たろう君のお父さんは、でっぷり太ったおじさんです。
いつもニコニコ明るいのが取り柄。ちょっぴり鈍いところもあるのも愛嬌です。
「あー、なんか今朝は蒸し暑いけどいい朝だな。何だかスッキリしてらあ」
夏休みのある朝、そう言いながら熊のようにのそりと起き上がったお父さん。居間で、たろう君がちゃぶ台に置き忘れたノートを目にしました。ノートには「夏休みの観察日記」とあります。
「ちょっと読んでみるか。なになに・・・『僕は、モーニング・グローリーについて調べることにしました』か。モーニング・グローリー? ああ、そうか、朝顔のことだな。近ごろの子どもはハイカラな言葉を使うなぁ」
お父さんは、濃い髭を自分の手でじょりじょりしながらノートをめくります。次のページには、カレンダーに◎だの○だの△だの、記号がたくさんつけてありました。ちょうど、今朝のぶんまで記入されています。
「ほう、毎日欠かさず朝顔の開き具合を調べてるんだな。ほう、今朝は◎だな。それにしても、たろうはいつの間に朝顔なんて育ててたんだ?」
お父さんは、脂の乗った指で次のページをめくります。
「ほう、『観察で分かったこと』か。どれどれ・・・『モーニンググローリーは、名前のとおり、朝早く見ることができますが、目をさますと、じきにしぼんでしまいます』。うん、そうだな」
夏の蒸し暑い朝、お父さんの体からは汗とほのかな臭気が立ち上っています。
「まだ続きがあるぞ・・・『つぼみが元気がなくしおしおの時もあります。つぼみは小さいですが、僕はかわいくて好きです。つぼみをつつくと、元気になることもあります。ん? そうだったけなあ」
うっすら疑問は浮かびましたが、物事に無頓着なお父さんはノートを読み進めていきます。
「『元気がよくなると、皮がめくれてピンク色のなかみが顔を出します。つぼみの時からは想像できないくらい大きくなり、僕はなんだか誇らしい気持ちになります』・・・ほう、なかなかいい表現だな。たろうは国語力があるなあ・・・でも朝顔に皮なんてあったっけな・・・まあいいや」
お父さんから漂う臭気は、いつもの加齢臭にまじって、今朝はちょっぴり青臭いにおいもありました。でも、においというものは、本人にはなかなか気がつかないものです。
「『はちきれんばかり元気な日もあります。そんな日は、露で濡れていることもあります。僕は、もっと元気になるかなと思って、つついてみました。すると、白いねばねばした液が吹き出してきて、しおれてしまいました』・・・朝顔ってそういうもんだっけな?」
お父さんは禿げかけた頭をポリポリとかきます。その時、たろう君が居間に元気よく駆け込んできました。
「あ、僕の観察ノート! ここに置き忘れてたんだ。お父さん、偉いでしょ、僕、毎朝、お父さんが目を覚ます前にちゃんと観察してるんだよ!!」
頬を赤くし、目を輝かせてたろう君は言いました。
「たろう、偉いぞ。きっと先生も感心するぞ。夏休み明けが楽しみだな」
「うん!」
* * *
そして夏休みが終わり、たろう君は観察ノートを担任の先生に提出しました。
それからどうなったかは皆さんのご想像におまかせします。でも、ひとつだけ。それから、担任の先生は、たろうくんのお父さんと顔を合わせるたび、ゆでだこのように真っ赤になってしまうようになったということです。
※このお話の意味が分からなかったから、ぜひおうちの人に聞いてみてくださいね!
あんどん丸
2022-07-30 15:29:35 +0000 UTCごわんど
2022-07-30 12:18:26 +0000 UTC