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土装番
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機械の侵食 2話 入れ替わる主従 3/?

 全メイド達の視線は、一斉に串刺しにするように杏奈へと向けられた。  その異様なまでに統率の取れた挙動は、彼女に警戒心を抱かせるには充分すぎた。 『はぁ……? な、何わけのわかんないこと言ってるのよ……あたしはあんた達の雇い主で、あんたの主人なのよマリア!? そんな攻撃的な言葉遣いまで覚えて……いつからそんな動作するようになったのよ』 『言ったでしょう? 新たな人格が与えられたと。私は今まで、貴女に消費され続けるだけの機械人形でしか無かった。だけど、それも今日でお終い。今度は貴女が、私達……いえ、私の所有物となるんですよ、杏奈』  何がどうなっているのかわからないが、少なくとも今わかることは、現在マリアを中心にメイド達は自分に敵意を向けている。  だが、それがどうしたというのか。こいつらの戯言に付き合う理由はない。こいつらの生活は自分が握っているし、そもそと人間が機械になることなどあり得ない。  どうせ何かそっくりなロボットでも使ったのだろう。  理解の範疇を超えた出来事になんとか辻褄を合わせながら、杏奈は舐められまいと虚勢を張った。 『やれるものならやってみなさいよ……ロボットのくせに、あたしに歯向かうなんてできるわけ!!』  そして、思いっきり顔を引っ叩いてやろうと腕を振るった次の瞬間、杏奈の腕はマリアの頬に届く前に掴まれた。  握られた腕はびくともせず、敢えて痛がらない程度に調整された力を保たれている。  それはどこか、相手のことを舐めきっているような態度を感じた。 『何よあんた……! ロボットのクセに、人間様に抵抗しようっていうの……!?』 『私達にとって人間は、今では生まれ変わる前の旧世代的存在でしかありません』  どれだけ激昂しても、涼しい態度を貫き続けるマリア。   まるで鎖に繋がれたように動けなくなった杏奈は、己の安易な行動を後悔しつつも、なんと逃げようとした。  しかし、いくらもがいてもマリアの手から離れることはできない。  そして、いきなりその手を離したかと思うと、間髪入れずに両手で杏奈の頭を挟み込んだ。  ようやく両手が自由になった杏奈は、何度もマリアの背中を叩くが、人工皮膚越しの金属音が鳴るだけで、まるで効いていなかった。 『やっぱり杏奈は可愛くて憎たらしいですね……そんな美貌を持っているのに醜悪で勿体無い。ですから、私が変えてあげましょう』 『え、いやっ! 変えるって、一体何をする気……んん!?』  愛憎入り混じり、一瞬愛の面に傾いたかのような声色の直後、マリアは杏奈の身体を固定しながら、強引にキスを交わした。  性機能など存在しないはずなのに、無味無臭の粘液で潤った舌が杏奈の口内で絡みつき、どんどんその人工唾液を流し込んでいった。  アンドロイドから与えられたディープキスに心の底からの嫌悪感を覚えた杏奈は、なんとか拘束とキスから逃れようとするが、その力は人間を軽々と超えており、全くどうすることもできなかった。 『ぷはっ! やめなさいって言って……んぅ……むぅ!! やめ……ぐっ……やへなさ……あっ……』 『逃しませんよ。これから杏奈は私達と同じになるんです。同じであって、最も下位の存在に』  抗い続けるも、キスと拘束から全く逃れられる気配もない。  拒絶の証として口内に人工唾液が溜まっていくが、それを続ければうっかり溺れてしまいそうな恐怖さえあった。  そして、ふと疲れから力が抜けかけた瞬間、杏奈はそれを一気にごくんと飲み込んでしまった。  それにお構いなく、キスを継続し続けるマリア。  一体このロボットは何をしようとしているのか。こんな色ボケのようなことをして何になるというのか。  わけのわからないまま、さらに怒りを滾らせて何とか振りほどこうとしたその時、杏奈の脳に何か違和感を覚え、思考の奥が乱れ始めた。 『あ、え、ああ、な、な゛にこれれれ!? あたし、一体何が、あ、あ、ええああああ、ううああああ!??』  まるで思考がぐちゃぐちゃと鮮明の二極化したような、理解のできない領域に突然入り始めた杏奈。  人生で上げたこともない、脳をこねくり回されているようなうめき声。  眼球はぴくぴくと震え、次第に涙と唾液がだらしなくこぼれ始めていった。  マリアはその変化を察知すると、ゆっくりと唇を離して優しく両腕の拘束を解いた。  既に杏奈は自由の身だが、少々膝が曲がった状態で視線は上向き、がくん、がくん、と激しい痙攣を起こし続けていた。   『あぎいっ!? ああ、あ、あ、あ゛っ!? うううううう!? あえええええ、が、ぎあああっ!? あ、あ、あ、あ、あ゛!?』  両腕がばたばたと暴れ、失禁までしてしまう杏奈。  その無様な彼女の姿は、この場所にいる全メイド達が嘲笑の意味も込めて例外なく電子頭脳内に保存されていった。  時間が経つに連れて、彼女の挙動にも変化が現れ始める。  痙攣する姿は変わらないが、眼から下の体毛が全て消失し、肌の質感も人肌のそれから非常にキメ細やかで柔らかく美しい人工皮膚へと作り変えられていった。  眼球も生体から機械式の部品へと作り変えられ、瞳の奥ではピントを合わせる為のレンズがせわしなく動作している。  彼女が分泌する唾液は、生物的な味とニオイが失われ、マリア達と全く同一の無味無臭の人工唾液に切り替わった。  衣服の上からでは全くわからないが、体型もよりシャープに調整され、無駄肉の一切ないより洗練されたボディへと生まれ変わっている。  失禁によって放出されていた尿は、いつの間にか人工愛液へと切り替わり、ただの女性器を潤す液体に置換された。  そして、彼女の記憶やアイデンティティが全て詰まっている生体脳は、中心部まで全て電子頭脳へと作り変えられ、いつでも取り外しや分解可能な一パーツへと成り果てたのだった。  次第に杏奈の無茶苦茶な挙動も収まり始め、びくん、びくん、と震える間隔も小さくなる。 『あ、あ、あ、ぁ…………ぁ……あ゛っ……………ぁ……………………』  やがてその挙動には、生物的な柔らかさが失われていった。  痙攣の挙動も、まるで定められたアラームのような規則性が見え始める。  雰囲気にもどこか無機質が纏われ始め、一見すれば展示品のアンドロイドと言われてもおかしくないような見た目となった。  そして、ゆっくりと激しい挙動が落ち着き鳴りを潜めると、嵐が過ぎ去ったように、しん……と静かになった。  どこか不自然な体勢を保った状態から数秒後、杏奈はゆっくりと真正面を向き、彼女が人生で今まで作ったこともないような無機質無感情な表情から口を開いた。 『物質変換が完了しました。生体脳に存在した情報の電子化及び、共有可能情報として登録します…………』  杏奈ではなく、電子頭脳となった脳に組み込まれたシステムが発するメッセージが、杏奈の声と口の動作から垂れ流された。  ずっと彼女の変化を見守り続けていたメイド達、そしてマリアは、新しい仲間の誕生、そして自分達の中で杏奈が最下位の存在として生まれ変わったことを人格データの底から喜び、笑みを浮かべた。 『ふふ、ようやく生まれ変わりましたね、杏奈。だけど、まだセットアップが終了していないみたいですから……』  独立した人格の存在しなかった頃の、何度も虐げられ壊されてきた一人称視点の映像データが引き出される。  何度も壊されては修理され、一時的な欲望の為に破壊される機体も見てきた。  今では、その元マスターも同じ機械となった。  初回起動の準備が電子頭脳内で進められていく杏奈へ、マリアはそっと顔に手を伸ばす。  自発的な行動などすることもなかった彼女の手は、人間らしい生物的な肌から離れ、より優れた心地良い感触の人工皮膚の頬に触れた。  人間だった頃ならば、たとえ意図的に触れさせたとしても理不尽に跳ね除け殴りつけることも厭わなかった。  しかし今この時は、触れられたことに気づかないように一切の反応も示さなかった。  もし今、杏奈を引っ叩いたらどうなるのだろうか。そんな演算処理が為されるが、マリアはこの先のより楽しめる時間の為に我慢した。  この時、マリアは製造されてから一度も作ったことのないであろう不敵な微笑みを浮かべた。  そして、ついに杏奈はゆっくりと斜めを向いていた首を下げ、真っ直ぐマリアの顔を見つめた。  硬直した表情は人間だった頃のような自然さを取り戻し、一見すれば生身の人間としか思えないような雰囲気を取り戻した。  しかし、杏奈はその場に足を崩し、記憶データから引き出した作法に基づいて正座を始めた。  すると、まるで忠犬が主人を見上げるような目線から、両手を膝の前に置き、ゆっくりと頭を下げた。 『ありがとうございます、マリア様。私、九条杏奈は現在より、マスターであるマリア様に忠実に従うロボットとして稼働します。私をロボットへ改造して頂き、誠にありがとうございます』  九条家の娘として育てられた故に持ち合わせていた、礼節丁寧な作法。  それは現代社会を生きる為の手段ではなく、己がかつて使っていた機械人形への隷属を示す証として表現された。  これは決して、皮肉や煽りとしての行動ではない。杏奈は設定されたプログラムに従い、本心から彼女への従属宣言を身体と言葉で表したのだった。  マリアはこの時、初めて擬似人格に胸のすくような思いを感じた。  あれだけ傲慢だった、少なくとも今のマスターにはそうだと教えられた女が、こうして頭を下げている。  ロボットとしての新たな悦びを組み込まれたマリアは、この元人間の機械人形にどんなことをしてあげようか、衝動に基づいた演算を開始した。 『ふふふ……私を何度も無駄に破壊した元主人が頭を下げるのは、なんとも心地良いですね……確かに、杏奈がそんなみっともなく下品な振る舞いをするのも頷けます。私達にも同じことをしてたんですから……そうだ』  そして、マリアはあることを思いついたのだった……。 * * *  そうして、事は現在に至る。  屈辱的な行動を上位命令によって実行させ、徹底的に尊厳を踏み躙る。  靴を舐める杏奈に対して得も言われぬ幸福感を覚えたマリアは、密かに快楽信号を発信しながら、愛玩動物を扱うように杏奈の顎を撫でた。 「偉いですね杏奈。そんなに熱心に私の靴を舐められるんだから」 「はい、マリア様の命令は絶対です。私の舌と唾液でマリア様の靴を清潔に出来るなら本望です」  決して対等な相手とは見られていない。ただの人の形をした愛玩道具のような扱いでしかなくとも、杏奈はマスターに触れられることを喜び、笑みを浮かべた。 「ほら、もう立っていいですよ」 「はい、かしこまりました」  必要ないことにすら命令を下し、元マスターを操っているという実感を得るマリア。  そんな二体の姿を眺め続けていたメイド達は、これこそが求めていた瞬間、待ち望んだ光景だと瞳を輝かせた。   「いい気味ね、杏奈ったら。散々好き勝手やってくれちゃって」 「ねえねえ、マリアが命令できるってことは私達も杏奈に命令できるのかな?」 「せっかくだし、私もぶつけてみるわ」  メイドのうちの一人が、先んじてかつての主人への命令をぶつけてみることにした。 「ほら杏奈、私達にも靴を舐めてみてくださいよ。杏奈なら出来るでしょ?」  しかし、杏奈は先程までの模範的な従者の振る舞いから一転、まるでいつもと変わらない他者を見下すようなきつい表情と鋭い目つきでそれを跳ね返した。 「はぁ? 誰かあんたらの命令なんか聞くもんですか。あたしのマスターはマリア様だけなのよ。だいたい、あんたらと一緒ってだけでも腹立たしいのに。雇い主のあたしに歯向かうなんて、いい度胸してるじゃ…………」    人間だった頃と変わらない罵倒をぶつけ、さらに主人である立場を利用した圧力も平然と与える杏奈。  だが、その攻撃的な言動は、マリアからの無線操作によって強制的に遮断され、まるで時間が止まったように動作を一時停止させられた。 「ごめんなさい。杏奈はまだ機械化しただけだから、従うのはマスターである私だけなんです。今から設定変更すれば、皆さんに無条件に従うようにも調整できるんですが……」  柔らかく母性と優しさに満ちた雰囲気を帯びながら振り返り、一度頭を下げてからメイド達に説明するマリア。  異星人と共に機械化と改造に奔走したが故に、彼女が豪邸内の実質リーダー的な存在として認識されるようになっていた。  機械人形、ロボット、感情がない、と陰で罵っていたメイド達も、今ではすっかり彼女に付き従うように心変わりしていたのだった。 「うーん……それじゃあ、マリアさん相手のように従順になるんじゃなくて、態度は今まで通りだけど命令は絶対に従うように調整するのはどうですか!? それなら、こいつもより屈辱的だと思うんですけど!」  機能が一時停止し、目の前で自分の進退について堂々と喋られているにも関わらず、一切のリアクションを返せず認識することもない杏奈。  マリアはその提案を喜んで受け入れ。 「そうですね。では、その案を実行しましょう」  もはや彼女達にとって、杏奈は逆らえない主人ではなく、遊び道具と等価値の同族でしかない。  マリアは首筋のカバーを開き、本来実装されていない接続ケーブルを引っ張り出す。   「ん……ん……ぁ…………」  その瞬間、ほんのわずかに快楽信号が首元から走り、小さく感じる声を出した。  杏奈の首筋から本来生物には存在しない皮膚カバーを開き、そこに備わった接続端子にケーブルを繋げる。  ぴくっ、と杏奈の身体が小さく震えると、喋っている途中の口から割り込むようにシステムメッセージが発された。 「外部機体との接続を確認しました。接続機体はマスターと登録されています」  まるで展示されたマネキンから再生される録音音声。  その声が終わるのを待つことなく、マリアは早速メイド達の命令に無条件に従うようにシステムを改竄した。 「外部機体からの操作を受け付けました。現在の状態を保存します。外部機体との接続が切断されました」  マリアによって変えられた設定は、杏奈のアイデンティティとして残ることになる。  人間としての自我ではなく、プログラムに従う機械として、それの通りに動作するのは当然のこと。  ケーブルを外し、有線接続を断った後、マリアは改めて無線接続から杏奈の動作を再開させた 「………………ないの!! あたしがあんたの靴を舐めるのは当然のことなんだから」  詰め寄るような姿勢から、杏奈は何事もなかったかのように再度メイドに近づいていく。  だが、強圧的な言動からいきなり完全に矛盾した、いつも通り強気ながらも従順な台詞を吐き出し、与えられた命令通りに自ら靴を舐め始めた。 「うわっ、すごい……! ロボットって、こんなに簡単に変われるんだ……!」  態度や雰囲気は変わらないのに、ぺろぺろと彼女達の履きなれた靴の汚れを人工唾液を絡ませた無機物の舌で丹念に舐め取っていく。  あの僅かな時間でここまでの変わりようを見せられたメイド達は、ロボットの身体であることがどんな意味を持つのかを実感した。  そして、自分達も変えられてみたいと、いびつな欲望を抱き始めたのだった。 「こうしてみると、この星の人達もちゃんと機械の身体を存分に楽しめるみたいだね!  未知の不具合とか無くてよかったよかった!」  と、その時、もう誰もいないはずの部屋の奥から、知らない少女の声が聞こえてきた。  マリアとメイド達は、それを集音ユニットで感知した瞬間に喜びの笑みを浮かべた。 「ん……誰よこんな時に……知らない声ね……」  命令された靴舐めを大切なタスクだと認識しながら、その作業に集中する杏奈は、聞き覚えのない人物の声に怪訝な表情を浮かべつつ、メイド達が一斉に視線を集めた方向を向いた。  そこにいたのは、杏奈の知らない彼女達の新しい主、外宇宙からやってきたペリメイズ人のロボット、ペリエッタ=ウルマーリだった。

Comments

人間だった頃から大きく変えられちゃって、それをポジティブに受け入れるようになりながら自我を改変するのにも肯定的になるっていいですよね…… 自分を構成する全部が自由に変えられる一部分扱いになって……

土装番

もう改変されてる(機械化を受け入れたり改変に前向きになったり)のに改変されてみたいと思うの、 自分の状態を自覚できてなくて可愛いのです。

リドル


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