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緑のルーペ
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地獄の話・2

小学生にもなる前のこと。近所の年上の男の子と、ドラゴンボールごっこをして遊ぶのが好きだった。あれは果たしてドラゴンボールごっこだったのだろうか?詳細は省くが、損な役回りをさせられた当時の相手役の男の子には、申し訳ないなと今でも思う。恥ずかしい思い出なので、雑に要約すると。

僕は、「怒りを開放させて、自分を虐げる悪を倒す」というシチュエーションが好きだったように思う。誰だって好きだろ?そういうの。


さて、それを踏まえた前回の続き。

自分の心の底からすくいあげてしまった、得体のしれない不安を稚拙な文にしたためた、おそらく、当時の僕の脳内から出てきうる最も恥ずかしい文章を、僕は、クラスメイト全員とその家族も集まる授業参観の日に、朗読させられたわけだ。

実を言うとこの時の出来事、これ以上何があったのか、よく覚えていない。

なぜ読ませられたのか?――前フリも何もない、予測不能の出来事だったことは覚えている。

つまり、返却された文章をその場で読むように指示された形だ。って、不意打ちかよ~~マジでクソだなあいつ~~~っ(暗黒大爆笑)

なぜ読んだのか?――これもよく覚えている。好きだった先生の指示に従わないことは不自然だと思ったからだ。

他の生徒も読むような形の授業だったか?――いや、これはNOだ、この授業は「今回は、"僕"が書いた、この文章を聞いて、皆で問題について考えよう」というニュアンスの授業だった。…まあ、具体的に何を話したかはやはり覚えてないし、この辺は流石に曖昧で、僕が僕の都合で記憶を改変している可能性など含め僕自身も定かではないため、「おそらくはそうだったはず」くらいにしか言えない。ご容赦頂きたい。僕がゲシュタルト崩壊しそうな文章だな。

読んでどうなったのか?――はて、どうなったのだろう。

読んだ後の記憶は、本当に無い。先生は、僕のその文章を通して、クラスメイトに、その家族に、何を伝えたかったのだろう?

前項で、「とてもつらい何かがあったんだけど、それを僕は忘れさせたのではないか」という文章を書いた、という話をした。

皮肉な話だが、僕は、その時のことをこそ、忘れさせてしまったようだ。

覚えているのは、全てが終わった後、母親に、何かに納得したような顔で「つらかったんやね」と言われたことだけだ。

「やめてくれ。辛くなんかない。僕の周囲はいい人ばかりだし、僕は理不尽な思いなんかしてないし、幸せなはずなんだ。あれはただの愚痴みたいなもので、誰だって心を掘り進めればいずれ出てくるしかない感情で、あんな文章を教室で読まされる想定なんか無かった。アイツが勝手にやらせたことだ。僕は不幸じゃないし、僕を育てたあなたも間違ってなんかない」

もちろんそんな言葉は出てこなかった。何も言えなかった。何を言えば良いのか分からなかった。黙るしかなかった。


はて、「怒りを開放させて、自分を虐げる悪を倒す」話が好きだった。

虐げたのは誰だったのか。悪を倒すにはどうすればよかったのか。そもそも怒りなんてあったのか。

実際に起こりうる、そして起こった、現実的な理不尽な状況に対し、僕はどうすれば良いのか、何も分からなかった。今ならもちろん「読みたくありません」とクラスの前で宣言することが正しかったのだと分かるが、

まあ、自分で言うのも何だが、いやいや、小学生にそれを求めるのは酷だろうという話だ。


さてこの話、当時の自分の環境に爪痕を残したかと言われれば、そんなことはない。

次の日、僕は普通に学校へ行き、授業を受けた。少し元気はなかったかもしれないが、その程度で、一週間もすれば元に戻った。

いやはや、若いと心の自己治癒力も高いのだな、素晴らしいことだ。などという話ではもちろん無く。

心が壊れると、人間はあらゆるストレスを全力で避ける。それが僕にとっては、とりあえずいつもどおりの日常を過ごす、という方法だっただけのことだ。

人は心から怒り悲しむと沈黙する。心を閉じて、なかったことにすることで自己防衛する。まあ、人が、なんて大きな括りをついしてしまったが、要するに、人の中にはそういうやつもいる。

けれどそれは逃避で、僕は本当のところ、自分の心を汲み取ってくれる誰かに救われたかったに違いなかった。

……と、今なら言えるのだ。あれが感情のレイプだったこと、人はそんな出来事を受け入れてしまった時、誰を憎んだりすることも出来ず静かに絶望すること、感情の爪痕は永遠に残って人生を縛ること。学校にわざわざ通っていたということは、本当は誰かに心配してほしかったのだろうこと。しかしそれを隠したかったことも事実だったこと。全て。

しかし当時は僕自身もそんな自分の心の機微に気づくことはなく、先生も、親も、クラスメイトも、誰一人態度は変わらなかった。かくして、叫ぶ機会も、愚痴る機会も失われたまま20年くらい経ち、今ここで愚痴っているという次第であるからお笑いであることよ。


まあ。言葉にすることがとてもむずかしい、根源的な、人間的な不安や辛さが当時からあったのは事実で、それを小学生なりの稚拙な、糞みたいな文章に書き起こしたということは、僕は先生を本当に信頼していたのだろう。先生にこの気持を救って欲しかったのだろう。

先生に救って欲しかったのだ。先生。貴方に。貴方にだ。

クラスメイトじゃない、ましてその家族でもない。貴方に、貴方の言葉が聞きたかったのだ。

誰が広く意見を求めろと言った。僕はただ、いつもの赤ペンで、ちょっとだけ長い感想をくれればそれで良かったのだ。どうして授業に組み込んだのだ。どうして、それが人のためになるなんて勘違いをしてしまったのだ。あの空間の誰も救われない。恥辱に犯された僕も、そんなものを見せつけられた誰も、いや、もしかしたら、そんな状況で、救われないいたいけな子供の精一杯の言葉を聞いて、感動してるやつもいたかもしれない。僕の文が糞なら、お前らは糞にたかる虫だ。等しく虫だ。人間は虫だ!!


何故、他の人に。虫どもに。ああ、どうして。先生。先生。先生!!!

あなたも虫だったのですか!!!あんなに思慮に富んだ、無垢なる子どもたちに深遠なる意識の旅を促していた他でもないあなたが!!あなたでさえ!!!


…だから僕は「尊敬する人は?」という質問にいつも白紙でしか回答できない。

Comments

学校という異世界で、この程度の経験は誰しも一度や二度はしてるんじゃないかなと思うんで、まあ、自分だけがどうのとかは思わないんですけど、ただ、あの瞬間強烈に刻み込まれた諦観だったり劣等感は未だ拭えないのも事実で、まあなんというか、この程度の経験でさえ、まあまあ人格が歪むんだから、人には優しくしてほしいですね…と。

緑のルーペ

闇の漫画家の誕生をみた。

bataco

この逸話が念頭にあったのでそこは気になりませんでした。 …逆ですか。 ---- 名人・木村義雄を目の前にして、「名人なんてゴミみたいなもんだ」と升田幸三(当時八段)が言ったというのである。  ムッときた木村が、「名人がゴミなら君はなんだ」と言い返しところ、升田曰く、  「ゴミにたかるハエだ」  これが巷間伝わる「ゴミハエ問答」である。

三等兵

消したら消したで誤解を招きそうなので補足しておくと、流石に人間を虫だとまでは実際には思っておらず「人の奥には悪い虫が住んでるよね」という考え方なのが実際のところ。なので人間嫌いとはちょっと違い、罪を憎んで人を憎まず的アトモスであるが、この文章は当時の激情の書き起こしなので、まあ、そういうイタい感じになってしまうのは文章表現故致し方なしということでご容赦頂きたい。変なメタ文学みたいな話はしてないのでご安心下さい。

緑のルーペ

オチの部分と、それを踏まえたコメントは完全に蛇足なので消しました。

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