逆月病院患者録 シン先生の場合(1w)
Added 2018-10-16 03:21:27 +0000 UTCAパート
「す、すいません、園長先生。その、先生から、入院が必要だって……」
『まぁ、そうなの?どれぐらいかかりそう?』
園長先生の勧めで、僕はさっそく次の土曜日に泌尿器専門――それも、オシッコのこと専門でやっているという、『逆月病院』を訪れた。僕の診察にあたったのは、なんと子ども。……いや、れっきとした医師免許を持っていて、海外留学で飛び級卒業してきた優秀な先生らしいから、子どもなんていうのは失礼か。名前は「チヨ」というらしい。そんな先生から、入院を勧められたのは、つい1時間前ぐらいのこと。結局、即入院することになって、バタバタと入院の手続きを済ませて。病院着に着替えたのがつい今しがただ。園長先生に連絡する暇もなくいろいろ決まってしまって、怒られないか不安だったけど……。電話の向こうの園長先生の声は、心配してくれているようだった。
「そ、それが。なんでも、しっかり完治するまでは退院できない『特別矯正コース』が必要だって言われてしまって……、ちょっといつ退院できるかわからなくて……」
『まぁ、じゃあやっぱり結構重症だったんじゃない。診てもらえて良かったですわね』
「あの……、しばらくお休みを頂くことになりそうなんですけど……、その、仕事は……」
『いいのよー、勤務の方は私が調整しておきますから、シン先生はしっかりオネショを治していらっしゃい』
「う、うぅ……はい……」
きっと、電話の向こうで園長先生は笑ってるんだろうな……。うぅ、チヨ先生にもさんざんバカにされたし、すごく恥ずかしい。きっと、ちょっとウソついたのもばれてたんだろうな、さっくんにはオネショのこと見つかってるし、オムツ着けてたのもばれちゃったから……。
『子どもたちには私から説明しておきますね。ふふっ、みなさんシン先生のことが大好きですから、戻ってくるのを楽しみに待っていますね?』
「あ、ありがとうございます……、ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
『えぇ、大丈夫ですわよ。それじゃ、お大事に。頑張ってね』
「ありがとう、ございます」
ぷつっ、と電話が切れる。通話終了、と表示された画面を呆然と見つめて、僕はため息をついた。まさか、オネショで入院することになるなんて思ってなかった、せいぜい通院でお薬かなんか貰って、ぐらいで済むと思っていたのに……。
「えーっと、シンせんせー、今いいかなー?」
「っ!?あ、はいっ、どうぞ!」
ノックと一緒に、扉の向こうから聞こえる声は、あのチヨ先生の声だ。ガラガラ、と元気よく扉が開かれて、小柄なネコ族の少年が――いや、先生が、足首ぐらいまである白衣をはためかせて入ってくる。
「あ、着替えたんだねー!とりあえず、着替えとかはウチで用意するから、シンせんせーは心配しなくて大丈夫だからね!」
「あ、はい……」
「それから、今後の治療のことなんだけど……」
手に持ったバインダーを見ながら、チヨ先生はペラペラと今後の僕の治療プランを並べていく。でも、その説明の半分以上は頭に入ってこなかった。急に入院しなくちゃいけなくなって不安だったし、なんか自分よりも幼い……いや、若い先生から治療の事を説明されても、なんだか恥ずかしくてうまく呑み込めないんだ。
「シンせんせー、聞いてる?」
「あっ、はいっ!すいません……」
「とりあえず、今日からお薬出しとくね、ってことで!あと、はいっ!これカレンダー!オネショとかオモラシとかしちゃった日はね、バツつけるのっ!おっけー!?」
「えっ!?あ、はい……、で、でも、僕、普段はオネショなんて……」
「……ふぅーん?」
僕の言葉にチヨ先生は半目になって、「ニンマリ」という表現がよく似合う笑い方をする。この笑い方知ってる、絶対何か企んでる顔だ、子ども達がイタズラしでかす時によくする顔と一緒な気がする。
「じゃあ、こうしよっかー。そんなに失敗しないって言うなら、もし失敗したら失敗した日の数だけ、一歳ずつ扱いを下げるっていうのは?」
「へ……?」
「だって、大人のシンせんせーは、オネショなんてしないんだもんねー?ってことは、オネショしちゃうシンせんせーは子どもってことでしょ?ホントはいきなり保育園児扱いしてもいいんだけどぉ……?」
「ぐ、ぐぅ……」
袖の余った白衣を口元にあてて、チヨ先生はいたずらっぽくニヤリと笑う。なんだか、さっきからすごくバカにされてる気がするんですけど。でも、一人前じゃない、なんてもう言われたくないし、僕だって……!!
「い、いいですよ……!!僕、頑張りますからっ」
「ふふっ、いいお返事だねーっ、シンせんせー!じゃあ、今夜から頑張ろうねー!」
――こうして、僕のオネショ治療が始まったんだ。
* * * * *
「んっ、ふっ、ふっー、おはよー、シンせんせー」
「う、うぅ……、チヨせんせぇ……」
あんなに大見え切ったのは、良かったものの。
「これで、入院してから二日連続でオネショしちゃいましたねぇ?ちゃんと昨日トイレ行ってから寝るようにしましたかぁ?」
「う……、ちゃ、ちゃんと行ったんですけど……」
「じゃあ、これはどうしたんでしょうねぇ?」
「…………」
起きて間もない僕が、オムツの中の洪水に気付いたのがついさっき。それから、看護師さんにナースコールして、新しいオムツを持ってきてもらう間に、今朝も様子を見に来たチヨ先生に見つかってしまった。
それも、オネショでたぷたぷなオムツ姿を。
「シンせんせー?いや、シンさん・・?」
「う、うぅ……、ご、ごめんなさい……」
病衣のズボンも隙間から少し漏れたオシッコで濡れてしまっていたので、替えを看護師さんに頼んだら持っていかれてしまった。その矢先に、隠す間もなく登場したチヨ先生は、間違いなく確信犯だと思う。うぅ……、こんな恰好で見つかってしまうなんて……、最悪だ。
「こんなにタプタプになるまで起きないなんて、オネショの治らない子どもと一緒だよー?」
「んにゃっ!?せ、せんせぇ!?」
チヨ先生はからかっているのか、ベッドの端に座った僕のオムツをぺちぺちと叩いてくる。や、どれぐらい出てるのか確かめてるだけかもしれないけど、こ、これは、ちょっと……!?
「ふふっ、でもこれで、次失敗したら“成人式”だからね?シンさん?」
「う、うぅ……」
これで、二日連続。もう、これ以上は失敗したくない。
「せ、せんせぇ……、僕ってどこが悪いんですか……?どっか身体が悪いんじゃ……」
「うぅーん、それなんだけどぉ……」
チヨ先生は手に持ったバインダーを開くと、ペラペラと紙をめくってふぅん、と唸る。こうやってみると、ちゃんと医者っぽいところもあるんだな、と僕は思った。……口が裂けても言えないけど。
「検査上、どうも腎臓とか膀胱に悪いところはなさそうなんだよねぇ……、背中の神経の方も問題なさそうだし。そうだなぁ、しいて言うなら、ちょっと括約筋の力が弱くなってるかなぁ、ぐらいで」
「は、はぁ……、じゃあ、僕は……」
身体が悪くない、というなら、一体どこが悪いんだろう。
「初診の時にも説明したんだけど、たぶん身体的な問題じゃなくて精神的な方が原因だと思うんだよねー、つまり心の問題。身体が悪い人はそっちを治せばすぐに治るから問題ないんだけど、心の方は原因を取り除くのも一苦労だからねぇ、簡単には治療できないわけ。だから一応、特別矯正コースをお勧めしたんだけどね?」
「こ、心、ですか……」
最近忙しかったから、てっきり体調を崩しているだけのものだと思っていたのに、心って……?僕、何か心配ごとでもあったかなぁ?
「ただね、そっちはボクよりも、ちょーっ、優秀な先生がいるからねっ!今回はその先生にちょっと手伝ってもらうことにしたんだ!」
「え、そうなんですか?」
チヨ先生が優秀っていうぐらいだから、本当に優秀な先生なんだろう。でも、どんな先生なんだろう……?
「このあとカウンセリングの予定が入ってるから、たぶん看護師さんが部屋まで連れてってくれると思うよー!」
「わ、わかりました……」
「じゃっ、しっかり朝ごはん食べて、今日も頑張ってねっ!その前に、オネショしたオムツ替えないとだけど!」
「……ぅ、は、はい……」
はっ、となって、僕は病衣の上を引っ張って、丸だしになっているオムツを隠した。すごく今更感でいっぱいだけど。でも、丸出しになっているよりは、幾分マシな気がした。
「じゃ、カウンセリング終わったらまた結果聞きに来るからねー!あっ、そうだ」
チヨ先生は、僕のベッドの枕元にあるカレンダーに手を伸ばすと、赤いペンで「×」印をつけていく。
「う、うぅ……」
「それじゃ、またあとでねっ!」
ふふんっ、と鼻歌を歌って、チヨ先生はさも楽しそうに部屋から出ていく。――入れ替わりにやってきた看護師さんと目が合って、すごく気まずかった。
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Bパート
朝食を取って一息ついていたところに看護師さんが呼びに来て、僕はチヨ先生が言ってたカウンセリングの部屋へ重たい足を運んだ。身体に異常がなかった、ということは、やっぱり心の問題なんだろうか。そんなこと言われても、あまり思い当たる節もなかったし、よくわからない。そんな、僕自身でもわからないようなことが、わかるんだろうか。
「あぁ、チヨスケ先生から話は聞いておるよ。初めまして、ワシが医師のシラヌイじゃ、よろしく」
「あ、はい……、よろしくお願いします」
診察室の隣にある部屋で待っていたのは、初老を迎えたころのフクロウの先生だった。シラヌイ、と名乗ったその先生は、眼鏡の奥からニッコリとほほ笑むと、僕にソファーをすすめてくれる。なんだか、ふかふかしていて、すごく気持ちがよさそうなソファー。あんまり深く腰掛けると沈み込んでしまいそうで、僕はちょっと前かがみになるような形で端っこに座る。
「ふふふ、そんなに堅くならんで構わんよ?今日は話を聞くだけじゃからな」
「は、はぁ……。でも、話って言われても、僕、あんまり思い当たることがなくって、何を話していいのやら……」
「ふむ、そうかの。しかし、ワシのところにくる患者はだいたいそんなもんじゃ。じゃから、心配せんでもええよ」
シラヌイ先生は朗らかに笑うと、椅子から立ち上がった。よく見ると、この部屋は手狭ながらに流し台やガスもあって、やかんから湯気がたっていた。シラヌイ先生は、ガラスのポットにお湯を注ぐと、透明なカップとポットをもって席に戻ってくる。
「特性のハーブティーじゃ、いかがかの?」
「え?あ、ありがとうございます」
「ふふっ、蒸らしておるからもう少し待っておくれ?ほら、いい香りじゃろう?」
「あ、ホントだ……、いい匂い……」
なんだろう、不思議な香りだ。甘いような、酸っぱいような、嗅いでいるとさっきまでのざわついた感じがすっと取れていくような気がして。いったい、どんな味がするんだろう?
「さて、ワシの専門は話を聞くことじゃ。しかし、うちにくる患者のほとんどが抱えとる悩みはの、ひとに話しにくい話題が多かろうて。だからの、ちょっと話しやすいように、リラックスしてもらうようにしておる」
「そうなんですね……」
「さて、そろそろ淹れようか」
ポットから注がれたお茶はそれほど色は濃くなく、オレンジ色をした明かりの中でほのかに茶色く色付いて見える。透明なカップの上を、湯気がゆらゆらと、気持ちよさそうに上っていく。
「お口に合うといいがの」
「……いただきます」
鼻に近付けると、さっきよりも強く、でもふんわりと、不思議な香りでいっぱいになる。花?果物?なんだろう、でも、すごく、いい香り……。
口に含んだお茶は、ほんのり甘酸っぱくて。
「美味しい」
「ほほ、それは良かった。さて、もう少しリラックスしてもらおうかの。深く腰掛けてごらん」
「は、はい」
先生に言われるがままに、僕はカップをテーブルに置くと、深く腰掛け直した。ふんわりと沈むソファーは、僕の背中を包み込むように受け止めてくれて。座る、というよりは、背中を起こして横になる、という感覚の方が近いかもしれない。
「いい子じゃ。さ、もう一口含みなさい」
「あ、はい……」
差し出されたカップを受け取って、僕はまた一口飲む。
「カップはお膝の上に置いて、そう、温かくていい気持ちじゃろう?」
「は、はい……」
「そうじゃ、湯気もずいぶん気持ちよさそうじゃ。ほら、ゆらゆらと、柔らかく、温かそうに揺れておる」
「はい……」
先生の声は静かで、とても暖かくて。……どうしよう、なんだか、眠たく
「まだ、肩の力が、入っておるのぉ。どれ、抜いてみようか。そうじゃ、だんだんソファーに背中を預けて、身体が、沈む」
「ぁ……、はい……」
「ふふ、いい気持ちじゃなぁ。だんだん、身体の力が、抜けていくぞ……、お尻が、ソファーに、沈んでいく……、太ももも、ふくらはぎも……」
「ぁ……、ぅ……」
* * * * *
ふむ。随分と素直な子とみえる。こんなに簡単に催眠にかかるとは。
ソファーに掛けたまま、くったりと首をうなだれた若獅子の膝からカップを取り上げると、ワシは椅子に掛け直した。
「さて、シンくん。キミが覚えている中で、最後にオネショをしたのはいつかのう……?」
「……けさ?」
「そうじゃな、今朝もオネショはしておったな。……そうじゃな、ワシが聞きたいのは、大人になる前の話じゃ。覚えている、最後のオネショはいつかのう?」
「……ようちえん?」
まぁ、そうじゃろうな。この子は恐らく、ごく順当に成長してきたんじゃろう。オネショの経験も、小学校になってからはなかったはずじゃ。
「そうかの。保育園でみんなが寝ておる姿は、気持ちがよさそうじゃったなぁ……?」
「……はい」
「中にはオネショをする子もおったじゃろう。その子らは、オネショをするのが恥ずかしそうじゃったかな……?」
「……いや?」
「そうじゃなぁ、その子らは、オネショをするのは当たり前じゃ。オネショをしているその子らは、気持ちよさそうだったかのぉ?」
「……はい、きもちよさそう、でした」
「では、シンくん。お主は、オネショをするのは恥ずかしいかのぉ?」
「……はい」
「そうだのぉ、それはお主がオトナだから、じゃのう。」
「……はい」
「じゃが、オトナはオネショをするかのぉ……?」
「……いいえ」
さて、チヨスケ先生のリクエストは……。ふふ、あの子もなかなかにえげつないのぉ、さすがは帰国子女の天才児。同級生を嵌めて堕としただけのことはある。
「では、オネショをするシンくんは、オトナかのぉ……?」
「…………」
「ふふ、そうじゃのぉ。恥ずかしいじゃろう、認めたくないじゃろう。じゃがのぉ、それでいいんじゃ。お主は、ゆっくり、ゆっくり、子どもに戻っていけばよい。オネショをするたび、お主は子どもに返ってゆけばよい。子どもはオネショをするのが普通じゃろう?」
「……はい」
「では、ゆっくり、一日ずつ、子どもに返ってゆけばよい。オネショをするのが普通になるまで、返ってゆけばよい。それは、何もおかしなことではないのじゃ」
「……はい」
「大丈夫じゃ、チヨスケ先生は優しいぞぉ?お主がオネショをするのが普通になるまで、ちゃあんと面倒を見てくれるからのぉ?じゃから、何もおかしなことはない、お主は、ここにおっていいんじゃよ……」
「……はい」
これで、いい。あとはチヨスケ先生がうまいことやるじゃろう。ふふ、この子がどんな風になるのか、楽しみでならんわい。
「……さて、もうすぐワシとのお話は終わりじゃ。しかし、ここで話したことは、お主は覚えておらんじゃろう。お主はいい子じゃ、チヨスケ先生との約束は、ちゃあんと守るいい子じゃからな。ちゃんと、言うことを聞くのじゃよ?」
「……はい」
「じゃあ、そろそろお部屋に帰ろうかのぉ。ゆっくり、ゆっくり、目を覚ますのじゃ……」
* * * * *
「……あれ?」
こぽこぽ、と遠くでお湯を注ぐ音がして、僕は目を覚ました。ぼんやりと、オレンジ色の明かりが目に入ってきて、ふわりと香るレモンのような香りが、僕の鼻をくすぐる。
「僕は……」
「おや、目が覚めたかの?」
ソファーから身体を起こすと、初老のころのようなフクロウの先生が、丁度お茶を持って戻ってくるところだった。
「あ、あれっ!?し、シラヌイせんせぇ!?ぼ、僕は!?」
「ふふ、ワシと話しておったらの、安心したのか眠ってしまったんじゃ。気持ちよさそうじゃったからの、そのまま寝かせておいたんじゃが……」
「う、うぅ……ごめんなさい……」
僕はソファーから起き上がると、少し前の方に座り直した。……と、同時に、お尻の方で「ぐしゅ……」となった感覚に、思わず顔をしかめてしまった。
「あ……」
「んん?どうしたんじゃ?」
「う、うぅ……、な、なんでもありません……」
「ふふ、チヨスケ先生には内緒にしておいてあげるから、言ってごらんなさい?怒りはせんよ?」
「う……」
シラヌイ先生は、眼鏡の奥で目を細めると、ずずっ、とお茶をすすった。うぅ……、どうしてだろう、この先生には何もかも見透かされてるような気がしてしょうがない。
「……オネショ、しちゃったみたい……です……」
「おや、そうかの。ほほ、偉いぞ、シンくん。そうやって素直に言えるにはいいことじゃ。」
「う、うぅ……、ご、ごめんなさい……」
だめだぁ……、そんなに長いこと寝てたわけじゃないはずなのに、それも先生の前でオネショしちゃうなんて、本当に僕はどうしちゃったんだろう……。
「ふふっ、さぁお部屋に帰って看護師にオムツを替えてもらっていらっしゃい。カウンセリングの結果はまたチヨスケ先生に伝えておくからの」
「は、はい……、ありがとうございました」
僕はすっかり重たくなったオムツがずり落ちないか気が気じゃなかったけど、シラヌイ先生にお辞儀をして、ソファーを立った。ちょうど迎えに来た看護師さんに部屋まで連れて行ってもらって、ため息をつきながら新しいオムツを貰うのだった。
* * * * *
「ふっふっふーっ、おっはよー、シンさーん」
「う……、ち、チヨせんせぇ……」
翌日。布団にくるまって看護師さんを待っていた僕のところに、ニヤニヤしながらチヨ先生がやってきた。手には赤ペンを持って、長い尻尾を左右に振って、すごくご機嫌だった。
とてもブルーな、僕の気分とは反対に。
「今日はどうだったのかなぁー!?」
「うぅ……、せんせぇのイジワル……、どうせ知ってるくせにぃ……!!」
「あれれぇー?ってことは、今日もオネショしちゃったのかなぁ?ふふっ、シンさん、これで3日連続だよぉ?そろそろ、言い訳利かなくなってきたんじゃなーい?」
「ぐ、ぐぅ……」
僕は布団をぎゅっと合わせると、チヨ先生からぷいっ、と目を背けた。だって、今日も看護師さんがズボンを持って行っちゃったままだから、この下は……
「さて、これで今日はシンさんの“成人式”だねぇ?いや、子どもになってくんだから、“小児式”かなぁ?」
「く、うぅ……、そ、そんなぁ……」
「これで20歳だからぁ……、オトナとコドモ、どっちつかずだねぇ?ふふ、でもこのままだと、すぐに18歳も過ぎちゃいそうだねぇ?ふふっ」
「そ、そんなこと、ないぃ……、くぅ……!!」
白衣の袖で口元を押さえて、ニンマリと笑うチヨ先生に、僕はむぅ、と口をとがらせた。うぅ、なんでこんな子どもの先生に言われなきゃいけないんだよぉ……。
「あぁ、シラヌイ先生からカウンセリングの結果聞いたよー。やっぱり心の問題みたいだねぇ?」
「そ、そうなんですか……?」
「とりあえず、今日からお薬を少し変えて様子をみるようにするからね!じゃあ、今日も頑張ってねー」
「う、うぅ……、わ、わかりましたよぉ……」
カレンダーにバツ印をつけたチヨ先生は、元気よく手を振ると、嵐のように病室から去っていく。
――はぁ……、僕のオネショ、いつまで続くのかなぁ……。