SamSuka
テリーヌテラー
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大きな人間と小さな王国

作品は全4章、各章につき5話で構成されており、3章3話のみありません。 大きな王国と小さな王国 今から数百年前。 魔法が栄えていた時代。 人々は魔法が使える人間と使えない人間がいて、魔法使いは様々な魔法の研究をした。 そしてそれを使って戦争や魔法を使えない人達を征圧していた。 魔法を使えない人達はウドと呼ばれ、奴隷に近い扱いを受けていた。 そんな中、ある王国では先代国王が行方不明となり、初めて魔女が国王として向かい入れられていた。 魔女が国王になってからというもの、彼女は政治には興味がなく、農地の開拓などすらしない。 そのため食糧難に陥ると、食糧の消費を抑える事と魔女自身の魔力や権力の増大のために、研究や探検と称して大勢の命が奪われていた。 そんな魔女の城で雑用として働くウドであるシュバルツ・リック(18歳、身長195cm、体重76kg、足のサイズ30cm)は今日もまた大きな城の掃除をしていた。 一章第一話 大きな王国と秘密の会談 城の掃除は大変だ。 一階一階が非常に広く、それが数十階も存在する。 掃除は1人で行うわけではないが、隅々まで綺麗にするのは骨が折れた。 リックは掃除を適当に済ませ、いつものサボり部屋で一人休んでいた。 そこは普段は倉庫となっている。 成人女性の平均身長が約130cm、成人男性でさえ約140cmととても小さいこの時代にとって、リックの体は異常なデカさだった。そんなリックにはこの部屋は狭かったが、誰も来ることがなく、近くを通る人もいない。 サボるのにはもってこいの部屋だった。 リックは足を曲げて横になり、部屋の天井まで積んである荷物を眺めていた。 何に使う物なのか。 リックがこの部屋を見つけて数ヶ月もの間ずっとそこに置いてあった。 そんな荷物から目を離し、母親の形見である黒真珠を無造作に取り出した。 リックは黒真珠を見つめ物思いにふけているとそのままいつの間にか眠ってしまった。 「こんな所で話すのですか?」 「ここには誰も来ないからね。 情報屋に忍び込まれる会議室より安全なのさ」 そんな声が聞こえ、リックは目を覚ました。 隣の部屋に誰かがいるようだ。 とは言え、リックには関係のない事だ。 時計を見ると夜の8時。 仕事の終了時間を裕に越えていた。 雑用係をまとめる雑用長はカンカンに怒っていることだろう。 リックは面倒臭そうな顔をして、ゆっくりと立ち上がった。 「あの島の探索をするのですか? 何百年も前に捜索して、いないと結論が出ているではありませんか」 「貧困で税金もろくに納めない輩が増えてきた。 それらの仕事を与えるという名目で探せば良い。 見つかれば妾の国の安定へと繋がり、見つけられなければ妾への反抗として全員処し、無駄な食糧消費を抑える事が出来る。 妾にとってはどちらにせよ利益になる」 あれ? この声。 リックには聞き覚えがあった。 この国の王、魔女の声だ。 魔女がまたしても人々の命を奪おうとしている。 もう1人は誰だ? あの島? いない? なんの話だ? リックは魔女の会話に聞き耳を立てた。 「あやつらが持つという賢者の石の存在が不愉快じゃ。 妾の王政に支障をきたす」 「しかしわざわざ……」 「妾に口答えするか?」 「い、いえ……滅相もごさいません。 しかし、決行までには数ヶ月ほど時間がかかります。 大きな事業ですし……何より国民が納得する理由も考えねば……」 「任せたぞ。 重要な任務だ」 「はい。 仰せの通りに」 この会話を最後に部屋が静まり返った。 魔女達はどこかへ行ってしまったようだ。 リックは慎重にその様子を伺った後に、どすっと床に胡坐をかいて頭を抱えた。 賢者の石…… リックには心当たりがあった。 よく伝説として語られる小人。 その小人が魔力を跳ね返す能力を持つ賢者の石を持っているという話だ。 しかし、小人は昔の捜索の結果いない事が分かったはずだ。 今ではツチノコ同様に本気で信じている人は少ない。 架空の生物である。 そんな伝説を魔女が恐れている。 リックにとっては理解しがたい事だった。 一章第二話 大きな王国と大きな人間 この国には週に1度夕食の配給制度が存在する。 この配給だけで生きている人間も数多い。 それだけ国民は貧困なのだ。 そして今日はその配給の日。 リックは城を出て食事が振舞われる広場へと向かった。 居眠りをしたせいで行くのが遅れて既に広場にはものすごい人だかりが出来ていた。 リックには20mくらい先に屋台があるのが見える。 しかし、目を下ろすと腰の高さに大量の頭が密集していた。 下の様子が分からない。 無理に歩こうとすると人の腹を蹴り上げてしまいそうだ。 屋台はすぐそこに見えているのにただただ人の波に流されてあらぬ方向行くしかなかった。 数十分流れた所でようやく屋台にたどり着いた。 やっと食事にありつける。 そう思い、屋台のオヤジが差し出した器を手に取った。 数口分のスープ。 それは隣の人の半分にも満たない量だった。 「てめぇは子供の時大量に飯食ったんだからそれで良いだろ。 ここは謙虚な俺たちに食料を譲るのが道理ってもんだ」 いつもそうだ。 食糧難のこのご時世。 身体が大きい人は食糧を食い潰すとされて嫌われていた。 その中でも異例の大きさである自分への待遇は酷かった。 屋台の屋根が遮ってオヤジの顔は見えなかったが、ゴキブリでも見るような目だったであろう。 低くて邪魔な屋台の屋根が今回ばかりは救世主となっていた。 その後もリックは無言で再び人の波に流され、ようやく広場を脱出した。 あの時、オヤジの顔面を蹴り飛ばすことくらいリックにとっては余裕だっただろう。 この大男を止められる人はまずいない。 配給の食料を根こそぎいただく事も出来ただろう。 しかしリックはそれをしなかった。 もしそんな事をしたら、指名手配されて魔法使いを敵にまわす事になる。 ただでさえ味方のいないこの世界で、事件を起こしてしまえば相手の思うつぼだ。 リックにはそれが恐怖でしかなかった。 リックはスープを食べ終えると自身の寮へ向かった。 両親のいないリックにとって住むところがあることは幸せであった。 寝るスペースだけのカプセル型の部屋。 隷下のウドの部屋は狭く、縦の幅ですら150cmしかない。 足が伸ばせないのは愚か、体を大きく曲げて部屋に体全体を入れることさえ一苦労だった。 外にトイレもあるが、普通の人の首から顔の高さに股間があるリックは、しゃがまなくてはいけない小便器を利用する事はまるで筋トレをしている気分であった。 なりたくてなったわけじゃないこの身体。 人々には嫌われ、自分のせいで母親を失い。 この世界に心底嫌気がさしたのだった。 一章第三話 大きな王国と秘密の階段 朝。 リックはいつもより早く目覚めた。 仕事に出る前に小人について調べるためである。リックは急いで布切れを着て、ずっと使い続けているブーツを履いた。 当然ながら、リックに会う靴や服は売っていない。 ブーツは自分で動物を狩ってその皮で自作した。 服も布切れを集めて縫って作ったものだ。 ウドが利用できる図書館は朝早くと夕方のみしか開いていていない。 これは昼間は労働が義務のため図書館に来ること自体おかしく、逆に夜は遅くまで本を読まれて次の日の仕事に支障をきたす事がないようにするためである。 本の貸し出しはしておらず、その場で読む他にない。 リックは限られた時間の中で小人についての本を読み漁った。 小人は昔この大陸の東にある島にいるとされていた。 小人はとても小さく脆く、人間との共生は不可能だと思われるが約180年前、小人の大捜索が行われた。 木々を切り倒し、哺乳動物を絶滅にまで追い込んでまで島中を捜したそうだ。 しかし、結局見つかることはなかった。 それからと言うもの、物好きな人が度々その島を訪れた。 小人を見た。 そう言う人も居たようだが証拠もなく、そのうちに小人は都市伝説となったのだった。 そして、約130年前からはその島への立ち入りも禁止されて人々の小人への関心は薄れて行った。 分かってはいたが図書館の本で得たものはあまりなかった。 やはり、こればかりは自分の目で確かめるしかないとリックは悟った。 今日も城の掃除が始まった。 昨日終わりの報告をせずにサボったことを怒鳴られ殴られての始まりだったが、気を取り直して掃除を始めた。 城の掃除をさせられてはや8年。 魔女の許しを得るように掃除するのはリックにとってお手の物だった。 そして、城の隅から隅まで掃除するからこそ知った隠し階段があった。 リックはいつものサボり部屋には行かず、その階段を通って誰にも気づかれることなく城を抜け出した。 東の海岸に出るには、サバンナを通る必要がある。 運が良ければ走って2時間というところか。 しかし、肉食獣のナワバリに入ってしまえば命の危険にさらされる。 リックはそんなサバンナを安全に通る道の開拓のために、サバンナ内を徘徊した。 そして、仕事の終了時間前には城に帰ったのだった。 一章第四話 大きな王国と不遇の一途 リックは隠し階段から、城に入った。城の天井は高く、2m以上もあった。 ただ、それでも少し飛び上がると頭をぶつけてしまう。 今はもう太陽が沈んでしまった。 夜の城はリックの付近は暗かった。 自分が大きな壁となって光のほとんどを遮ってしまうからだ。 でも、今日はあと報告するだけだ。 そう思い廊下の角を曲がった。 その時、ドン! という音と共に股間に少しの痛みを感じ、さらにそのままの勢いで何かを蹴り上げてしまった。 「ぐふっ……」 そこにいたのは腹を抑えている雑用長の姿だった。 「てめえ……」 雑用長は少し体が小さかった。 そさてそんな雑用長の顔面がなんとリックの股間に激突し、その後リックが持ち上げた膝が雑用長の腹に入ってしまったようだ。 「この俺の顔に汚ねぇもの押し付けた上に腹を蹴るとは貴様何様だ」 雑用長は勢い良くリックの股間を殴りつけ、そのままリックのイチモツを両手で握りしめ引っ張った。 そして、痛みでよろけた勢いでリックのスネを蹴り上げた。 リックは雷に撃たれたような痛みに耐えつつ、雑用長が自分を攻撃しやすいようにさりげなく腰を下げた。 一方で、リックが怯んだと思い気分が良くなった雑用長はリックのイチモツをサンドバック代わりに2、3発殴りつけた。 「俺への仕事終わりの報告はもういい。 その代わりに全部の仕事が終了したことを上に報告しに行け」 雑用長はそれだけ言って、そのまま立ち去って行った。 もし、ここで雑用長の股間殴りを手で防いでしまったら、雑用長は激怒して飛びかかり、リックがボコボコになるまで暴力をやめない。 昔、同じような事が起きた時に攻撃を防いでしまい、雑用長が飛びかかってきたのだ。 その時はもっと悪いことに雑用長の攻撃を受けて倒れた衝撃でバタつかせた足が雑用長の顎にヒットし気絶させてしまった。 気が付いた雑用長はかんかんに怒り、リックに刑罰を与えようとした。 なんとか母親の嘆願によって免れる事が出来たが、その代わりに母親が酷い拷問を受けたのだった。 それからというもの暴力を受けた時は一切を受け入れ、どんな痛みを受けようが気合いで手足を動かさないように徹した。成人男性の平均体重は37kg。 女性や子供、お年寄りを入れればもっと軽い。 体重が人の2倍をゆうに超すリックはそうでもしないと嫌でも相手に大怪我を負わせてしまって事件へと発展してしまうから。 上に報告? リックは嫌な予感がした。 いや、確信と言った方が正しい。 報告すべき人間である管理人はいつも密談部屋にいる。 そこへ行くには人1人がギリギリ通れる細い廊下を通る必要があった。 もし、この細い廊下の天井がもっと低かったら…… そう思うとゾッとした。 より暗いこの廊下を歩くと横の壁に、高さ120cm程の扉が見えた。 コンコン。 リックは腕を下げて扉を鳴らした。 「はいれ」 その言葉を聞いて、リックは扉を開いた。 「お前……お辞儀もなしか?」 リックはお辞儀が出来なかった。 いや、正確にはお辞儀はした。 普段は相手よりも頭が下がるように体を90度以上も曲げてお辞儀をする。 しかし、この狭い通路ではそれが出来なかった。 何処かの不良のように便所座りをして挨拶するわけにもいかない。 空間が許す範囲で頭を下げたのだが、股下しか見えていない管理人には結局それが伝わらなかった。 「入ってこい」 また殴られる。 分かっていながらも脚を折り曲げしゃがみ込み、無理やり体を部屋に押し込んだ。 「そこに座れ」 そこに立て。 そう言われた方がリックは困っただろう。 密談部屋は音が漏れないように、部屋も扉は小さく、天井だって低く分厚く作られていた。 立とうとしても立てるわけが無い。 壁に手を付く壁ドン。 ではなく、床に手を付くいわゆる床ドン状態になってしまう。 リックはしゃがみ歩きをやめて股を開いた正座で座った。リックの長い足が密談部屋を占領した。 管理人は気にせず足の間を歩いてきた。 「昔から上の者への無礼な態度が目立つな」 自分の目の高さに人の顔がある。 人がお腹ではなく自分の顔と会話している。 そんな状態をリックは嬉しく思った。 ドカッ リックは顔を殴られた。 何ヶ月ぶりだろうか。 顔を殴られるのは珍しい。 お腹や股間、足ばかりが殴られてたくさんの痣がある。 普通の人がやられるように、頭や顔を殴られるのは憧れなのだ。 別に決して殴られたいわけでもないし、Mでもない。 しかし、普通の人と同じようにされたのが嬉しく感じたのだ。 唾をリックの顔に撒き散らしながら怒鳴りつける事も、目を睨みつけられる事も、首すじを掴まれる事もリックにとっては微笑ましく感じた。 この後20分程の暴行を受けてようやく家に帰る事を許された。 自分が話に入れないくらい低い高さで楽しくお話ししている人々。 伸び伸びと建物内を歩く人々。 好きに暴れても何も問題にならない人々。 八つ当たりを受けない人々。 そんな人達を見て、リックは小さくなりたいと想い続けるのだった。 一章第五話 大きな王国と島への旅立ち 次の日からは昨日に引き続き、サバンナの探索をする日が続いた。 そして、とうとう念願の海岸に出ることが出来たのだった。 ここから先に行くにはボートが必要だ。 この日からは岸まで行ってボートを作る作業に徹した。 島は30kmほど離れておいる。 手漕ぎのボートで行くこと自体難しいだろう。 ボートは手作りな上、体の大きなリックを乗せなくてはならない。 水や食料も必要だろう。 そうこうしているうちに、2週間がたっていた。 だがしかし、ボートが完成した。 あとは思い切って行くだけだ。 魔女が提案した島の探索計画もまだ表には発表されていない。 リックは決心し明日の朝出る事を心に誓い、折りたたみ自転車のごとく身体を縮めて窮屈な部屋で眠りについたのだった。 旅立ちの朝は早い。 海の上で夜。 島に着いたら夜。 これでは自分の命が危ない。 島に着いたあと数時間は明るくなくては困るのだ。 リックは自分の体に鞭打って、サバンナへと駆け出した。 いつも通ったサバンナの中。 木を見て岩を見て先に進む。 いつもと同じであった……はずだった…… 目の前には肉食獣。 全身に緊張が走った。 ナワバリを移動したのか。 いつもと時間が違うからか。 どちらにせよ、逃げる他なかった。 しかし、2足歩行の丸腰の荷物持ちは4足歩行の狩の名手相手には分が悪かった。 無我夢中で走るリックにすぐさま追いつきリックは左足を爪で引っ掻かれてしまった。 左足のブーツは引き裂かれ、脱げて飛ぶ。 しかし!それが幸いした。 肉食獣は飛んだブーツに興味を持ち、ブーツの方へ向かっていったのだ。 リックはその隙に距離を離して、九死に一生を得たのだった。 無事にナワバリも抜けたようで、肉食獣は来る気配はない。 左足は裸足になってしまったが、ブーツのお陰で怪我はしなかった。 だが、靴を調達する暇はない。 町に戻っても自分が履ける靴は売ってないし、作る暇もない。 リックは仕方なく裸足のまま、海岸へと向かった。 海岸に到着すると、太陽はまだまだ東にある。 2週間かけて作ったボート。 今日中に島にたどり着けなければ死ぬだろう。 リックはひたすらボートを漕いだ。 何時間たっただろうか。 太陽は真上に存在する。 天候は晴れ、波も穏やか。 天がリックの味方をして、リックは無事に島に上陸出来たのだった。 二章第一話 大きな人間と島生活の始まり 海岸にボートを上げたリックは、島の中に入った。 島を人間に荒らされてから100年以上も経っている。 既に荒らされた痕もなく、木々が青々と茂っていた。 水と食料はある。 しかし、すぐになくなるであろう水は探す必要があった。今日中に寝床も作りたい。そう思いつつ、森へと足を踏み入れた。 哺乳動物は居ないだろう。 しかし、それらよりももっと危険な生物がいるかもしれない。 サソリや蛇だ。 これらは落ち葉を好み生活している。 気付かずに近づくのは危険である。 左足が裸足であるリックは尚更の事であった。 運悪く踏み付けてしまえば刺されて死んでしまうかもしれない。 なるべく落ち葉を避けて通った。 突然大雨が降ってきた。 急いで木陰に避難したものの、防ぎきれていない。 リックの体はビショビショに濡れて、右足のブーツの中まで水が溜まった。 しかし、通り雨だったのかその後すぐに日差しが戻ってきた。 リックは着ている布切れを全て脱いで絞り、ブーツを逆さにして水を出す。 少し疲れた表情をしたリックだったが、休んでいる暇はない。 再び探検を開始した。 あっちこっちが泥になっている。 左足は裸足のまま泥を踏み突き進んだ。 ヌルッとした感触がやる気を削ぐ。とは言え、ここでようやく泉に出られたのだった。 リックは一息つこうとドカッと腰を落とした。 結局リックは泉のほとりで眠ってしまったのだった。 二章第二話 大きな人間と島の居住 チュンチュン 眩しい光と鳥のさえずりで目を覚ました。 もう朝なのか? 住処作りも出来なかった…… ぐぅ〜 そういえば昨日の昼間から何も食べていない。 リックは自分のカバンから缶詰めをいくつか取り出して開けた。 水は1日に2リットルは必要だ。 だから、たくさん持ってきたつもりだった。 しかし、いつの間にか半分まで減っている。 本当にこれで良かったのか…… そんな後悔がリックの心を攻撃する。 しかし、もう後戻りは出来なかった。 リックはブーツに不快感を感じて脱いで見た。 右足は一日中濡れたブーツを履いていたことでふやけている。 リックはふぅと深くため息を吐いた。 そしてブーツを脱いだまま、もう一度足を伸ばして横になった。 足を伸ばす。 これは王国に住んでいた頃には出来なかった事である。どんなに伸ばしても何もぶつからない。 なんて気持ち良いのだろう。 リックにとって天国にでもいるような時間だった。 「よし。 行こう」 太陽が真上に上がってきたところで、リックは自分自身にムチをうち立ち上がった。 昨日は運良くサソリなどにも出会わなかったが、いつ出会うかも分からない。 安心していられる拠点が必要だった。 リックは近くの木や大きな葉を見つけてはナイフで切り取った。 それから棒を使って落ち葉を退かし、取ってきた木や葉とロープで小さな屋根を完成させた。 そしてそのついでに木の皮を使ってテーブルも組み立てた。 雑用係をやっていたリックにはこの程度はお手の物である。 我ながら良い物が出来た。 一旦休憩だ。 リックは缶詰めを開けて作ったテーブルを早速使う。 そろそろ泉の水を使わなければなぁ。 空のビンを眺めてそんな事を思った。 そうこうしているうちに、もう日が傾いてきた。 灯りのない島の夜は早い。 あっという間に光が消えた。 こうなってしまうともう何も出来ない。 仕方が無い、捜索は明日からやろう。 そんな呑気な事を言って、今日も眠りについたのだった。 二章第三話 大きな人間と大捜査線 島の朝も早い。 太陽が早く起きろと言わんばかりに眩しい光を与えてくれる。 今日からはこの島の捜索だ。 缶詰めを食べ終えたリックは早速火を起こした。 火は煙となって拠点の場所を教えてくれる。 遠征するには必須の事だ。 ついでに鍋に泉の水を入れて火にかけた。 自然の水をそのまま飲むのは少し怖い。 5分ほど沸騰させさえすれば大抵の菌は死滅するのだ。 お湯を火から退かし、火に追加の薪をくべた。 今日はこの泉の周りとその付近の捜索だな。 小人は当然小さいのだから、見落とさないようにしないと。 こうしてリックの小人の大捜査が開始されたのである。 リックはズンズンと歩いて行く。 しかし結局、見つけたのはヤスデや昆虫ばかり。 太陽の就寝と共に拠点へと戻った。 昔に大量の人間を登用して捜しても見つからなかった小人。 本当は居ないかもしれないし、いたとしても見つかるものなのか。 そうした不安もリックにはあった。 しかし、そんな事は島に来る前から分かっていたはず。 覚悟だって決めていた。 まだ1日目で何を弱気な事を言ってるんだ。 そう自分に言い聞かせ、明日に向けて体を休めた。 こうした日が2週間ほど続いた。 島は真ん中に泉があり、そこに接するようにオーストラリアのウルルのような大きな一枚岩が突き出ている。 リックはその一枚岩の上も余さず島全体を捜索したが、小人の姿を見ることはなかった。 食料も底を尽き、ヤスデやミミズ、昆虫ばかりの生活。 人一倍大きなリック。 腹ペコになるのも当然だ。 空腹は精神をも脅かす。 リックはとうとう小人の捜索をやめてしまった。 二章第四話 大きな人間と開放感 朝になっても屋根の下でうずくまるリック。 このままずっと寝ていたい。 そんな思いとは裏腹に体はリックに水を要求した。 リックはしぶしぶ重い身体を叩き起こし、水の入った容器に口を付ける。 目に映る泉の景色。 そう言えば小人の捜索で下ばかりで、景色はあまり見てなかったなぁ。 島に着いてから1度も身体を洗っていない。 歯も磨いていない。 服も洗っていない。 小人を探すこと。 食べること。 寝ること。 それしかしてこなかった。 「美しい泉だなぁ」 心の声が口に漏れる。 リックは着ている布切れとブーツを脱ぎ捨て、泉の中に勢い良く飛び込んだ。 滑らかだった水面が突然に荒れた。 高くまで上がる水飛沫。 大きな波が渇いた地面を潤す。 ひんやりと肌を流れる水。 透き通ったその水はリックの世界を青くした。 クロールに平泳ぎ。 リックは数時間もの間泳ぎ続けて、ようやく陸へと上がった。 裸のまま地面に寝転がり、物重いにふけた。 この開放感。 自由。 そんな物を前にして、昔の出来事を思い出す。 王国には全裸で過ごせるビーチがあった。 開放感を味わう事が出来る。そんなビーチは窮屈な生活を強いられていたリックには夢の様な世界。 数の少ない休日を利用して1度だけ行った事があった。 ________________________ ここでは身体をいっぱいに伸ばせる。 やっと夢を叶える事が出来たんだ。 そうウキウキとした心は外見にも漏れた。 もう既に沢山の人が全裸でビーチを堪能していた。 リックは布切れやブーツを脱ぎ捨ててビーチ内を駆け回る。 身体に巻き付けた布も足を密封するブーツもない。 なんて気持ちが良いんだ。 そして、ビーチを一周したリックはそのまま勢い良く倒れこんだ。 グッグッと必要以上に足を伸ばして大の字になり暫く空を見上げた。 澄んだ青空。 所々に白い雲。 まるで芸術だ。 いつも下ばかりを見ていたリックには新鮮な景色であった。 そしてもう一度立ち上がり水平線を眺めて海の方へと歩みを進めた。 どこまでも続く広大な海。 自分の傷付いた心と違ってとてもきらびやかな姿。 「キャアー!!」 突然下から悲鳴が聞こえた。 リックは咄嗟に目線を下げる。 すると自分の目の前に2人組の女性が立っていた。 何かやってしまったかな? そう思い女性の顔を伺うも、この高さからだと頭頂部しか見えず表情が分からない。 「どうしましたかー?」 女性の悲鳴に警備員がすぐにかけつけた。 すると、自分が入れないほどの低い高さでの世界で会話が始まった。 「この人が私の顔にち○こ近付けて来たんだけど! マジキモーい!」 「早くこいつ捕まえてよ! 怖くてゆっくりできないじゃない!」 「そうだったんですか… はい。 分かりました」 そうして警備員は顔を上げて、リックに答えだけを述べた。 「ちょっとこっちに来て貰いましょうか」 リックの言い分は通らない。 結局、近づける気はなかったが近づけてしまった。 そう結論付られた。 幸い罰を受ける事は免れたが、謝罪金とこのビーチの出入り禁止を命じられてしまったのであった。 みんなが楽しめる所ではないのか? 俺はビーチを自由に歩く事さえ許されないのか? どうして俺だけなのか? 俺に休める所なんてないのか。 _____________________ 「ここにはヒトが誰もいないんだ。 誰にも文句言われることはない」 リックはビーチの時と同じ様に長い足を大の字に広げて空を眺めた。 気が付くともう既に太陽が傾き始めていた。 しかし、いつの間にかやる気が湧いている。 明日からまた頑張らなくちゃ。 そう決心をして立ち上がったのだった。 二章第五話 大きな人間と小さな人間 「母さん。 俺、頑張るよ」 リックはテーブルに頭を乗せて、形見である黒真珠を眺めた。 そして、疲れをドッと感じて、そのまま居眠りをしてしまった。 目を覚ますと太陽は既に起きていた。 テーブルはリックの体重で歪んでしまっている。 身体も少し痛む。 黒真珠は。 黒真珠は?…… テーブルの上に置いてあったはずの黒真珠がない。 リックは慌てて立ち上がり、辺りを見渡した。 大切な黒真珠。 何が何でも見つけなければ。 すると、左足の親指の横になにか蠢く物があった。 芋虫? それはリックの黒真珠を抱えて二足歩行で歩いている。 人間? 「俺の指よりも小さい……」 それは紛れもなくリックがずっと捜していた小人の姿だった。 リックは思わず左足で小人を踏みつけた。 当然、小人が潰れないようにリックには触っているのかすらわからない程の弱い力で。 ちゃんと抑えられているだろうか? そうも心配したが、それはいらぬ心配だったようだ。 よく見ると、自分の親指と人差し指の間から小人の顔が出ている。 顔の表情は見て取れないが苦しそうにもがいていた。 リックが弱い力で軽く乗せた足は小人に取って、とてつもなく重かった。 しかし、ここでリックはあることに気付く。 足で押さえつけたは良いが、ここからどうすれば良いのだろうか? 足を上げて開放したら逃げられてしまうかもしれない。 落ち葉の影に隠れられたら見つけるのは難しい。 かと言って、このまま踏みつけ続けるわけにも行かないだろう。 リックは小人に体重がかからないように気をつけながらしゃがみ込んで自分の左足の指の間を覗き込んだ。 豆粒よりも小さな頭。 ゴマ粒の様な目。 しかし、顔の形はほとんど人間と同じであった。 すると、視線を感じたのか小人が目線を上げた。 「〜〜〜………」 小人に取ってどれほどの恐怖だったのだろう。 突然想像すらできないくらいの巨大な何かに踏まれ、真上から睨みつけられていたら。 小人から見たら自分はもはや神や仏並の大きさだろう。 小人は声にもならない様な音を出してグッタリと動かなくなってしまった。 リックは様子を見てしばらくの間そのまま踏み付けていた。 その後で足を上げて小人を指先でつまみ上げてテーブルに置いた。 体重をほぼ感じない。 1円玉よりも軽いようだ。 小人は地面とリックの足の裏に挟まれて、泥まみれになっている。 咄嗟だったとは言え悪い事したな…… そんな罪悪感に見舞われたリックであった。 三章第一話 小さな人間と大きな人間 小人の肌は青白く、身体は冷え切っていた。 リックは小人をお風呂に入れてやろうと、少量の水を火にかけてお湯を沸かした。 小人はボタンの付いた服を着ている。 少しでも力を入れたら壊れてしまいそうだ。 小人の体よりも太い指を持つリックには爪の先を使っても脱がす事が出来なかった。 湧いたお湯を小皿に移し入れて自分の指で温度を確かめた。 良い湯加減だ。 服を諦めたリックは再び小人を指先でつまみ上げてお湯に入れた。 顔がお湯に浸からないように気をつけて。 すぐに小人の顔色が良くなって来た。 小さな身体は冷えるのも早いが温まるのも早い。 リックは小皿のお湯を入れ替えて、小人を見つめる。 小さいながらも手や足の形も同じ。 そんな小人が可愛らしく見えた。 「〜〜〜〜!!……」 小人の意識が戻った。 巨大な眼球に見つめられている事に気づいて、恐怖に飛び上がった。 「んぎゃ!」 小人は勢い余って小皿から転げ落ちてしまった。 「ごめんな。 怖がらせる気はなかったんだけど…… 俺、君たちを捜してたんだ…… って言葉は通じないか……」 小人はリックの目にも分かる程に震えていた。 「これ、風呂。 もう大丈夫?」 小人はバイブ機能を発動させたまま固まっている。 「えっと、服とかごめん。 咄嗟だったからさ。 ……どうしたら言葉が伝わるのかな……」 小人の恐怖をどうした取り除く事が出来るのか。 リックはもどかしくて頭をバリバリと掻きむしった。 「きょ…… きょ…… じん……」 風に掻き消されてしまいそうな程に小さな音。 しかしそれはまぎれもなく聞こえた。 「え?」 リックは小人に顔を近づけて小人の表情を伺った。 「話せるの?」 リックの息で小人の髪や服がなびく。 「あ…… か………?」 小人が喋っている。 この音はきっと小人の声だ。 リックは左耳の穴を小人に押し付けるように近づけた。 「あなたはかみさまですか?」 なんと小人はリック達と同じ言語で喋っていた。 そんな驚きと小人の発言にリックは爆音とも思える程の大きさで一人大笑いしたのだった。 三章第二話 小さな人間と大きな恐怖 あなたは神様ですか? そんな質問に笑わずにはいられなかった。 俺が小人にはそんな風に見えるのか。 「俺はただの人間だよ」 リックは涙を拭いながら答えた。 「ニンゲ……ン……?」 小人の声は震えていた。 そりゃそうだ。 小人は3cmしかない。 通天閣よりも巨大な生物が突然現れ、人間だよって言われて、あぁそうかと納得する方が感覚がおかしい。 「言葉通じたんだな」 リック達人間と小人達とは記録の限り最低でも200年以上も前から接点がない。 普通なら言語も違うはずであるが…… ぐぅ〜…… リックのお腹がけたたましい音を立てる。 「ひぃ!……」 その音に再び小人の震えが激しくなった。 「大丈夫だよ。 食わないって」 「……そ……そうですか……?」 小人の震えは止まらない。 リックは小人なんて吹き飛んでしまう程大きな溜め息を付き、再びお湯を沸かして小皿に取った。 「怖がらせて悪かったよ。 風呂沸かしたけど入る? 服濡れちゃって寒くない? さっき服ごと風呂に入れちゃったからさ」 「……う……うん……」 小人は体を震わせながら服を脱いで小皿によじ登る。 「湯加減はどう?」 「……うん、大丈夫だよ」 しかし、小人はすぐにお湯から上がった。 「ん? もう良いの?」 「う、うん……」 自分を飲み込みそうな程大きな眼球で見つめられてゆっくり浸かるどころではなかったのである。 服を着た小人はテーブルの上でリックに向かって正座した。 ちょこんと座って自分の顔を見上げてる小人が可愛らしい。 リックの顔が自然とほころぶ。 「俺はリック。 名前聞いても?」 「ニール」 「可愛い名前だな。 よろしくな」 「うん……」 自分の命を脅かす存在。 ニールは自分とは関わりたくないんだな。 そんな風に感じたのだった。 三章第四話 小さな人間と大きさの苦悩 「ニールの国まで案内してくれよ」 「う……うん」 ニールは乗る気ではなかった。 こんな巨大な生物が自分の国に来たら…… 国がどうなってしまうのか、想像も出来ない。 「じゃ、じゃあ案内するよ。 着いて来て!」 ニールはそう言い歩み始めた。 テクテクテク。 テーブルの上を数ミリずつ進んでいくニールをリックが見つめる。 いつ一歩目を踏み出せば良いのだろうか。 と言うより遅過ぎて日が暮れてしまうんじゃないか? 「俺のポケットに入るか?」 数センチ進んだニールを指先で覆うようにつまみ上げて、左の手のひらに乗せた。 黒真珠を入れる為に作った小さなポケット。 これならニールにぴったりだ。 左手をエレベーターのようにゆっくりとポケットまで引き上げる。 「うわぁ!」 ニールにとっては早かったようだ。 手のひらの上でよろけて四つん這いになってポケットに着くまで耐えていた。 思った通り。 ニールはポケットにぴったりだ。 体をすっぽりと入れ、顔だけぴょこんと出した。 「……う……た……たかい…………」 人間で言えば約100mの建物から景色を見ているようなものだ。 「巨人はこんな高いところから見ているんだね……う!」 「どうした?」 「臭い! うえぇ!……」 リックの胸から数ミリしか離れていない所でニオイを嗅ぐ。まさに目と鼻の先からニオイが発している。 そんなニールにとってリックのニオイは強烈だった。 胸から放たれるリックの体臭。 服に染み付いたニオイ。 手に乗った時にもリックの手のニオイを感じてはいたが、ここまでとは…… しかし、こればかりはどうしようもない。 「ううん。 大丈夫……」 「じゃあ、進むぞ。 こっちだったかな」 リックはさっそく足を上げ始めた。 ズシーン…ズシーン… 「〜〜〜〜〜〜!!! ストップ!!!ストップ!!!!!」 「どうした?」 「おおおおおおおろおろおろして!」 ニールはパニックを起こしていた。 人間は歩く時、体が上下に動く。 足を上げつつ体を浮かせ、足を下げるとともに体が下がる。 ニール自身の身長を超える上下運動が1秒間に何度も…… さらに追い打ちをかけるように、足を地面に着いた時にリックの体に衝撃が伝わる。 リックにとっては普通の事だが、ニールの身体は壊れてしまいそうだった。 「ハァハァハァ……」 テーブルの上で四つん這いになるニール。 体の大きさが違うとこんなに大変なのか。 そう思うリックだった。 これから味わう苦労も知らずに………… 三章第五話 小さな人間と巨人と賢者の石 しばらくの間、リックは衝撃をなるべく与えない歩き練習の時間が続いた。 滑らかに足を着き、体が上下に揺れないように足を上げて下げて、滑らかに足を着く。 進むスピードも変化がないよう機械的に歩む。 「賢者の石って魔法って言うのを跳ね返すんだよね?」 ニールから話しかけてくるのは珍しい。 「あぁ。 そうだよ」 リックは歩行練習をしながらそう答えた。 「ふ〜ん。 そうなんだ……そっかぁ……」 「???」 意味深なニールの反応。 どういうことだろうか。 しかし、そこで会話は終了してしまった。 そうこうしていると、いつの間にか太陽が傾いていた。 グゥ リックの大きな腹が悲鳴を上げる。 そう言えばずっと何も食べていない。 「お腹減ったな」 「うん。 でも僕はお弁当持ってるんだ」 ニールは数ミリ程の四角い物を取り出し、蓋を開ける。 何が入っているのか。 リックの目では解像度が悪過ぎる。 「食べる物何もないの?」 「あぁ。 虫取りに行かなきゃ」 「これ少し食べる?」 少しも何も、弁当箱ごと食べても味すら分かる自信がない。 「大丈夫。 今虫取って来るから」 リックは単純計算で小人の約27万5千食分を食べなくてはならない。 それを探し出すのは大変だ。 小さな国なら1人で食い尽くしてしまうだろう。 結局、ニールよりも大きくまるまる太った芋虫を10匹程捕まえた。 それらを口の中に放り込む。 小人なら何人分の食料になるのだろうか。 リックの腹はあまり満たされなかった。 「じゃあ今日はとりあえず寝るか」 「うん。 おやすみ〜」 リックは地面にニールはテーブルに横になった。 明日の旅立ちの為に。 ちなみに、リックが寝返りを打つ時に何度か腕がテーブルにぶつかり、吹っ飛ばされそうになってたニールはゆっくり寝てる暇ではなかったのだが、この話はリックは知らない……。 四章第1話 小さな世界にいざ出陣 朝。 ぽぉ〜 眠いな…… ニールの顔には隈が出来ている。 ふわぁ〜あ! よく寝たぁ! 久しぶりに安心して寝れたな! リックは元気満々だ。 「それじゃさっそく行くか。 ほら、手に乗れよ」 リックはニールの身体よりも太い指を突き出す。 ニールはリックの胸まで運ばれ、定位置に着いた。 相変わらず巨人のニオイは強烈だ。 「じゃあ行くぞ」 ズシーン…ズシーン… リックは一歩一歩丁寧に歩いた。 ニールは衝撃に負けないようにリックのポケットをしっかりと握る。 ズシーン…ズシーン… リックの歩行練習は良かったようだ。 リックの歩きで無事にいずみへと到着した。 「ここからどう行けば良いんだ?」 「左に曲がって泉沿いを進んで」 「分かった」 ズシーン…ズシーン… ニールは非常に高いこの位置から頑張って下の様子を確かめる。 下からみた景色とここから見る景色。 違い過ぎて同じ所なのかすらよくわからない。 「あ! ここでストップ!」 ズシーン… 「ああ!! 行き過ぎ!!! 足!! 足どけて!!! 降ろして!! 早く!!!」 リックはニールの声に慌てて足を上げて一歩下がった。 ニールを地面に置いて、真上からニールの様子を眺める。 穴掘りでもしているのか? ニールはリックが踏み潰した土を掘っている。 が、リックの巨体で踏み潰した土は堅かった。 ニールの力ではどうにもならない。 「俺がやろうか」 リックはニールを摘まんでどかし、土に指を突っ込む。 するとすぐ下に少し硬い物が…… 上の土を払い除ける。 金属の板? ニールは膝を着いて俯く。 なんだろうこれ。 リックはこれをつまみ上げて目の前で観察した。 やっぱり金属の板。 とっても薄く伸ばされている。 「これは何?」 「潜水艇……」 「潜水艇!? これが!?」 「リックに踏まれて潰れちゃった……」 「あ……そっか……ごめん……」 そりゃそうか。 この金属板は指を乗せるだけでグニグニと曲がる。 なんの金属かは分からないが、薄さが半端ではなかった。 「どうして土の下に置いておいたの?」 「ここのサソリは頭が良くて、潜水艇を見つけると集まって来ちゃうんだ。 普段は水の中に隠すんだけど、探索に行った日に突然ものすごい大津波が起きて、陸地に……」 それってもしかして…… 俺が泉に飛び込んだ時?…… 「ごめん…」 ニールとあってからのごめんを言う率の高さ。 「それじゃあ国に行けないの?」 「実はもう一つあるんだ。 緊急用に一つ潜水艇がこっちに置いてある。 それも陸地に座礁しちゃって僕1人じゃ運べなかったけど、リックがいれば動かせるよ」 「そっか。 じゃあ行こう。 手に乗って」 非常用潜水艇へと移動する。 今度は踏み潰さないように気をつけながら…… 四章第2話 小さな世界と巨人の影響力 小さな饅頭のような物が土の中に埋まっていた。 「これが潜水艇?」 「うん。 そう。 一人用の潜水艇だよ。 これを海まで運んでくれる?」 「海? あぁ、泉の事ね」 リックは紙よりも薄い金属で作られた潜水艇をひしゃげないようにつまみ上げて、手のひらに乗せた。 これが潜水艇か。 小さ過ぎて中が見えない。 リックは泉に潜水艇をそっと置いた。 水面に潜水艇が浮かぶ。 波でゆらゆらと揺れる。 「僕がこれに乗って案内するからついて来て!」 ニールはリックの股の間をトテトテと走り抜き、潜水艇へと乗り込んだ。 潜水艇から機械音。 小さな水飛沫が上がる。 こんな物が進むのか。 そんな思いとは裏腹に、潜水艇は無事に出発した。 「それじゃあ、ついて来てね!」 この潜水艇は外と会話が出来る設計なのか。 感心するリックを背に、スーッと岸から離れた。 「じゃあ、水の中に入るぞ」 リックはそう言いながら、波を起こさない様に気を付けてゆっくりと水に浸かる。リックの胸くらいの深さまで来た。 顔を水に入れる。 透き通る泉の水。 潜水艇がまるで空に浮かんでいるようだ。 リックは潜水艇を追いかけるように水を掻いた。 その時! 前を進んでいた潜水艇が突然、リックに吸い寄せられるかのごとく、帰ってきたと思いきや、そのまま渦を巻くようにリックの後方へと飛ばされていった。 潜水艇はリックが手で引き起こした激流に耐えられなかったのである。 リックが水面に顔を出すと波にグラグラと揺れる潜水艇。 その入り口にはニールの顔がへたっていた。 「……気持ち悪い……くるくるくるくるコーヒーカップより気持ち悪い……」 「ごめんな…… 俺のポケットに入れるか?」 小さなポケット。 この饅頭が入るのか微妙ではあるが、ニールの命を優先するとこの方法が1番良い。 「分かった」 ニールは潜水艇の中に入って入り口を閉じた。 リックは再び潜水艇を摘まんでポケットに押し込んだ。 少しひしゃげてしまったか? でも、とりあえず大丈夫そうだ。 「じゃあ、泳ぐぞ」 「うん。 このまま真っ直ぐに行って。 壁に着いたら潜って」 「分かった」 もう小人への影響を気にする必要はない。 リックはその巨大な足をバタつかせ、手で水を掻き、静かな泉を騒がした。 「このしたの方に大きな穴があるでしょ? そこに入って」 大きな穴? いや、小さな穴がある。 普通の大きさの人間なら大丈夫だろうが、俺の体は通るのか? 若干腰が当たったものの、無事に穴をすり抜けた。 穴を抜けると上から光が差し込んでいる。 ここが小人の世界か。 ワクワクとしながら水面へと浮上していくリックであった。 四章第3話 小さな世界と巨人の入場 ザバーン リックの顔が水面の外に突き出た。 追いやられた水は大津波となり広がっていく。 近くに停まっていたある船は沈没し、ある船は陸へと座礁した。 ザブザブザブ リックは陸へと歩く。 リックの足の裏から逃げる水で高波を起こしながら。 「なんだこれは?」 目の前には、リックのブーツ高さもない小さな木が広がっている。 まるで緑の絨毯だ。 ラジコンよりも小さな船。 ブーツくらいの高さの灯台。 何もかもがミニチュアだった。 リックは泉を向いて体育座りをする。 リックのお尻を地面にめり込ませて。 「岩で覆われてるんだ……」 岩の中なのに何故こんなに明るいのだろうか…… 「出してよ〜……」 忘れていた。 ニールがポケットの中で潜水艇に閉じ込められていた。 リックは慌てて潜水艇を取り出して地面に置いた。 「ふ〜……やっと出られた……」 ニールはよろっと地面に倒れた。 よく見るとリックの膝の近くを小さな蚊が飛んでいる。 こんかところにも蚊がいるのか。 鬱陶しいな。 そう思っていると、その蚊がリックの膝に止まった。 バチーン! リックは手のひらで蚊を潰し、ニールに手のひらを見せた。 「お前らの世界にも蚊がいるんだな」 「……それ……蚊じゃない……」 「え?」 「鳥だよ」 リックは自分の手のひらをじっくり観察する。 潰れていてよく分からないが確かに嘴らしきものが…… そうだった。 何もかもがミニチュアだった。 蚊がこの世界でこんなに大きいはずがない。 蚊だと思ったのは鳥だったのだ。 「……まぁ、じゃあ行くか。 手に乗れよ」 「わかった」 リックはニールをポケットにしまい、立ち上がった。 「うわぁ高い。 凄い景色だ」 まるでとても高い展望台から見ているようだ。 大自然……小自然? がずっと向こうまで広がった。 四章第4話 小さな世界と巨人の侵入 「じゃあ、歩き始めるぞ」 「え?……ちょっと待って」 「なんだ?」 目の前には密集する木の絨毯。 ここをリックが歩くということは……? 木々が踏み潰される。 これは良くない。 木々の下にはそこに住んでいる動物や、そこを歩いている人間がいるかもしれないのだ。 しかし、ここからではその姿を確認することは出来ない。 気付かずにそれらを踏み潰してしまうのではないだろうか…… しかし、巨人に空を飛ぶような能力がない限り歩いて行くしか方法がない。 空を飛ぶことなんて出来ないだろう。 …………進むしかない。 「わかったよ。 方向はこっちだよ」 「おし。 行くぞ」 リックの巨大な左足が持ち上がる。 そんな巨大な足を見ると、今まで大きな森だと思っていたそれが、コケか何かに見えてくる。 ズドーン! リックは左足を投下した。 裸足で踏んだ木々は霜柱のように潰れ、下の土には柔らかい雪のように足がめり込んだ。 今度は右足が投下される。 こんなに重い物を乗せた経験のない大地から悲鳴が挙がる。 地響きと共にに地盤が歪む。 地震と共に地割れが起こる。 ズーン……ズーン……ズーン…… 左足を下ろすとリックの五本の指がくっきりと残った足型が。 右足を下ろすと靴型が地面に残る。 ふかふかだった地面はまるで岩盤のようだ。 巨人のリックには木に巣がある鳥達や木の下を歩いていた動物達もその岩の一部にしてしまっていた事は知る由もない。 一山越え。 二山超え。 リックは世界を踏み続けた。 リックが一歩踏み出すごとに失われていく自然。 失われていく命。 これらとは裏腹に、サクサクして気持ち良い。 リックは地面を踏みながらそう思うのだった。 四章第5話 小さな世界と巨人入国 川を跨ぎ、山を崩し歩いたリック。 ようやく小人の国が見えてきた。 「あそこがランドマーク王国です」 「やっと着いたか」 「本当は何日もかかる道のりなんだけどね」 ズーン…… ようやく右足が森から抜けた。 王国との間の広場を右足で埋め尽くし、陥没させた。 15㎝程の壁が王国を囲む。 数百メートル先には城のようなものが見える。 「右足の足元に門があって、門番がいるはずなんだけど……」 なるほど。 確かに門のようだ。 しかし、そこには人間の姿が見当たらない。 リックは小人達を騒がせないよう小声で話した。 「入って国王に会いに行く」 「え!? それは……」 「ニールが国王呼んできてくれても良いんだけど」 「僕なんかじゃ国王様には会えないし……」 「じゃあやっぱ俺が行くしかないな」 「う……うん。 みんなを驚かせないようにね」 「分かってるって」 そう話している時。 リックの右の足元では門番が2人集まっていた。 実はこの2人、リックが引き起こしていた地震に耐える為に、門の奥で壁にしがみついていたのである。 するとどうだろう。 門の外の広場に突如巨大な物が降ってきたではないか。 門番は勇敢にもそれが何物かを調べに出てきて居たのだ。 しかし、リックは気付く由も無い。 「ここの道は中央へと向いています。 途中でなくなっちゃうけど、ここから行くしかないよ」 「そっか。 この道が一番広いのか?」 「うん」 確かにこの国一番の大きさの道だろう。 しかし、道幅は両足は愚か、リックの片足の足幅で一杯になるくらいしかなかった。 その道には小人がたくさん歩いている。 馬車を引く者。 袋を持つ者。 リックの足場を探すのも大変だ。 「よし。 じゃあ行くぞ」 「気を付けてね」 その間も門番はこの巨大な物体の捜索を続ける。 近くで見るとあまりにも大きい。 これが人間だなんて誰が思うだろうか。 門番は果敢にもリックのブーツに槍を突き刺した。 だが、突き刺すには小人には力がなさすぎた。 刺さることなく


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