退魔士セツナと刻まれた印 番外編 退魔士カナタ・終の章・秘
Added 2020-05-16 16:20:06 +0000 UTC長く艶やかな髪に隠された耳に筆を這わせると女は、
「はぁぁん・・・」
と、甘い声をあげて俺の裾を強く握りしめた。
「やめるか?」
その問いに女は、俺に強い視線を投げながら顔を振った。
蟲と呼ばれる下級妖魔の中でもさらに下級の存在を、無数にツボに入れて殺し合いをさせ、全てがドロドロに溶けたモノを筆に染み込ませて女のカラダに呪を刻んでいく。
それは一塗りするだけでほぼすべての女人が廃人になるほどの快楽を叩き込んでしまう。恐ろしい劇薬。しかもこの女は、快楽を苦しみに感じてしまうという印をその身に刻まれているという。
女の苦しみはいかほどのモノであろうか・・・
「はぁ・・・はぁ・・・何を戸惑っているのです?」
そう言って女は・・・筆先が首筋に触れるように身を捩った。
俺は筆を白くて華奢な首に這わせる。
「んく・・・はぁぁ・・・」
女の甘い声が夜陰に響く。
女は、見た目は小娘の様であった。胸はまだ膨らみかけのようで小さい。だが、不思議な妖艶さを湛えていた。触れたい。抱きしめたい。犯したい。壊したい・・・そう思わせるような、妖しげな魅力を湛えていた。
女の名はカナタ。ある時、まるで天から舞い降りたかのように、突然現れた不思議な女。
女は・・・カナタは・・・その細い体で、夜な夜な恐ろしい妖魔と戦い続けていた。戦えば戦うほどに傷つき、その身に呪いを受け、様々な印を刻み込まれていく。
印はカナタを苦しめ、追い詰めていく。
見られるだけで感じてしまう印。
匂いを嗅がれるだけで感じてしまう印。
快楽を苦しみに感じてしまう印。
苦しみを快楽に感じてしまう印。
胸から母乳が出てしまう印。
声や音に感じてしまう印。
妖魔と戦う為の力・・・マナを使う度に・・・自らのマナに身の内を犯され、苦しんでしまう印・・・
その他あげればきりがないほどの印を刻まれて、戦うどころか、今や普通に生活しているだけで、壮絶な拷問を受け続けているに等しいカラダにされて、それでも尚、妖魔と戦い続けている。いや、最近ではもう戦いにもならずに、ただその身を妖魔に捧げてその牙をその爪を受け悶え喘ぐことしか出来ていない。人々を妖魔の毒牙から守るために、自らを生贄として差し出すことしか出来ない。
その度に印を刻まれて、カナタが受ける苦しみは壮絶さを増していく・・・
それなのに、この女は・・・カナタは・・・
鎖骨に筆を這わせ、薄い胸に筆が向かおうとする。
「んくっ・・・」
切なげな声を出して、涙に潤んだ視線を投げかけてくる。ゾクゾクとした嗜虐心が沸き上がって、この女を滅茶苦茶に苦しめたい欲望が沸き上がって来る。
カナタを虐げる妖魔の気持ちがよく分かる。いや、妖魔だけではない。この女は決して口にはしないが、妖魔ならぬ人に、カナタに守られているはずの者達にも、何度も何度も凌辱され責められたはずだ。
くそったれが・・・
こんな世など、今すぐにでも滅んでしまえばいいのに・・・あんな奴らなど、妖魔に喰われてしまえばいいのに・・・
それでも・・・この女は・・・地獄の苦しみを幾度も味わいながら、この世を・・・人々を、守ろうとしている。
そのために、自らの魂すら捧げようとしている。
「少し・・・休みますか?」
カナタは俺の目を見つめて、優しい言葉をかけてきてくれた。苦しいのは自分のハズなのに・・・
「いや、すまない。」
俺は筆を薄い胸の裾に筆を這わせた。
「んくぅうう・・・」
噛み殺した声が耳をくすぐり、肉体の震えが筆を通して伝わってくる。必死に筆攻めに耐えているカナタに記しているのは、『地獄送りの紋』。これを刻まれた者が死んだ時、その魂は地獄の奥深くへと強制的に送られてしまう。どんな罪人に対しても、どんな恐ろしい妖魔に対しても、本来ならば刻んではならない、そもそも存在してはいけない恐ろしい禁術。
それを、この女は、自らに刻んでくれと頼んできた。
それがこの世を、人々を救うためだからと・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
俺のジジイはクソみたいな奴だった。その昔、年端のいかない少女のカラダに恐ろしい鬼を封じたのだと、酒を飲むたびに自慢げに話していた。
鬼をカラダに封じられた少女はたまったものではないだろう。俺はその話を聞く度に、世の泰安の為に犠牲となった少女のことを思わずにはいられなかった。
こんなクソったれどもの為に、身に宿した鬼に責められ続けた少女のことが、哀れで仕方なかった。そのことを思う度に、自分自身の陰茎が硬くそそり立ち、また自らもくそったれ共の一員に過ぎぬと情けない気持ちになった。
子供の頃、俺にとってこの世はクソみたいなものだった。こんなクソ、明日にでも滅びてしまえばいい。そう思いながら俺は育った。
ジジイがおっ死んで、生きているかどうかすら分からねぇ親父の代わりにこのボロ寺を継いだ時、今までの考えが間違っていたことをすぐに知った。
この世はクソみたいなものではない。クソそのものだ!
どいつもこいつも今すぐに死んでしまえばいいのに、恥ずかしげもなく生き恥を晒し続ける最低のクソ野郎だ。最低のクソ野郎が集まった肥溜めみたいな世に生きて、クソどもの為に、適当に経をあげたり説法をしたりして飯のタネを恵んでもらい生きている俺は・・・
その中でも一番最低のクソだ。
気が付いたら、小娘が一人、ボロ寺に勝手に住み着くようになった。死なれても目覚めが悪いんで飯食わせてたら懐いて来やがった。スエという名のその小娘は俺のクソさ加減も知らないで、
「和尚さん和尚さん」
と言ってチョロチョロと纏わりつくようになった。
そしてその小娘が、川辺に倒れている女・・・カナタを見つけてきた。
その美しさに俺は言葉を失った。まるで天女の様だった。そして思った。
どうして、よりによってこんなクソの元にこぞってやって来るんだ。と。
お前らがいるべきなのは、もっと清潔で温かくて静かでなところで、お前らが共にいるべき者は、もっと優しくて精錬で正直な奴だろうに。そんな所がこの世にあるのか、そんな奴がこの世にいるかは分からないが、少なくともここではないはずだし、少なくとも俺ではないはずだ。
にもかかわらず、二人は俺の元に身を寄せて暮らし始めた。
俺はだから、カナタがどんなに苦しい思いをしているのか知っていながら、幸せのようなモノを感じてしまった。その幸せを感じるのはカナタの方であるべきなのに。俺にはそんなもの、感じる資格は無いのに・・・俺は・・・
俺は・・・
・・・・・・・・・
「はぅううん・・・んぁああああ・・・」
下腹部に筆を這わせたとき、カナタのカラダが跳ねた。悍ましい汁が肌を浸透して、奥にある子宮に紋が刻まれていく。
「だ・・・大丈夫ですから・・・んっ・・・」
汗まみれの女の裸体を月明かりが淫らに照らす。不気味なまでの静寂の中、カナタの荒い息遣いと俺の心臓が高鳴る音だけが全てだった。
・・・・・・・・・
民衆共は守られているくせに、それを知っているくせに、カナタの身を妖魔の王である『鬼』に差し出せと迫って来る。自分たちの身の安全のために。下らねぇ人生のクソみたいな安寧のために、恥ずかしげも無く迫って来やがる。
その日の夕刻、境内に集まった奴らは口々にカナタを愚弄し始めた。
「オラのかかあも妖魔に喰われた。天女様が妖魔を滅してくれぇねからだ!」
「天女様は、妖魔とよろしくやって手籠めにされてるんじゃねか?」
「んだ。天女様とか言われているが、とんだ淫売に違いない!!」
俺は奴らを前に何も言えなかった。言えば口から怒りがとめどなく溢れい出て、奴らを全員殴り殺してしまいそうだったからだ。
こんなクソ共の為に
クソ共の為に
なぜカナタはこんなに苦しんでいるんだ。
なぜカナタが汚されなくてはいけないんだ。
なぜカナタがこんな世に生まれてこなくてはいけなかったのだ。
なぜカナタが・・・
・・・・・・・・・
カナタの手が、俺の頬に触れた。
「あなたと過ごす最後の晩です・・・どうか笑っていてくれませんか?」
苦しいだろうに、カナタは俺に優しくほほ笑んだ。
そこにはただの可愛らしい少女の顔があった。
優しくて儚げで、でも芯が強い、一人の少女の顔しかなかった。
「なぁ、いっそすべて逃げ出して、どこかへ行っちまわねぇか?」
気が付いたら、俺はそんな事を口走っていた。
「春には花の綺麗なところに行って、夏は涼しい高原で過ごして、秋は静かな庵に身を寄せて・・・冬は・・・冬はさぁ・・・猫でも飼って、寒い夜は猫を抱いて眠るんだよ・・・きっと暖かいだろうぜ?」
俺の言葉にカナタは
「素敵ですね・・・そうできたら、素敵でしょうね。」
そう言って、どこか遠くをうっとり眺めているようだった。
・・・・・・・・・
「『地獄送りの紋』を・・・ご存知ですね。」
ある夕刻の事、そうカナタは俺に声をかけた。知らぬと答える俺にカナタは
「私は、その昔、この身に鬼を封じました。その時、私に封印の紋を刻んでくれた者の面影が、貴方にあるのです。」
その言葉に、俺はドキリとした。それを悟られないようにするのが精一杯だった。
「それがどうしたというのだ。」
「その者が私に地獄送りの紋の事を話してくれたことがあります。お酒も入っていたのでしょうか、それは自慢げに話して下さいました。」
カナタはそう言って、楽しい思い出かのように、ふふふと笑った。
「クソジジイが・・・」
俺はカナタに聞こえないように小さく呟いた。
「地獄送りの紋は恐ろしい禁術。禁術が故に必ず伝わっているはずです。あなたにも、伝授されているのではないですか?・・・その・・・クソジジイ様から。」
その言葉に俺はカナタの顔を見た。普段見せない悪戯っぽい笑顔に、俺もつい笑ってしまった。
恐ろしい話をしているはずなのに、俺たちは二人、笑いあっていた。
「天女様―?・・・あ、和尚様も!二人で何してたの?」
スエがパタパタと走り寄って来て、その時の会話はそれで終わってしまった。
それから俺はひっそりと、地獄送りの紋の準備を始めた。この準備が全て無駄になってしまえばいいと願いながら。
その願いも虚しく、時は来てしまった。
・・・・・・・・・
「思えばあなたには、どんなに世話になったか・・・感謝の言葉もありません。」
カナタがそんな事を言ったけれど、俺は蔑まされるようなことはあっても、感謝をされるようなことは一つも思いよらなかった。
「まるで今生の別れのようなことを言う。」
俺の言葉にカナタは、
「今生の別れなのですよ。明日あなたはスエを連れてここから旅立つのです・・・それを最後に私達は、もう二度と会う事は無いでしょう。」
そしてその後、カナタは地獄に堕ちることになる・・・俺はカナタの目をじっと見つめて言った。
「今からこの細い筆の、尖端・・・呪力が込められた一本の毛がお前の乳首より乳房の内部に入り、胸を内側から犯し汚し、紋を刻む。始まったら言葉を発することなど出来なくなってしまうだろう。凄まじい苦しみと性感に長時間身悶えた後、終わればもう片方の乳房にも同じことを行う。」
そこまで言って、俺は一旦言葉を区切った。
「それが終れば『地獄送りの紋』はお前の魂に定着するだろう・・・今ならまだ引き返せる・・・それでも・・・」
「かまいません。」
カナタは凛として答えた。その声に、一点の曇りも無かった。
「すまない・・・お前の覚悟を侮辱したように聞こえるのならば怒ってくれて構わない・・・でも・・・苦しみながら戦い続けたお前を見ていて・・・俺は・・・思わずにいられないのだ・・・少しでも・・・ほんの少しでも・・・生きていてよかった・・・そんな幸せを・・・お前は・・・カナタは・・・一瞬でもいい・・・感じてもいいんじゃないかって・・・そんな瞬間が訪れるべきなんじゃないかって・・・だってカナタ・・・お前は・・・」
俺の言葉はそこで遮られた。
柔らかい唇が、俺の口をふさいだ。
顔を話したカナタの頬が、月明かりの下赤く染まっていた。
そしてもう一度、今度は舌と舌を絡ませながら、俺たちはお互いの唇を、舌を、貪りあった。
「その瞬間は、今訪れました。」
お互いの唇が離れた後、カナタは俺の耳元でそう囁いた。
それから俺の唇に人差し指をあてがいながら、幸せそうにカナタは微笑んで、
「これは秘密ですよ。」
そう呟いた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
翌日、俺はスエの手を引いて寺を後にした。見送るカナタとの間に、言葉は無かった。
どんな言葉を交わせるだろうか・・・今からカナタは・・・あいつは・・・このクソみたいな世の中の、クソみたいなやつらの為に、自ら進んで地獄に堕ちるのだ。
畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生・・・
こんなクソみたいな世の中なのに・・・お前がそうまでして守るのだから、愛するしかねぇじゃねぇか。
あんなクソみたいな奴らなのに・・・お前がそうまでして救うのだから、許すしかねぇじゃねぇか。
こんなにも・・・こんなにもクソみたいな俺なのに・・・お前がそうまでして・・・そうまでして・・・俺を・・・畜生がっ!・・・こんな俺でも、必死に生きるしかねぇじゃねぇか・・・
スエがギュウと俺の手を強く握った。
俺は何にも言えずに、ただ黙ってその手を強く握り返した。
空はどこまでも高く青かった。
行く当てなどどこにもなかった。それでも俺たちは歩かねばならなかった。
歩いて歩いて倒れて死ぬまで生きて、
その時まで、あの晩の秘密は、
胸の中に秘め続ける。そういう事にした。
Comments
ありがとうございます。イラスト楽しみにしてますね。
アヤワスカ
2020-05-20 00:07:22 +0000 UTCおお、まだカナタのお話を見えるなんで、旅立った友の近況をしたの気分だ。とても穏やかで、希望溢れるの終章ですね。いつかカナタとセツナのイラストも描こう、巫女服の袖は苦手たけど、いまならいけるかな
deszero
2020-05-19 22:47:26 +0000 UTC