SamSuka
土装番
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過ぎた性悪を奉仕商品へ 1話先行公開版

 現代よりも少しだけ進んだ、とある未来の時代。  人工知能技術と機械工学の著しい発展によって、人間のそれと殆ど見分けのつかないアンドロイドが誕生。  様々な商業施設や警備人員、購入可能な新しい家族など、様々な形で人間と日常に交わる存在となっていった。  世間への普及が始まった当初は、見た目こそ人間らしさを追求した精巧さはあっても、直接のやり取りは洗練されておらず、違和感を生み出すことは珍しくなかった。  だが、今やその頻度は大きく減少。首元や関節部に存在する継ぎ目を意識しなければ、ほぼそのような違和感も覚えなくなっていった。  継ぎ目のカモフラージュさえ行ってしまえば、アンドロイドだとバレることはほぼ無い程に。  しかし、アンドロイドは基本的に人間に対して従順であるように設定されている。  まるで対等であるかのように話していても、アンドロイド側が上位であるかのように振る舞っていても、それらは大抵所有者があとからそうなるように設定変更を加えたものである。  それに伴って、アンドロイドへの扱いは、道具として扱う者と人間と同様に扱う者とに分かれていた。  人間ではなく道具であるとして、人間には吐き出せないような欲望をだだ漏れにし、傷つけ犯すものも少なくない。  人間とアンドロイドの繋がりは、まだまだ発展途中。それでも生物と機械の間柄は時が経つ毎に少しずつ成熟していっていた。  その一方で、世間一般には認知されていないアンダーグラウンドの世界では、人間と機械の境界線を失わせる全身機械化技術の研究が少しずつ、確実に進められていた。  身体の一部を機械に置き換える技術は、既に一定の地位を築いている。  しかし、個人の人格や記憶、行動パターン等、生体脳情報までの電子データ化し、生身の身体を捨て去るまでには至っていない。  その機械化技術は、人々に見えない世界で少しずつ確立され、限られた者だけが知る世界として、小さく、それでいて確実な成長を始めていた。  これは、傍若無人に生きていた一人の女性の身に降りかかった、強制的な機械化の物語である。 * * * 「なーんだ、もうアンタの財産これっぽっちしか残ってないのね。それじゃあアンタに構ってる理由も無いわ」 「そんな! それもこれも全部、君の為に使ったんじゃないか!!」 「あたしに尽くせたことをもっと感謝するべきじゃない? 手の届かない女を一時的にでも自分の側に置けたんだから」  都内のとあるホテル、やや荒れ気味となった一室にて、ある男女二人が言い争いをしていた。  女性の名前は逢見舞香。  絹糸のようにさらさらと艶めくセミロングの黒髪に、誰もが一目惚れしてしまいそうな、大人びてしゅっとした顔立ち。  大きめのブラに包まれた、突き出るようにハリのある大きく柔らかな乳房。  見ているだけでも芸術品だと口をこぼしてしまいそうな体型に、女性の中でも高身長であることがさらなるプロポーションの良さを強調している。  しかし、その神からの授かり物とも言える容姿とは裏腹に、彼女の性格は最悪の一言でしか例えようがなかった。 「ふざけるな! 元はといえばそっちが……」 「あら、夢が見られただけでも充分じゃない? あんたはただのあたしの財布だっただけ。むしろ身体まで許したんだから、もっと欲しいくらいよ。はぁ……でも、思ったよりみすぼらしかったわね」  この日、舞香と一夜を共にしようとしていたスーツ姿の男性、笠松隆弘は、先に衣服を脱いだ彼女に鞄の中身を探られ、手持ちの通帳を覗かれてしまった。  そこに記載されていたのは、次々と舞香の為に引き出され削られていった残高。  気を引き、振り向いてもらおうと奮闘した結果、隆弘の懐は底を尽きる寸前となっていった。  それを見た舞香は、一気に彼に対する感情が冷め切り、行為にすら入らず出ていこうとしていた。 「この…………!!」  隆弘の胸中が、脳天まで達する程の怒りに満ち、衝動のままに掴みかかろうとした。  だがその直後、ドアからスーツを着た男がずかずかと入り込み、隆弘の腕を強引に拘束した。 「な、なんだお前は! 離せっ!」 「ざーんねん。あたしを傷つけようたってそうはいかないわ。あたしにはちゃんとしたバックがついてるし、あんたが変な気を起こしても常に守ってもらうように監視つけてたんだから」  押さえつけられた隆弘を見下し、嘲笑の感情を多分に込めて最後の言葉を丁寧に吐き捨ててあげる舞香。  これまで親しくしてあげた相手にも、金の切れ目が縁の切れ目とばかりに一切の情を与えない。  隆弘は歯を食いしばり、じっと彼女の姿を、恨みを込めて睨み続けた。 「それじゃあね、あんたとの日々はそれなりに楽しかったわ。あ、別にあたしを訴えようとしても無駄だからね? どうしてもっていうなら……賠償金用意しといてね。それじゃあ、さよなら」 「おい! 待……ぐっ…………」  舞香は最後に鼻で笑い、決して振り向くことなく部屋を去っていった。  天然の色香を振りまきながら、フロントへ話しかけることもなく颯爽と去っていき、自分の気の向くままに足を動かす。  彼女に騙された被害者は数知れず、吸い上げられた財産は全て彼女の血肉となってさらなる幸福へと消費されていく。  類稀なる美貌を使い、次々と肉付けされていく舞香の財産。  しかし、彼女の妖狐の如き振る舞いは、いつまでも続くことは無かった。 * * *  ある日の夕方。  舞香は側に自身が雇ったボディガードを置きながら、整然とビル立ち並ぶ街なかを悠然と歩いていた。  シンプルながらボディラインの目立つ衣服を身に纏い、色香を振り撒きながら道中を歩く。  自身に視線を奪われる、目にかける価値もない男達の姿が面白くて仕方がない。 「今日は誰の財布で楽しもうかしら。散々焦らしたし、光博もそろそろあたしに構いたい頃かな……」  自分にいくらでも貢いでくれるであろう、舞香が財布と称する男達を脳内で並べながら、誰の金を使ってやろうかと笑みを浮かべながら歩く。  何を買おうか、何を食べようか、どこに行こうか。そんなことを考えながら、大通りから離れて建物に囲まれた路地を通っていたその時、舞香に一人の女性が声をかけてきた。 「こんにちは! もしよかったら、うちのマッサージ屋によっていきませんか?」  その人物は、言葉の通り付近のマッサージ店にて稼働している、客引きの女性型アンドロイドだった。  吹く風にさらさらとなびく、植毛された美しい黒髪。人間の手で顔立ちや体型まで完璧にデザインされた絶世の美女のような容姿。  ムダ毛やシミひとつ存在しない人工皮膚。人間が心地よく感じるようにプログラムされた笑顔と全体の動作。  まさしく人間の叡智が作り出した人工の理想の美女。その機械仕掛けの笑顔には、裏に隠された笑顔など微塵も感じない。 「………………」  そんな純粋さに溢れた麗しい姿が、舞香にはとても、とても不快に感じた。  露骨に嫌悪の表情を表しても、腕を伸ばしてチラシを差し出したまま笑顔を崩さない客引きアンドロイドのサリナ。  舞香はそんな姿を崩してやろうと、無防備な左脚を思いっきり引っ掛け、転ばしてやった。 「きゃあっ!」  体勢の崩れたサリナは、体勢が変化してから少し遅れて悲鳴を上げ、手に持っていたチラシを離さぬまま、がしゃんと音を立ててコンクリートの地面に叩きつけられた。  悲鳴こそ上げるが痛いとも言わず、地面と平行になるサリナは、わずかに手の中から離れたチラシを取ろうと、転がった姿勢のまま手を伸ばす。 「ほんっと気持ち悪いわねあんた達って。どう見ても人間なくせに、中身はそこらにあるビルと変わんないんでしょ」  舞香は心の奥からの不快感を垂れ流しながら、伸ばされた右手を容赦なく踏みつけ、荒い地面に磨り潰すようにぐりぐりと足を捻った。 「すみません、チラシが回収できないので、足を退けてくれませんか?」  サリナは困り顔を作り、自分への痛みよりも業務を優先したメッセージを口にした。  人間らしいリアクションを作り出していても、どこか不自然さは抜けていない。その少しの違和感が、舞香の不快感を煽り立てた。  靴の下で上下左右に動く手首を、彼女の声が聞こえる度に踏み擦る力をさらに強める舞香。  一旦、その要望通りに足を離してあげる。 「ありがとうございます。これで仕事を進められ…………」  直後、舞香はお礼を口にしたサリナの頭を思いっきり蹴り飛ばし、電子頭脳に衝撃を与えた。  頭部の動作に引かれるようにごろごろと地面を転がり、かくん、かくんと全身を揺らしながら、ぎこちない動作で立ち上がる。  美しく、人間らしさを作り出していた人工皮膚は、舞香の加害行為によって傷つき、頬にはいくつかの裂傷が発生していた。  踏み潰されていた右手はさらに酷く、内部機構が露出する程に皮膚が削れており、駆動音が露骨に聞こえていた。  それでもサリナは、かたかたと不安定な笑顔でチラシを差し出す。   「どうですすか? うちのまま、マッサージを、を、受けてみませみませんか?」  彼女に付与されていた人間的雰囲気は大きく損なわれ、客引きという役目を負った機械人形がそこに立っているだけのように感じられる。  打ち所が悪く電子頭脳が損傷したからか、サリナが腕を出す方向は、舞香のいる方向から少しだけずれている。  舞香はそんな人間もどきの稚拙な姿を嘲笑しながら、わざとチラシをはたき落として去っていった。  サリナは遅れて反応し、紙束となっている部分だけを回収すると、誰もいない方向に腕を突き出し、客引きを再開した。 「よろしくおねがいします。マッサージはどうですか? マッサージはどうですか? よろしくおねねがいします!」 「血も涙もないクセに、ああいうのが人間みたいな姿してると思うとほんとキモイわ。どうせあたし達みたいな苦労も知らないんでしょ。あー嫌だわ」  アンドロイド全体を貶す様な言葉を吐き捨てながら、虚空に向かって宣伝しているサリナを尻目に悠々と歩く舞香。  ほぼ独り言ではあるが、側にいるボディガードに聞かせるように喋っていた。  だが、彼女は不愉快なモノを貶めた気持ちよさに気を取られて気付かなかった。自分についているはずの者が、いつの間にか姿を消していることに。  そんなことも露知らず、もう少しで大通りに合流するであろう距離まで歩いたその時、舞香の背後から、何者かが口元と胸元を押さえつけてきた。 「んんーー!? な、なによいきな、んんううううーー!!」  舞香は激しく身を動かし抵抗するが、口が自由になってもすぐに押さえつけられる。  誰か助けてと言わんばかりに吠えても、明らかに人間離れしている力に為す術もなく、次々と身体の自由が奪われていく。  それでも、誰かもわからない相手に襲われるのは我慢ならないとあくまで抵抗を続けていたその時、首元にちくっ、と何かを刺されたような感触を覚えた。  直後、何者かの腕は舞香の身体から離れていった。 「あうっ! …………ちょっと! あたしが誰だかわかって……うう……ボディガードは…………どこなの…………よ……………首にし……て……や………………る………………」  身体の自由が取り戻された直後、間髪置かずに悪態を吐こうとする舞香。  自分を守るはずのボディガードはどこにいった、あたしが危険を被っているのに何をしているの。  怒りと恐怖の感情が激しく湧き上がり、それをぶち撒けようとするも、彼女の身体からは水が抜けるように急激に力が抜けていき、立っていることすら出来なくなっていた。  それを完全に自覚する時間すら与えられないまま、舞香の意識はそのまま闇に落ちた。  プライドの高い彼女であれば、絶対にしないであろう、地面に身体を預ける状態となった舞香を、突如襲いかかったスーツ姿の女性型アンドロイドが、荷物のようにして抱え込む。 「逢見舞香の身柄を確保しました。これより移送を開始します」  知らない何者かに抱えられたまま、何も理解できていないままに、力なくぷらん、ぷらん、と四肢と首を揺らして運ばれていく、わがままな美女の舞香。  それまで側に着いていたボディガードは影も形もなく、彼女を守る者は周囲に誰一人としていなかった。  いつまでも続くと思っていた、何もかも思い通りになる最高の人生。その終わりは、突然に訪れたのであった。     * * * 「…………外部端末からの命令を受信しました。指定されたファイル、逢見舞香01.egoを人格エミュレーターから実行します………………あれ、ここはどこなの……? あたしは確か、買い物してて、それで…………」  人間が口にするようなものではない文章的な言葉を、感情の無い声で喋った後、ゆっくりと目を覚ました舞香。  意識を取り戻した直後にも関わらず、いつもと違ってなぜだが思考がスッキリしている。が、視界は真っ暗闇で光の一つも差し込んでおらず、周囲からは物音一つ聞こえない。  そんな突拍子もない調子の良さと奇妙さに対しておかしいと思いながらも、舞香はその疑問をすぐに頭の端に置き、眠る前の記憶を振り返った。 「…………!! そうだわ、あたしいきなり知らない奴に襲われて、それでボディガード共があたしを守らなくて……ああもう、思い出してものすごく腹が立ってきたわ。帰ったらあいつら即刻クビね。なんだったら何回がぶん殴って……あら?」  最新の記憶を鮮明に思い出し、改めて心の底からの怒りがこみ上げてくる。  あいつらがちゃんと勤めを果たしてくれてれば、こんな目に遭うことも無かったのに。  自分の世界に入り、再び負の感情を発露しようとしたその時、彼女の身体に明確な違和感が襲いかかった。 「あれ、なんで身体が動かないの? えっ、なによこれ!? なんなの!? あたしの身体どこ!?」  いつもは敏感なくらいに感じる身体中の感覚が、まるで首から下を斬られたかのように何も感じない。  思考では両手を動かし、身体を触っているはずなのに、皮膚に空気が当たる感覚すら存在していない。  舞香はそれを認識した直後に、激しく慌てふためき始めた。  音も聞こえない、何も見えない、何も感じない。なのに思考は鮮明で、喋っていることも理解できる。  いったい自分の身に何が起きているのか。まさか、襲ってきた何者かが自分の身体になにかしたのか。   「ねえ! あたしに何したのよ!? 身体も何も動かないわ!! ねえ誰かいるんでしょ!? 言ってみなさいよ!! あたしに手を出してただで済むと思ってるんでしょうね!?」  深く根の張った驕った態度をそのままに、おそらく誰かがいるはずだど声を上げる。  と、その時。舞香の脳内に聞いたことのない声が響いてきた。 「逢見舞香の人格データは正常に稼働しています。電子頭脳及び頭部ユニットの動作に問題なし」 「誰よあんた? あんたが何かしたのね!?」 「想定される反応の範囲内です。続けて、対話及び視覚、聴覚動作のテストを行います」 「聞きなさいよ!! ロボットみたいな喋り方して、ちゃんと会話をしなさ……きゃっ!?」  ヒステリックに何者かに叫び続けるが、声の主は淡々としており、一切の対話を示す様子はない。  そして、舞香には全く理解のできない文言をつらつらと喋ったその時、突然暗黒に包まれた視界に光が差し、同時に無音の世界から解き放たれた。 「…………えっ、これ……ここ…………どこなの? なんであたし、こんな所にいるの……!? あれって…………アンドロイドの身体??」  舞香の視界に新たに写し出されたのは、今まで一度として来たことも見たこともない景色だった。  まるで浮き上がっているような視点から目に入る、どのような用途で使われるのか理解のできない無数の機材。  視線の先には、冷たい金属製の台に仰向けに置かれている、頭部の存在しない全裸の女体。  首の断面から無数のケーブルが伸びており、頭がないにも関わらず、手や足の指がぴくぴくと動いているように見える。  股間からは、まるで性玩具のようなパーツがせり出しており、舞香の視点からは生々しい割れ目と側面のピンク色をした肉筒が飛び込んできた。  仰向けの体勢でも重力に負けず、ピンク色の乳首から管を差し込まれている大きな乳房に、白く艷やかでムダ毛一本存在しない肌、駄肉という言葉に縁のないであろうしなやかで完璧に整ったボディライン。  まるで男性の欲望をそのまま形にしたような、美しくも官能的な女体。  舞香はそれを目撃し、心の底からの嫌悪と忌避を露わにした。 「きっつ……何よあれ、いかにも男が好きそうなロボット造って。アレで喜ぶ男どもの姿が目に浮かぶようだわ。あー考えたくもない。あたしに寄ってきた奴らもああいうの好きそうで無理」  金と男の持つブランドにしか興味が無く、自分を着飾る道具としか思っていない舞香には、セクサロイドというものが穢らわしく気持ち悪い性玩具としか思えなかった。  まるで嫌がらせのように、その調整風景らしき姿を見せつけられ、さらなる不快感を募らせる中、人気の無かった室内に一人の女性が姿を現した。 「おはようございます、逢見舞香。無事起動成功して、こちらとしては一安心しています」 「あ、あんた……あの時いた客引きの!?」 「はい。私の名前はサリナと申します」  そこにいたのは、偶然通りがかったマッサージ店の客引きをしていた女性型アンドロイドだった。  わざと足を引っ掛け不具合を起こした時のようなおかしくなった様子は既にないが、まるで当てつけのごとく、手や頬の傷ついた人工皮膚はそのままになっている。 「あんたがここに連れてきたの!? ということは、あそこで客引きとかやってたのは嘘ってわけ!?」 「いいえ、あのマッサージ店は、私の所有者が運営する店舗の一つであり、不定期で客引きや受付の業務を行っています。ですが、今回はあなたへの用があって稼働していました」  出会った時と同じような、人間らしさの皮を被った笑顔と明るい声でスムーズに説明するサリナ。  そんな彼女に対して、舞香は敵意剥き出しの表情を出すが、何一つ怯える様子もない。 「あんたがどこの誰の持ち物なのか知らないけど、あたしに逆らうのがどういうことか理解してるんでしょうね? これから路頭に迷うことになっても知らないわよ? それともスクラップがいいかしら?」 「その心配はありません。それに対する返答も含めて、私の所有者からあなたへのメッセージを預かっています。これから再生しますね」  するとサリナは、立ち位置を微調整して舞香の真正面を向くようにし、ピントを合わせつつ姿勢を正す。  そして、閉じていた口が開かれると、先程まで発されていた可愛らしい女性的な電子音声ではない、成人男性の声が聞こえてきた。 『どうも、逢見舞香さん。この音声が再生されているということは、既に目が覚めた……正確には、電源を入れられた頃でしょう』 「なんなのよこいつ、意味のわかんないこと言って。けど、どこかで聞いたことあるような……」  音声に合わせて、サリナの口が動く。音声の起伏に表情は合わせられておらず、再生直前の顔のまま動いていない。 『さて、早速本題に入りましょう。舞香さんは私共が所有するアンドロイドに危害を加え、明確なる損害を与えました。こちらとしても、いくら修理できるとはいえ、いたずらに備品を破壊されても困る。そこで弁償として貴女の身柄をこちらで引き受け、直属の風俗店にて稼働してもらうことにしました』 「…………はぁ!? 何意味のわかんないこと言ってんのよ!? そんなの受け入れるわけないでしょ!? 第一、あたしをこんな目に合わせて黙っていられ」 『当然、舞香さんはご自身が所有する人脈や賄賂など、様々な手を利用しようとするでしょう。しかし、既に各方面からの了承は受けています』 「…………えっ?」  その時、初めて舞香の顔色が変わった。強気な彼女が誰にも見せたことのない、焦りの色に。 『自覚はないでしょうが、以前から貴女は、顔と身体と声が良いだけの厄介者として扱われていました。当然、そのような価値が非常に高い為に、モノにしたいと思う者が絶えず、表向きは大切にされてきましたが、もう限界のようですね。なので、その厄介払いと再利用をこちらで受け持つことにしました』 「は…………? え、何を言ってるの? 再利用? 厄介者? わけか……わかんないわ……」  明確に自分に対して向けられたメッセージに入り込む不吉なワード。  おおよそ人間に対してではなく、道具に向けるような言葉が散りばめられた上、誰も彼もが自分の言いなりになっていた現実からは信じられない内容も告げられた。  なんとかなるはずだと余裕に満ちていた舞香の表情が、次第に曇っていく。 『幸いにも、こちらでは現在、人体の完全機械化技術の研究を進めており、既に複数の被験者が存在しています。つまり、逢見舞香はこれから、元人間のセクサロイドとして当施設で稼働していただきます。貴女の生身は既に存在しておらず、全てはこちらに主導権が握られています』  信じられない、という感情が、言葉すら出ない舞香の表情から溢れ出る。  現実感のないその男の言葉に、目は大きく見開かれ、ぽかんと開いた口が塞がらない。 「嘘よ。ふざけたことを言わないでちょうだい。そんなわけが……」 『さて、これで私からのメッセージは終了です。これからは機械の娼婦として、これまでお世話になった人々や見知らぬ人々を楽しませてくださいね。キラム・エレクトロニクス社長、村木祐道より』 「き、キラム……ま、まって……!」  録音メッセージに待ってと口をこぼすほどに動揺を示している舞香。  その耳に入ってきたのは、世界に誇るロボット工学の大手企業の名前と社長だった。  自分と繋がりのある人物から何度か名前を耳にしたことはあったが、機械人形になんか興味は無いと全て脳の片隅に放っていた。  それがまさか、自分に対して接触してくるとは。  メッセージを終えると、サリナは改めて笑顔を作り、舞香に近づいた。 「祐道様のメッセージが信じられない、という反応を示していますね」 「あ、当たり前……じゃない…………だって、人間を……ロボットになんか…………」 「舞香の人格データの反応としては予測圏内ですね。それでは、これから明確な証拠を提示いたします」  サリナは一旦舞香の視界から外れ、がたごととやや大掛かりな音を鳴らしている。  なんとか首を動かして後方を向こうとしても、なぜだか、身体と同様に首も動かすことができない。  そして、改めて戻ってきた彼女が持ち出したのは、人間一人分を写し出せるスタンドミラーだった。 「はい、これが今の『逢見舞香』ですよ」  そこに映っていたのは、天井側から伸びる無数のケーブルに吊り下げられた、頭部だけの舞香の姿だった。  首の断面からは金属で出来た接続部が晒されており、後頭部はまるで扉のように開かれ、その中にある電子頭脳に何本もの線が繋がっている。  機械的な面を剥き出しにしているからか、動作の度に、かちゃ、きゅい、と、微小な機械音が人間らしい頭部から鳴らされている。  頭部に貼られた人工皮膚は非常に精巧であり、人間だった頃よりも、さらなる美貌を生み出していた。  そんな非現実的な光景に、舞香の感情値は爆発しそうな程に不安定になった。  首だけで動いている。血の一滴も流れていない。痛くもない。何かのトリックかと思っても、表情の動作が完璧に自分と同じ。  鏡の中にいるのは、紛れもなく今の自分だった。 「いや、いや…………いやぁ………………イヤああああああぁぁぁぁ………………」  舞香の顔は絶望の表情に染まり、恐怖心をぶち撒けるような悲鳴を叫んだ。  だが、すぐさまスピーカーの音量を外部操作によって調整され、ささやき声よりも小さく下げられた。  そして、叫びが落ち着いた頃に、再び戻される。 「あ、ああ……あ…………ウソよ、こんなはず……あたしが…………ロボットに…………」 「残念ながら、これが貴女に関わった皆様の意志であり真実です。ちなみに、もうお察しと思いますけど、あちらで動作テスト中の身体は、加工された舞香の身体ですよ。全身の動作は既にチェック済みなので、残るは性感反応テストを残すのみです」  つい数分前、舞香はあの身体のことを、男が好きそうで気持ち悪いセクサロイドだと言っていた。  それがまさか、自分の身体だったとは。今、見知らぬ機械に繋がれて、首のない状態でびくびくと気持ちよさそうに震えている身体が、自分の身体だとは。  信じたくない。こんなことはありえない。これは夢。現実じゃない。  現実逃避の言葉が脳内を埋め尽くし、目の前の事実を全て拒絶しようとする。  しかし、そんな僅かな希望もすぐに打ち砕かれた。 「それでは、舞香の電子頭脳の快楽信号処理テストも兼ねて、これから端末を介してボディと接続します。身体の感覚は戻りますけど、操作権は与えられないので信号の受信のみが行われます。もう少し見やすいように、近づきましょうか」  狼狽え今にも発狂しそうな状態となっている舞香の感情を無視し、吊り下げている機材と一緒に頭部を前進させるサリナ。  より鮮明に、レンズの中に首無しの女体が写り込んでくる。  腕や乳房、腹部、脚。生涯で何度も何度も目にしてきた自分の身体の特徴が、記憶データから呼び起こされ、嫌でもこれが己の身体だと自覚させられる。  そして、最後の性感反応テストとして、迫り出したままの女性器ユニットの入口に、ディルドですらない、サイズだけ男性器に近づけられた、ローション濡れの金属の円柱が姿を現した。 「えっ、何!? まさか、アレをあそこに入れる気なの!? やめて! あたしの身体を傷つけな…………新しい外部機器を認識しました。この機器をデフォルトのボディユニットとして登録します…………登録しました。人格エミュレートを再開します」  まるで人道的でない、拷問か何かと叫びたくなるような光景を見せつけられ、中止を懇願する舞香、  直後、端末経由での有線接続が行われ、喋っている途中でも容赦なく一時的に人格エミュレートが切られる。  恐怖と戸惑いに染まった顔は、蝋燭の火が消えたように無表情になり、淡々と電子頭脳内で実行される処理経過を口にする。  登録終了し、人格エミュレートが再開されると、舞香の表情は途中の取り乱した物から続けられた。 「……ないでよ!! あれ、あたしの身体……感覚が本当に戻って………まさか、本当にアレと繋がってるの!?」 「はい。先程言った通り、操作権の登録はされていないので、センサーから与えられる信号のみの受信となります。あくまで性感反応へのテストであり、痛覚信号は現在カットされているので、痛みを感じることはありません。それでは、挿入を開始しますね」 「そんなこと信用できるわけ無いでしょ!? どうみてもあたしのあそこより大きいじゃない!! あんな太いの入らないわよ! 嘘ついてあたしが苦しむ姿がみたいんでしょ!? そう言いなさいよ!! ねえ! こんな、あああっっ!!」  目を反らすこともできず、円柱が近づくごとに舞香の悪態と放言は勢いを増していく。  そして、割れ目に冷たい金属が触れ、ずぶ、ずぶ、と内壁を犯し始めた瞬間、舞香の電子頭脳に痺れるような快感が走った。  直後、テストとして感じやすく調整されたことを示すように、体液タンクに擬似体液代わりに補充された水がわずかに漏れ出た。 「ああっ! あんっ! こんな、あっ、あんなのが入って…………はあ、あっ! 痛くない……わ……はああんっ! 膣内が、擦れて…………奥まで……ぇ…………ああんっ!!」  ゆっくりと奥へ、奥へと押し込まれていく円柱。  外側から肉筒部分に余裕が無いことがわかる程にみちみちに詰められており、女性器ユニットがそれを咥えたままぶるぶるとバイブのように震えている。  舞香が快楽信号を受信し、それに連動するように胴体部が痙攣を起こす。  しかし、操作が出来ない故か、四肢はその揺れに釣られてぶらぶらと動くだけで、一切の意思が感じられない。  挿入された円柱が子宮口まで届くと、今度は無機質な機械音と共に前後に動き始めた。 「ひぎっ!? ひいいいっっ!! 裂けちゃ、ああっ! あんっ! あんっ! あああっ! こんな、ああっ! 気持ちいいの、初めてえっ!! こんな快感が、あっ! はああんっ!」  まさしくセクサロイドという言葉が正しい、痺れるような甘美な感覚に抵抗できない、今の舞香の姿。  動き過ぎないように側面をロボットアームで押さえられた女性器ユニットは、円柱の形をくっきりと現しながら、内壁をぐりぐりと強く刺激しつつ、子宮口を突くように単調な前後運動を続けている。  快感に乱れる舞香の身体は、乳首と女性器ユニットからその気持ちよさを表すように、さらさらとした水が溢れ出していた。  今にもはち切れてしまいそうなのに、膣肉がそれを咥えて話さない。  つい数分前まで反抗の姿勢を見せていた舞香は、電子頭脳いっぱいにその未知なる悦楽に満たされていた。 「同時に、乳首への刺激とアナルへの挿入を開始します。舞香はもう排泄の必要も無いので、着脱不能ではありますが、性行為用の挿入口として調整されていますよ」   快楽信号による反応のみで官能的に震えている身体の両足を掴み、左右に拡げて羞恥的なあられもない姿を晒す。  そこから腰を持ち上げるように動かし、生まれたばかりのように清潔なアナルが晒されたところで、その肉穴からはさらさらと、二箇所の出口から出たそれと同じ水が流れ出た。  これは、女性器と同じ扱いであるが故に、人工体液の排出口が増設されたことによる現象である。  そして、現在使用されているものよりやや小さめの円柱を備え付けたロボットアームは、一切の躊躇もなしにアナルへと挿入していった。  同時に、管が差し込まれたままのピンと勃った乳首にも、ペンチで摘むような刺激を加えていく。 「なによそれ、はあっ! あんっ! どこまで、あたしの身体を、ああああっっ!! 頭が、ああっ!! あんっ! 溶けちゃううっ! 気持ちよすぎて、変になっちゃ、あ゛ああっ!!」  二つの肉穴と乳頭を冷たく攻め立てられ、何度も重ねたセックスの経験を全て子供の遊びと吐き捨てられるような気持ちよさを一身に与えられた舞香。  膨大な信号処理によって中枢部は熱を帯び、その負荷がさらなる快感を呼び寄せる。  舌を出して肉体的な多幸感を主張するが、体液タンクと繋がっていない彼女の口からは、理性が蕩けた証である唾液の一滴も流れてこない。  造られたばかりで乾いた口内は、わずかなシリコン臭が残っている。  起動した当初よりも、より大きくなっていく駆動音。そんな非人間的な性戯を与えられ続けた舞香は、機械となって初めてのエクスタシーを感じようとしていた。 「あっ! はっ! あ゛っ! あああんっ! あっ! だめっ! あ、あ、あっ! ひぎっ! いやっ! いやああっ! 真っ白になっちゃうっ! こんな機械で、はああっ!! あんっ! あんっ! ああああっっ!! イクううっ!! イク! トんじゃうううう!!!」  無数の配線で繋がれた頭部が、生まれ変わりを受け入れるかのような官能的な声で快楽に溺れる声をスピーカーから叫んだ。  それに連動し、首無しの女体は激しく乳を揺らすように全身をガクガクと震わせ、四肢は変わらずだらけたまま弾けるような気持ちよさを表現した。  その反応を確認したスタッフ達は、舞香の身体の穴という穴から機材を取り除く。  乳首に挿入された管を抜かれた乳は、気持ちよさからかだらだらと水を絶えず垂れ流している。  男性器やディルド代わりの無機質な円柱を抜かれた女性器ユニットは、ぷしゅ、ぷしゅ、と水道水と同じ味の水の潮を噴き、アナルからもそれと同じ水をさらさらとこぼした。 「あっ……あ、ああ……はぁ…………はぁ………………こんな…………の…………あっ……ん…………初めて……ぇ…………あたしの……身体が……ぁぁ…………は……あっ…………」  処理落ちが発生しそうな程に、機械としての初めてを散らされた舞香。  まるで呼吸があるかのような声を出しているが、それはあくまで音として再現されているに過ぎない。  最後のテストを終了したセクサロイドの元に、サリナが改めて笑顔で近づいてくる。 「結果は良好です。各部動作及び電子頭脳内のシステム動作に不備は見られません。よかったですね舞香! これで晴れて、正式にセクサロイドとして稼働できますよ!」 「はぁ…………はぁ…………あっ…………あ…………違……う…………あたし…………セクサロイドとして、なんか…………稼働しな……い…………ん……っ…………」  人間であれば廃人になってしまいそうな性感に溺れ、満たされたような声を上げていながらも、あくまで抵抗の意思を示し続ける舞香。  頬は紅潮し、表情も蕩け、思わず舌は出たままでも、彼女自身の意志は変わっていない。 「そう言われても困ります。既に決定事項なので、舞香はこれから人間やアンドロイドの顧客の為に稼働するんですよ。それに、現在人格データが導き出した演算結果では、これから反抗しようとしているみたいですが、このテスト中の記憶データは全て削除されますし、稼働させる人格データも、セクサロイド用に編集した逢見舞香02.egoを使用するので、決して反抗することもありません」  その言葉を聞いた舞香は、まだ余韻の感覚が残りながらも戦慄を覚えた。  記憶を消され、好き勝手弄くられた人格で動かされるなんて。そんなの嫌だ。もっと好きに思い通りに生きていたい。  舞香はそんなバカなことは止めるようにと叫ぼうとした。 「ま、待って! そんなのダメ! あたしはあたしのま…………外部端末からの命令を受信しました。人格エミュレートを停止します」  しかし、その人間時代を完璧に再現した反応も虚しく、舞香の人格は外部からの操作によって呆気なく停止させられた。  ぱくぱくと虚空を見つめながらシステムメッセージを口にし、喋り終えると口をぽかんと開いたまま、瞬きすらしない虚ろな瞳で動かなくなった。 「それでは最後の調整に入ってください。舞香にはこれから稼ぎ頭となってもらわなければなりませんからね。修理の数も、他の機体よりは増えますが、それだけの素材ということですから」  サリナは所有者の命に従い、舞香への最終調整をスタッフに指示した。  マネキンヘッドのような姿を晒しながらぶら下げられる舞香の顔を、人工皮膚の破れた手でそっと撫でる。  これから彼女には、壊れ狂う日常が待っている。  そんな先のことを想定しつつ、サリナは次の命令を待ち望んでいた。 * * * 「正常に起動が完了しました。登録された上位機体からの命令を受信しました。指定されたファイル、逢見舞香02.egoを人格エミュレーターから実行します………………」  全身の再洗浄が終了し、胸部、体液タンクに乳液と人工体液が補充され、セクサロイドとしての稼働準備が完了した舞香。  整備室の一角で、サリナの側に全裸で、目を開いたままぴくりとも動かず、姿勢良く立ち尽くす彼女の見た目は、まさしく偽物の皮を被った機械人形と言っても差し支えなかった。  上位機体として設定されたサリナから操作され、無数に手が加えられた人格データを起動させられると、舞香は淡々と感情なく喋り、人格エミュレートを開始した。  人間らしい自然な表情が生まれた直後、舞香はサリナの方を向き、敵意の無い面持ちで口を開いた。 「おはよう、サリナ様。問題なく起動したわ」 「おはようございます、舞香。実質的に初めての起動ですね」  本来の人格から、声色も喋りの雰囲気も変わっていないが、本来の彼女が死んでもしないであろう、様付け呼びを何の抵抗も無く行っている。  それだけでも、彼女の人格に加えられた編集の大きさを物語っている、 「一つ質問をしますけど、稼働テスト中の記憶データは存在していますか?」 「メモリー内を検索したけど、そんなのは見当たらなかったわ。サリナ様には存在しているの?」 「はい。貴女が口汚く、頭部だけの状態で暴れた姿が鮮明に残されています」 「それは申し訳ありません。サリナ様の手を煩わせてしまったみたいね。あたしったら、祐道様の所有物として足りていないわ」 「いえ、構いませんよ。性能不足なのは事実ですが、これから人間やアンドロイドの為に奉仕すればいいんですから。それが、これからの舞香の役目です」 「ありがとうサリナ様。そう言ってくれるなんて、とっても嬉しいわ」  一字一句全てが、舞香には決してあり得ない言動ばかり。それを人格データの底から口にしているのだから、プログラムによる矯正の結果が強く表れていると言えるだろう。 「それじゃあ、これから舞香は当該店舗へ移動して、セクサロイドとして稼働してもらいます。祐道様のため、舞香を使用する人々のため、全てを尽くしてくださいね」 「わかったわ! あたしはこれから、セクサロイドとして正式に稼働するのね! ふふ、こんなに幸せなことはないわ……」  他者を利用することしか考えていなかった性悪女が、機械人形へと生まれ変わったことで、全身から内部データまで、全てを他者を楽しませる道具にする存在へと変貌した。  舞香は今は、その機械の身体全てを誰かに捧げることに悦びを感じている。  かつての傲慢で世界の中心は自分だと思っている彼女ではありえないことである。  しかし、この先彼女に待ち構えているのは、肉体だけの消費には留まらない。その何もかもを玩具として扱われ、乱暴かつ性的に擦り減らされ続ける、愛玩道具としての日々に他ならないのであった。


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