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機械の侵食 5話 快適な空の旅と拡散準備 1/?

 国内において、現在航空業界のシェア第2位を誇る航空会社、スカイパル。  国内外に手広く路線を伸ばしており、空路利用者ならば一度は利用したことがあるだろうと言えるほどの有名な会社である。  安定した運営が行われている以外は、他の航空会社とさしたる違いは見られず、まさしくいつも人々の隣にいる存在と言えるような航空会社だった。  しかしある日、突如スカイパルの社長が、原田直美という女性に前触れもなく変わり、世間や社内に波紋を呼んだ。  会見や報告では、前社長直々の指名によって抜擢されたと発表されたが、大企業の社長を務めるには非常に若く、血縁関係も存在しない為、週刊誌やゴシップ誌、ワイドショーでは愛人起用などの中傷的な報道も行われた。  だが、それらの前評判とは裏腹に、原田直美体制のスカイパルは、提供サービス、社内環境、共に目覚ましい変化を遂げた。  まず、機内サービスやチケット予約サイト、緊急時の保証やアフターケアなど、多方面での品質が著しく向上し、非常に使いやすく満足度も高くなったという評判が頻出した。  空港での荷物検査に自社スタッフを協力、派遣することで、以前よりさらに厳格化され、違法薬物や密輸品、銃器や危険物の確認体制がより強固な物となった。  スタッフの誰もが多言語を堪能に喋るようになり、トラブルが発生しても的確かつスムーズに対応してその場を収めたり、各駅からの空港までの直通バスの本数増加や運営ホテルのプラン料金をそのままにグレードをさらに引き上げるなど、みるみるうちにスカイパルが運営するサービス全体のクオリティは向上していった。  結果、スカイパルはみるみるうちに多方面で評判を引き上げ、原田直美は一躍、若きカリスマ社長として持ち上げられるようになっていった。  その一方で、世間一般には見えない社内の変化も発生していた。  原田直美が就任して以降、スカイパル社内での男女比率が少しずつ傾き始め、ついには社員の8割以上が女性社員を占めるようになった。  客室乗務員以外にも、パイロットや受付、料理人、バスドライバーやホテルスタッフ、管理職に至るまで女性。しかも、その誰もが美女揃いであり、能力に関しても超一級品。  探さなければ男性が見当たらないと言えるまでの偏りが生じるようになっていた。  スカイパルの隆盛に伴い進められている密かな変化。だが、その本当の変化に気づく者は非常に少ない。  社員の女性比率が異様に高くなった要因、そして、サービス向上や航空関連の様々な箇所に食い込むようになった要因。それは、原田直美がペリメイズ人によって手を加えられた機械化人だからである。  スカイパルに務める女性は、現在全員が例外なく機械化されており、生身の人間は一人として存在しない。  それこそが、驚く程にハイスペックかつ、美女ばかりになっている理由である。  そして、スカイパルに機械化人が入り込んだ大きな理由もそこにはあった。  それは、世界中への機械化の拡散補助である。 * * *  関東地区、そしてこの国で最も利用者の多い空港であり、無数の航空会社が就航している羽島空港。  365日、常に人入りやフライトが絶えることなく、国内外問わず空の道を繋いでいる。  そんな空港のある昼過ぎ。ある二人の女性が、スカイパルのチェックイン受付エリアへとやってきた。 「ここでいいんだよね? 飛行機乗るの久しぶりだからわかんないなあ」   「大丈夫任せて。あたし達ならすぐに受付終わるから」  二人はこの日、飛行機に乗って南の方へ国内旅行へ向かう予定となっていた。  元々予定していた物ではなく、一週間後に行きたいと、行動力のある金髪日焼け肌の江梨子が、もう何年も飛行機に乗っていない友人の黒髪色白の春美を誘った形となる。  両者ともにモデルだと見まごうばかりのスタイルの良さに、オシャレな私服からは程よく乳房が盛り上がっている。  常に距離の近い二人は、江梨子の案内でスカイパルの自動チェックイン機と対面し、早速手続きを開始した。  見た目は、他会社の自動チェックイン機と変わらない。 「ほら、あたしが受付するところ、ちゃんと見ててね」  そう言うと、江梨子は受付案内が表示されているタッチパネルではなく、その下にある小物置き場としか思えないような窪みに人差し指を置いた。  次の瞬間、何もなかったそのスペースが突如無音で左右に開き、小さな接続端子が姿を現した。  江梨子はそれに驚くことなく、それどころか、自らの人差し指を開放し、接続端子を露わに、そこに接続した。  数秒ほど微笑みを浮かべた顔で静止した後、指を離してシャッターも閉じる。  そして、タッチパネル内で何の操作も行われていないにも関わらず、発券口からフライトのチケットが排出され、画面内にはご利用ありがとうございましたと、精巧な3Dモデルの女性がお辞儀をする姿と共に表示された。 「ねっ、すぐ済んだでしょ? さ、次は春美の番だよ」 「へえ、すごいなあ。じゃあ私もやってみるね」  江梨子の所作を参考に、春美も同じように窪みに人差し指を置くと、同様に端子が姿を現し、指先が開いて接続された。  二人は共に、元人間だった機械化人であり、同時にペリメイズ人に変換されていた。  元々友達同士の間柄だったが、それ以降はまるでカップルのように親密な仲になり、何度も絡みあっては静かに壊し合って快楽信号を共有し合っていた。 「こんなに簡単なのっていいね。他のところはできるの?」 「ううん、あの受付システムがあるのはスカイパルだけなんだってさ。まあ、あたし達にしか読み込めないサイトでのお知らせで言ってたから仕方ないよね」  発券されたチケットを手に取り、荷物預けも終えた二人は出発まで空港内をぶらつき、滅多に行かないスポットを堪能した。  江梨子の言う通り、スカイパルの自動チェックイン機には、機械化人専用の受付システムが組み込まれている。  電子頭脳と接続した後で、ユーザー側がストレージに保存した予約番号を読み取り、それを元に発券を行う。  現在の地球のテクノロジーよりも圧倒的にセキュリティが強固で、受付も非常に短く済む。  そしてこれらのシステムは、スカイパル公式サイト内の、機械化人またはペリメイズ人だけが、電子頭脳からアクセスした時のみ閲覧可能なページから確認可能になっている。  そのページでは、生身の人間達が受けられないような割引料金やサービス、セールも実施されており、完全な優遇措置がとられていた。  これらもまた、原田直美就任後にホームページが一新された理由である。 「そろそろ荷物検査いかない? 時間に余裕あったほうがいいし」 「あーもうこんな時間かぁ。やっぱこういう時って時間早く経つなぁ」  しばらく空港内をうろつき楽しんで、フライト一時間前になった頃に、二人は保安検査場へと向かう。  様々な航空会社の利用者が通るだけあって、時間帯ごとの差はあれど、常に検査場に向かう人は絶えない。 「荷物はトレーの上に乗せてくださーい! トレーは下のスペースの方に運ばれますので、そちらから取り出してくださーい!」    複数の検査ルートにそれぞれ分かれて、案内や説明をしながら無数の搭乗客の対応をしていく検査スタッフ達。  検査スタッフは現在、全員女性であり、その誰もが美女ばかり。思わず目を惹かれてしまう。  江梨子や春美も、きちんと荷物をトレーの上に乗せて、検査の流れに身を任せていく。  そうして二人は、何の問題もなく荷物検査をクリアしたが、彼女達の身体は今、どこにも生身は存在せず、樹脂と金属部品の塊である。  にも関わらず、金属探知機であるゲートを何の問題もなく通過できていた。  これらは、検査スタッフが機械化人には反応しないように、ゲートに調整を施しているからだった。  現在、保安検査場にいるスタッフは、全員が機械化人、またはスカイパルが密かに製造した女性型アンドロイドである。  ペリメイズ人がもたらした技術を用いて、大量のガラクタや廃棄品などから、人間とはまるで区別のつかない女性型を造りだし、それらにきちんと名前や擬似人格を与えて配属させている。  その為、機械化人はどのような検査を用いても完全に見過ごされる状態となっていた。  荷物検査を終えて、搭乗ゲートに到着し、設置されたふかふかなベンチに座り込む二人。  飛行機に乗る直前でないと入れない場所なだけあって、なんだか気分的なプレミアム感を覚えて感情値が引き上げられていく。   「忘れ物なんかある?」 「ないはずだけどなあ……一応店見ていこっか」  出発前に何か忘れていないか、買ったほうがいいものはないかと最終確認をしつつ、ついに搭乗時間を迎える二人。  スタッフに搭乗券を差し出し、ゲートを通り過ぎて、真っ直ぐ直結した飛行機内に向かって歩いていく。   「ご搭乗ありがとうございます。ご搭乗ありがとうございます」  客室乗務員が入ってきた乗客を笑顔で出迎え、次々と機内の席が埋まっていく。  スカイパルの飛行機は、機内スペースが広々としており、身体を動かす余裕がありながらシートはふかふか。  席にはきちんと充電端子やイヤホンジャックなどの設備も充実しており、離陸前から感心させられるような光景が広がっていた。 「広いねえー! ずっと前に乗った時はこんなに中広くなかった気がするなあ」 「あたしも結構ビビってるわ。思ったより快適そうだし、なんか俄然楽しみかも」  出発前から期待がどんどん広がっていく二人。  座席に座った後も、次々と乗客が指定された席に座り、椅子が埋まっていく。  この時はまだ、二人は全く気にしていないが、入っていく乗客には女性しかおらず、男性は一人としていなかった。  その誰もが美少女や美女ばかりで、どこかの芸能事務所が貸し切ったのかと思い込んでしまうような景色で埋め尽くされていた。  乗客の搭乗が進められるうちに、少しずつ離陸の準備も進められていく。 「もう間もなく、乗客の搭乗が完了します」  乗務員の一人が、コックピットで待機する機長と副操縦士に向けて報告を行う。  スカイパルが現在所有する国内の旅客機は、フロントガラスが外から中の様子が見えず、フライト時のみ視界が開放される仕組みになっている。  通常の旅客機に比べて、計器類が非常に簡素化しており、前面には何かを設置するような、端子付きの円形の窪みが備わっている。  機長と副操縦士も当然女性かつ機械化しており、制服の下から豊かな胸が盛り上がっている。  すると、両者同時に両手でこめかみを掴み、頭部を180度回転させはじめた。  キリッとした真面目な表情のまま真後ろを向くと、カチッ、という音と共に頭部が持ち上げられた。 「旅客機への接続を開始します」 「旅客機への接続を開始します」  両者ともに、確認口調ながらも感情を感じられる声でそれぞれに順を追って喋った後、取り外された頭部をそのまま、前面の窪みに設置し、180度回転させてフロントガラス側を向けさせた。  カチッ、と接続音が鳴った瞬間、二人の眼球奥の光が点滅し、同時に喋り始めた。 「外部機器との接続を確認しました。フライトシステムへの接続を確認」 「外部機器との接続を確認しました。フライトシステムへの接続を確認」  今度は、感情のないシステムメッセージを喋る二人。  スカイパルの旅客機は、機長と副操縦士の電子頭脳によって操縦が行われ、目的地までのフライトが実行される。  眼球ユニットの視点以外にも、各部に取り付けられたカメラから、空中の様子が両者の電子頭脳に取り込まれ、より安全かつ正確な操縦が可能になっている。  仮に、操縦席内で不具合が発生した場合でも、操縦システムをインストールされた客室乗務員が自身の頭部を接続し、操縦者代行を務めることが可能となっている。  スタッフ全員の機械化と、それに対応した航空機を用意することで、より素晴らしいサービスの提供を実現していたのだった。  その間に乗客の搭乗が終了し、それぞれの席に向かって非常用設備の説明が行われる。  スピーカーを通して、どの席でも一定の音量になるように説明が成され、客室乗務員の動作はまるで演目競技のように完璧に揃っている。  そして、ついに江梨子と春美の乗る旅客機は、南に向けて空へと飛び立った。  スカイパルの利用者は、現在女性の比率が多くなっており、その中のさらに何割かは、機械化した女性となっている。  だが当然、シェアの高い航空会社であるが故に、人間の男女も多く利用している。  機械化人への優遇こそしているが、それでも決して、人間相手の接客を欠かすことはない。  その一例として、江梨子と春美が乗っている旅客機とはまた別の、少し前の時間帯に離陸した機体では、乗客の8割が女性を占めていた。  そんなハーレム気分を思わず味わえそうな機内で、ある人間の男性は、周囲をチラチラと見ながら、密かに鼓動を高鳴らせた。 (おいおいどうなってんだよこの飛行機……! どこ見渡しても美女や美少女しかいねえじゃねえか……!)  両隣の席や斜め向かい、一旦トイレに向かった時に見えた乗客の顔と、どこに視線を移しても、映像媒体や雑誌に写っているようなモデルやアイドル級の女性ばかりが目に入ってくる。  ところどころにいる男はまばらだが、同じ空間にいる女性の質があまりにも高すぎる。  顔が見えなくても、サラサラした髪は光を反射する程に綺麗で、わずかに見える腕や脚の皮膚も、美しさが際立っている。  ここはもしかして天国なのか。空に近づいたから天使が舞い降りているのか。そんな思考すら入り込むほどに眼福な光景が周囲一帯に存在している。  男性は思わず興奮が止まらず、落ち着く時間もなかった。機内販売が始まると、迷わず水を注文する程に。 「すみません、いろすずを2本お願いします……」 「かしこまりました。あの、お客様、大丈夫ですか? 見たところ、体調が優れないようですが……」  美女だらけで落ち着かないところで、これまた美人な客室乗務員が、顔を覗いて心配そうな顔で見つめてくる。  良い香りが幻覚として漂ってくる程の惑いぶりに、男性は言葉が出なくなっていた。 「だ、大丈夫です……なんか落ち着かないだけで……」 「かしこまりました。少々お待ち下さい」  そう言うと、客室乗務員は一旦その場を離れ、ブランケットを持ち出してきた。 「こちらをご利用ください。もし、体調不良がどうしても治まらない場合はいつでも仰ってください。酔い止めなどの薬も用意しておりますので」 「あ……ありがとうございます……」  非常に充実したサービスと、安心させるように向けられた笑顔、聞いていると自然と心が温かくなるような耳心地良い声が、彼の体調と緊張を少しずつ解していった。  購入した水を開け、ちびちびと飲みながら、彼は純粋な気持ちでこう思った。 (良すぎるな……スカイパル……)  一方、江梨子と春美が搭乗している旅客機は、一定の高度まで上昇したところで、ベルト着用サインが消失した。  本来ならば、ここで機内移動可能の報せと機内販売のアナウンスが流れ、しばらく高空を漂う時間が訪れることになる。  だが、彼女達が乗る機内では、通常のそれとは全く違うアナウンスが流された。 「シートベルト着用のサインが消えました。これより機内販売を開始しますが、現在、当機内のお客様は全員、機械化された方々、またはペリメイズ人の方々の技術を用いて製造された女性型アンドロイドだと確認が取れています。現在機内には、生身の人間の方はいらっしゃいません」  唐突な放送内容に、機内に広がる動揺と戸惑いの声。  驚きの声がありながらも、その殆どは、いつも飛行機内で聞く内容と全然違うというものだった。  それは、江梨子と春美も例外ではない。 「ねえ江梨子、機内放送ってこんなのだったっけ……?」 「あたしもこんなの聞いたことないけど……ていうか、あたし達みたいに機械化されてる人ってこんなにいんの?」  ざわめきが止まない状態でも、客室乗務員は構わず放送を継続する。 「我々スカイパルは、生身を捨てて機械となっている皆様への手厚いサービスをご用意しております。当機内には、その為の設備が完備されており、着陸態勢に入るまでの間、最高の時間を提供することをお約束します」     すると、現在ついている座席の背もたれの中から何かの動作音が聞こえ始めた。  一つ一つの音は小さいが、それが全座席で同時に鳴り始め、はっきりとした音となって密室に響いている。  その正体は、客室乗務員の口からすぐに説明された。 「これより、お客様への快楽信号の提供を開始します」


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