機械の侵食 4話 機械の身体は知らないことだらけ 2/?
Added 2022-07-07 11:24:50 +0000 UTC「もう何度も見てるけど、いつ見ても綺麗な身体してるわ……」 人工皮膚の奥まで弄り合う程の仲ならば、美和の裸を見ることなど日常茶飯事。 それでも見ることは全く飽きないし、今この瞬間も触れ続けていたいような衝動に駆られそうになる。 しかし今はそんな時ではない。性欲値を自ら調節して気持ちを抑えながら、茉莉は丁寧に下着まで脱がせてあげた。 「これで一応いいかな。でも、どうしましょう。私達でも、こんなに派手に壊れたことはないから……」 整頓されたベッドの上で仰向けになる、全裸姿の美和だったもの。 よく見ると、彼女の女性器ユニットは、破損の瞬間に非常に強い快楽信号を発信したのか、人工愛液の乾いた跡がある。 今にも動き出しそうなくらい血色も良いのに、中枢が失われている以上動くことはない。 でも、そんな残骸を見ていると、茉莉の中で情欲がふつふつと湧き上がる。 そして、じっと見ているうちに我慢が出来なくなり、自分も衣服を脱ぎ捨てて、上から覆い被さった。 触れ合う乳房同士の感触は、もう何度も何度も体感し合ったが、美和側からのアプローチや反応がゼロな分、まるでそっくりのラブドールに重なっているような感覚を覚えた。 「でも、たまにはこういうのもいいかな……一方をスリープモードにした状態でこうしたり。けど、それにはまずは修復しないことにはできないものね」 壊れた相手を一方的に楽しむ背徳感も相まって、茉莉の感情値は密かに高ぶっていく。 本来ならば目線が合う位置で顔を合わせるが、その向こうには無残に破損した断面と、ベッドが見える。 茉莉は、美和だったものの残った下唇にそっと、自分の下唇を重ねつつ、ぺたっとくっついている舌を絡め取り、擬似的なキスを交わした。 「こういう遊びみたいだけど……相変わらず気持ちいいわ、美和の唇……」 乾いた表面に絡む、茉莉の人工唾液。それが移されることで一時的に生ものらしさが戻ってくるが、傍から見るとそれはゴア要素をやや強化したような様相だった。 キスの感触は同じ樹脂製の柔らかな、今までと変わらないそれ。反応が帰ってこないだけでもここまで感じ方が変わってくるのかと思考しつつ、茉莉はふと、ちょっとした楽しみを増やす方法を思いついた。 「そうだ、美和の中を触って……」 茉莉は、曝け出されている美和だったものの断面部、破損した無数の金属部品が露出した箇所を手で直接触れ、人工皮膚や生身の肉では絶対に得られない硬質的な感触を、センサーに感じ取った。 かちゃかちゃと鳴る音が耳心地よく、無意味に動かされる内部機構を感じながらのキスや乳房合わせ、また違った情感を得られた。 茉莉の中では、これによってちょっとだけ誤作動のような反応を起こしたりしないかな、という希望的観測を抱いていたが、結局そんなことはなく、ただただ女体を残した残骸がちょっとだけ揺れ動く程度だった。 「うーん……気持ちいいけど、やっぱり美和からも何かしてもらえなかったら物足りないわね」 人間では味わえない、独特の心地よさや高揚感はあるものの、やはり自分の愛欲や 情欲は、美和との絡みを起点に動いていたのだと、茉莉は実感した。 「私からできることはないし……このままひとまず放置しておくしかなさそうね」 二人はまだ機械化して間もなく、いざという時の対処法や、大きなトラブルに直面したことが無かった。 派手に壊れるにしても、一部が完全に欠けるような体験はしたことがなく、何より今回の事故は完全に認知の外からやってきたもの。 彼女達の現在の知識だけではどうにもならない。平常時のような振る舞いを見せてはいても実は、茉莉は焦っていたのだ。 だからこその、自分に言い聞かせるような独り言なのである。 ともかく、今はどうにもならないからと、茉莉はいつもなら二人で性行為を愉しんでいる時間にも関わらず、実質的にそれができないが故に、一旦美和だったものの横に寝転び、それの女体を抱き枕のように抱き締めた。 「どうやったら修復できるのかわからないけど……なんとかなるわ、美和……きっと」 自己修復機能が備わっているとはいえ、ここまで壊れてしまったらちゃんと機能するのかも分からない。 今は結局どうにもならないと諦め、茉莉は美和だったものの脚に絡みつき、両腕でぎゅっと引き寄せてから、遠隔操作で部屋の明かりを消してスリープモードに入った。 * * * それから、茉莉はひとまず何事もなかったかのように、いつもの生活へと戻っていった。 美和のSNSアカウントから一旦配信お休みの告知をしつつ、バイト先の喫茶店にも体調不良による休みの連絡を代わりに行う茉莉。 それらの作業を、通勤中に電子頭脳内で行いながら、会社員としての働きぶりをしっかりと披露していく。 しかし、美和との快楽的交友が抑えられた結果、いつもよりその業務効率は下がってしまっていた。 それでも、人間よりもさらに上位のスペックを得ている為、大きく余裕を持って誤魔化しが利く。 故に、茉莉の憂鬱さは、同僚達にバレることは無かった。 「ただいま」 機械化して以降で、最も元気のない声で帰宅の報せを口にする。 いつもならば、機械化前はお互いに挨拶を返し合うか、ドアが開いた瞬間に先生してお帰りを言うか。機械化以降は、電子頭脳同士で無線通信を行いデータ上の声とメッセージでただいまとおかえりを交換していた。 彼女達曰く、通信の方がより繋がって心がこもっている感が得られるという。 しかし今は、その両方が出来ない状態。 まるでステージ上の演出のように部屋の明かりを少しずつ点けながら自室に戻ると、美和だったものが、ベッドを椅子にして床に足をつけた丁寧な座り姿勢で待機していた。 これは、少しでも迎えてくれる雰囲気を作るために、茉莉が姿勢を整えて置いたものである。 まさしくラブドールのような扱いではあるが、彼女の気持ちは少しだけこのおかげで晴れていた。 茉莉は早速スーツから下着まで全て脱ぎ、美和だったものを抱き締めながらベッドに寝転がる。 「ただいま美和〜〜! ずっとこの感触が待ち遠しかったわ……もう、胸の奥がざわざわしてたまんないのよぉ〜〜……」 語りかけるような、帰ってこない独り言を喋りながら、胸同士を押し潰しつつごろごろとベッド上の転がる茉莉。 修復方法がわからない間は、この身体のことは抱き枕として扱うことにした。 モノ扱いに近い状態だが、あまりにも美和のことが恋しくて仕方がない彼女には、最も適当だという演算結果だった。 「でもね、こうやって美和の身体と触れ合ってると、とっても気持ちが落ち着くわ……ちゃんと美和の身体なんだもの……」 人工皮膚から人肌以下の体温を感じつつ、今出来る限りで愛情をぶつける茉莉。 心の奥で、また一緒に快楽信号を共有し合いたいと、寂しげな表情を一瞬だけ表しつつも、じっと我慢を自らに強いた。 その次の日。今日も美和は彼女自身の声で迎えてくれないんだろうなあと思考しながら茉莉が帰宅する。 「ただいま……」 早くまた壊れ合いたい。美和の腹部を掻き回したい。後頭部カバーを開いた状態で触れ合ってエラーを感じ合いたい。 そんな願望が湧き出すも、それを叶えられない虚しさから来る、元気のないただいま。 今日もまた、美和の感触を感じて、自分を慰めながらスリープモードに入るんだ……と、ネガティブになりながら自室に入る。 「ただいま……美和の声また聞きた……えっ?」 ルーティーンの如く部屋の明かりを点けて、すっかり日常となった、姿勢を正した美和だったものへと視線を移した。 その時、茉莉はこれまでとは違う雰囲気に気がついた。 「……もしかして、頭部が修復され始めてる?」 木っ端微塵になった美和の頭部。その下顎から上の金属骨格が、明らかに以前よりも復元され始めていたのだ。 それまで間違いなく存在してなかった上顎の一部。それは自動修復の賜物にほかならない。 「私達って自動修復されるけど、そういえば、美和の修復って異様に遅いわよね。いつも壊れあっても、大抵は朝までにはきちんと直ってるのに」 ここで、茉莉は違和感に気づいた。いくら派手に吹き飛んだからといっても、その修復ペースがいくらなんでも平常時よりも遅いことに。 茉莉は仮説を立てた。 中枢部が失われたから、自動修復機能の制御が失われて作業が鈍化してしまっているのか。 はたまた、リソースがそもそも足りないのだろうか。 その演算結果に行き着いた時、茉莉は目を見開いた。 「そうだ、それなら、美和の残骸とか色々くっつけてあげれば!」 自分達には、人間だった頃と同様に食事可能な機能が備わっている。 摂取した食物は分解されるか、物質変換によって存在そのものが変わり、修復などの材料へと転化されていく。 仮にそれらの摂取物がなくとも修復されているということは、空気中や周辺環境から素材の元となる物質を取り込んでいるということ。 ならば、少しずつ直っている今、残骸や何かしらの物を与えれば、一気に自動修復が進行するのではないか。 その結論にたどり着いた直後、茉莉は早速、大事にとっておいた美和の頭部の残骸を取り出した。 眼球ユニットや人工毛髪以外は跡形も無い部品群。正体を知るものでなければ、それを何かしらの小道具か何かだと思うだろう。 茉莉はそれを両手で作った器の中に入れ、ゆっくりと落とさないように美和だったものに近づいていく。 そして、そっと断面部の上で器をゆっくりと解きつつ、それらを押し付けるような形へと、手の位置を変えていった。 すると、それから数分後、残骸と断面の隙間から、かち、ぎち、と金属同士が柔らかく繋がり合っているかのような、奇妙な音が聞こえてきた。 この瞬間、茉莉は確信した。自分の仮説は正しかったのだと。 「ああ、美和……! これで直るのね!!」 ようやく美和が戻ってくる。その嬉しさが心の底から湧き上がってくる。 茉莉の押さえる手の強さが思わず強くなり、ぐらっ、と首が揺れ動く。 その間も、残骸は少しずつ形を失い、構成された金属部品と同じ物質へと変わっていく。 みるみるうちに形状も造られていき、ついには、ただの断片でしかなかったガラクタ達は、残り1割部分が欠けただけの金属の頭蓋骨へと変形した。 「すごいわ! 本当に直ってる!!」 魅力的な女体の首から上に、黒い頭蓋骨がくっついているというホラーモンスター的な身姿だが、茉莉にとっては希望の象徴とも言える姿だった。 もう、ぼーっとなんてしていられない。 茉莉は、家内から適当な小物や、不必要な道具類を一気に持ち出し、まるで粘土で代わりの人形を作る儀式の如く、頭蓋骨の周りに同じように押し込んだ。 ガラクタと同じように、みるみるうちに不気味な金属音をたてながら、残り1割の欠けた頭骨箇所、さらには電子頭脳までも構成されていき、徐々に美和の欠けた部分が取り戻されていった。 押し付けたそれが全て無くなると、また新たな物品類を押し付ける。 今度は、それらは樹脂製の人工皮膚や眼球、集音ユニット、各部形状の補正、人工毛髪など、各構成部品へと変化し、失われた部分を次々と埋め尽くしていった。 そして、物質変換が行われなくなり、物品が欠けたまま変化しなくなったのを見た瞬間、茉莉はバッテリーを熱くした。 吸収されなくなったということはつまり、欠けた部分は無くなったということ。 ついに、美和が元に戻ってくれたのだと。 「や……やったーー!! 美和が! 美和が直ったわ!!」 修復されたばかりの美和は、目蓋を開いた状態で虚空を見つめていた。 普段の明るい雰囲気からは考えられないくらいに表情も空気も冷たく、生気は一切感じられない。 背筋を伸ばして、茉莉が整えたままの姿勢で座る姿は、さながら展示された美術品の人形のよう。 破損する前と寸分変わらない、綺麗でありつつ可愛らしい美貌。 思わず人工愛液がこぼれてしまいそうな程に、茉莉の感情値は昂ぶっていた。 「これでまた、美和との毎日が戻ってくるのね! 本当に良かった……このまま一緒に寝てもいいけど、やっぱり電源は入れないと」 今からでも、美和の顔を見つめながら絡み合いたいが、それよりもまずは彼女の人格とまた触れ合いたい、気持ちを交わし合いたいと、茉莉は彼女の首筋の皮膚カバーを開ける。 そして、接続端子の横にある電源ボタンを押し込んだ。 すると、美和だったものは全身をびくん、と揺らし、瞳に光を宿らせた。 ようやく、愛する美和に再会できる。彼女はそう思っていた。 しかし、事態は彼女の想像から大きく反れた方向に進むことになる 「電源が入力されました。名称未登録機体、起動します。システムチェック中……」 「えっ?」 「システムチェック終了しました。現在当機体には人格データがインストールされていません。その為、人格エミュレートが実行できません。基本人格による起動を実行します」 「…………えっ?」 美和に戻ったはずの機体が発した言葉は、茉莉が聞いたことのない未知なる言語だった。 おおよそ言っていることはわかる。起動時の定型メッセージなのだろう。 だが、細かな内容まではわからない。 その言語は、惑星ペリメイズの使用言語であり、茉莉が全く耳にしたことのない言葉ばかりだった。 現在地球上にいる元人間達や改造されたアンドロイド達は、ペリメイズ基準の機械言語や使用言語をデフォルトに設定されており、改造にあたって地球上の言語にも対応出来るように設定されているのである。 同時に、改造された時点で、設定次第でペリメイズ語も読み取れるようになっているが、元々地球人である人々やアンドロイドは、自ら翻訳機能を起動しなければ読み取ることができない。 まだ何語かもわかっていない、戸惑いばかりの茉莉には、そこまで思考が回らなかったのだ。 「えっ? 何言ってるの? あっ、もしかして……これがペリメイズ語って奴なのかしら。なら、翻訳機能を使用して……」 美和であるはずのものが瞬きをして、ゆっくりと茉莉の方を向いた頃、彼女は咄嗟に気づいて翻訳機能を起動し、未知なるペリメイズ語を解読可能にした。 しかし、直後に彼女が聞いたのは、耳を疑う一言だった。 「初めまして。当機体を起動して頂き、ありがとうございます。現在当機体の名前は登録されていません。よろしければ、当機体の名前を登録して頂けないでしょうか?」 美和の姿をした機械人形は、彼女の面影の無い、非常に丁寧な感情のない言葉遣いで、茉莉に喋りかけた。
Comments
ありがとうございます。 彼女達がこのトラブルをどうしていくのかお楽しみください!
土装番
2022-07-11 09:07:10 +0000 UTC土装番樣の今度の小説の中で個人的に今回4話のエピソードが一番興味津々だと感じます! 次のパートも待ってます!
Y.Ginko
2022-07-07 22:51:29 +0000 UTC