「親方と俺が崖っぷちで連れションする話」をまとめました。一気に最後まで読みたいという方はこちらをどうぞ。連載版から細かい部分を少しだけ改稿してあります。
(1)
「おう、ションベンしてえから、ちょっと止めてくれや」
俺と親方は、年に数回ほど、二人で山奥の資材置場に足を運ぶ。
そしていつも、この大きなカーブにさしかかると、親方は決まってションベンしてえ、と言い出す。
「またっすかァ…。ま、いいっすけど」
あきれたように俺は返す。けど、内心はドキドキだ。
このカーブは、急な崖に沿って続いている。俺は道路と崖の間の狭い空き地に、慎重に軽トラを止める。サイドブレーキをぎゅっと引くと、親方は上機嫌で車を降りる。
「おー、いい眺めだ」
親方は、熊のような巨体をのっそりと崖の際まで運び、おもむろに作業ズボンのチャックを開く。ずろん、と黒ずんだ太いマラがまろび出る。皮が7割ほどかぶっているのはご愛嬌。しかし皮の間からわずかにのぞく亀頭は赤黒く、50男の貫禄たっぷりだ。
皮被りを気にするような人間じゃないが、衛生には少し気を遣っているらしく、小便の時は決まって、ごっつい指で包皮をくるっと剥き上げるのが決まりだ。
でっぷりとした亀頭を空気さらすと、親方は新鮮な空気を吸うように「ふぅー」と深呼吸した。ばっくり開いた鈴口から、黄色い尿が、ぶっとい軌跡を描きながら勢いよく飛び出す。
「あー、たまんねぁ」
親方は、タバコの吸いすぎで少しかすれた野太い声で、唸るようにつぶやく。
どっしり腰を落として、ガニ股で下界に向かって勢いよくションベンをひり出す親方を見ていると、俺は鼻頭を撲られたようにクラクラしてしまう。その姿は、純粋な「男」そのものだ。おそらく本人は、王様にでもなった気分でいるんだろう。そういうバカで単純なところも愛おしい。
「おい、何してる。おまえもこっち来て、ションベンしろよ。気持ちいいぞぉ〜」
「へいへい」。俺は顔のほてりを隠すように、いつも以上にぶっきらぼうな風を装い、親方の横に並んだ。
(2)
「ん? なんかしけた面してんなぁ。どうした」
親方は俺の顔を軽く覗き込みながら言った。まったく、鈍感なくせに、時々、人のことを妙によく見ている。
「別に…いつも通りっすから」
チャックをおろしながら、俺は親方から目をそむける。いや、正確には目を合わせられないのだ。ただでさえ、俺のモノは、少し膨らんじまっている。今、親方のションベンをまともに見たら、ギンギンにおっ勃っちまうはずだ。それは、マズイ。
親方に膨らんだモノを見られないように、俺は親方から少し離れた場所で、背をそむるように小便を始めた。
「おいっ! もっとこっち来いよっ!!」
親方は呼びかけるが、俺は沈黙を守る。
「んだよ…ならこうだ!」
親方は、イモムシのようなぶっとい指を器用に操り、小便の流れる筒を俺の方に向ける。
「おわっ!?」
日の光を受け黄金に輝く臭い液が、湯気をあげながら俺の足元に迫る。地面に生える草に当たった小便の何滴かは、俺の作業ズボンの裾に跳ね返った。
「き、きったねえ〜!!」
思わず叫ぶ俺に、親方はガハハと笑いながら「嫌ならこっち来い!」と返す。出たよ、ガハハおじさん! 無精髭で覆われ、深い皺が刻まれた男臭い顔が、ガハハと笑うだけで愛嬌たっぷりになる。ったく、ノンケ親父はこれだから…。
幸い、今のふいうちで俺のモノは少し縮んでくれたようだ。横に並ぶと、親方は俺のモノをチラリと横目で見て、「なかなかいいモン持ってんだから隠すなよ」と背中をはたいた。
(3)
親方は、ガキだ。
汗まみれの労働で出来上がった筋肉の上に乗った、たっぷりの脂肪。その上をさらに覆う剛毛。3メートル先まで漂う加齢臭。ゴツゴツした、ジャガイモのような顔。無精髭はよくて週に1度しか剃らないくせに、禿頭だけは毎日きっちり剃り上げる。まさに、ヨダレの出そうな純度100%原液のオヤジ。
でも、本質はガキだ。バカでイタズラ、無邪気。おまけに、友情にも厚い。
親子ほど歳の離れた俺が「友達」と言っていいのかどうか分からないが、俺への接し方(というかイジり方)は、どこかガキ同士のじゃれ合いを思わせるようなところがある。
ションベンで男のシンボルを見せ合うのも、親方にとっては、男同士の友情を深める、ちょっとした儀式なのだ。それ以上でも、それ以下でもない。
でも、親方の芋のような太マラを見せ付けられる俺は、たまったもんじゃない。抑えている感情が爆発しそうになる。何度、このマラを思い出し、センズリをかいたか分からねえ。
無邪気な親方は、俺の狂おしい思いを知らない。親方の無邪気な振る舞いは、俺を苦しませる…。
俺は、親方のことが急に憎らしくなり、ふと、あることを思いついた。
「そういや親方、エリサちゃんと最近どうなんすか?」
エリサちゃん、というのは少し前から親方が入れ込んでいるキャバ嬢だ。本人はもうちょっとで落とせると思っているようだが、もちろん、汗とタバコと加齢臭がぷんぷん、むさくるしい無精髭の禿げ親父がモテるわけはない。誰がどう見ても、体よくあしわられているだけである。
「な、何だよいきなり…おまえから珍しいなぁ」
親方の顔が急に赤くなり始める。親方は、俺と車で2人になった時、目尻を下げ、スケベな本性剥き出しのにやけ顔でエリサちゃんの話を振ってくる。それだけじゃない。親方はいつもそんな時、作業着の前を突っ張らせることに、俺は気付いていた。
だから、俺はあえて今、忌まわしいその言葉を口にしたのだ。
(4)
「ま、何かあるわけじゃねえけどよ…」
ゴニョゴニョと口ごもる親方の小便の軌道が、少しずつ上向きになってくる。
ビンゴ。
谷底に向かって勢いよく放射される小便の軌跡は、親方のマラが猛々しく隆起しつつあることを示している。
俺は親方のマラを覗き込みたい衝動を必死でこらえつつ、さらに発破をかける。
「いいパイオツっすからねェ…エリサちゃん」
横目でチラリと親方の横顔をうかがう。上目遣いで唇をツンと尖らせ、真っ赤になった顔はタコそっくりだ。こんなふうに口をすぼめるのは、親方が少し困った時だ。
「…おい、どうすんだ。こんなんなっちまっただろが」
勃起を抑え込むことができなかった親方は、腹をくくって鎌首をもたげたイチモツをさらけ出すことにしたようだ。
目線を落とし、怒張した親方のマラを目にした俺は、息を呑んだ。
ふ、太い…! 長さはないが、ぶっとい竿は、喩えるならビール缶。これまでそれなりに野郎のマラを見てきた俺でも、ここまで太いモノは始めてだ。
赤黒いエラの張った亀頭。どす黒い、筒のような竿には、青筋を立てた血管がからみついている。チャックからは、縮れた陰毛が燃え上がるようにはみ出している。
ダメだ。これは、もうダメだ。
完全にノックアウトだ。
みるみる膨らむ俺のモノを、俺はもう隠すことができなかった。俺が勃起したことに気付いた親方は、一瞬、少し面食らったような表情を見せたが、次の瞬間、頑丈な歯を剥き出しにし、まっすぐに俺の目を見てニッカと笑った。
(5)
俺と親方の小便は、天に向かって見事な放物線を描きながら、谷底に落下していく。
「おい、テツよぉ、どっちが遠くまで飛ばせるか競争だ!」
そう言うと、親方はマラを天に向って突き上げるように体を反らした。親方の小便はさらに勢いを増し、太筒から迸る。
まったく、競争ってのが好きなんだよなあ…と思いつつ、俺も「いいっすよ」と返し、親方のポーズを真似してガニ股で腰をどっしり落とし、マラを突き出す。
親方と二人並んで、マラをギンギンにおったて、小便をぶっ放す。なんつー爽快感! 最高だ。俺の胸は、誇らしい気持ちで一杯になる。思わず叫びだしてしまいたくなる。
「おーっ、最高だなーっ、テツ!!」
親方も俺と同じ気持ちなのだろう。青空に向かって大声で唸る。その声は、原始的な男の喜びに満ちあふれている。
「俺のほうが遠くまで飛んだよな、な?」
長い小便が終わって、親方は猛り立ったマラを節くれだった指でむんずと掴み、ぶんぶんと振り回す。鈴口から露が飛び散った。
実際、親方の小便のほうが、俺の小便より遠くに飛んでいた。だが、俺は思わず、親方の負けん気が移ったかのように反論していた。
「そっすね。でもそれって、俺のマラのほうが垂直におっ勃ってるからじゃないすか?」
優越感に満ちていた親方の顔がみるみる歪み始める。どうやら、俺の言葉は痛い所をついたらしい。
岩みてえなゴツい体とマラを誇るとはいえ、親方も50男だ。30代の俺に比べると、勃起力が少々劣るのは否めない。
「う、うっせえ! 俺だっておまえぐらいの時は、腹にビタンとくっつくぐらいだったんだからなっ!」
タコのように唇をとがらせて、ガキのように拗ねる親方は、ちょっとかわいい。ったく、これだからたまんねえ。かわなねえ。
(6)
軽口を叩き合いつつ小便の露を払い終わっても、親方と俺のマラはいっこうにしぼむ気配がなかった。
「腹にビタンとくっ付くって…まあ、その突き出た腹じゃあ、どうしたってそうなるっしょ?」
親方は一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったように目を丸くし、次の瞬間真っ赤になった。出た、親方の瞬間湯沸かし器! こめかみには、マラと同じくらいぶっとい血管が青筋を立てている。
「テツ、おまえだってなあ…人のこと言えんのかよっ!」
親方は俺をいきなり後ろから羽交い締めにして、俺の腹をごっつい手を揉みしだいた。
これには、俺もちょっと面食らった。
作業着越しに密着した親方の体からは、汗とタバコとションベン、加齢臭が入り混じった雄臭がぷんと漂う。た、たまらねえ…。
だが、俺を完全にうちのめしたのは、親方の剥き出しの固いマラが、俺の尻に当たっていることだった!
す、すげえ…。俺の心臓は、飛び出てしまうかと思うぐらいドキドキと打ち始めた。
「…にしても、おまえも元気いっぱいだな。どら」
軽口を叩くことも出来ない俺の様子に溜飲を下げたのか、親方はにやついた声で俺の耳元でこうささやいた。
親方は、羽交い締めを解かず、背中越しに俺の爆発しそうなマラを覗き込む。俺に頬に、親方の無精髭が当たる。そのジョリジョリした感触が、俺をますます興奮の渦に巻き込む。ああ、俺、このままだとどうにかなっちまう!!
(親方に…俺のマラ見られてる…)
「おっ、生意気にビクビクさせやがって」
そう言って、親方は無造作に俺のマラをギュッとつかんだ。
(!!)
俺は声にならない悲鳴を上げる。
「おー、かてえな。ま、減らず口叩くだけのことはあるな」
だが、親方はすぐに俺のマラからパッと手を離す。いかにもノンケらしい、さっぱりしたじゃれ合いだ。
「さ、行くか」
親方はさっと俺を開放し、軽トラに向かって踵を返す。
俺は親方のこういう気まぐれなところ、カラッとしたところが嫌いじゃない。
けど、今回ばかりは違う。このチャックにおさまりきらない俺のマラ、どうしてくれんだ…!?
(7)
俺に背を向け、いつものガニ股で歩き始めた親方は、しかし、数歩歩いて立ち止まった。
「…ちきしょうめ」
親方は体をモジモジとよじらせていたかと思えば、急にくるりと俺の方へ向き直った。
「ギンギンでおさまんねえ…」
股間にそそり勃つでっかいマラを持て余した親方は、少し困ったような、照れたような表情を浮かべ、ボリボリと禿げ頭を2、3度かいた。
俺はもはや、ハブに睨まれたマングースのように、親方のマラから目を離すことができなかった。
親方は俺の喰い入るような熱い視線に気付いたのか、俺のほうに顔を向ける。
「…なんだ、おまえのもかよ」
親方は、天を衝くような俺の勃起マラをチラリと見る。親方の顔が、スローモーションでニカッーとしたいたずらっぽい顔に変わっていく。どうやら、さっきまでの羞恥感は、悪事の仲間を見つけた安心感に変わったようだ。
「よし、テツ! 一発、ここで抜いてくぞ! センズリ競争だっ!!」
親方はそう叫ぶと、さっきまで小便をぶっ放していた場所で、おもむろにマラをしごき始める。
「ホレ、おまえも早くしごけ! 遠くまでザーメン飛ばしたほうが勝ちだかんなっ!」
人の気配がないとはいえ、公道に面した場所で躊躇なくセンズリをぶっこき始めた親方に、俺は目を丸くした。
けど、谷底を見下ろし、空にマラを突き立てて一心不乱に扱き上げる
親方の姿は、まぶしかった。胸が熱くなり、これこそ男と思った。
(俺も、親方みてえな男になりてえ…!)
「うっす、負けねえっすよ!」
覚悟を決めた俺は、親方の横に並び、カチカチにおっ勃ったマラを扱き始めた。
(8)
俺と親方は、青空に向かって振り立てたマラを右手でシコシコと擦り上げる。
俺は、親方のセンズリをチラリと横目で盗み見た。
親方は目を閉じ、ハァハァと息を荒くして無我夢中で雄の快楽に耽っている。皺の寄った額からは、熟れきった50男のエキスが凝縮された汗が滴り落ちる。 猪突猛進―。そんな言葉が俺の心に浮かんだ。親方の性欲は、射精という頂点に向かって猪のようにドスドスと突進していく。荒々しいが、純粋だ。
その時―。俺の耳は、地鳴りのように響くトラックの音を感知した。
「やべえ、親方! トラック来るっすよ」
俺は慌ててマラを扱く手を止める。
「かまわねえよ、トラック野郎にセンズリ見られるぐらいどうってことねえだろが。それより手ェ止めんじゃねぇぞ!」
親方はどっしりしたポーズを崩さず、センズリをぶっこき続ける。すげえ。根性決まってる。
(ええい、どうにでもなれ…! 親方と一緒ならかまうもんか)
トラックの轟音が近づいてくるのを感じながら、 俺もセンズリを再開する。
「ようっ、お二人さん。精が出るねェ」
崖のあるカーブを曲がるトラックの窓から声が響いた。目を向けると、鉢巻を巻き、サングラスをかけたゴツいおっちゃんが、 歯をむき出しにしてニヤニヤしている。トラックの窓からは、筋肉隆々のぶっとい腕が突き出ている。
「おうっ、気持ちいいぜ。あんたも一緒にどうだ?」
親方の言葉に俺はドギマギした。鉢巻男は一瞬、考え込むような表情をしていたが、再びスケベったらしい笑顔をニタニタ浮かべ、そのままカーブを走り抜けた。
「いや、やめとくよ。お二人さんの水入らずを邪魔するほどヤボじゃないんでね」
親方は何も言わず、親指をぐっと立てて鉢巻男の言葉に応えた。その男らしい仕草が、俺の脳天を痺れさせる。
去り際に、鉢巻男は俺のほうを向き、こう言った。
「よう、兄ちゃん、頑張れよッ!」
ワハハと笑い声を響かせながらトラックは遠ざかっていった。
「野郎、気を利かせやがったな」
親方はセンズリの手を緩めず、荒々しい息を吐きつつつぶやくように言った。
(えっ、それって…)
鉢巻男の「水入らず」という言葉が、俺の心をチクリと刺す。
(そうか…。これは、男と男の…親方と俺の絆を深める儀式なんだ…!!)
俺は、全身の筋肉にグッと力を入れ、右手の掌に唾を吐いて、親方に負けないほどの猛烈な勢いでマラを扱き始めた。
(9)
親方は目をぐっと閉じてセンズリに没頭していたが、俺が掌に唾を吐いたのを音で察知したのか、ごっつい掌に勢いよく唾を吐きつけ、一呼吸置いてから再び猛烈にマラをしごき始めた。
風は凪いで、この山奥の谷間は驚くほど静かだった。
音のない世界で、ただ親方と俺の喘ぎ声、マラを刷る音だけが響いていた。
ハァ、ハァ、ハァ…。親方の野太い喘ぎ声が、次第に高まっていくのが分かる。腹の底から絞り出すような低いそれは、獣の唸りのように響いた。ああ、たまんねえ…。 たまんねっすよ、親方…。
青空の下、下界を見下ろしながら、俺たちは夢中でマラをしごき続ける。
さっき二人で小便をぶっ放した時、俺は親方のことを王様にでもなった気分でいるんだろうと、ちょっと上からの目線で見ていたが、今は違った。俺は親方と同じ気持ちになっていた。俺と親方は、いま、この世界の頂点にどっしりと立っている…。
ふと一迅の風が吹き抜け、額に伝う汗を蒸発させていく。
センズリには、どこか後ろめたい感情がつきまとうものだが、親方と一緒のセンズリは違った。ただただ、爽快で気持ちよかった。
「テツよお……一緒にぶっ放すぞ! 競争ってこと、忘れちゃいねえだろうな」
親方は俺に顔を向け、不器用にウインクする。猛々しい獣と、 悪戯なガキの表情が入り交じる表情で。
「うっす…俺、負けねえっすから…!」
俺も精一杯の笑顔で返す。
「ふん、おまえが勝ったら言うこと一つ、きいてやるよ」
不敵な表情でそう言うと、親方は再び目を閉じ、絶頂に向かって全力でマラを扱き始めた。
(10)
親方が目を閉じているのをいいことに、俺は親方の顔を盗み見る。筋肉の緊張と深い皺が、 仁王像のような憤怒の仮面を作り上げている。しかし、親方が癖で時折、タコのように唇をすぼめると、その仮面の下からは、ひょっとこの面のような愛嬌たっぷりの素顔がのぞく。
はあっ、はあっ、ふうぅ、ううっ、おおっ…
親方は喘ぎ声を漏らしながら、マラを扱き上げていく。毛のびっしり生えたごつい指は、見た目とは裏腹な繊細な動きを見せる。
俺の脳裏にふと、今はおのれの性器の悦楽のツボを的確に刺激する親方の指が、生白い女の肌を這う場面が浮かんだ。嫉妬の感情が、炎のように燃え上がる。その狂おしい感情は、しかし、ますます俺を興奮させる燃料となった。
俺と親方は、互いに競い合うように、絶頂に向けて登りつめていく。
けれど、俺たちはただ互いの我を張っているだけじゃなかった。同じタイミングで精を放つには、互いの荒々しい息遣いを感じ取り、歩調を合わせていく必要もある。常に俺の一歩先を行く親方の呼気を追いかけるうちに、俺と親方の間には、不思議な感情が醸し出されていくのが分かった。言葉にするのが難しいが、言ってみれば、少年マンガなんかによくある「最強の敵と書いて友と読む」ってやつだ。
「おいっ、そろそろいくぞ! いいかッ!!」
親方は、どっしりと深く腰を落としながら、現場でいつもするように、荒々しく掛け声をかけた。その声は、いつも俺の気をパンと引き締める力を秘めている。
「ういーーーっす!!」
俺は、親方に倣うように深く腰を落とし、全身の筋肉に力を入れる。
次の瞬間、俺と親方の鈴口から、ほぼ同時に白濁する液体がものすごい勢いで噴出した。俺の目には、粘性を帯びて飛び散る液体の複雑な軌跡がありありと見えた。流星のように尾を引きながら虚空へと疾走する粘液からは、いくつもの白い粒が分裂し、太陽の光を浴びて真珠のようにきらめいた。
二人の精液の軌道は入り混じり、谷底へと落ちていった。どちらが遠くまで飛んだか、はっきりとは分からなかった。
放精の波は数回に分けて押し寄せ、そのたびに、親方は「うぐっ…ふぐっ…がはっ…」と、声にならない声をあげた。
「……どっちが飛んだか分かんねえなァ…」
精液の放出がおさまった後、親方はハァハァと粗い息を吐きながらつぶやいた。
「そっすね…」
俺も、親方と同じようにハァハァと粗い息を吐きながら答えた。
(11)
射精後の虚脱感の中、俺は急に不安になった。精を放った後、ついさっきまで熱く情を交わしていた男が、冷淡になるのはよくあることだ。
俺は、親方の顔になかなか目を向けられなかった。
しばらく続いた沈黙を破ったのは、親方だった。
「おい…テツよお…」
親方の言葉に、俺は身構えた。
しかし、次の瞬間、親方は大きな口を開けてガハハと笑い始めた。
「おまえ…なかなかやるじゃねえか。なあ」
親方は、湿った手を俺の坊主頭に乗せたかと思うと、犬ころにするようにわしゃわしゃと撫で回し始めた。
「わっ、きったねェ! ザーメン! ザーメンついてるっすよ」
「気にすんなって。俺もおまえも、もとはといえば、ここから生まれたんだからよ。な?」
親方は濃厚な精液の付着した人差し指を、嗅がせるように俺の鼻の前に持ってきて笑った。俺はその青臭い強烈な臭気にクラクラしたが、かろうじて理性を保ち、いつものノリで返す。
「ちょ! くっせぇ! おっさんのザーメン、マジ勘弁!」
俺と親方は、そんなじゃれあいをしばらく続けた後、大声で笑い合った。
*
ようやく萎んだマラをチャックにおさめ、俺たちはトラックに戻り、当初の目的地だった資材置き場へと急いだ。
開け放した窓から吹く風が、心地よかった。俺の頭に残った親方のザーメンがパリパリに乾いていくのもまた一興だ。
時間が経つにつれ、射精後の虚脱感は、不思議な満足感へと変わっていった。俺の隣で、呑気に口笛なんか吹いている親方も、もしかしたら俺と同じ気持ちなんだろうか。
「テツよお…さっきの勝負、もし勝ったら、何がほしかった?」
親方は、窓の外に目を向けながらぶっきらぼうに言った。
「……何も。ま、親方の財布の中身ぐらい、承知っすからね」
俺は、いつもの調子で答える。
「ったく、こいつ、かわいくねえなァ」
親方は俺の頭に軽くゲンコツを食らわす。
(そう、何も…。だって、俺の願いはもうかなってるんだしな…)
ゲンコツを食らってもニヤニヤとハンドルを握る俺を、親方はちょっと不思議そうな顔で見た。
「おまえ、時々分かんねえよな」
「分からなくてもいいすよ。それが親方のいいとこなんすから」
「何だそりゃ。おまえ、絶対、俺のこと馬鹿にしてんな?」
「んなことねえっすよ、尊敬してますよ。心から」
「どーだか!」
そんな他愛のない言葉を交わしながら、俺たちを乗せた軽トラは山あいの深い緑の中を縫うように進み、いつしかあの谷間は遠ざかっていくのだった。
(おわり)