SamSuka
テリーヌテラー
テリーヌテラー

fanbox


私はかつて貴族だった

こんな過ちを2度と繰り返さないようにする為に、我々の国が滅びるまでの出来事をここに記す。 我々が昔、新大陸で発見した希少種、巨人。 3メートルはあろうかという巨体をしていたが、発達した文明はなく、服も着ずに木の実を食して暮らしていたようだ。 そんな彼らを制圧するのは容易かったろう。 悲劇はそこから始まっていたのだ。 我々はいつの日か、彼らをペットとして飼育するのが習慣となった。 それも、若くて美しく、少しでも大きな少年だ。 大きくて美しい少年を飼育していることは我々にとってはステータス。 それだけ食料や金銭に余裕があるという証拠になるからだ。 貴族はとにかく、彼らを美しく、大きくする事に拘り続けた。 近年では、5メートルから、10メートルを超える個体も少なくなかった。 しかし、我々は彼らに少し厳しくし過ぎたのかもしれない。 ところで、ペットの性別は男しか存在していない。いや、正確に言うと女も存在するのだが、我々が連れているのは男だけだったのだ。 それは何故か。 肉体的に非常に頑丈な彼らを簡単に制御するのに、彼らの性器を利用したからである。 彼らの陰茎と睾丸の根元には、鉄で作られた錠がされ、鎖で繋いで連れていた。 鎖にはスイッチ1つで性器が焼け焦げるレベルの高圧の電流が流れるようになっており、それで制御していた。 6歳になると、競りにかけられ我々の手元に届く。 そして、歳が16になる日、毒を盛ってその役割を終える。 ペットとして、若い子しか価値がなかったからである。 今となって考えてみたら、彼らの尊厳など考えることもなかったように思える。 曲芸の象と同じである。そう考えていた。 物心つく前から錠で繋ぎ、鎖の頑丈さと痛みを知らしめて、物心ついた頃には一切の抵抗もする事なく、我々を見ただけで震え、従順に行動するように成長するのだ。 彼らは連れ歩く時も、主人との位置関係を数センチでも前に出たり、遅れたりする事が許されず、きちんと主人の歩行に合わせて行動する事が当たり前であった。 貴族のステータスは彼らの大きさだけではない。 まずは見た目。 中性的な顔つきで、整い、落ち着いた美しい顔が好まれた。 また、身体も彫刻のようにすっきりとして流線的な筋肉を備えたもの。 そして、陰茎と睾丸の大きなものが好まれた。 陰茎と睾丸は家系の繁栄を表していたからだ。 そして、年齢。 当然若いうちから大きいものが好まれた。 金に余裕のあるものは、彼らが16歳になる前に処分して、次を購入するものもいた。 だが、大抵の人間はそこまで拘ることは出来なかった。 なにせ育成費がかさむため、大きな個体は価格が高い。 当然、より素晴らしいペットとして育て上げるのも相当な金がかかるのだ。 それをそう簡単には処分できやしない。 こういう私も17メートルはあろう巨人をペットとして飼っていた。 広大な土地から得られた穀物の多くを彼に注ぎ込み、見事な肉体美に成長してくれた。 それを私は連れて、平民に見せつけるように練り歩いたものだ。 それが当たり前だとすら思っていた。 13歳の彼は美しくかがやく金色の髪に宝石のようなブルーの瞳、柔らかでみずみずしい唇にスッと伸びた鼻がそれぞれ整い、可愛らしくもカッコよくもある顔つきだった。白くて美しい肌に程よく筋肉が付いており、常時1メートルはあろうかという大きな陰茎がぶら下がり、毎日丁寧に陰毛を剃ってやった。私の作った最高の芸術作品であった。 彼を連れ歩くと、土が固められて作られた道路には、彼の大きな足跡がつけられた。 太っているわけでもなく、ただその巨体の為の重量だ。 私は彼の膝にすら届かない。 産毛が生えて、スラッとした長い脚は程よく筋肉がついており、彼の巨体を支えていた。 更に、3メートル近くある彼の足は細く形美しく、かつ男らしい足だった。 そんな彼も、私が目配せをするだけで頭を下げて、どんな命令にもしたがった。 こうして私と過ごせる日々は彼にとっても幸せなのだろうと私は勝手に思ってしまっていた。 私のステータスを上げている、彼自身も幸せなのだと。 そんな事が間違えであったのは、今なら分かる。 しかし、当時の私には到底理解できるものではなかったのだ。 その日もいつもと同じように彼を連れて散歩をしていた。 ズシンズシンと彼の足跡をくっきりと付けながら。 彼ほどの価値のあるものを連れているものはなかなかいない。 大抵のペットが彼の胸あたりに顔がある、小さな巨人どもだった。 すくすくと育ってくれてこの私も鼻が高かった。 そんな平和な昼間に事件は起きた。 なにやら命令違反でもしたのか、14メートル程度の巨人に電流を流して指導している人がいた。 特に珍しい光景でもない。 怒鳴り声を上げながら、教育として電気を与えてあげるのだ。 私はいつもの景色として、気にもせず、歩いていたその時だった。 バリッと一段と大きな電流が轟いたかと思った瞬間、巨人は筋肉が麻痺してしまったのか、お尻から倒れ込んでしまったのである。 スローモーションでも見ているかのように見えた。 バリッとして巨人の足が震え、バランスを崩した。 宙に浮いた巨体のケツはそのまま飼い主の頭上へと移動した後、重力に引きつけられるように墜落してきた。 うわぁ!という悲鳴が一瞬聞こえたかと思った後すぐに、ドカっと飼い主の頭に巨大なお尻が激突し、飼い主は強い衝撃で倒れこみ、そして、その巨大なお尻の下に見えなくなった。 最後にドスーンという地響きが轟いて、辺りは一旦静まりかえったのだった。 何が起きたのか、誰もが理解出来ていなかった。 飼い主は巨人でさえ、理解出来ていなかっただろう。 いや、飼い主に至っては理解する機会すらもう存在しないはずだ。 その証拠が、砂煙が落ち着いて見えてきた巨人のお尻の下の様子であった。 吹き出した血液、弾け飛んだ肉片。 呆然と眺めるしかできない私に、ある記憶が蘇った。 さっきのドスーンという地響きの直前の事である。 小さく微かであったが、メリメリ、バキバキと身体が潰れる音。 一瞬の断末魔。 全てがすぐに地響きに掻き消されてしまっていたが、私にはこれが聞こえていた。 数秒間の間を開けて、尻餅をついた巨人は慌てた様子で立ち上がった。 飼い主を心配するように、お尻の下を覗き込んだのだ。 だが、そこにあったものは飼い主でもなんでもなかった。 肉や内臓、脳みそまで潰れ、骨は砕け、真っ赤な模様と化したものだった。 巨人は青ざめたように手を口に当てて絶句していた。 そりゃそうだ。これは重大なミスだ。 飼い主の命令無視は重罪だ。 1週間は貼り付けにされて…… いや、ちょっと待て…… その飼い主は今……? すぐさま高圧電流警棒を持った警察が2人駆けつけてきた。大声で怒鳴りつけながら警棒を巨人へと向けていた。 しかし、巨人は飼い主を踏み潰したショックで既にパニック状態になっていた。 刺激を与えるのは悪手であった。 巨人はおもむろに1人の警察を蹴り飛ばしたのだ。 ここからは1秒にも満たない時間である。 パーンッという破裂音とともに血液や肉片が飛び散った。そして、グシャッと肉の塊が壁に叩きつけられて、壁一面を赤く染めた。 唖然とする警察を他所に、巨人は足を向けて警察の上に足をセットした。 そして次の瞬間には、声にならない断末魔とともにバキバキと音がして、行き場の失った肉や血が、巨人の足と地面の隙間からニュルニュルと飛び出してきた。 そんな姿を見て、ようやっと人間にこの状況の危険さが理解できた。 私も含め、その場にいた人々が一斉に駆け出した。 我先に、死にものぐるいで。 しかし、走り出してすぐ、とてつもない力で左腕が後ろに引っ張られた。 バキッという音がして、激痛が走る。 身体ごと地面に叩きつけられて、あまりの痛さにのたうち回った。 左腕を見ると、肩が脱臼しているのは明らかだった。 なぜこんな事が起きたのか。 頭をフル回転ささて考える。 鎖だ。 私はこの巨人を結ぶ鎖に引っ張られたのだ。 私が走ったにもかかわらず、巨人が動かなかったからだ。 私の全力疾走で鎖を引く力など、彼にとっては小虫の力でしかなかったのだ。 彼は未だに飼い主殺しの巨人を見つめていた。 痛みで転げ回る私の事など見ていない。 気付いてもいない。 周りの人々も同じだった。 巨人が動かず、皆転倒していた。 そんな様子を、巨人はまじまじと見つめていた。 私の事も、ようやく気付いてくれた。 私を抱えて病院へ。 それが本来の正しい行動である。 当然、そうしてくれると信じていた。 なぜ?どうして?そう信じられる? 私の勝手な理想であったことは、今の私にはわかる。 あろうことか、巨人は無言のまま鎖を両手で掴むと、バチンという音を立てて、あっさりと鎖を引き千切ってしまったのだ。 そんなこと…… 鎖から解き放たれた巨人は私のことをチラリと見るなり、ドスンドスンとどこかへと走って行ってしまった。 裏切られた。 こんなにもずっと一緒に過ごしてきた彼に…… 私の味方であるはずの彼が…… 私はいよいよ恐怖に押し潰された。 左腕を抑えて走り、病院へ飛び込んだ。 そこからはよく覚えていない。 病院の看護師や受付に怒鳴り込んで怒鳴り込んで…… 私はいつのまにか気を失ってしまった。 気がつくと、外からドドドドドと大量の巨人が進行している地響きが鳴っていた。 あの事件をきっかけに多数の巨人が自分の力に気がついてしまったようだ。 人間など簡単に踏み潰せるし、繋がれた鎖も軽く引きちぎる事が出来る。 これほどのパワーを持っているとは、本人どころか、我々も把握していなかった。 巨人をでかくし過ぎたのだ。 私は病院のベッドの中で震える事しか出来なかった。 あの自慢の彼も今じゃ私の敵である。 ただ立っていただけで私の肩を脱臼させるような力。 敵うはずもない。 とにかく今は、早く軍が制圧してくれる事を願って隠れる事しか出来ない。 嵐を過ぎ去るのを待つ人々のように。 外では人々の悲鳴や、建物が破壊される音、メキメキグチャっと何かが潰れる音、巨人の叫びが絶えず響き渡っていた。 どんな悲劇が起こっているかなど、平和ボケした私には理解できなかったが、人が巨人の足で潰されて肉片になった光景がまぶたの裏に強く焼きつき、それが何度も繰り返し再生される。 頭がおかしくなりそうだ。 そのうちに軍隊が到着したのか、銃撃や爆撃の音が聞こえ始めた。 これで助かる。 私は希望という名のもとに、病院から飛び出した。 が、そこは私が想像していたようなものではなかった。 あちこちにぺちゃんこに潰れた人だったもの。 蹴り飛ばされ、踏み潰されて、逃げ惑う軍人たち。 銃撃を受けてもひるむ事なく侵攻する巨人。 倒壊した建物。 生きた心地がしなかった。 地獄よりも地獄。 そう思ったら、身体が石のように硬く、呼吸が苦しく、締め付けられ…… あれ? ふと下を向くと、いつのまにか私を掴むとてつもなく太くて長い指が…… グググと私は持ち上げられた。 足は地から離れて、軽々と私の身体は中に浮いていく。 10メートル以上持ち上げられて、私を掴むものの全貌が明らかとなった。 見覚えのある金髪に青い瞳…… 「今度は俺があんたを飼ってあげるよ」 私は彼のお陰で生かされた。 人はいつのまにか希少種となり、小人と呼ばれるようになった。 立場は逆転して、巨人と言っていた彼らは人間と名乗り、我々を飼いならしたのだった。 おもちゃとして……ね……。


More Creators