「ねえ、せんせー。なんで美琴ちゃんしゃべんないのー?」
「美琴ちゃん、声でないのー?」
別にいじめとか、そういう類のものじゃなかった。その時の先生も、「榊は無口なだけで、人にはどれだけ自分の気持ちを話すか話さないかは、自分の自由なんだよ」と言い聞かせていた。言い聞かせたというよりは、はぐらかしたように、俺には見えたけど。俺はなんとなく、本当になんとなくだけど……榊が自分の気持ちを話したくない、というのとは違う気がして……だから話しかけた。
「榊、今日一緒に帰んねぇ?」
「……杉名、くん」
「俺とお前、帰る道同じじゃん? だからさ、一緒に帰ろうぜ?」
「…………」
「まあ、いやなら、いいんだけどな」
「行く。いっしょ、いっしょ、に、帰る」
榊はその時も、つっかえがちに答えた。俺と榊の関係は、そうやって始まった。榊は普段他の奴らと話さないってだけで、決して嫌な奴なんかではなかった。俺の好きな漫画も好きって言ってくれたし、俺が勧めたおもちゃとか遊びも、興味津々でハマってくれる。きっと、趣味が合うってやつだったんだろう。女子と男子だから、多少感じ方が違う部分はあるにせよ、少なくとも一緒にいて嫌な奴ではなかった。
「なんだよ、榊っていいやつなんだな?」
「そう……?」
「そーだよ。俺、榊と遊んでて楽しいもん」
「本当? 杉名くん、私と、遊んで、うれし……い?」
「ん、まあーそうだな、嬉しい。それに、杉名でいいよ。俺ら友達だろ?」
「……杉名……」
「うん。俺と榊は、友達だ!」
「杉名……また明日、一緒、に……かえって、くれる?」
「おう! そんじゃ、約束だな! ほれ」
俺は右手を軽く開いて、腕相撲でもするように差し出した。榊はきょとんと俺の手を見ながらまた見つめ返してくる。
「なに、これ……?」
「超闘士バトラー知らねーの? バトラーが親友と約束するときは、こうやるんだぜ。かっけーだろ!」
「……変なの」
そういいながらも、榊は俺の手を握り返してきた。お互いの手を強く握りあい、俺たちは約束した。
「じゃ、また明日な、榊」
「うん。また明日ね、杉名」
ふっと榊は俺に笑いかけた。教室では見ることのない、柔らかな笑顔。きっと誰も見たことのない、俺だけが知ってる、榊の表情。彼女のその表情に……俺は密かに、心打たれた。時々他の友だちと遊んだり、榊も用事があると言って早く変えることはあったけれど、俺たちの関係は続いていく。約束は約束を呼び、明日はその次の明日を、次の週も、次の月も。一年過ぎ……二年が過ぎ……中学生に上がり、高校生になってなお……俺たちの関係は続いていた。
「榊さぁ、スカートやっぱ短くね?」
「何、短いと嫌?」
俺と杉名は、制服のシャツとズボン、スカートに身を包んでも隣を並んで歩いている。榊は相変わらず、無口で、静かで、運動も勉強もできるけど、友達はいないやつだった。おとなになって手足が伸び、胸が膨らみ……短いスカートから眩しい太ももを覗かせている。
「嫌とかじゃねーよ。そんな足出してて……お前はいいのかよ、お前は」
「別に」
「別にって……あのなぁ、そもそも……まあ、俺が言うことじゃねーけどよぉ」
「……杉名」
「なんだよぉ」
「杉名はさ、どうなの?」
「何が」
「私のミニスカ……とか、太もも、とか……?」
「う゛……」
「見たく、ない?」
「……見……たい……」
「じゃ、いっぱい見て」
俺にだけ見せるあの柔らかい顔も、変わらない。変わっているのは、俺一人だ。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
「ただいまー」
「ああ、おかえり。雄大……あんた、まーた榊ちゃんと帰ってたの?」
「そーだけど」
「……あんた、学校の他の女の子と仲良くやってんの? 榊ちゃんは確かに可愛いけど、あの子だけにぞっこんになってんじゃないの?」
「ばっ、ち、ちげえっつの! ばーか! うるせえクソばばあ!」
「ちょっと、なんてこというのお母さんに向かって!」
「るっせぇなぁ! 榊とは……ただの友達なの! そういうんじゃねーんだよ、ったく」
家に帰ってくるなり、お袋の言葉にムキになって答えてしまう。自分の部屋に入ると、年季の入った勉強机に鞄を放り、制服を雑多に脱ぐ。黒いインナーシャツと下着姿になって、ベッドに寝転んだ。ぼーっと見えるのは、幼いころから見慣れた白い天井。埃と日光で若干ヤケたその白は、高校三年にもなればあまりにも見慣れている……。
榊と俺は恋人同士ってわけじゃない。だが一方で単なる友達の範疇を超えている……ような気がする。幼馴染という意味ではもちろんそうだ。休日はいろんなところに出かけたりするし、榊が俺以外の男子と一緒に話したりしているところは見たことがない。榊は美人だが、正直人の前に出たりするタイプじゃないし、単純に悪いやつじゃない。遊びに誘ってもノリが薄いってだけで、特にいじめにあうわけじゃない。昔と変わらない……。俺の友達のはずだ。なのに……。
『杉名は、私のミニスカとか、太ももとか、見たくない?』
『じゃ、いっぱい見て』
あの柔らかな表情、柔らかな声。俺だけが知っているその声が……俺をおかしくさせる。なんだよそれ、なんだよそれ。ああやめろよ、あいつあんなこと言ってないのに……俺の頭の中の榊は、勝手に……。
『杉名、もっと見たいんでしょ?』
「馬鹿馬鹿、違う違うって……」
『いいよ、ほら……胸も、お尻も、ここも……』
「ぅ……ッ」
気が付くと俺のチンポは、痛いくらいに勃起していた……。まるで根元を掴んで、無理やり血液を送っているかのように、亀頭はパンパンに膨れ上がって真っ赤になり、先端からはトロトロの我慢汁を出している。俺は小さくため息をつくと、インナーシャツを脱ぎ……いきり立ったイチモツをしこしこと慰め始めた。最近想像するのは、いつもこれ。俺だって年頃の男子だから、AVとかそういうので抜くっていう機会もなくはない。友人とAVやエロ雑誌を回し読みする、なんてこともたまにあったりする。
だが最近はもっぱら……榊の裸で、気が付いたら抜いていた。
「っくっ、ウッ……ァ゛……♡」
目をぎゅっと閉じ、俺は榊を思い、自分を慰める。頭の中で榊を抱きしめながら、榊の中にたっぷりと流し込む。目を開くと、俺の腹の上、割れた腹筋から胸板、ひどいと鎖骨以上飛んだ精液が、俺の体を汚していた。急速に襲ってくる倦怠感。そして罪悪感。榊は友達だ。俺の大切な……。大切な友達なのに、こんな風に想像して……最悪だ……。今、榊はなにしてんだろう……。
「つーか、顔見知りの女子で抜くってお前それは……あー、くっそ」
自分で自分のことを乙女チックというのは何とも馬鹿らしく、乙女とは程遠い男の体をした自分に嫌気がさしてくる。何もかもが嫌になり、俺は体をティッシュで拭うと、そのままそそくさとシャワーに向かった。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
何日かした昼休みのことだ。俺は屋上で寝転んでいた。青い空に、雲が早く流れていく。空が高く、風も少しだけ冷たい。もうしばらくしたら体育祭やら、文化祭で忙しくなるなぁとぼんやり考えている。正直そんなぼんやりなんて、今の勘定をごまかしているだけだけど。俺は2~3日前、決死の想いで友人に打ち明けた。もちろん、榊にじゃない。それはクラスで馬鹿をやる男子連中にだ。奴らは俺の話を真剣に聞いて頷いた後、一つの答えを出した。
「そりゃお前、欲求不満だよ」
「ヨッキュー……フマン……」
「そーそー。いっくら榊さんが美人で可愛いからってよ、なぁ?」
「ああ。クラスの女子をセンズリのネタにするなんざ、はっきり言って欲求不満だよ。欲求不満」
「センズリのネタって言うなよ……なんか、やだ」
「やだって事実だろーよ」
「とにかく、もっとスケベなAVとかエロ本をズリネタにしたら……流石にプロと素人じゃあプロに軍配は上がるだろ?」
「まあ、素人には素人の良さっつーもんがあるけどなぁ……」
「それも確かに……あ、ところで素人と言えばよ、この間ポルノホブで」
と、俺が聞いたのはここまでだったが……要は奴らの言い分としては、榊以上の美人だったり、榊よりもエロい体型の女で抜けばいいって話ではあった。だが、ことはそんなに簡単な話じゃあない。正直そのくらいのことなら、俺だって何度もやったし、それこそスマホでエロい動画を探しまくってもっと過激なものを、もっとエロいものをと探しはしたものの……榊を想像したときほど俺のチンポは興奮しなかったんだ。今だってそうだ。あいつらが渡してくれた海外のスーパーグラマーなポルノ女優や日本のめちゃくちゃ可愛いAV女優は、たしかに過激だった。特に、OL風の服装をした女優が、ワイシャツの前だけ開いておっぱいもろ出ししてるのなんか、すげーエロい……でも、それを見ても……勃起こそすれ、別に簡単に耐えられるほどだ。榊で想像していたときなんかとは、ぜんぜん違う。
「はぁーぁ……こんなもんで耐えられたら苦労なんかしねーっつーの」
「杉名、こういうの読むんだ」
「あぁ、まあ嫌いじゃねえしそりゃ興奮はす……」
突如として現れた榊の声に、俺の背筋は凍る。一声も発せず、錆びついた機械のように首をなんとか隣へ向ければ……そこにはエロ本を淡々とめくる榊がいた。榊は榊で、俺の隣に腰を下ろしながら、渡されたエロ本をパラパラとめくって眺めていた。
「さ……榊、お前……いつの間に」
「2組の教室。杉名、いなかったから……杉名、こういうの、好きなの?」
「い、いや……別に。好きでもなんでもねーっていうか、そ、それは借りたやつで」
「恥ずかしいことじゃない」
「まあ、そりゃそうかも知れねえわな……年頃の男子の事情をわかってくれて助からうが、違う。違うそうじゃない」
「違うの?」
「大いに違う。いいか、榊。だいたいお前もな、そんなストレートに……!」
眼の前の光景に、突っ込む気力も失せていく。しおしおとどうでも良くなるっていうよりは、次の言葉が見つからない。なぜなら榊が……おれのワイシャツのボタンを外して……インナーのシャツを見つめてくる。黒いシャツの中に一点。白っぽい点がある。白ってよりも、半透明な……少し乾燥してカピカピしたものが残った……。その正体が、頭の中で急速に結びつく。いつもは勉強だって苦手なくせして、こういうときだけ回転が早い。数日前、ベッドの上。榊でオナって射精したした時も、このシャツを着ていた。つまりこれは……俺の……。しかし榊は、そんな俺の半透明なシミにそっと顔を寄せると、ちゅっとその部分を吸い取った。
「ぃっ……!?」
「やっぱり、杉名だった」
「は、おま、お前……何を」
「……さっきの人、こんな風にしてたよね」
なんでもないとばかりに、シャツのザーメン跡を吸い取った榊は……眼の前でワイシャツのボタンを外し、左右に開いてみせてきた。真っ黒な、レースのブラに包まれた……榊の大ぶりの胸が、ワイシャツの中から飛び出してくる。俺の目は、釘付けになった。
「どう? 下着、脱ぐ……?」
「え、ば、ば、おま、え……!」
「脱いだほうが、いいよね。待ってて」
「待て……待てバカお前、やめろ!」
榊を壁に押しやり、開いたワイシャツを閉じる。指に当たる胸は柔らかく、一瞬俺の動きは淀み、触りたいのと、抱きしめたいのと、離れたいのと、隠したいのとで、ないまぜになる。チンポはまた、痛いくらいに、勃起していた……。
「あ、っ、ぅ、馬鹿、榊お前、ばっか……!」
「私じゃ、嫌?」
「嫌、嫌、とかじゃ……!」
「杉名の、こういう形なんだ」
なんだ、何してる? 榊お前、何してる? 榊の手は、俺の体の中心を触っていた。どこを? 眼の前のことで、張り詰めて、勃起した……ちんぽを。榊の細い指が、制服越しの俺のチンポを握り、優しく、前後にしごいてくる……。何してんだ、何だ、俺、榊に手コキ、されてる? 困惑に頭がバグる。榊はタダ目の前で、いつもの仏頂面で俺のことを見ているだけなのに、頭の中の榊が……勝手なことを話し始める。
「……」
『私、杉名のこと、大好きだったんだぁ♡』
「さ、榊……!」
「……?」
『杉名になら、なにされてもいいよ♡ 杉名のおちんぽ、私で気持ちよくして?』
「やめ、やめろよ……俺ら」
『杉名、出していいよ♡』
「私、いいよ? 杉名なら」
「……ッ!!!」
やべ、やばいっ、もれ、漏れる……ッ出ちまう……! すんでのところで榊から離れて、俺は両手の拳を固めた。頭を振って、あのチンポが好きな……俺の頭の中だけの、ありもしない榊の姿を振り払う。俺は顔を上げて、目を丸くしている榊を見つめ直した。
「なあ、榊……俺ら、友達、だろ?」
「…………」
「俺、俺……」
「……杉名」
「榊……」
ふと、うつむいた俺の顔の前に、手が差し出される。半分開いた右手。俺が顔をあげると、榊は腕相撲するみたいに俺に手を差し出してきた。なんだよ、どういう、意味なんだよ。それ。俺が腕を握り返すと、榊は俺を引き上げてじっと見上げてくる。いつの間にか、ずいぶん俺の方が背が高くなっちまった……。
「今日の帰り、ついてきて?」
「は、え……?」
「絶対。ね? 杉名なら、いいから」
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
榊に言われた通り、俺は榊と帰るために放課後彼女を探した。お互い部活なんてやってない。帰宅部同士、よく並んで帰ったものだ。放課後あいつを迎えに行ったとき、榊のクラスの女子が俺を怪訝そうに見た。
「あれ、杉名じゃん」
「ほんとだ、杉名」
「なんだよ、いちゃわるいかよ」
「いや、悪くないけどさ。榊さんといっしょじゃないの?」
「は?」
「榊さん、なんか急いで帰ってったよ。てっきりあんたと帰るんだと思ったんだけど。違うの?」
「なんだぁ……? おい、それいつだ?」
「五分か、十分前。あ、ほらあそこ」
女子が指さす先を見ると、校庭脇の通路を、他の奴らに紛れて歩いていく榊の姿が見えた。何だあいつ、自分から帰りに誘っておいて……。
「何、喧嘩でもした?」
「なんなんだよ……!」
「夫婦喧嘩は犬も食わないわよ~、杉名。さっさと行って謝ってきなさいよ~」
「っせぇなぁ!」
女子達を軽く睨みつけて、俺はすぐさま走り出した。走って追いつけないこともないだろうが……意味が分からねぇ。道行く下級生達を追い越して、榊の背中を目指して走っていく。呼び止めても彼女は振り返ることはない。今日に限ってなんでこんなに混んでいるんだよ。他の生徒に阻まれながら昇降口から校門へ。校門から通学路の角から角へ……。昔から通っている、良く見慣れた町のはずだ。近道だって知っている。なのにあいつに、追いつけない。いくつかの角を曲がっていく中、時折見失いつつ、見かけるのは常にあいつの後ろ姿が角を曲がっていく時ばかり。あいつはきっと、俺をみてからかっている。そうに違いない。じゃなきゃこんな無意味なことを続けているかよ。こうなったら、意地でも捕まえて、どういうつもりなのか聞きだしてやる。
「待てゴルァ、榊ぃ……」
ふと、今まで角を曲がっていたばかりだった榊が、どこかの敷地内に入っていった。そして……俺はその場所に見覚えがあった。
「ここは……」
榊についてやってきたのは神社だった。石造りの塀に囲われて、山の方へと登る石階段と、石の鳥居が連なっている。塀も、階段も、石にはどこも苔がうっすらと覆われていて、あまり手入れはされていない。寂れた神社だった。確かにここに神社があることは、前から知っている。結構古い神社で、俺が子供のころにはもうあったはずだ。しかし……ことさらやってきたことはない。夏祭りには近所の小学校や、公民館の敷地を使ったりすることが多く、子供も、大人も……誰も自然と近づかなかった場所……この奥に、榊の家があるんだろうか。石階段をしばらく上った先、榊が立ち止まっていた。
「お、おい。……榊!」
「……」
「どういうつもりだよ! おめーの方から放課後声かけといて、勝手に逃げ回るみてぇでよ!」
「……」
「ひ、昼のことか!? あ、あれは……お前が勝手に……いや、勝手じゃ、ねえけど……と、とにかく、気を悪くしたなら謝る。なあ、おい!」
「……」
榊は声を発することなく、ちらりと俺の方を肩越しに見るだけで、歩いて行った。ついてこいという意味か、あるいは帰ってしまっても構わないという意味か……。俺に真意はわからない。けれど、ここで帰れば何もわからない。俺は拳を握り締め、彼女の後を追った。
どこまで続くとも知らない階段は、木々の枝に阻まれて辺りを薄暗くしている。街に住んでいても階段を見ることができなかったのはこの為か。時間にしてどれくらいかはわからないが、俺は膝に手をついて息を整えると、ようやく神社の全貌が見えてきた。苔むした石畳の広場に、立派な社。石の灯籠には強い炎が灯っている。空は見えない。振り向いても街の明かりが見えないということは、相当に木々が生い茂っているのだろうか。灯籠の炎に照らされて、前後左右は木々の緑が僅かに見えているだけだった。
「榊、こんなとこに、住んで……あ、お、おい」
榊は吸い込まれるようにして、階段を上がり、社の廊下を通って奥へと歩いていく。俺もすぐさま追いかけた。不思議な感覚だ。気持ちとしては、彼女の背中に追い縋って肩を掴む気でいるのに、俺の両足は鉛のように重く、鈍い。気持ちに反して全く足が動かない。夢の中で走っている時にも似た感覚だ。階段で足が疲れたのか?
榊との距離は縮まることなく、なんとか曲がり角で見える彼女の後ろ姿を捉えられる程度だ。大きな社のすぐ後ろ。用具か何かをしまっているのか、倉のような場所に榊は入っていった。重い足を動かして、俺は榊の潜った入り口へと向かう。どうやら中には何人かの人がいるらしい。家族だろうか。俺はなんとなく、この場で扉を割って入るのははばかられる気がして、そっと中を覗くことにした。
扉の中は、板張りの部屋だった。窓のないこの部屋も薄暗く、神棚らしき場所に太い蝋燭があるばかり。壁際に等間隔で置かれた蝋燭を見ると、薄暗くて顔はわからないが何人かの男がいるようだった。それらの前に、榊はいる。
「遅かったな、美琴」
「申し訳ありません。学校で少し用事が長引いてしまって、遅れてしまいました」
「よいよい。長年甲斐甲斐しく仕えてきたお前だ。荒神といえど些細なことに怒りはせん。さあ、やれ」
「はい。荒神様の仰せのままに」
荒神……? 何を言ってるんだ、榊。俺はまた困惑した。知らない言葉もそうだが、榊がここまで流暢に喋ることなんてなかった。あいつはいつも、最低限の言葉しか発しない。何かを選ぶように、つっかえながら少しずつ話すやつなのに。良く見ると、榊の後ろで何かが動いている。丸いものが、四つ……上下に。しかし、俺の意識はすぐに、榊へと向けられた。
榊の制服が、ぱさりと落ちていく。シャツも、スカートも、たたんだりすることなく、その場に。体を覆っているわずかばかりの下着や、靴下も。一糸纏わぬ姿となった。榊は、両足のつま先を立てて、そのままガニ股になりながら腰を落とす。膝は90度に曲げた状態で、両手は頭の後ろでしっかりと組んだ彼女は、目の前の誰かに言い放った。
「榊美琴、本日も荒神さまの猛々しいおチン棒様のため♡ この若くみずみずしい体を、神事に差し出させていただきます♡ どうぞ荒神様♡ 私の蜜穴に、雄々しく勃起されたおチン棒をねじ込んでくださいませぇ♡」
「……!?」
榊、いったい……何、言って……?
俺の困惑もよそに、榊の腰に、何かが通される。それは榊の尻の横。太ももの付け根をしっかりとつかんで、榊を持ち上げる。榊の股の間、何か固いものがつぷりと当たり……。
「ほぉ、れい!」
「ん゛っぐぅう゛♡ お゛♡ んぉお゛♡♡ あ゛おぐ、おっくぅう゛♡♡♡」
榊の……奥深くへと、ねじ込まれた。それは榊の中を押し広げるように、円を描きながらゆっくりと入れられて行き、榊の足もまた、相手にしがみつくように回される。前後にゆっくりと動くごとに、その二人の繋がった間から、ぬっち、ぬっちと、いやらしい水音が響いていた。
「…………」
「あぁ、いい゛♡ あ〜〜〜〜〜これっ、これこれこれっこれぇ゛♡ 荒神様のっ、ぉ、おチン棒♡ これがきくっ、これが、これが一番効くっ♡ 奥までくるぅう゛♡ あっお゛っ♡ ぉお゛っほぉお゛♡」
「これ、美琴。神事の最中だぞ」
「ご、ごご、ごめんなさぃっひい゛♡ お゛♡ おまんこ、まんこきくっ♡ ぎっくぅう♡♡♡ まんこに荒神様のおチン棒きくの゛っ、ぉっお゛っっほぉお♡」
榊の聞いたことのない声がそこら中に響く。薄暗い部屋の中、榊の丸い尻が上下に揺れて、傷ひとつない綺麗な背中がびくびくと揺れていた。榊の表情は一歳見えない。俺に向けて振り向かれることもない。それでも、彼女がどんな表情をしているのかは、丸い尻の下で汁を撒き散らす下腹部で……容易に想像ができてしまう。
そして、徐々に目が慣れて、奥の方もわかってしまう。榊のずっと奥、部屋の左右の隅の方で揺れていた丸いものは、二人の女だった。頭には何か樽のようなものを被せられており、榊ほど声は発せられていないが、耳を澄ませると、低く唸るような喘ぎが漏れている。
さらに目が慣れると、それだけじゃない。俺がはっきり見て取れたのは二人の女だったが、子供もいる。膨らみかけの胸をした少女から、腰の大きくなりはじめた少女。果てはまだまだ未発達の、大人の腰くらいまでの背しかない幼女まで……。女は全員樽を頭にかぶされ、顔はわからない。男もまた鉢巻のようなものから垂れた布で顔は隠れている。彼ら彼女らの顔を覆う場所には、一つ目と紋様を組み合わせた妙なペイントが施されていた。
一体なんだ? 何が起きている? 俺は頭の中で、目の前で起きていることを理解しようと、必死で頭を回す。ここは榊の家で、俺は榊の後を追ってきて……榊はここで……。さっきの男の口ぶりからして、初めてとかではないようだった。ということは、何度も、何度も……いつからだ? あの男は誰だ? なんだ、何なんだ……? 嘘だろ……こんなの、嘘だろ。だって俺、今日……榊とまた会おうぜって、昔みたいに……約束、して……。
「……っ!」
ふと、自分の股間に電流が走った。俺はいつの間にか、下半身を露わにしていた。膝までズボンと下着を下げて、いつも以上に勃起したちんぽに……榊と合わせた手が添えられている。まて、止めろよ、何してんだよ俺……! そう思っても、俺の手は止まってくれない。同時に目も。背けたいはずの光景から目を背けられず、右手は快感を高めるために上下の運動を続けていく。同じく榊の、嬌声も。
「お゛おォお゛オッ♡♡♡ オッ♡ んぉぉ♡ おっんほおおお♡ あ゛ぉっ、お゛っほぉ〜〜〜〜〜♡ きくっ、きくぅうッ♡ お♡」
「お前はこれが好きだな、美琴」
「すぎぃいじゅきっしゅきぃい゛♡ お、お゛んォっ♡ おっ♡ お゛♡ お゛♡ お゛♡ チン棒様でどぢゅどぢゅされるのすぎっ♡ お゛♡ んぉおおおおおおおおお♡♡」
「ここをほじくられるのが好きだろ。ん? ほれ」
「んっぎゅっ、ぉっ、うぉ゛♡ そこっ、そこそこそこぃい゛♡♡♡ あっ、あ゛♡ んぁぁあああああああああ♡♡♡♡♡♡」
「お前の身体は誰のものだ? 言え。お前の口で、言え」
「わたぢの、わ゛だじの、から゛だは、あ、あ゛っ、あらがみ゛ざま゛のも゛の゛でずううううう♡♡♡ おっ、いっぐ、いぐっ、あ゛♡ いぐいぐいぐぐう♡ まんこっ、まんこいっぐ、いぐっ、いっぐぅううううううう♡ お゛ッ~~~~~♡ っほぉお゛ぉおお゛♡♡ おっぐん゛ッ、ぅうん゛っふっぐぅう゛♡♡ お゛んっ、んぉおん゛♡♡♡ っほっ、ぉおっほ♡ んぉお゛ぉお゛お゛お゛お゛お゛♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
「果てたか。いいだろう。おい、神樽を被せろ、っぐ……♡」
なんでだよ、榊。榊……お前、一体いつから、こんなことしてたんだよ。高校入ってから? 中学? それとも……最初、から……? いつしか俺は目を背けようともせず、壊れたおもちゃのように手を動かしていた。榊が果てて、仰け反った表情は……俺の見たことのない、絶頂に満ちた表情だった……。
「…………っ」
その表情を見た瞬間、俺はイった。いつもの数倍。体に飛び散るなんてものじゃなくて、尿でも出しているんじゃないかと錯覚するほど。長く、多く、こぼしていた。榊の顔は奇怪な紋様を刻み込んだ樽に覆われ、部屋の奥へと消えていった。犯され続ける女たちと同じく、榊の丸い尻が上下に揺れ、くぐもった声だけがその場に響く。気が抜けたからだろうか。思いのほか扉に体重をかけていたことに気が付く。足がもたれ、たたらを踏んでしまう。
「……、誰だ」
「……!」
中から聞こえた声に、俺は一目散に逃げだした。服を正し、荒く乱れる息のまま。俺の歯は鳴り、息は暑く拳は握られ、視界はにじんでぼやけていく。そんな状態で階段を下ろうとしたからだろう。俺の足は空を蹴り、次に感じたのは、四方八方から打ち付けられる痛みに、生暖かいぬめりと、血の味だった。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
目が覚めたとき、俺は病院のベッドで横になっていた。天井は白く、ぽつぽつとランダムな穴が開いている。周囲はカーテンに覆われていて、お袋とクラスメートが何人か、俺の顔をのぞき込んでいた。
「雄大……雄大! ああ、雄大……!」
「杉名! おい、杉名が目ェ覚ましたぞ!」
「先生呼んで来い! 杉名の父ちゃんもだ」
お袋が俺の肩に顔をうずめながらむせび泣くと、体中が痛かった。見ると両手両足、そこかしこに包帯を巻かれている。動かしにくいが首にも何か巻かれているようだった。腕のあたりからは細い管が二つ、枕もとには心拍か何かを計測する機械が繋がれている。俺が周囲に目を奪われていると、やがてクラスメートに呼ばれた、白衣のおっさんが部屋に入って来た。
「やあ、杉名君。目が覚めたね、良かった。具合は?」
「全身が……痛ぇ……」
「そりゃあそうだろう。君はひき逃げ事件に遭ってね、全身骨折。意識不明の重体だったんだ。運び込まれて、今日で三日目だ」
「三日、目……?」
「信じられないのも無理はない。意識を戻しても、君は唸り声をあげていたからね。悪い夢でも見ていたような感覚だろう」
「悪い…………夢…………」
「しかし、まさか面談中に意識を取り戻すとはね。君らの友情がなせた業かな」
「杉名ぁ、よかったなぁ……!」
「ったく、心配かけやがって……!」
クラスメート達は涙ながらに、俺の回復を喜んでくれている。お袋も、友人も、俺のために泣いて、喜んでくれている。こんな喜ばしいことはない。ないんだろう……きっと。
「……なぁ……」
「なんだ、杉名。なんかほしいんか? コーラか?」
「馬鹿、病人にんなもん飲ませんなよ」
「病人じゃなくって怪我人だろ」
「同じだよ馬鹿。で、杉名、どうした?」
「……いや…………なんでも、ない……」
俺の無事を喜んでくれる声も、お袋の声も、先生の声も、どこか遠く、関係のない場所で鳴っているようだった。
数か月のリハビリと、病院で始まった受験勉強。苦痛と多忙に見舞われた毎日を、お袋は懸命に支えてくれたし、クラスメートも遊びに来て、勉強に付き合ってくれた。当然先生もやってきた。けど……俺はただの一度も、榊のことを聞かなかった。いや、聞けなかった。榊はあの後、どうしているのか。毎日学校に来ているのか。それともどこかに引っ越したのか。俺は何も知らない。榊のことを微塵も話さない彼らに話したら……もしかしたら……。
あの神社に近づくことも、アルバム一冊開くことも、あの笑顔をもう一度見ることも……俺にはもう、できない……。