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土装番
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機械になった女はみな愛玩人形 1話先行公開版

 人類とアンドロイドが共に暮らす世界へと変質し、肉体を捨てて電子情報と金属部品の集合体へと生まれ変わる機械化技術が確立され一般にも普及するようになった未来の時代。  人々の世界は新たなステージへと進み、人と機械の境界もあいまいなものとなった。  だがそんな時代であっても、未だ犯罪の頻度や凶悪さはかわらない。  罪を犯してでも、どんなことをしてでも、自分の目的の為に平気で他者を被害を及ぼす者も存在する。  これは、一人の男が自身の欲望に身を任せ、全身機械化を行った女性の人間だった過去を踏みにじるような行為に身をやつしていく物語である。 * * *  とある島国の中心、無数の生身と機械の人型が行き交い入り乱れる首都京東。  数十に分かれた区のうちの一つ、T区の賃貸物件や住居がいくつも立ち並ぶ一角。  その中のとあるマンションの一室に、ある男が住み着いていた。 「あーーーーーー……もうマジでなんなんだよもう……イライラしっぱなしだっつうの……」  彼の名前は和田正宗。ある会社に務めている会社員である。  彼自身はそれなりに優秀ではあるが、そのオフィス内で発生する人付き合いや、体面での会話が非常に鬱陶しく感じていた。  その原因は、口うるさく面倒な上司にあった。 『どいつもこいつもまったく……いいか? ノルマ以上のことが出来てようやく一人前なんだ。わかってるんだろうな?』 『………………はい』 『バカにしてるのか? もっと声を出して宣言するように返事しろ!!』  仕事場で日常的に発生する怒鳴りといちゃもん。  血管でも切れてるのかと言いたくなる程に仕事場の空気は悪く、常にそれの叫びが毎日のように聞こえていた。  それ故に、正宗のストレスは非常に大きくストレスを蓄積していた。 「あんのクソ野郎がよ……静かにするって思考ができねえのかよ……あーーーーーーーーーームカついてくる!!」  日々溜め込んだストレスを、自宅で大声にして発散しようとするが、彼の胸中を埋め尽くす苛立ちはそれだけでは払拭しきれない。  どうにかこれらを晴らせないだろうか。もっとスッキリするような、楽しめるような出来事は無いだろうか。  ムカつきの火を焚べながら考え続けたその時、彼の脳内にある一つの事が浮かんだ。 「…………そうだ、前々からやってみたかったんだよな」  正宗は立ち上がり、リビングから自分の部屋へと移動する。  電気をつけると、そこには無数の電子機器や工業道具、そして人間の一部のようなパーツがしっかりと整理整頓して設置されていた。  彼は仕事とは別に、プログラミング技術や機械工学などの先端技術を趣味で研究し学んでいる。  特に興味があるのは、アンドロイドのような人型の機械。ジャンク品や不法投棄された機体を分解しては自分で組み立て、自身の操作が受け付けるかどうかなど、様々な実験を試していた。  そんな彼には、兼ねてからとても気になっている事があった。   「なんかもう、色々どうでもよくなってきたしな。一回やっちまうか」  それは、人道的にもしてはならない行為にあたるだろう。  しかし、極度の疲れと苛立ちが彼のタガを外し、実行に移させたのだった。   「早速明日にでも試してみるか……」  彼の目の前にある机には、市販の物を改造した無線装置が置かれている。  それは、アンドロイドの電子頭脳に強制的に無線接続し、一時的に設定項目に介入することが出来る代物だった。  どう考えても危険な代物であるが、彼はそれを自作していたのだ。  そして、その対象はアンドロイドではない。 「それからは俺の自由に……成功したらいいなあ…………」  疲労が乗って、悪さが滲み出る笑いがこみ上げる正宗。  蓋をされていた彼の欲望が、この日ついに噴き出したのだった。 * * *  次の日の正午過ぎ、正宗が済むT区の人気のない道場にて、一人の女性警官が不審な動きを見せた男に話しかけていた。 「そこの貴方、一体何してるんですか? 今慌てて何か隠してましたよね? 見せていただけませんか?」 「な、なんにもねえよ! 別にお前に見せる理由なんてねえだろ!」 「そういうわけにもいかなくて……最近違法薬物の痕跡が多く見られてるんです。あ、私はこういう者です」  女性警官は手のひらを上にかざすと、何もない空間にホログラム映像が投影され、自身の警官としてのプロフィールが表示された。  彼女の名前は桃井架純。  ややツンツンとした黒のショートヘアーに、大きな瞳に活発な雰囲気を帯びた可愛らしく綺麗な二十代前半頃の顔立ち。  制服の下からでも山が浮き上がる豊満な両胸が目立ち、本業がモデルかと思わせる程に非常に整ったボディライン。  スラッとした長身に、しっかりとしていながらも造形美を感じさせる細さの四肢。  まさしく誰もが見惚れる美女という言葉が似合う女性警官だった。 「貴方が一瞬隠したものですが……最近発見された薬物入りの物品に非常にそっくりでした。私がたった今行った照合検査でも一致しています。見せていただけませんか?」  架純は一年前までは生身の人間であり、普通の警察官として働いていた。  しかし、彼女自身がより警察官として、どんな事件にも対応できるようにと自ら全身機械化手術を受け、生身からの卒業を果たした。 「チッ……」 「こら! 待ちなさい!」  架純が確認していた情報から、言い逃れが出来ないと判断した男は、舌打ちをしながらその場から逃げ出した。  絶対に逃がしてはならないと、架純は即座に走り追いかけた。  まるで未来からやってきたアンドロイドのような、非常に完璧なフォームで走り、人間には出せない速度で胸を揺らしながら一気に距離を縮めていく。  もう追いつかれるのも時間の問題。架純が手を伸ばした次の瞬間、男は振り向き様に裏拳で殴りかかってきた。 「ぐうううっ……! いってぇ……」  しかし、架純はそれを難なく片手で防いだ。  さらに、全力で腕を振るったことで、人工皮膚に覆われた金属の手に諸に命中。壁を殴れば痛いのと同様に、己の攻撃がそのまま返ってきてしまった。 「全身機械化してる私に生身で叶うわけ無いでしょ、ほらやっぱり……同じ薬物。薬物所持で現行犯逮捕ね。あと公務執行妨害も」  こぼれ落ちた薬物入りの袋を手に取り、スムーズに拘束し連絡する架純。  機械化したおかげで、様々な作業が簡素化した上に肉弾戦も男に対抗できるようになり、架純の仕事ぶりは体感的にも非常に良くなっていた   「クッソ……ラブドール風情が……」 「犯罪者っていっつもそういう下品な言い回しするんだから。それも聞き飽きました」  今の仕事に誇りを持ち、機械の身体に人間だった頃と変わらぬ意志を宿す架純。  しかし、そんな彼女にこの日、思いもよらぬ出来事が降りかかることとなる。    すっかりと日が落ち、人通りも一気に少なくなった22時頃。  視界が悪くなり、人の気配が消えた今だからこそ、犯罪の気配は平常時よりも強くなっていく。  架純はいつものように、一人夜間パトロールへと向かっていた。 「今日も変なの現れないといいけどね」  架純の眼球ユニットは、街灯などの明かりが少ない地点でも赤外線センサーではっきりと確認できるようになっており、同時にリアルタイムで視覚映像を保存する監視カメラ的役割も担っている。  それそのものが証拠映像となる為、彼女自身の存在は非常に大きいものとなる。  しかし、ただパトロールしているだけではどうしても暇になるので、彼女は何もない時は電子頭脳内でニュースを読んだり、動画サイトに接続して楽しんだりしているのだ。  真面目に働きつつも、機械の身体の便利さを存分に享受する架純。  と、その時、彼女の背後から何者かが近づいてくる足音をキャッチした。 「…………私に向かってきてる?」  耳に備わった集音ユニットが、音の発生源や方向、指向性を正確に捉える。  架純はその場ですぐ振り返ると、そこには私服姿の一般男性が携帯端末を持ったまま近づいてきていた。 「あの、どうかしましたか?」 「ああいえ、特に用があるというわけではなくて。ちょっとぼーっとしてたかもしれないです」 「この時間だと、何が起こるかもわからないから気をつけてくださいね。一応身分証明書を見せていただけますか」  男はスムーズに、まるで予めこうなることを予見していたかのように提示してみせた。  そこには、和田正宗という名前が書かれていた。   「すみません、もし宜しければ、そちらの荷物の方も拝見させてください」 「ああ、いいですよ」  正宗はおとなしく、手に持っている小さなカバンを手渡す。  中身は財布とバッテリー以外には何もなく、怪しい物品は何一つ入っていなかった。  しかしこの時、架純のCPU使用率はなぜか異様に上昇し、動作に負担がかかり始めていた。 「う……どうぞ、ご協力ありがとうございました」 「ええ、いつもご苦労さまです」  重石がついたように、全体の挙動が若干ゆったりとしたものになった架純。  軽く頭を下げている間にも、彼女の処理能力はなぜだか急激に低下していったのだった。 「じゃあ、そろそろ俺と行きましょうか」 「えっ、すみません、何を言っ……て…………」  そして、正宗の口から出た妙な言葉。  架純は一瞬わからなかったが、その意味をすぐさま理解することとなる。 「あれ、どうして……? 手足が動かない……!」  頭を下げた後に、架純は直立不動の姿勢を一度だけ取った。  そのポーズから、鍵をかけられたかのようになぜか全く動けなくなってしまったのだ。  そんな彼女に対して、正宗は品定めするような目線を送る。 「やっぱエロいよな……たまに見かけてたけど、ほんと美人だと思ってたんだよ」 「まさか、これは貴方の仕業ですか。一体何を……!」  架純は会話で時間を稼ぎつつ、外部へのメッセージを送信しようとしていた。  しかし、正宗はそれを見越し、先に予め彼女のネットワークを遮断し、その上で四肢の信号を制限していたのだった。 「わかってるよ、そう話しながら連絡しようとしてるの。まさか、ここまで上手くいくとはな。アンドロイド向けでも思ったより結構効くもんだ」 「ぐ……貴方は、何をしようと……このままだと、どれだけの罪に問われるか……」 「まあ、これだけ上手く行ったんなら俺はどうせ無罪になるよ。これからあんたには俺の玩具になってもらうんだから」  そう言いながら、制服の上から胸を弄り、顔を撫でて人工皮膚の柔らかな感触を堪能する。  露骨に嫌がる顔を見せ、目線で敵意を表す架純は、正宗の不穏な言動にも怯むことはなかった。 「何をする気なの……? このままじゃ」 「それはこれからわかるよ」 「今すぐにでもハッキングを解…………」  なんとか自前のシステムで原因を探り、状態復帰を試みる。  その時、架純の敵対心に満ちた表情は突如、魂が抜けたような無表情になり、視線は虚空へと向けられた。 「…………外部操作により人格エミュレートが停止しました。現在待機状態です」  まるで市販品のアンドロイドのような感情のない声が、同じ女性警官の口から発せられた。  動かなくなったのを確認すると、正宗は彼女の顔をべたべたと触り、閉じられた口を強引に開いて口内を指で掻き回した。  しかし、架純は文句一つ言う気配はなく、ただ黙ってその侵略行為を受け入れた。 「よし成功だ! これでひとまず一時的には俺のモノと」  正宗が一人で開発していた機材。それは、既存の携帯端末を改造した、対アンドロイドへの無線式ハッキング装置だった。  通常の携帯端末としても使える上で、対象の機体に悟らせないまま様々な権限を掌握し、コントロール出来るようになる。  多少の抵抗はされども、最初に対抗手段をある程度封じてしまえば実質的に無防備になる。  さらには設定、パーソナリティ、システム、コード、内部データ等、様々な領域に干渉、改竄やコピーも可能となっている。  まさしく、対機械の強力なアイテムである。  正宗はそれを、元々アンドロイドに対してのものとして作っていたが、機械化した元人間にも有効なのか気になっていた。  その疑問を解消するため、そして己のストレスの発散と欲望の発露のために、こうして架純に手を出したのだった。 「さすがに一時的なモンだからな……家に持ち込むか」  携帯端末からの命令のみを受信するようになっている架純には、口頭で指示してもその通りに動作するわけではない。  その為、今は逐一端末側から命令を送信する必要がある。 「命令を受信しました。衣服の交換を行います」  架純は、警官服のままで共に行動して怪しまれない為に、正宗が自宅から持ち出した上着を迷いのない動作で手に取り、公衆便所へと向かった。  そして数分後、警官服を包んだビニール袋を持った架純。  シャツの上にダウンジャケット、下から露出した素足という、半露出狂のような出で立ち。  本来の彼女はこのような格好は嫌っているが、まるで何も感じていないかのように、一定間隔の瞬きで淡々と無表情でいた。 「これでも結構そそるもんがあるな……んじゃあ行くか」 「命令を受信しました。送信者の後方をついていきます」  正宗に合わせた歩行速度、歩幅を保ち、非常に均一な歩き方で後ろをついていく架純。  その機械的に従順な姿には、かつて人間だったという面影も、犯罪者に勇敢かつ堂々とした態度を見せる気概も全く見られなかった。 * * *  所有する車を動かし、自宅のマンションまで到着した正宗と架純。  知らない男の後をついていき、とうとうその家まで足を踏み入れてしまった。 「よし、ここまでくりゃ安心だな。女警官がそうだって話知っといてよかったぜ」  正宗は過去に、何もしていないにも関わらずいびるような警官からの職務質問を受け、挙げ句には誹謗中傷となるスレスレのラインの言動までぶつけられている。  それが彼の警察嫌いを発芽させ、結果、開発品の一番最初のターゲットを同じ警察官である架純へとぶつけたのだった。  今ですら溜飲が下がる想いの正宗。無数の機材が置かれた自室まで戻ると、ベッドに腰を落ち着けた。 「さて、そんなにボヤボヤしてる時間はねえからな。最初だし色々一気に楽しませてもらおうか」  彼女を楽しめる時間はそう長くない。元人間であるからこそ、彼女には社会生活がある。  正宗は早速端末を操作すると、直立不動の姿勢で待機していた架純の表情と所作に、一気に自然さが取り戻された。 「命令を受信しました。人格エミュレートを再開します…………ここは……現在地の確認もできなくなってる……」  復帰後、すぐに自身の使用可能な機能の確認や周辺状況を把握しつつ、状態を認識していく架純。  相変わらず四肢は動かせず、動くのは頭部のみ。外部との通信も封じられ、各種ネットワークも接続不能。  人格エミュレート停止中の記憶データにアクセスしようとするが、権限が停止され何が起きていたのかもわからない。  非常にまずい状況という他ない現状に、架純は目の前の正宗を睨みながら歯を食いしばった。   「一体、私をどうする気ですか。ハッキングして、制服まで脱がせて連れ込んで。このままではただじゃ済みませんよ」 「なに、後でちゃんと解放してやるさ。けどその前に、お前で色々と遊んでやるってことだ」 「それって一体どういう……あっ!?」  正宗は一度立ち上がり、架純の背後に椅子を用意する。  端末を軽く操作すると、彼女の足は力が抜けたように崩れ落ち、自然と椅子につく。  同時に、頭部から何かが外れるような動作音が聞こえた。  正宗が彼女の後ろ髪に手を置き引っ張ると、後頭部カバーが頭髪ごと簡単に取り外されてしまった。  外の世界へと曝け出される、桃井架純という個人の全てが詰まった電子頭脳。  そこに生身は一切存在せず、電子部品の塊がバッテリーから電気を消費し人間のように稼働している。  自身の中枢部が誰にも触れるような状態にされると、架純は虚勢を張りながらも一気に焦りの表情を見せた。 「やめなさい! 私の、私の頭を……」 「心配すんなって、まあこれが初めてだけど、気にならなくなるからさ」  露出した電子頭脳に、次々とデスクトップ端末から伸びるケーブルを接続していく正宗。  配線が繋がり、外部機器と一つになる無機質な音が聞こえる度、架純は何をされるかわからない得体の知れなさに言葉数が減り始めた。 「許されないですよ……こんな……こと……!」 「まあまあ。それじゃ早速っと」 「な、何を始め……あ、あっ……あっ……あ、あ、あーーーー……」  数本のケーブルを繋ぎ終えると、正宗は端末側から用意していたプログラムを実行した。  直後、架純の顔はまるで糸が切れたように呆け、ぽかんとだらしなく口を開きながら視線は斜め上を向いた。  同時に、まるで脳の奥深くを弄くられているような、一定の音を保っている反応の声を漏らし始めた。  その声と連投するように、彼女の身体は振り子のように小さく前後に揺れている。 「あっ、あ、あっ、あ、あ、あ、っ、あっあ、あああ」  まるで喘ぎ声のような声の出し方だが、この架純の声からは性的快楽が含んでいるようには感じられない。  全身は振られているかのようにゆらゆらと揺れ、時折大きく跳ねるような震えを起こしている。  椅子から垂れ下がった両腕はぶら下がった振り子のように振れるが、彼女の両指はまるで虫が動いているかのように乱雑な挙動を起こしていた。  両足は小刻みしているかのように床とぶつかっては、靴下の中で指が、今にも内側からそれを破ってきそうなくらいに暴れている。  著しく人間らしさを低下させられた姿は、放置していればいつまでもこのままでいそうな雰囲気。  だが当然、せっかく連れ込んだ魅力的な女性警官を放っておくわけもない。  正宗は音声認識を有効化させた上で、早速彼女への命令を下した。 「よーし……おい、お前の名前はなんだ。年齢とセックスの経験回数まで言え」 「あ、あ、あ、あ、あ…………はい! 私の名前は桃井架純です! 年齢は23歳で、セックスの経験回数は0回です!」  初めて出会った警官の同僚達への自己紹介を行うように、元気な声で自分の年齢から性行為の回数まで抵抗なく喋る架純。  眼球は上向きになっているが、頬は微妙に緩んでおり、口の動作もきちんと声と連動するように動いている。 「人格データへの干渉はうまくいってるな。じゃあ、さっきの自己紹介を繰り返し実行し続けろ」 「あ、あ、あ、あ、はい! 私の名前は桃井架純です! 年齢は23歳で、セックスの経験回数は0回です!私の名前は桃井架純です! 年齢は23歳で、セックスの経験回数は0回です! 私の名前は」  本来の正常な処理ではなく、外部機器からの強制的な操作である為、正宗が与えている命令には大きな負荷がかかる。  それでも、架純が見ず知らずの男の命令に従順に従い、壊れたロボットのように同じセリフを何度も何度も嬉しそうに繰り返す姿は、まさしく人間がただの機械になっていることを如実に表していた。  命令を与えた張本人がその場から離れたり、視界から外れても、ちょっとだけ声色や声のタイミングが変わっている以外は何度も何度も何度も同じ内容の自己紹介を繰り返す架純。  その間に、正宗は端末に触れ、新たな実験的操作を加えた。 「あまりうだうだしてられないからな。試すことはすぐに試すとしよう。次はっと……」  正宗が実行した次の操作。それは、彼女の現在のパーソナリティに、外部から新たな属性を書き加えること。  今の架純は、誰もが認めるちゃんとした警察官。正宗はそこに、専用プログラムと一緒にセクサロイドという項目を加えていった。  当然、彼女の過去にはそんな事実は無く、元々人間として産まれた為、確実に矛盾が生じる。  正宗は、それによって彼女がおかしくなる姿がみたいのだ。  早速新しい設定を適用すると、架純の身体がびくっ、と一度大きく心臓マッサージをされたように跳ねた。 「私の名前は桃井架純で……人格データへの許可されない操作が確認されました。ファイルが破損する危険性があります。直ちに中止し…………外部からの操作が許可されました」  これからの人生に希望を抱いていたような自己紹介時の明るさと、上向きになっていた眼が組み合わさったおかしな表情は、何度も口にしていた名前をいきなりぶった切って消え失せた。  誰もいない方向を向いたまま、彼女の意思でないシステムメッセージや警告を垂れ流し続ける。  だが、正宗が用意した端末の前では、彼女にインストールされているセキュリティソフトや防護は無意味。  上位権限を持っているわけでも、マスターでもない端末から、架純は無理やり人格データを改竄されてしまった。 「人格データに変更が加えられました。上位権限所持者が登録されました。変更を保存します。人格エミュレートを再開します」  一度許可されれば、機械的な挙動を以て自動的に保存されていく。  知らず識らずのうちに新たなアイデンティティや主従関係を組み込まれた架純は、再びエミュレートが再開されると、先程までの等間隔の声が収まり、少しずつ自分の状況を認識し始めた。 「ここは一体……あれ、私どうして裸になって……まだ外部への通信が遮断されたままだし……あれっ、後頭部が開放されて……えっ……なにこれ……?」  端末からの干渉が一旦解除され、思考の自由が取り戻された架純。  一体自分に何が起こったのか。可能な限りで記憶データを遡り、可能性を演算する。  そして、一人の男の存在を思い出す。 「そうだ、あの男はどこに!? もしかして、私はあの男に連れ去られて……」 「半分は正解だな、桃井架純」  わざとらしく目の前まで現れ、一度も出していないはずの名前まで呼んで見せる正宗。  強制的に人格データを操作されていた時の記憶は一時的なものとして削除されており、彼女の中にはもう存在していない。 「どうして私の名前を……! 何が目的ですか! 身代金か、それとも」 「別にそういうのが目的じゃないさ。んじゃあ簡単なこと聞くが、あんたは普段何をしてる?」  自分から喋ったことを知覚していない姿を滑稽に思いながら、正宗は新しく組み込んだ情報を引き出す質問をぶつける。 「変な質問を……私は警察官でセクサロイドです。言うまでもな……えっ、今私何を言って」  架純は何を当たり前の事を、と堂々とした声で自身のプロフィールを口にした。  発言した直後に違和感を覚えるまで、自分ではそれが当然のことだと感じてしまっていた。セクサロイドなんて事件資料でしか見たことないし聞いたこともない。対面や利用したことなんて無いのに。  自分の口から出た言葉に、架純は戦慄を覚え怯えた表情を出す。 「別におかしいことは無いだろ? お前は警官でセクサロイドなんだから。何か間違ってるのか?」 「いえ、違わないです。私は警察官でセクサロイドで、違う……私はセクサロイドじゃなくて、元々人間だし、そんな行為もしたことありません! セクサロイドだけどセクサロイドじゃないから、えっ……私、どうしちゃったの……!」  そんな記憶も過去も一切無いのに、本来の過去や認識も無視してシステムが自身をセクサロイドだと認識させていく。  プログラムによって動く今の彼女には、自分がセクサロイドであるという自認識は、いわば魂に刻まれているようなもの。  事実無根なのに、なぜか自分でもそう思考してしまう。何度否定しても、また肯定してしまう。  混乱が混乱を呼び、架純の電子頭脳にさらなる負荷がかかっていく。 「セクサロイドなら、この場でオナニーできるよな?」 「もちろんです。それくらい……やだ、私何をしようとしてるの!? シたいなんて思ってない……のに……あなた、私に一体何をしたの!?」  さらに、自覚すらできていない上位権限を利用し、正宗は真面目な彼女がこの場で実行しないような行動を命令した。  架純は一旦聞き入れたような言葉を発して、右手を股間へと持っていく。  だが、彼女自身の抵抗から腕は途中で止まり、がくっ、がくっ、と痙攣を押さえられているように震えた。 「ほら、やってみろよ。セクサロイドなんだからそういうことする為の機械だろ?」 「そ、そうで、す。私は、私はセクサロイドだ、から……私は警察官なの……こんな、こんな強制わい、せつ罪になるような……こ、ことは許せな……あ、あ、私は……こんなこと考えたくな……セクサロイドなんかじゃな、ない……」  強制的な命令と、架純の人格の挙動がバッティングを起こし、処理落ちしたようなぎこちない言動と動作が発生し始める。  唇が震え、睨むように捉えていたレンズが何度も収縮する。  空中で止まっている右手は相変わらず震えたままで、電子頭脳の負荷が伝わっているかのように全身も脊髄反射の如く揺れた。  その揺れと連動し、魅力的な大きさの乳が波打ち、官能的な雰囲気を醸し出す。  今の彼女を見ると、セクサロイドと言われて信じる者の方が多いだろう。  正宗は、過負荷の様子を見るに、時間的にもこれが最後の行動になるだろうと推測しながら、自身の右手にローションを軽く塗った。 「そろそろ最後だ。これでどんな挙動を見せるのか試させてもらおう」  正宗は、指を合わせて貫手のような形にし、架純の女性器ユニットへとそれを伸ばした。  熱くなり動作に遅延が生じている電子頭脳でもすぐに理解できる。この男は、自身のあそこに手を入れようとしているのだと。 「え、まっ……やめ……挿れて……いやぁ……いや、お願いします……そんなこと、早く欲しいの……ぁぁぁ……」  拒絶的な表情を見せるが、同時に手の挿入を求めているような誘惑的な声を出したり、頬を赤らめとろんとした瞳で、今にも殺されるような怯えた声で拒んだりと、無理やり組み込んだプログラムが非常にちぐはぐな反応を作り出す。  架純の矛盾した挙動からは、人間らしさが著しく欠けていた。  そして、正宗はそんな言葉に耳を貸さず、容赦なく女性器ユニットの奥まで手を挿し込み、内壁を引っ掻きながらかき回した。 「あああああああああ⬛@あああ$アアa*a0a、”>M%”S>="!??」  機械の処女に容赦なく入り込んでいく腕。  膣内に密集したセンサーが、膨大な信号を電子頭脳に送信し、架純の頭は思いっきり後ろに仰け反った。  嬌声と悲鳴が混ざりあったような奇妙な叫びは、途中から人間には発せないノイズだらけの音になる。  直後、まるで絶頂にでも達したかのように人工愛液の潮を噴いた。  感度は調整していないにも関わらず、こんなにも一瞬で快感に染まるのだろうか。  若干驚きながらも架純の方を向くと、彼女の表情はそれまでの感情の激動をぶった切るように、天井を視界に写しつつ無になっていた。 「…………致命的なエラ、エラーが発生し、しました。現在破損したファイルのチェック中ででで、です。人格エミュれれれ、レートが実行で、実行できmmmせん。チェック後、自動的に自動的に再起動が行わ、ます」  架純の電子頭脳は、触れれば火傷しそうな程に発熱し、排熱音が鳴り止まなくなっていた。  過剰に発生する信号に耐えられず、機械としての限界を迎え、その身体からは魂が抜けたようになっている。  口はぽかんと開いたまま、口内に溜まった人工唾液が口端から漏れて、床に雨漏りのようにしずくが落ちていく。  女性器ユニットから噴き出した人工愛液は、一度の派手な潮吹きを経た後も、何度か出の悪いシャワーのように小さな潮を放出している。  それらは彼女の意思や性感反応ではなく誤作動によるもので、ひくひくと動く割れ目の様子も合わせて、まるで性玩具のような非人間的稚拙さを見せていた。  全身をぴくっ、ぴくっ、と無様に痙攣させ、再起動までの準備を整えようとする架純のシステム。  その間にも、正宗は腕に付着したローションと変わらない人工愛液を拭き取り、今回の総まとめを進めていた。 「予想以上の結果だった……! アンドロイドだけじゃなく、元人間にも有効なのがわかって良かったけど、まさかここまで自由に操れるなんてな」  機械になってしまっているなら、それがかつて生身であっても関係ない。機械は機械。自作の端末で好き勝手出来るようになる。  その証明がされたことで、正宗の脳内では無数の計画や願望が次々と膨れ上がっていた。  意思や記憶まで操作できるとなれば、気に入った女性に手を加え、好意や主従関係、自身の存在まで何もかもカスタマイズできる。  それはつまり、機械の女性は彼の玩具も同然なのを意味している。 「だけど、こんなエロい女を手放すのも勿体ないしな。また使えるようにしておいてっと……ちゃんと記憶はこっちに移しとかないとな」  再起動時のだらしない表情のまま動作を停止させられ、無防備に操作をされていく架純。  人としての尊厳を弄ぶようなことをされたとしても、彼女のストレージにはその時の記録は残されず無かったことになる。  特定時間の記憶が無くなっていても、予め施されたプログラムによって疑問に思うこともなく、いつも通りの勤務時間を過ごしていると認識する。  機械故に都合良く記憶を弄れる上に、操作次第で彼女はそれを知覚できない。まさしく道具らしい姿とも言えるだろう。 「余裕を持って考えておいてよかったな……これでよしと」  記憶データに手を加え終えると、外したままだった後頭部カバーを手に取り、接続し直す。  人間らしい姿を完全に取り戻した架純だが、人間として不自然な状態からは人形らしさは消しされない。  こうして、元人間を対象にした正宗の実験は、一旦の成功に終わったのだった。 * * * 「………………あれ? ちょっとボーっとしてたかな」  時刻は23:37。架純はいつもの夜間パトロールコースの途中で、正常に人格エミュレートが再開された。  正宗は解析した行動パターンから、時刻と一致する地点まで移動するように命令を入力し、制服を着直させてから彼女を解放した。  道中は人格エミュレートが起動しておらず、安物や旧式アンドロイドのような冷たい無表情で歩いていく。  途中で何かしらの人物を確認した時のみ、架純としての表情や挨拶のパターンを再生し、過ぎ去った後で再び無表情に戻る。  そうして、指定された地点に到着した瞬間に、架純としての自我を取り戻したのだった。 「もうこんな時間かぁ。そろそろ戻ろうっと」  いつも通りネットワークに無線接続し、電子頭脳内で現在時刻を確認すると、架純は足をマップ上の交番の方向へと向けて歩いていった。  彼女の思考には、それまで発生していた出来事など一切介在しておらず、それどころか自身の身体にされた屈辱的な行為すらも存在していなかった。  全裸に剥かれたことも、電子頭脳を曝け出されたことも、女性器ユニットに手を突っ込まれたことも、設定を改竄されたことも。  全ては無かったことになっている。  そんなことも露知らず、架純は何も起きなくて良かった、などと呑気なことを思いながら、ちょっとだけ今日の平和を喜ぶように微笑んだ。  こうして、正宗の色に満ちた欲望の日々、そして架純達の尊厳を嬲り弄る日々が幕を開けたのだった。


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