店員から筐体へ 1話先行公開版
Added 2020-08-14 12:53:57 +0000 UTC現代よりも少しだけ進んだ、とある未来の時代。 人間と殆ど見た目の遜色が無く、技術の向上と学習データの積み重ねによって違和感が少なくなった対話機能を備えたアンドロイドが、都市部を中心に次々と普及し始めていた。 機体によって個体差はあるものの、首筋の接続ポートや、首や関節部などの様々な部位に継ぎ目が存在したりと、人間との視覚的な差別化も図られている。 人間のような見た目と振る舞いをしていても、通りすがりの人の首元や手首を見れば明らかな違いを認識できた。 アンドロイドは機械人形であり、モデルによってはただ人間らしく振る舞い動くだけでなく、人体としてのスペース内や内部機構に、人間には搭載できない機能を付属させることも可能となっている。 機体内のスペースを小物入れとして利用する物や、電子頭脳そのものにゲーム機を付加し利用する物、包丁や計量スプーンなどを仕込み家電製品機能を付与された物。 メーカーから提供されたタイプや、オーダーメイドで様々な機能を付属された機体と、アンドロイドは外側から内側まで、用途や持ち主によって多種多様な個性を持つようになっていた。 その一方、アンドロイドよりはマイナーだが、人間である自身を高性能な機械人形へと生まれ変わらせる機械化テクノロジーも少しずつ進歩、認知されるようにもなり始めた。 だが、未だその技術は発展途上。人間らしさは存在しても、0から造られるアンドロイドよりも結果的にスペックが低くなる等、最終的には以前よりも人間らしさが欠けてしまうといった事も多く発生していた。 しかし、それでもアンドロイドへの憧れを抱き、自らを進歩した人類として機械化する者や、誰かの指示によって機械化する者も存在し、生身の身体を捨てる人々は少なからず見受けられた。 機械になるということは、外部機器からの操作も必然的に受けられるようになる。 それはいくつもの恩恵があるのは間違いない。同時に、自身のアイデンティティを他者によって改竄されるリスクも存在しているのである * * * 「いらっしゃいませー! あぁ……今日も外暑そうだなあ。クーラー効いててほんとよかった」 都内の某所に存在する大型のゲームセンター。 そこで働く女性店員の鈴木麻友は、来店する人々を眺めながら、嫌というほど日射し照りつけてくる外を見て、口元を少し引きつらせていた。 「うわ……ドア開けただけでもすっごい暑い」 日光に照らされる、麻友の魅力的な容姿。 輝きを帯びて艶めくさらさらとしたショートヘアに、どこか少女性を残しながらも大人の魅力を帯びた、整った顔立ち。 画一性を生み出す制服によってより強く目立たせられる、服の下から主張する大きな乳房。 半袖から露出された絹のような肌と、剥き出しにはなっていなくてもそのラインの美しさから素晴らしい造形を思わせる美脚。 全体的に非常にバランス良く高水準に整った彼女の容姿は、まさしく人工美のアンドロイドと比べても遜色はなかった。 「出たくないなあ……外」 クーラーのガンガン効いている、夏にはとてもありがたい冷涼な室内。 ちょっとでも外に出れば、すぐにでも気分までぐったりしそうな暑さに襲われ、どんどん汗もかいて冷えたドリンクやアイスも欲しくなるだろう。 勤務中とはいえ、快適な場所にいる今はそんなことをあまり考えたくない。 そう思いながら店内の奥まで戻っていくと、また別の女性店員とすれ違う。 「今の外、相当蒸し暑そうよね。来る客ほぼ汗かきっぱなしだもの。ほら、アイスも売り切れ出始めてる」 「うわあ……ほんとですね。休憩までには残っててほしいなあ」 彼女の名前は宮口早紀。 同じゲームセンターで働く一年先輩であり、ボディライン際立つ制服が扇情的で非常によく似合うセミロングの女性。 大人びた端正な顔立ちに、綺麗な姿勢から強調される、服の下から張る麻友よりも大きな乳房。 それでいて元来の高身長が、引き締まった体型をより際立たせ、事あるごとに来客者の眼を強く引いていた。 「今は涼しいからいいけどねぇ。あたしが汗かいたら視線気になっちゃうもの」 早紀の身体を見つめて、ああまあそうだよね……という目線を無言でじっと送る。 そんな視線を同僚から送られた早紀は、ふっ、と小さな鼻息だけを出した。 「けど、それは麻友も同じなんじゃないの? あたしみたいに良い体してるんだから」 「私は早紀さん程魅力的じゃないですから。勝てないですよ」 「……さ、変な話してないで、仕事戻りましょ。こんだけ人が多いとどうせ何か起きるんだから。暑くなるし」 「まあそうですよね。あ、噂をすれば……ちょっと行ってきますね」 ちょうど話の切れ目が出来た所で、店員の呼び出しベルが届く。 麻友は綺麗な先輩に笑顔を向け、急いでその受付の方へと走っていった。 そんな後輩の姿が見えなくなった直後、早紀は表情を消し、露骨に今彼女がいるであろう方向に睨みつけるような眼光を送った。 「まったく、いっつも自分の身体に無自覚ですーみたいな顔して……」 「すみません、少しいいですか?」 「はい! どうなさいました?」 「クレジット入れたんですけど反応しなくて……」 「少々お待ち下さい」 ちょっとした合間が生まれても、涼しい場所を求めて遊びに来た客の雪崩に飲み込まれてしまう。 麻友に続いて早紀も真面目に仕事へと戻り、この日の店員達は、真夏日の室内であっちへこっちへと奔走していった。 たとえ冷涼な空間でも、人が増えれば自然と密度が増し、効果薄れていく。 二人の間、ひいては店員間でも予想していた事態は少しずつ 少しずつ現実化し、徐々に室内の温度は温くなっていった。 「暑い……冷却水が欲しいわ……」 さらに、人間と一緒に入店するアンドロイドが、熱の籠もった身体を冷却する機会を求めてベンチに移動し、各々の排熱機構を開放して煙を上げたり、一部を開放した状態で水を求めたりと、熱を外に逃がそうとする行為が店内のところどころで行われていた。 「電子頭脳の温度が温度が上昇しし、パフォーマンス低下のおおお恐れ恐れ恐れ…………後頭部ハッチを開放しし、します」 設置型の冷風機の側で、虚ろな瞳で口元に笑みを浮かべながら痙攣する女性型アンドロイド。 機体内の熱を早急に逃がすため、冷風を直接後頭部に当てながら、自身の中枢を惜しげもなく曝け出した。 開放と同時に吹き出した煙が冷風に吹き飛ばされ、かくん、かくんと何度も震えるアンドロイド。 数分のあいだそれを繰り返し続けた後、ようやく挙動が正常に近づいた様子を見せる。 「………………危なかった。今日はバックアップ取っていないから、データが飛んだら大惨事よ。破損データも見られないし……ああ、よかった」 挙動を取り戻した女性型アンドロイドは、電子頭脳内で自身がプレイするゲームのポータルサイトを開き、実施中の連動キャンペーンのチェックを開始した。 たとえ人間ではないアンドロイドでも、ゲームセンターに来る以上は一人のプレイヤー。 自分のパーソナルデータが助かったお礼も兼ねて、女性はイベントチェックと同時に電子マネーをチャージし、後頭部のハッチを閉じて筐体へ移動した。 こうしてこの日の昼の時間帯は、倒れそうな暑さからの棚ぼた的に大盛況となった。 新しい存在の客も混ざってもなお、人々を楽しませ続けているゲームセンター。 時代と共に、新作タイトルや新たな筐体、自宅では出来ない体験をいくつも提供してくれる素敵な場所。その娯楽の種類も多種多様。 そしてこの店も、現代のテクノロジーを存分に活用した新たな娯楽を、店員の献身の元に導入しようとしているのであった。 * * * 「それじゃ、お疲れ様でーす」 ようやく人入りが落ち着き始めた夕方頃、退勤時間の訪れた麻友は、既に帰宅した早紀以外の他の店員や店長の福村祐介に挨拶を向けつつ、店を去ろうとしていた。 「ああちょっと、麻友君は少しだけ残ってくれ。話がある」 「はい、なんでしょうか……?」 「まあ、まずはこっちに来てもらいたい」 とりあえず言われるがままに、疎らな客の間を縫いながら背中をついていく麻友。 そうしてたどり着いたのは、店舗の一角に用意された、モニター付きのフリースペースだった。 この日は機材調整中の張り紙を用意し、客の使用を禁止されている。 「フリースペース……? ここがどうしたんですか?」 「現在フリースペースでは、様々な客が自由に遊び道具を持ち寄って、それぞれに遊んだりしている。今のゲーセンではこういう気兼ねなく休める場所は貴重でね、最近の風潮もあって設置したんだが、思いの外好評だった。それは麻友君も知ってるだろう?」 「ええ、よく申し込みしたいって方や、どうすれば使えるかの質問も来ますね」 「だろう? それで、中にはとりあえず何も持ってなくても使いたいって人もいてね。だが、こちらとしてはどうか遊んでもらいたい。外からそういう姿を見せてるほうが、自分も使いたいって思うだろうからね。今後はスペースの増設も考えている」 今の所、この話がどう自分を引き止めたことに繋がるのか、いまいち掴めていない。 そう考えた直後、店長は改めて麻友の方を向き、こほんを気を取り直して口を開いた。 「今後は機材の貸し出しも行おうとは思っているんだが……色々と問題があってね。そこで、麻友くんに提案したい。費用は全てこちらで出すから、機械化手術を受けてみないか?」 「……えっ、ええっ!?」 それは予想外にも程がある提案だった。 機械化手術の話は、ニュースや噂でたまに耳にする程度で、自分にはおそらく縁のない話だろうと思っていた。 そんな話がまさか、自分に舞い込んでくるとは。麻友は戸惑いを隠しきれず、目を見開いた。 「あの、どうして私に?」 「君が人気のある店員だからだよ。看板娘と言ってもいい。セクハラと言われるかもしれないが、スタイルもいいし顔もとても可愛い。それでいて接客態度も素晴らしい。そんな店員が機械化すれば、仕事においても日常生活においても、より良い方へと向上するのは間違いない」 おそらくその表情の真剣さから、嘘は言っていないであろう雰囲気に、余計に恥ずかしく顔が赤くなる麻友。 驚きが隠せない程のべた褒めっぷりに内心嬉しく思いながらも、根負けしかけているような声で返答する。 「その……以前から少しだけ機械化自体には興味はありますけど……私、機械そのものはそこまで強くないですよ? 筐体のメンテナンスも頑張って覚えたものですし……それに」 麻友の視線は、チラッと別の方を向く。 その先にいたのは、アンドロイドや人間達が群がっていた冷風機とは別のクーラーの下で少し屈み込み、熱くなった電子頭脳を開放しながらタイアップキャンペーンの景品を眺めて表情を蕩けさせている、女性型アンドロイドだった。 「うわ尊い……あはは……ぁぁ……この筋肉の描き方さささ最高……冷却ししてもしても追いつかない……公式ほんとありがとう…………」 「ああいうふうに、人間とは違う体調管理も必要なんですよね? 私にそれができるかどうか」 「それに関しては、確か機械の身体で行動する為のマニュアルがインストールされるって話だから、それで大丈夫なはずだよ。人間の時よりも生活の快適さは段違いって聞くし、その点に於いて心配はいらないさ」 機械化後にインストールされるプログラムによって、訪れる変化には対応出来るかれ問題ないという。 人間らしい振る舞いや感情表現を持っていても、それはあくまで人の形をした、電子頭脳に組み込まれたプログラムに従い動く機械人形、 自分がそんな存在になるというのは、いったいどんな感覚なんだろうか。 ちょっとした不安こそあるものの、その提案に対する答えは決まった。 「……わかりました、受けてみます。前から少し興味はありましたから。けど、何か問題が起きたらすぐに対応してくださいね」 「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃ、シフト空けておくからこの中に入ってる日程とマップに従って機械化施設へむかってくれ。もちろんこれ自体は仕事なわけだから給料は出しておくよ」 やや怪しく思えるくらいにスムーズに話が進み、麻友は店長から諸々の書類や案内事項が入れられた封筒を受け取った。 そして、店長は改めてお疲れ様と言ってその場を去っていった。 封筒の中身を軽く覗きながら、ゲームセンターを出て自宅へと向かう麻友。 中にあるのは、印刷されたマップや簡易的な予定表、申込書らしき書類と、様々な種類の紙が封入されていた。 ファイルデータを携帯端末に送信すればいいのに、と思いながら、麻友は歩きながら地図を眺める。 「……まさか、機械化を提案されるなんて。けど、これからそういうのは主流になるよね……たぶん」 まだ見ぬ最新テクノロジーを、その身に体験できる貴重な機会であることは間違いない。 しかもそれを、自身の出費も無しに享受できるとはなんと都合のいいことか。 「ふふっ、人間じゃなくなっちゃうけど、アンドロイドになるっていうのもいいよね。みんな可愛いし綺麗だし……ちょっと怖いけど楽しみね」 だが、彼女の中にはその漠然とした怪しさへの危機感は殆ど無く、むしろその要素は同僚への信頼によって抑えられ、自分に訪れる未来感によって気分が高揚していた。 機械化したあとの自分の生活はどうなるのか、まだまだ想像もつかない。 どんなことができるんだろう、脳内操作で電化製品が動かせるのかな、携帯端末を手元で操作しなくてもよくなるのかな。 そんな妄想を抱きながら、麻友は人と機械入り混じる人混みの中を歩いていった。 * * * 「認証コードを確認。申込書を受諾しました。既にお話は承っております。手術室へご案内しますので、こちらのスタッフの後ろをついていってください」 何度か目の前を通り過ぎたことはあったが、実際に入るのは初めてな機械化施設。 中では、元人間なのかアンドロイドなのかもわからない、非常に丁寧な対応を行う女性の受付スタッフが提出した申込書を読み込む。 それを受理された後、また別の女性スタッフが、他の機械化希望者とは違う入り口へとスムーズに案内してくれた。 どちらも容姿はそれぞれ違っていても、その人間的なブレを感じさせないです完璧な所作と対応は、とても機械らしいと感じる。 「手術前に契約書へのサインが必要になりますので、しっかりと内容を確認してください」 プログラムされた微笑みを浮かべたまま、まさしくテンプレートなメッセージを口にする女性スタッフ。 道中、おそらく機械化したらしい人々が、様々な動作確認を行っている姿が見て取れた。 「…………あれ? なんかおかしいような……」 しかし麻友は、その人々の姿に少しだけ違和感を覚えた。 「冷却機能は正常に作動しています。現在体内に保管された飲料は…………」 「頭部を外して、これを着けて……胴体部に新しいユニットが接続されました。ああこういうことね! これであたしの当部がサブカメラとして使えるわけだ!」 「御主人様が望む機能は全て搭載されています。詳しくは、当機体に対応したアプリに……」 比率的には女性の割合が多いが、それよりもその彼女達の動作が、やや道具扱い寄りの雰囲気が強く漂っていた。 偶然にもそういう改造を希望した人達が多い時に当たったのだろうか。 その当りのことはよく知らない麻友は、深く考えることはせずにそのまま進んでいった。 そして手術直前。麻友は提出された契約書の、非常に長く事細かに記された規約部分をなんとか読み進めようとする。 が、あまりにも長過ぎる上に、今この場でしっかり読み勧めたらどれだけ時間がかかるかわからないと諦め、途中で読むのを辞めて同意のサインを記入した。 「規約への同意を確認しました。それでは鈴木麻友様。着用している物を全て脱いでこちらへお越しください」 麻友はスタッフの指示に従って、身につけている衣服を下着まで全て脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿に変わった。 その美しく扇情的な肢体は、腕を重ねて身を縮めても魅力が溢れ出ている。 アンダーヘアや、やや薄めな産毛、緊張から出ている汗、ほんの少しだけ見られるシミなど、人間らしい特徴はそこかしこに確認できる。 そして、少々及び腰な足取りで先に進み、女性型アンドロイドばかりの手術室へと入っていった。 「鈴木麻友様、本日はよろしくお願いします」 「よ、よろしくお願いします……」 「それでは、この手術台の上に仰向けになってください。その後は我々で調整しますので、心配はいりません」 麻友は言われた通りに仰向けになり、冷たく無機質な天井を見上げた。 次に目覚めた時は、自分の身体は全身機械になっているんだなあと、ぼんやりとながら未だ実感のわかないことを思う。 それを先延ばしにしたくなったかのように、麻友の脳内に疑問が浮き出る。 「あの、機械化した後って、子供は産めるんでしょうか?」 「はい。我々が麻友様の卵子を責任を持って保存いたしますので、心配はいりませんよ」 「そうですか。えっと…………うーん…………」 「それでは、これから麻酔を行います」 他にも何か質問しようとしたが、うまく頭がまわらない。 そうやってぐるぐると言葉の出ない考え事をしているうちに、麻友の身体に麻酔が打ち込まれる。 彼女の人間としての意識は途中でふっと闇に落ち、最後の瞬間も自覚できないままとなった。 「これより、鈴木麻友様のカスタムタイプ機械化手術を行います」 こうして、彼女の人間としての生は、あっけなく終わりを告げた。 * * * 鈴木麻友の機械化手術から数日後。 稼働テストを終え、施設から退出したちょうどその日に入れられていたシフト。 麻友は自宅に帰ることなく出勤し、一度店長と、一人と一体だけの調整を加えられた後に制服に着替え、いつものように店員として接客を開始していた。 「いらっしゃいませ! 現在クレーンゲームコーナーでは注目の景品が追加されていますよ!」 元から良く働く優良店員だったが、機械化した彼女の働きぶりは眼を見張るものがあった。 声帯からではなく喉元の発生装置から発せられるようになった声は常に張りがあり、声の調子はほぼ変動することなく、さらに疲れもなく元気に店内に響いている。 店内に備え付けられたスピーカーと無線接続し、他の業務を行いながらも店内放送を再生することも可能。 それでいて、客からの要望には正確に分析しつつ組み込まれたマニュアルに従って実行する。 苦手だった筐体メンテナンスにも、電子頭脳にインストールされた構造図や対処法から最適な手段を引き出し、迅速に対応する。 ゲームセンター店員としてのクオリティは大きく上昇しながらも、その容姿は以前よりもさらに美しく洗練されていた。 無駄な肉は一切無くなり、制服の袖からは、店内の光を弾くような、シミや産毛一つないツルツルとした人工の肌が露出している。 顔も造形そのままに、元々大きかった乳房は服越しにも分かる程のハリを持っている。 誰もが目を引くような美貌を以前にも増して付与され、まさしく女神のような存在となっていた。 「どうぞお客様、メンテナンスは終了しました!」 「ああ、ありがとうございます」 「また不具合が発生しましたら、いつでも呼び出しボタンで店員をお呼びくださいね」 行動も店員的にフォーマットされ、非の打ち所のない完璧なとして稼働する麻友。 しかしそんな彼女の姿を見た他の店員は、麻友から以前のような人間らしさがどこか失われているように感じていた。 そのような評判も気にすることもなく、てきぱきと動き続ける麻友。 そんな時、ある一人の男性用客が麻友に訪ねてきた。 「はい、どうしましたか?」 「新しいフリースペースを利用させてもらいたいんだけど。筐体付きで」 その言葉を聞いた瞬間、麻友の動作はぴたっと途中で停止した。 それから二秒程の間を置いた後、訪ねた男性客に笑顔を向けた。 「かしこまりました! それでは、フリースペースへ案内致しますので、私に付いてきてください。持ち込みの機材はございますか?」 「ええ、パッドは用意してあります」 「かしこまりました。筐体サービス付きのフリースペース使用では、事前に時間ごとの使用料をお支払いするか、クレジット投入かが選べますが、どちらになさいますか?」 「クレジット投入で」 「かしこまりました」 今まで喋ったことも覚えたこともない内容も、インストールされたメッセージに従ってペラペラとスムーズに口にする麻友。 笑顔のまま男性客の方を向きつつも、コケる様子も無い順調な足取りで移動する。 そして到着したのは、それまで用意されていたそれとは別に新たに設けられた、入り口がカーテンによって閉め切られている追加フリースペースだった。 麻友は男性客と共に入ると、中央に備えられたモニターと、その隣に設置されたヘッドホンと大きめのタブレット端末、中心部に紙コップの束が置かれたテーブル、それを囲うように設置された背もたれ付きの椅子と、簡潔ながらしっかりとした設備が備えられていた。 「……店長からの告知で聞いてきたんですけど、筐体ってどこにあるんです? 詳しいことは聞いてないから、その辺りの情報を知らなくて」 「はい、これから筐体としての稼働を開始しますので、少々お待ち下さい」 突然放たれた言葉に、頭上にハテナマークを浮かべる男性客。 その時、麻友は突如靴を靴下を脱ぎ、制服を自らの身体から取り去り始めた。 「ちょっ、なにやってるの!?」 「これから筐体として稼働するための準備です。もう少々お待ち下さい」 いきなりの事態に男性客は驚くが、麻友はそれが当然のことかのように、ちっとも恥じらう気配もない。 それどころか、彼女はどこか空虚にも思える微笑みを絶やさぬまま、客の為にと喜んでいるようにも見えた。 そして、上半身、下半身と人工の素肌を晒し、所々に継ぎ目の見える女性の裸体を堂々を公開した。 胸部どころか、忠実に人間らしい、少々陰核が大きめな膣部までも晒しており、まさしく一糸まとわぬ姿となっている。 立ち位置を調整するように身体を動かすと、そのハリのある大きな乳房が重量と動作に合わせて揺れる。 首筋の皮膚カバーを外し、その中の二つの接続部に、モニターから伸びたケーブルとコンセントから伸びたケーブルを差し込むと、瞳の奥の灯りが緑色に光り、点滅した。 「登録されたモニターとの接続を確認。充電は正常に行われています。これより、筐体モードでの稼働を開始します」 客に向けられたわけではない、虚ろに口にされたシステムメッセージを発した直後、麻友の大きな乳房が、小さな駆動音と共に観音開きのように左右に開放された。 人間としてはありえない方向を向く膨らみとピンク色の乳首。 開放された胸の奥からは、温かな人肌とは正反対の電子部品の塊が姿を現した。 そこには、四箇所のUSBの接続部が搭載されており、胸の谷間にあたる部分には、先程口にしていたクレジットの投入口が存在していた。 身体との繋がりが大きく分かれた後も、小さくひくひくと淫靡に動いている乳首。 少しだけ両足を拡げると、麻友は改めて笑顔を向けた。 「筐体モードへの移行が完了しました。初めての使用となりますので、ここで私の操作説明を行わせていただきます」 顔を赤らめることも、恥じらいも無く、あくまで自分を電子遊具のように扱う麻友。 「まずはこちら、開放された胸部内のクレジット投入口に200円を入れて頂くことで、私にインストールされているゲームがプレイ可能になります。搭載されたゲームは、無線接続によって常に最新バージョンが保たれておりますのでご安心ください。続いて、ゲーム選択ですが」 そう言うと麻友は、女性器ユニットを強調するように腰を前に突き出し、指を自身のクリトリスに指した。 「ゲーム選択は、現在私に装着された女性器ユニットのクリトリスを動かし行ってください。レバー操作と同様に上下左右の操作が可能です。続けて、お客様によるゲーム持ち込みについてですが」 麻友は下半身を突き出したまま、右手を女性器ユニットの前に置く。 そして、何の恥じらいも無く、まるでそれが当たり前かのように、二本の指を使ってその割れ目を拡げて奥まで覗かせた。 造りこそは通常の女性器ユニットよりも少しだけクオリティは落ちるが、その人間らしい淫靡さはほぼ変わっておらず、ピンク色の肉々しさは男性客の劣情を煽り立てる。 まるで男を誘惑するような形になっているが、麻友はただ自分の機能の紹介としか現状は認識していなかった。 膣内の奥を覗くと、本来子宮口となる部分は同じピンク色の肉で塞がれており、そこには二つの接続部が備えられていた。 「女性器ユニット内の接続ポートに持ち込んでいただいた電子機器や外部メモリーを接続してください。メモリー内データを読み込み、自動的にゲームデータを検出します。尚、現在装着されている女性器ユニットは、私本来の部品ではありませんが、人工愛液は排出可能です。並びに、現在体液タンクには人工体液ではなく、消毒ジェルが補充されていますので、消毒液としてご使用ください」 人間として、女性としてとても大切な器官をたいして面識のない男性に堂々と晒し、奥まで拡げながらはっきりとした抑揚で機能を説明する麻友。 そんな恥辱に塗れた好意なのに、彼女自身の恥じらいは一切無く、何度見ても自分を道具としか認識していないように見える。 続けて麻友は、再び直立不動の姿勢に戻ると、真横を向いた右乳を下から支え、軽くたゆんと揺らした。 「こちら、私の胸部はジュースサーバーとなっており、日替わりで左右の胸部タンクに様々なドリンクが補充されています。本日は右旨にはオレンジジュース、左胸にはコーラが補充されています。今からご利用なさいますか?」 「あ、ああうん。一杯頼む」 「かしこまりました。どちらをご利用になりますか?」 「……コーラの方で」 「かしこまりました」 リクエストを承った麻友は、テーブル上の紙コップを一つ左手に取り、左胸の乳首の下に置く。 無駄に動くのを防ぐためか、紙コップは乳房に押し付けるようにして固定されており、それによって人工皮膚が柔らかく潰れている。 そして、乳頭がぴくぴくと三回ほど震えると、ピンク色の先端から、人体から排出されることのない焦げ茶色の液体がどくどくと溢れ出してきた。 麻友の顔は変わらず微笑みを浮かべているが、その全身はぴくっ、ぴくっ、と不規則に揺れている。 一定量まで注ぎ終えると、麻友はコップを男性客の前に置いた。 排出の終わった左乳からは、コーラのしずくがほんのりと垂れているが、麻友はそれを濡れ布巾で拭った。 「ドリンクの種類は他にも様々な物を予定しておりますので、ご期待ください」 飲み物の説明を終えた麻友は、姿勢を正して少しだけ間を置く、 「最後に、私には性感機能が搭載されており、先程までに行われたいくつもの動作で快楽信号を受信し、処理することで性感反応示すことが可能です。私の場合は、筐体サービスとしてそちらのONOFFもお客様の手で自由に設定することが可能です」 ゲームとは無関係の方向に飛んでいった機能説明だが、まさしくセクサロイドのような機能に対して、男は思わず反応せずにはいられない。 「ただし、性感機能をONにする場合は、必ず無線または有線イヤホンやヘッドホンを使用してください、所持していない場合は、モニター横に備え付けの物が用意されているので、そちらをお使いください。イヤホンジャックは、クレジット投入口の横にあります」 麻友は客の意識が向きやすいようにイヤホンジャックの位置を指を差した。 「最後に、筐体使用サービス中は、私を備え付けのタブレット端末から操作可能です。詳しくは端末内の說明をご覧ください。胸部タンク内のジュースや体液タンク内の消毒ジェルが切れてしまった場合は、端末から店員をお呼びすることができますので、補充期間を挟まずに使用を続けたい場合はご活用ください」 一通りの説明を終えた麻友は、胸部が開かれた状態で綺麗なお辞儀を行った。 「フリースペース筐体サービスの一通りの説明は終了しました。それでは、時間終了まで私の身体をご自由に使用ください。説明時間は使用時間には含まれていませんのでご安心ください。性感設定はONにしますか?」 「じゃあ……試しにONで」 「かしこまりました。それでは、ヘッドホンを使用してください。既に無線接続は実行中なので、すぐに使用可能です」 一通りの説明と最初の設定を終えると、麻友は微笑みを浮かべたままマネキンのように動かなくなり、小さな排熱音を身体中から鳴らした。 男性客はヘッドホンを取り、両耳に装着。モニターには、様々なアーケード稼働タイトルの選択画面が表示されている。 男性客は手持ちのパッドを開かれた胸部に接続する。 「外部機器の接続を確認しました」 相変わらず抑揚のはっきりした、彼女の人格が介在しないシステムメッセージが発される。 今度は麻友自身の口からではなく、ヘッドホンからはっきりと聞こえてきた。 彼女の唇はその言葉通りに動いているのに、そこから声が出ていないのは見ていても不思議な気分になる。 そして、男性客はおそるおそる勃ち上がったクリトリスに触れ、まずは左側に倒すように力を入れた。 「ああっ……あんっ、あっ…………あぁぁ…………」 すると、麻友は耳をくすぐる様な喘ぎ声を発し始め、それまで固定されていたかのような表情が緩み、頬が赤らみ始めた。 それでも姿勢は直立不動から一切変化していないが、太ももは小さく擦れ、割れ目の肉はゆらぐような震え、乳首がぴくぴくと気持ちよさそうに動いている。 しかし操作されている途中のクリトリスだけはぴくりとも動く気配が無く、客側の快適な操作を最優先に思考し、稼働している様がはっきりと見て取れた。 「あ、は……あっ……ん…………あっ……ああっ! ぁ…………ああ……」 既に行わなくなっていた吐息も再現され、耳元で麻友の嬌声が心地よく伝わってくる。 ゲームを選択しているだけだというのに、筐体の淫靡な声は絶え間なく響いてくる。 「これって、選択する時は押すのか?」 「は……い……プレイするゲームにカーソルを合わせ……あんっ…………私のクリトリスを押してください……あっ、あんっ…………」 説明にも快感の声が混ざるようになり、その言動のスムーズさは明らかに失われている。 男性客は彼女の言う通りに陰核を押すと、それまで不動だったそれがビクっと震えた。 「あああっっ!! クレジットを投入してください。ああ……っ……あっ、う…………」 絶頂に達する直前のような声を発した直後、唐突に快楽の積み重ねが無になったような無感情なメッセージを発し、それからすぐに感じている声に戻った。 「ああそうだった、忘れてた……1クレ200円とは言ってたけど、それは単なる1プレイ分?」 「んん…………事前支払いでは……あっ……フリープレイとしてご使用可能になりますが……あっ…………クレジット制では……あんっ…………200円15分からとなっております……ん…………ぁ…………」 そういえばそこに関する詳しい說明を聞いていなかったと、改めて説明を聞いて納得する男性客。 しかし、ずっと耳元で淫らな嬌声を聞き続けた結果、元々ゲームをしに来たのに予想外の情動が溢れそうになっていた。 「すみません、性感設定はやっぱオフで。集中できないんで……」 「本当に……あっ……あっ…………OFFにしますか……は……あっ…………」 「お願いします」 再確認を聞き取った直後、麻友の蕩け始めていた表情はふっとそれまでのプログラムされた微笑みに戻り、乳首や膣肉から現れていた快感の反応の一切が消失した。 「性感設定をOFFにしました。快楽信号の処理が完全には終了していませんので、それによる身体反応が発生する場合もありますが、ご了承ください」 まさしく人間の形をした機械的な反応に、男性客は呆気に取られたが、ひとまず財布から200円分の硬貨を取り出し、胸部の投入口に入れていく。 麻友の身体からは、筐体にクレジットを入れる時と殆ど変わらない音が聞こえてきた。 続けて、先程と同様にクリトリスを動かし、プレイするゲームを選択する。 意地悪な気持ちで、あえて何度も左右にカーソルを動かして反応を確かめるが、麻友は微動だにせず、女神のような微笑みを絶やさない。 「消毒液お願いします」 「かしこまりました」 ここまで要望一つで変わるものなのかと思いつつ、男性客は消毒液の排出をお願いし、彼女の股間の前に手を置く。 すると、麻友の女性器ユニットから、人工愛液の潮吹き代わりに、アルコールのニオイがする消毒ジェルがスプレーの如く排出された。 人間の愛液や、ローションにも似た人工愛液でもない、完全に市販の消毒ジェルと同一のもの。 男性客はそれを手に塗りたくり、改めてプレイするゲームを選択し、クリトリスを押して決定した。 注意メッセージは発されず、モニター内はそのままタイトルのプレイ画面へと移行していった。 「すみません、もう一杯コーラお願いします」 「かしこまりました」 麻友は笑顔で乳房からコーラを注ぎ、再度テーブルの上に設置した。 それから男性客は、麻友が見せた卑猥な姿が脳裏にこびりついたままタイトルをしばらくプレイし続け、麻友はそんな客の姿を、何事もなかったかのようにじっと微笑ましく見つめ続けていた。 * * * 「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしています!」 利用時間が終了し、男性客はどこか悶々とした気持ちを抱きながらフリースペースの前を去っていった。 機構を閉じ、制服を着直した麻友は、自分を使用していただいた客の背中をしっかりと捉えつつ、満面の笑みでお見送りした。 筐体機能の初使用を終えたところに、彼女の改造を提案した店長の悠介が近づく。 「頑張ってるね。どう? 筐体機能を初めて使った感想は」 「はい、お客様の役に立ててとても嬉しいです! これからも、私の機能を存分に使ってもらえるように頑張りますね!」 人格データの底から、使用してくれたことを浮かれるように喜ぶ麻友。 しかし彼女は本来、誰かに喜んでもらえることは嬉しいと感じる人物ではあったが、ここまで自身を消費して人間に捧げるような人物ではない。 彼女の人格データには、既にある程度の編集が加えられているのである。 それを彼女は一切自覚しておらず、思い浮かぶことすらない。 「そうか、これから間違いなく人気になるからな、頑張ってくれよ」 「はい! あっ、呼び出しが来たので向かいますね」 麻友は電子頭脳内に伝わったコールを最優先事項として認識し、店長の側から離れていった。 そんな彼女の後ろ姿を見ながら、店長は怪しげな笑みを浮かべた。 「これからも、うちの店員…………いや、便利な筐体兼セクサロイドとしてな」 取り替えられた彼女の女性器ユニットは、現在事務所の引き出しの中に子宮ユニット付で放置されている。 店員としての初稼働前、店長は麻友に対して様々な調整を施しており、女性器ユニットの入れ替えもその一つとなっていた。 実質的に人権を失ったにも近い状態となった鈴木麻友。 彼女のゲーム筐体として、性玩具としての稼働はまだ始まったばかりであった。