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桜梅桃華@女装・TSF小説
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女性限定ヨガに紛れ込んだ俺の末路:2

スポブラとレギンス

レッスン後の挨拶がひと段落したころ、JURIAが肩の高さで手を振った。

「この近くに、ヨガやピラティスのウェア専門店があるんです。私の行きつけで——よかったら見に行きません?」


断る言葉が喉まで来て、彼女の目元のやわらかさにほどける。

「……少しだけ。見るだけなら」


「うれしい。似合いそうなもの、いくつかチョイスしますね。もちろん無理に買わなくて大丈夫です」



夕方の風が汗を冷ます。

並木を抜けると、木目の看板と大きなガラス。白とベージュの店内に、爽やかなシトラスと新品の布の匂いが“すう”と通る。

ハンガーの金属が“からん”と触れ合い、澄んだ音が奥へ消えた。


「いらっしゃいませ」

スタッフが会釈し、JURIAに気づくと笑顔が一段明るくなる。


「先生、こんにちは。今日はお連れさまも?」


「はい。初めてのウェアを探しています。動きが見えやすくて、優しく整うものを」


「男性用はこちらですよ」


胸がどくりと跳ねる。


「いえ、こちらの生徒さんは女性用を。私の『女性らしい体づくり』のレッスンに参加してくれているんです」


「えっ……あ、なるほど。失礼いたしました。大きめのサイズはこちらにございます」


俺は否定の言葉を喉で飲み込み、勧められたコーナーへ足を向けた。



JURIAがラックから淡いグレーのレギンスを一枚抜く。

「コンプレッションは“支える”くらい。締めつけすぎないほうがいいんです。サイズが合えば、自然とポーズも仕上がっていきます」


続けて、コーラルピンクのスポーツブラ。

「Tシャツは布が垂れて、おへそに視線を送りたいときに邪魔になるんですよ。やっぱりスポブラがおすすめです」


「い、いや、その……」

拒否の形が中途半端に空気へ出て、やわらかな笑顔に受け止められる。


「まずは試着してみましょう。似合わなければやめればいい。——似合ったら、どうしましょうね?」


冗談の温度。逃げ道を残した言い方なのに、退路が逆に細くなる。

「じゃ、じゃあ……確認だけ」



フィッティングルームに入る。

生成りのカーテン、足元はやわらかな絨毯。鏡に映る自分の表情は、いつもより少し柔らかい。


「まずレギンスから。裾を手繰り寄せて、親指を通しながら引き上げると楽です」


指示どおりに布を滑らせる。

“ひやり”とした冷感が脛から太ももへ上がり、膝の上で“きゅっ”と落ち着く。

幅広のウエスト帯が、へその少し下で水平に留まった。

鏡を見ると、脚の外側に細い影が一本走る。


足裏の親指に意識を置くと、膝が自然に寄り、布が内腿で“ぴと”と触れた。

その場所だけ体温が上がる。


ただ、そんな事より膨らんだ股間にどうしても目が行ってしまう。女性用のレギンスなのだから当然だ。こんな膨らみは本来想定されていないのだから…。



「レギンスは履けましたか? 次はブラですね。今回はホックなしなので、下から通して胸まで引き上げてください」


カーテンの向こうからJURIAの声。

言われたとおり足を通し、胸まで引き上げる。締めつけというより、背中で支えられる感覚。

姿勢が勝手に上へ引かれ、呼吸が胸の面に広がった。


「着けられたら、鏡を見てください」


恐る恐る正面に立つ。

Tシャツのときより、肩と胸の面が一枚の布になっている。

ウエストの上に空気の隙間ができ、腰の位置がはっきり分かる。

「カーテン、開けますね」

シャッ、と布が走る。


「……これ、僕——いや、俺、変じゃないですか。股間だって…」


「変じゃないですよ。サイズもぴったりだし、お色も素敵です」

言い切られて、口の中の言い訳が溶ける。


「どうします?」


「あ……じゃ、じゃあ、このセットで」


「では、このセットで」

すらすらと品番が控えられ、レジの音が軽く鳴った。



店を出ると、夜の風が紙袋の口を“ふわ”と揺らす。

信号待ちで並ぶと、JURIAが歩幅を合わせた。


「ヨガもウェアも素敵なものをご提案できて、今日はうれしかったです」

「……は、はい…」

「ぜひ次回のレッスン、そのウェアで来てくださいね」


紙袋の持ち手が指に食い込み、軽いのに重く感じる。


「俺…似合ってましたか?」

「似合ってました。あなたが思っているよりずっと」


駅までの道、他愛ない話が続く。会話の合間に、JURIAは何度か「女性らしく…」と言った。言葉の余韻が、胸の面に貼りつく。


改札前で立ち止まる。


「次は一週間後のレッスンですね。予約、入れてあります。楽しみにしてますね」

「あ…今日はありがとうございました」


電車の窓に映る俺は、紙袋を大事そうに抱えていた。

家の玄関で袋を開けると、布の匂いとお店のシトラスの香りが“すう”と広がる。


スマホのカレンダーには「女性限定ヨガ」の文字。

次回は一週間後。

——俺は、今日買ったウェアを着て、どんな顔をして参加するのだろう……。


【3章へつづく…】

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