天才の友達
Added 2024-12-13 16:39:00 +0000 UTCこちらの作品は、https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=23594968の差分小説です。
本編を読んでから、お読みいただけますとより楽しめると思います。
*
舞は大学帰りに寄ったファミリーレストランで、少し背伸びした食事を楽しんでいた。普段なら無難にパスタやハンバーグを頼むところを、その日は「大人っぽいものを食べたい」という気分で、香辛料の効いたチリソースのメニューを注文したのだ。
「辛いけど美味しい!」
口に広がる辛さに一瞬たじろいだものの、舞は夢中でフォークを動かした。麗花との時間が多い最近、彼女を支えるために自分も大人にならなくちゃ――そんな思いが頭の片隅にあった。舞にからしたら1人でファミレスに入るという行為そのものも大人のすることという考え方があった。
「私、今日ものすごく大人の階段を登ってる気がする!」
だが、その無邪気で少し的外れに感じてしまう挑戦が、数時間後に彼女を予想もしない苦しみへと誘うことになるとは、まだ知る由もなかった。
*
舞が異変に気づいたのは、帰りの電車に乗ってすぐだった。
「ん……?」
腹部に鈍い痛みが走り、思わず鞄を握り締める。電車の揺れに合わせて体が小さく揺れるたび、痛みがじわじわと広がっていくような感覚。冷や汗が額を伝い、舞は浅く息を吸った。
ぎゅるるる!
(これ……ヤバいかも……)
思い返せば、レストランを出た直後から少し違和感があった。だが、普段お腹を壊すことがほとんどない舞は、それを深刻に考えていなかった。
「次の駅で降りよう……」
彼女はそう決意し、立ち上がろうとする。しかし、電車の混雑で身動きが取りづらく、焦りが胸を締め付ける。
なんとか駅に到着し、ホームに降りた舞はトイレを探して走り出した。だが、駅構内のトイレが目に入ると同時に絶望が襲う。
「改装中……?」
目の前のトイレは使用不可。この駅は、開発が途上で周りに大型の店があるわけではなく、舞自身も土地勘がないため、電車に乗って次の駅で降りたほうが良いという考えに至る。
(耐えなきゃ……)
そう自分に言い聞かせながら、彼女は再び電車に乗り込む。しかし、痛みはどんどん激しくなり、車内でじっとしているのが限界に近づいていく。
(次の駅で必ず降りて――)
そう考えた矢先、電車の揺れとともに腹の奥が強烈にねじれる感覚が襲った。
「っ……!」
思わず膝を押さえ込み、小さくうずくまる舞。周囲の視線を感じたが、それどころではなかった。
(お願い、お願いだから間に合って――)
祈るような思いで駅を降り、今度こそトイレに向かう。
ようやくたどり着いたトイレで、舞はほっと胸をなでおろすと同時に、個室に駆け込んだ。そして、便座に座るなり、その思いを断ち切るように激しい下痢が襲う。
ギュルギュルルル……ゴロゴロ……!
ブシャアアッ!ビチチチチッ!ビュルルルル!
「はぁっ……はぁ……」
何度も腹の奥からこみ上げる感覚に耐えながら、舞はお腹を抱える。
(何これ……こんなの、初めて……)
辛さと恥ずかしさが混じり合い、目頭が熱くなる。
「はぁ……はぁ。お腹痛い……」
ビチチチチッ!
舞は便座に座ったまま、お腹を抱えて肩で息をする。次から次へと押し寄せる腹痛の波に、全身が震えていた。
ぎゅるるる……ビチビチッ!
小刻みに響く音とともに、腹の奥底から不快感が押し寄せるたび、舞の目に涙が滲む。
(まだお腹痛い……。もう十分出し切ったはずなのに、どうして……)
体力が限界に近づき、足先が小刻みに震え始める。冷たい汗が髪を濡らし、心も体もどんどん追い詰められていく。
ビュルルルルッ……ブシュッ!ビチビチッ!
再び襲いかかる強烈な感覚に、舞は思わず顔をしかめた。痛みと恥ずかしさで、完全に打ちのめされた気分だった。
(どうしてこんなことに……。絶対さっき食べたやつが原因だよぉ)
頭の中を後悔が駆け巡る。ファミレスでの食事が原因なのは明白だが、だからといって過去に戻れるわけではない。
ぎゅるるる……ビチビチビチッ!
何度目か分からない音が響く。
「お腹痛いっ」
羞恥心は薄れ、ただ痛みを和らげたいという願いだけが舞を支配していく。周囲に聞こえていないか、トイレの外で待っている人がいないか――そんなことを気にする余裕はなくなっていた。
「……誰か助けて……」
小さく漏れたその言葉が、個室の中で虚しく響いた。
腹痛の波が次第に弱まっていくとともに、舞はようやく少しだけ呼吸を整える余裕を得た。だが、体力を奪われた彼女は立ち上がることすらできず、便座に座ったまま壁にもたれるようにして目を閉じた。
(もう……帰る力も残ってない……)
涙が頬を伝う中、舞はふと麗花のことを思い出した。
(こんな時、麗花ならどうするだろう……)
自信に満ち溢れ、どんな困難にも負けない姿を見せてくれていた麗花。だけど、あの時以来、彼女もこんな風にひとりで苦しんでいたのだろうか――。
舞の中で小さな共感が芽生えた。それと同時に、自分ももっと強くならなければという思いがかすかに湧き上がる。
トイレでの悪夢のような時間を終えた舞は、ぐったりとした体を引きずりながら駅を出た。冷たい風が頬を刺し、かすかな痛みがまだ腹部に残っている。
(あと少し……。家まで持てば……)
普段なら15分もかからない道のりが、無限にも思えるほど遠く感じる。何度も足を止めて深呼吸を繰り返しながら、舞は小さな一歩を重ねた。
ようやく玄関の扉を開け、自分の部屋に入った時、舞は心底ほっとした。コートを脱ぎ捨て、バッグを床に落とし、ソファに倒れ込む。
「ふぅ……」
だが、その安心感もつかの間だった。
ぎゅるるるる……。
「えっ、嘘……また?」
舞の顔が青ざめる。先ほど駅のトイレで全てを出し切ったはずだったのに、再び腹部に痛みが押し寄せる。
(いや、もう無理……こんなの、耐えられないよ……!)
慌てて立ち上がり、再びトイレへと向かう。脱力感と痛みでふらつきながら、なんとか便座に腰を下ろした瞬間、再びお腹の奥から押し寄せる衝動が彼女を襲った。
ビチビチッ!ブシュッ!ビュルルルッ!
「はぁっ、また……こんな……!」
耐える余裕などなく、舞はお腹を抱えて顔を歪めた。全身が熱を帯び、汗が背中を流れる。
(いつまで続くの……私、本当に大丈夫なのかなぁ……)
その間も音は止まらず、舞は再び涙をこぼした。無力感と恥ずかしさが入り混じり、ただひたすらに終わりを待つしかなかった。
それから数十分後、ようやく腹痛が落ち着き、舞はふらふらとベッドに倒れ込んだ。体力は完全に尽き果て、彼女の意識は薄れつつあった。
「……次からは、背伸びして辛いものを食べないようにしよ」
薄暗い天井を見つめながら、舞は弱々しくそう呟いた。そして、深い疲労の中、意識を手放した。