SamSuka
テリーヌテラー
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基本的小人権

約80年前。 我々人類は新たな大陸を見つけた。 モール大陸と名付けられたそこで見つけたのが小人だった。 身体の大きさが1/100程度しかない小人は我々に驚きつつも、領土を求めて戦争が勃発。 当然我々の勝利で終わった。 その後は小人は売買され、観賞用や奴隷用に取引されたが、約30年前から小人への人権を尊重するという運動が盛んになり、現在では小人に対しても基本的小人権を与えられるようになったのだった。 「はぁ、また先生に怒られたよ。 あのゴリラめ、うぜぇ」 赤い髪をした人間族の少年、焔(ほむら)はゲンコツされた頭を手で撫でながら自席へと座った。 はっきりとした目鼻が人々の視線を集めてしまう。 「そりゃ体育の時間に小人を踏み潰しちゃうからでしょ」 そう返したのは後ろの席の茶髪の人間族の少年、宗助(そうすけ)。 見つめられると吸い込まれてしまいそうなクリクリとして大きく整った瞳がチャームポイントだ。 人間と小人はお互いを差別しない世の中にするために同じ空間で過ごしているのだ。 学校も同じだし、クラスにも人間と小人、両方が所属している。 だいたい人間10人と小人100人のクラスが多いが、人数調整でクラスが変わることもしばしばあった。 「俺のせいじゃねぇよ。 せっかく柔道の試合に勝てそうだったのに。 小人踏んづけたせいでヌメってバランス崩して負けたんだぞ」 ドスンと不服そうに座り込む。 「ちゃんと足元見ないと」 「試合中にそんな余裕あるかよ。 足の裏も体液で汚れて、畳も綺麗に掃除させられた。 畳の隙間に入ったシミはなかなか落ちないんだぞ?」 「経験者は語る。 だね!」 「うるせぇ!」 基本的小人権には小人の命を守る為の最低限の権利が定められている。 そした基本的小人権を基準にした小人に対する人間の法律も存在するのだ。 小人を殺害した場合、その遺族に対して慰謝料を1万円支払うことになっている。 ただ、これはあくまで成人以降の話であり、子供の場合、まだ倫理観が成熟していないとして少年法により罰則規定がなく、代わりに教師がしっかりと道徳を教えることが義務付けられているのだ。 「今月何人踏んだの?」 「6人だよ」 「うわぁ、そりゃ怒られるわ笑」 からかわれた焔はムッとしながら後ろを振り返り、宗助の顔をじっと睨みつけながら口を開いた。 「お前だって踏み潰したろ!」 ムキになった焔に対して余裕たっぷりとした表情の宗助。 「僕は2人だけだもん♪ 焔が怒られてくれるから、クラスのみんなとっても助かってるんだよ♪」 「うっせえ! くそ!」 焔はバンと机を叩いて顔を埋めた。 「あらら、いじけちゃった」 「つーかよぉ、足元でチンタラとちょろちょろしてる小人の方が悪いだろ? なんで踏んづけた俺たちが怒られなきゃいけないんだよ。 不公平じゃね?」 「そういう決まりなんだから仕方ないでしょ。 大人になったら罰金払わせられるかもしれないんだから、今のうちに慣れておかないと」 「決まり決まりってなんでそんな決まり作るかなー」 基本的な授業は合同で行われているが、体育はそれぞれ分かれて行われる。 当然だ。 一緒にやったらゲームにもならない。 しかし、昔からの名残で基本的に人間用のスペースしかないので、同じ区画でそれぞれが体育の授業を受けることになっているのだ。 その為、体育の授業の時には事故が発生する事が多い。 また、通常の授業時も小人は人間の机の下で授業を受けることになっている。 こちらも小人に確保してあげられるほど、教室が広くないからだ。 そのせいもあって、人間が足を投げ出したりした時に誤って潰してしまうという事も時々起こる。 さらには教室移動や廊下も共有のために、度々事故が発生するのだ。 足元には注意すること。とされているが、毎日過ごしていれば仕方のない時もある。 「おい! 小人ども!」 怒った表情で小人を見下ろす焔はビクッと反応する小人達を見て、話を続けた。 「お前らがトロいから俺が怒られたんだぞ!! 踏んだ俺らより呑気に踏まれるお前らの方が悪いのに!! 今度からは踏まれないように俺が鍛えてやる!!」 小人達がざわつく。皆顔を引攣らせながら顔を合わせた。 しかし、焔は無視して進める。 「今から俺がこの教室内を歩き回る。 お前らは潰されないように逃げ回る。 良いな? これはあくまでお前らのためにやるんだ。 先生にチクったりしたらそいつを必ず見つけて踏みつけてやるからな?」 小人に拒否権などない。 それは小人が一番分かっていたようだ。 小人は人間の意見に逆らう事なんてできないのだ。 恐怖に顔を歪めながら、子グモが散るように駆け出した。 それを見た焔はにやにやと見下ろすのだった。 「いいね〜、みんなやる気満々だな。 こうでなくっちゃな!」 焔はズシンとわざと体重をかけるように一歩を踏み出した。 木で出来た床がギシッと歪む。 その揺れに何人かの小人が転倒してしまった。 「おっと!」 既に2歩目を踏み出していた焔は、倒れていた小人をなんとか避けて着地した。 ドシン! 人間でも十分に聞こえる程の衝撃が床に走る。 揺れが収まり、恐る恐る見上げると鋭い眼光で睨みつけている焔の姿があった。 足先がかすってしまうくらいの距離に投下された巨大な足を見て泡を吹く小人が続出してしまった。 「あっぶねぇなぁ! ……分かった。 お前ら本当にトロすぎなんだわ。 これから30分休みは毎日俺が稽古つけてやるからな。 お前ら覚悟しとけよ?」 そこまで言うと、焔は満足気に席へと戻って着席したのだった。 ぼーっと見つめる先には小人達。 何故か未だに小人はフィギュアのごとく固まって動かない。 そんな小人達を見つめていた焔はあることに気が付いた。 「え? お前らもしかして漏らしてる??w」 失禁した小人達の姿を見つけたのだ。 「おいマジかよw この年になってお漏らしかよw 冗談じゃないぜw 恥ずかしい奴らだなお前らw そんなに沢山いるのに俺1人にビビってんの?w ざっこw」 そんな煽りを他所に、小人達の動きはない。 皆腰を抜かしてしまっているようだった。 「あーあ、こんなクソ雑魚みんな踏み潰しちゃえば良いのにさ。 足元ちょろちょろして邪魔なんだよ」 ボソッと呟いた焔に対して返事をしたのは宗助だった。 「ちょっと言いすぎだよ。 そういう事言ってると差別的発言ってまた先生に怒られるよ?」 「あぁ、そうか。 危ねえ危ねえ。 今の冗談な?」 こうしてひと段落ついた焔のクラス。 その日は誰も被害が出ずに下校する事が出来た。 「じゃあね、焔」 「じゃあな、宗助」 宗助の家は裕福ではないものの、特に生活には困らないくらいの余裕がある。 しかし、共働きで両親共に帰りが遅い家庭だった。 そんな静かな自宅の中で宗助は自室で過ごす事が多かった。 「ただいま。 って、誰もいないか。 でも…」 宗助は帰宅するなり軽い足取りで自室へと赴いた。 ここには宗助の楽しみが待っているからだ。 「ただいま、みんな! 元気にしてたかい?」 薄暗く静かな部屋の中を覗き込んで声をかけた宗助。 パチっと電気を点けてズンズンと奥へと向かっていく。 「遊びの時間だよ」 そう話しかける宗助の目線の先には水槽。そしてその中に多数の小人の姿があった。 「ここから出せ!!」 「こんな事をして良いと思っているのか!!?」 「これは犯罪だぞ!!!」 水槽の中の小人達が一斉に叫び始めた。 そう。 小人を監禁する事は法律により禁止されているのだ。 しかし、宗助は抗議の様子を眺めた後、にっこりと微笑んで、口を開いた。 「犯罪? あのね、僕は子供だからね。 罪には問われないの。 小人さんの頭脳では理解出来ないかな? それにね、ここに閉じ込めている事を誰に知られるとでも思うの? ここは僕の部屋さ。 誰も助けになんて来ないし、君たちが閉じ込められている事なんて誰も気付かない。 そもそも、こうなったのは子供なんかに捕まっちゃう君たちのせいじゃないか」 小人達の抗議の叫びが静まったが、宗助は気にせずに続けた。 「僕に逆らって良いことなんてあったかい? 今君たちの全ては僕が握っているんだよ? 僕より何年も生きてきた君たちならそれがどういうことか分かるよね? それとも、君ら小人達ではそれも理解する事は出来ないのかい?」 前のめりで抗議していた小人達が血の気が引いたように一歩後ずさりをした。 「ねえ?」 にっこりと見下ろして可愛く笑うその顔には闇より深い影が刻まれていた。 ブルブルと震える小人を眉一つ動かさずに見つめていた宗助はそのまま続けた。 「僕の遊びに付き合ってくれるかい?」 問いかけに対して小人たちは必死に頷く。 もし断りでもしたらどうなるか分かっているからだ。 前に勇敢にも嫌がり抵抗した小人がいた。 宗助の脅しにも屈せずに、小人の人権を訴え、やめるように主張したのだ。 しかし、その人の末路は散々たるものだった。 宗助に摘み持ち上げられた彼は、足の指先から順々にゆっくりと握り潰されていったのだ。 メキメキバキッという身体中の骨が砕ける音。 身体の先から潰されていくが死ぬに死ねずに響き渡る断末魔。 それをにこにこと一切の表情を変えずに淡々と行っていく宗助の姿はこの世のものとは思えなかった。 宗助がこのような人間になったのは3年前。 宗助の鞄の中で見つけた小人の存在がきっかけだった。 家に帰って鞄を開けたら、弱り切った小人を見つけた宗助。 どうも、宗助が鞄に「がさっ」と物を入れた時に巻き込まれたらしい。 その後は宗助の歩みによって揺さぶられ、現在に至るというわけだ。 宗助は明日学校に連れて行くと約束をしていたが、朝には小人を連れて行くのをすっかり忘れて登校してしまった。 そこで気が付いてしまったのである。 小人が1人消えても、誰も気にも留めないという事に。 小人はその日のうちに行方不明という事で処理された。 捜索される気配すらない。 そう、小人の人権など名前だけ。実際に機能なんてされていなかったのだ。 両親がおらず、寂しい思いをしていた宗助が小人に依存するのはそう時間はかからなかった。 嫌がる小人を無理やり可愛がり、そして踏み潰した。 ゾワゾワと沸き立つ背徳感。生にしがみ付き必死に嫌がっていた小人が一瞬にして赤いシミに変わるのだ。足の指の間から滲み出てくる小人の血液に、宗助は酔いしれてしまったのだった。 それからは小人を誘拐してはこっそりと自室で飼い続けていたのである。 「焔も馬鹿だなぁ。 小人と遊ぶならこうすれば良いのに… ねえ、みんな?」 小人たちはうんうんと無言で頷く。 「みんな僕に踏み潰されるというのに… 必死に生きているんだね。 助かるとでも思っているのかな? ふふ… 可愛いなぁ」 ギラリと綺麗に光る宗助の白い歯は、悪魔のそれよりも恐ろしかった。 「さて、今日はどう遊ぼうかな?」 宗助は服をゆっくりと脱ぎ始めた。 ぷるんとハリのある綺麗な白い足や腕があらわになる。 爪も綺麗に切られて美しい。 まるで彫刻のような優美さである。 パンツ一枚になった彼は、一日中履き潰した靴下をつまみあげて、小人の方へと振り向く。 「はぁ、それより君たちにお水を与えていなかったね。 この靴下はたっぷりと僕の汗を吸ってグッショリ濡れているんだ。 君たちには十分過ぎる水分だよね?」 脱ぎたてほかほかの靴下が水槽の中に投げ込まれた。 一瞬にして宗助の足の臭いで一杯になる水槽。 鼻をつんざく強烈な臭いに小人たちは顔を歪めた。 しかし、小人たちは宗助が何も言わないうちに、宗助の靴下に群がり、しゃぶり始めた。 生きるため。 生きるためなのだ。 小人の一生分の雑菌が繁殖した少年の靴下に、泣きながらしゃぶる小人。 その姿を見て宗助はハァハァと息を荒げた。 優越感、自尊心、ブライド。 これら全てがくすぐられるこの感じ。 “やめられない” 「僕なら僕の靴下に口を付けるなんて出来ないなぁw 君たちは靴下以下の存在なんだね? いや、僕が神さまなのかな?」 「お水を飲んだら塩分も必要だよね?」 今度は両足を水槽の中に突っ込んだ。 両足を入れるだけで一杯になってしまうほどの大きさの水槽。 そんな中に沢山の小人が生活しているのだ。 宗助の両足で塞がれた水槽の壁面は熱気で曇り、一段と強い異臭が充満した。 「早く舐めてよ」 その言葉を皮切りに、小人たちは一斉に天井を舐め始めた。 すっぱくしょっぱく、そして苦い。 美味しいわけがない。だが、小人は必死に舐め続けた。彼が機嫌を損ねて天井が下がってくる事を恐れて。 「あはは! くすぐったい!」 微細な刺激に思わず足をくねらせた。そんな微小の動きによって足指の間を舐めていた1人の小人の頭が、巨大な足指に挟まれてミニトマトのように破裂した。 それでも小人は動じずに舐め続けた。1人の少年の欲求を満たす為だけに。 「あー、気持ち良かった。 もういいよ。 ありがとう」 さわやかな笑顔で小人を見下ろしながら足を退けた。 天井がひらけて、暖かな光が差し込んだ。 冷たく新鮮な空気が入ってくる。 小人たちは試練をクリアしたと、安堵の表情を見せ合った。 今がまるで天国のような。 そんな気持ちにさえなれる。 小人たちの姿に喜ぶのは宗助。 満足気にうんうん、と頷いた。 「明日は僕と追いかけっこだよ♪」 小人の地獄は毎日訪れる。


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