私は『ひかり』14歳。地味で目立たない中学2年生。
漫画や読書が好きで、いわゆる”陰の者”である。
クラスにおいて、周囲からは「空気」として扱われているが、私の隠れファンがどこかにはいるだろうと確信している。見たことはなく、根拠は一切ない。
ある時、AI診断アプリに現在の状況を説明して『このままでいくと私ってどうなるの?』と質問してみた。
結果・・・今のままでは学校で孤独死します!!
ヘぇ〜 そうなんだ〜、、、じゃねぇ!! どーゆーことよ!!
補足・・・妄想を拗らせ過ぎて、現実と比較した時にショッ・・・そこまで見て私は診断アプリを削除した。
それがキッカケとなり、私は「自分を変える」ため、少し前チラシで見かけて興味をそそられていた隣町のプロレスジムに登録し、ちょくちょく通うようになる。
学校では5軍以下のそんな私だけど、一番輝ける場所、一番心が落ち着ける場所があった。それは家の隣……私が恋心を寄せる男性、大学二年の『ユウタ』さんの家だ。
私の家は、母子家庭のため母親が不在の時間が長い。アパートに一人で留守番する時が多かったが、アパートの隣部屋に地方から上京してひとり暮らしを始めるユウタさんがやってきた。隣同士ということもあり、知り合い、話を交わすうちに仲良くなり、家で一人きりだった私に「一緒にご飯食べてゲームする?」と声を掛けてくれた。
もうね……私は彼が好き過ぎて
「ひかりね……ユウタさんのこと、本当に好きなの。もっと一緒にいたいし、たまには手をつないだり、頭なでてほしいし……その……キスも……したいなって……思ってる。」
前のめりが過ぎるほど、私は猛烈にプローチし、彼に告白するが
「ありがとう、ひかりちゃん……。俺もね、正直……すごく惹かれてる。でも、君はまだ中学生だ。俺は……大人として、そこを飛び越えたくない。」
勝手に盛り上がり、舞い上がって、アヘ顔ダブルピースしていた私は、ユウタさんに正論ブチかまされ、地獄に叩き落とされてしまう。
「……じゃあ、ずっとこのまま……なの?」
「違う!」
そう言って彼は真っすぐに、私の目を見ると
「ひかりちゃんが、もっと大人になって――その時、気持ちが変わってなかったら。俺のこと、まだ好きでいてくれたら。今度は俺の方から、堂々と、ちゃんと君に付き合って下さいって言いにいくよ!」
・・・私はうれションした・・・
そんなこんなで、私は隣の彼の家によく通うようになった。
壁一枚隔てた彼の家が、私の第二の故郷なのである。
地方から出てきて、東京での一人暮らしも今度の四月でもう三年目になる。
工学系大学に進学した俺は、日々研究に追われる毎日だ。
AIシステムの制御最適化というニッチな分野で、将来は大手メーカーの技術職に就くことを目指している。
――真面目な人生、堅実な目標。
なのに、家に帰ると………
アパートの隣に住むトンデモな女の子………ひかりちゃん。
中学二年生の彼女に最初に会ったのは、たしか俺がこの部屋に引っ越してきた日だった。段ボールの山を運んでいたら、彼女が「お兄さん、引っ越してきたの?」と話しかけてきた。眼鏡越しの大きな瞳に、地味な髪型。最初は大人しい子だと思った――が、会っていくうちにその予想は裏切られることになる。
彼女は、俺が思っていたよりずっと人懐っこくて、感情表現が激しく、そして……とんでもない行動力を持っていた。
仲良くなって半年ぐらいだろうか………ある時急に彼女から告白された。
しかし、中学生の女の子と交際や諸々のライン超えをしてしまうと牢屋行きになる。
だから、断りつつも、もし大人になっても俺への気持ちが変わらないなら、迎えにいくよという想いを伝えると彼女は納得してくれ、俺と彼女の関係性も破綻することはなかった。
「おい、ユウタ!!今度、合コンの話があるんだけど………って、お前は無理か!!」
「うん、楽しいできて!」
「そうだよなぁ………お前には歳の離れた許嫁がいるもんな!」
「いやっ、その言い方!?」
「頑張れユウタ!!………このロリコン野郎!!」
「いやっ、その言い方!?(2回目)」
事情を知る大学の友人からは、めちゃくちゃ羨ましがられていたが、確かに今の俺の立場は恵まれている。しかし、一歩間違えれば、全てを失ってしまうことにも繋がる危険性を持つ状況であることは認識しておかなければならない。
「今度プロレスの大会に出るから、練習に付き合ってください!」
そう言いながら、彼女はいきなり俺の部屋にやってきた。
「プ、プロレス!?」
俺は彼女がいきなりトチ狂ったのかと思ったが、聞くと少し前から隣町の女子プロレスジュニアクラブに通いだしたらしい。キッカケは自分を変えるためらしい。
「ほんとにジム通ってんの? すごいじゃん。」
「うんっ! 見て! 今日のためにコスチュームも用意してきたんだよ!」
そう言って、彼女は玄関先でいきなりジャージを脱ぎ、下に着ていた黒のノースリーブトップ。光沢のあるミニスカートにニーハイソックスという完全に“ガチな”出で立ちを披露してきた。
これまでの人生で『女子が急に目の前で服を脱ぎ出す』なんてシーンに遭遇したことがなかった俺は、心臓が一瞬、ログアウトしたかと思った。
「ちょ、ひ、ひかりちゃん!? びっくりしたよ〜!!まったく・・・」
俺は”今日の夜はこれで決まり!”感を悟られないように、平静を装いながら、会話を続ける。
「……い、いいんじゃ……ないかなぁ……」
彼女は嬉しそうにくるっと一回転しながら披露してくれる。
スカートがふわっと浮き上がる瞬間、ピンクのショーツがチラリと見えると、俺の視線はどうしてもそこに向かってしまう。
「どうですか?ユウタさん!可愛いでしょ♡」
可愛い……浴びるように好意を受けまくっていると理性が吹っ飛びそうになる。
「練習試合しましょ!こんな可愛い女の子と合法的に密着し放題ですよ♡」
「……あ、あの……ひかりちゃん……ちょっと聞いてもいいかな?」
「はい、いいですよ!何ですか?」
「ひかりちゃんが、プロレスを始めた理由って……」
「もぅ、さっき言ったじゃないですか〜”自分を変えるため”です!」
「まさかとは思うけどさ……”俺を襲うため”とかじゃないよね?」
「そ、そんなつもりなんか、あるわけないじゃないですかっ!!」
「声が裏返ってるけど……そうだよなぁ……俺の自惚れだよな!押し倒して、羽交い締めにして、既成事実を作ろうとか考えてるのかと思った。」
「そんなことないですよ!絞め落として、気絶したところで、唇とか色々奪っちゃおうとか……そんなこと考えてないです!」
「考えてるよね!?答え言っちゃったよねーーッッ!!」
ヤバいヤバいヤバい……色々と読めてきた。
ひかりちゃんから告白されて、交際するのはひかりちゃんが大人になる=高校を卒業する頃になって、まだひかりちゃんにその意思があればという話で決着したはずだったが……どうやら、彼女の心内にはそれ以前に既成事実を作り、完全に俺が逃げられないような状況を作ってしまおうという計画があるらしい。そのために、プロレスジムに通い始め、物理的に俺を制圧できるくらいになろうとしているようだ。
非常にまずいことになったかもしれない……で、でも、俺が負けなければいいだけの話だ。大学生の俺が、中学二年生の女の子になんか負けるわけがない。
そうだそうだ、俺が勝てばいいだけの話である。
焦る必要なんて……何もない!!
……数分後……
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!!」
折れっ、背中が……折れる。
俺は、彼女に見事なキャメルクラッチを極められていた……。
「準備OK? ユウタさん♡」
「お、おう……」
「いきますっ!!」
ドンッ!!!
「うおっ、ちょ――」
思考が途切れた。ひかりちゃんの踏み込みが、想像を遥かに超えて速い。体格差を補って余りある機動力。そしてそのまま、俺の体は弾き飛ばされ、背中から床に叩きつけられた。
「おっ、ちょ、ちょっと! 思ってたよりガチじゃない!?」
「だって、練習試合って言いましたもん♡」
彼女はニコニコしながら、迷いなくマウントポジションに移行する。
あっという間に俺の腰に跨がり、柔らかくも異様に締まりのいい太ももで俺をホールドしてくる。
(うそだろ……!? 本気で技に入ろうとしてる!?)
「じゃあ、いきますね~♡ 」
「う、うそっ――うがああああああああああああああああああッッッ!!」
彼女の腕が俺の首を抱え、上体を引き起こしながら、膝で腰を固定――完璧なキャメルクラッチが極まった。
「ねぇ、効いてますか〜? 私、まだまだ本気出してないですよ〜♪
頑張ってくださ〜い♡」
俺の背中が……折れる、音が聞こえた気がした。いや、気のせいじゃなかったかもしれない。
「……ひ、ひかりちゃん、ちょ、ま、マジでヤバイ! 腰が! 腰がやられる!!」
「えぇ〜? 大学生なんだから、もっと耐久力ありますよね〜?」
くぅっ……ッ、まさか中学生の女の子に、キャメルクラッチでギブ寸前まで追い込まれるなんて……俺は涙、鼻水、よだれ……全て断末魔コンプリートしていた。
しかも何が悔しいって、この状況を彼女がめちゃくちゃ楽しんでいることだ。
「じゃあ、そろそろ、フィニッシュに入ってもいいですかぁ?♡」
「ま、待て、や、やめ――ぐがぁぁぁぁぁッッ!!」
天井が、ぐにゃりと歪んだ。
目覚めたら、そこは――桃源郷だった
……あれ、なんか……甘い匂い。
柔らかい感触。温かい空気。うっすらと開けた視界に、揺れる前髪と、にこやかな表情。目の前には、ひかりちゃんの顔。
「……あ、起きた♡」
「ひかり、ちゃ……ん……? ここ、どこ……」
「ユウタさん、私の膝の上で寝てました♡」
「えっ……?」
頭が、ぐらぐらと揺れる。体が妙にだるい。まるで全身の関節を丁寧に破壊されたような脱力感――
いや待て、事実だ。
(俺は……さっき……)
思い出す。完璧に極まったキャメルクラッチ。全身がバキバキに反り返され、視界がブラックアウトして――
(え、マジで……失神してたのか……!?)
「うそだろ……」
俺は信じたくなかった。中学生相手に、本気でやられて、しかも昇天。記憶が途中でブチ切れてるのも納得だ。
でも、ひかりちゃんは全てを見透かすように、優しく笑って言った。
「もうっ、ユウタさんったら、気持ちよさそうに寝ちゃって……♡」
「……ちがっ!!」
俺はがばっと体を起こし、決意を込めて立ち上がった。
「もう一回! 今度こそ本気出す!女子中学生に負けっぱなしなんて、大学生として、男として、俺のプライドが許さない!」
「うん……わかりました♡」
彼女はふわりと立ち上がると、いつでもスタンバイ状態になる。
その目には、まったく迷いがない。
――そして、第二戦は始まった。
……30秒後。
「ん゛ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッッ!!!」
顔が、マットにめり込む。視界が、ぐにゃぐにゃしている。
「どうですか〜? 新技、これ、超究武神・シッティングです♡」
「い、いや、クラウド!?中二病!?意味わからん……ぬぅおおおおっ……!!!」
俺の背中に、ひかりちゃんの全体重が乗った。小柄なはずの彼女なのに、負荷が異常すぎる。俺の頭は彼女のお尻と床にサンドイッチされ押し潰されそうだ。
彼女は満面の笑みで、俺の上にお尻をどっかりと下ろしながら座っている。
「ユウタさん、また負けちゃいましたね♡」
「……認めたくない。これは夢だ。悪い夢だ……」
「夢じゃないですよ〜? ちゃんと現実♡」
乗り掛かる可愛い中学二年生の女の子。
……俺のプライドは、彼女のピンクのショーツの下、マットに沈められていった。
練習試合(という名の一方的惨劇)から、数時間が経っていた。
さっきまで地獄のように痛んでいた背中も、今ではだいぶマシになってきた。
スポーツドリンクを片手に、ベッドにへたり込むように座る俺。その隣には密着するようにひかりちゃんが俺にもたれ掛かっていた。
彼女は勝者らしく、すごくご機嫌だった。
「ふふふ……ユウタさんの声、試合中ずっと可愛かった〜♡」
「いやっ、ひかりちゃん、完全に俺をオモチャにしてたよな……」
「えー? してないですよー。だってプロレスって“真剣勝負”でしょ? 私、全力だったもん♡」
「うん、全力すぎて俺の背骨がマジで死にかけたんだが……」
「うんうん♡ そこが良かったです♡」
「“良かったです”じゃねぇ……」
彼女はにっこり笑って、俺の顔を覗き込んで言った。
「ねぇ、ユウタさん」
「ん?」
「私ね……ユウタさんを壊すの、ちょっとハマっちゃったかも♡」
「……」
一瞬、時間が止まった。
「え? なにその……サイコホラー……?」
「だって……ユウタさん、痛がる時だけ、すっごく素直になるじゃないですかぁ。『うごぁああ!』とか『もうやめてぇ!』とか……なんかすっごく、愛おしくて……すっごく加速しちゃいます♡」
「うんうん、加速しないでねッ!ブレーキ入れてね!死人が出るから!」
彼女は、悪戯っぽく笑っていた。
「ひかりちゃん……もしかして、既成事実……作ってないよね?」
俺は静かに、唇に触れてみた。
うっすら、なにか、あったような、なかったような――
わからん!!!でもヤバい!!!
「……してませんよ?♡」
ひかりは、微笑みながら、即答した。
「ほんとに?」
「はいっ♡」
この“即答”が一番怖い。
ヤバいぞ、コレ……。さっき俺が気絶してた時に……やられたのか?
いや、でも……いや、でもでも!!
「……なんか、すっごい嫌な予感するんだけど……」
そんな俺の狼狽を楽しむように、彼女は少し身体をこちらに傾けて、悪魔のように可愛い声で囁いた。
「ユウタさん、私みたいなモンスターを野に解き放ったら、大変なことになりますよ?呂布奉先を中原に放ったら世が乱れるみたいな……」
「それはそうっ!」
「だから……ちゃんと、しっかり繋ぎ止めてくださいね♡」
今、確実に心臓のどこかが凍った。
そう――
彼女は、無邪気なフリをした、
手の付けられない、“愛のモンスター”だ。
……俺の理性が崩壊するか。
……俺の体が崩壊するか。
……あれ、崩壊の未来しかなくないか?
8mg(ハチミリグラム)
2025-04-22 02:54:44 +0000 UTCダイトン
2025-04-21 13:51:19 +0000 UTC