きと飢えは多少なりと癒えたが、それは逆に冷静な思考を彼女にもたらして“しまい”──鹿西町子(ろくせい まちこ)は野生のカラモモの種を吐き捨て「あー……」と意味の無い声を漏らした。

 彼女が山に迷ってから二日目。どれだけ歩いても道らしい道は見えず、何度かひたすら下りてみようと試みたが、何れも河川に阻まれた。

 気軽なハイキング程度の気持ちで登ったので、食料も水も既に尽き、何か口に入れたのは数時間ぶりだった。

 酸っぱい刺激で無駄に正気付いてしまった意識が、これは想定よりも深刻な事態なのではないかと町子を焦らせる。


「どうすんのよ、これ……念のためにって有休消化して二日休み取ったのに、このままじゃ無断欠勤になるかも」


 別に彼女はそこまで熱心な社員という訳では無く、しかし直ちに退職を勧告されるほどの不良社員でもない。

 故に出勤のことを口にしたのは、それよりも更に深刻な事態に陥りつつあることから自身の意識を逸らす為であり……しかし試みは半分ほど成功せず、喉から漏れる声は震えていた。

 野生のカラモモで喉を潤し、僅かに湧いた気力で慎重に山肌を降りていく。何度目かの試みだが、人間風情がどれだけ気を張り精神を張り詰めようと、山の方が応えてくれるはずもない。

 またも河川。あるいは全て、同じ川では無かろうか。それに阻まれた町子は、いっそのこと濡れて渡ろうかなどという、危険な考えに囚われ──。

 上流から、妙なものが流れてくることに気付いた。


「……お椀?」


 一寸法師が船の代わりにしそうな、朱塗りの汁椀であった。

 艶やかで、新しくは無いのだろうが、丁寧に使われてる感がある。

 中にはさらさらと細かい、ゴマのようなものが入っており、町子は大いに困惑しながら、しかしある可能性に思い立つ。


「これって、流した人が居るってことだよね?」


 流石にこんなものが成る木など生えようはずもない。川底から浮かぼうはずもない。

 ならば流した誰かが居る。それが山のアヤカシの類である可能性も、暗い山の中で二日も夜を過ごした町子の脳裏にはよぎったが、それでもいっそとすら思っていた。

 ただひたすらに、人恋しい。

 椀を拾って胸の辺りで抱え、上流へと向けて歩き出す。

 これで滝にでもぶつかれば、今度こそ絶望する羽目になるところだが……幸か不幸か、そうはならなかった。

 先に口にしたのよりも、みずみずしく大きなカラモモが成った木の下で、着物をまとった女性が艶やかに笑っていた。

 あまりにも、美しい。町子は異性愛者だと自身のことを任じていたが、そんな彼女ですらもジン……と頭の後ろの方が痺れた感覚があった。

 隅々まで手入れが行き届いているのが分かる黒い髪、ぷっくらと赤く瑞々しい唇、町子よりも長身なのだが町子よりも細身で、それでいて和服が着崩れない程度に胸も尻も肉付きがしっかりとしている。

 山には様々なアヤカシが住まい、中には美女の姿をしたものもいるという……母がキャリアウーマンで、祖母に育てられたようなところがある町子は、迷信深いところがあって警戒してしまうが、乙女の方は声に出して、こぉろこぉろと鈴鳴るような笑いを上げた。


「町子さんがいらしたわ。町子さんがいらしたのね」

「え……!? わ、私の名前、なんで知って……」

「そんなこと、どうでもよろしいじゃない。ああ、こんなに髪にも脂が浮いてしまって、可哀そう……どうぞお家に来てくださいな。身を休めて、どうか英気を養ってください」


 あまりにも怪しい誘い、あまりにも妖しき存在。

 それなのに、町子は「じゃあお言葉に甘えて」とばかりに、手なんて繋いで導かれ歩き出す。

 お風呂に入っていないから臭くないか、手汗が酷くて幻滅されたりしないか。

 そんな無駄な気遣いばかりが浮かび、この乙女が何故己の名前を知っているのか、それを一番に警戒すべきなのに……甘く頭が痺れている。

 この乙女を疑うのは無意味なことだと頭の芯の部分が判断しきっており、これほどまでに信用した相手は亡くなった祖母以来だと思うほどに、親愛の情が湧いていた。

 風下であったからか、流れてくる甘い体臭ですらも、胸をとくとくと高鳴らせ。

 そんなふうに夢見心地である内に、気付けば屋敷についていた。

 屋敷である。和風の、木造の、ずいぶんと大きく、かつ立派な屋敷。こんなもの、迷っている時は何処からも見えなかった。

 驚く町子を導くように、乙女は屋敷へと入っていく。そこには大勢の……驚くほどの人数の、女ばかりが働いており、パタパタと忙しく何かの準備をしている様子であったが、乙女と町子を見やると「エミ様、お帰りなさいませ」と華やぐ笑みを浮かべる。

 この乙女は、エミという名前らしい。あの眩い微笑みを思えば、ぴったりな名前である。けれど同時に、なんだか適当な名づけだなという感覚も、少しだけ感じてしまった。

 そんな心を読まれたのでもないだろうが、エミは「どうか名前で呼んでくださいね?」と呼びかけ、そのまま町子を屋敷の中へと上がらせてしまう。

 二日、山を彷徨したのだ。それなりに衣服も身体も汚れているのだが、従者たちがそれを気にする様子はなく、足を拭いて服をさっさと払い、まるで高級ホテルの客人のような対応を受ける。

 ここにきて町子は、恐ろしい可能性に辿り着いていた。


「(も、もしかして、私……別の町子さんと間違われてる?)」


 こんな山中を、偶然にも同名の者がさ迷っていることなど、普通に考えればこの屋敷の存在よりあり得ないのだが、町子の中ではそれは妙な説得力を帯びてしまい、まごまごと付いていく脚の動きが鈍る。

 しかし、前方に見えてきた物に、町子はまごついている場合ではないほど、驚くことになった。

 そこには寝床が既に準備されており、豪奢な金銀の袰のかかった布団が敷かれ、湯を張ったものや香油らしき瓶を手にした者など、十数名の従者が控えている。

 町子のやたらボキャブラリーには富んでいる癖に、映像化に関しては貧相な脳みそを、エステという単語をはじき出したが、どうもそんな雰囲気ではない。

 この時、エミが初めて……不興を僅かに孕ませた声で以て、周囲へと呼び掛けた。


「町子さんは、この険しい山中で二日も迷っておられたの。まずは食事、急いで用意をなさい」


 女たちはエミの毅然とした口調で動き出し、女主人は「気の利かないことで」と苦笑した。

 ……町子はエミと、ろくに会話らしい会話を交わしていない。二日、正確に日付を当てて山をさまよったと指摘された。なぜ、それを知っている?

 けれど、艶やかに微笑まれると、それを敢えて聞く気にはさっぱりとなれないのであった……。



 用意された食事はあまりにも豪勢なもので、ほとんど“宴”と呼んでもいいほどの量であった。

 上座に座らされた町子には次から次へと食べやすく解され、胃が驚かないようにと優しいダシの匂いがする食材が届けられて、その合間合間に非常に強い……けれど果実のように甘くもある、酒が注がれていく。

 最初こそヨモツヘグイ……黄泉の食物を体内に入れると、地上に戻れなくなるという恐ろしい神話を思い出したりもしたが、一口齧った肉からじゅわと脂と汁が溢れ出せば、もう止まらなかった。

 食べて、食べて、食べて。飲んで、飲んで、飲んで。

 広い宴会場で、飲み食いをしているのは町子だけだ。主人であるはずのエミですら、町子の給仕にかかりきりであり、しかし時おり従者ともまた見た目の異なる、巫女のような装束の様な者だとか、女修験者かと思うような恰好の者たちに、酒は注がれていたりした。


「まったくめでたい、実にめでたいわ。遂にあなたにもお嫁さんがやって来た」

「倫子さんは残念だった。けれど、今度こそ添い遂げることが出来るだろう」


 嫁という単語が町子を差していると、何となく理解できるのに、頭がぼんやりして働かない。食べ過ぎて胃に血が行っているからか。

 倫子というのが、自分の祖母の名前であることも少しだけ気になる。そう言えば……祖母に育てられた町子であるが、祖父の顔も知らない。

 結局、食欲に突き動かされるままに貪るうちに宴は終わり、多くの女性たちから口々に祝福されたという、そんな印象だけが残って……気付けば、あの寝床に連れ込まれていた。

 町子の多少は着込んできたハイキング用の厚手の服は、魔法のようにするするとエミによって脱がされて畳まれてしまっており、今や町子は下着だけの姿である。

 二日さ迷った後だ、そんな下着を見せるのは恥ずかしいと体を丸めようとするのだが、エミが少しだけ厳しい声で「腕、横にして?」と囁くので何も隠せない。

 ブラジャーをズリ上げられて、下着をズリ下ろされて、開けた着物姿のエミが、はぁー……♥ はぁー……♥ と息を荒げて見下ろしてくる。

 この美しい美女が、どうしてここまで己に飢えているのかが、まるで町子には分からない。

 ただすんすんと小さく鼻を鳴らしながら、町子の胸の合間に顔を埋め、左右にゆっくりと頬を擦り付ける様は、超然的な美女というよりはまるで子犬のような愛らしさがあった。


「ああ、もう離さないわ……どんな恐ろしいものからも、どんなに苦しいものからも、私が守ってあげる……♥ 愛しているわ、町子さん……♥ あなたのすべてを、私は愛している……♥」


 ちゅっ……と乳房が軽く啄まれる。

 それだけで、そんな僅かな刺激で、腰が浮き上がって“ちょろっ”と愛液が漏れてしまった感覚があった。

 町子とて年頃の女であるから、自慰の経験くらいあり、むしろ感じにくい体だと思っていた節すらあった。

 それなのに……なんという甘やかな快楽だろう。ほんのわずかに粘膜が触れただけなのに、子宮が急速に排卵を始めたのが分かる。生殖の叶わないはずの女を相手に、町子の体は発情していた。


「あっ……あ、うぅぅっ……♥ ど、して……こんな……あっ♥」

「んちゅっ……じゅるっ……じゅじゅっ……♥ ああ、美味しい……町子さんの乳房……♥ ほら、私のも吸って? まだ乳は出ないけれど、あなたに咥えてほしいの……♥」


 むわっ……と噴きつけてくる、あの甘い体臭が蒸れて籠って、濃密になったもの。

 豊かな白い乳房の中心で、勃起している乳首を口に含めば、日々を生きる憂つ事がすべて消え去っていくかのようだ。


「んんっ♥」

「抵抗は、やめて? いいこだから、町子さん……愛しているの……♥」


 ぴちゃぴちゃと赤い舌で濡らした指が、くちゅんっ……と秘所を割り裂いて挿入される。

 風呂に入っていないことを気にしていたのに、他人の体が入り込んでくる未知なる快感を前に、腰を打ちあげてへこへこと感じてしまい、その体を美しいエミの下半身に擦り付けてしまう。

 くちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅんっ……♥

 指が秘所の中を出入りし、夢中で啜る乳首からは仄かに甘い味がする。溜まっていた、ねばつくような愛液がどぷっ……と溢れ出し、高いものであろう布団を穢していく。

 エミの顔は、大きな白い弾力で隠れていたが、その表情は満面の笑顔であるように見えた。


「もっともっと、重なりましょう……もっともっと、私に溺れて♥ 私たちは婦婦になったのだから……♥」

「あぁっ……あんっ♥ あぁっ♥」


 町子の足を抱え込み、膕の辺りを下で舐めながら、互いの秘所がぐっしょりと触れ合った。

 処理が出来ていなかった町子だけでなく、エミの薄い陰毛の感触も敏感な部位で感じてしまい、町子は体をのけぞらせて貝合わせの快感に蕩ける。

 ぐっちゅ、ぐちゅっ、ずりゅっ……♥

 もっとも敏感な場所同士がこすれ合い、それによって性交をしているのだという、そんな感触が強く伝わってくる。

 溶ける、溶ける、溶ける……。

 覆いかぶさってきたエミの唇が、町子のそれを塞ぐ。

 そう言えば、口づけは初めてであったか……そんなことをぼんやりと考えながら、体は激しい刺激に応え、噴水かと思うほどの勢いで潮を噴き、密着していたエミの膣の中へと注ぎ込んでしまった。

 男性で言う、射精の様な感覚。異様な興奮に昂りつつ、何かとんでもないことをしてしまったような気になり、慌てて町子の喉からは謝罪の声が漏れそうになる。

 けれど、エミはその細い指……先までは町子の中に沈んでいたものだ……を唇に当てて黙らせると、体の向きを変えて蕩けて赤らむ秘所を向けてきた。


「舐めてください……♥」


 懇願に応え、犬のように鼻先を埋め、酸い匂いに酔いながら舐めしゃぶる。

 その間にも、自身のもっとも敏感な箇所……陰核がエミに咥えられて、ずちゅずちゅと舐め上げられていく。

 ああ……まだまだ、行為は終わらない──初夜にして、すべてが塗り替えられるのだと、町子は悟るしか無かった。



 毎日のように味が良くて健康的な食事が出され、エミと連れ立って美しい山河の景色を眺めつつ散歩をし、夜は肉欲に溺れる日々。あまりにも楽しい、夢幻の如き時間。

 それでも真面目というより小心な町子は、会社のことが心配になってきた。折り合いの悪い母だって、何だかんだと介護はこちらに投げるつもりでいると思う。

 十日もすれば下界のことが気になって仕方なくなったが、エミが「そんなことはいいじゃない」と囁き、着物の裾から秘所を開いて“くぱぁっ……♥”と誘ってくれば、もうごまかされてしまう。

 結局、半年もの時間を屋敷の中でだけ過ごした町子は、せめて退職届を出したいし、母に挨拶もしたいとエミへと頼み込み……驚くほどあっさりと、エミはそれを受け入れてくれた。

 エミにまるで出勤前の新妻の如く送り出されると、あの彷徨はなんだったのかと思えるほどに簡単に山から下りることが出来た。

 ……そして、下界は何もかも変わっていた。

 板の様なものを電話や書籍の代わりにしている者が巷に溢れており、町子の勤めていた会社のあった場所は、駐車場となっていた。

 母の住んでいた家も取り壊されて、今はお洒落な喫茶店が出来ており、なんとか檀家だった寺に働きかけたが、母は晩年は施設に入ってそれ以降は分からないらしい。

 まるで浦島太郎の如く、年月が過ぎ去ってしまっていたのだ。

 町子は失踪した扱いになっており、しかし親しい友も唯一の家族も既に亡い世界へと、こだわり続ける理由は無かった。

 エミへの恨みは、ない。元より、あの屋敷で生涯を過ごすその為に、許可を取るべくの下山であったのだから。

 町子はまた、迷うことなくするすると山を登り、あっという間にあのカラモモの木の下にやって来た。

 気付けば、町子の隣にはだれか別の女が歩いていた。エミではない……むしろ、町子と顔立ちが似ている。


「お婆ちゃん……?」


 祖母の、倫子。その若い頃の写真を見たことがあるが、生き写しだった。

 否、そんなはずが無い。祖母はもう亡くなっている。葬式だって出して、荼毘にも伏したはずだ……。

 祖母らしき若い女は、町子の呼びかけにニッコリと笑い、カラモモの木の下を指さす。

 エミが居た。エミ“たち”がいた。二人いる。同じ顔の女性が、二人。絶世の美女が並んで、カラモモの木の下で微笑んでいる。

 けれど、ああ、町子には分かる。どちらが町子のエミか、わかるのだ。


「ただいま、エミ」


 その豊かな胸に顔をうずめる。祖母も、彼女のエミに同じようにしていた。

 これからは四人で暮らしていくのだ。永遠に、とこしえに。

 ほう、と漏らした息がくすぐったかったようで、エミの喉から「ふぅん♥」と色っぽい息が漏れた。

 エミに夢中で手マンしながら、首筋に吸い付いている倫子と並び……町子は山中に消えていった。


山姫の天蓋

Comments

山は今でも次々と新しい怪談や奇譚が生まれてくる、不思議な場所ですよね こういう不思議な話テイストのレズ堕ちは私も書いてて楽しいです。 個人的にレズ堕ちに出来そうだなと思うのは『笑府』の「学様」でしょうか。 しゃれこうべを弔ったところ楊貴妃と一夜を過ごした友を羨み、猿真似したら張飛が訪ねてきたという話ですが、富士の樹海の遺品回収なんかと重ねれば現代譚にも出来そうですよね

屋根が高い

迷い家や隠れ里のような山中で道に迷った主人公が不思議な屋敷や集落にたどりつく系の昔話が好きな自分としては 迷い込んだ者をレズ堕ちさせる不思議な屋敷や集落の話としてシリーズ化してほしいぐらい好きです それはそうと幽明録や捜神記のような昔の中国の志怪小説って創作の元ネタにできそうな話がたくさんあって良いですよね 屋根が高い先生は何かお好きな話はありますか?

ヨネザワ伍長


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