彼女がとにかく時給の良いバイトを探していると、大学の先輩からあるSMバーを紹介された。
SMと聞いた時はハードな仕事のように感じたが、よくよく聞くと業務の内容はそれほどキツいものではなかった。普通に接客し、要望があれば軽く縛ったり威力の弱い鞭でペチペチ叩いたりする程度。簡単なプレイでSMの雰囲気を楽しめれば良いらしい。
自分にもできそうだと思った彼女はすぐに面接を受け、仮雇用まではあっという間に話が進んでいった。
店長によれば複雑な縛り方など出来なくてもいいとのことだが、最低限気をつけなければならないことはいくつかあると言う。
そんな訳で本格的に働き始める前に講習会を受けることとなった。
店長が持ってきた縄を見せられると、想像以上に厳つい印象を受けて緊張感が走る。
これを使って客の体を縛り、動けない状態にしてしまうのだ。
無抵抗な相手の姿を想像して胸が熱くなる。今まで意識したことが無かった自身のS性に驚きながら基本的な注意点を聞いていくと、必然的に「緊縛を体験しよう」という流れになった。
「わ、分かりました。教わった通りに店長を縛ればいいんですね?」
「違うよ。縛られるのは君だ」
「あー……え!?」
思いもしなかった発言につい聞き返してしまう。
自分はSの立場の、所謂女王様役として雇われたはずだ。それが何故こちらが縛られるという話になるのだろう?
店長は語った。
「縛り手の力加減一つで縛られる側の快適さが180度変わるからね。塩梅を知るには自分が縛られる体験をしておくのが一番だ。この店の子はみんな体験してるよ」
「はぁ。そういうもの……ですか」
「どうする? 嫌ならやめるけど……」
今はあくまで試用期間。ここで断れば雇用の話も無かったことになってしまうだろう。
それは当たり前だ。最低限必要なことを学ぶための講習会なのだから、学ぶことを拒否すれば店に出させてもらえるはずもない。
彼女は覚悟を決めて頷いた。
「お、お願いしますっ!」
「あはは、そんなに緊張しないで。意外と気持ちいいもんだから」
「店長も縛られたことあるんですか?」
「まあね……ってそんなことはいいから、背中向けて」
照れ臭そうにしてる店長を見てると自然と緊張が解れてくる。こういうやり取りで体の力を抜けさせるのも仕事の内なのだろうかと考えている内に、あっという間に上半身を縛り上げられてしまった。
「こ、これは……」
初めて受ける縄の感触は想像よりも厳しいものだった。高い位置に持ち上げられた手首周りには余裕があるのだが、腕を締め付ける縄が身動ぎすることを許してくれない。
手首を下げようとすると必ず二の腕が左右に開こうとする。しかし縄で左右への動きが止められるので、縄抜けなんてとてもできそうになかった。
動けないこと以上にこの無防備さがとても恥ずかしい。客はこの状態でさらに叩かれたいと願うそうだが、自分が同じ目にあうことを想像すると顔が熱くなる一方だった。
「じゃあ僕はちょっとだけ開店の準備してくるから、縄を楽しんでてね」
「はい……あ、いや、別に縛られて楽しくなんてないですけど!」
「あはははは。そうだね~」
一人取り残された部屋の中で、呼吸すると共にギチギチと音が響く。
(こんな格好、お客さんに見られたら恥ずかし過ぎる……!)
店長の悪戯でこの格好が晒されたら。抵抗できないのに。そうなったら大人しく見られるしかない。逃げることはできない──
頭の中に言葉を捲し立て想像の世界に浸っているが、それが絶望を欲するMらしい妄想であることに彼女自身が気づくことはなかった。
ぬ!@一次創作限定
2023-12-20 10:46:55 +0000 UTCユーリ
2023-12-20 08:18:38 +0000 UTC