「ま、ま、ちょっと落ち着いて・・・」
拡声器は、高音でまくしたてる中年女性の手から、落ち着いた男性の手に移る。
「そうそう、そのまま手で覆っててくださいよ・・・記録映像にモザイクかけるのも大変なんですから」
穏やかなで声はあるが、端々に嫌味を混ぜてくる。見た目とは裏腹に、繊細な心をもつ巨人は、みるみるシュンとなっていく。股間のモノも縮み、今ならでっかい腹に埋没して隠さなくてもいいぐらいなんじゃないかと思う。
「そのー、あなた様と私どもの間で、自慰行為は週に1度という契約を交わしたのは覚えておられますよね? まさか神格をお持ちのあなた様がお忘れではないと思いますが・・・」
「お、覚えてるけんども・・・だども・・・おら、ムズムズしちまって・・・」
全身毛で覆われたむっちりした体が示すように、成熟した雄の男神である巨人は、性欲も旺盛だ。だが、一人山に住む身では、その欲望を自ら処理するしかない。
「今週に入ってもう3度目ですよ? あなた様もいいお歳でしょう。自慰行為を覚えたての中学生じゃないんですから、ホントに・・・」
市民の間でどっと笑いが起こる。恥ずかしさのあまり、巨人の顔はかーっと耳まで真っ赤になった。
巨人のセンズリは隠したくても隠せない。情欲を抑えきれなくなった巨人が股間に手を伸ばすと、異変を察知した鳥たちが一斉に周囲から飛び去る。
興奮が高まると、巨人は低い喘ぎ声を漏らし始める。その声は、地響きのように森を揺らし、麓の市街地まで届く。巨人の貪欲なセンズリは、半時は軽く続く。その間、市民はたまったものではない。
さらに困るのが、絶頂を迎えた時の叫び声だ。「うごおっ・・・ぐはあっ・・・おふうっ・・・」。その響きは、耳をつんざくような轟音となって稲妻のように響く。耳を抑えなければ耐えられないという者もいるほどだ。
以前は、仁王立ちで太い竿をひたすらにしごいて絶頂に達していたが、人間からの苦情でそれは禁止された。巨人が立つと、街からはどこからでもその姿がまる見えだ。欲望の赴くままにモノをしごきあげる姿は、教育上よろしくないという。
それ以上に問題となったのは、巨人の陰茎から噴出される精液だ。ガスタンクほどあろうかという金玉から噴出される精液の量は半端ではない。
以前はこの里も、畑が広がるのどかな山村だった。巨人の噴き出す精液は、むしろ肥やしになる、あるいはその飛沫が降った家は幸運に恵まれるなどと喜ばれていたものだったが、ベッドタウンとなり、住宅が広がる今は違う。
空中から降り注ぐ臭い白濁の液は、もはや公害と化していた。
市民からの苦情で、(1)巨人の自慰行為は週1回までとすること(2)あぐらをかいて行い、精液が市街地に届かないよう手で受け止めること(3)声を立てずに息をひそめて行うこと―、が条例で定められたのだった。
巨人も里の人間に迷惑をかけたくないのは山々なので、条例に同意したが、頭では分かっていても、巨体の中で荒れ狂う情欲だけはどうしてもおさえることができなかった。
そして、今日もまた、日中から盛大にセンズリをぶっこいてしまったというわけだ。
(続く)