SamSuka
土装番
土装番

fanbox


一人○役の玩具家族 1話先行公開版

 とある未来にて、機械工学を中心に様々な学問の大幅な進歩によって、人間とは区別がつかない程にそっくりな自律稼働機械人形、アンドロイドが製造されるようになった時代。  美男美女にデザインされ、人工皮膚を被せられた人間そっくりの容姿。少々の違和感を除けばほぼ人間と変わらないやり取りが可能な人格データ。  挙動や反応も前時代に比べてより自然になり、まさしく人間を人工物として再現した存在と言っても過言ではなかった。  その一方で、アンドロイドは人間に使われる道具としての側面も持ち合わせている。  たとえ人間と同じように接することができても、使用者次第で人間扱いにもただの道具扱いにもなりうる。  過去に大切に扱われていても、使用者が変われば即使い捨ての道具も同然となり得る。  アンドロイドはプログラムによって組み上げられた存在であり、外部から改変可能なそれが原則の理なのは逃れることのない事実である。  それはまさしく、どれだけ人の形をしていても機械であるということを示していた。  そして、そんな世界の裏では、本物の人間に改造を施し、生身を捨てさせ機械の身体へと生まれ変わらせるテクノロジーも進められていた。  非人道的と言えるその技術は世に姿を表すことはなく、水面下でテクノロジーを日々向上させ、知らぬ間に人間の身体を作り変えていた。  表に出ることのない裏の住人達は、常に無辜の人々に手招きし、誰もが予想もし得ない世界へと招き入れようとする。  しかし、利害が一致すれば、それに引き寄せられていく者も少なくない。  これは、ふと抱いた自分の願望が叶えられた男と、アイデンティティを変えられても全てを尽くして奉仕する機械人形へと作り変えられた、美人女子大生の話である。 * * *  「こいつとか良さそうだな。胸も大きいし顔も好みだし。けどその分高えよなぁ。さすがに手が出ねえわ」  都内のとあるマンションにて暮らす、会社員の岩倉慎司は、ネット上の女性型アンドロイドのカタログを見ながら、自分の願望を口から垂れ流していた。  中身は機械だが、それでも人間に近く動作も自然。受け答えもしっかりと疎通可能。それらは仕事上でアンドロイドとの会話を行う中でもよく体感していた。  そんな被造物でありつつも、誰もが一目惚れするような美人女性が、金を払えばいつでも自分の物となる。  それはまさしく男の欲望の具現化と言っても過言ではなかった。  しかし当然、それだけの品質を持つ製品はそれ相応の金額がどうしてもかかってしまう。  給料こそ良い上に時間も融通が利く職場とはいえ、購入には準備期間が必要になるだろう。  今すぐにでも欲しいし、買って抱きしめて尽くしてもらいたい。そのような強い想いが、思わず溢れ出ていた。 「一括で買うにしてもどんくらいかかるかなあ…………やめた、あんま考えたくねえな」  だが、一般の手にも届くようになったとはいえ、アンドロイドという存在は高級家電も同然。  それも単一の用途ではない、人間と同じように様々な事象に対応可能な人型となれば、そこに注ぎ込まれた技術や生産コストも含めて最上級の家電製品と言える。  新たに同居人を増やすとなればそんな簡単に済むわけがなく、金持ちの道具と言っても過言ではなかった。  中古品を使用する手もあるが、人間の形をした物の中古となると、やや精神的に気が引けてくる上に、それでも中々な値段をしている。  やはり手に入るのはまだまだ遠い先の話なんだろうかと、使う電子機器をPCから携帯端末へ取り替え、ベッドへと向かった。 「はあ、俺にもベッドで迎えてくれるロボットがいればなあ。寝る時もそりゃあ気分いいんだろうなあ。母親とか姉ちゃんとか、妹とか恋人とかそんなタイプの人格入れてさ、色んなやり方で甘えさせてくれるんだろうなあ」  アンドロイドの人格は、ユーザーの設定で自由に切り換えられ、設定変更された後は最初からそうであったかのように振る舞うようになる。  このような部分も、アンドロイドが人間に使われる道具であるという要素の一つでもある。  床の間を温めてくれる美女がいればなあと、そんな妄想を携帯端末を弄りつつ耽りながら、慎司は眠気がやってくるまで一日中そのような調子を続けたのであった。  誰かに見られているとも知らずに。 * * *    次の日の朝方。  平日ながらも休日だから早朝から気分転換に散歩しようと、慎司は起床後すぐに衣服を着替え、朝のやや冷たくも爽やかな空気を浴びつつ足を動かしていた。  時間帯もあって人通りも少なく、楽しむには絶好の機会。  呼吸も意識しつつ、せっかくだからと普段は行かないような道を歩いていると、慎司はふと奇妙な違和感が漂う通りへと足が向いた。 「なんだこれ。こんな建物あったか……? どう見ても周りと噛み合ってねえぞ」  視界に入り込んできたのは、人の気配が見られないいくつもの古ぼけたビルの合間にそびえる、明らかに新築物件な真新しいビルだった。  何十年も前の建物であろう周囲と比べ、設備や外観デザインも明らかに最近のもの。  このような物があるなんて情報は一度も入ったことが無い分、慎司にとってはまさしく寝耳に水のような感覚だった。 「ちょっと近くで見てみるか」  好奇心のままに近づいてみると、改めて作られたばかりという初々しい雰囲気がそのビルからは漂っていた。  思わず見惚れそうになったその時、入り口から一人のスーツ姿の女性が近づいてきた。 「おはようございます。お待ちしておりました、岩倉慎司様」  その女性の歩く姿は寸分の狂いも無く整っており、スーツにくっきりと浮き出る完璧を体現したような体型は、まるで男性の欲望をそのまま形にしたようだった。  美脚や所々から露出している肌は遠目に見てもとても滑らかであり、朝の日差しを弾くような美しさをしている。  しかし、女性の表情には感情が見受けられず、その瞳は慎司の姿だけをじっと捉えていた。 「誰だあんた……? なんで俺の名前を知ってる? 初対面のはずだろ?」 「非常に申し上げにくいことなのですが、私どもは現在、慎司様の携帯端末へのアクセスが可能となっております。常に慎司様の姿を捉え、音声を収集し、慎司様の姿を確認させて頂いています。これは、ハッキングした監視カメラから捉えたパスコードを使用し……」 「ちょっと待て!? 俺の携帯に……? 意味のわかんねえこと言ってんじゃねえよ。それに、そんなこと本人の前で言って何がしたいんだ!? わけがわからん……」  突然、お前の携帯端末はハッキングされていると宣言されても、ただただ混乱するしかない。  女性はその反応を予期していたのか、一切リアクションを見せなかった。 「それは、慎司様を信頼に足る人物だと判断したからです。その前に、私どもがハッキングしているという証拠をこれから提示致します」  そう言うと女性は、小さく電子音を鳴らしてから口を開いた。  すると、彼女の口からはこれまでと性別が違う声が聞こえてきた。それは、過去の慎司の声だった。 『はあ、俺にもベッドで迎えてくれるロボットがいればなあ。寝る時もそりゃあ気分いいんだろうなあ』 「これ、確か俺の独り言……というか、なんで俺の声があんたから……まさか、アンドロイドか?」 「はい。私は案内役として製造された機体です。登録名はルミナと申します。人格データは搭載されていませんが、他のアンドロイドと同様に円滑なコミュニケーションが可能となっておりますので、以後よろしくお願い致します」  非常に丁寧に自分についての説明を行うルミナ。  アンドロイドと言われると、彼女の身体に対する印象が大きく変わってくる。  眼球内ではレンズが収縮を繰り返し、肌には毛の一本も生えておらずシミひとつついていない。  姿勢は常に綺麗な印象を作る角度を保っており、プログラムされた理想の女性像を完璧に形にしていた。  慎司は警戒心を強めながら、可能な限り得体の知れない相手の情報を引き出そうとする。 「俺に何のようだ。まさか脅しにかかろうってんじゃ」 「そういうわけではありません。むしろ慎司様の願望に協力させて頂きたいのです。女性型アンドロイドが欲しい、ということなので、私どもで無料で提供致します。当然、破損した場合のメンテナンスサービスや内部データのバックアップなどなど、全て無償で承ります」 「…………あんまりにも美味しい話過ぎるぞ。何考えてんだ」 「勿論、それには相応の『理由』がございます。その製造の為の原料に秘密があります。そちらは了承して頂いた後に説明します。そして、慎司様の個人情報はこちらで掌握していますので、その対価という側面も存在します。アンドロイドが欲しいと一人で口にしていた慎司様であれば、この私どもからの『要望』を受諾すると信じていますが…………いかがでしょうか?」  感情のない機械が口にする「信じる」という言葉ほど胡散臭い物はない。  だが、それらの心臓を握られているような情報を持たれたままでは、間違いなく慎司側の分が悪すぎる。  ここは安全の為にも従ったほうが良いだろうと、なんでこんな朝にこんな目にあっているんだと思いながらもルミナの言葉を受け入れることにした。 「わかったよ。受ければいいんだろ」 「ありがとうございます慎司様。慎司様の期待を超えるサービスを提供することを保証します。それでは詳細の説明ですが……」 * * *  慎司の予期せぬ出会いを迎えた朝から時間が経ち、同日の夕方頃。  都内の大学に通う沢谷恵里菜は、自慢のファッションに身を包みながら、都内の買い物スポットやスイーツを満喫している最中だった。 「あぁ……バナナジュース美味しい……暖房効きまくってたからより美味しいわ……」  冷たい風に美しくなびくセミロングの黒髪に、女優やモデルと言われてもおかしく無い程に整った、年齢よりもやや大人びた美しい顔立ち。  自身のコーディネートによってより映えている、谷間のくっきり作られた大きな乳房。  平均よりも高身長気味の美脚が、無駄肉の無いボディラインをより素晴らしく作り上げていた。  まさしく、誰も彼も魅了する絶世の美女と言っても過言ではない恵里菜は、大学を出て友人達とも別れた後で一人の時間を楽しんでいた。 「ふう、面倒くさい男どももいないし、こういう一人の時間もいいわよね……もうちょっと優香や甘夏と一緒にいたかったけど、用事って言ってたしなあ……まあ仕方ないか」  恵里菜の本能的かつ肉体的な魅力が垂れ流しになっていると言っても過言ではないその容姿は、視界に入った者の目線を何度も引いていった。  その分、彼女には大学内でも言い寄ってくる者が絶えない。  表面的にはその場その場でいなしているが、内心では非常に面倒と軽蔑し、友達と過ごす時間が削れてしまうと不愉快に思っていた。  恵里菜は鬱憤を晴らすようにショッピングやスイーツを楽しみ、一人の時を贅沢に楽しんでいた。 「そろそろ帰ろっかな、明日もあるし」  今日の課題も今から帰っても充分済ませられる程度のもの。とはいっても、時間的にもそろそろ潮時かなと思いながら、恵里菜は手元のゴミをきちんと片付けて駅へと向かっていった。  普段と変わらないいつもの日常が明日も始まる。それは今後も大きく変わることはしばらくは無いだろうと思いながら歩いている途中、恵里菜の肩に何者かがトントンと肩を叩いてきた。 「あの、これ落としましたよ」  振り向くとそこには、いつでも取り出せるように後ろのポケットに入れていた財布を持った美女が、笑みを浮かべて手を差し出していた。 「あ、ありがとうございます……」  思わず動揺してしまうくらいの美貌。しかし、恵里菜は眼球奥のレンズやところどころに見える継ぎ目から、女性がアンドロイドであると判断した。  その瞬間、恵里菜の表情が少し曇りを見せた。  彼女は人間とほぼ見分けがつかず、それでいてどこか不自然さを残しながらも殆ど人間と変わらない受け答えが可能なアンドロイドのことを好んでいない。それどころか嫌っていると言ってもいい。  最初から素晴らしい容姿を持って生まれ、自律的に行動していながらも、人間が望むように組み換えられても文句一つ言わず、人の欲望のままに従順に従う人形。  そんな姿が内心ではとても気に入らなかった。  目の前では親切な顔をしていても、どうせちょっと命令すれば人間の靴でも舐めちゃうんでしょ、と見下している。  そう思いながら財布を受け取ると、女性は続けて話を切り出した。 「それと、もう一つ落とし物がありまして……財布の近くに落ちてたからもしかしたら貴女のかも……? と思うんですが、ちょっとこっちで見ていただけませんか?」 「ええまあ、いいですけど」  恵里菜はそんなに後ろのポケットに入れてたっけ? と同時に、早くこのロボットから離れたいから早く済ませよう。と思いながら、道から外れた人通りの無い路地へと移動した。 「……たかが落とし物で、わざわざここに連れてくる必要な……んん!!」  ちょっと考えれば、わざわざついていく必要はなかった。無駄なやり取りしちゃったなあという感情が思わず口から漏れ出したその時、突如彼女の口元が強引に押さえつけられ、全身を抱き締めるように拘束された。  その力は明らかに人間のそれではなく、体型の感触的に男性でもない。しかも一体ではなく複数で押さえられている。  突然の事態に取り乱し、恵里菜は暴れて逃れようとするが、全然力で押し返せる気がしない。  嫌悪が先行し、警戒まで意識を向けられなかったことを後悔しながら、少しでも動ける隙を見つけようと奮闘しようとした直後、女性の指が開放され、内側から注射針が露出。  一切の容赦なく首元に差し込まれ、麻酔液が注入されていった。 「あ……う…………なんな…………の…………よ…………」  一瞬の痛みから、彼女の意識は長くは持たなかった。  全身の力が抜け、抵抗する意思も薄れていき、身体はゆっくりと機械人形の腕へと崩れていく。  そして、反抗の意思も虚しく、恵里菜の意識はそのまま闇に落ちていった。  アンドロイドの一体が恵里菜の身体を覆うようにフードを被せる一方、話しかけてきた女性がそれまでの人間らしい表情を無くし、虚空に向かって独り言を口にしていた。 「指定された素体の確保に成功しました。状態は良好。直ちに移送を開始します」  そう言うとアンドロイド達は、付近に停められていた車両に無駄のない動作で移動し、痕跡を一片たりとも残さず立ち去っていった。  こうして、恵里菜の日常は何の前触れもなく、突然に終わりを告げたのであった。 * * *    慎司がルミナに遭遇してから三日後。  やや、やる気が無いながらもしっかりと仕事に打ち込み、きっちりと定時にオフィスを出て帰路についていた途中、慎司はふと、ルミナのことを思い出していた。 「そういや、まだあいつ来ないな。やっぱ嘘だったんだろうか?」  慎司はルミナから向けられた条件を飲み、アンドロイドを受け取るという契約を承った。  その内容は、人間を原料としたアンドロイドを無償で提供し、修理やバックアップ、アップデートも無料で行う代わり、その存在を決して他言せず、もし発見されても元は人間であることは絶対に公言しない。というものだった。  個人情報を握っているとはいえ、あまりにと都合の良い条件。時間も経てば嘘であると疑うのも仕方がない。 「携帯も変えたほうがいいかなあこれ。これじゃあ不安で仕方な……うわっ!」 「おかえりなさいませ、慎司様。大変お待たせいたしました」  電子ロックを開き、自宅のドアを開けた向こうにいたのは、たった今独り言で話題にしていたルミナだった。  出会った頃の冷血な表情からは想像できない、自然で明るい作り笑顔に、抑揚がハッキリしながらもやや感情がこもっているように感じられる声色は、以前の印象からのギャップにより、尚の事奇妙に感じた。  そして、彼女の背後には、壁を背もたれに立ち尽くしている、虚ろに目蓋を開いたままの全裸の見知らぬ女性がいた。 「お前、なんでここに!? 確かに鍵は……」   「こちらで解析し、カードキーの複製を行いました。通常の鍵の場合でも、合鍵を作成したでしょう」  相変わらずの常識を無視した事前準備ぶりに、思わず溜息が出てしまう慎司。  だが今回は、もう一体の女性がマネキンのように待機している。すかさず話題はそちらへと動かしていく。 「ったく……それで、そこにあるのがこの前言ってた奴なのか? 人間を使ったっていう……」 「はい。契約成立後に捕獲し、早急に機械化手術に着手させて頂きました。現在は電源オフの状態となっており、専用のアプリから操作、または首筋のカバーを外した後に現れる電源ボタンを押すことで起動できます」 「専用のアプリって」 「既に慎司様の端末内インストール済みです。初回設定も完了していますので、いつでも操作可能です」  すぐさまアプリ一覧を確認すると、言葉通りに一度もインストールしたことのない知らないアプリのアイコンが出現していた。  ユーザーの利益になることとはいえ、どれだけプライバシーの侵害をすれば気が済むのかと素朴に思ってしまう程の勝手ぶり。  しかし、視界に写る分だけでも、その機体は非常に魅力的に見える。  張りを持って突き出ている乳房に、横向きでもわかる程の完璧な体型、  慎司はドアを閉めてようやく玄関から上がると、改めて提供された人形の前まで移動した。  最初からアンドロイドなのではと思えるくらいの完璧な造形に、今からでも撫で回しなくなるような扇情的な身体。  その不自然な表情と姿を見ても、誰も元人間だとは思わないだろう。 「それでは、まずは私からの操作によって遠隔起動を行います。自動的に人格エミュレートが開始されますので、改めて慎司様の手で設定の変更を行ってください。改造以前の人格をそのまま電子情報に変換しましたので、起動直後は反抗的になると予測されます。なので、操作練習も兼ねてアプリ操作の準備をしておいてください。それでは、起動させます」  それまでの強引さが嘘のような丁寧な説明を向けたあと、ルミナは笑顔のまま瞳の奥を点滅させた。  すると、それに呼応するようにロボットの目の奥が明るくなり始め、ゆっくりと垂れていた首が真っ直ぐ持ち上がっていった。 「………………外部機体からの起動命令を受信しました。識別コード:AH02756ME 登録名:沢谷恵里菜。これより起動します…………」  誰もいない方向を向きながら、感情もなくシステムメッセージを口にする恵里菜。  静かな室内にもある程度耳に入る駆動音を胴体から、頭部から小さく鳴らしながら起動シークエンスに入る。   「システムは正常に稼働中。人格エミュレートを開始します………………えっ、なに、どこなのよここ? なんでいきなり知らない所に……」  そして、一通りのメッセージを発し終えた瞬間、恵里菜の表情はとても人間らしい柔らかさが付与され、全身に戸惑いの感情を帯びながら動き始めた。  突如自分が知らない場所に立っていることに驚きを隠せず、ここがどこなのかと、記憶データの中から一致する事項を検索しようとする。  直後、全身の感覚が強く感じることに気づき、それが肌着を一枚も羽織っていないことが原因だと気づいた。 「なっ、なんであたし裸で…………だ、誰なのよあんた達!? まさか、あんた達がここに連れ込んだの!?」  ようやく自身への確認が済むと、恵里菜の視線は慎司とルミナへと移る。  見知らぬ男女に見知らぬ室内。自分は裸で廊下に立たされている。まさかこの二人が自分に何かしたのでは。  恵里菜の眼は刺すように鋭くなり、敵意むき出しでにらみつけていた。 「彼女、お前のこと知らないのか?」 「はい。機械化手術の際に立ち会ってはいますが、確保から現在に至るまでの記憶データは全て外部メモリに移動させました。ご希望があれば、映像サービスとして提供できますよ」 「何をわけのわかんないこと話してんのよ! あんた達…………」  可能な限り抵抗しなければ何をされるかわからないと演算結果を導き出した恵里菜は、手を上げて叩こうとした。  しかし、ルミナから送信された停止信号によって、恵里菜の動作は時間が止まったようにぴたっと無くなった。  身体の勢いが柔らかく豊かな乳房と黒髪に乗り、険しい表情そのままに胸が激しく揺れる。 「このように、恵里菜は私の下位機種として登録されていますので、私の命令には無条件に従います。同様に、慎司様の携帯端末内のアプリから送信される信号も、上位権限によって強制的に実行されますので、どのように使って頂いても構いませんよ」 「は、はあ……色々すごすぎて追いつかねえ……」  目の前で目まぐるしく起きている非現実的な光景。彼女が元人間かどうかも、今は頭の中に入っていかない。  すると、ルミナは慎司の側まで改めて近づき、初めて携帯端末を操作する相手をガイドするように手元に触れた。 「それでは、簡易的なチュートリアルを始めましょう。それが終了したら、私は退散しますので、もう少々お待ち下さい」 「ああはい……」  トントン拍子に物事が進められていくが、流れの早さに抵抗することもできず、慎司はおとなしくそれを頭の中に入れることにした。  怒りの形相で襲いかかる直前で止まっている恵里菜をよそに、二人のやり取りは進められていく。 「まずはアプリを起動して、様々なメニューが表示されます。これらはチュートリアル後、自由に操作していただいて構いませんので、色々と試してみてください」 「わ、わかった……」 「それでは、こちらのパーソナリティ設定を開きます。ここでは、沢谷恵里菜の様々なステータスや各種設定を閲覧、変更することができます。いわばこの機体のアイデンティティですね。これは人間時代のそれをそのまま可視化しています。では、沢谷恵里菜の人格データの反応を少々改竄してから、一時停止を解除しますね」  柔らかな物言いながら、非常に物騒なことを言うルミナ。  直後、止まっていた恵里菜の動作が元に戻るが、それまでの怒りがすっと消えたかのように足を止め、不満げな立ち姿に戻っていった。 「ねえ、あたしにこんなことして、一体何をしようっていうの? これはどう考えても誘拐よね? 絶対警察に突き出してやるから」  敵意は未だ剥き出しながら、攻撃の気配は一切見られない。 「現在、感情値内の攻撃性のステータスの上昇を停止しています。では、まず質問してみましょう。恵里菜はこの方を知っていますか?」 「はあ? 知るわけ無いでしょこんな男。だいたい、なんであんたもあたしの名前知ってんのよ。まさか、財布でも盗み取ったの!?」 「では、パーソナリティ設定内の属性設定を選び、所有者のセクサロイドを選択してください。現在、沢谷恵里菜の所有者は既に慎司様に設定されていますので、こちらを選択すれば、即座に自身を慎司様の物だと認識しますよ」 「ちょっとは話を聞きなさいよ! そっちで勝手に誘拐して裸にしといて、あたしそっちのけで話を進め……………」  目の前でずっと喚いていた声が再び止まり、システムメッセージを発する恵里菜。  感情の失った表情が再び元に戻るが、彼女の顔はそれまでとは明らかに違い、どこか悩ましげで紅潮していた。  全身はどこかゆらゆらと動いており、まるで誘惑しているかのようである。 「このように、簡単な操作でいくらでもカスタマイズが可能となっております。それではもう一度質問してみましょう。恵里菜はこの方を知っていますか?」 「当たり前じゃない。岩倉慎司様でしょ? あたしは慎司様のセクサロイドなんだから」  知らないと言っていた彼女の言葉が、一分もしないうちに塗り替えられた。  目の前に広がる都合のいい現実。こんなにいたれりつくせりで良いのかと思える程だった。 「マジかよ…………」 「それでは、私はこれで失礼します。沢谷恵里菜との蜜月の日々をどうぞお楽しみください」  まるで二人の間を尊重するかのように、ルミナはチュートリアルを終えると、有限実行とばかりに慎司の自宅から去っていった。  玄関に取り残された一人と一体。恵里菜はぐいぐいと近づき、慎司に抱きつく。  先程からその淫靡さを惜しげもなく披露していた乳房が、スーツ越しに押し付けられる。 「ねえ慎司様、あたし、早く慎司様とセックスしたいの。あたしの機能を早く使ってほしくて、身体中が疼いてるの……ねえ、慎司様……」  先程まであれだけ反抗的だったのに、ちょっと操作を加えただけで突然従順な性奴隷のようになり始めた恵里菜。  彼女が蠱惑的な動作を見せる度、身体中から微小な機械音が耳に入ってくる。  実のところ、恵里菜の全裸と動かない姿を見て興奮していた慎司の一物は、スーツの下で強く張っていた。  これ以上はもう我慢出来ないと、一目散にスーツや下着を脱ぎ捨て、肌寒さなど知るかとばかりに全裸になった。 「……なあ恵里菜。お前、本当に元人間なのか?」 「そうよ……あたしの記憶データを閲覧すれば、過去の記憶全て覗けるから確認できるの……それに、特定の設定時にはあたしが機械であるという自認識が発生するけど、通常人格等の人間基準の場合はそれが消失するの……だけど、今のあたしは慎司様の為のセクサロイド。人間の時は処女だったから、女性器ユニットの品質は保証するわ……」  そういうと恵里菜は、自らとろとろに人工愛液で濡らした女性器ユニットを見せつけるように、腰を前に突き出し、割れ目を指で拡げてみせた。  卑猥なしずくが糸を引き、ぴとっと床へ落ちていく。  生の匂いのしない女体が、これでもかとばかりに誘惑してくる。  慎司はこれはもう自分の物なのだから遠慮する必要はないと、恵里菜を思いっきり床に押し倒し、強引にキスを重ねた。 「あっ……んん…………慎司様……あっ…………いきなり…………けど……きもちいい……ん……もっと……欲しいわ…………慎司様…………初めてのキスが……あっ……慎司様なんて……とっても……幸せ……ぇ…………」  いきなりの性行為にも、受け入れ完璧に対応し、造り物の舌を人工唾液と共に絡ませる恵里菜。  処女であり、初めてのキスと言いながらも、まるで何度も体験したかのようなテクニックで、慎司の口内を的確に刺激していく。  極上の性体験を提供する為に組み込まれたプログラムによって、初めてでもどのように動かせばいいのか、機能として理解できている。  まさしく人間に仕える機械人形らしい便利道具的な姿とも言えるだろう。  一旦口を離すと、人工物となった体液が本物と混ざり糸を引く。  反抗的な女性の表情はすっかりと蕩け、なんでも受け入れそうな雰囲気を見せていた。  慎司は湧き上がる欲望に任せ、肉棒を割れ目に当てながら、激しく柔らかな乳を揉みしだく。 「ああんっ! あっ! あんっ! 慎司様……ぁっ……胸がとっても、気持ちいい……頭が焼けちゃいそう……はあんっ!! 慎司様……の……が……当たって…………は……あっ……早く……挿れて……ぇ…………」  男の欲望を煽り立てる為の、いかにもなわざとらしい言動。  しかし彼女はそれを演技ではなく、プログラムによって作り上げられた反応として、人格データの底から口にしている。  それを示すかのように、割れ目の肉が肉棒の先端を求めるようにぐにぐにと動き、早く咥えたいと主張している。  手の中で柔らかく潰れた乳房は、内側からの振動が伝わり、快感に反応する乳首の細かな振動が感じられる。  一旦手を離すと、手のひらには乳から溢れた乳白色の液体が付着していた。  処女なのに、妊娠も体験しているわけがないはずなのに、セクサロイドを楽しむ機能として実装された憤乳機能。  慎司は無数の要素に情欲を一気に煽り立てられ、容赦なく男性器を挿入していった。  直後、恵里菜の全身がびくっ、と示し合わせたかのように震えた。 「ひあああっ!! あんっ! あっ! 慎司様の男性器が……っ……あんっ! あたしの膣内に入って……あっ! きもちいい……っ! ん……あっ! はああっ!! もっと、もっと突いてぇっ!」  淫乱な娼婦のように求め佳がる恵里菜。  気持ちよさそうに人工愛液を垂らし、乳液をピンク色の乳首から快感に任せて垂れ流していく。 「すげえ……うっ! めっちゃ締め付けて……きもちいい…………ぐっ…………」  下半身の動作とは別に、女性器ユニットが単独で動作し、形状を膣肉で計測、保存しながら最適な動作を行い、所有者に快楽を与えていく。  セクサロイドらしい非人間的な肉体行為に興奮の熱は止まらず、どんどんエスカレートしていく。  ふとここで、慎司はセックスの最中に人格データの設定を変更したらどうなるのかと直感的に考えた。  何かあればとっとと戻してしまえばいいと、手元の携帯端末から属性設定をデフォルトに戻し、設定保存した。 「もっと! 慎司様の身体を感じたいの! あんっ! あんっ! あたし、こんなにセックスが気持ちいいなんて知らな…………アプリからの設定更新を、受諾、し……ました。更新終了後、人格エミュレートを再開しし、します………………えっ、な、なんな、の? 一体あたし、何されて……あああっ!!」  媚び媚びのセリフから突然、無感情のシステムメッセージにぶつ切りで切り替わる恵里菜。  快楽信号の負荷がかかっている最中の変更だったからか、彼女のメッセージにも若干のおかしさが見える。  そして、人間だった頃と変わらない人格データに復帰した直後、恵里菜の表情はそれまでの蕩けたものとはうってかわって、絶望のそれに変わった。 「いやあっ! やめて! 離してっ! あっ! あぁぁ……あ゛っ! 犯されるなんていやあっ! 触らないでよおっ!」 「そんなに言っても気持ちよくなってんじゃねえか……ぐっ……お前から誘ってきたくせによ…………」 「ああっ……あんっ…………そんなの……知らない……あんたみたいな……あっ! 最低な奴になんか……いやぁ…………やめ……アプリからの設定更新を受諾しました。更新終了後、人格エミュレートを再開します」  本来ならば至極真っ当な反応。  知らない男に処女を犯され、自分が誘ったなどと意味不明な言葉を投げつけられる。  尊厳を徹底的に陵辱された恵里菜の目から、人工涙液が流れ出る。  もうやめて、こんな酷いことしないでと懇願する言葉を口にしようとした直後、再びセクサロイド設定へと戻される。  すると、また中身が入れ替わったように自ら男の一物を求めだし、嬉しそうに膣肉を動かした。 「あんっ! あんっ! 慎司様……ぁっ! あたし、もうすぐイキそうっ! あたしの女性器ユニットに接続されてる子宮ユニットは……あんっ! 精液を溜め込むための補充袋になってるから……あんっ! 妊娠することもないわ……はあっ! あっ! だからっ! いっぱいあたしの膣内に出してえっ! もっと、慎司様のこと感じたいのっ!」  手元での簡単な操作で180度転換した恵里菜の反応。  さっきまで犯されたくないと言っていた膣に、早く欲しいと淫欲を求め、自分がいつか子供を産むはずだった内臓をただの精液袋と嬉しそうに言ってのける。  まさしく都合の良い機械人形。これが元人間だという事実が、慎司には当初よりもさらに魅力的に感じるようになった。  人工の偽肉と生きた肉が、液体の音を混じえて絡み合う。  間もなく気持ちよさの頂点に達しようとしている慎司。興奮の息をさらにエスカレートさせながら、欲望を吐き出す為にさらに腰を振り、胸を掴んだ。 「恵里菜……うっ! 今から出してやる……からな……望み通り……ぐっ……はぁ……はぁ…………うっ…………」 「あっ! あんっ! は、いっ! あたしの処女は……あんっ! 慎司様に捧げて……あっ! あっ! あんっ! あああっ!」  子宮口が開かれ、人工愛液の分泌量が増加し、液を全て流し込む準備が整えられた。  膣肉の動作はラストスパートに入り、ぐにぐにと極上の性玩具らしいパフォーマンスを見せる。  そして、慎司の衝動は形となって一気に放出され、人工物の肉壷を熱く染め上げていった。 「ああああっっ!! 慎司様のが、いっぱい流れ込んできてっ!! あっ! あんっ! 子宮に流れてきてるっ!! あっ、あっ、ああっっ!! ああああああああっっっ!!!」  静かな室内に響く、電子的に造られた絶頂の声。  射精に合わせてセンサーが膨大な快楽信号を送信し、人格データに初めての官能的な感覚を刻み込んだ。  人間としても機械としても処女を失った恵里菜は、とても嬉しそうな表情でぐったりと床に崩れ落ちた。  時折、脳内処理が追いついていないのか、ぴくっ、ぴくっと、全身を震わせている。 「あっ…………あぁ…………慎司様……ぁ……あたし…………慎司様が処女を…………貰ってくれて……嬉しDNA情報を解析しました。所有者情報として登録します」  全身を性感に満たされ、蕩けた声と表情で悦びを表現している途中でも、機械らしく容赦なくシステムメッセージが割り込んでくる恵里菜。  一方の慎司は、全身汗だくになり息を切らしながらも、まだ興奮冷めやらない様子。  すると、玄関に置いた衣服や荷物を全てそこに置いたまま、恵里菜の腕を掴んで引きずり、ベッドが置かれた自室へと連れて行った。 「正直……まだやりたりねえ…………結構溜まってたんだよ……だから、今日はまだ付き合ってもらうからな」 「………………ええ…………もちろんよ…………あたしの身体は……全て……あっ……慎司様のものだもの……子宮ユニット内の容量も……まだ余裕があるから…………いっぱい使ってね…………あっ……ん…………」  床に太ももや尻の人工皮膚が擦れても、恵里菜は痛いともやめてとも言わず、ありのままの扱いを受け入れ、まだ続くであろう性行為を待ち侘びる。  こうして一人と一体はこの後も、主人の気が済むまでしばらくの間、肉体を交わし続けたのであった。 * * *  一区切りがつき、ベッドの中で寄り添い合う慎司と恵里菜。  恵里菜の下腹部では、ほぼ満タン近くまで精液を溜められた子宮ユニットが、興奮によってぶるぶると振動し続けている。  その一方、全て吐き出しぐったりとしていた慎司は、人格データの設定項目に注目していた。   「母親かぁ……ちょっと動かしてみるか」  慎司は当初から、人格データの切り替えが自由なアンドロイドを欲していた。  メニュー内にはその願望をまさしく実現する内容が組み込まれている。  人格データの設定メニューには、デフォルトや所有者のセクサロイドの他にも、母親、姉、妹、同級生、同僚、先輩、後輩等など、多数の選択肢が用意されている。  しかもこれは、あとから追加もできるらしい。  慎司は早速、母親のメニューを選択し適用してみることにした。 「慎司様……ぁ……あたし、セクサロイドとしての役目を……対応する人格データがインストールされていません。ストアより購入、または該当する人格データをインストールしてください」  すっかりデレデレになった恵里菜の口から、エラーメッセージが発された。  どうやら本来のそれとは別に新たに入れなければならないらしい。  であれば、ストアから購入したほうが早いだろうかと、慎司はちょっと面倒臭がりながらもそれを開き、無数にあるメニューの中から人格データの欄を選択。その中から母親を選び、早速購入した。 「クレカ登録まで済ませてんのか……ありがてえけど怖えなやっぱ」  良すぎる準備の良さにたじろぎつつも、ダウンロード完了を確認した慎司は、テストの意味合いも込めて母親設定を適用した。 「まだするの慎司様? あたしは勿論構わな……アプリからの設定更新を受諾しました。更新終了後、人格エミュレートを再開します」  まるで玩具のように、次々と一方的にアイデンティティを弄られていく恵里菜、  表情が失われ、頭部から内部駆動音が鳴る。  そして、再び人間らしい柔らかさが取り戻されると、恵里菜の雰囲気は明らかに数秒前とは違っていた。 「ふふ、もうこんな時間なのに、まだ起きてるの……? ん……早く寝ないとダメよ慎司。ほら、一緒に寝てあげるから、ね?」  声の本質そのものは変わらないが、口調や声色、喋るペースまでもが別人のように変化し、一気に大人の雰囲気を醸し出し始めた恵里菜。  それまで少なかった母性が付与された姿に、慎司はただただ驚きながらも豊満な胸に顔を埋めていった。 「すげえ…………本当にこんなに…………これは……もっといっぱい……楽しめそうだな…………」  ずっと続いていたセックスからの疲れと仕事の疲れもあり、一気に眠気に引き込まれた慎司は、そのまま偽物の母の胸で眠りについていった。  恵里菜は突如付け加えられた母性のままに頭を撫で、ぎゅっと息子を抱き締め、子宮ユニットを震わせながら我が子の睡眠を助けた。 「お休みなさい慎司……ん…………明日も頑張りましょうね…………」  こうして、予期せぬところから転がり込んだ元人間の機械人形と、一人の男の蜜月の日々が幕を開けたのであった。


More Creators