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ぬ!@一次創作限定
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自縛霊憑きの物件に引っ越した

 実家がリフォームをするのだ何だということで、しばらく別の家に住まなくてはならなくなった。

 そこで「どうせ仮住まいに行くのなら」と切り出し、ダメ元で親に「一人暮らししてみたい」とぼやいてみたところ、成績を上げることを条件に案外すんなり許してくれた。

 もっともリフォームが終わるまでの数ヶ月間だけだが、ついに憧れの一人暮らしができる! これではしゃがずにいられるものだろうか。


 物件探しは親戚の伝手があるとのことであまり苦労はしなかった。

 渡された鍵を手にそのアパートへ向かうと、そこはどこででも見かけるような古めかしいアパートだった。

 築年数など気にするつもりはない。とにかく一人暮らし! そのワクワク感だけでこのおんぼろ物件も輝いて見えるというものだ。

 俺の部屋は1階の角部屋。

 大家の親戚によればそこは曰く付きの部屋で、かなり安いがおすすめはしないとのことだ。親からも他の部屋にしろと言われたが、俺には「家賃が安く済むならその金額分を仕送りに回して欲しい」という思惑もあり、この部屋への入居を強く希望した。

 鍵を差し込みドアノブを捻る。多少ギギギと音が鳴る扉だったが、入ってみると部屋は予想外にも綺麗な状態だった。


「すげぇ、ピカピカじゃん。新築みたいだ」


 靴を脱いで上がり込み、中をあちこち見て回る。内見もせず入居を決めたため、あまりに汚かったら掃除が大変だと覚悟していたのだが、嬉しい誤算に胸が弾む。

 特に生活の中心となる部屋は綺麗だし広々としているし、最高と言うに相応しいものだった。


「いやぁ綺麗だなぁ。清潔感もバッチリだし」

「私が住んでいた部屋ですから。これでも綺麗好きなんですよ~」

「へぇ……」


 なるほどなるほど、綺麗好きの人が住んでいたなら状態が良いのも納得……

 ……………………んん?


 今、俺に声をかけた女性は誰なんだ。


「いや~、もう誰も住んでくれないかと思っちゃいましたよぉ。どうも初めまして。私、あなたの前にこの部屋に住んでいた者で……」


 それは白い着物を見に纏い、辺りに冷たい空気を漂わせている、どこか低血圧そうで顔色の悪い様子の──


「ゆ、幽霊」


 言いかけたその時、部屋の引き戸が勝手にガタンと閉まった。

 ポルターガイスト現象……!!


「幽霊ですが? まさか私が憑いてるから出ていくなんて……言いませんよねぇ……?」



 縛られていて股にまで縄を通している、いかにも怪しい女性がふわふわと宙に浮いていた。


「ゆゆゆ幽霊……! ドMの変態幽霊だぁ……!!」

「誰が変態ですか!! ドMですけど! 誰が変態ですか!!」


 世間一般的にはドMも変態の一種だと思うが、彼女の中では別らしい。


「私はただ……! その……自分で自分を縛って遊んでいたら抜けられなくなって……たまたまハサミもカッターも失くしちゃってて……恥ずかしくて助けを呼ぶに呼べず餓死してしまい……幽霊になっても何故か縛られたままという……やむを得ない事情でこんな姿になっているだけの健全な女子大生(生前当時)です!!」

「変態じゃねぇか」


 曰く付きというのはこういうことだったのか。知らない方が良いと思って詳しい話は聞かないようにしていたが、人が死んでいた部屋だったことがこれではっきりしてしまった。


「あぁん……何度も変態だなんて、そんなに詰られると私……感じちゃう……」

「筋金入りだな……」


 目を閉じてもじもじし始めた幽霊を尻目に、俺は荷物を置いて床に座り込む。


「はぁ。なんかドッと疲れたな」


 霊感なんてあるつもりも無かったのに、まさかこんなにもはっきり幽霊が見えてしまうとは……しかも変態だし、俺の一人暮らしはどうなってしまうんだ?


「あのぉ、お疲れのところ申し訳ないのですが、縄を解いてもらっていいですか?」

「へ?」


 ドMらしからぬ発言に思わず目を見張る。


「せっかく幽霊になったのに、こんな格好なもので恥ずかしくて外出できなくて……他の幽霊に見られた時に恥ずかしいですから」

「見られると嬉しいんじゃないのか」

「とんでもないです! 私は慎みのあるMなので、こんな姿で出歩いたりはしません! 見られたら興奮するだろうなとは思うのですが」

「ああそう」


 要するに縄を解けば出ていってくれるということだろう。


「結び目はどこだ。解いてやるから背中向けよ」

「はい。お願いします」



 引っ越し早々超常現象と変態プレイのハッピーセットに関わる羽目になろうとは思いもしなかったが、まだ平穏な暮らしは諦めなくて良いらしい。俺は結び目を見つけて手をかける。

 しかし解こうにも触ることができない。伸ばした手は彼女の体をすり抜けて虚空を掴むばかりだ。


「あんっ! やん……っ! あっ、そこは……ひん……っ!」


 触ることはできないが、俺の手が体内に入る度に幽霊は変な悲鳴を上げている。どうやら幽霊ならではの感覚があるらしい。

 何度もトライしたが、幽霊の縛めを解くことはついに叶わなかった。


「そんな……入居者さえ来てくれれば自由になれると思ってたのに……」


 どうやら彼女が死んでから誰もこの部屋に住もうとはしなかったらしい。まあ曰く付きと聞いて詳しく事情を聞かず住もうとするなんて奴は(一人暮らしに気が早っていたとはいえ)俺くらいなものだろうから、あり得ない話ではないか。


「ガッカリなのはこっちだよ。なんで変態幽霊と一緒に住まなきゃならないんだ」

「ううぅ……今の詰り方は辛さが勝って感じないです……」


 高校生という身分で無理を言って一人暮らしさせてもらっている以上、部屋を変えたいなど気軽に言えるわけもない。

 ここに住まなきゃ……ならないよな……。

 俺はせっかくの一人暮らしに舞い込んだ厄介ごとを思い、心を重くせずにはいられなかった。

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