「ゲホッ。ゴホッ。う~、しんどい……」
美少女仮面の正体であるサヤカは自宅のベッドに伏していた。季節の変わり目に体調を崩してしまい、厄介な風邪に罹ってしまったのだ。
「今日は一日安静にしてなさい」
母親のサキが、サヤカの額の冷却シートを取り替えながら言う。
「でも、街をパトロールしないと……」
起き上がろうとするサヤカを制して布団を掛け直した。実際サヤカはとても出歩けるような状態ではない。
サキは変身ブローチを手に取って見せた。
「全部ママに任せなさい。サヤカちゃんの風邪が治るまで、先代の美少女仮面である私が立派に街の平和を守ってみせるわ」
ブローチを胸の辺りにかざすと、無数の糸が飛び出してサキの身体を包み込む。次の瞬間には糸が解かれて、美少女仮面に変身した姿を現した。
「美少女仮面、参上! どう? このまだまだ現役でいけると思わない?」
「ママの歳で美少女はキツ……」
サヤカはつい本音を言いかけたが、サキが恐ろしい形相なりかけたので言葉を引っ込めた。
「に、似合う似合う。じゃあ後はママにお願いしようかな……」
「まっかせなさーい!」
意気揚々と家を飛び出したサキは街の様子を見て回っていた。
娘に美少女仮面の役割を託すまではサキが平和を守っていたのだ。ブランクがあるとは言えパトロールの手際は慣れたものである。
どうやら事件が起きている様子はないことは確認したサキが、一度家に戻ろうと踵を返した時だった。
『3丁目にてイレギュラー発生。直ちに向かってくれ』
ブローチから懐かしい声が聞こえてきた。サキが少女だった頃も世話になっていた司令官はまだ現役らしい。
「了解で~す。すぐに向かいます!」
『その声は……何をしている。君は引退したはずじゃないか』
声だけでいつもの美少女仮面でないことを見抜いた司令官に驚きつつも、サキは軽い受け答えで返す。
「娘が風邪を引いちゃいまして、今日は代役です」
『大丈夫か。相手は先日も出没した偽物の黒い美少女仮面だぞ』
黒い美少女仮面の話は聞いている。娘のサヤカが謎の組織に捕まった時にDNAを採取され培養された、サヤカと瓜二つの人造人間らしい。
「なるほど……ある意味、因縁の親子対決ってことね。大先輩の私があっという間に捕まえて見せるわ!」
『期待しているぞ』
現場に急行したサキは黒い美少女仮面の姿を探していると、いきなり黒い糸が体に絡み付いてきた。
「な……キャアっ!!」
腕と脚が宙に浮き、無様な姿で吊し上げられてしまった。
「むぐぅ~っ……」
口にも糸が巻かれてしまい、身動きも喋ることもできない。どうすれば脱出できるか考えていると、噂の黒い美少女仮面が姿を現した。
「相変わらず隙だらけね、美少女仮面」
見ると衣装の色が違うこと以外、娘のサヤカが変身した姿と本当によく似ている。
「今日こそあなたをアジトへ連れて帰る……ん?」
「むぅ~!」
「あなたは誰。偽物……?」
偽物はどっちだと突っ込みたかったが、糸に塞がれた口では言葉を返すことができなかった。
「偽物には用は無い……と言いたいが、本物の居場所を知っているなら話は別。あなたを連れて帰って拷問する」
「んぐっ!?」
このままでは敵に捕まってしまう。しかし糸の縛めから逃れる術を持たないサキにとって、されるがまま攫われるしかなかった……。
(その後、仲間が駆けつけて何とかなった)