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土装番
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機械の侵食 6話 世界へ広がる機械だけの幸せ 6/6

「これで理解してもらえた? 自分達の身体が生まれ変わったことを」  エミリーが、持ち上げたオリビアの頭部を改めて反転させ、180度回してから接続音が鳴り再接続してあげる。  聡美も、同様にメイソンの頭部を戻し、二人は先程までの人間らしい姿を取り戻した。  メイソンはどこかとろんとしたような表情で、じっと母親の方を見つめているが、当のオリビアは、何度も両手を見たり、首筋にあるとてもうっすらとした継ぎ目や身体の感触を確かめては現実感のなさを改めて感じていた。 「信じられない……本当に、本当にこんなことが……」 「やっぱり、まだ信じられない?」 「当たり前じゃない!! そもそもアンドロイドの自律稼働だってまだまだ発展途上なのに、人間の意識をそのまま機械に転用できる上に、肉体から変換できるなんて、こんなの何もかもがひっくり返るくらいのとんでもないテクノロジーよ!?」 「そう思うわよね。あたしだって、全然信じられなかったし、今でも内心びっくりしてるもの。こんな、地球上のテクノロジーを遥かに超えたものがあるなんて、映画の世界よ」  現状の地球上の技術レベルがよくわかっているからこそ、それらを大きく飛び越えるようなぶっ飛んだ技術が自分の身体に宿っていることの異常さが嫌でも理解できる。  機械の身体というだけでも驚天動地ものなのに、一生涯かけても驚き足りないほどのものが、己の女体に数え切れないほど詰まっているのだ。 「初めて来た家でも、こういうことだって出来ちゃうし」  すると、もっと驚くことを見せてあげようと、エミリーは移動中に知った自身の機能として、家内の電子機器への無線ハッキングを行い、遠隔操作してみせた。  モニターは勝手に点滅を繰り返し、オーディオスピーカーからはエミリーが過去に出演した映画の主題歌が、スマートスピーカーからは、登録されていないはずのエミリーの声が鳴った。 「地球上の電子機器であれば、こんなにも簡単にハッキングできちゃうのよ。あたしだってそういうことは全然わかんなかったけど、今じゃこうやってライターに火を付ける感覚でいいの」  エミリーの口は声の通りに動いているが、喋りの内容はスマートスピーカーから。  まるでマジックショーのような光景が目の前で繰り広げられ、オリビアはただただ目を見開くしかなかった。 「信じられないわ……もう、なんていったらいいのか、神の贈り物としか思えないというか……!」 「お気に召したようでよかった。でもね、あたし達が求めているのはね、こういうことなの」  警戒心に満ちていたオリビアは、すっかりと完全機械化した自分達のオーバーテクノロジーぶりに傾倒し、心酔し始めていた。  そして、ここからが本題だと言わんばかりに、エミリーは彼女の外着を丁寧に脱がし、今の娘と同じ全裸姿へと変えていく。 「ちょっと、何する気なの……? 今からでもあたし、ここまでの出来事を文章にまとめて」 「それは後でもいいでしょ? あたし達は過去のデータをいつでも覗けるし、外部端末で確認もできるんだから。それに、バックアップだって自動で取れてるんだし」  へそ部分を指でなぞりつつ、優しくオリビアの引き締まった魅力的な人工皮膚の身体を撫でていくエミリー。  機械化によってより女体としての色香が引き上げられた彼女の腹部を、しばらく愛撫する。  その間にオリビアは、自身に備わったバックアップ機能や記憶データへのアクセスを試していた。しかしその時、鳩尾の下辺りの人工皮膚を、いきなり指で貫き、さらにそこから空いた穴をわざと広げ始めた。 「いぎっ!? ちょっと!? 痛…………くない? あれ、むしろ……あら? 気持ちいい……?」  突然生じた電気信号の波と、エミリーが行った加害的行為に対して、反射的にリアクションし声を上げる。  即座に文句をつけそうになったが、オリビアはすぐに今の感覚が全く不快でない。むしろ今までに体験したことのない未知なる心地よさと快感が響いてくることに気づいた。  空いた穴の奥からは、生身の一切ない金属部品と電子部品の塊が顔を覗かせている。 「どう? これが今の貴女の中身よ。生身なんてどこにも残ってないでしょ」  視線を誘導するように耳元で声をかけ、そこからさらにブチブチと穴を広げていく。  一滴も血が流れず、血のニオイもしない。その奥に広がっている内部構造が、さらに部屋の明かりによって照らされる。  母親の中身が曝け出される姿を、既に機械化による悦楽を知った様子のメイソンは、きらきらした瞳で見つめていた。 「すごい……本当に、どこにも肉が残ってない……!」  人工皮膚が割かれ、破かれる度、快楽信号が響いてくる。快感と共に、これ以上裂けていったらどうなるんだろうと興味が湧いてくる。  次第にオリビアは、自らの手で人工皮膚を摘み、下腹部まで裂いていった。  へそとして表面に出ているバックアップ用のスティック型外部ストレージの側面や、体液タンク、そして、股間から伸びる子宮ユニットが空気に晒され、オリビアのバッテリーは熱くなり興奮の度合いを高めた。 「あっ……これ……私がメイソンを産んだ……」 「そうよ、子宮だって残ってるし、卵子は別個保管されてるからまた子供だって産めるの。でもね、今のあたし達にとっての使い方は……」  人工子宮に連なる機能まで備わっているなんて、どれだけの技術がこの身体に詰め込まれているんだと、さらなる衝撃を受けた直後、エミリーが直接子宮ユニットを握り、優しく揉みほぐした。 「あああああっっ!!? こ、こん……な……はあんっ! 子宮が、あっ! 性器になって……」  子どもを育て産むための器官から感じる、人生で経験したことのない程の快感が、彼女の電子頭脳に襲いかかる。  今までは生理現象や妊娠による痛みしか、感覚的な記憶が出てこないのに、それらが全て過去になるほどの気持ちよさが、この子宮ユニットには宿っていた。  思わず人工愛液が分泌され、下半身がびくびくと震える。 「す、すごい…………これ……理解した……わ…………本来なら、あっ……痛覚にあたるような信号や……おっ…………各種エラーが……快楽信号に変換され…………処理されてるのね…………」  人間ではありえない快感に身を委ねながら、自身の新しい身体に生じている異様な快感のメカニズムを自ら紐解き認識したオリビア。  まさかそんな短時間で理解するなんてと、エミリーと聡美は心底驚きつつも、彼女の乱れる様子に、密かに股間を濡らしていた。 「これって……は……あんっ…………これだけでも気持ちいいのに……もっとシたら……お互いに破損しあったら……どうなるのかしら…………」  オリビアの思考はすぐに、どうすればより多く、より効率的に快楽信号を得られるかという方向にシフトしていた。  そして導き出された答えのひとつが、互いにセックスをするかの如く絡みあい、肉体的交接のように壊し合うこと。  いわば機体的交接とでも言うのだろうか。そんな言葉の定期も頭の端で思考しているうちに、彼女の視線は、人工皮膚が破れた腹部から、目の前でじっと自分を見つめている娘に移った。  それを察知してか、メイソンも自分の方を見つめる。 「ママ、私も、快楽信号がほしい……」 「私もよ……同じこと考えてるのね……」  お互いに出した演算結果は、親子なだけあってほぼ同じだった。  それは、機械化したばかりの二人で絡みあい、破損させあい、快楽信号を処理すること。  オリビアもメイソンも、それぞれにとろんとした蕩けた視線を送っており、それは到底家族同士に向けて行うような視線ではなかった。  そっとエミリーと聡美、それぞれの側から離れ、前のめりになって母親の身体にくっついていく。  それから、一度抱きしめ合い、人間だった頃よりも形良く、大きくなった乳房同士を潰し合い乳首を触れ合わせながら、濃厚なキスを始めた。 「あっ……ん……本当ね…………全然……あっ……唾液から味がしない……でも……きもちいい…………人間だった頃よりも……それに、キスしてるのに喋れてる……スピーカー式って、こんなにも楽で……あんっ…………」  愛し合う母娘同士、今まで何度も抱き合い、軽いキスも何度もしてきたが、ここまで恋人同士のようなディープキスをしたことは一度もなかった。  人工唾液にまみれた舌を絡ませ、樹脂製の唇を重ね合い、センサーから感じる快楽信号を同時に処理して、母娘として、機械としての愛情を共有し合う二人。  外部からやってきた二人が見守る中、娘にも母親にも聞かせたことのない卑猥な水音と喘ぎ声が室内に響いた。  それぞれの人格データが昂り、人工愛液が染み出し濡れてきたところで、オリビアは娘の腹部に爪と指を突き立て、メイソンは母親の穴が空いた腹部に右手を入れて金属部品に直に触れた。 「お゛っ! ああっ!! め、メイソン……ぎっ!! き、きもちいいわ……あ゛っ!!」 「あああっ!! ママ……私の、あんっ! 中に手が入って、ああっ!! 機械の身体……とっても……あああっ!!」  ほぼ同時に背中を仰け反らせ、思わず重なっている唇が離れる程の性感に襲われる二人。  それぞれの身体は腹部の穴から入れられた腕で繋がっており、快楽に打ち震えて反っている時も、相手側の身体の中で手を動かし続けていた。  かちゃかちゃと硬質的な部品を弄り扱う音が聞こえ、部品が傷つき破損する度に、人間では決して得られない心地よさがほとばしる。  二人の瞳はすっかりと力が抜け、吐息を幻視してしまいそうな程に快楽信号の虜になっていた。  とろとろと床に落ちた人工愛液の水溜りが、彼女達の今を強く表している。  肉体的な性行為と機械的な性行為。二つを同時に行うことで、人間のままならとっくに廃人になっていたであろう分量の気持ちよさが、電子頭脳に大きな負荷を与えつつ埋め尽くしていた。 「ママ……ぁ……きもちいい……とっても……もっと、いっぱい快楽信号がほし……ああんっ! ま、マ……ぁ……おかしくなりそう……あんっ!」 「メイソン……あ゛っ! あ、あ、あぁぁ……私もよ……メイソン、とっても……きもちいい……あんっ!! こんなに、え、エラーが……あんっ!」  それから、二人は残された空いている腕や身体で、母娘それぞれに快楽信号を与えるための行動を実行していく。  メイソンは母親の右胸を鷲掴みにし、乳首を刺激しつつ揉みしだく。先端から乳液が漏れ出し、かつて赤子だった頃に吸っていた母乳とは成分の違う乳液を快感のために放出していく。  一方でオリビアは、娘の右眼に舌を挿れ、眼窩まで滑り込ませてからクンニするように刺激してあげた。  接続機構や、飛び出しそうになっている眼球ユニット、人間だった頃ならば病気の原因となるような、まず滅多に行われない行為でも機械の身体ならば正当な性行為となる。  それぞれ、より魅力を高められた肉体的行為と、機械でしかできない倒錯した性行為をぶつけて母親を、娘を気持ちよくしてあげる。  全身が徐々に発熱し、各部から液が漏れては止まらない性感に、全身を震わせる機械の母娘。  すると、ずっと胴体を弄っていたオリビアの右手が、娘の元々心臓部だった場所に備わっているバッテリーを握った。 「あっ、ママ、ぁ、あっ! 私の、わ、私の、あんっ! 中、が、ああっ! もっと、快楽信号が、あ、あ、はあんっ!」 「はあ、あ、ん……メイソン……もっと、快楽信号が、快楽信号を……発信して……私達、もっときもちよくな、あんっ!」  信号処理がだんだん追いつかなくなってくる程に快楽信号やエラーが蓄積し、動作も緩慢になってきているウォーカー母娘。  だが、彼女達に行為を止める理由はなく、壊れ続けても、もっと快楽信号を求めたい。愛する娘、母にたくさん快楽信号を与えたい。  そんな純粋な愛情のもと、オリビアは思いっきり手に取ったバッテリーを、人間だった頃を遥かに超える力で握った。  その時、メイソンの細身の中から、大きく弾けるスパーク音と小規模な爆発の音が鳴った。 「■@0$$01■──────」  一瞬、元々の声がノイズだらけになるほどの嬌声を上げ、彼女の身体は大きく仰け反った。  しかしその直後、全身は硬直し、自発的な行動が一切行われなくなった。  腹部の穴の奥からは、時折電気が弾ける音が鳴り、その度にメイソンの身体がびくっ、と感じているように震える。  同時に濃厚なキスをしたばかりの口や腹部の穴からは黒煙が上がった。  突然動かなくなった娘の姿に、オリビアはほんの数秒硬直し、フリーズした。 「…………メイソン? あ……ごめ、めんな、なさ、さい、メイソン……バッテリーを破壊しちゃった…………」  少し考えれば当然だが、動力源が絶たれては機械は動かない。これまでの人生をひっくり返されたような素晴らしくきもちいい性行為に夢中になり過ぎた結果、自ら娘の動力を破壊し止めてしまったのだ。  かくん、かくん、と人工愛液を漏らしつつ小さく痙攣するメイソン。  彼女の腹部の穴から腕を抜くと、バッテリーの爆発によって人工皮膚が吹き飛び、焦げ残った皮膚の一部と煤けた金属骨格が姿を表した。改めて信じられないが、自分の意志に応じて動くその機械のスケルトンは、間違いなく自分の手である。  大切な娘になんてことをしてしまったのだと嘆き、人格エミュレートに大きな負荷が生じて動作に大きな支障が発生する。  そこに、エミリーが優しく背中を擦りながら語りかけた。 「大丈夫よオリビア。あたし達は他の物質を取り込むことで自己修復が可能なの。だから、バッテリーも簡単に直すことができるわ」 「そ、それじゃあ……メイソ、ンはま、またう、動くの……?」 「ええ。今日中にでも動けるわ」  それを聞き、オリビアは人格データの底から安堵した。娘は再起不能なほどに壊れてしまったのではないのだと。これでまた、娘と壊れあい快楽信号を共有できると。  壊れた電池式人形のような、稚拙な挙動をする娘の姿。これはこれでとても淫靡に感じると、安心した彼女に対して、エミリーが腹部から手を突っ込み、バッテリーを掴んだ。 「よかった、あぁっ!! あっ! こ、これも、メイソンが、か、感じ、あんっ!」  娘と同じように掴まれ、圧迫された瞬間、身体の奥から不思議な恍惚感が発生した。  娘が感じた快感がここにある。快楽信号の発生や人格データの感じ方にも、やりようによって多種多様な差異がある。  そんな気持ちよさを体感しつつ、同じことを感じられた悦びを味わった瞬間、オリビアのバッテリーがまさしく同じように握り潰され、小規模の爆発とスパークによって彼女の身体が跳ねた。  乳房が揺れ、漏れていた乳液が周囲に飛び散りながら、先程まで悦び、狼狽し、震えていた女性の身体は硬直した。 「01$#!*&01=──────」  個性を失った電子音の悲鳴が喉奥から鳴り、娘と同様に機能停止するオリビア。  エミリーが焼け焦げ煤けた、機械剥き出しの右腕を抜き取ると、支えを失った母親の身体は倒れ込み、メイソンの腹部に折り重なった。 「はぁ……ぁ…………こういう損傷も悪くないわね…………」  右手の金属骨格に、わずかにこびりついた人工皮膚を舐め取りつつ、破損の快感を味わうエミリー。  組み込まれた本能に従った結果、少々行動が脇道に反れてしまったものの、これで目的への大きな一歩へと踏み出すことができた。 「さ、エミリーさん。新しい仲間も出来たことですし、これで大きな一歩ですね」 「ええ。明日も動いてもらわないといけないからすぐに修理しないとね……ん…………ここを拠点にして……あはっ……人生、何が起こるかわかんないわ……!」  二人の倒れた機械人形に、一人の頬を赤らめ右腕から正体を晒している元モデルの機械人形、そんな三人を見つめ、己の与えられた使命を成功させられたことを喜ぶ機械人形。  静かに、そして着実に、機械が生身を凌駕する日は近づきつつあった。 * * *  次の日。娘と壊れあい、バッテリーを破壊されたオリビアは、まるで何事もなかったかのようにセンティリオン社へと出勤した。  その道中、自分だけに社内の金属探知機が反応しないように改竄し、自由に行動できるようハッキングを促す。  世界トップクラスのテクノロジーとネットワーク技術が集結していると言っても、ペリメイズ人のテクノロジーの前では赤子も同然。  かつては絶対に破られるわけがないと思っていたセキュリティを、その彼女自身が、機械に生まれ変わった身体でいとも簡単に破ってみせた。 「地球のテクノロジーって案外こんなものなのね。ちょっと前まで誇っていたあたしが恥ずかしいわ」  それから彼女が向かったのは、センティリオン社のデータセンター。  彼女が通うオフィスからもっとも近い場所にあるひとつ。そこに、聡美とエミリーから与えられた指令を遂行するため、それらしい理由を構築してきちんと社員として堂々と侵入した。  当然、セキュリティは掌握済み。同じ場所にいる人間が気づきもしない限りは、彼女の身体が生身のない金属と樹脂の塊であることは発覚されない。  そして、データセンターの最奥まで向かったところで、オリビアはすぐさまそれをハッキング。誰ひとりとして気づかれないまま、それをたった一人の個人の手中に収めたのだった。 「ふふ……これで私達はもっと動きやすくなるわね。他にも手を加えないといけないとこはあるけど、ひとまずはこれで」  これと同じ動きは、世界各地で静かに、ひっそりと、生身の人類が気づくことなく進行していた。  オリビアだけではない。世界中に広がった機械化の波が、ありとあらゆる地球上のテクノロジーへ侵食。それを成功させていた。  ここから地球人類への機械化侵食は、加速度的に進行していくこととなる。


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