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土装番
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機械の侵食 6話 世界へ広がる機械だけの幸せ 2/?

 それは、あまりにも現実感の無い提案だった。  まだ状況整理出来ていないのに、トントン拍子で話が進められていく。そういう話術を彼女の側にいる人間から学んだんだろうか。  まだ機械化を信じられないエミリーの脳裏には、そのような可能性がいくつも浮上してくる。 「えっと……どこまで本気なのかわからないけど、どうしてそんなことを? そもそも機械化だって全然信じられないのに」   「もちろん全部本気ですよ。私はずっと本当のことしか言ってませんから……それに、憧れの人がこんな風に辛い状態で放っておかれてるのが嫌なんです」   聡美の目は純心そのもので、発言に嘘はないように思えた。彼女が機械であるというノイズが無ければ、素直に受け止められただろう。  だが、嘘と思っていても、その話はエミリーにとってはとても魅力的に思えた。 「…………まだ信じられないけど、機械化したらどうなるの」 「自分の自由に容姿を調節できますし、自分が一番これが良いと思った時に見た目を変えることもできますよ。現状、世界にある様々なネットワークサービスも脳内で使えますし、他にも……」  聡美は、機械化による恩恵をある程度噛み砕きながら、エミリーに細かく説明した。  エミリーも、元々地頭が悪いわけではないので、一つ一つの内容やメリットを聞き入れ、脳内で整理して役に立つ度合いを自分なりに解釈していった。 「何より……肉体的な行為以外にも、破損やウィルスなどによって生じるエラーを快楽信号に変換することで、どんな行為よりも気持ちよくなれるんですよ! 薬物と違って自分で調節できますし、先程言ったような自動修復も可能ですから」 「…………さっき聡美がやってたのもそういうこと? その話を聞いてから考えると、とんでもない中毒性に思えるんだけど」 「あれは自分の意志でやってることですから! そういう気分じゃないときはいつでも感情をコントロールできるので、するもしないもどこまでも自由なんですよ」  最後に聞いた快楽信号どうこうの話はほぼ信じられない寄りで聞いていたが、確かにメリットがとても多いように感じた。地球上のテクノロジーよりも圧倒的に上回っているというのも納得はできる。  それらが目立たないように、こうして水面下で少しずつ侵食しているというのは、ホラーSFムービーでしか見たことのない現象ではあるが、いざ目の前にそれを言う者が現れるとこうも現実感がないのかと、エミリーは感じた。 「…………それで、その機械化って言うのはどうやるの?」 「私の体液を流し込みます。唾液でもなんでもいいんですけど、そこから自動的に、指定した相手の身体を変換していって、全身を機械の身体に作り変えます」 「お手軽でいいわね。シリアル用意するより楽そう」 「でしょう? なので、今からここでさせてください」 「一つ思ったんだけど、本当に元人間だって言うなら、自分がその人間だったって証明はできるの?」 「……それは少し難しいですね。私に生身はもうありませんし。でも、今からそれを証明することはできます。私に敵意はありませんし、エミリーさんに機械の身体の素晴らしさをどうか体感してほしいんです」  未だ信じられなくはあるが、エミリーは考えた。  どうせ今の自分にはもう何もない。辛いことばかりで、未来も何も見えない。だったら、いっそのこと飛び込んでしまったほうが良いのではないか。  生身の身体に未練もないし、ボロボロになった身体を擦り減らして生きるなら、嘘でもちょっとだけ夢を見られた方がいいかもしれない。  エミリーは、かつての貫禄を漂わせるような所作で聡美に近づき、顔を近づけた。 「…………いいわ。じゃあそれに乗ってあげる。是非とも夢を見させて頂戴」 「ありがとうございます……! エミリーさんとこんなに触れ合えるなんて……! じゃあ、失礼します……」  雲の上の存在な憧れの女性とここまで近づき、しかも深く繋がりあえるなんて夢にも思わなかった。  機械の身体に生まれ変わったからこそ得られた幸せに、主人である異星人に感謝しながら、聡美は口内に人工唾液を含ませて、エミリーとハグをしながら唇を重ね、舌を入れて唾液を流し込んだ。 「んむ……ん……上手いわね……っ…………」 「ありがとうございます……んん……こういうこと、あまりしたことはないんですけど……機械化した時にキスに関するデータを送ってもらって……ん……っ……」  喋るときに少しだけ口を話さなければ喋れないエミリーと、くっつけて舌を絡めたままでも明瞭に喋れる聡美の違いが強く表れる。  流し込まれた唾液は、最初は少し抵抗があったが、舌に触れるとちょっと粘性があるだけで味もなにもない液体だとわかると、ごくごくと飲み込めるようになっていった。  単純にキスが気持ちいいのもあって、そのまま身体の触れ合いを楽しんでいくエミリー。  今の所変化も感じないところから、やはり嘘だったのだろうと思いつつも、今この瞬間が、ずっと前に失われた他者との触れ合いを想起させてくれることから、この時間を楽しもうと身体を委ね始めた。  だがその時、エミリーの身体に変化が生じ始めた。 「ふ……あっ……んぐっ……………あ、あ、うあ、ああああああ゛あ゛あ゛あ゛っ!? あう、ううううぅぅぅ…………」    頭の中に何かが入り込んでくるような、引き裂かれてしまうような激しい頭痛と吐き気が降り掛かってきた。  これまでにもぐちゃぐちゃに頭を掻き出してしまいたいくらいの苦しみを味わったことは何度もあったが、それらとは何もかも性質が違う、味わったことのない苦しみ。  脳内全てがミキサーで混ぜられるような苦痛を感じているのに、なぜか自分の全てが再構成されて正しくなっていくような不思議な高揚感が同時に感じられる。  産まれた時から現在までの記憶が全て整理されていくような、走馬灯とは違う奇妙な感覚。  苦しいのに心地よいという理解のできない感覚は、エミリーに困惑と喜びと苦しみの感情を引き出させた。 「ぎっ!? あぎっ! あああああうううあああ、あ、あうううう、あ、あ、あ、ぎううっ!! ああああ、う、ううううう…………」  両眼共に白眼を剥きながら涙がこぼれ、とろんと唾液が地面に垂れていく。  ボロボロの衣服に失禁跡が生まれ、両腕がもげてしまいそうな程に暴れ、バランスを失ったエミリーは背中から地面に倒れてしまった。  のたうち回る姿は、まるで禁断症状でも出ているかのよう。自分の手の甲が傷つくのも気にすることもできないまま、陸に打ち上げられた魚類のように跳ね続けるうちに、ようやくその挙動も落ち着きはじめた。  痙攣は徐々に小さくなり、乱雑だった震えもだんだん規則的になっていく。それに連動して、エミリーの身体に明確な変化が起き始めた。 「エミリーさん、もうすぐですよ……もうすぐ、生身を捨て去ることができます……!」  昔とは違い処理も怠るようになっていた産毛やムダ毛が消失し、過酷な生活の中で生まれたシミやくすみ、シワが消え、目から下の体毛が全て消失した。  肌艶がモデルだった頃どころかそれ以上のすべすべとした美しさを持ち、暗闇の中でもそれが魅力として生える程に健康的かつ綺麗な姿が取り戻された。  痩せこけていた肉感は、徐々に魅力的に見られるような肉付へと戻っていき、細さを保ちながらも悲惨さの一切ない人型として理想的なボディラインが形作られた。  ハリ艶を失っていた乳房も、普通にしてても正面を向く程の立派さを取り戻した上に、全盛期の頃よりさらにサイズアップし、より母性的かつ扇情的な雰囲気を醸し出していた。  ぼさぼさだった髪も、まるで羽衣のような髪をアピールするCMに出てきそうな、さらさらとした輝きを取り戻し、床で頭を揺らしている間も不思議と気品が溢れていた。  骨と皮のように感じられた全身の印象も、肉付きと肌艶が復活したことで痛々しい雰囲気はなくなり、エミリーという人物の誇りが取り戻されたようだった。  機械化の影響で垂れ流されていた、涙や尿といった体液も、徐々に聡美と同じ無味無臭の人工体液に変化し、色を失っていった。  エミリーの脳は既に生身の部分が失われ、現在までの記憶や個人としての人格など、生体脳に詰まっていた中身は全て電子データへと変換され、自由に手を加えられる代物へと変わった。  脳から身体へ変化が進む度、エミリーの痙攣はゆっくりと少しずつ小さくなっていく。 「あ、う……うう………………ぁぁ…………っ…………ぁ…………」  つい先程までの、ショック死でもしてしまいそうなくらいに暴れていた様子からは信じられないような落ち着きを取り戻したエミリー。  規則的な痙攣もその数を落とし、ついにはぴくりとも動かなくなっていった。  エミリーの表情は、苦悶の渦中にあったそれから、完全に無機質な無表情へと変わり、まさしくモデルの人形のような雰囲気を帯びていた。  ファッションモデルの写真から切り出してそこからそのまんまの人形を造ったと言われても信じられるだろう。  だが見た目は、場所の状況も相まって、ゴミ溜めに捨てられたセクサロイドのようにも見えた。  そして、苦痛の呻き声も消え、完全に動かなくってから数秒後。エミリーは仰向けの状態から身体の各部を小さく動かし、上空を向いて瞳の方向を合わせた。  微細な動作を終えると、エミリーは全身が機械へと生まれ変わって初めての声を上げた。 「物質変換が完了しました。生体脳に存在した情報の電子化及び、共有可能情報として登録します………………」  エミリーの声で発される、機械化した元人間達全員に共通するシステムメッセージ。  それまで感情をはっきりと表しながら話していた彼女からは到底想像もできないような無感情な声は、まさにエミリーが新生した証と言えるものだった。 「エミリーさん! よかった……無事に機械に生まれ変われたんですね!」  憧れの人と自分が同じ存在に、そしてかつての雲の上のような頃の姿に勝るとも劣らない美しさが取り戻された喜びに、聡美は心の底から喜びの声を向けた。  それに反応することなく、エミリーはゆっくりとシステムの起動処理を終え、ようやく人格エミュレートが開始された。  自然な表情が取り戻され、瞳に光が宿ると、エミリーはゆっくりと起き上がり、自分の手足を見つめた。 「………………これが……あたしの手足……?」  暗い場所でもはっきりと見える、肉眼だった時よりもとても高精細な視界。もやもやしたり突っかかりもなく、すっきりと考えられる思考能力。重力に乗っかかられ全身に重石をつけたような不自由さの無い、とても軽い身体。  エミリーは、信じられないといった顔で、髪や額、頬や唇、胸や腕、腹部、太もも、足と、全身のありとあらゆる場所をべたべたと触れて感触を確かめた。   「あたしの身体って、こんなに触ってて……気持ちよかったっけ…………?」  肌の触り心地も弾力も、記憶データの中にあるモデルだった頃のそれとは比較にならない程に優れており、いつまでも触っていたくなる気持ちにさせてくれる。  人間だった頃よりも、引き出される記憶が鮮明になっている分、よりそれが顕著に感じられた。  胸の柔らかさや感触も、腹部や四肢の引き締まり具合も、どれも自分の理想がそれ以上の実感がある。  ふとエミリーは、自分の両腕へと視線を移す。そこには、注射跡がいくつもあったはずだが、それも全て最初から無かったかのように消滅していた。   「ねえ聡美、あたし本当に、機械の身体に……?」   「はい、本当にエミリーさんの身体ですよ! 私が憧れていた時と同じ……いえ、それ以上に綺麗です!」 「でも、まだ実感湧かなくて……とても思考がスッキリしてて、自分の中にあるデータやファイルもよくわかるけど、でもなんというか……」 「わかってます。機械である実感が欲しいんですよね。エミリーさん、自分の頭を掴んで回してみてください。それで取り外せますから」  自分の言いたいことをわかってくれているらしい聡美の指示の通りに、エミリーはこめかみを両手で挟んで、頭部を右へと回してみた。  すると、人間ではありえないようなスムーズな感覚で、頭がスライドするように回り始めた。  驚きを隠せない表情と一緒に、顔が真後ろまで向くと、エミリーの頭部は身体から簡単に離れてしまった。 「あ、あたしの頭が取れた!? こ、この状況で普通に喋れてるし、身体も動いてる!?」  ついに自分の身体に生じた、人間では絶対に有り得ない挙動。  首と身体が離れた瞬間、感じたことのない違和感を一瞬だけ覚えたが、システム側の自動補正によってそれも無くなり、まるで最初からその動作が自然であるかのように感じるようになった。 「私が持ってあげますよ。どうぞ、これが今のエミリーさんの身体ですよ」  聡美は憧れの人の顔や髪に触れられたことに恍惚感を覚えながら、渡された頭部を優しく丁寧に持って、少しだけ距離を置いた。  鏡越し以外で初めて見た自分の身体。今現在の醜さに、もう見ることなど無いと思っていたが、そこにあったのは、過去に描いていた自分の理想をさらに上回る、現実感の無い自分の女体だった。   「これが……あたし……? あの頃よりずっと輝いて……綺麗で……自由で……!」  股間が濡れていたりと不格好なところはあるが、それを差し引いても、スタンドミラーで眺めていた頃のそれより圧倒的に美しい。  明らかに、本来の年齢よりも見た目大きく若返っている。  信じられなくなりそうだが、無線操作によって手足が胴体が自分の操作通りに動くことが、それが自身の一部であるという強固な証明となっていた。  エミリーの目には、身体から離れる前に残っていた人工涙液が滲んでいた。 「ありがとう……ありがとう聡美……もう、届かない果に行っちゃったかと思ってた……取り戻せたわ……!」 「私も、エミリーさんが元気になってくれて嬉しいです」    首なしの状態で、自分で自分の身体を抱きしめるエミリー。もう戻ってこないと思っていたあの頃の姿が、より美しくなって、より色気を帯びて帰ってきたことが、彼女にとっては夢のようだった。  聡美も、そんな憧れの人が喜び、心満たされる姿がたまらなく嬉しかった。  頭部を優しく運んで、再度はめ込んでから回転させて元の状態に戻していく。他の機械化人と同様、どこに継ぎ目があるのか全くわからない姿は、他の人間と全く変わらなかった。 「……改めて、ありがとう聡美。もういくらお礼をしてもしきれないわ」 「いえいえ、私こそこんなところで会えるなんて思ってませんでしたし、それに……エミリーさんが私と同じ機械になってくれたことも嬉しいです」  二人の絶世の美女が、スラム街のゴミ溜めの前に立っているという異様な光景。誰もそこにいるのが、元人間であり、片方はこの場所の住人であるとは思わないだろう。  お互いにお礼を言い合い、機械化を祝福していくが、ふとエミリーが、頬を染めてもじもじとしながら、何か言いにくそうにしていた。 「それで、貴女が私より先に機械化した人であることを見込んでちょっと頼みがあるんだけど……」 「なんですか? エミリーさんのお願いであれば、なんでも聞きますよ!」  まだ内容も聞かずに、憧れの人からの頼みを二つ返事で聞き入れた聡美。  すると、エミリーは豊かな胸を押し付けて、聡美のそれと一緒に潰し合いながら、情熱的なハグを行った。  今にも呼吸を感じそうな距離で、その女神のような顔が近づいてきたのを見て、聡美はバッテリーが熱くなり、電子頭脳への負荷が一気に上昇した。 「あのね……さっき自分で胸揉んだ時に、今までにないくらいに気持ちいいのを感じたの。人間だった頃はそんなことなかったのに。思えば、ここに流れ着いてからそういう性の営みとは無縁だったわ。見た目も腐り果ててたもの」  エミリーの瞳や口元、細かな仕草から出る色気は、聡美の人格データに直で届いた。  今すぐにでも抱きしめて、全身で目の前の理想をセンサーに感じたいと、とめどない思考が流れ出している。 「機械化したら、前戯やセックスだけじゃなく、破損やエラーも気持ちよく感じられるのよね? じゃあ……あたしにそれを教えて? あたしは、聡美と一緒に気持ちよくなりたいの」    聞き間違いかと思える程に、信じられない言葉だった。  まさか、天の人だと思っていたモデルから、自分との快楽行為を求められるだなんて。夢かと思っていても、聡美の電子頭脳には、はっきりとエミリーの音声データと視覚データが残されている。  話している間にも、今の瞬間を何度も脳内再生しつつ、聡美は興奮が抑えられない笑顔で応えた。 「もちろんです! むしろ、エミリーさんに私なんかでいいのかって……」 「聡美だから頼んでるのよ。海の向こうから来てくれたあたしの救世主さん? これからもっと、あたしに機械の身体の良さを教えてほしいわ」  エミリー側から身体を寄せて、人工皮膚同士を触れ合わせてお互いの感触を刻ませていく。  人間だった頃に覚えのある、肉体同士の触れ合いの時点でも、より感覚が鋭くはっきりと感触を感じられる。  機械の身体はこんなにも繊細で楽しく、感情が熱くなるものなのかと思考しながら、意地悪に聡美の心をかき乱した。 「わかりました……じゃあ、私の知ってる限りで、機械でしか味わえない気持ちよさを……エミリーさんに教えます」 「堅苦しいわ。エミリーって呼び捨てでいいのに」 「っっ………………! じ、じゃあお言葉に甘えて、エミリー、これからいっぱい、機械だからこその気持ちよさを教えるから……」  人格データの数値が乱れに乱れ、今にもエラーが起きてしまいそうになる。  だが、このチャンスを逃したくない。憧れの人と心と体とシステムで繋がりあえるこの時を台無しにしたくない。  聡美は、快楽信号に一緒に溺れたいという組み込まれた本能と、己の感情を混ぜながら、まずはエミリーの来ているボロボロの衣服を脱がし、下腹部に手を当てた。 「じゃあ、行きますね……!」  すると、聡美はへそ下の下腹部に指を突き立て、一気に押し込んですべすべした人工皮膚に思いっきり穴を開けてしまった。


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