SamSuka
土装番
土装番

fanbox


捨てられ拾われた元人間で人妻の行方 1話先行公開版

 現代から遠く離れた未来。人間社会は、同じ人類が生み出した非常に精巧な、挙動や言動までほぼ瓜二つの機械人形、アンドロイドの出現によって新たなステージへと進んでいった。  そこからそれぞれが共存し協力し合う世界が形作られたが、それでも生命と非生命という大きな壁がそこにはあった。  しかしそれも、時代と技術の進歩が生み出した機械化技術によって取り払われ、社会のステージはそこからさらにもう二段階進んだ。  人間のまま生きるもの、様々な形で自律稼働するアンドロイド。そこに、生身の一部、または全て機械に置き換え、人間だった頃の全ての経験と記憶を保持しながらアンドロイドへと生まれ変わる人々が加わり、人と機械はさらに交わることになった。  好きに生身でいるか、好きで機械になるか。それぞれの思想や事情、愛情や欲によっての新たな選択肢が増え、人間社会はより新しく、より混沌とした世に変わっていった。  これは、そんな時代を生きる、一人の元人間の女性に降りかかった波乱万丈の話である。   * * * 「ふふ、おはようあなた」 「うう……おはよう真優子」  ある国の首都圏に建てられた、とある高層マンションの一室にて、人間同士のカップルがとても仲睦まじく暮らしていた。  女性の名前は稲葉真優子。年齢は24歳。  元々は広告代理店にて働いていたが、現在は結婚し、夫となる相手と共に専業主婦として暮らしている。  朝日に照らされる、艶めく黒の額を出して横に流した黒のセミロングヘアーに、年齢相応でありつつもアンドロイドと並べるような、しゅっとしていて大人の魅力が詰まったような非常に美しい顔立ち。  薄着気味な部屋着の下から、はちきれんばかりに盛り上がる、起きたばかりの視界には非常に刺激的な乳房。  細身でボディラインがはっきりとしているその身体は、天然の曲線美と言える代物だった。  それでいて比較的身長も高く、人間ファッションモデルになれるかどうかと問われれば即座にOKがもらえるであろうスタイルの良さ。  彼女こそ理想の美女と言っても過言ではなかった。 「今日も仕事かぁ……今日吹っ飛んで有給が突然発生しながら明日になればいいのに」 「もう、そんな都合の良いことは起こらないわ。ほら、まだ時間の余裕はあるからそこで目を覚ましましょ」  そんな彼女が優しく手を触れ、声をかけて起こした男性の名前は稲葉圭吾。とある会社に勤める社員である。  真優子と圭吾は1年ほど前から交際を始め、互いに好意を高めあっていた。  圭吾は以前の会社に勤めていた際にも結婚の約束をした、全身機械化した女性の相手がいたが、いつの間にか行方不明になり傷心していた。  そこで真優子と出会い、同様に真優子側も彼のことを知れば知るほどさらに好きになり、いつしかとても強く愛するようになっていった。  そして先日、二人は婚約を交わし、念願の夫婦生活に入ったのだった。 「はい、コーヒー。これで多少は目が覚めるんじゃない?」 「ああ、ありがとう……そういえば、今日の朝飯は?」 「ふふ、リクエストしてた通り、チーズトーストとポタージュでやってみたわ。実際作ってみると、結構骨が折れるのよね……」  二人の生活は順風満帆そのもので、誰が見ても夫婦の間では幸せな空気に包まれているように見えた。  特に真優子は、心の底から愛する人と一緒にいられる時間が、分、病ですらとても愛おしく、彼の顔を見ているだけでも幸福感に溢れていた。  面倒な作業でも、それが苦にならないくらいに。  食卓のテーブルに付き、作りたてのコーンポタージュと、つい先程焼いたばかりのチーズトーストを、お互いに向き合いながら口にした。  玉ねぎやコーンを中心としたクリームスープの、塩味の土台に乗るコクのある濃厚な味わいと、とろけるチーズトーストのシンプルながら頬が緩みそうな程に美味しい味が、口の中いっぱいに広がる。 「美味しい……今日もありがとう。結構手間暇かかっただろう?」 「いいのよ。私だって好きでやってるんだから。それに……ううん、なんでもない」 「なんだ、それくらい言ってくれてもいいじゃないか」 「いやよ。恥ずかしいし……」  真優子の腕前は一級品。それも全て、圭吾に美味しく味わってもらいたい為に積んだ練習の賜物。  本来の料理の美味しさに加えて、圭吾の美味しいという言葉と食事を楽しむ姿が、彼女の幸福度を倍に、さらに倍にと引き上げ、蕩けてしまいそうな気分に誘っていた。 「それじゃ、行ってくるよ」 「ええ、行ってらっしゃいあなた。夕飯のハンバーグ、期待して待っててね」 「もちろんだよ」  そして、出勤の用意も終えた圭吾の外出を、真優子は笑顔で手を振り見送った。  彼の姿が玄関から消え、外の足音も聞こえなくなると、よしっ、と息を整えて気合を入れた。 「今日も掃除頑張っていきましょ!」  二人の大切な場所なのだから、いつもいつも綺麗にしていたい。  その分、彼女の日常へのモチベーションはとどまることを知らない。  いつもやっていることだとしても、とても楽しいのだからそれで幸せなのだ。  そうして、真優子はリビングの方へ移動し、この日の家事を改めて進めていくのだった。  このように、彼女の夫婦生活は円満という言葉を形にしたかのような、最高の日常で彩られていた。  しかし、あることをキッカケに、その日々は怪しい形へと変化を始める。 * * *    ある日の夜21時過ぎ。  大抵の場合は、あとはもう寝るだけという時間帯。  そんな時に、真優子は圭吾に対して話がしたいと、リビングのテーブルに向き合って座っていた。  二人を挟むテーブルの上には、一冊のカタログが乗せられている。  それは、完全機械化を勧める、大手企業のカタログだった 「……このカタログって、あなたのよね」 「うん。結構中身面白くてさ、取ってあるんだ」 「ごめんね。掃除してる時に興味持っちゃって、勝手に読んでたの」  真優子は元々、機械化はそういうものがあるという程度にしか知識がなく、たいして興味も無かった。  しかし、夫が持っていた機械化カタログを読むうちに興味が湧き始め、次第に自分から調べるようにもなっていった。 「…………それでね、私……機械化に興味が出てきちゃったの。ねえあなた、もし私が機械化したいって言ったら……いやだ?」  そして、真優子はついに、生まれ持った肉体を捨てて機械の身体になりたいと思うようになった。  それも全て、今の自分のスペックをさらに向上させ、夫との生活がより便利に、より楽しいものになればという心遣いからだった。  容姿は変わらないどころか、さらなる美貌を追い求めることが出来る上、著しい計算能力の向上や、家事に特化した性能。  いつか授かる子供の為に、より完璧な子育てが出来るような内部機構も実装でき、何より人工子宮によって人工授精からの出産も可能と、人体の限界を超えた利便性を身につけることができる。  真優子は今でも、圭吾の為、幸せな結婚生活、将来も笑顔で暮らすための努力を欠かさず積み重ねている。  その上で、もっとより良い生活を送るには、機械化を行ったほうが良いのではないか。彼女はそう考えたのだった。   「ううん、そんなこと言うわけないだろう。真優子がそうしたいって言うなら、こっちは受け入れるさ」 「あなた……!」  圭吾は反論も何もなく、あっさりと笑みを浮かべつつ受け入れた。  その選択に賛成してくれたことに、真優子も彼に抱きつきながら喜んだ。  これでもっと役に立てる、出来ることが増えると、新たな未来に強い想いを馳せたのだった。 「でも、それをする前に一緒に話し合いさせてくれよ。どういう機能を実装するかとか、どんな機材を入れておくかとか」 「もちろんよ。元々あなたの持ってたカタログなんだし、詳しい人にはちゃんと色々聞いておきたいわ」    情報を集めた上で機械化を決意したとはいえ、真優子はまだそれを知ったばかりです素人も同然。  機械化は生まれ持った肉体を捨てるというとてつもなく大きなイベント。詳しくてもそうでなくとも、夫に相談するのは必然とも言える。  真優子は事前に何が必要か、どういう機能を実装したほうがいいか、どんなプランにしたほうがいいかなど、早速打ち明けと同時に夫への相談を敢行した。 「子供を産むためにはこの子宮ユニットが必要だから……それに、やっぱり母乳もあげなきゃならないからさ、放出機能は必要だよね。ミルクを貯める機構はどうする? タンク型と乳腺型がそれぞれあるけど」 「それって何か違うの? 胸の再現度が上がるとか?」 「俺のオススメはタンク型だけど、まずメリットは……」  真優子の予想通り、圭吾は機械化に関してとても詳しかった。  今後の為にどんな機能が必要か、最初にどんな設定をしておくべきか、どのような機構を実装しておくべきか。オススメを加えつつ事細かに説明してくれた。  だが、圭吾は些か、その機械化に関して異様に詳しかったのだ。  彼の仕事はそれに関連するものではない。過去に関係する事業に関わっていたような話も無いし、以前付き合っていた女性が機械化した程度。  その時に深く勉強したのだろうかと、真優子は深く気にすることはなかった。  そうして、出来る限りで話を詰め、プランやカスタマイズも決定し、いよいよ訪れた機械化の当日。 「大丈夫か真優子。怖かったりしないか」 「ううん、大丈夫………………正直なこと言うと、実はちょっと怖いけど。ずっと付き合ってきたこの身体とお別れするんだものね」  ストレッチャーの上に乗せられた真優子の身体。  彼女が生身だったという痕跡は、遺伝子情報や卵子などのわずかな形で残されるが、自身の存在は全て無機物と電子情報に置き換わる。  メリットこそ無数に存在するが、それでも生まれ変わるという未知の領域はどうしても不安が湧き上がってくる。  それを和らげたのは、最後まで生きている瞬間を見守ってくれている、愛する夫の姿だった。   「真優子さん、圭吾さん、そろそろお時間です」  施設で稼働する女性型アンドロイドが、機械化手術の予定時間を正確に測り、二人の会話に割り込む。  それが、生身同士で会話する最後の瞬間だと、二人はそれぞれ笑顔を向け、別れた。  ストレッチャーで運ばれていく妻を、圭吾はじっと見守っていた。  その笑みに、不穏な気配を身に着けながら。 「真優子さん、もうすぐ機械の身体になりますよ。この後、手術室にて麻酔を施しますので、それまでが生身である最後の時間となります。心の準備を整えておいてくださいね」  先程までの声とは違う、とても優しく寄り添い撫でるような電子音声と、非常に可愛らしい笑顔が、真優子の心を落ち着かせた。  次に目覚めたときには、どんな視界が広がっているのか。一緒に移動する女性型の眼の奥で動く絞りを収縮させる姿を見ながら、ぼんやりと思うのだった。  そして、真優子は手術室へと運ばれ、彼女の人間としての人生は終わりを告げたのであった。 * * *  真優子の機械化手術から三日後。  この日、圭吾は出勤日にも関わらず前日からの疲れが重なり、ぐったりとベッドに沈んでいた。  そんな彼のもとに、いつものように妻の真優子が起こしにくる。 「起きてあなた。朝食の時間よ」  真優子の耳元で囁く声は、脳まで染み渡るような計算された優しい電子音声をしていた。   「うっ……うう……おはよう真優子……やっぱり、今の君の声は効くな……」 「ふふ、そうよね。うまく調整できてるでしょ?」  起きたばかりのぼやけた視界に写る妻の姿。  だがその姿は、今までよりもとても鮮明に綺麗に見えた。  ぱっと見では、人間だった頃との違いは殆どわからない。  しかしよく見れば、首や部屋着に隠れた関節部には、着脱可能であることを示す継ぎ目が走っており、元々非常に潤い美しかった肌も、人工皮膚となってシミや産毛どころか毛穴一つすら無くなっていた。  部屋に差し込む太陽の光すらも弾くような樹脂製の美肌。それに覆われた、より洗練された体型は、まるで美の女神のような完璧さを誇っていた。  そんな彼女の眼球ユニットは、愛する夫のことを一秒でも長く捉えようと、絞りが収縮を繰り返している。 「あら、まだ目覚めないの? じゃあ……」  まだぼんやりとしている夫の姿に、真優子は突如自身の部屋着を捲り、より形よく、よりハリのよくなった左乳房を曝け出し、乳首を固く勃たせた。  彼女は夫にそれを口へ押し付け、飲ませる。  すると、その乳頭からコーヒーが放出され、夫の喉奥へと流し込まれていった。  圭吾は心臓の鼓動を密かに高鳴らせつつ、それを飲み込んでいった。 「どう? 目が覚めたかしら?」 「いくらなんでも、この使い方は落ち着かないなやっぱり……」 「あら、だってまだ妊娠もしてないんだし、せっかくのタンクなら色んな液体を補充して使わないと損じゃない?」  真優子は機械化の際、体内にセットされた乳液タンクから液体が放出される方式の機構を実装してもらっていた。  しかし、まだ子供を授かっていない現状では、ある意味宝の持ち腐れのような状態。  そこで、真優子はせっかくだからと好きな液体をタンクに補充し、夫の為になるように利用したのだった。  現在彼女の両胸からは、今朝入れたばかりのコーヒーが排出されるようになっている。 「それとも、胸から出すの嫌?」 「そんなことはないって。むしろ歓迎」 「ふふ、よかった。朝食はもう用意してるわ。今日はフレンチトースト作ってあるから」  真優子が起こし、朝食の時間に入り、休日以外はそれぞれの時間を過ごしていく。  基本的には、機械化以前と生活そのものは殆ど変わらなかった。  だが、その見た目や利便性は大きく変わっていたのだった。 「美味しいでしょ? 有名シェフのレシピをダウンロードしたのよ」 「すごい美味しいな……別に昨日仕込んだわけでもないだろ?」 「そうなの。朝から作れるレシピなのよこれ。思い通りの時間に起きられるから、あなたが一番美味しく食べられる時間にも調節できるのよ」  システムによってスリープモードの復帰時刻も定められ、常に決まったスケジュールをこなせるようになった真優子。  摂食タンクこそ存在するが、今の彼女にとって食事は娯楽の域を出ない行為。  食材を無駄にしないようにと、彼女の食事は最小限になり、その代わり夫の喜んで食べる姿を見守る時間が大きく増えた。   「じゃあ、行ってくるよ」  「ええ、いってらっしゃい、あなた」  人間だった頃と同じように、笑顔で手を振り、夫を見送る真優子。  見た目だけはそれまでと変わらないが、彼女の視界は夫の顔へとズームされており、ドアが閉じる瞬間までずっとくっきりと捉え続けられていた。  姿が見えなくなってからも、彼女の電子頭脳内では、夫の携帯端末からの現在位置が探知されており、常に愛する人の情報が入ってくることにこの上ない幸せを感じていた。   「さて、今日もタスクを終了させましょ」  肉体的な疲れを感じなくなった真優子は、これまで以上に意欲的に、効率的に家事に集中できるようになった。  自ら設定したタスクをシステムに従ってこなし、新たに学習した清掃方法や家事方法で効率的に進め、人間だった頃よりも大きく時間を短縮させていく。  掃除機から伸びるケーブルを自分の首筋の端子へと繋ぎ、自らを電力の供給源として自由に動かし、細かな汚れまで除去していく。  洗濯や食器洗いで使用する洗剤の量も正確。時間もきっちり計測して無駄なく行動。  元々とてもてきぱきとしていた真優子の自宅での家事は、生身だった頃よりも驚く程に迅速丁寧にパフォーマンスが向上したのだった。  そして、昼食を取る必要のない真優子は、一通りの作業が終わると、コンセントに取り付けられた充電ケーブルを首筋に繋げ、壁を背もたれにしてぐったりと力を抜いた。 「終了したわね……ああ、早く帰ってこないかしら」  愛する夫の帰宅を待ち侘びながら、真優子は電子頭脳内で動画配信サービスのお気に入りを眺めつつ、そのまましばらく動かなくなった。  その様子はまるで、忘れ去られた人形のよう。  音のない静かな室内では、彼女の機体内から鳴る微小な機械の動作音が、ほんのりと漏れ出していた。  そんな真優子の能力は、日中のパフォーマンス改善だけに留まらない。  生身の頃から時折愉しんでいた夫婦の営みも、機械の身体になったことで、最高の多幸感をもたらした。 「あんっ! あんっ! あなたあっ! もうイくうっ! 快楽信号がすごいのおおおっ!!!」  愛する夫との、一つの儀式のような性行為。  今までも肌同士を触れ合わせ、抱き合い、キスをしながら絡み合っていた。  機械化して以降は、キスの味が無味無臭になり、真優子から外付けされた匂い以外は無くなってしまった。  だが、バッテリーがつづく限り真優子は疲れず、セックスの際にゴムやピルなどの避妊行為の必要が無くなった。  真優子が今後の為にと実装した子宮ユニットは、人工妊娠している時以外は、精液を受け止める袋となる。  それ以外にも、膣肉全体や乳首、乳房、全身を自由に性感帯にも設定可能で、生身だった頃のような不必要な痛みも消去可能。  性器の動作も自由度が格段に上がり、セックスプログラムをインストールすることで、より夫を悦ばせる奉仕が出来るようになっていた。  その代わり、セックスの度に女性器ユニットを取り外し、手洗いしなければならず、排出される人工愛液も度々補充しなければならないが、現状の満足度の前では些細なことだった。  夫の濃厚な精液を受け止めた後、再現された吐息を混ぜながら、真優子は全身を使って甘えた。 「ねえあなたぁ……まだするの……私、まだバッテリー残ってるから大丈夫よ……」 「はぁ……はぁ……そうだな……明日は休みだし、もっとシようか……」 「嬉しい……! あっ……あなた……もう、とっても大好きよ……」  二人は真優子のバッテリー、圭吾の体力、そしてそれぞれの情欲が続く限り、感情のままに何度も愛しあった。  機械となった妻と、その夫の新たな日々は、新しくも深い愛情と利便性に溢れたものとなり、この先も、より気持ちが煮詰まり、良い夫婦生活が続いていくこととなる。  はずだった。  そのターニングポイントは、ある日の夜、唐突に訪れた。 * * *  次の日が圭吾の休日となる予定な、ある日の夜。  同じベッドで眠っている真優子と圭吾。  真優子はコンセントから長く伸びる充電ケーブルを首筋に接続し、目を閉じて人間だった頃と変わらないようなスリープモードに入っていた。  呼吸によって肩も動かず、寝息も存在していないが、それ以外は違いが殆ど見られない。  しかし一方、いつもなら眠っているはずの圭吾は隣で寄り添ってはいるものの、今日は何やら携帯端末を弄っており、側には有線ケーブルが置かれていた。   「そろそろいい頃か……長かったな、またこの日が来るまで」    小さく意味深な独り言をつぶやきながら、彼は起き上がった。  すると、端末内から謎のアプリを起動しつつ、用意したケーブルを接続した。  彼の表情は、明かりの消えた室内の中で、どこか狂気を孕んだ笑みへと変わっていた。 「完全に機械になったとあれば、もう俺がどうしようと勝手だもんなあ……!」  そして、圭吾はケーブルのもう一方を、スリープ状態の真優子の首筋へと持っていき、直接接続した。  その瞬間、彼女の身体がビクっと震えた。 「登録された端末が接続されました。スリープモードを解除します…………んん……どうしたのあn……不明なアプリによる不正な操作が行われました。自動的にアクセスを遮だ、だ、だだ…………」  感情のないシステムメッセージの後で、彼女の人格データが一瞬だけ目を覚ました。  夫の持つ端末からの接続を検知し、一体どうしたのかと眠そうな声で聞こうとした直後、端末側からのアプリを利用した操作によって、人格エミュレートは強制的に中断されてしまった。  真優子の内部システムは、その接続してきたアプリを危険と判断し、セキュリティプログラムを起動。  接続を経とうとするも、それすらもせき止められ、真優子は音飛びしたような音声を、ぽかんと開いたままの口から繰り返し始めた。 「アクセ、セセ、セスを、遮だだだ、だ、だ、だ、だ」 「面倒なことしやがって。優秀なセキュリティソフト入ってやがるな。さてと、真優子のデータは……お、出たでた」  異常な状態となっている妻のことを放置したまま、圭吾はアプリ側の操作を進めていった。  このアプリは、接続した対象のあらゆる権限を無視し、強制的に内部データに干渉できるようになってしまう代物である。  彼はこれを自作し、何年も前からあることの為に利用していたのだった。  そうして、圭吾の携帯端末に表示された様々な数値や内容。それは、本来マスクデータであるはずの、真優子の人格データを構成するありとあらゆるパラメータやパーソナリティデータだった。  そこでは、特定の対象への感情や喜怒哀楽が数値化されており、自覚、無自覚関わらず真優子という存在の過去から現在に至るまでのアイデンティティが記されていた。 「やっぱり、俺への好感度はほぼ95〜100%を行き来しているのか」  数字として表された自分への感情に笑みを浮かべた圭吾。  だがその笑みは、嬉しさからではなく、邪な考えを持ったほくそ笑みだった。  すると、圭吾はとうとう、真優子の人格データに加工を加え始めた。 「お前が壊れるまでの間、思う存分俺を楽しませてくれよ、真優子」  圭吾への好感度は常に最大で固定。  圭吾からの言葉に一切反抗することはせずに全て受け入れ、圭吾からの行動は全て肯定的に認識する。  痛覚信号を全てOFFにする。  圭吾はこれらの行動原理や設定の変更を、真優子の人格データとシステムに書き加えた。   「あとは、直前までの記憶データとアクセス履歴を消して……」  真優子からではなく、意図せず外部から何かしら怪しまれないようにと、先程一瞬起きた際の記憶と、システムが認識したアクセスの記録を全て削除。  人格を弄った痕跡を全て消し、ケーブルを取り外した。 「だ、だ、だ……登録された端末との接続が切断されました。スリープモードを継続します…………」  まるではっきり起きているようなはっきりとした言葉の後、真優子は再び目をつむって寝息も揺れも無い眠りに戻った。 「これで真優子は俺の玩具だ……待ち侘びたぞ……!」  静かに、かつ感情いっぱいに喜びの声を漏らした圭吾。  彼は元々、気に入った真優子を何しても受け入れる機械人形として使う為に近づき、結婚までしたのだった。  しかも愛していないというわけでは決してなく、非常に歪んだ形で妻を愛していた。  これは、以前彼と付き合っていた、どこかに失踪した機械化女性も同じだった。  自ら機械化するように、興味を持つキッカケを作りつつ誘導。  いざ完全機械化すれば、自作アプリを使って相手を改竄。専用の女性型玩具にして好き放題した後、まともに動けなくなる程に壊されてしまい、不法投棄されてしまったのだった。  彼は、それをまた、真優子で繰り返そうとしている。  彼女はそれを自覚することもなく、また、自覚することも、気づいても否定する思考すら排除されてしまったのだった。  真優子への扱いの変化は、その朝から劇的に変化した。  いつものように夫を、設定した時間に起こしに行く真優子。  その声はいつもより、上乗せされたような好意がこもっていた。 「おはようあなた、起きる時間よ」 「うう……」 「ねえ、コーヒーでも飲……」  ぐっと顔を近づけて囁くが、まだ眠気の強い圭吾は、いきなり妻の頬を引っ叩いた。 「もう少し寝かせろ……今日は休みだろうが……」  これまで振るってこなかった不意打ちの暴力。  数秒程、現状認識の為にぽかんとなったが、真優子はすぐに笑顔を取り戻した。 「ええ、わかったわ。じゃあもう少し後で起こしに行くわね」 「おい……朝飯の時……お湯も出しといてくれ……  「お湯ね? わかったわ。朝って身体冷えちゃうものね」  先程までの暴力がまるで無かったかのような、いつも通りの振る舞い。  真優子は、従順に夫の言葉を聞きつつ、追加された要求をタスクに登録し、リビングへ向かった。  そして、朝食の時間。夫の起床時間にきっちりと合わせて、焼きたてのトーストとバター、温かいじゃがいものポタージュがテーブルに用意されている。  あくびをしながら机の席に座ると、真優子はコップに温めたばかりのお湯を注ぎ、熱さなど感じていないように手に持ちつつ運んだ。 「どうぞ、水分補給って大事よね。私も、人間だった時は喉乾いたりしてたなあ」  人間だった頃の記憶をもとに話を弾ませる真優子。  対面に座り、彼が食事を始める姿が早く見たいと、両手を重ねてその手の甲に笑顔で顎を乗せた。 「じゃ、そろそろいただきま……」  食事の始まりを促そうとしたその時、圭吾は突如、妻が淹れてくれたお湯を、真正面から彼女の顔にぶっかけた。  まだ時間が経っておらず、触れれば驚き火傷を心配してしまいそうな熱さが残っている。  しかし真優子は、瞬きもせず、言葉を途切れさせただけで怒ることもしなかった。 「もう、拭く時間が勿体ないわ。あなたの顔が見られる時間が短くなっちゃうじゃない」  圭吾が施した設定が、人間としては明らかにおかしいリアクションを作り出した。  熱がることもなく、軽く拭うだけで、下がることのない全開の好意を表し続ける真優子。  夫のすることを全肯定する設定に忠実に従い、髪や肌が濡れたまま、じっといつものように見守り続けた。  圭吾は、見事に自身が組み込んだ設定通りに稼働する妻を見て、やはりとても機械らしく、都合がよく、たまらなく魅力的だと感じていた。  それから、圭吾の加害行動はさらにエスカレートし始めた。  真優子が食器洗いをしている最中、後ろから圭吾が突如呼びかける。 「おい真優子、ちょっとこっち向け」 「どうしたのあなた?」 「右手を出せ」 「いいけど、もしかして、唐突に手繋ぎたくなっ……」  愛する夫の言葉に従い、泡のついた右手を軽く水洗いしてから差し出した。  圭吾は人差し指を握り、思いっきり曲がってはいけない方向へと強引に折り曲げてしまった。  真優子はその様子を、じっと変わらぬ微笑みを浮かべて見つめていた。  それから、一切の抵抗をしない妻をよそに、人差し指、薬指、小指と、自分の力で可能な指を次々と折っていく。  その度に小さくなる金属的な異音。瞬く間に真優子の指はあらぬ方向に曲がったまま固定されてしまった。 「ふふ、あなたってやっぱり力が強いのね。普段から鍛えてるだけあるわ。お姫様抱っこしてくれた時も、簡単に持ち上げてたものね」  人工皮膚に不自然なシワを作った状態の4本指。  真優子は異常な程に怒る素振りも見せず、呑気に思い出話しを切り出していた。  妻からの話も無視して、何も言わずに去っていくと、その背中をじっと目で追い続けたあと、改めて食器洗いに戻った。 「あら……いけない……指がこのままじゃまともに掃除できないわね」  人工皮膚越しにきぃ、きゅい、と歪んだ機構部分が緩慢な動作と起こす右手指。  真優子は左手で、曲げられた指を強引に元に戻し、動作確認。  歪みは完全に直っておらず、パフォーマンスも低下しているが、問題無しとして再び家事を再開した。    またある日、外に出ることの無くなった真優子に、圭吾は命令を与えた。 「真優子。家から出る時以外は常に裸でいろ。お前にはもう、部屋着も必要ないだろ」 「言われてみればそうね。これからは裸でいるわ」  本来ならば拒絶するのが当たり前の常識外の言葉でも、好感度を最大に固定され、全肯定するように設定された真優子は、一切疑問を抱くことなく、その場でお気に入りの部屋着を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ美しく扇情的な女体を曝け出した。 「なんだかスッキリした気分ね。意外と裸でいるって、私にあって……ああっ……あなた……ぁ……あんっ!」  衣服を取り去った開放感に浸っている最中、圭吾は何の宣言もなく、いきなり真優子の女性器ユニットにスプーンを突っ込み、ぐりぐりと抉るように膣肉を刺激した。  人間の身体であれば痛みに叫ぶような行為でも、痛覚信号の発信を停止させられた真優子は、果肉をすくうような動作でも快感に感じ、人工愛液を漏らしながら喘ぎ声を上げた。 「あなた……あっ! あんっ! いきなりすぎ……はあんっ! でも……あっ……きもちい……ああんっ!」 「そのままスプーン使ってオナニーしながら俺の部屋片付けてこい。その後でまたヤるぞ」 「あんっ! わかっ……たわ……あなた…ぁ……ああっ!!」  スプーンの持ち主が真優子に変わり、床にぽたぽたと透明な雫を落としながら夫の部屋に向かおうとする。  だが、その姿を見た圭吾が、思いつきで新しい命令を下した。 「おい、お前の汁で床を汚してるぞ。舐め取りながら部屋に行け」 「あんっ! ご、ごめ……んなさ……いいいっ!? あなた……ぁぁっ!!」  嬌声混じりの謝罪を口にした後、数秒ほどの思考時間が挟まる。  その後、真優子は廊下に尻を向けて四つん這いの姿勢になり、腰を大きく後ろに突き上げる。  指が歪んだままの右手でスプーンを掴み、激しい自慰を継続しつつ、真優子は自分の性器からこぼれ落ちた人工愛液のしずくを舐め取りつつ、少しずつ亀のように後退して移動し始めた。  ぐちゅぐちゅと、膣内が弄られる音が鳴りつつ、天井へ晒されたアナルもひくつかせつつ、再び愛液が床に落ちる。  真優子は玩具を散らかしたあとの子供の如く、自分の身体からの排出物を舌で回収しながら、言われた通りにオナニーと移動と床舐め取りを並行し実行していた。  両乳房を床に押し付けて、擦れつつ動く彼女の姿は、とても対等な立場なはずの妻には見えない。  まるで、思い通りになるセクサロイドも同然だった。    設定を改竄されてからの夫婦の営みは、妻に対する思いやりなど無いも同然の行為へと変わり果てていた。 「あんっ! あんっ! がっ……あなたあっ……今日もすごく激し……はあんっ! 私機械の身体にな、なってよかっ……ああん!」 「ほらもっとちゃんと膣動かせよ!」  ある日の真夜中。真優子と圭吾はいつものように互いの性器をくっつけ密着させあう二人。  バックの体勢で、妻が膣肉を動かし、夫が悦ぶようにマッサージを行う。  時折圭吾が腰を動かし突く度に、真優子はびくんと全身を快楽信号で震わせる。  だが、圭吾が満足いかない瞬間が訪れた時、彼は妻の髪を思いっきり引っ張り、ベッドや木材の箇所に頭部を叩きつけていた。  電子頭脳に衝撃が伝わる度に膣内が強く締まり、普段では得られない感覚が襲ってくる。  明確な暴力行為であり、そこに愛は明らかに存在していない。 「はは、こうするとやっぱ締まるよなぁ……」 「ああんっ! あ、ありが、がが、とうあなた……ぁ……嬉し、ししい……あ、ん!」  真優子はそんな粗暴な行為にすら怒りを抱かず、むしろその際の誤作動的膣動作で気持ちよくなってくれたことに悦び、人格データの底からの蕩けた声を上げた。    こうして、真優子が全てを受け入れ好意的に感じるのをいいことに、圭吾の妻への扱いは酷く凶暴で暴力的なものへと変化し、エスカレートしていった。  当然、修理に向かわせることなど許すはずもなく、外出も許可しない。  結果、真優子が受けたダメージは蓄積し、動作への影響は次第に大きくなっていく。  そんな日々が何日も何日も続き、彼女の動作からは少しずつ、本来の人間らしさが欠け始めていったのだった。 * * *  そして、数ヶ月の期間が経ったある日の休日の朝。  朝食の席に先についていた圭吾は、真優子が用意するはずの味噌汁が置かれるのを、指をトントンと叩き苛立ちながら待っていた。  キッチンから移動し、味噌汁の入った器を持つ彼女の歩く動作は、どこか緩慢な雰囲気を帯びていた。 「お、お待たせ、せあなた。味噌し、る、出来てるいます、わよ」  相変わらずの全裸姿で運んできた真優子の姿は、機械化した当初とは大きく違うものとなっていた。  彼女の綺麗で自然だった笑顔は、どこか張り付いたような不自然さが見られ、音声とのリップシンクも少々遅れ気味。  その音声も、電子頭脳が損傷しているのか、たまに音飛びを発生させつつ、極稀に真優子らしい言動と機械的な基本人格の言動が混ざっている。  度重なる暴行の結果、全身の人工皮膚にはところどころ破れた痕や傷が修復されずに残っている。  制御系統に異常が発生しているのか、おそらく今朝補充したであろう緑茶が、右乳房から緑色の雫となってちまちまと溢れている。  一歩一歩の進行方向が微妙に安定しておらず、テーブルに向かうだけなのに、右に左にとわずかに傾いては修正を繰り返す。  乳房と同様に、女性器ユニットからの人工愛液も漏れ出しており、性刺激がないにも関わらず、時折液が溢れては、クリトリスがぴくっ、と動く挙動をランダムに繰り返していた。  その様子はまるで、壊れかけのセクサロイドのようだった。 「この後、ご飯も持っていきま……」  早く夫に食事をさせてあげたい。そのような思考の元に移動している最中、味噌汁の器が手から滑り落ち、中身共々床にぶちまけられてしまった。  真優子は2秒程遅れて下を向き、惨状を視認する。 「あら、いけないわ。ごめんなさい。早く拭きます。拭かないと。機械化して、もこんなことってあるのね」  自身の故障した状態を認識できていない様子で、布巾を取りに行く真優子。  そんな一連の姿を見て、圭吾はポツりとつぶやいた。 「…………そろそろ潮時か」  圭吾の視線は、人間同士だった頃の愛情などもう存在しないかの如く冷たく、冷めていた。  妻の耳に聞こえないようなつぶやきの後、圭吾は一旦自室へと戻っていった。  移動姿を認識しないまま、真優子はマイペースに味噌汁の片付けを続ける。 「こういうことが無いよう、にって機械化したのにね。やっぱり、私ってまだまだだなあ」  誰もいないリビングで、未だに愛する夫への愛情がこもった言葉を口にする真優子。  そして、一旦部屋を離れていた圭吾が戻ってくる。  その手には、ゴルフクラブと人一人は余裕で入るであろう大きめのバッグ。  そして、足音のした方向に真優子が顔を向けた瞬間、圭吾は思いっきりクラブを振り被った。 「あら、部屋に戻ってたのあなdっ……」  微笑みを絶やさない彼女の頭部側面にぶつけられた硬質なヘッド。  人体からは鳴り得ない金属同士の衝突音が、静かな室内に響き渡った。  妻の言葉は途中で止まり、笑みを浮かべたまま、ぐらりと殴られた力の方向に崩れ倒れてしまった。   「エラー、と、頭部の損傷が…………」  システムが異常な衝撃を検知し、メッセージが発される。  すぐさま彼女の人格は復帰するが、圭吾は力を緩めず、まだ濡れたままの床の上に立ち、もう一度振り被った。 「あな、た……まま、まだ濡れてるから危ないです、ないわ。滑っちゃうかもしれなI⬛@#!?」  人間だった頃からずっと変わらなかった、真優子のこれまでの愛情を全て裏切る最悪の暴行。  眼の前でそれを与えられても、プログラムされた好感度と全肯定の意思のままに、彼女は夫が濡れた床で足を滑らせる危険を案じて伝えようとする。  しかしその声も、最後の一発によって完全に遮られ、真優子の口からはスピーカーが壊れた時のような電子音の悲鳴がなった。 「…………警告。外部か……らノ衝撃によリ、じ、重大なえ、ラー……が、発生、発生し、しま……再起動を、をを、行うが、サービスせンターへno報告を……」  硬直した笑みを保ったまま、電子音混じりで途切れ方の不自然な警告メッセージを喋る真優子のシステム。  2回目の殴打の後、真優子の身体は床に倒れた状態で、びくっ、びくっ、と不規則な痙攣を発生させていた。  頭部の動作機構への影響が著しかったのか、彼女の左眼からは、人工涙液がどろっ、と数滴分まとまって溢れ出していた。 「まあ、こんなもんか。前のよりはもったほうだし、結構楽しめたな」  一切の感情移入も無いと、圭吾はあっさりと壊れたモノに対する言動を吐き捨てた。  その後、首筋のカバーを開き、電源ボタンを長押しして真優子をシャットダウンさせる。  瞳の光が失われ、痙攣も無くなり、真優子は真の意味で物言わぬ壊れた機械人形に変わり果てた。 「あとはこいつをあそこに捨てて……さすがにまだ早いな。けどまあいいか。詰めるだけ詰め何処」  圭吾は、一つの流れ作業の如く妻の四肢を折り畳み、背中を丸めてコンパクトな姿勢にして、バッグの中に詰めた。  その後、それを玄関の側に放置すると、溜息をつきながらリビングに戻り、彼女が扱っていた布巾を自分で使い始めた。 「拭き終わるまで待っときゃよかったか……めんどくせえ。しかし……次の女は誰にしようか」  まるでもう、真優子などいなかったかのように、次の女性を狙い定める算段をつけ始めた圭吾。  そうして、慣れた一人暮らしの作業を進め、彼は深夜を待ったのだった。 * * *  その日の深夜、彼は車を走らせてある場所に向かった。  そこは、無数のアンドロイドが放棄されている、いわばゴミ捨て場。  ここでは定期的に捨てられた機体がトラックでまとめて回収され、アンドロイドのゴミ処理場へと送られる。  周囲は汚く、人間は長くここにいることはないことを如実に表しているが、機械人形ならばどれだけ汚くても気にしないし、そもそもまともに動くこともない。  回収前日なのもあってか、既に無数の女性型が、股間や胸、頭部を取り外されたり、人工皮膚が剥ぎ取られたり、パーツを抜き取られた状態で放置されていた。 「よっと……やっぱ重てえな」  圭吾はそこで、真優子の入ったバッグをひっくり返し、無数に積み上がったゴミの一つにした。  彼女の微笑みも虚しく、虚ろな瞳には闇以外何も写っていない。 「とっとと帰らねえと。休みが無駄になっちまう」  最期の言葉すら向ける素振りも見せず、圭吾は用済みとばかりにそそくさと、足早に車両へ戻り去っていった。  大量の人の形をしたガラクタの一つになった真優子。  彼女が動かされることは、日が昇る早朝まで全く訪れることはなかった。  そして、回収者がやってくる午前5:09。  トラックの空いている荷台へ、二人の男性作業員が、次々とアンドロイド達を慣れた雰囲気でスムーズに乗せていく。 「今日も多いなオイ。これ、ここだけで一杯になるんじゃねえの?」 「そしたら仕方ねえよ。とりあえず山積みにしていこうぜ」  ゴミに対して細かな感情を抱くことはまずない。  どんな姿でも、どれだけ形を保っていても、相当に目を惹かれない限りはただの廃棄物でしかない。  真優子も当然その一つ。積み上げられたアンドロイドの山の上に、ほぼ最後の段階で乗せられ、ブリッジのような体勢で陽の光を全身に浴びていた。 「スッキリしたなー。二巡する必要あるかもと思ったが、これなら一回で良さそうだな」 「うし、とっとと運ぶぞ」  トラックのエンジンが唸り、鉄屑になる運命の人型を運んでいく。  しばらく車両は揺れ、止まりを繰り返しつつ、少しずつ廃棄物までの道を進んでいく。  その間、真優子の身体は少しずつながら、人型の山からずれ始めていた。  そして、道中で人気のなく殆ど舗装されていない道に入った瞬間、タイヤがへこみに引っかかり、ガタンと大きく揺れた。 「おおっと! ったく、いい加減ここ直せよな」 「仕方ねえよ。もうずっとこのままだし」  男達が愚痴りながら、エンジンを止めずに走り続けた最中、荷台の機械人形達もぐらりと振動の影響を受けていた。  その時、一番上に積まれた真優子の身体が、衝撃によって山から転げ落ち、道路へと放り出されてしまった。  男達はそれにも気づかず、放置したまま廃棄場へと走り続けていった。  そして、落下の衝撃の影響か、偶然にも真優子の電源が起動。  誰も通る気配のない道路の上で、彼女の身体がびくんっ、と大きく揺れた。 「…………電源が入力さ、されました。システム起動します…………」  機械化してから何度喋ったかもわからないシステムメッセージを、人っ子一人いない外で律儀に喋る真優子のシステム。 「……正常に起動しました……システムチェック……破損したファイルが、確認、確認されました…………一部機能が正常に動作しない可能性が、あります」  それを直す者はここにはいない。意味のない報告でしかなかった。 「…………システムチェックが終了しました。人格エミュレートを起動します…………あら、ここは…………」  そして、いつものように人格エミュレートが起動し、固まった微笑みからようやく表情が動き出した。  真優子はフラフラと、安定しないバランスで立ち上がると、首を動かしては絞りを何度も収縮させ、愛する夫と暮らす自宅ではない場所を認識する。  周囲に巨大な建造物は見当たらず、使われているのかもわからない小屋が数点。  朝の風に吹かれて砂埃が舞い、人の気配は全く無い。  愛する夫と暮らしていた場所とは全く違う、営みの感じられないところに、彼女はいた。   「マップが破損してるわ。現在地も確認できな、いわね」  真優子は真っ先に、愛する夫のところへ戻る為に、マップを起動し現在地を確認しようとした。  しかし、電子頭脳が損傷した影響か、マップアプリもGPS機能も壊れており、どこにいるのか全く把握できない状態に陥っていた。  それどころか、ネットワークにも接続できず、通話機能も破損。まともに連絡の取れない事態に陥っていた。 「戻らなきゃ。まだ、家事が終わってないもの。あなた……待っててね、すぐ、戻るから……」  真優子は、壊され棄てられた可能性など一切思考することもできないまま、愛する夫のもとへ戻る為、あてもなく歩きだした。  彼女の姿はさながら、荒廃した道端で目覚めたゾンビのようだった。  こうして、真優子のあてのない数奇な歩みが幕を開けた。

Comments

ありがとうございます! 現状はそのタイプの展開にはならないとは一応言っておきます。すみません。

土装番

どんな内容が繰り広げられるでしょうか! 楽しみです。 これまでロボ化されてからハッキングなどで不幸な結末を迎えるロボ娘をたくさん見ましたが、今後はハッキングをしようとしたが逆に男を制圧し、自分の下位機体に逆ロボ化させてしまうロボ娘作品も期待してみてもいいでしょうか。

Y.Ginko

完全に想定されてなかった事柄ですからね……ありがとうございます、もうしばしお待ち下さい。 どうせ記憶媒体もまとめてスクラップになるので、彼は面倒だと放置してしまっていました。(実際前回の彼女はそのままスクラップ)

土装番

ありがとうございます! もうしばしお待ち下さい!

土装番

タイトルから誰かに拾われるのかと思っていたら、 まさかの偶然の再起動… この後どんな展開になるのか、楽しみにしてます。 しかし、やっぱりアレですね。 捨てる前に記録媒体処理するのは大事ですね(いや、それをしたら話が始まらないのだけど

リドル

このあとどうなるか、楽しみです!

morny


More Creators