SamSuka
土装番
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わがままな振る舞いの果てに…… 1話先行公開版

 現代よりもやや時代の離れた、とある未来の時代。  機械工学や人工知能、脳科学など、ありとあらゆる分野の研究が進み、時代と共に進歩を積み上げた結果、人間と区別がつかないほどに進化した機械人形、アンドロイドが製造されるようになった。  それに連なり、元々生身である人間を改造し、身体のごく一部から脳を含めた全身まで、自由に機械へと作り変えてさらなる拡張の可能性を進める機械化技術も発達。  人間と機械の境目は曖昧となり、共生する時代となっていた。  だがそんな時代でも、犯罪というものがなくなることはない。  いつの時代も、どれだけ防犯技術や対策が進化しても、犯罪組織や反社会的勢力が潰えることはなく、生まれては消え、また元々存在していた者達が同じく進歩し生き長らえることもある。  しぶとく生き残るならず者は、場所を転々としながら力を蓄え、いずれまた悪意を振り撒くようになっていく。  だが、その生き残った人物が同族に嫌われていた場合、力を失った時に全ての因果が返ってくることもままあること。  これは、ある反社会的勢力の長の娘として生まれた女性が、ある日を境に堕ちていき、機械に変えられ全てを遊び尽くされるようになっていく物語である。 * * *  T都M区のとある豪邸にて、一人の女性が、平謝りする男を叱責する中年男性の近くでふんぞり返るように寛ぎ座っていた。 「のう大輔……謝れば済むっつうのはカタギの世界の話なのはお前もよーくわかっているよな? ったくあんだけの薬を台無しにしてのこのこ逃げ出しやがって」 「も、申し訳ありません!!」 「パパの言ってたこと聞こえてなかったの? 許されないって言ってんのに。そんなんだからいつまで経ってもすぐ裸足で逃げる腰抜けなのよ」  彼女の名前は鬼頭美和子。関東の大規模反社会的勢力であるDHグループのトップである、鬼頭雄三郎の娘である。  額の中央から分けた形の、ほんの少しだけ赤みがかった艶めくセミロングヘアーに、24という年齢に相応な、スッキリとして大人びているとても綺麗な顔立ち。  鮮やかな色合いの瞳を持っていながらも、目つきは常に鋭く、まるで他者をいつも見下しているかのよう。  身長は167と、女性の中では比較的高めで、脚も長く、足を組んで座っている姿が非常に映えるほどにスタイルが良い。  それでいて目を見張る程に胸が大きく、手から溢れんばかりに豊かで、垂れずにくっきりと正面を向いている。  少し露出度の高い服を着れば、どんな男性も魅了してしまうだろう。  そんな絶世の美女と言っても差し支えない彼女だが、一方で構成員の間でも非常に悪辣で我侭な性格で有名だった。  美和子は座ったまま、側に置かれていたグラスの中の水を、頭を下げている構成員の頭に思いっきりぶっかけた。 「あたしが売る分の薬もあったのにさぁ、自分がしでかしたことの自覚あるわけ?」 「…………申し訳ありま」 「もうそれいいからさ、とにかくケジメ、つけてきてよ」 「まあ待て。それは俺の台詞だし処遇は俺が決める。お前は少し外に出て遊んでな」 「はーいパパ。命があったらありがたいと思いなさいよね」  容姿と年齢にはやや不釣り合いな言動や態度を、いつも惜しげもなく出している美和子。  彼女は父親やお気に入りの相手には露骨に態度を変え、それ以外には父親の威光を利用して威張り、暴力も厭わず我を通すやり方を続けてきた。  昔からそれはずっと変わることなく、現在までの不自由なく暮らしが継続され、今に至る。 「ったく、部下にバカがいると上が苦労すんのよね。パパの手を煩わせんなっつーの……どこに遊び行こっかな」  一旦総長室を離れ、暇な気分になった美和子は、次の予定までまだ時間があるからと、グループの系列組織が運営する風俗店へ顔出しに行こうかと考えた。 「何本か酒もらっちゃおーっと。酔いが回らない程度でいっか」  DHグループは全て父親のもの。その父親の物なのだから、同様に下部組織の所有物は全部自分のものである。  理不尽な思考や価値観も、全て彼女の父親の権力と、その我侭が許されてきたこれまでの日々に由来している。  適当に時間を潰して、良い気分でこれからの予定に出かけようと、美和子は下部組織の1つが管理する風俗店へと足を運んだ。 「おいお前ら! 総長の娘がいらっしゃったぞ! 全員礼だ!!」 「「「いらっしゃいませ! 美和子様!!」」」 「うんうん、ちゃんと教育が行き届いてるじゃない。感心ね」  全く予定もなく、事前の通知もない中で、店舗の開店前に美和子が来たのを確認してすぐに店内のボーイや人間のキャストを集めて深々と礼をしたスタッフ達。  この場所は、DHグループの傘下にある下部組織が運営する風俗店。  ここでは人間の他にセクサロイドが稼働しており、本番ありでの営業がなされている。  その裏では非合法な取引や、密売もこっそりと横行しており、資金源の1つとなっていた。  DHグループは、主に麻薬密売や武器提供から、様々なネットワーク犯罪、アンドロイドの違法改造やハッキング、さらには人間女性への望まぬ完全機械化や、債務不履行となった男性の脳だけを使い性転換させつつ違法な機械化を行ったりと、手広く非合法な行為に手を染めていた。 「美和子さん、今日はどんな御用で?」 「そんな大したことはないわ。ちょっと暇が出来たから、ここにでも寄って酒もらってこよっかなーって。あっ、これもらうわね!」 「あっ! それは……」  頭を下げる者ばかりの中で、それを意に介すことなく酒棚をくまなく眺めているうちに手を付けたのは、今日来る予定の顧客がキープしてほしいと頼んでいたボトルだった。  案内役となっていたボーイが思わず止める声を出しそうになったが、美和子は即座に不満を臭わせながら睨みつけた。 「なに、なんか言った?」 「ああいえ、なんでもありません……どうぞお持ちください」 「ふふ、これ結構酔った後スッキリしていいのよね〜。あとはもう一本くらい……」  存分に権力を利用して部下を黙らせ、我を貫き通した美和子は、あと一本何か選んでから店を出ようとした。  だがその時、店の奥から、一体の水着を身に着けた女性型セクサロイドがやってきた。 「ん、なにやってるのあなた達。知らない人が来てるわね」  プログラムされた通りの美しい歩行動作で惜しげもなく晒される、造られた時から完璧で誘惑的な女体と、最高のデザインが施された顔立ち。耳心地の良い電子音声。  美和子はその声を聞き、突発的な苛立ちを少しだけ覚えたが、セクサロイドの方向を向いた瞬間、その怒りはさらに噴き上がった。 「ちょっと、まだ開店時間でもないのに部外者は立入禁止よ? 私達と時間を共にしたい気持ちはわかるけど、もう少しだけ待って」 「部外者……ですって……?」 「わ――――!!」  ボーイやキャスト達は青ざめたり、慌てだしたりと各々に戦々恐々とした反応を起こした。  それもそのはず、この時、美和子の表情は怒りに満ちており、今にも手に持っているボトルで殴りかからんばかりの雰囲気だったからである。 「ちょっと、涼太さんもなにそんなに慌て…………上位権限者からの命令を受け付けました。擬似人格を一時停止します」  一体何が起こっているのか、どうしてそんなに慌てているかもわからなかったセクサロイドは、戸惑いの言葉の途中で遠隔操作によって擬似人格の動作が切られ、その場に直立不動の姿勢に変わった。  それまで経験豊富な女性の雰囲気を醸し出していた機械人形は、一瞬にしてショーケース内のマネキンのような無機質さを帯び始めた。 「申し訳ありません美和子さん……あの機体は最近導入されたばかりでして……まだグループ全体で登録しておくべき人物の入力が全部終わってなかったんです……」 「へえ、あたし達よりも優先する人物がこの組織にはいるのね」 「た、大変失礼しました! ただいま、入力が終わりましたので!」 「設定の更新が完了しました。再起動後、擬似人格を起動します……」  不愉快さと怒りが混じった顔で、セクサロイドが復帰する姿をじっと眺め続ける美和子。  再起動が終了すると、セクサロイドは先程までの自然な表情を取り戻すが、美和子の姿を視認した瞬間、その場に膝をついて丁寧な正座から頭を下げた。 「先程はご無礼を働いてしまい申し訳ありません。上位権限者と設定されておらず、大変なことをしてしまいました」  声の調子も事務的で、模範的な謝罪の姿を見せるセクサロイド。  彼女はこのわずかな時間の間に、美和子のことを上位権限者として設定された上で、登録された人物の中でも特に丁寧に振る舞うべき重要人物として、システム上で扱われるようになった。  それを聞いて少しだけ溜飲が下がった美和子。だったが、彼女は頭を下げている最中のセクサロイドの前まで来ると、足を上げて後頭部を思いっきり踏みつけ、セクサロイドの綺麗な顔を床へと押し付けた。 「へえ、ちゃんと躾はわかってるのね、さすが機械人形。けど、そういうあんたの顔が気に入らないのよね」 「申し訳ありません、美和子様。このままでは、この後の業務に支障が……」 「その余裕そうな声がムカつくのよ! 作り物のくせに、簡単にその綺麗な身体と顔を持っていーわね!! オラッ! このっ! このっ! このっ!」  突発的な怒りと嫌悪感に身を任せ、体重を加えて何度も何度も踏みつける美和子。  セクサロイド側は、上位権限者かつ重要人物に対して反抗することができず、悲鳴も人間らしい痛みの声を出すこともなく、丁寧かつ下からな物言いで美和子に警告を飛ばす。  だが、それがより彼女の怒りを煽ったのか、踏みつける力がさらに強くなり、セクサロイドの手足が震え始めた。  眼球のレンズに日々が入り、鼻が潰れ、擦れて人工皮膚が破れていく。  後頭部は徐々にへこみ、電子頭脳が受けた衝撃によって動作も不安定になり始めた。 「み、美和子様……この辺りでどうかそろそろ止めていただければ……」 「チッ……仕方ないわね。じゃあ、最後にもう一発!!」  スタッフの言葉での静止に、渋々しつこい踏みつけを一旦止めた美和子だったが、最後に彼女は、セクサロイドの頭部へ横から思い切ったキックを叩き込んだ。  これが致命的な一発となり、電子頭脳が損傷し、首が折れ、かしこまった正座姿勢のまま痙攣し始めた。 「頸部が損傷し、損傷しています。涼太さん涼太さメンテナンスをお願いお願いした、した、開店時間までの12010430261分でかかかの、可能? かしら?」  散々痛めつけられ続けた結果、セクサロイドの言語中枢部が破損し、正常な言動が行えなくなってしまっていた。  動作にも明らかな異常が見られており、両指がピンと張ったり曲がったりと乱雑な動きをしては、腰と尻がカクカクと小さく上下を繰り返していた。  さらに、制御系統に誤作動が生じてしまったか、彼女は股間から人工愛液を漏らしてしまい、同時に乳房に繋がった胸部タンクから流れ出た焼酎が床に流れ、水着ごと濡らしてしまっていた。  首が歪んだ状態で下を向いたまま、補充されている体液を漏らす姿に、美和子は溜飲が下がったように、指を差して大笑いしていた。 「あっはははははは!! 漏らしてなっさけな! あたしにそんな態度取った罰よ。その金属ばっかなガラクタ脳で身に刻んどくことね」    不満を晴らし終えたのか、美和子は手にした酒を持って、スッキリとした顔で風俗店から去っていった。  不規則な痙攣を起こしているセクサロイドの身体を仰向けにすると、彼女の顎は外れ、鼻は潰れ、眼球はカタカタと四方八方に視線を動かしながら絞りを拡縮させていた。 「はあ……年の為にスペアのボディを用意しといて良かったな。おい、急いでデータをそっちに移動させてこい」  ボーイに指示を飛ばし、それに従って二名程がセクサロイドの脇に腕を通し、ずるずると引きずるように運んでいった。  残ったボーイが、床に垂れた焼酎や人工愛液、体液を拭き取る作業を急ピッチで進める。  開店前に、まるで嵐がやってきたかのようなゴタゴタに、スタッフやキャスト達は深い溜息をついたり各々に不満を垂らした。 「あいつほんっとウザいわね……ここ仕切ってるとこのボスの娘だがしんないけど、わがまますぎでしょ」 「この前だって来たときいきなりヒスりだしてさ、当たり散らして謝りもせず帰ってったしさあ。ほんっと、顔と身体だけはいい女の権化って感じ」 「まあまあ二人共、今日は災難だったし、給料上げたげるからさ。けどこれで、来てほしいなんて思うんじゃないぞ? こっちも面倒くさくて仕方ないんだからな。後ろ盾もある文余計にさ」  権力や生まれを盾にしている分、意見も反抗もできないが、彼女のお気に入り以外の構成員や関係者の間では、確実に不満が積み上がっていた。  それは総長という存在が残り続けている限り解放されることはなく、もはやただの災害として密かに扱われる程になっていた。 「へー結構美味しいじゃない。そこまで嫌な風味ないし、悪酔いもしなさそ。今度同じの買ってこよっかな」  美和子は当然、そんなこと気にするどころか意識の中に入れることすら無く、自分のお気に入りと父親以外の存在など羽虫や道具程度にしか思っていなかった。  それで不自由なく、むしろ最大限の自由の下で生きていられる分、まさにそれが彼女のいつもの日常となっているのだった。  だが、そんな美和子の環境に、ある日とてつもなく大きな変化が訪れる。 * * *  ある日、DHグループの豪邸内に、警察が逮捕令状を持ってやってくるという情報が舞い込んだ。  既に内部に潜り込んだ同胞の把握もしているのか、情報を掴むのが一歩遅れてしまい、対応の準備も満足にいかず手間取ってしまっていた。 「まさかこのタイミングで来るたぁ……あんの犬っころども」 「パパ! このままじゃ……」 「こうなりゃ…………美和子、お前は急いでここから逃げろ。俺が昔教えた抜け道から出て、ユニートに向かってそこで匿ってもらえ」  ユニートとは、DHグループの傘下にある風俗店の一つであり、体裁上は他の傘下店舗よりもクリーンな運営や活動が成されている為、ここならば娘が潜伏できるだろうと雄三郎は考えた。 「ちょっと、パパはどうするの!?」 「俺ぁやれるだけのことをやる。どうにかならなかったらその時だ。達者でな」 「嫌よ! あたしはパパと一緒にいさせてほしいのよ!」 「時にはどうにもならないこともある! 今がその時だ! お前だけでもここは逃げろ! 早く行け!!」  張り上げた声で、娘に檄を飛ばす雄三郎。  父親の今までにぶつけられたことのないくらいに強い言葉に、美和子は声を引っ込め唾を飲んだ。  苦しくも、間違いなく父親の言う通り。離れたくないが、ここで逃げなければ二人共逮捕されてしまうだろう。  これは間違いなく、父親からの愛の言葉だ。そう思い、美和子は歯を食いしばりながら部屋を出て、秘密の抜け道へと向かった。  二人と一部の幹部しか知らない隠し通路を通り、豪邸から離れたただの小屋も同然の場所から姿を現す。  そこから一瞬だけ見えた警察車両の姿。それらに見つからないように隠れつつ、父親の言っていたユニートを目指して走り出した。  そして、美和子はユニートにたどり着くと、そこに所属している構成員が一瞬怪訝な顔を見せたが、息を切らしている姿を見て、とりあえず丁寧な態度を作って対応し始めた。 「み、美和子さん、どうしましたか?」 「はぁ……はぁ…………見てわかんないの……? いいから、とっととあたしを匿いなさいよ……!」  他者はみんな、特に自分の部下は自分の為に動くべきという思考は、追い詰められた状況でも変わることはなく、遭遇した構成員に荒い息で命令する。  構成員は内心いらつきを覚えながら、ひとまずオーナーを呼んで保護することにした。  こうして、美和子の安全はなんとか確保され、無事に逃げ切ることが出来た。  だがこれは、これから彼女に訪れる転落の一歩となるのであった。 * * *  豪邸兼本部から逃げ果せた美和子は、同日の夜、即席に用意された個人部屋で、仰向けになってベッドの上に寝転がった。 「はあ……パパ、大丈夫かしら。こんなとこ、とっとと出たいんだけど」  建物の事務所側に設けられた休憩室を一旦潰し、即席の個室として使うことになった美和子。  事情を聞いた構成員は、とりあえず状況を確認し懸念材料が無くなるまで、ここで待機していてくださいと進言され、それを受け入れた。  だが、彼女にとってその気分は良いものではなく、小さな声で何度も早く帰りたい、父親のところへ戻りたい、こんなしょぼいとこいたくないと、不満をひたすら垂れ流し続けていた。  外の状況も未だわかっておらず、とにかく携帯端末を利用して時間を潰し続けていたが、何時間経っても状況が好転するような気配もなく、だんだん苛立ちが募りだす。 「お腹も減ってきたし、そろそろ外に出たいわ。もう良いでしょ」  我慢の限界となり痺れを切らした美和子は、もう大丈夫だろうと軽く考え、ベッドから起き上がりドアに手をかけようとした。  だがその時、ちょうど外からドアが開けられた。そこにいた人物は、このユニートであり、DHグループ構成員でもある大久保和也だった。 「ちょうどよかった。やっと外に出てもいいのね」  先に口を開いたのは美和子だったが、それに対して和也は返答する気配がなく、ただ黙って立っているだけだった。 「…………なによ。黙ってたら何がしたいのかわかんないでしょ? ほら、早く退いて。ああそれと、すぐに夕食を用意して頂戴。あたしの命令なんだから聞けるでしょ?」  美和子はいつものように、構成員に向ける態度で命令をぶつけるが、それを聞き入れる気配が全く無い。  おちょくっているのか、それともバカにしているのか。いずれにしても、腹立たしいのには変わりないと、眉間にシワを寄せながら思いっきり和也の肩を掴んだ。 「なに、あたしをバカにしてんの? いいから用意しろって言って…………っ!?」  その時、和也は彼女の首を思いっきり掴み、握り締めながら身体を持ち上げ浮かせ始めた。 「かっ……あっ…………な、なに……して…………」 「残念だったな。もうお前にはそんな権力はねえんだよ」  今までされたことのない攻撃に、息が切れかけ、頭が詰まるような感覚が襲いかかる。  だが、和也は追い詰めすぎるようなことはせず、苦しんでいる様子がよくわかったところで手を離し、地面に足をつけてあげた。  喉元に手を当て、咳を繰り返しながら急いで呼吸を整える美和子。  その後、彼女の突き刺すような怒りの視線は当然彼に向けられた。 「こんなことして……けほっ…………たたで済むと思ってんでしょうね……! このこと、パパに全部報告して相応の処分を……」 「そのパパがどうなってんのか知らねえのか。つくづく世間知らずだな。その持ってる端末で自分で調べてみろ」  殺意を持って睨みつけながら、美和子は自身の携帯端末を使って直近のニュースを片っ端から確認した。  そこに並んでいたのは、DHグループの総長である自分の父親を含む幹部数人が逮捕されたという内容のニュースだった。  罪状などの内容も並べられており、重い刑が与えられるだろうという専門家からの考察も載せられていた。 「嘘……パパが……? けど、だからどうしたのよ! パパがパクられたのなら、戻ってくるまで環境を整えておくもんでしょ!」 「これだから空っぽの頭は困るんだよ。それは、慕われている前提だ」  二人が言い合っている間に、ぞろぞろとユニートに所属する構成員が和也の後ろにやってくる。その全員の視線は、美和子に対して不快な物を見るような冷たいものになっていた。 「今まであの人が一番上だったから仕方なく従ってたけどよ、もうそろそろイライラしてたんだわ。てめえのワガママに付き合わされて、勝手に来て荒らして帰るわ、それに文句言おうものなら逆に制裁入るわで、我慢の限界なんだよ」 「そんなの当たり前でしょ! こっちが世話してるんだから、あんたらが従うのは当然じゃない! 逆恨みしてんじゃないわ!」  構成員達から、深い溜息や舌打ちがはっきりと聞こえてくる。それが、溜まりに溜まった不満を如実に表していた。  すると、構成員の男性三人が彼女に近寄り、腕や身体を強引に拘束し始めた。 「こんな状況になってもまだそんなこと言ってられんのは愚かの極みだな。まあ安心しろ。てめえはこれから俺達がまっとうに使ってやる。いずれにしても、グループの新しい頭は既に決まってるからな」 「ふざけんな! 離しなさいったら!! あんたら覚えてなさいよ!! パパが戻ったら……」 「んじゃ、手筈通りそいつは改造に回せ。セクサロイドに作り変えて、ここの備品にするぞ」  それを聞いた瞬間、騒がしく喚いていた美和子は一気に声を失い血の気が引いた。  ユニートは機械化した女性やアンドロイドのみが稼働する風俗であり、さらにその中でもプレイや扱い方がなんでもありな場所として運営されている。  ハッカーや技術者が多く在籍しており、プレイ用のウィルスなども扱っている程に、密かなアウトローさを抱いている、危険性が表に出にくい組織となっている。  美和子は風の噂で聞いていた。借金のカタとなったり、言葉巧みに騙した女性を機械化してセクサロイドにしたり、様々な方法で回収したり確保した女性型を改造しているということを。  その矛先が自分へ向けられることになるとは夢にも思わなかった上に、いざ捕まればこれから己の大切な身体に何されるかわかったものではない。  美和子はこれまでの人生でしたことのないような形相で暴れだし、拘束から逃れようともがき始めた。 「いやよ! そんなの絶対にいや!! 触らないで! こんなとこで改造されるくらいなら、死んだほうがマ…………」  だが、必死の抵抗も虚しく、集団での拘束によってまともに動けないまま麻酔を打たれ、彼女の意識は即座に闇の中へと落ちていった。  全身の力が抜け、煩い声も動きもなくなった彼女の身体を、これから全身機械へと改造し、脳内の情報を全て電子データへと変換する為に、構成員達はユニート内に備えられた処置室へと運んでいった。 「はぁ……あの女、ほんっと親の七光りがあるだけの顔と身体と声だけの女だったからな。これでようやく、多少はグループの為になんだろ。改造が終わったら、お前らもアレ自由に使っていいからな。壊すも直すもいくらでも好きにしろ」  これまでの不満や苦労が溶け出したような声で、構成員達に言葉を残してその場を去っていった和也。  その間にも美和子は処置室へと運ばれ、まるで最初からそのつもりだったかのような準備の良さで整えられていた設備を動かしつつ、ブランド物ばかりの衣服や下着を脱がされ、そのままでも女性型アンドロイドと比較されそうな程に魅力的な女体を晒された。  これから傷一つない彼女の身体には無数のメスが入れられ、脳に電極が刺され、生身を失い造り物の身体へと生まれ変わっていく。 「ではこれより、鬼頭美和子の機械化手術を開始する。他の素体と違って間違いなく稼ぎ頭にも俺達の玩具にもなるからな、失敗するんじゃないぞ」    そんな現状を認識することもできず、美和子の人間としての人生は、ここで幕を閉じたのであった。 * * *       美和子が気を失ってから長い時間が経ち、間もなく一日の境目に時間が近づこうとしていた頃。  ユニートの店内では何体ものセクサロイドや元人間が起動させられ、与えられた命令に従って客や構成員達に自身の身体を使って奉仕している最中、美和子の機械化手術の全工程が終了し、あとは起動するのみとなっていた。 「鬼頭美和子の機械化手術、全工程が終了しました。これより、通常動作のテスト及び性行為機能の動作試験を始めます」  冷たい作業台の上には、一糸まとわぬ姿で、ケースに入れられた美術館の展示品のように仰向けになっている美和子の姿。  しかし、気を失う前とは違い、彼女の口からは息が感じられず、胸の鼓動も呼吸による肩の動きも無くなっていた。  目から下の体毛は一切排除されており、ケアしていながらもわずかに存在していたシミや産毛の類いは、人工皮膚に置き換わったことでどこにも見られない。  体型もより細く引き締まっており、ムダ肉も消失し、アンドロイドと比べられるような美しい体型は、元の良さを活かしながら完全に人造物の美しさの領域に入った。  それでいて元々大きかった乳房は、さらにもう少しだけサイズが上がっており、仰向けでも垂れる気配のないまっすぐ正面を向いていた。  ぱっと見ならば、より容姿が洗練されただけで人間だった頃とのさしたる違いは感じられないが、首や肩、各関節部、鳩尾、女性器の周囲にうっすらとした継ぎ目が走っており、取り外し可能であることと、彼女がもう人間ではないことを示していた。  それに関連して、彼女の首筋部分には接続端子や電源ボタン、機体内に収納された接続ケーブルが備えられた皮膚カバーも用意されており、そこから他機器への接続や電源を起動するなど、彼女の身体を機械として扱う為の要素が揃えられていた。  今日まで彼女の一部として働いていた生身の身体は大部分が解体され、内臓は全て売買用として資金源にされ、髪や皮膚、筋肉などの器になる部分はこれから剥製にされ、美和子の生身の存在を残す為の展示物にされる。  残るは、本稼働の為に軽いテストを行うのみ。機械化手術を承っている構成員の一人が、首筋の皮膚カバーを取り外し、電源ボタンを長押しする。  すると、彼女の頭部内から耳を澄ませれば聞こえるような小さな動作音が鳴り、ゆっくりと目蓋が開いて光のない瞳が姿を現す。  レンズの奥で明かりが灯り、絞りが繰り返し拡縮を行った直後、美和子は機械化してから初めて口を動かした。 「電源が入力されました。登録名、鬼頭 美和子、起動します。初回起動の為、内部データの最適化を実行します」  美和子の声を元に作られた音声データを用いて、喉奥に備わったスピーカーから発される、人間だった頃と遜色のない声。  だが、彼女の声には、それまでの傲慢さや我儘ぶりが感じられないような、原稿読み上げ中のアナウンサーの如く感情のない丁寧さばかりがあった。  視線もずっと天井を向いており、喋っていても誰かに向けられているという気配はない。  少しばかりのシステムメッセージを喋った後、瞬きもせずに黙りこくり、電子頭脳内にある生まれたときから現在までの全データの最適化作業を実行していく。  この間、美和子は誰に触られても、ちっとも反応を起こさなかった。  唇や眼球に触れられても、乳房を握られても、太ももや腹部、クリトリスに触れられても、声1つあげずに機械としての動作を継続している。  女性の形をした玩具のような扱いを密かに受け続けた後で、美和子の初回準備が終了すると、美和子は何も起きていないような平然とした喋りで改めて口を開いた。 「最適化作業が終了しました。システムチェックを実行します…………………………システムチェックが終了しました。人格エミュレートの参照元は既に設定されています。人格エミュレートを実行します…………」  鬼頭美和子という人間の人格を完全にデータ化したファイルが参照され、本格的に元人間としての目覚めに入る。  人格エミュレートの実行が宣言された後、完全な無感情だった表情にだんだん柔らかさが戻り始め、瞳に光が宿り始める。  そして、完全に人格エミュレートが開始されると、美和子は慌てて上半身だけで起き上がり、目を見開いて自分の両手を見つめた。 「あれ、あたし確か、いきなり身体抑えつけられて、それで……」  美和子は直近の記憶データを参照し、自分に何があったのかを思い返す。  その直後に、彼女は、自分が今、ブランド物の衣服や下着を1つも身に着けていない全裸姿であることに気づいた。  それから、自分の身体をべたべたと触れ、何が起きたのかを確認しようとする。  毎日何度も自分の皮膚に触れているが、それに比べてより柔らかくすべすべとしていてとても肌触りが良い。わずかな毛の感触も感じられず、理想的な肌としか言いようのない質感。  だが、身体の各部に、生身には存在しないはずの取っかかりが指先に、爪に感じられる。  直前までの記憶と、この不自然過ぎる感触に、美和子は確信した。より美しくなったのは間違いないが、彼らが言っていた通り、自分は強制的に全身を機械化されてしまったのだと。  美和子は視線を正面に、それから首を振って周囲を慌てて見渡す。自分を囲う構成員と見知らぬ機械群。  こいつらが自分を機械にしたのかと、一気に怒りが込み上げてきた美和子は、作業台の上から足を下ろし、胸を揺らして歩きながら、そのうちの一人に詰め寄った。 「ねえあんた、あたしの身体に何したの? 本当にあたしの身体全部機械に変えたの?」 「ええまあ。和也さんからそういう指示受けたので気兼ねなく」  胸倉を掴み、睨みつけながら問いただすが、構成員はまるで、非力な一般人の小娘が無理に声を張り上げるのを見ているかのように、美和子に対して全く怯んでおらず、むしろ舐め腐ったような表情を見せていた。 「ふざけないでよ! あたしの身体はあたしのものなの! あんたらなんかに好き勝手されるなんて絶対に許せない! 今すぐ元の身体に戻しなさいよ!!」 「そんなのは無理だってわかってるでしょう。生身から機械への変化は不可逆なんですから」 「さっきから話してれば、あんたずっとあたしのこと舐めてるの? そんなバカにした態度見せて、あたしが誰かって知らないわけじゃないでしょ」 「知ってるけど、もう気にする必要もないんで。散々無茶な要求したりいきなり入ってきて荒らして、ほんとうんざりだったんだよ」 「この……!!」  自分が誰かわかっていながら、ふざけた態度を取る構成員の姿に、美和子の怒りは一瞬にして沸点に達した。  拳を握り、彼の顔に思いっきりパンチを叩き込んで顎でも折ってやろうかと思考しながら、彼女は左手で胸倉を掴みながら右腕を振り被って、感情に任せたストレートを放った。  だが、そのパンチは構成員の目の前で止まり、同時に彼女の表情がふっと消え失せ、全体動作まで時間が停止したように動かなくなってしまった。  それから数秒後、美和子は左手を離して右腕も下ろし、倉庫に入れられたマネキンのような直立のポーズを取った。 「指定された対象への禁止行為が確認されました。人格エミュレートを一時的に停止しました」  それまでの人間らしい喋り方から、感情のないシステムメッセージの喋りに戻った美和子。  現在の彼女には、ユニートに所属している構成員全員のデータがインストールされており、さらには構成員に対する敵対行為はシステム側で禁止されている。  たとえ人格エミュレートの動作時でも、それに抵触するような行為を働いた場合はシステム側が介入し、動作を停止するようになっている。  つまり、今の美和子は彼らに一切の手を出すことができなくなっていた。 「よし、システム側の制御動作は上手く動いてるな。そろそろ和也さんを呼んでこい」  構成員の一人が指示を飛ばし、一人が処置室から離れると同時に、手に持っている操作用の携帯端末を向けて、美和子を遠隔操作する。 「操作を受け付けました。人格エミュレートを開始します………………あれ、あたし今殴りにいったはずじゃ……」  人格エミュレート時は、基本人格時の記憶データが同期されておらず、機械的に動いている時の記憶が一切読み込めなくなっている。  たとえ、美和子の人格が動いていない時に何をされても、彼女はそれに気づくこともできないのである。 「だから言っただろ? お前はもう俺達に使われるだけのセクサロイドなんだって」 「どこまでも口の減らない奴らね。あたしはあたしなのよ。あんたらに使われるくらいなら、今すぐここであんたら殺したほうがマ」 「美和子、一旦人格エミュレートを切れ」 「上位権限者からの命令を受け付けました。人格エミュレートを停止します」  部下に呼ばれて処置室に入った直後、命令を飛ばして人格の動作を停止させた和也。  彼は、美和子に登録された構成員の中でも、特に命令を優先的に実行させられる上位権限者として登録されており、彼の言葉なら、美和子はなんでも無条件に従うように設定されていた。  人格のオンオフを繰り返され、見た目には情緒不安定に見える美和子。  そんな彼女の無様な姿を見て、和也は面白がりながら頬に触れた。 「ようやく完成したか……無様なもんだな。あんだけ我儘放題やってた頭の娘が、今じゃなんでも命令に従う人間様の下僕だ。これなら存分に遊び甲斐がある……残りのテストは?」 「あとは性器への反応テストと性行為のテストのみです」 「なるほど。じゃあその前に」  進行状況を聞いた和也は、それを始める前に少しだけ遊んでやろうと、美和子にある命令を与えた。 「おい美和子、お前、これまで自分がやってきたことは覚えてるよな?」 「はい。鬼頭美和子としての記憶は全て電子データ化されており、参照可能となっています」 「じゃあ、てめえが俺の店にやってきたことをその口から言ってみろ。言えるよな?」 「はい。私、鬼頭美和子は、○○○○年8月17日の午後21時頃、ユニートの前日の売上金のおよそ2割程を回収し、私が同日に主催しましたパーティーにて交遊費に消費しました。また、その2週間後には同店の保管されたアルコール類を4点持ち出し、友人との交流にて消費しました。また、その3日後の…………」  美和子は、人間だった頃ならばすっかり忘れているか朧気になっているであろう記憶を正確に引き出し、事細かに行った悪行を淡々と告白していった。  店のものを権力をちらつかせて横取りし、それを適当に消化してその場のノリで満足していったことを想起させることをつらつらと垂れ流すように喋る。  聞いているうちに、構成員達に腹立たしさが込み上げてくるが、和也はそれ以上に、表情を変えないまま青筋を立てていた。 「もういい美和子。一旦そこで止めろ」 「かしこまりました」 「んで、今この場で土下座頭して謝罪しろ」 「かしこまりました」  美和子は従順に従い、全裸のまま床に膝をつき、両膝で胸を潰しながら丁寧な所作で頭を下げた。 「この度は、私が人間だった頃の数々の非常識的な行動について深くお詫びいたします。大変申し訳ありませんでした」  彼女が人間のままだったなら、一生することはないであろう深々とした丁寧な土下座に、構成員達は心の底からの嘲笑をぶつけた。  さらにそれに加えて、和也はこれまでの鬱憤を晴らすように、彼女の後頭部を上から思いっきり、体重をかけて踏みつけた。 「無様なもんだな美和子。俺が良いと言うまで、ずっと謝罪の言葉を言い続けろ」 「かしこまりました。これまでの非礼を侘びて謝罪します。大変申し訳ありませんでした。私の不適切な行為によって、ユニートの皆様が多大なる不利益を被ったことを謝罪します。大変申し訳ありませんでした。私の行動が、ユニートの皆様に不快な思いを…………」  数々の謝罪の言葉が繰り返される度、後頭部からかかる足の力が強まり、鼻が押し潰され、唇は床とキスし、眼球が床にくっついていく。  それでも彼女は明瞭な発音と、床に唇を擦りながらの喋りで、文句1つ言わず命令通りに謝罪を出力し続けていった。 「……よし、もういいぞ美和子。最後のテストに移行しろ」 「かしこまりました、和也様」  ある程度の衝動が晴れた和也は、美和子の後頭部から足を退け、残りのテストに入るように命令した。  美和子はそれを受諾し、何事もなかったかのように立ち上がり、再度作業台の上に自ら移動して仰向けになった。  踏みつけ押し付けられた彼女の顔は、鼻が少しだけ曲がり、唇や額、鼻先に汚れが付着し、眼球のレンズ部分にわずかな傷がついていた。  人間であれば痛がり治療が必要になるような傷でも、今の彼女は全身が人工物であり、いくらでも交換が可能となっている。  どれだけ傷つけられても、壊されても、パーツを取り替えるか修理すればなんとでもなるのだ。  自分の美には神経質だったが、汚れを自ら拭き取ることなく、最後の性行為テストに入る。  処置室の上部に備えられたロボットアームが作業台の上に降り、そのうちの四本が彼女の身体に触れている。  そのうちの二本は、男性器を模したディルド状になっており、いかにも性行為に特化した造りとなっている。  もう二本は、対象を掴む為の三本指の構造になっており、さらに掌に当たる部分には、より小さなロボットアームが備わっていた。  ディルドの二本が、美和子の口と女性器、三本指を備えた二本が両乳房にくっつくと、それらは容赦なく、彼女の性器として定められた箇所を刺激していった。 「動作テストが開始されました。膣内動作、口腔内動作、胸部動作を実行します」  子宮ユニットの奥までディルドを挿入されながら激しく突かれ、それに合わせて膣肉を締め付けながら、人工愛液を排出しつつ腰を痙攣させる美和子。  同時に、人間ならば窒息しそうな程に奥まで挿れられたディルドに舌を絡め、人工の喉肉で締め付けつつ優しく噛み付いた。  一方で、ロボットアームが大きな両乳房を揉みしだきつつ、その過程で固くなった乳首を小型のアームで掴み、センサーの密集する性感帯を細かく虐めていく。  美和子は瞬きもせず、四肢を揺らしながら、プログラムされた通りのセクサロイド的動作を同時に実行し、与えられた役目通りの挙動を忠実に行った。 「絶頂に達しました。絶頂に達しました。絶頂に達しま、ぜ、絶頂に達、絶頂に達しま、達しま、絶頂に、絶頂に達しました、しました」  同時に襲い来る大量の快楽信号を処理し、それでも絶え間なく与えられる快感を受け続け、美和子は本当に気持ちよくなっているのかも怪しい無感情な声で、絶頂の報告を繰り返し行った。  声が途切れる程の報告だけでは本当に感じているかも怪しいが、彼女の排出する人工愛液の量が垂れ流しの如く一気に増加している上に、両乳首から乳液の代わりに一時的に補充されている水道水が、まるで悦んでいるかのように噴き出している。  身体のリアクションだけはまだ生きた人間のようだが、ディルドを咥えた顔は、ずっと紛い物の人形らしい何も感じていないような状態を継続し続けていた。  現状を報告する為のシステムメッセージも、強引かつ強めに設定された刺激に反応してか、絶頂報告しか出てこなくなった。  機械へと生まれ変わったからこそ、彼女は人間だった頃には求められたであろうその場のムードや感情の共有が無くても、センサーが特に密集している性感帯への単純な刺激によって肉体的快楽と絶頂が得られるようになっている。  その単純な信号処理を継続的に実行し続け、見事にテストで望まれた結果を出した美和子は、処理落ちして電子頭脳が熱くなる程の性的快感を得られたが、基本人格で動作中の彼女にはその処理結果以外の感情的な反応は一切存在していなかった。 「動作状況は良好です。きちんとセクサロイドとしての反応と挙動が実行されてます」 「これで完成か。よし、テストを終えてこいつを保管庫に置いとけ。だがその前、最後の遊びだ」 「絶頂に達、ぜ、絶頂に、絶頂に達しました、しました、絶、絶頂、絶頂に、絶頂に達しま……命令を受け付けました。動作テストを終了します。絶頂に達しました」  最後のテストの終了が告げられ、美和子の身体に集っていたロボットアームが次々と彼女から離れていく。  作業台の上や周囲は、水道水と人工愛液まみれになって水溜りを作り、ディルドは人工唾液と愛液が纏わりつき、形が変わるほどに胸と乳首を弄っていたロボットアームはびしょ濡れになっていた。  全身への刺激が終わった後も、小さく不規則な痙攣を続け、一定のタイミングで絶頂報告を続ける美和子。  そして最後に、テストの様子をずっと眺めていた和也は、気まぐれに美和子の人格を起動させた。 「絶頂に達しま、上位権限者からの命令を受け付けました。人格エミュレートを実行します……………………あああああああああああ゛あ゛あ゛っ!!!??」  その瞬間、美和子は先程までとはうってかわって背中を大きく仰け反らせ、両目を大きく見開き口を開け、全身を痙攣させながら詰まっていた全てを吐き出したような嬌声を上げた。  残存している分の水道水と人工愛液も、乳首と女性器からそれぞれ潮を噴くように放出し、作業台から激しい音が鳴る程に揺れ動く。  そんな状態がしばらく続いたところで、ようやく落ち着くと、美和子は頬を染めてクリトリスや乳首をひくひくさせ、人工涙液を流しながら、ぎこちなく上半身を起き上がらせて和也を睨んだ。 「あ……あん……た…………あっ……一体、何した……のよ……あうっ! こ、こんな……頭が、おかしくなりそうな…………ひあっ!? あ、ああ…………」 「さっきまで無様な姿見せてたのに、人格が戻るとこうも反抗的になるんだから面白いな」 「黙りなさいよ! うっ…………いい? これ以上あたしに、何かしたら……あんたを死ぬよりも嫌な目にあわせ命令を受け付けました。これより指定されたポイントへ移動します。人格エミュレートを停止しました」  濁流のように押し寄せてくる、人間だった頃ならば激しい呼吸を起こしているような性感を我慢し、この期に及んでも和也を中心に構成員達へ強気の脅迫をぶつけようとする美和子。  だがそれも虚しく、彼女の言葉は外部からの命令によって中断され、元の従順な人型機械に戻った。  作業台から、水分のない床へと足を下ろし、その先の道が足裏で濡れないように配慮しながら移動する美和子。  涙液が流れたばかりの両目や、両胸、女性器は濡れたままだが、それを気にする様子も無く歩く度に胸を揺らしつつ動き続ける。  そうして彼女がたどり着いたのは、無数のセクサロイドが待機している保管庫だった。  現在稼働している機体を除いて、複数の女性型や元人間が、体液の補充口と首筋の充電端子を装置に繋げたまま、棒立ちかつ少しだけ斜めに傾いた状態で待機している。  当然1体も、衣服や下着を着せられておらず、肌を晒したままそこで放置されていた。  セクサロイド達は、使用前、使用後それぞれに専用の洗浄室で全身を洗われている。その為、今ここにいる機体は、美和子を除いて皆清潔な状態を保たれていた。  そして、美和子も今、そのうちの一体になろうとしている。  首筋の充電端子、背中の胸部タンクに繋がった注入口と、腰の体液タンクに繋がった注入口を自動で開けられ、それらと接続。  他の機体と同様に少し斜めに傾いた姿勢になると、美和子はようやく口を開く。 「シャットダウンを実行します。ご利用ありがとうございました」  まだ誰にも使われていないにも関わらず、美和子は設定された定型文を口にして、そのまま瞳の光を失い、動かなくなっていった。  恵まれた容姿と強権を振りかざし、傲慢な我儘三昧を繰り返していた美和子は、予期せぬ出来事によって一気に凋落し、ただの人の形をした機械の性玩具へと作り変えられた。  この先、彼女が自らの意思で自由を謳歌する時は来ず、玩具として扱われ、気まぐれに顧客や構成員達に使われる日々を送ることになる。  人間だった頃から培われた記憶や人格、身体、美貌、全てが他者の欲望を満たす道具となり、美和子はセクサロイドとしての時間を消費させられていくのであった。


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