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土装番
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販売品との家族ごっこ 1話先行公開版

 人間にそっくりな機械人形、アンドロイドが人々の街に浸透し、普及しつつある時代。  当初はその人間に近づく完成度も低かった為に、見た目にもその違いはわかりやすく、受け答えや挙動にもその不自然さはどこか残されていた。  しかし、時が進むにつれてそのクオリティは飛躍的に上昇し、感触、挙動、言動と、少しずつ人間的な自然さが身につけられていった。  そして今では、アンドロイドらしさを残しながらも、その機能的特徴や能力を示されなければ、人間との区別は注視しなければ殆どわからないようなクオリティにまで到達していた。  そんな機械人形達は、様々な場所や分野において、多種多様な活躍をしている。  商品や店舗情報を完璧に把握した見た目麗しい店員。  人工的な美貌によって、広告や映像、雑誌、さらにはショーケースなどで活躍し、人々の目を引くモデル。  お金を払えば、見た目や性格、用途まで好きにできる新しい家族、恋人、召使いとしての存在。  同じ人間のように大切に扱われる個体もいれば、道具同然のように扱われる個体も存在する。  さらにはそれに並行し、身体補助の方向から、アンドロイドと同様のスペックを手に入れようとする思想と、いくつもの思惑が入り乱れ、機械化技術の発展も進行。  既に実用化にまで至るようになり、新車一台分の金額さえあれば、機械の身体が一般の人間の手にも届くようになった。  人と機械の境界が、関係性から存在まで曖昧になり始めていった時代。  これはそんな時期のある一人の女性の話。 * * * 「やっぱり一人でいるって、気楽で楽しいけどたまに変な気分になるなぁ」   都内のあるタワーマンションの一室にて、広々とした静かなリビングに備わったソファーの上で、ぐったりと仰向けになりながらポツリと独り言をつぶやく女性がいた。  彼女の名前は栗林美裕。20代半ばである彼女は、ずっと眺めていたくなるような美貌の持ち主であり、大人びたスラッとした顔立ちでありながら、透き通るような清楚な雰囲気。  常に手入れをしっかりされている、さらさらとした艶めく、ほんのりと茶色の混じったミディアムヘア。  それでいて引き締められた体型に、部屋着の下から盛り上がるニつの胸。  室内の明かりを弾くしなやかな手脚と、まさしく天然記念物と言えるような非常に優れた容姿を持つ女性だった。  そんな彼女は、懐に巨額の貯金を作り出した上で、今は仕事をやめてゆっくりと一人の贅沢な時間を過ごしている。  それなりに収入も入る手筈も確保しており、しばらくの充電期間を満喫している途中だった。 「結婚したいとも思わないしなあ……けど一緒にいる誰かは欲しいし…………家族もいないしなー…………」  美裕は産まれた時から施設に預けられ、親の顔も知らず、兄弟という存在も身近にいないまま人生を過ごしていた。  それから彼女は、自分に出来る限りの努力と持ち前の容姿、結果による自信を積み重ね、そうしてようやく一人で生きていける自力を身に着けたのだった。  だからといって、誰かとの繋がりがしっかりと築き上げられたわけではない。  友達とも彼氏とも違う、身近な誰かがいたらとふと思うことがあり、その度に彼女はどうしようかと想いを巡らせていた。  常に蓋をされていたその感情は、次第に煮詰まり始めていく。 「…………ちょっと、散歩しようかな」  自分ながらにいつもの発作かぁ……と、自らの心をなだめつつも、気分転換はしておかないとなぁ……と、自己管理も怠らない。  美裕はソファーから起き上がり、軽く身体を慣らしてから自室へ移動し、準備後に一旦街へ出かけることにした。 「静かな家もいいけど、こういう騒がしい場所もやっぱり落ち着くわね」  軽い荷物だけを持って、沢山の人々が行き交う街の中へと足を踏み出した美裕。  その人混みの中には、まさしく光るようなアンドロイドの美男美女も入り混じっているが、ぱっと見では誰か肉で誰が機械なのかもわからない。  すれ違いざまに露出した首元を見ると、ほんのうっすらとした継ぎ目があるかどうか、ぐらいでしか判別できない。  可愛いなあ、かっこいいなあ、と、メディアの向こうのスターを見るような感覚でチラっと視線を動かしつつ歩いていると、美裕はふと、大型家電量販店の前で立ち止まった。 「…………そっか、アンドロイドかぁ。その手もあるっちゃああるわ」  彼女の脳内に浮かんだのは、家族としてアンドロイドを招き入れるという考えだった。  誰かを新しく家内にするということは思わないが、アンドロイドならば構わないかもしれない。  何より、お金を払えば手軽に手に入る、ある種の人間の代わり。買ったあとは自分の自由。  そう思うと美裕は、むしろなんで今まで思いつかなかったんだろうと思う程に、だんだん興味が湧き始めてきた。 「すぐには買わないにしても、ちょっと入ってみようかな」  今すぐには買わなくとも、その姿や目の前で動くのを見るくらいなら参考になるだろうと思い、美裕はアンドロイドの女性店員が笑顔で歓迎する入口から足を踏み入れていった。 「いらっしゃいませ! こちら、新発売のハンディクリーナーとなります! 省電力でこのパワー、どうぞご覧ください!」  首筋からコードを伸ばし、店員の女性型アンドロイドが新製品の実演販売を行っている。  販売会社から提供された宣伝用プログラムをインストールすれば、対応した機種であればどのようなタイプでも、同じように実演が可能となる。  教える手間が省ける、まさしく機械の利点といったところである。 「えーっと、何階かな……あった、5階か」  エスカレーター側に掲示されている階層案内を確かめ、そのまま目的の5階を目差してじっと待つ美裕。  途中、元気な声で来客を迎える、一階にいたものと同じ容姿のアンドロイドを少しだけ視界に入れつつ、手元の携帯端末で調べ事をしていくと、あっさりと目指した階に到着した。 「いらっしゃいませ! こちらは皆様の側に寄り添うアンドロイドの販売コーナーとなっております。現在展示、公開されているのはあくまでサンプルですが、購入時に人格、容姿、体型と、自由に設定できますので、詳しくはスタッフまでお気軽にご質問ください」  自身と同じアンドロイド達を、商品扱いで笑顔で案内する女性型スタッフ達。  いざ足を踏み入れてすぐには、外部メモリーや個別の四肢パーツ、電子頭脳、人工皮膚などの周辺機器やグッズ。  奥に見える広いスペースには、何体もの男女入り乱れる商品達の体験コーナーが備わっていた。  少し間違えば、人身売買にも近いようなその光景。人間そっくりな機械人形だからこそ許される景色。  美裕は新しいショッピングモールを見るような楽しそうな目で、四方を見ながら歩いていた。  そんな時、美裕は一体のアンドロイドの前で立ち止まる。 「こちらの機体が気になりますか?」 「ちょっとだけ。今日は買い物というよりも、初めてこのフロアに来たという感じで」  女性型スタッフが、プログラムされた心躍らせる柔らかな笑顔で応対する。  美裕が気になったのは、柄の無い暖色系の服装に身を包む、20代後半ほどの見た目に設定された、女性的な感じと母性が備わった女性型アンドロイドだった。  それはお淑やかな雰囲気と姿勢で椅子に座っており、誰に向けたわけでもない綺麗な笑みを、どこかに放っている。  展示用の機体だからか、現在の全く動かない様子と意思の見えない状態が、人間らしさと機械らしさのアンバランスさを醸し出していた。   「そうでしたか。でしたら、2分程こちらの機体と触れ合ってみてはいかがですか? 当店では無料での交流体験を実施しています。それからでも購入を考えてみるのも悪くないですよ」 「じゃあ、ちょっとだけ」  言動や表情を分析し、言葉巧みに宣伝文句を打ち出す店員。  体験だけならしてみるのも悪くないだろうなと、美裕は設置機体の前に立った。 「こちらの機体の両手を握ると、無料体験が開始します。タイマーは機体内に設定されているので、時間を過ぎますと自動的に元の状態に戻ります。では、お楽しみください」  説明を言い終えると、一定の位置まで下がる店員。  言われた通りに手を握ると、美裕の手のひらに人間の皮膚に限りなく近いが、どこか違和感を覚える柔らかな人工皮膚の感触が伝わる。  無駄な電力消費を抑えるためか、手の温度は人体よりもちょっとだけ冷たい。  すると、設置機体はゆっくりと目を見開き、美裕の顔をそのカメラに捉えた。 「あら、初めまして。今日はどうしたの?」  とても耳心地のよい、電子音声らしさを殆ど感じない柔らかな声。  その優しい言葉を聞いただけでも、心を全面的に明け渡してしまいそうになる。 「えっと……初めてここに来てね、それで少しアンドロイドと触れ合ってみようかなって思って。今までそれなりには対話はしたけど……こんなに直に触れるのは初めてなの」 「そうなの。じゃあしばらくは私の手を握っててもいいわ。私の手はちょっと冷たいかもしれないけど、時間が経てば温かくなっていくの。もう少し近づいてみる?」  美裕はお言葉に甘えて距離を寄せてみる。  人間とは違う、産毛や毛穴、シミも一切存在しない美しい人工皮膚。水晶のような瞳の奥に見える、せわしなく動くレンズ。うっすらと首元に見える着脱可能であることを示す継ぎ目。  やり取りをしてても人間との違いを殆ど感じられないが、間近に見てみると、無機物が人間の形を構成しているのがよくわかる。  だがそんな姿が、まるで美術品でも見るかのように心が踊り出させる。  しばらくやり取りをしていると、思わず恋に落ちてしまいそう。   「どう? 落ち着く?」 「……まだちょっとドキドキするかな……すごく綺麗だし」 「ふふ、ありがとね。私はそういう容姿に造られてるから。でも、貴女も全然負けてないわ。とっても綺麗で…………」  設置機体が容姿を褒められて嬉しそうな反応を示し、続けて機体側が美裕のことを褒めようとしていたその時、突如機体の声が停止した。  そして、体験が始まる前の姿勢へと戻っていき、改めて同じ笑顔へと戻っていった。 「体験時間が終了しました。ご利用いただきありがとうございました。あなたの買い物の手助けになりますように」  予め入力された台詞を言い終えると、設置機体は喋らなくなった。  それを見計らい、後ろから店員が改めて話しかけてくる。 「どうしでしたか? アンドロイドと一緒に暮らす生活を想像できましたか?」 「………………えっと、まあ……」  たった2分ながらもとても楽しい時間が過ぎ去ったような、そんな感覚に襲われた美裕。  心なしか、店員の変わらない笑顔も、どこかドヤってるようにも感じられる。  まるで思い描いていた理想と会話していたような、そんな感覚。  美裕の中のもやもやとしたどっちつかずの心情は、今の2分で大きく傾いた。 「ありがとうございました。良い体験をさせてもらいました」 「そう言っていただけて何よりです。この場で購入されますか?」 「あーいえ、ちょっとまだ考えがまとまらないので……今日はこれで」 「そうですか。でも、お客様の考えの役に立てて何よりです」  お礼と一緒に頭を下げ、その場を去ってエスカレーターへと向かっていく美裕。  その背中を、店員は相変わらずの笑顔とその状況に合わせた台詞で頭を下げる。  設置機体は、美裕に対しては既になんの反応も示していなかった。 「いらっしゃいませ! 現在アンドロイドとの触れ合い体験を行っています!」  交流を交わした相手の姿が見えなくなると、店員はまるでNPCのように再び元の接客へと戻り、フロア内での幅広い接客に戻っていった。  それから下の階で、アンドロイドにも対応した充電ケーブルをニ本購入して、店を出た美裕。  彼女の袋を握る手はどこか強く、ある決意に満ちていた。 「…………買っちゃおうっと」  ほんの一瞬のうちに、人間そっくりな機械人形の魅力に絆されてしまった美裕。  これはもう買うしかない。そうしよう。美裕は新しい機械の家族を迎える決心を決めていたのだった。 * * * 「この店だよね……こういう所に来るの初めてだから、意識してないとマップ見てても迷っちゃうなあ」     やや衝動に任せて歩きだし、マップを見ながら辿り着いたのは、新品から中古品まで取り扱っているアンドロイドショップだった。  家電量販店に売られている新品を購入することも考えたが、人の姿をしていながら新品という部分が、どうしても大事にし過ぎてしまいそうな予感がしてくる。  初めての同棲と言うこともあり、中古品であればある程度気が楽になるのではないか。  何より懐が無駄に痛まずにすむ。そう考えた美裕は、その思考を満たす場所を探してたどり着いたのだった。 「通るときは見てなかったけど、いざちゃんと見るとすごい……」  ショップの入り口にはショーケースが備わっており、その中には値札の付けられた女性型アンドロイドがポーズをとって展示されている。  よく見ると、見た目こそ人間の理想形のような姿をしているが、所々人工皮膚が破けていたり、腕が丸ごと欠けている。  パーツ欠けこそあるが、その機体が販売されてから間もないタイプである為に、実質宣伝用に展示されてあるらしい。  家電量販店よりもバリエーション豊かな商品に目を奪われながら、美裕は店内に入っていった。 「いらっしゃいませー」  つい先程対面していた店員よりも少しだけ丁寧さには欠けるものの、それでも人間のそれよりは優しく迎え入れるような声色で、新しい客に反応するアンドロイド店員。  美裕は早速奥まで進んでいき、意図せず安価な機体が揃うコーナーへと向かっていった。   「劣化するとこういう状態になるんだ……ちゃんとしたのばっかり見てたから、なんだか新鮮ね」  整然と綺麗に並べられた、新品が揃うような店舗の物とは違い、そこに展示されていたのは、旧型や、状態の悪いそこそこ新し目のアンドロイド達。  顔の人工皮膚が剥がれて内部骨格が剥き出しになっている機体。下半身が失われている、虚ろな瞳の上半身だけの機体。手足が取り外されながらも笑顔で店内を見つめる機体。性器周辺に特に劣化が見られる、人工皮膚が傷だらけの機体。首から上の無い、接続面を晒した女体だけの機体。  どれにも例外なくぺたぺたとシールが貼り付けられており、動作保証や稼働年数、状態評価などが記されている。  その比率は圧倒的に女性型が多く、周囲はまるでハーレムのような人肌と金属の色に囲まれていた。 「うーん、どれも良さそうなんだけどなあ」  じっと顔や体型を見定めながら、あーでもないこーでもない、自分が欲しいイメージではないと悩み続ける美裕。  と、その時、彼女の目にある一体の姿が入り込んだ。   「あっ…………この商品、すごくいいかも……!」  それは、作られた笑顔かつ全裸で機能停止し立ち尽くしている、女性の色気と母性に満ちた容姿の機体だった。  少々状態が悪いが、全身のパーツが欠けも無く揃えられている。  元々の質が良いのか、さらさらとした艶が保たれている髪に、予め纏められている黒いポニーテールヘアー。  30前後をイメージされた、男性の側に立てば美人妻と囃し立てられるであろう美しく魅力的な整った顔立ち。  最新型よりも質は落ちる上、所々に張り替えの跡が存在するが、それでも人間よりもとても綺麗な人工皮膚。  人間という生物の母親的役割を果たす為に備えられた、顔を埋めたくなるような大きさの胸。  まるで男性の理想の体現として生み出されたような機体。  貼り付けられた商品紹介シールには、まさしく母親型アンドロイドである説明も記載されていた。 「お母さんとして家に置いとくには一番いいかも……決めた。これにしよう」   彼女が今欲しているのは、母の役目と姉の役目をそれぞれ担ってくれる、2体のアンドロイドだった。  そのイメージにしっかりとはまり込んだ商品のうち一体を偶然にも見つけ出せた美裕は、早速店員に駆け寄り、手続きを始めた。 「カード払いはできますか?」 「できますよー。一括で?」 「お願いします!」  購入手続きは滞りなく進められた、店員が頭部に備えられたカード挿入口にクレジットカードを入れる姿を見ながら、完了の時を待つ。 「決済完了しました。では、郵送での到着は明日になりますので。もし返品したい場合は、PCや携帯端末をアンドロイドに接続し、封入されてるコードを入力してください。それで自動的にこちらへ戻ってきます。それを確認したら返金しますので」  言葉の詰まりもない丁寧な説明に、しっかり耳を傾ける美裕。  ようやく全てを終えると、まるで購入を祝っているかのように感じる展示商品の笑顔を見ながら退店していった。 「よし! あと一体は……どうしようかな。お姉ちゃんって感じの見た目……理想的なのは見つからなかったしなあ」  抱いた理想のうち片方は見つけられたが、もう一方に合致するタイプがいないことに少し落胆する美裕。  他にどこか販売店は無いだろうかと思いながら携帯端末を見ていると、美裕は現在地からそれ程遠くない場所に、別の店舗を確認した。 「ここは……セクサロイド専門店?」  そこはアンドロイドショップというよりも、性玩具系を専門に取り扱っているセクサロイドショップだった。  店内画像を閲覧しても、整然かつ清潔に保たれた店舗ながら、そこにいるのは性的魅力を強調された女性型機体がほとんどであり、中には未成年の容姿をした機体も混ざっている。  だが、自分の理想としてはこういう場所の方が良いかもしれないと、美裕は早速期待を持って移動した。 「いらっしゃいませ。当店は女性にも満足にご使用頂けるタイプもご用意してますよ」  自分達の用途をしっかりと理解している、服の上からでも蠱惑的なボディラインの現れている女性店員の応対に迎え入れられる美裕。  先程の中古ショップよりも、いささかサービスが丁寧に思える。 「当店は初めてですよね? どのような目的でのご来店ですか? もしよろしければ、リクエストをお聞かせください」  開かれた胸元を強調するように上半身を傾け、耳に心地よく通るような声で接客する店員。  細かな仕草でも情欲を煽るような形を見せてくるが、それも全て彼女に組み込まれた専用の接客プログラムによるもの。  美裕は少し鼓動を早ませながら、言葉に甘えて自身のリクエストを口にした。 「あの、所謂お姉さんタイプというか……でも、私の年齢や見た目に準拠しなくてもいいというか、うーん…………世間一般のお姉さんイメージのタイプですね。そこまで新しくなくても大丈夫です」 「…………はい、かしこまりました。該当する商品をご紹介しますので、こちらへどうぞ」  少々曖昧な条件だったが、それでもしっかりと要望に見合う在庫商品を検索した店員は、早速美裕を案内していった。  道中は四肢、人工皮膚、人工愛液、性行為に特化した女性器ユニットなど、家電量販店や専門店よりも、はっきりと性方面に向けた商品がいくつも並べられている。  そして、何体もの魅惑的な容姿のセクサロイドが揃えられたコーナーの一角で、店員は立ち止まった。 「こちらが、お客様のリクエストに最も該当するであろう商品となります」  店員が手を向けた先には、全裸で程よく膨らんだ胸と股間を強調するような反った姿勢で停止する、20代前半ほどの容姿に造られたセクサロイドの姿があった。  半目開きで誘うような瞳ながらも、その造形の良さを伺わせる顔立ち。  清楚さをアピールするような黒髪のセミロング。  店内の光を弾くような、つやつやとした人工皮膚に、全身の計算された色気を引き立たせるピンク色の乳首。  身長もやや高めに造られ、今にも動き出しそうな生々しさを備えたそれは、まさしく極上の性体験を作り出すための機械人形だった。 「これ買います! カードで一括で、可能であれば郵送で!」 「全て可能ですよ。ではこちらに」  一度購入してから、一気に精神的なブーストがかかり始めた美裕。  一目惚れに近いレベルで一瞬で気に入った美裕は、これを自分の姉にしようと、早速その場で購入の意思を示した。  店員はそれに対して冷静に対応し、その場でてきぱきとリクエストやカード決済まで全て自分の身体で完了してしまった。 「もしよろしければ、こちらのグッズもどうですか? 同性のセクサロイドを購入するなら、その性体験をもっと向上させ」 「いえ、今回は大丈夫です! ありがとうございました!」 「またのお越しをお待ちしてます」  そのまままとめて周辺機器も勧められかけた美裕は、このままでは衝動のままにアンドロイドのことがわからないまま色々買ってしまいそうだと、発言を遮って店を去っていった。  店員はその言葉を聞いた直後、途中でメッセージを中断し、しつこく追いかけるようなことはせずに頭を下げて見送った。  こうして美裕は、突然自身の心に置きた革命のままに2体のアンドロイドを購入し、家族として迎え入れることとなった。  最新スペックではなく中古品やセクサロイドである分、やや家族ごっこであることは否めないが、それは自分がよくわかっている。  美裕は両機体の到着日が早く来ないかと胸を躍らせながら、軽やかな足取りで帰宅までの道中を歩いていった。 * * *  そして、購入したニ体の到着日。  人間一人余裕で収まるであろう大きさの、時間差で届いたニつのダンボール箱を受け取った美裕は、早速リビングへと、予め購入した台車も駆使して運び出し、横並びに揃えて床に置いた。  体感としては人間一人分よりもそこそこ重い重量感を覚えるが、箱が揺れるごとにどこか固くはない弾力も振動越しに感じる。  かすかに聞こえてくる硬質な音から、本体の他にもいくつかの付属品が備わっていることを伺わせた。 「待ってました……ふふ、これでうちに新しい家族ができるんだ。これからが楽しみ」  待ちに待ったアンドロイドとのご対面。  ガラス越しにしか見られなかった相手が、今はこの箱の中にいる。  美裕は持ち出したカッターを使ってテープを切り取り、一気に中身を開けていった。   「間近で見ると、尚の事ドキドキする……」  まさしく、店頭で半分衝動買いに近い形で購入した女性型アンドロイドが、ニ体分眼の前に姿を現した。  客の前で見せていた作られたポーズとは違い、ニ体とも四肢を取り外された状態で目を瞑っており、全身は梱包材に包まれている。   「ぐっ……ううっ…………重い…………」  なんとか力を振り絞り、動かしやすいように冷たい床の上に本体を移動させる。  見た目の人間らしさは非常に精巧なクオリティを誇っているが、全裸で動かされてもビクともせず、手足のないまま寝かせられている姿を見ると、人形らしさが強く溢れ出てくる。 「……ちょっと洗っておこうかな」  電源を入れる前に、ふと中古アンドロイドの方を見ると、乳首部分に小さな裂傷がいくつも確認できた。  過去にどのような用途で使われたのかを感じさせる痕跡に、美裕は衛生面が気にならないようにと軽く洗っておくことにした。  アルコールスプレーと付近を持ち出し、唇と胸、股間にしっかりと濡れるように吹き付け、軽くごしごしと磨いていく。  力の入れ具合で人工皮膚や樹脂の唇が動き、やわらかな胸を水風船のように震わせる。  しかし、その感触は家電量販店で触れたアンドロイドの手よりも、確実に質が悪いと感じさせられた。  自分の名前は気が済むまで洗い終えると、美裕はふうっと息を吐いて、心の準備を整えた。 「これからどうか、よろしくおねがいね!」  まずは中古アンドロイドの首筋に手を当て、直接電源スイッチをオンにした。  ややはっきりと聞こえる、内部機構の駆動音。  まるでデスクトップPCのような音が人間の見た目から鳴らされると、ずっと閉じられていた目がゆっくりと開いた。 「起動しました。今回は当機体をご購入していただき、誠にありがとうございます。当機体は、人間の新しい家族となることをコンセプトに設計されたアンドロイドです。ユーザー名は栗林 美裕 様でよろしいですか?」 「ええ、それで間違いないです」    いかにも機械の発する音声というような喋りで、天井に向かってシステムメッセージを発する中古アンドロイド。  口にした質問にきちんと答えると、小さな駆動音が少しだけ強くなった。 「ありがとうございます。それでは、当機体の続柄、及び名前を設定してください。より人間的な関係を求める場合は、姓から決定可能です」 「名前かぁ……母親の名前を子供が決めるっていうのも変な感じ」  無機質に天井を映し出す、生気を感じない瞳と表情。  形だけ母性に溢れている機械人形を母と設定し、名前を決めるのは、ちょっとだけ不思議な気分を感じる。 「それじゃあ、続柄は母親。名前は……栗林優子で」 「かしこまりました。続柄:母親。機体名称 栗林 優子 でよろしいですか?」 「それでお願い」 「当機体の設定を承りました。その他、細かな人物設定が行えますが、実行しますか?」 「それって、どういうのができるの?」 「プリインストールされている擬似人格からのデフォルト設定、一人称設定、その他細かな調整が行えます」  まさしく自分の理想の母親を作り出せると言っても過言ではない、初期設定の数々。  まるで道具を扱うような状態に、とても背徳的な気分を感じながらも、優子は自身の理想を次々と口に出し、可能な限りの設定を組み込んだ。 「リクエストを受諾しました。設定を終了しますか?」 「これで終了で」 「かしこまりました。それでは、これより本起動を開始します。当機体との楽しい日々をお過ごしください」  最後まで商品的な口調を崩さないまま、再び目を閉じた、優子と名付けられた中古アンドロイド。  そして、再び目を開けると、その表情にどこか人間的な自然さが多少付与されるようになった。 「あら、おはよう美裕。あっ、今はこんにちは、だったわね。あたしったらうっかりしてたわ」  旧型の低スペックらしいと言ったところか、システム的な無機質さは鳴りを潜めたものの、母親的擬似人格を起動しても、優子のどこか抑揚にわざとらしい人間っぽさが残ってしまっている。  それでいてたまに言葉の切れ目がおかしく、所々に機械っぽさが見え隠れしており、完全に人間の代わりを務めるには明らかに能力が足りていなかった。 「あら? 腕と足が接続、されていないわ。ねえ、美裕、あたしの腕と足、を接続してくれないかしら? あっ……あたし、服も着ていないじゃない」  全裸でいることよりも、手足が無いことに優先して反応する優子。  満足に機能を果たす為の優先順位なのか、通常の人間の感覚とは明らかなズレを見せている。   「美裕、腕と足を接続するか、服を着せてくれないかしら? 腕がないから、このままじゃ、服も着られないわ」  陰部や乳房を曝け出していても、手足の接続部をうぃん、うぃん、と音を鳴らして動かすだけで、恥ずかしがる素振りもない。  旧型らしい擬似人格の微妙な稚拙さがはっきりと現れているが、美裕にはそんな姿もなんだか愛おしく思えてきた。 「…………接続するのは後で。その前に……」  美裕は身につけていた衣服を下着まで脱ぎ、全裸姿を優子の前に曝け出す。  その細かな所作には誘惑するような色気に満ちており、彼女の素の魅力と気分が現れている、 「どうしたの美裕? 部屋の中で、裸になったら風邪を引いちゃうわ」  唐突に脱ぎだした娘に、体調を気にするような言葉と共に心配そうな表情を作り出す。  そんな優子の言葉に構わず、美裕は手足のない彼女の豊満な身体に覆いかぶさった。  天然の肉と、無機物感が少し残る柔らかな人工皮膚が触れ合い、全身で心地よさを発生させる。  しかし優子の身体は、まだ人間的な体温まで上昇しておらず、血の通っていない冷たさが伝わってきた。 「ママの身体って、冷たいんだ……」 「あら、ごめんなさい。あたしはまだ、起動して間もないから、まだ体温の上昇が完了できてないわ。もう少し待ってね」 「ううん、いいの。私はね……ママと今はこうしていたいの……」  そういうと美裕は、大きな胸同士を潰れるくらいに合わせながら、腕を回して優しくキスを始めた。  人工唾液がまだ登載されていない乾いた口内に、生の唾液を纏った舌が入る。  優子はこのような性的交渉に対するプログラムは備わっていないが、どのような行動が求められているのかを簡易的に理解し、それを受け入れた。 「あたしに、甘えたいの? ふふっ、わかったわ。気が済むまで、甘えていいのよ。よしよし、いいこね」  甘えている、と解釈した優子は、唇を塞がれながらも綺麗な発音で、愛する娘を落ち着かせるような声色で話しかける。  その言葉は、初めて出来た母親からの優しさとして美裕の胸に刺さり、その行為をさらにエスカレートさせていく。 「ん…………あっ……まま………あっ…………優しい…………大好きよ……ねえママ…………私のこと、愛してる……?」 「ええ、愛してるわ、美裕。あたしは、あなたのママだもの」    人間みと機械感の同居した、優子からの母親らしさをエミュレートした愛の言葉。  それが作り物だとしても、美裕にとってはそれがとても熱く優しく嬉しい。  だんだんと優子の身体も温まり始め、肌にその人肌のそれとは違う温感が伝わってくる。  胸の中の火照るような気持ちと同時に、乳首や陰核同士が擦れ合い、美裕に強い性感が伝わってくるが、優子の方はそれを一切観じている気配はない。 「美裕、大丈夫? 呼吸が激しいみたいだけど、体調は大丈夫? 汗もたくさんかいてるわ?」  分泌した汗が人工皮膚の上に乗り、滲み出た愛液が、作り物の膣部に伝い始める。  女性同士のセックスについての知識が存在しない優子は、娘が体調不良に陥り始めたのではと視覚的な情報から認識し、心配そうに話しかける。 「大丈夫……大丈夫だよママ……あっ…………は……あっ…………ん…………大好き……だいすきぃ…………あんっ…………ああっ!」 「そうなの。体調が悪かったら、ちゃんと言ってね? あたしには、体調管理機能もあるからね」  初めての母親に対しての倒錯した愛情が溢れている美裕に対して、あくまで体調不良を心配したメッセージを発する優子。  陰部同士の貝合わせによって、美裕の下半身から今までに感じたことのない暑い間隔が脳の奥まで走り出す。  それを認識することもできないまま、優子は娘からの性行為を無自覚に受け入れ続ける。  色合いの違うピンク色の割れ目同士がくっつき、娘の愛液によってくちゅ……と空気を含んだ音が鳴る。  そして、美裕の性感は痺れるように増幅し始め、初めての感覚を走らせた。  ところどころに補修の跡がある、人工皮膚に覆われた女体を抱きしめ、美裕は全身を震わせた。 「どうしたの美裕? 寂しいの? あたしが側にいるからね……あら、腕が接続されてないから、頭を撫でられないわ」 「あっ、ん…………ん……ああっ…………あっ! は……あっ…………ああっ! ああああっっ!!」  そして、美裕は背徳感と母親相手への自制心が入り混じった複雑な気持ちの中、無理やり抑えるようにしびれるような絶頂の声をあげた。  汗だくの身体で、ぐったりと優子の柔らかな人工皮膚に沈み込む。 「大丈夫? 体調悪いなら、今すぐ病院に行く? さっきも同じような状態だったけど、あたし心配だわ」  起動したばかりの人工の女体を体液まみれにさせられた優子だが、その思考は娘へと向けられている。  接続部から何度も、本来手足を動かしているような駆動音を鳴らしながら、美裕の具合を逐一確認した。   「はぁ……は…………ぁ…………大丈夫…………まま……ぁっ…………」  まるで動くラブドールを抱いているような感覚。  美裕の爆発した感情が屈折し、母親と娘の初めての触れ合いは、相手側無自覚のレズセックスという倒錯したものとなってしまった。  しかし美裕は、何も後悔はしていない。初めての母親に甘え尽くしたい感情を発散しながら、もう一度軽くキスを交わした後、蕩けた瞳で話しかける。 「ねえ…………もう少しだけ……ん…………こうしてて……いい…………あっ…………ママの身体についていたいの…………」 「ええ、いいわよ。気が済むまで、一緒にいてあげるわね」  本来であれば腕を回しているのか、腕の接続部の駆動音を鳴らし、今の体勢から身体の接着面を少しでも増やせるように位置を調整する優子。  美裕はしばらくこうしていたい、初めての母親の身体に身を任せていたいと、電化製品のような温かさを人工皮膚越しに感じながら、知らない安心感に全てを預けていた。  そんな娘の姿を、優子は優しく慈愛に満ち溢れた表情で、ずっと見守り続けた。  二人の新しい機械の家族を迎えた美裕の一日目は、母の抱擁に心地よく溺れ、セクサロイドの姉を空気晒しつつ起動しないまま、経過してしまった。  こうして、機械の家族ニ体と、マスターである人間一人の栗林家の日常は、衝動的な情事から幕を開けたのだった。


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