「お前か! 次々と街の娘を攫っている魔女というのは!」
最小限の鎧を纏い、背負った大剣に手をかけて、その剣士は空を飛んでいる魔女目掛けて問いかけた。
「だったらなぁに? 私は忙しいんだけど」
「お前は今、世界中で指名手配されている。大人しく降伏しろ! さもなくば生死は問わないそうだ」
「ふぅん……」
叫びながら柄を握り、鞘から剣の刃を覗かせる。しかし魔女は臆するどころか舌なめずりをして、まるで剣士のことを品定めでもしているかのような眼差しを向けている。
「フフッ。あなたも高く売れそうね」
「……どうやら命が惜しくはないようだな」
剣士の心は決まった。
脚に力を込め、一瞬にしてはるか上空の魔女と同じ高さにまで跳躍する。鍛え上げた脚力にほんの少し魔法の力を加えれば、剣士にとっては造作もないことだった。
「あら」
鞘から抜くと同時に振り下ろした剣を、魔女は余裕の笑みを浮かべながらひらりと避ける。
魔法の杖に乗って飛んでいる魔女を相手に空中戦は分が悪い。しかしその不利を埋めるだけの技が剣士にはあった。
「食らえッ! カマイタチ!」
剣に魔法の力を込め、斬撃を真空の衝撃波に変えて送り込む。
並の人間ならこの一撃で体が真っ二つに分かれる所だ。しかし斬撃は魔女を前にして見る見る小さくなっていき、最後には消滅してしまった。
「なっ……」
「フフッ。その魔法なら私も使えるわよ~? 剣なんか使わなくってもね」
魔女が人差し指で宙に弧を描く。すると剣士のものより遥かに早い斬撃が飛び出してきた。
咄嗟に剣で防ぐが、桁違いの威力を誇る魔女のカマイタチは鋼鉄の武器も鎧も一瞬の内に砕いてしまった。
「ぐあああっ!!」
吹き飛ばされた剣士が地面に叩きつけられる。呼吸を忘れるほどの痛みが剣士を襲う中、優雅に地面へ降り立った魔女は手元に魔法の光を生み出していた。
「ちょっと縛らせてもらうわね」
その光は魔法陣を描き、細長いものを剣士に向かって射出する。それは幾本もの縄であり、瞬く間に剣士の体に絡みついていく。
「うぐっ、くぅ……っ! こんなの!」
その縄は特殊な素材でできているのか、かつて仲間から馬鹿力などと言われたこともある筋力を持ってしても引きちぎることはできなかった。
「言っておくけど、その縄は抵抗すればするほどキツく締まっちゃうから気をつけてね。あなたの魔力を吸いながらどんどん成長していくから絶対に勝てないわよ」
魔女の言うことはハッタリでも何でもなく、確かに剣士から魔法を生み出す力を吸収しているようだった。その上さらに全身を締め上げて、拷問を受けているような痛みを味わわされる。
「わ、私をどうするつもりだ……」
「そうねぇ、まずは隠れ家に持ち帰っていっぱい虐めてあげるわ。私、女の子の自由を奪って好き勝手にいじくり回すのが大好きなの」
「変態……ッ!!」
剣士のそしりを受けてもこたえた様子はなく、それどころか魔女はかえって嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「いっぱい虐め倒して、心がぽっきり折れてしまったら……私みたいな変態のお金持ちに高値で売りつけるの! うふふ。あなたはいくらで売れるかしらねぇ」
このまま誰も助けが来なければ……例え来てもこの魔女に勝てなければ、今言われたような未来が約束されてしまう。
剣士は精神を強く持ち、希望を忘れまいと必死に歯を食いしばる。しかしその僅かな心の光すら、魔女という巨大な絶望を前に暗闇へと飲み込まれていくばかりだった。