機械の侵食 4話 機械の身体は知らないことだらけ 4/4
Added 2022-10-04 13:37:55 +0000 UTC意味深な言葉を聞いた後、メトニアに美和の全データに関するあれこれも含めて、話があるか会いたいという提案を持ちかけられた。 マスターからの指示ということもあって、茉莉はそれを受諾し、美和と一緒に指定場所である、自宅からやや離れた場所にある廃ビルの中で待ち合わせることになった。 放置されてから何十年も経過している建物の中。見るからに古びており、埃っぽく、人間のままだったなら不快感の塊だっただろう。 だが、機械化した現在ならば、もう少し快適に動くことができる。衛生面では気分の問題もあって不快さは残るが、それでもかなりマシ。 そんな状況でも、相変わらず人格の無い美和は、無表情のまま、何の意味もなくじっと窓の方を見つめ続けていた。 「ずっとそっちの方を見続けて、何かあるの?」 「いいえ。現在マスターからの待機命令を受けていますので、こちらで待機しているだけです」 どこまでいっても、今までの活発な美和らしさが感じられない、機械的な彼女の姿。 生まれ変わったばかりの自分達よりも、この機械の身体をマスターが熟知しているとはいえ、本当にデータが復旧するのだろうかと半信半疑な茉莉。 だが今は信じて待つしかない。与えられた指示通りに待機していると、自分達も通った階段の方から足音が聞こえてきた。 それから間もなく、一人の女性が彼女達の前に姿を現した。 「おお、ちゃんと二人共集まってるな」 「どうも、お世話になってますメトニアさん」 「お待ちしておりました、マスター」 彼女こそが、二人を機械化し配下に置いた張本人である、ペリメイズ人のメトニア=パティアラス。 強めの語気や中性的かつ女性寄りな音声に違わず、綺麗に整えられた黒のオールバックに、鋭い目つきをした、二人よりも大人びた強気な雰囲気を醸し出す非常に美しい顔立ち。 雑誌モデルのような、ラインのはっきりしつつも色合いや模様を考えられた服装の組み合わせに、完璧とも言えるボディライン。 両胸はしっかりと服の下からでもわかる程にハリよく大きく、固そうな印象すら思わせる。 まさしく美脚の権化とも言える両脚は、歩く姿すら映えるほどのものだった。 そんなメトニアは、到着から早速美和の方へ近づき、じっと無表情な彼女の顔や身体をじろじろと見回した。 「なーるほど。確かに私と会った時とは全然違うな。内部データが失われた時の特徴だ」 「そ、それで……本当に直るんですか……? 美和のデータは……」 「勿論だ。というか、自分の身体のことなんだし、把握してないのか? このシステムはお前にも備わってるんだぞ」 茉莉は思わず、頭上にハテナを浮かべた。そんな機能が自分の身体にも備わっているのだろうか。 そう思考している間にも、メトニアは、美和が着ている服を唐突に引っ張り上げ、綺麗な腹部を晒した 「私達の身体は本当に良く出来ててな。こういう時に備えての機能も実装されてるんだよ。ほらここに」 そう言って、メトニアは右手を出し、人差し指を突き立てる。 直後、左手で背中を支えつつ、それをいきなり美和のへその奥まで突っ込んだ。 美和は微動だにしていないが、わずかに身体を震わせ、乳首が少しだけ固くなった。 そして、挿入された指を軽く回すと、へその周囲に人工皮膚の切れ目が表れ、わかりやすく迫り出したと理解できる音と共に、前面に押し出される。 メトニアがその隙間に親指を置くと、飛び出したそれをずるりと引きずり出した。 人間らしい柔らかなへその奥には、生物感の一切存在しない、最奥に接続端子らしきものが備わったスティック状の部品が備わっていた。 「……なんですかそれは?」 「これは私ら全員に備わっている外部記憶媒体だ。この星で言うならUSBが近いだろうな。私らの全データは、電子頭脳以外にもここにリアルタイムでバックアップされてる。私もお前もそうだぞ」 機械化されたペリメイズ人が、もしもの時の為に実装したのが、現在メトニアが持っている記憶媒体である。 たとえ自己修復が可能だとしても、今の美和のように中身が一緒に備わっていなければ意味がない。 だからといって、全部品や構成物質に全記憶データを刻み込む上に、それをリアルタイムで更新するとなっては、現時点でもまず非現実的。 そこで、人間として生を受けた時点でも無用の長物であり、似せて作られたロボットにも再現性の一つとして実装されている、指などの細い物を挿入可能なへそ部分に、別の記憶媒体を組み込んだ。 これを自らに差し込むことで、たとえ内部データが失われても、すぐに復元することができる。 データ送信の際にも自動でセキュリティチェックが行われている上、電子頭脳内データの受信以外では独立している為、安全性も高い。 まさに、存在を存続させる為の隠し機能と言えるものだった。 「私にも実装されてるんですね……知らなかった……」 「おいおい、生身の脳みそじゃないんだから構造の理解くらいはできるはずだろ?」 「機械化したばかりで、全身機能の把握は全然出来てないんですよ! ずっと美和と愛し合ってばかりでしたし……」 「あー、まあなるほどな」 二人が人間だった頃は、そこまでディープな関係ではなかった記憶があるが、やはり機械化によって快楽信号を求め、タガが外れてしまったのだろうか。 いずれにせよ、ロボットとして刻まれた自壊本能を省みれば、それは当然のことだし理解できる。メトニアも、母星に居た頃は同じような暮らしをしていた。 そういう意味でも、目の前にいる二人には共感を覚えていたのだった。 「ともかく、とりあえずこれで元に戻るから、早速始めるぞ」 「は、はい! お願いします!」 「そう大層なもんじゃねえんだがな……」 茉莉の眼は、既に希望に満ち溢れていた。ようやく愛した美和が元に戻るなんて、絶望に打ちひしがれたここ最近の日々からは考えられない。 現状の温度差に思わず、信号処理に遅延が生じそうになるが、メトニアは慣れた雰囲気で、美和の首筋カバーを外し、現れた差込口に記憶媒体を差し込んだ。 「…………バックアップデータを確認しました。インストールを開始しますか?」 「はよしろ」 「かしこまりました。インストールを開始します」 もう何度聞いたかわからない、冷たく感情のない美和の声ではない喋りで、システムメッセージを口にする。 それから5分程度、時折指や唇が震えながら、少しずつ美和という存在の膨大なデータが改めて入り込むのを待つ。 「あの、メトニアさん。どうして私達を呼んだんですか?」 「ああ、それはな」 「インストールが完了しました。全データ最適化後、再起動を行います」 「間が悪いな……」 元々の本題は、メトニアが二人に伝言があるというもので、美和の復元はただのついででしかない。 そこで、自分達を呼んだ目的はなんなのだろうかと、先に茉莉が聞こうとしたところで、ちょうどバックアップのインストールが終了した。 呼吸もなく、溜息をつくような動作で少々バツが悪そうにするメトニア。 一度美和の瞳の光が消えて再点灯し、目の奥の絞りが収縮した後、今までと変わらない機械的な雰囲気で口を開いた。 「再起動が完了しました。バックアップデータは正常にインストールされました。人格エミュレートを起動します…………」 その声は確かに、茉莉がよく知る美和の声だった。 彼女特有の口調ではないが、何度も絡み壊れたときに彼女としてのシステムメッセージやエラーメッセージは何度も耳にしている。 この瞬間、茉莉のバッテリーや電子頭脳は興奮によって熱くなった。 そして、美和の表情が取り戻され、屈託のない笑顔が作り上げられていく。その表情に、茉莉は見覚えがある。それは、工事現場の鉄骨が落下する直前の表情だった。 「…………を発生させたるから! あれ? どこやここ? ん、なんでうちのへそに穴空いて……ていうか、なんてメトニアさんと茉莉が一緒におるん?」 彼女が復活後に最初に発したセリフも、予期せぬ破損で途切れる前のセリフの続きであり、まさに彼女の時は完全にそこで止まっていたのだ。 茉莉と隣り合って歩いていたはずなのに、いきなり知らない場所で、マスターと茉莉と一緒にいて、さらにはいつの間にか服装も変わって、へそにはぽっかりと空洞が生まれている。 混乱してもなんら不思議ではない現状。だが、美和の視界にははっきりと、人工涙液を浮かべる茉莉の姿が写っていた。 「よかった……よかったわ……あぁ……美和ぁ……このままデータ消失したものかと……」 「えっ、何がなんなん? とりあえずどういうことなんか説明してくれへん?」 至極当然の言葉も思わず吐き出す美和。だが、茉莉の人格データに生まれた突発的な情動は、ずっと「美和という相手」と快楽信号を共有したかったという願望をここで爆発させた。 「うわっ!? ちょっ、どうしたんや茉莉!?」 「さっきまでいたのはやっぱり、美和の形をしただけのアンドロイドだったのね……こうして本物になった美和がいてくれるだけで、私は幸せで仕方ないの……ずっと、ずっと待ってた……美和が戻ってきてくれるのを……」 復活したばかりで、状況がまともに掴めていない美和を押し倒し、衣服を脱ぎ捨て上半身を曝け出す茉莉。 もう生物ではないのに、発情期の動物のような目つきで頬を染め、右手の指を強く美和の下腹部、人工子宮の位置に当たる箇所へ押し当てた。 「さあ、美和もしましょうよ……ずった、またこうする時を待ってたんだからぁ……」 目の前で発情する姿を見せられると、美和もだんだん、彼女の淫乱な姿に感情値が変化を起こし、突発的な性欲が湧き出してきた。 「せやな……じゃあ、うちもここでしようやないか」 とうとう二人だけの世界になり、お返しのように茉莉の下腹部にも右手指が当てられる。 お互いの指の感触が、人工皮膚を通じてセンサーに伝わってくる。 そして、まるで何十年も一緒にシてきたかのような同調ぶりで、二人は同時に指で皮膚を突き破り、その先にあるそれぞれの人工子宮を握った。 指が、作り物となった子袋に触れ、鋭い快楽信号が電子頭脳にほとばしる。 直後、二人はその上を覆う人工皮膚ごと、一気に子宮ユニットをぎゅっ、と握った。 「あああっっ!!」 「ああんっ!!」 ぶちぶちと音を立てて皮膚が破れつつ、女性器ユニット全体がバイブのように振動する。 クリトリスは震え、肉筒は揺れ動き、人工愛液が漏れ出した、 茉莉にとっては、まるで何年ぶりかのような快楽信号の交わし合いだが、美和にとっては突如訪れた愛する相手との知らない場所での情動。 それぞれに湧き上がる感情の動線は違うが、お互いに何度もユニットを握り合い、ついには乳房同士、身体同士をくっつけあいつつ、絡み合い始めた。 「あ゛っ! ちょっ、茉莉っ! 強くしすぎやっ……はあんっ! あっ! そんなっ……されなら……ああっ!!?」 「あっ! ああっ!! やっぱり……三の……はあっ! 力加減が……あんっ! きもちいの……ああんっ!」 極度に密着し、身体のあらゆる場所から感触を感じ取り、濃密にくっついては擦れ合う二人。 子宮ユニットを握る力は時折強くなり、まるでポンプのような扱いをウケつつも、そこから出る水のごとく人工愛液を垂らした。 固くなった乳首が擦れ合うのも、胸が潰れあっているのも、もう何もかもが気持ちよく感じる。互いの人格の挙動が乱れてしまうくらいには、もはや二人は今の行為に夢中になり続けていた。 「もっと……もっとしましょうよ美和……もう、壊れて機能停止するくらいまで……あぁっ!?」 「うちも、早く茉莉に壊されたい……はあんっ! もう、耐えられへん……我慢でき……へんねんもん……あんっ!」 どれだけ続ける気なのかもわからないが、もう二人には周りが見えていない。機能停止するまで壊れたいとすら思考している。 快楽信号と、それぞれへの愛情が昂り、互いに与える刺激もより強くなり、愛する相手を絶頂させたいという気持ちでいっぱいになっていた。 そして、二人は挙動や音声の微妙な変化を感知し、絶頂を迎えさせようとする。 「あっ! あっ! あああっ!! 美和ぁっ! また、こうしたかったのっ! あんっ! あ、あ、ああっ! イくっ! 快楽信号がいっぱ⬜⬛#0=%0!!??」 「あんっ! あんっ! うちも、はよう茉莉といっぱい、あっ、おかしくなりたいわ! あ゛あっ! あんっ! うちも、もう、我慢でき⬛$&=030!!?」 人格データの反応は最高潮に達し、最後まで壊れ合うに際して最初の絶頂のつもりで、二人はほぼ同時に言い知れない幸福にたどり着いた声を上げようとした。 しかしその時、二人の背中を二本の鋭く尖ったピッケルが貫き、バッテリーごと胸の谷間まで貫いた。 快楽の爆発にまで至るような瞬間に、突如訪れた致命的な破損と、そこから生じる爆発的な快楽信号による開放感と多幸感。 二人は破損の瞬間、電子音の悲鳴を上げ、ぎゅっと互いの子宮ユニットを握ったまま、背中を仰け反らせて非人間的な痙攣を起こした。 人工愛液の潮が、女性器ユニットからスプレーのように噴出し、まるで回路が焼き切れんばかりの気持ちよさを味わった。 「……お前ら、壊れた気持ちよくなるのは私達としては大変素晴らしいが、まずは私がここに呼んだ用件を思い出せ」 メトニアは話が進まなくなるとわかっていながらも、敢えて空気を読んで絶頂の瞬間まで待ってあげた。 その上で、タイミングを見計らって、ピッケルのように変形させた両腕で同時にバッテリーを貫き制裁を加えた。 二人は気持ちよくなりながらも、もはや緩慢に全身を震わせるだけで、動力源を失ってはまともに動作することもできない。 蕩けるような表情で顔は動かなくなり、今にも事切れそうな状態となった二人は、そのまま機能停止する時を待つだけだった。 「⬛$0…………3hy…………:9⬛………………」 「#&_4…………0%0@…………&%4_&9………………」 電池で動く玩具のような稚拙な挙動に成り下がり、その口から出る音も、彼女達の声をしていない。 そして、まるでそんな時でも通じ合っているかのように、二人はそのまま機能を停止した。 「まったく、それだけ愛し合っていたんだろうが、まずは手順を踏みやがれってんだ。見てて私まで濡れてきてんだろうが」 メトニアは、自分で開けた二人の穴に指を入れ、少しずつ修復をしてあげた。 彼女の言う通り、真面目に事を進めようとしている言動の裏で彼女は、衣服の下で股間を濡らし、内部機構に触れている今も、クリトリスをひくひくと揺れ動かしていた。 こいつらとはするつもりはないが、用件が終われば一人で壊れたい。メトニアは密かにそう思考していたのだった。 * * * 不測の事態から、いちゃつき壊れあってしまった茉莉と美和。 またもやそうならないように、上位機体権限で行動制限を加えつつも、メトニアは二人を修理し、改めて本題へ入ろうとした。 「ったく、そもそもここは廃ビルなんだからよ、不審に思われたらどうすんだ。まだまだ私らは正体明かすわけにはいかねえのに」 「……すみませんでした」 「……すんません」 「理解すればいい。けどな、私達はこれから少しずつ、この『機械の身体から当たり前になる』ように行動していく。こそこそ動いてはいたが、私らの仲間は着実に増えてんだ」 「それって……もっと同じ機械の身体を増やすってことですか?」 「そういうことだ。この星は私達のペリメイズに比べてテクノロジーは下の下だが、社会そのものはそれなりにしっかりしてやがる。だから強引な手は取れねえからな……だから少しずつ進める。その手段もだいたいの仲間には共有済みだ」 茉莉と美和の顔に、これまでとはまた違う笑みが浮かんだ。 人の身体を捨てて、この素晴らしく心地よい機械の身体にみんながなれる時が近づいてきているなんて。 それはとても、喜ばしいことだった。 「良いですね……みんなも私達のようになれるのね……」 「ほんま……みんなもはよ機械になれればええのになぁ」 「この国だけに収まっていたが、もう間もなく準備が整う。この星全てに、機械であることの素晴らしさを共有しねえとな」 鳴りを潜めていたペリメイズ人とその眷属達が少しずつ動き出す。 密かなる侵食が始まることを、地球上の人類はまだ知る由もなかった。