機械の侵食 4話 機械の身体は知らないことだらけ 1/?
Added 2022-05-30 12:25:15 +0000 UTCペリメイズ人による地球人類への侵食は、静かにひっそりと、そして大胆に行われている。 知らない間に身近な人間が機械となり、気づけば周囲に生身の者はいない。 そんな事態が起こりうる未来も予測される程に。 だが、たとえ機械の身体になろうとも、未曾有の出来事に遭遇し、慌てふためくことは当然発生する。 これは、とある機械化させられた女性二人の身に起きた、ちょっとした珍事である。 * * * とある島国の首都、天京。その中心地から少々離れた街、吉向寺。 各方面からここに住みたいと称されるこの街は、生活の拠点としては非常にぴったりであり、各種ショッピングやレストラン、雑貨系と、駅周辺に取り揃えられた、まさしく過ごしやすい場所である。 そのような人気を保ち続けている土地でも、日々新たな利便性を開拓するため、また老朽化した建物の改築や解体からの新築を行うために、いつもどこかで工事が行われていた。 そんな街の近くに、とある二人の女性が住んでいた。 「おかえり美和。今日もバイトお疲れ様」 「茉莉もお疲れ様。はー、今回も面倒事が多くて敵わんわ。うちにいっつも仕事振りよってなあ」 方言を扱う女性に手を振り話しかけてきたのは、とある企業に務める会社員の坂井茉莉。 全体的に20代前半の、程よく大人の色香を持ちながらも、どこか活力のある可愛らしさを帯びている。 センターから分けた額出しの黒髪に似合う、シュッとしていながら笑顔が綺麗なとても整った顔立ち。 スラッとした、くびれのはっきりとしたしなやかな体型は、スーツ越しにでもそのスタイルの良さを導き出している。 平均的ながらもふっくらとした程よい胸の大きさに、身長も際立って高くないが、その美脚ぶりが、本来のそれよりも背を高く錯覚させた。 そんな彼女が話しかけた私服姿の相手は、とある喫茶店でアルバイトをしながら配信活動をしている赤川美和。 活発な雰囲気を思わせるさっぱりとしたブラウンのショートヘアーに、茉莉よりも若干可愛らしさに寄った、常に元気な印象を抱かせるような美貌。 身長は茉莉よりも高く、肌はほんのりと小麦に近い色に焼けている。 胸も茉莉のそれより一回り大きく、隣り合った状態では、美和の方が歳上のような錯覚すら覚える程。 しかし、実際は美和の方が歳下であり、20歳を過ぎて間もないのである。 「それこそ、美和が優秀な証拠でしょ? 頼られてるんだから」 「そんなん、茉莉も同じやんか!」 西側の大都市である大鹿から上京してきた美和は、現在茉莉と同じ一軒家に共同で暮らしている。 いわばシェアハウスである。 元々知り合いでもなく、SNSを通して一緒に住む相手を探した結果、二人は出会った。 お互いに気が合い、それぞれの素性や職業、趣味も打ち明けた上で交流し続けた結果、この人なら信用できると、共同生活をするようになったのだ。 茉莉と美和、それぞれが支え合い、たまに喧嘩しながらも、仕事終わりに一緒に帰る程に仲が良い。 二人はまさしく、一番の友達のような間柄だった。以前までは。 「だって、うちら皆と違って機械やん? 優秀さの度合いも大きくちゃうし」 「まあそうなのよね。複数タスクを処理できちゃうしスペックも大きく変わったから、どうしても出来ることが多くなるのよね」 しかし二人は、既にペリメイズ人の手によって全身機械化を施されていた。 『美和、ちょっと不安だからさ……一緒にコンビニ行かない?』 『うちの方が歳下やん! それにいっつも普通に行ってるんやし平気やろ』 『そうなんだけど……なんか今日、変に不安なのよね』 『もう、しゃーないな。そん代わり、お菓子奢ってや』 ある日の夜、ふとしたキッカケで二人一緒にコンビニに向かっていた。 その道中、周囲に他の通行人がいない中で、彼女達は偶然、一人の妙に露出度の高い気怠げな女性に遭遇した。 『ふーん、結構な美人だなぁ。一発目はこいつらにしよっと』 『えっ?』 『な、なんや!?』 女性は反応する隙すらも与えずに二人に襲いかかり、その場で一気に機械化させられてしまった。 それから後は、他の人間にバレてはならないという命令に従いつつ、機械に変わったことによる能力や人格の変化を少しずつ体感し、もう生身の身体に未練などない程に慣れていった。 このような出来事を経て、二人は他の機械化された人々やペリメイズ人と同様に、機械であることを隠しつつ、新たにプログラムされた本能に従って稼働している。 「んで、今日どうする? うち、茉莉とくっつきたいんやけど」 「いいわ。でも、ちょっと快楽信号が欲しいから……お互いの背中を貫いて寝ない?」 「ええなそれ! ああもう、今からでも興奮してきたわぁ……」 人間だった頃と同じ喋り、同じ雰囲気、同じトーンで、生物の域からかけ離れた会話を平然と行う。 壊れることが当然であるかのような空気を出しつつ、二人は人間だった当時なら向けていないであろう眼差しで見つめ合いながら、帰路についていた。 その日の夜。二人は宣言通りに、茉莉の部屋のベッドの上で、人工の柔肌を全て曝け出しながら抱き合っていた。 茉莉の右腕が美和の背中を、美和の右腕が茉莉の背中を貫いた状態で。 「あう……っ……あかんわ茉莉……ぃ……あっ……うちの腹部の部品が……あっ、ゴリゴリ言って……あんっ……あかん……気持ちよすぎるわ……」 「はああ……あんっ……今、バッテリーに触れた……あ……美和の腕が……あはっ……幸せ……繫がってるの……」 人工皮膚を突き破り、血の通っていない体内が、穴の隙間から覗かせる。 二人の破損行為はそのままエスカレートし、腹部の正面まで裏側から破かれ、そこから手を握るという、前衛的な芸術作品のような光景を生み出していた。 元々彼女達には、情欲や性欲的な感情をそれぞれに向けることはなく、そこにあったのは友情や信頼といった爽やかで真っ直ぐな感情だった。 だが、機械化して以降は全て、肉体的、機械的な快楽と愛情を求める、深く淫らで愛欲的な関係となり、同じベッドでスリープモードに入ったり、夜通し絡み合い続けるようなこともする程になってしまった。 文字通り、心も身体も生まれ変わってしまった茉莉と美和。 しかし、そんな彼女達に、予期せぬトラブルが襲いかかる。 * * * ある平日の朝方。この日、茉莉は有給を取り、茉莉はシフトを入れていなかった。 その理由は、一日中街を散歩し親睦をより深め、高まった愛情のままに今日も気持ちよくなろうとしていたからである。 以前の彼女達であれば、このような理由で休みを取ることはなかった。機械化による人格の変質が如実に表れた行動である。 「美和はどこ行きたい?」 「うーん、いざどこに行くかっちゅうと悩んでまうな……」 「じゃあ、適当に電車に乗ってどこか回ってみない? 私は美和と一緒ならどこでも楽しいし」 「うちもそんな感じやしなあ……ならそれで行こか!」 ほぼ見切り発車のデートだが、とにかく二人でくっつきながら色んな所に行ってみたいという衝動からもたらされた行動なのもあって、仕方ない部分はあった。 とにかく一緒にいられることが嬉しい二人は、情愛的な感情を胸に抱きつつ外出した。 その道中、二人はふと、人気の少ない場所に現れた工事現場の隣を歩く。 上空では、クレーンが必要となる鉄骨などの機材を持ち上げ運んでいた。 「また工事始まったのね。最近別のとこのが終わったばかりじゃない?」 「なんかまた新しいビルが建つらしいで。吉向寺周辺の再開発や言うて、つい最近計画立ち上がったらしいわ。しらんけど」 「ふーん……にしても、工事まで早いわね。よっぽど早く終わらせたいのかしら」 「ま、うちらには関係ないしなあ。はよ行こ」 二人は人間だった頃から変わらず、何かしらの工事があっても、何かやってるな程度にしか興味がない。 すぐに話題と意識をこれからのデートに戻し、寄り道することなく吉向寺駅へと向かっていった。 そして、これまでとは違う愛情を抱いてからは初めての、正真正銘のデートが始まった。 互いを簡易的に無線接続し、一定距離以上離れないようにしながら、常にくっつくように移動する。 機械化して以降、二人で遠出するのは初めてのこと。生まれ変わった視界と思考で認識する今までと一見変わらない世界は、彼女達にとって新たな見識と驚きを呼び込んだ。 「あの店って、前はアンドロイド使ってなかったわよね? 導入したんだー」 「いうても、うちらより性能圧倒的に違うんやけどな。玩具に見えるくらいやわ」 「こらそういうこと言わないの」 地球上のアンドロイドを目撃すると、自分との性能を比較したりするようになった。 存在としてはアンドロイドの方が、現在は自分達に近い。しかし、地球上の技術とはかけ離れた性能をしている。 それは、変わったばかりの彼女達にもおてもよく理解できていた。 「少しカフェにでも寄る?」 「そうしよか。そろそろ足落ち着けたいと思ってたんや」 「私達もうそこまで疲れないでしょ」 「気分的なもんやん。感覚的には人間だった頃と案外変わってへんのやし」 食事や飲み物も必ず必要なわけではないが、それぞれと対面し味わうのは、一つの幸せで間違いない。 経口した分は分解、または物質変換され、様々な用途へ使用されていく。その為、人間だった頃と同じ行動が可能であり、誤魔化すことはいくらでもできた。 「そうね。ほら、ここにしない?」 茉莉は偶然見つけた、お洒落な雰囲気を漂わせる、花で装飾されたカフェを指差した。 いいセンスをしてると思いながら、美和は早速ここにしよう、と口を開きかけた。 だが、彼女の足はドアに近づく寸前で止まった。 「ええやん! それじゃうちもここで……あっ、茉莉……掛け札がCLOSEDになっとるわ」 最初に目をつけた店は、不幸にもちょうど定休日だった。 改めて確認すると、店舗前に設置されているボードには、様々なデコレーションシールやSNSのIDと共に開店時間や休店日の告知が行われている。 「ほんとだ……じゃ仕方ないか。いい店だと思ったのになあ」 「まあしゃーないって。また今度や。せっかくやし、ここのアカウントのフォローでも……お?」 せっかく茉莉が選んでくれた店なのだから、いつか行かないと勿体ない。 開店情報やお得な情報、メニューの写真を掲載していないかと、美和はボードに載せられたIDを読み取り、早速SNSのアカウントにアクセスしようとした。 その時、美和は貼られている可愛らしいステッカーの一つに、一見文字列には見えないような模様を視認した。 「どうしたの、美和?」 「ほら見てこれ。うちらにしか読み込めないコードがあるやん」 「ホントだ。えっと、『いらっしゃいませ』だって」 それは、惑星ペリメイズで使用されている言語で、この星にやってきたペリメイズ人、または機械化された人間にしか読み込めないものだった。 地球上の技術で読み込もうとしても、現時点でのそれでは一切解析することはできない。 「なんや、意外とうちら以外にも仲間がいるんやなあ」 「もし会えたら、是非とも話を聞いてみたいわね」 次の機会を楽しみにしつつ、二人はその店から離れていった。 道中をよく見てみると、ペリメイズの言語で書かれた文がちらほらと確認できる。 意外と自分達と同じ人っているのかもしれないと、思わぬ発見を共有しながら、二人はこの後も楽しいデートを過ごしていった。 身体に疲れという疲れは無く、バッテリー残量が続く限りは楽しく、気持ちのままに稼働できる。 完璧に整えられた美貌とスタイルに調整されたおかげで、外に出ても何も恥ずかしくはない。 人々が行き交う中で、二人の空間を交わし合うのはなんだかとても心地よいし、外からの刺激も加わって、より浮かれ気分になってくる。 こうして、茉莉と美和のデートは昼過ぎまで続き、濃密な時間を味わえたのだった。 * * * 時刻は午後3時半。帰宅するにはまだまだ早い時間。 だが、デートを思いっきり楽しんだ先に、両者はこのまま外を歩き続けるよりも、一度帰宅して壊れ合いたいという思考が介入した。 一分デートが続く度、会話が一度交わされる度、それぞれに情欲が溢れ出し、今すぐにでも愛情を交わしあいたいと人格データが主張する。 今すぐ、この場でそれをシてもいいところだが、それでは悪目立ちしてしまい、思わぬキッカケで機械に生まれ変わったことが暴かれてしまうかもしれない。 そんなことは、自分達を機械の身体に変換してくれたペリメイズ人の女性に申し訳ないし許されないと、最も適当な結論を共有したのだった。 「もう少し色々回ってみたかったかもしれないけど……今はもう、帰って美和に破損させてもらいたいわ」 「うちもそう思ってたわ……うちの身体中がもう、疼いてしゃーないもん」 電車に乗り、吉向寺駅に到着した二人。 いっときも視線を反らさずに、見つめ合いながらレンズ奥の絞りを何度も収縮させる。 それ程までに、愛する相手の姿を見ておきたいのだ。 出発時と同じ道を歩き、工事現場の前を通った所で、美和はふと立ち止まり、じっと茉莉の顔にはっきりと視線を差した。 彼女の頬は、いつもの快活さを保ってはいるものの、どこかほんのりと赤くなっている。 二人の電子頭脳の処理は、ほぼ全て茉莉と美和、それぞれの方へと大きく偏っていた。 今この瞬間に背中から触れても、気づくことはないであろう程に。 しかし、そこに数分後、運命の悪戯が降り注ぐことを、電子頭脳は演算することはできなかった。 「なあ茉莉、帰ったらなにしよ? うちはどういうプレイでもええで。今日は色々してもらいたい気分やし」 「私も、美和になにかしてもらいたいかな……なんだか、とっても楽しかったんだけど、歩いている間も我慢してるみたいです、うずうずしてたわ」 「もー茉莉の方が歳上なんやし、うちは歳上にリードしてもらいたいんやー! けどまあ、しゃーないわ。いっつもお世話になっとるしな」 それぞれの意識はすっかりと帰宅後の破損による性行為へ向いている。 どっちがどっちを引っ張っていくか、どんなプレイをしようか、どこを破損させようか。 機械になってから、振り切れた淫乱さを意図せず身に着けた二人。今回は美和に主導権を渡し、壊れ合おうという話になり始めた。 美和は、これまでの共同生活のお礼も兼ねて、自分が主導で茉莉のことを壊してあげる、という方向で話を決めようとした。 一旦足を止め、少し上半身を前に傾けつつ、歯を出してにっ、と可愛らしくはにかんでみせた。 茉莉もそれから少し遅れて立ち止まり、彼女の可愛い魅力的な仕草と表情に、人格データが刺激された。 その上空で、密かに軋むような鈍い音が鳴っている。 「ほな、今日はうちが、茉莉のこといっぱい、いっぱい壊して快楽信号を発生させta@#0!?」 茉莉への愛情いっぱいの破壊宣言を向けた、その最中、彼女の真上から不穏な破損音が鳴った。 それから間もなく、鉄骨が角度を縦に変えながら、不幸にも美和が立ち止まった地点に狙いすましたかのように落下。 前のめりになっている彼女の後頭部の上から命中し、強引に全身をとてつもない力で押し付けながら、地面へと衝突した。 その瞬間、美和は言葉を言い切る前に悲鳴のような電子音を一瞬だけ上げ、頭部半分が完膚無きまで潰れてしまったのだった。 「………………」 ほんの2秒前後の出来事。 茉莉は、周囲に鳴り響く轟音と、散らばる美和を作り出していた部品の中で、ほんのコンマ数秒遅れて現状を認識した。 直後、彼女の電子頭脳内では、最優先に正体隠蔽を行う為の行動プログラムが作動していた。 何かしらの予期せぬ出来事が発生した際、それが表に出ないようにと、人格エミュレートの上から処理を塗り替えつつ、トラブルを解決するように動かすものである。 これは、二人を機械化したペリメイズ人が独自に組み込んだものとなっている。 茉莉はそのプログラムに動かされ、驚きの声を上げる前に、話している最中の笑みで表情が固まったまま、頭の潰れた美和の身体を強引に鉄骨から引き離した。 ぶちぶちと、かろうじて繋がっている人工皮膚と毛髪が千切れ、下敷きになった金属部品などの、かつて美和だったものが露わになった。 落下した鉄骨がゆらりと揺れ、今にも横に倒れそうになる。 茉莉はそれを捉え、明らかに金属部品ではない、怪しまれる要素しかない人工皮膚を、鉄骨が地面からわずかに離れた瞬間を狙って回収。 身体を抱きかかえながら、一目散に自宅へ向かって走り出した。 「………………い、いやあっ!? だ、だいじょうぶ美和!? こんなに頭部が壊れちゃって……」 (最優先目標、迅速な自宅への帰宅。最短経路での到着時間、2分11秒。最短経路上にGPSの発信源を確認。ルート変更。到着時間更新、2分47秒) 人間のそれを有に上回る走行速度で駆け抜ける茉莉。 走ってから5秒後に、人格エミュレートの処理が後回しにされたせいか、彼女の口からようやく美和の甚大な大怪我を心配する声が出た。 表情も、自然な戸惑いの顔に戻り、狼狽えている姿がとてもはっきりと表出した。 いくら壊れて気持ちなる存在になったといえど、修復可能だったとしても、予期せぬ事態によって中枢部が破損したとなれば、パニックになるのも無理はない。 これが非常に快楽信号を得られる行為と同じであったとしても、それはそれ、これはこれ、となる。 現在、美和の頭部は、下顎から上が全て失われており、彼女の顔だと認識できる要素は、下唇と舌しか残されていなかった。 走るごとに身体が揺れ、首が揺れて舌が振れ、力なく垂れた四肢がぶらぶらと動く。 本来人工涙液や唾液が流れてくるであろう管が断裂しており、そこから液が時折ぴゅっ、と地面に飛んでいく。 体内のバッテリーが無事でありつつ、電子頭脳が突如破損した影響か、美和の身体は稀に、意図しないタイミングで身体の一部が脊髄反射のように動き、断面部からきゅい、と小さく動く音が聞えていた。 「待ってて美和、すぐに家に送るわ」 (進行方向上に障害無し。予定進路を走行中。予定到着時間は53秒。赤川 美和の破損箇所より、微量の液体の排出を確認。走行経路に痕跡を残さない為、右手での阻止を実行) 電子頭脳内の処理の優先度が変更されている為か、もっと前に口に出しているはずの言葉が遅れて出てきている茉莉。 もうすぐ家に着くという距離だが、今から家に運ぶというようなニュアンスのセリフが出てしまっていた。 人間の陸上選手の世界一を軽々と超えるような速度で、見慣れた景色を駆け抜ける茉莉。 その挙動は、半分は茉莉自身の意志ではなく、システムがそうさせていた。 そして、3秒前の地点で鍵を取り出し、誰かに見つからないように正確に解錠。 そそくさと自宅へ入り、美和の部屋へと迷わず走り、中枢部が失われた美和だったものと、鉄骨に潰された一部残骸と人工頭皮を、彼女のベッドへと寝かせた。 「待っててね美和、もうすぐ家に着大丈夫美和!? ああ、とても気持ちよさそうな事故だけど、まさかこんなことが起きるなんて……」 正体隠蔽の為のプログラムが終了した直後、まるで時間が飛んだようにいきなり言動が今の瞬間に正しいモノへと切り換わった。 傍から見れば明らかにおかしいが、茉莉自身はそれに気づいていない。 機械化した者としての快楽の本能と、予期せぬ事故に見舞われた美和への悲しみが同居し、ややおかしなことを言う茉莉。 悲しみを含んだ顔で、そっと人工体液がこぼれだす断面を優しく撫でながら、どうするべきか演算した。 「どうにかして修理できないかしら……まずは脱がせないと」 機械化したとはいえ、一瞬でその機能全てを把握できるわけではない。 何をすればいいのか、まだ見当のついていない茉莉は、ひとまず美和だった女体が着ている服を脱がせることにした。