自らを縄で縛ったまま解くことができなくなって死んだという変態幽霊憑きのアパートに引っ越してしまった日の夜。
俺は早速幽霊の存在に悩まされることとなった。
テレビをつければ騒がしく。
「あっ、この俳優さん好きなんです! 主演ドラマは絶対見ましょうね! ね! ああっこのバラエティに出るみたいですね、きっと番宣ですよハードディスクに録画しないと!!」
飯を食う時も騒がしく。
「カップ焼きそばですか? ちゃんとサラダも食べないとダメですよ! それにしてもとってもいい匂い……私にも食べさせてください! あーん……た、食べれました! あーんしてもらうと幽霊でも食べれるみたいです! やったー!!」
風呂に入る時も騒がしく。
「きゃあ! 乙女の前でいきなり脱ぎ出さないでください! ……あ、私が脱衣所から出ればいいんですね。失礼しました~」
宿題を片付けている時も騒がしく。
「分からない所があったら教えてあげますよ~? これでも生前は現役の大学生だったのですから! えーと、どれどれ……うわ難し……あ、いや、自分の力で解かなきゃダメですよ! 最初から人を頼っちゃいけません!」
うるせぇ……!
「やかましい! 黙ってテレビでも見てろ変態幽霊!!」
「ひいっ……健太さん、幽霊より怖いですぅ~」
健太というのは俺の名前だ。幽霊の方は本名を言いたがらず、偽名として幽子と名乗っていた。
俺の怒声が効いたのか、テレビの番組表から見たいチャンネルを選ばせた後はしばらく幽子も大人しくしてくれた。
やることをやっていると気づけば夜も更け、喉の奥からあくびが出てくる時間。
そろそろ寝よう。荷物の片付けなんかは全然済んではいないが、それは生活しながら少しずつやっていけばいいだろう。
畳の上に布団を敷いていると、幽子がやってきて俺よりも先に寝転んでしまった。
「う~ん! 久しぶりのお布団は気持ちがいいですねぇ」
「おい、まさか一緒に寝る気かよ。お前は幽霊なんだからそのへんぷかぷか浮いてろよ」
「やーですよ~。宙に浮かぶのはそれなりに精神力が必要で疲れちゃうんです。睡眠には不向きなんです」
「だからってな」
「ぐぅ」
疲れる体もないくせに、俺の話を聞く間もなく一瞬で眠りに入ってしまった。
俺は改めて、縄に縛られた幽子の体をまじまじと見つめる。
なるべく考えないように我慢してきたが、その姿は健全な男子高校生にとってあまりに刺激が強すぎる。やわらかそうな胸を引き絞る縄に、容赦なく股ぐらを両断する縄までついつい見つめてしまう。
はぁ、ダメだダメだ。生者の俺が幽霊を相手に欲情してしまっては生命の神秘にケチがついてしまう。俺は生身の女性にこそ興味を持たなければならないのだ。
邪念を断ち切って布団を自分に掛ける。幽子は風邪など引かなそうだから掛け布団など必要も無いだろう。
目を閉じて眠りが深くなるまで待ち続けるが、どうにも眠れない。
理由は分かっている。俺が悶々とさせられているのは隣で痴女が寝ているせいだ。
SM趣味の女性がこんな身近に現れるなんて思いもしなかった。こういうのはエロサイトの向こう側にしか存在しない遠い世界の話だと思っていたが、いざ目の前するとさすがに迫力を感じてしまう。
要するにエロい。エロ過ぎる。
SMの中でも縄できつく縛ることを緊縛プレイと言うんだったか。怪しいサイトを覗いている時に何度かそういう画像をみたことがある。
確か有名な縛り方があったよな。亀の甲羅を模した縛り方や、それによく似た網目模様の縛り方……どっちも肌に食い込む縄にインパクトがあったように思う。
もっと過激なものだとM字開脚を強制する縛り方なんかもあったな。無防備な股を晒して、縛られた女性はさぞかし恥ずかしい思いをしていただろう。何故自らそのような醜態を晒されることを望むのか、Mの人の精神性は理解できないな……。
そうやって思考に没頭していると、いつの間にか睡魔が近くにやって来ていた。意識が閉じていく感覚をいつになく鮮明に感じながら、ようやく眠りに就くことができた。
翌朝。
「きゃあああああ!! な、なんで、こんな……!!」
隣でやかましい叫び声を聞かされて目を覚まさずにはいられなかった。
俺は最悪の寝起きをプレゼントしてくれた変態幽霊に一言嫌味でも言ってやろうと上体を起こすと、そこにはとんでもない格好の幽子が横たわっていた。
「おい幽子、なんて姿を……」
「違うんです健太さん、寝苦しいと思って目を開けたら既にこんなことに……! 何故か菱縄縛りと開脚縛りを同時に掛けられてて……いやああああ! 見ないでください~~~!!」
昨日の縛られ方も大概恥ずかしいはずだが、今の格好は輪をかけて恥ずかしいのだろう。さすがに俺もじっと見つめるわけにいかず視線を逸らす。
そこでふと気がついた。
あの縛られ方って俺が眠りに入る前に思い出していた縛り方と全く同じじゃないか? すると今の幽子の痴態は、まさか俺の思念が何らかの影響を及ぼしたせいで……?
「あの健太さん、一つ聞きたいんですが……」
やべぇ。これが俺のせいだとバレたら俺まで変態みたいになってしまう。何とか知らんぷりを決め込むぞ。
「な、何だ。何か気になることでもあるのか」
「私ってちゃんとパンツ穿いてましたか? 死んでからは鏡にも映らなくて、着物の下がどうなってるのか自分ではよく見れなかったのですが……どうでしたか?」
仕方なく幽子のM字開脚に縛られた姿を思い出そうとするが、あまり細かい所まで目を通していなかったので記憶に無い。
「分からん。は、穿いてるんじゃねぇの?」
「でも昔の人って下着の代わりに薄い着物を着てただけで、ふんどしとかも履かなかったと聞きますし、私の服もどうなっていることやら……」
そう言われても見るわけにいかないしどうすればいいのやら……と悩んでいると、幽子が震える声で言った。
「い、一瞬だけ見てもらっていいですか……?」
「はあ!? 何でだよ。ていうかさっきは見ないでって」
「気になるんですっ! 自分が穿いているのかいないのかがとっても……! ま、まあ? 私は縛られているので、一瞬どころか舐め回すような視線を向けられても抵抗できないですし……色々ご迷惑をお掛けしている以上、も、文句を言える資格も無いですし……? あの、その」
まさかこいつ、俺からいやらしい目を向けられるよう遠回しに誘導しているのか……?
幽子の顔を見ると、死人らしからぬ紅潮した顔で何かしらの期待に満ちた表情を浮かべている。
「私が見ないでって言っても……健太さんには見る権利があるというか、私に拒む権利が無いと言いますか……」
朝の早くから高度なプレイに付き合わされようとしている。
俺はしばらく躊躇したが、何のリスクも無い据え膳に遠慮するのも馬鹿らしいじゃないかと自分に言い聞かせ、まんまと幽子の思惑に乗ってやることにした。
「パンツは……穿いてるよ。死装束と同じで真っ白だな」
そう言ってやると幽子の脚が縮こまった。しかし膝から首に掛かった縄が邪魔をして、隠せるほど脚を閉じることは叶わない。
「見れば見るほどいやらしい身体じゃねぇか。写真に撮ってやれないのが残念だぜ」
「はうぅ……っ!」
俺は彼女の幽体に手を添えた。触れることはできないが、触れる振りをするだけでも幽子は身を捩らせるといった反応を見せる。
頬に触れ、首を伝って胸に触れ、もう片方の手で腿にも触れる。
ギチギチと軋む音を激しくするが、幽子は自らの縄から逃れることはできない。
「ほ、ほんとに……だめです……そんなにされたら……感じ過ぎちゃって……」
「うるせぇ。お前は今、俺の物なんだよ」
俺も俺でかなり興奮してしまい、自分が何を言いたいのか分からなくなっている。突き動かされるままに俺は幽子を責め立て続け、やがて目覚まし時計のアラームに正気を取り戻すまで、狂ったように欲望をぶつけ続けていた。