没作品。シュリンカーものにする予定でした
Added 2020-08-22 07:54:20 +0000 UTC昔、クレシャス王国という国があった。 この国は非常に堅固な奴隷制を敷いており、貴族と奴隷を明確に分けて、奴隷を使い回す事で、数百年もの間、一部の貴族の生活の豊かさを保っていた。 数百年もの間、貴族は貴族。 奴隷は奴隷としか血を交えず、食事も貧相である奴隷は小さく、貴族は大きく成長していったのだった。 現在では奴隷の平均身長は約120cm。 一方の貴族の平均身長は約180cmもあり、奴隷に反乱を起こさせないよう、威圧するには十分過ぎる体格差であった。 体重もやせ細った奴隷たちは15kg程度であるのに対して貴族は70kgほどもあり、もはや同じ生き物というにはあまりにも差が大き過ぎた。 つい先日も貴族が怒って奴隷の顔面を蹴り飛ばし、顔の骨を陥没させて死亡させたという事例があった。 貴族にとって、奴隷の顔は股間辺りにあるわけで、こうして顔面を蹴り飛ばす事は容易い。 そして、桁違いな筋力と長い脚から繰り広げられる膝蹴りや回し蹴りは奴隷の命すらをも奪うのは容易な事であった。 何せ、奴隷の5倍近くの体重を常に支えている足なのだ。 栄養もままならず、骨も肉も皮も細く薄くひ弱な奴隷を力で制圧する事など、幼稚園児の手首を捻るようなものだった。 そうして時代が経つにつれて奴隷の命が軽視されていき、現在に至る。 今日ものしのしと奴隷の家々が連なるこの村に貴族の人間がやってきた。 彼らはここに住む奴隷種がきちんと仕事をしているか、時々やってくるのだ。 貴族の人がやってくると、どこにいても分かる。 何せ俺たちの家の天井なんかよりもずっと背が高いのだから。 土を盛って作った奴隷の家は、彼らの腰の高さまでしかない。 貴族は家越しに村中を見渡す。家の影より上半身が飛び出た貴族からは俺ら奴隷に隠れる場所などはないのだ。 ドスっと鈍い音が響いてきた。 家越しに何かを見下ろしながらニヤニヤと笑う貴族の姿が見えた。 おそらく家の向こう側にいる奴隷が蹴り飛ばされたのだろう。 悲鳴が聞こえなかった所をみると、気を失うほどの一撃だったのだろう。 これは死んでしまったかもしれない。 しかし、そんな事、俺ら奴隷にとっては日常茶飯事である。 奴隷が生き残るには化け物のように巨大な貴族の機嫌を取り続けなければならないのだ。 貴族の機嫌を損ねた瞬間、家の柱よりも長い足が鞭のように顔面へと飛んできて、首をへし折られて吹き飛ばされるのだから。 そんな恐怖の毎日であるのだが、貴族の足一本ほどしかない俺らにとっては貴族から逃げ出す事すら出来ない。 地獄のような毎日がひたすらに過ぎていくのであった。 「おはよう! 皆さん!」 突然真上から声が聞こえて、驚いて振り向いた先にあったのは… 白く長く伸びる美しい足だった。 恐る恐る目線を上げていく。 足の付け根は純白の布。 貴族に人気の羊毛製の一品だ。 なおも視線を上げていくと、布の上からでも分かるほどに鍛え抜かれた胴体があり、その先からは俺らの足よりもずっと長い腕が生えていた。 更に首が痛くなるほどに首を曲げて目線を上げると、これまた長くて美しい首があり、その上に、目や鼻、口が全て整った眩い顔がこちらを見下ろしていた。 この優しそうな眼差し、引き寄せられるような綺麗な肌、80kgもの体重を支えている凛々しい脚、16歳だというのに200cmはあろうかという巨大な体。奴隷に人気の貴族、アルフレッド様である。 俺らの身長で彼の顔を見る事は難しい。 彼が俺らを見るために見下ろしてくれない限りは顎しか見る事が出来ないからだ。 だがその甘いマスクはすべての人を惹きつける。 彼の足元には常に奴隷が集まり、群がっていた。 「アルフレッド様! 私を雇ってください!」 「アルフレッド様! 是非私を!」 「いえいえ! 私こそ相応しい!」 沢山の奴隷が手を大きく挙げてぴょんぴょんと、上空のアルフレッド様に対してアピールしている。 「あはは、そんな足元にいたら歩けないよ〜」 アルフレッド様はいつものように困り顔で頭をポリポリと掻いている。 奴隷のこんな失礼な行為でも、アルフレッド様は笑って許してくれる。 「じゃあ、俺の手のひらをタッチできた人を雇ってあげようかなー?」 アルフレッド様はそういうと顔の横に手を開いてみた。 みんながより一層必死にぴょんぴょんと飛び上がる。 しかし、アルフレッド様の手のひらはおろか、みんなアルフレッド様の胸の下あたりまでしか届かなかった。 「あー、残念! また来るからね〜!」 アルフレッド様は腰を屈めながら群がる奴隷の頭を優しく押して足の踏み場を確保し、歩き始めた。 必死にアピールしていた奴隷たちは、その大きな背中を残念そうに見上げる事しか出来なかった。 アルフレッド様は数日に1度、こうして気まぐれに村へとやってきては気の向くままに奴隷を雇っていくのだ。 アルフレッド様の豪邸からは今まで1人たりとも逃げ出した者はおらず、死体も廃棄された所も見たことがない。 毎日のように死体が廃棄される他の貴族の家とは天国と地獄である。 アルフレッド様に雇われれば、生涯安全な生活が保障されたようなものなのだ。 どれほどの幸せか。 アルフレッド様はまさに幸せを運ぶ天使であるのだ。 かくいう俺もアルフレッド様に雇われたい。 当然だ。 なんてったって死にたくない。 けど… なんの取り柄もないこんな俺など、アルフレッド様の目に止まるはずなんてないのだ。 はぁ、とため息をつきながらトボトボと歩く。 もやもやとした心が、周りの気配に鈍感にさせた。 ヌッと目の前が暗くなる。 影!? そう思い、振り返った瞬間、顔面がまるで地面に叩きつけられたかのような鋭い痛みを感じ、身体が宙を舞った。 「邪魔だ。 ゴミめ」 殴られたのだ。 貴族の人間に。 「あ……あ……」 あまりの痛みと恐怖に震えながら呆然とする事しか出来なかった。 巨大な拳で殴られた顔は鼻は陥没し、前歯が根こそぎ折れて、顎も外れてしまっていたのだ。 「ちっ、汚ねえ血が付いちまった。 気分が悪い」 貴族の人間はそういうと、くるっと身体を反転させて帰っていった。 貴族の姿が見えなくなったところを見計らって、ようやく人が集まって来た。 「大丈夫か君!?」 仲間の奴隷は、がくんと顎を元に戻すと俺を抱えて家まで運んでくれた。 藁で出来た自分の寝床についたのを確認したら、自然と涙が湧いて出てきた。 痛い。 痛い痛い。 激痛に耐えられず、寝床をのたうちまわる。 心も身体も、あのたった一撃で打ちのめされた。 その日は一晩、涙が枯れる事はなかった。