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卒業式 差分

 こちらは、pixivに投稿した「卒業式」の差分小説です。

https://t.co/jDaXiNXyx2


 卒業式が終わった。

 式の全てに参加できなかったことは心残りではあるが仕方がない。

 私は深呼吸をして、教室を後にする。6年間お世話になった学校ともこれでお別れだ。校舎を出ると、在校生が花道を作り、私たち卒業生を見送ってくれている。拍手と歓声が混ざっている。こんな経験は初めてだった。


「みくさん、おめでとう!」

「今度遊んでください!」


 下級生たちが笑顔で声をかけてくる。私もそれに応え、できる限り明るく振る舞った。


 しかし――。


 ギュルルルルル。


 卒業証書を受け取ったあとに駆け込んだトイレで、ある程度落ち着いたはずだったのに、また不穏な気配が戻ってきていた。


 お腹痛い。


 校門までは、あと少し。


 この花道を抜ければ解放される。早く帰っちゃえば問題ない。大丈夫。


 そう思って、必死に前に進んで歩く。


 しかし、突然の冷たい風がスカートの裾を揺らし、ぞくりとする。その瞬間、腹部に鋭い痛みが襲いかかった。


「……っ!」


 思わず足が止まりそうになるが、後ろには続々とクラスメイトのみんながついてきている。自分が立ち止まると渋滞になってしまう。


 足を動かさなくては。


 そう思うのに、体が言うことをきかない。


 痛い。お腹。痛い。


「大丈夫?」


 隣を歩いていた友達が心配そうに覗き込んだ。


「う、うん……」


 平気なふりをして笑う。大丈夫なふりをしなければ。もう少しで校門だ。そこを越えたら、すぐに帰れる。


 でも、次の瞬間。


「浦野さん!」


 後ろから声がした。振り向くと、漆原くんだった。


「さっきから様子おかしいけど、大丈夫?」


 優しい目が、じっとこちらを見ていた。


「……へ?」


 自分では隠していたつもりだったのに、どうやらバレバレだったらしい。


「べ、別に、何でもないよ!」


「いや、顔色悪いし、歩き方も変だし……」


「そ、そんなこと……」


 否定しようとするが、胃がキリキリと痛み、膝が震える。


 このままじゃ、漆原くんにバレちゃう――。恥ずかしい。


「……っ」


 足元がふらついた。


「あっ!」


 漆原くんがとっさに肩を支える。


「やっぱり具合悪いんでしょう?」


 そう言って、漆原くんは私の手を取る。


「え、でも……」


「いいから!」


 漆原くんは強引に私の腕を引いた。それに抵抗する余裕もなく、彼に従うしかなかった。

 花道を抜けると、校門の脇にある小さな植え込みの陰に連れて行かれる。あんなに前に進むのを苦労してたのに、手を引かれたら一瞬だった。


「ちょっと休もう。顔色ひどいよ?お父さんかお母さん来ている?」


 漆原くんが心配そうに覗き込む。

 お腹が痛くて下痢をしているなんてバレたくない。私は、手でお腹をさすりたいのを必死に我慢した。


 ぎゅる。


 小さくお腹の音が鳴る。


「……ごめん、ありがとう」


「どう、具合が悪いの?お腹痛い?」


「えっ……」


 図星を突かれ、ぎくりとした。

 私は慌てて視線をそらし、誤魔化そうとする。しかし、そんな態度がかえって答えになってしまっていた。


 漆原くんは、私の顔をじっと見つめていた。その瞳に、疑いの色はなかった。心配の色だけが浮かんでいる。


「ちょっと待ってて、先生呼んでこようか?」


「だ、大丈夫! そんなんじゃないから!」


 私は勢いよく首を振る。

 先生になんて言われても困る。体調が悪いのは事実だけど、こんなこと、先生には絶対に知られたくなかった。


 けれど、今にも波が来そうで、もう限界だった。


「でも……」


 漆原くんがさらに何かを言おうとした、その瞬間――。


 グルルルルル。


 不意に、大きな音が鳴った。

 それも、はっきりと聞こえるレベルの音で。


 最悪だ。


 私は、息を呑んだ。

 もう誤魔化しようがない。


「あっ……」


 漆原くんの目が、少しだけ見開かれる。


「や、やだ、今の……」


 私は顔を真っ赤にして、うつむくしかなかった。

 この場から逃げ出したかった。でも、立ち上がったらもっとひどいことになるかもしれない。


「浦野さん……」


 漆原くんの声が、どこまでも優しくて。

 だからこそ、余計に恥ずかしかった。


「……ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」


 私は、俯きながら、なんとかそれだけを絞り出す。


「う、うん。わかった」


 立ち上がると、駆け出していた。


 校舎の方へ、全力で。


 誰に何を思われてもいい。


 今はただ、一刻も早く、トイレに辿り着かなくちゃ。


 そんなことしか考えられなかった。


 トイレの個室に駆け込み、扉を閉めると同時にパンツを下ろす。


 ブリュルルルニュルーーーッ! ニュルーーーッニュルーーッ!!

 ブリュミチミュルーーッニュルーーーーーーーーーーッ!! ニュルーーッ!

 ビュルブビーッブピーッビチーーッ! ビュルルブジューーーーッブバーーッ!!

 

「うっ。痛いよぉ。でも……」


 間に合った。


 それなのに――胸の奥がずっとざわざわしている。


「……はぁ」


 ブピッブシャーーッビチィィブシャーーーッ! ブシャビィィィィブビューーーーーーッ!!

ブバッブビビチーーーーブバーーッ! ブバッビチチチチチッ!


「くぅ」 


 漆原くんの前で、ここまで明らかにお腹の不調を悟られるなんて。


 今までどんなに体調が悪くても、人に気づかれないようにしてきたのに。

 大丈夫なふりをするのが、私にとって当たり前だったのに。


 それが、今日に限ってはもうどうしようもなかった。最後の最後なのに……。


 恥ずかしい。


 顔が熱くなる。いや、お腹の方が大変なはずなのに、頭中ののほとんどはさっきの漆原くんとのやりとりに持っていかれていた。


 「お腹痛い?」


 彼のその言葉が、まだ耳の奥に残っている。


 優しくて、まっすぐで、思いやりのこもった声。

 心配してくれるのは嬉しいのに、それ以上に、どうしようもなく恥ずかしい。


 トイレの中という安心感があるはずなのに、胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになる。


 私はもう卒業するんだから、今日を乗り切れば、きっと大丈夫。

 卒業式が終われば、漆原くんともそんなに会うことはなくなる。中学校の別々だ。


 そう考えたら、少しは落ち着けるだろうか。


 でも――


「……また、会えるかな」


 ぽつりと漏れたその言葉に、私は自分で驚いた。


 彼とはもう関わることはないはずなのに、なぜか、ほんの少しだけ。

 ほんの少しだけ、そんな未来を期待している自分がいた。

Comments

リクエスト作品ありがとうございました。卒業式が始まる前の下痢があることで、一度出したのにまたお腹痛くなっちゃう不調がより強く伝わってきました。ラストの展開も考えていただいてありがとうございました。いつも漏らしちゃう可哀想な話でお願いしていたので間に合って本当に良かったね、と思います。漆原くんとの淡い関係もとてもよかったです。この後の二人の関係も気になるのでぜひ続きを読んでみたいなと思います。 効果音システムも使っていただきありがとうございます!ぜひ派手に出しちゃう音を作っていただければと思います。

melty


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