「で? それは何かな?」 「えっと、だから、宮殿のカケラで…」 ポリンの鋭い目つきで睨まれておどおどとしているマグ。 体格では小さなポリンだが、無表情での睨みつけは恐怖のオーラを感じてしまう。 「クルスス王国には攻撃してはいけないって言ったよね?」 「……ごめん……」 「ごめんで済む問題かい? クルスス王国の国民は君に殺されてしまったんだよ? それに…… この国の人も、数百人… 亡くなってしまったよ」 「え………」 勢いでやってしまった。 だからこそ事実と現実をうまく理解していなかったのだ。 「殺人罪…… 僕は君を裁かなければならない……」 「そ、そんな……」 「けれど、これは僕にも責任はある事だから、僕らはこの国の平和のために命を捧げる。 これが僕らの罰」 「……」 「君はクルスス王国内を歩き回っただけなんだよね? それなら、まだ生き残っている人たちがいるかもしれないし、一国が滅亡したという事は、世界の微妙な均衡が破られた事になる。 攻撃を仕掛けたのは僕、アッセンジオ公国。 クルスス王国と同盟を組んでいた国から報復を受けることも考えられる。 それに、その土地。 その土地の所有権を巡った争いが起きることは確実さ。 とにかく、君はもう一度クルスス王国へ行って、様子を確認してきておくれよ。 今回は君1人じゃなくて、ルークくんと一緒にね」 興奮し過ぎてオナってしまっただなんて言えるはずもなく、マグはゆっくりと首を縦にふったのだった。 マグはルークと合流すると、馬にまたがってクルスス王国へと向かった。 道中には前回マグが作った足跡が残っている。 人1人の身長なんかよりももっともっと深いクレーター。 50m近くあった巨大な足で付けられた足跡は、人の力で出来たものとは思えない広大なものだった。 「これがマグの足跡だな」 「うん、そうだね」 「こんなに大きな足跡… 人がこんなにもデカくなれるものなのだな。 私も体験したいものだ」 「や、やめといた方が良いよ…」 「そうか?」 クルスス王国へと近づくにつれて、ある匂いが漂ってきた。 腐敗臭だ。 踏み潰された人々が腐った臭い。 しかし、それだけではない。 マグの精液が渇いた生臭さ充満してきていた。 「うむ、酷い臭いだな」 「く、腐った臭いだね」 「うむ、それもそうだが、それとは別の何か…」 「い、いや、腐った臭いだね」 「そうか?」 「そうだよ」 到着した頃にはそれらの臭いは強烈なものになっていた。 思わず鼻を抑えてしまう。が、そんな事をしても、辺り一帯が臭いで埋め尽くされているこの状態では、臭いから逃れる術はなかった。 街中に入っていくと、この世の地獄が待ち受けていた。 クレーターの下にはミンチにされた人々。 下半身や上半身、右半身や左半身、それぞれのみが潰された死体もゴロゴロと転がっていた。顔の一部が潰れて目玉が飛び出してしまっているものすらある。 そしてそれは皆、カラスに啄まれ、虫が集っていた。 それを見て、マグは気分が悪くなってきた。 グロテスクなものを見たからというだけではない。 これを全て自分がやった事であったからだ。 オエーと胃酸を吐いてしまった。 「ちょっと休むか?」 「い、いや、大丈夫… それよりお前は大丈夫なのか?」 「私はまぁ…… 大丈夫なら、調査を開始するか」 「おう」 マグらは国中を探索した。 正直こんな所に人が残っているとは思えなかった。 ポリンもまさかこんな状態になっているのだとは夢にも思っていなかったのだろう。 「この所々にカピカピしたものがあるのはなんだ?」 太陽の光に照らされてキラキラと光る渇いた粘液を見つけてしまったルーク。 「あ、あ! そうだ! 巨大なスライムが出たんじゃないかなー? その粘液が渇いて…」 「うわ! くさ! さっきから漂っていた変な臭いはこれみたいだ。 スライムの粘液とはちょっと違うような…」 もう少し歩いていくと、更に地獄が待っていた。 マグにとっての。 白い粘液の塊の中で溺死したであろう死体があったのだ。 渇いた粘液の中で、大変に苦しんだ表情で死んでいる。 粘りくる粘液が顔面を覆い、呼吸も出来ずにもがいて亡くなったのだろう。 踏み潰したり、すり潰したり、そういう殺され方をされていた一方で、ビュっと非意図的に放出された精液で苦しんで死んでいただなんて思いもしなかった。 「やっぱりおかしいよこれ。 スライムの粘液とは思えない。 マグ、あんたはこれを知らんのか?」 「え、え、いや、その……」 「何か知ってるんだな!?」 「いや、えっと、それは……」 「原因はなんなんだ?」 「……ポリンには言わない?」 「事によっては言わないわけにはいかない」 「じゃあダメ!」 「ほう、そうか、なら、そうボスに伝えよう」 「や、ちょ、待って!」 「ん?」 「こ、これは白いスライムがいたんだ! それで俺が踏み潰してやったのさ」 「白いスライムだと? 新種か? ボスなら何か分かるかもしれないな。 少し採取しておこう」 「え、採取するの?」 「当たり前だろ?」 「そ、そうだよなぁ」 だらだらと滴れる汗を拭い取る。 いや、分からないよな? バレないよな? 大丈夫だよな? 焦る気持ちを抑え込み、マグはアッセンジオ公国へと帰宅した。 「酷い有様でしたよ。 それに、マグが言うには魔物の襲撃もあったみたいで、これ、白いスライムの粘液だそうです」 「白いスライム? 初めて聞くなぁ。 後で僕が観察してみるよ。 それからマグくん? 君はこれからお説教だよ?」 「……はい」 好き放題暴れてしまったマグはポリンに2時間しっかりとお説教をくらった。 やっと解放されたマグであったが、その後粘液を調べたポリンに再び呼び出され、しこたま怒られたのであった。