ここで再び場面は冒頭に戻る―。
雄大なオスのセンズリをかきおえ、すっかり内省的で弱気になった裸の巨人は、ただ街の市民に罵倒されるがままでいた。
「このセンズリタコ親父めがーっ、1日に何回こけば気が済むんだっ!!」
「市民の前でマスターベーションに耽って恥ずかしくないのかーっ!! 変態!」
「汚え包茎ちんこ見せるな! 皮剥けーっ!!」
山の麓に集まった市民は、巨人の足元で一方的に拡声器でがなりたてる。
「ちっとは痩せろ! このデブ親父!!」
「あんたから飛んできた抜け毛がうちの庭に落ちんのよ! 気持ち悪いったらありゃしない! 脱毛しなさい!!」
「センズリばっかりこいてるから頭ハゲんだよーっ!! センズリタコ入道!!」
市民の罵倒はエスカレートし、容姿の誹謗にまで及んだ。罵倒が激しければ激しいだけ、そのあとに続く市民の哄笑も大きい。巨大な体とは裏腹に、巨人の心は繊細だ。巨人は傷つき、べそをかいた。
感情的な罵倒がおさまったかと思うと、市民の理性的な詰問が始まる。
「あのねえ、あなたが性欲を処理するのは勝手なんですよ。1日何回でも、猿みたいにシコシコシコシコ処理すればよろしい。でもね、私たちの街に、アレを飛ばすのはやめてもらえませんかね? 手で受けるとか、反対側を向いてするとか、いろいろあるでしょう?」
罵倒よりも、理屈を用いた譴責のほうが、素朴な巨人にはむしろきつかった。
「だども・・・だども・・・おら、里を見守らねえとならねえもんで・・・いつも里のほうを向いていなければならんだよ・・・」
巨人はしどろもどろに答える。巨人自身も、自分は何者か、うっすらとしか分かっていない。ただいつからか、この里をただ見守り、またセンズリをかいてきたのだ。それに何の目的があるかは知らない。
「見守るっていっても、あなた、この前の水害の時にも何もしなかったじゃないの」
そうなのだ。
昔話の三年寝太郎は、力をたくわえ、いざという時に里を救った。だが、巨人はセンズリのほかは何もできない。ただ、じーっと里を見守っているだけだった。科学的思考を身に付けた街の人間には、今や巨人と自然災害の間には何らの因果関係も存在しないことをはっきり理解していた。
「んだ・・・だども・・・だども・・・おら・・・おらは・・・」
巨人は顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙を流しながら言った。さすがにこれには、市民の勢いも少し引いたかに思われた。
「と、とにかく・・・。あなたが何もしないのはいいとして、その、男性の秘部が分泌する液を街に飛ばすことだけはやめてほしいんです」
「分かってるけんども・・・おら・・・どうしてもそうせんとならん気がして・・・おめえさんたちが忌み嫌うこの魔羅は、皮こそかぶってるけんども、おてんとさまから授かった大切な宝物だべ。両のふぐりも無駄についてるわけじゃねえと、おらは思うだよ・・・」
巨人は股間を覆っていた手を外し、巨大な陰茎と睾丸をぶらんぶらんと揺らしてみせた。
「・・・!」
市民が絶句する中、巨人は珍しく、饒舌に続ける。
「おら・・・おら・・・よく分かんねえけども・・・このふぐりがくれる汁・・・おらの魔羅から勢いよく飛び出す汁・・・この汁は、おてんとさまがくれたもんだと思うだよ・・・魔羅をしごくと、なんともたまんねえ気持ちになるのは、汁を土に返すごほうびみたいなもんだと思うべよ・・・里の男衆はそう思わねえべか?」
巨人の言葉に、街の男どもは、一瞬、微妙な顔つきになった。しかし、心にわいた巨人への共感を振り払うように、ある男ががなりたてた。
「な、何を言ってやがる! 何の説明になってないぞ!!」
「そうかも知んねえ・・・おらも、おらが何言ってるか分かんねえだよ・・・だども・・・おら、おてんとさまからもらった汁は、土にかえさんとなんねえって・・・なんでだかおらにも分かんねえけども・・・そう思うだよ・・・里のもんにはおらの汁で迷惑かけたくねえとは思っとる・・・だども・・・おら、どうしてもそんなふうに思えちまって・・・気がついたら、里に向かってぶっ放してるだよ・・・」
巨神はわあわあ泣きながら答えたが、市民の喧騒はただ高まるばかりだった。
その時、市民を黙らせるように、ひときわ大きな声が鳴り響いた。
「市民に告ぐ。巨人様への誹謗、中傷は即刻中止しなさい!」
(続く)
あんどん丸
2022-09-13 21:26:02 +0000 UTC三太
2022-09-13 21:22:47 +0000 UTC