今日の公演は好評のイリュージョンマジックがメインに行われる。拘束された美少女マジシャンが見事な脱出劇を演じるのだ。
ステージの上でいくつものマジックを披露し観客を沸かせた美少女マジシャンの前にスタッフが拘束台を運ばれ。それによって前に立ち四肢を金具で固定される。この台には何の仕掛けもなく、間違いなうマジシャンの自由を完全に奪う代物だ。
動けないことをアピールするためにわざともがいて見せる。試しに本気で力を入れてみたがびくともせず、このままでは全く脱出できる気がしない。
『おっとマジシャンが焦っているぞ。これは本当に脱出できるか──!?』
実況の声に乗り、美少女マジシャンもあえて表情を曇らせてピンチを演出する。だが心の中では不適な笑みを浮かべていた。
(大丈夫。鍵はここにあるから)
美少女マジシャンは拘束される時、肉眼やカメラ越しには視認できない糸を指に挟んでいた。その先には服の中に隠した拘束台の鍵を結びつけてあり、手繰り寄せれば簡単に脱出できるという算段だ。
姿を隠す幕が掛けられて観客からの視線は一旦途切れる。この僅かな時間で鍵を手にし金具を外さなければならない。
糸を引っ張り、背中から引っ張り上げた鍵の姿を確認する。
(ふふっ、あるある。今日も楽勝ね)
以前は臨時に雇った縄師が悪さを働いたことで、マジシャンとしての名声が地に落ちる危機を味わった。それでもなんとか挽回し、今では全国のイベントやテレビ局に引っ張りだこの売れっ子マジシャンとして活躍している。
『10! 9!』
実況と観客が一緒になってカウントダウンを始めた。10秒という時間は焦っていると短く感じるもので、この脱出も普通の者ならとても足りないだろう。しかし器用さに掛けては天下一を誇る美少女マジシャンには造作もないことだ。
(それっ)
露ほどの動揺もなく、手の平に引き寄せた鍵を掴みかけた時だった。
「ひゃんっ!?」
何者かの手が脇や横腹に触れ、そのくすぐったさに鍵を落としてしまった。
「なっ……!?」
(何かされて……くすぐられた!? 何よこれ、聞いてないんだけど……!?)
鍵は床に落ち、軽い音を立てて転がっていく。
足の先を伸ばしても届かない。それに届いたところで高く上げられた手の中まで蹴り上げるようなこともできる気がしない。
無理やり体を暴れさせても金具がガチャガチャと音を立てるだけで、無情にも美少女マジシャンを離しはしなかった。
『6! 5! ……言い忘れてましたが、もし脱出に失敗した場合マジシャンは会場の出入口に展示されますのでお楽しみに! 4! 3!』
(はあぁぁぁ!? も、もしかして……)
この時になって美少女マジシャンはようやく察した。
心当たりがあった。何度となく依頼があったものの断り続けていた演目……脱出に失敗する様をショーにするというもの。それは客の心を掴みこそするが、マジシャンとしてのプライドを踏み躙られる最悪の舞台だ。
今回の公演は普通のショーのように偽装して美少女マジシャンを誘い込み、最後に脱出マジックを失敗させるために仕組まれたものだったのだ。
『2! 1! ……0~~~!!』
カウントダウンが終わり、幕がはらりと落とされる。
「だ、ダメっ、ダメダメダメ……いやあああああっ!!」
好奇を宿した多くの視線が美少女マジシャンを捕まえて離さない。失敗者としての羞恥とハメられたことへの屈辱に責められ、無防備な身体を晒し続けることしかできなかった。