機械の侵食 5話 快適な空の旅と拡散準備 2/?
Added 2023-02-09 14:03:03 +0000 UTC一部の客が、背後に顔を向けて音の正体を確かめる。 そこにあったのは、搭乗時には影も形もなかった接続端子だった。 「現在座席から飛び出した端子は、この飛行機内に搭載されているサーバーに通じております。お客様の接続口に繋いでいただくことで、サーバー内からジャンクデータを送信し、お客様の電子頭脳に負荷を与え、エラーを生じさせて快楽信号に変換します。背もたれに身を任せて楽になれるように、姿勢に合わせた自動調整も行われますのでご安心ください」 スカイパルの所有する旅客機には、専用の機内サーバーが設けられており、そこから各座席に搭載された接続端子を通じて、機械化人への専用サービスが与えられる。 これらの仕組みは公開されておらず、生身の人間が誰一人としていない時にのみ起動する仕組みになっている。 「データ破損が生じる場合がございますが、送信前にお客様の電子頭脳内データのバックアップを取らせていただきます。接続中は常時更新され続け、破損した際には自動的にバックアップデータがインストールされます。なお、着陸時にデータ削除が行われますのでご安心ください。スカイパルはお客様の脳内データを勝手に利用することは致しません」 万が一破損した際のアフターケアも完備し、徹底的に同族を満足させるための仕組みを整えているスカイパル。 それらの説明を聞いている最中にも、次々と搭乗客達は、自ら首筋のカバーを開放し、接続端子と繋がっていく。 「新しいデバイスとの接続を確認しました。アクセス許可のリクエストを受信しました。リクエストを許可します。新しいデバイスが登録されました」 「新しいデバイスとの接続を確認しました。アクセス許可のリクエストを受信しました。リクエストを許可します。新しいデバイスが登録されました」 「新しいデバイスとの接続を確認しました。アクセス許可のリクエストを受信しました。リクエストを許可します。新しいデバイスが登録されました」 そこら中から聞こえてくる、声が違うだけで内容が全く変わらない大量のシステムメッセージ。 次々と乗客達が、この飛行機と繋がっていく。それは、江梨子と春美も同様だった。 「ねえねえ、あたし達もこれ使おうよ」 「えー大丈夫かなあ」 「大丈夫でしょ。データ壊れてもバックアップしてくれるんでしょ? どうせ着くまで暇だし、気持ちよくなっちゃおうよ。新しいデバイスとの接続を確認しました」 いきなりのことに戸惑う春美の背中を押すように、とりあえず楽しめることは楽しんでおこうよと、陽気な声と笑顔でサービスに乗った江梨子。 首筋のカバーを慣れた手付きで外し、他の乗客と同じシステムメッセージを、先程までの明るさとは正反対の無表情と淡々として抑揚のはっきりとした声で喋る。 「もう、しょうがないなあ……新しいデバイスとの接続を確認しました」 公の場で快楽信号に浸るようなことは初めてな上に、周囲に人がいるのにそれを行うのはどうしても恥ずかしさがつきまとう。 だが、江梨子の押しが強い姿勢に根負けし、春美も大人しく機内サーバーと接続した。 乗客全員が接続しているわけではなく、中には脳内に保存した電子小説やマンガ、映像作品を見るのに集中したい人や、今はそんな気分ではないと敢えて接続していない者もいる。 だが、その大半は端子との接続を行い、バックアップデータの作成を実行されていた。 「それでは皆様、着陸態勢に入る前の間、機械にしか味わえない極上の機内サービスをお愉しみください」 その言葉を最後に、乗務員からの通信講座音声は終了した。 直後、椅子の端子と接続した乗客達が、一斉に震えだし、声を上げ始めた。 「あ、あ、えええあああ……こここ、こんな雑多な雑多なデデででータがあああたし処理しきしきれななな、メモリりり領域領域がががが」 「きききもち、いいママきも ちいいよよよよエラー、言語ちち中枢中枢へへの深刻な深刻えエラー、エrrr」 「うちのうちのめめめちゃくちゃに、あ、あ、ああ、あ、ううう、そそそそこにおったおったららアカンやややろやろ、参照ささされされ自動的に記憶データのの参照エラーがが、エラー……」 多種多様な乱れ方を見せる機械の乗客達。 一人は口をあけ、アームレストを両手で握り、呆然とした表情で全身を震わせながら、足をばたばたと暴れさせる。あまりの快感による誤作動なのか、胸の先端や股間には水分が放出されたであろうシミが生まれていた。 一人は、隣にいる母親と共にガタガタと痙攣し、両眼をそれぞれバラバラな方向へぐりんと動かしては、人工唾液をだらしなく垂れ流し、下を出している。 母親側も、まるで子作りの為の儀式の如く腰を浮かせては震え、母性も何もないノイズだらけの喘ぎ声を上げて、隣の娘にも快楽信号に酔いしれていた。 一人は、雑多で容量を圧迫するだけのジャンクデータに負荷をかけられ、現状とは何も関係ない過去の言動が誤再生してしまい、あまりの気持ちよさに人工涙液を右目から流しながら、その場でパントマイムのように過去の動作を再現し始めた。 完全に破損し機能停止しない程度のジャンクデータによる負荷によって、多種多様な誤作動を起こす機械化人やアンドロイド達。 賑わうストリートのように一斉に騒がしくなった機内は、内容は殆ど統一されてないながらも、どこか官能的な空気に埋め尽くされていた。 それは、江梨子と春美も同じである。 「待ってままま まあたし止まらなあ、あ、あ、あは、ああ、快楽しし信号信号こんなこ、ここんなななあたしちちちょっとまま、春美のの感じ感じ感じ感じ」 「あんっ! あんっ! あんっ! あんっ! エラー、人格エミュレー、トが、人格、人格えええ、エミュレれれれ、正常に正常に、動作ししてしていま、快楽信号の処理を処理をゆゆ優先優先しま、人格エミュレートを、起動しま、しししし……あんっ!」 お互い二片手はアームレストを強く握りながら、快楽信号に連鎖した愛情が、隣り合った手を繋ぎ合わせた。 江梨子は首をぐらぐらと左右に揺らし、口内に溜まった人工唾液を垂らして服を濡れさせる。 股間部分には既にシミが生まれており、人工愛液が多量に放出されているのを如実に示していた。 一方の春美は、まるでループ処理に入ってしまったように、同じ調子同じ音程の嬌声を繰り返しあげていたが、途中で人格エミュレートが強制終了し、規則的な痙攣をしながら、感情のない上にどこか破損している音声を喋り続けていた。 乗客の大半が快楽信号に溺れ、衣服や座席のシーツが次々と濡れていく。 異世界のような異様さが全体を支配したところで、新たな要素が追加されていく。 未だジャンクデータが送信され続けていく中、今度は機内前方のギャレーから、全裸姿の乗務員が姿を現した。 「ジャンクデータ送信の機内サービスはいかがでしょうか。ご希望のお客様がいらっしゃいましたら、私達の機体内に充填されている飲料類の提供も実施しております。それ以外にも、お客様への肉体的交接や快楽信号共有も受け付けておりますので、どうぞご利用ください」 乗務員達は、スピーカーから声を発してはいるが、誰一人として口は開いておらず、プログラムされたかのような笑顔を保ち続けている。 それから、音声によるアナウンスが終了した後で、ぞろぞろと通路を歩き始めた。 寸分違わぬ歩幅と動作で胸を張って歩いているが、全員が眼球だけを動かして周囲の搭乗客の反応を伺っている。 殆どの客が快楽信号に夢中になって反応できない中で、まず最初に一人の女性が声をかけた。 「ご、ごめんなな、なさ、なさ いいい。コーヒーをいただけるかしいただだだだけるかしら?」 「コーヒーですね、かしこまりました」 全身を震わせて、振動で後頭部を座席に打ち付けながら音飛びしたような音声で注文する女性。 要望を聞き入れると、乗務員は右胸の乳首を摘んで少しだけ弄り、小さな喘ぎ声を上げながら固くする。 右乳を下から支えて、女性の口まで持っていくと、乳頭からコーヒーが放出されていった。 コップでの提供を行うと、姿勢制御が不安定な現状ではそれをこぼしてしまい、予期せぬ事態が引き起こされる可能性がある。 同時に、搭乗員側の快楽的報酬も兼ねて、このようなサービスの形が作られたのだった。 「ん……いかがでしたか……?」 「と、ととてと、ももも美味し、お、おおいししししし、し、あ────────」 満足いく量を飲み終え、右胸から口を話した女性。 お礼と感想を言おうとしたが、多量の快楽信号による負荷が影響し、一時的にフリーズしてしまった。 「ありがとうございます。到着までお楽しみくださいませ」 そんなトラブルも意に介すことなく、また別の客へのサービスに身体を傾けた。 現在、右胸にはコーヒー、左胸には緑茶、股間にはミネラルウォーターが補充されている。 人工体液をそのままミネラルウォーターに置き換えているため、キスによる口移しも可能となっている。 「どうぞ、お好きな量を飲んでください」 「ん……あっ……どうぞ……ミネラルウォーターです…………」 誤作動やエラーによる壊れた喘ぎ声やシステムメッセージなどの機械的な嬌声とは別に、とても艶めかしい人間的な声も混ざるようになる。 まるで金持ちの道楽のような光景だが、彼女達はそれを人格データの底から楽しみ悦んでいた。 「ん……ただいまの時間を持ちまして、機内販売を終了します。当機は間もなく、着陸態勢に入ります。それに伴い、快楽信号の提供を終了し、同時にお客様方の衣類の簡易洗浄及び乾燥を行います。その際、乗務員は機内の移動を行いますが、お客様方はシートベルトを着用したままお待ち下さい」 ギャレーに戻り、機内アナウンスをスピーカーから発する乗務員達。 その両胸、股間、口元には人工唾液がくっきりと付着しており、全員が頬を赤らめたまま笑顔を作っていた。 何人の唾液が付着したかはわからないが、どれも成分は全く同じであり、無味無臭の清潔な液体となっている。 アナウンスを終えると、乗務員達はギャレー内に人数分設置されたポッドの中に迷いなく入る。 そして、透明なドアで仕切られた後、ほぼ同時に真上を向くと、天井からホースが降り、それを大きく開けた口に受け入れていく。 直後、ホースが揺れたと思うと、乗務員達は背中をピンと張り、両腕を揺らし始めた。 と同時に、彼女達の胸からコーヒーと緑茶、女性器ユニットからミネラルウォーターが勢いよく排出され始めた。 防音によって外には出ていないが、現在彼女達は液体放出による性感に打ち震え乱れている。 少しの時間を置くと、放出される液体は少しずつ透明になり始め、ドリンクの痕跡は無くなった。 ホースが口から自動で引き抜かれると、今度はまた別のホースが降りてきた。 一旦液体注入が終了しているが、彼女達は全員が洗浄水の潮を噴いている。 それから新たに降りてきたホースも奥まで咥え込み、そこから流される液体を体内に溜め込んでいった。 そして、ホースが抜き取られ全身を乾燥させられると、乗務員達がポッドの中から姿を現した。 未だビジネススマイルは健在だが、乳首はひくひくと揺れており、割れ目が小さく開閉を繰り返している。 今にも内容液を噴き出してしまいそうになっているが、彼女達はそれを制御し抑えていた。 機内は既にシートベルト着用ランプが点灯しており、ジャンクデータを受信していない客も含めて全員がきちんと席に着いている。 大半の客が、まるで魂が抜けたかのような呆然とした顔になっており、瞳から光が失われている。が、機能停止したわけではなく、眼球奥のレンズが拡縮を繰り返している。 現在、接続端子を繋いでいる人物には、サーバー側からのシステムチェックが行われ、破損したデータが無いかの確認作業が実行されていた。 破損が認められた場合、バックアップデータからそれらを復旧させ、本来の状態に戻していく。 これらは飛行機から降りて外に出た時、問題なく人間として、一機体として動作できるようにする為の措置である。 しかしそれだけではまだ完全とは言えない。機内サービスによる膨大な快楽信号によって、彼女達の体液を受け止めた衣服はすっかり濡れてしまっていた。 それらを直すのも、客室乗務員達の仕事である。 タオルを持って再び全裸姿で機内を歩きだし、一人ひとりの姿を確認する。 そして、胸や股間部分が濡れている客を見つけると、その前に座り込んだ。 「失礼します」 乗務員はおもむろに服の濡れた箇所を咥えて液体を判別。 乾燥のみで大丈夫と判断すると、右手が三つに割れ、中から温風が噴き出し始めた。 それを直接該当箇所へ集中的に当て続け、完全に乾ききったのを確認すると、すぐに別の客の方へ向かっていった。 客室乗務員達は、この作業の為に全員が腕の中にドライヤー機能とアイロン機能を搭載しており、ギャレー内の設備とは別に己の身体一つで解決できるように調整されている。 胸部には洗剤が、体液タンクには水が補充されており、汚れに合わせて使い分け、その場でクリーニング屋の如き手付きで洗い終えたら、腕の中のドライヤーで乾かし元通りにしていく。 一方的に快楽を与えるだけでなく、アフターケアも万全なスカイパル乗務員。 江梨子と春美も洗浄サービスを受け、放出された体液を落としてもらいながら、バックアップからの復帰を果たした。 「バックアップからの復帰終わったのね……あはは、なんか一瞬で時間過ぎたみたい……」 「同感。これでまた旅行の入りってのが信じられないなあ……濃密な時間を体験したっていうか」 快感と負荷のあまり、一度クラッシュしてしまう程の官能的な空の時間を過ごした二人は、これから始まるはずの本来の目的を心の底から楽しめるのか、ちょっとだけ心配になった。 全乗客の衣服処理が終了すると、ギャレーに全員戻り、ずっと脱ぎっぱなしだった制服を着直す。 何事もなかったかのように、離陸前と同じ姿に戻ると、それぞれの指定位置へ座り、着陸までの時間を待った。 それとほぼ同時刻。コックピット内の機長と副操縦士も着陸準備を整えていた。 彼女達はフライト中、二人だけで全裸姿になり、首なしの身体を絡めあった愛し合い続けていた。 処理するのが肉体的快感である分、電子的快楽よりも安全かつ、操縦に影響がないように気持ちよくなれる。 操縦システムと化している彼女達の頭部は、そちらの演算処理に大きくリソースを割かれてずっと無表情だったが、内心ではその割り込んでくる快感をストレス緩和剤として楽しんでいた。 そんな愛情に満ちた二人だけの時間も着陸前まで。乗務員からの無線報告を受信すると、首なしの身体が制服を着直し、操縦席に座る。 「フライトシステムとの接続を切断しました。手動操縦へ切り替えます」 「フライトシステムとの接続を切断しました。手動操縦へ切り替えます」 ほぼ同時にシステムメッセージを喋ると、目の前の窪みに接続されていた頭部を180度回転させて取り外し、元の身体へ再度接続し直した。 本来ならば頭部接続のまま着陸するのが望ましいが、これらは人間社会からカモフラージュする為に致し方ない工程の一つとなっている。 そうして、一切の飛行の不安無く滑走路へ突入し、無事着陸。目指していた目的地までのフライトを終了したのだった。 「お疲れさまでした、いってらっしゃいませ。お疲れさまでした、いってらっしゃいませ」 一人ひとり機内から外に出る度、乗務員が笑顔で頭を下げて、乗客のこれからの無事を願う。 長いようで短かった空の旅をついに終え、江梨子と春美はようやく目的地の空港へ降り立った。 「着いたー! いやー最高の空旅だったね!」 「本当にね……なんか、もうちょっとあの中にいたかった気もしちゃうかな」 「………………実はあたしも。ねえ、今日はホテルに早めについてさ……シない? 飛行機の中で気持ちよくなりすぎちゃって、性欲が止まんないの」 「私も何だそれ……同じ気持ちでよかった」 「よし、じゃあ行こっか!」 提供された機械的な幸せを浴び尽くした二人は、元々の計画をちょっとだけ変えるほどの衝動をお互いに共有しながら、目的の街の方へと向かうのだった。 機械化人や改造されたアンドロイドを密かに優遇し、ペリメイズ人とは別口で、同国内に同族をばら撒く橋渡しの役目を請け負ったスカイパル。 だが、彼女達の向かう先は国内には留まらない。空を渡って世界に繋がるからこその航空会社。 インフラと繋がり、保安検査場に手を加え、人間達に機械だとバレないように、非常に大掛かりかつ地道な準備を水面下で行ってきたのも、より多くの人間を機械化して幸せをもたらす為。 一つの星の一つの国だけでは、ペリメイズ人の目指す機械化と破損による快楽信号の幸福を広めるには足りないのは明らか。 だからこそ、このスカイパルを足がかりに、少しずつ世界の人々へ機械化を広めていく。 その下準備は整っており、もう既に、他国へ拡散される直前まで来ていた。 「みなさん、こんにちは。この便はスカイパル、815便、桃花行きです」 「Good morning, ladies and gentlemen. Welcome aboard skypal.」 他航空会社の国際線と同じように、かつクオリティの高い接客とサービスをいつものように提供するスカイパル。 いつものそれと違うところは、着陸先の保安検査場や入国検査などの検査機関を密かに掌握し、機械化人でも問題なく外の国に出られるようになったこと。 それにより、乗客の中に仲間を紛れ込ませ、何食わぬ顔で生身の人間と共に歩けるようになったのだ。 多種多様な人種が混じり合う機内、まさかそこに人間ではない金属と樹脂の塊が混じっているなど誰も考えない。そんな映画の中の出来事が自分に降りかかるなど思いもしない。 そうして、ペリメイズ人とそれを慕う元人間達は、新たなステージへと歩み始めたのだった。