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聖天使エンジェル・ルシア 第七話 『日々』

「くすくす・・・ぶざまねぇ・・・」


 全てが絶望の黒に染まろうとしていた。


 「くっ・・・まだ・・・諦めるわけには・・・」


 女は・・・それでも抗い続けた。必死に希望の白を手繰り寄せようとしていた。


 だが、


 「あれぇ?・・・そこでいいのぉ?」


 少女が嗤うと、


 パチンパチンパチンパチン・・・


 緑の盤面上で白いコマがひっくり返され黒に染まっていく。


 「あーーーーもう!置くところないじゃない!!」


 絶望的な状況に陥った雨宮イノリに、


 「置くところも何も、白一個も残ってないじゃないっすか。」


 少女を膝にのせた男、片桐シュンが呆れたように呟く。その手は長い少女の髪を器用にサイドテールに結っている。


 「ノアちゃんオセロ強すぎ。」


 イノリにノアと呼ばれた少女は、


 「ふふん・・・まぁね、ノアちゃん天才少女ですから。」


 と、そう言ってシュンの膝の上で胸を張った。

 

 彼女は、先日突然、本当に突然特殊自衛隊基地内に現れた。ルシアを『ママ』と呼ぶ彼女はルシアの生き写しで、まるで小さなルシアのようである。違うのは、気持ち吊り上がった瞳と、勝ち気な性格。


 そんな彼女は今、シュンの膝の上でご機嫌のようだ。


 「もう一戦!もう一戦お願い!」


 午後の談話室にイノリの声が響く。


 「んふふふ・・・どうしよっかなぁ~~~。」


 ノアはニヤニヤと不敵に笑う。シュンはノアのツインテールを解き、今度はお団子に結い始めた。


 その光景を遠巻きに、微笑ましく見守る初老の男性があった。本間ユウダイ・・・特殊自衛隊隊長を長年務める彼は、願わくばこんな穏やかな日がずっと続けばいいと、そう思わずにいられなかった。


 ノアという名前は、彼が付けた。当初彼女の名付け親に雨宮隊員が名乗りを上げたのだが、ルシアの強固な反対によってそれは却下された。ルシアのあんな表情を見たことが無いと、後に誰もがそう語った。


 ノア・・・全てがルシアにそっくりな少女。ルシアの報告によれば、彼女のエナジーによって創られたのだという。ルシアと同じように巨大化・変身して怪獣と戦う正義のヒロイン。背中に生えた小さな羽・お尻から生えた尻尾から『小悪魔ちゃん』として一部で熱狂的な人気を博している。


  ノア・・・その名はフランス語のノアール・・・『黒』から来ている。黒い稲妻のような力を使い敵を屠る。その威力は強力で、硬い装甲を持つ怪獣をも貫く。だが、その力の強大さ故か、まともに戦える時間は短い。


 ノア・・・彼女が現れて、どれほど特殊自衛隊が、人類が、ルシアが助けられたのか分からない。怪獣達の動きは不思議と活発になった。もしノアがいなかったら、被害はどれほど大きくなったのだろう。だが、その救われたモノの大きさは、ノアの小さなカラダにかかっている負担に比例する・・・


 「あー!あんなところにUFOがー!」

 

雨宮イノリが突然叫んで、あらぬ方向を指さした。


 「え?どこどこ?」


 キョロキョロするノアの隙をついて、イノリは盤上のコマをひっくり返そうとする。


 「何やってんっすか。そんな事して勝って嬉しいんすか?」


 ノアの髪を結いながら、片桐シュンがイノリを咎める。


 「う・・・うううう・・・」


 ぐうの音も出ないほどの真っすぐな正論に、イノリの動きが止まる。


 「えぇぇ?何?何なの?雨宮イノリ隊員は、卑怯な真似をしてまで勝ちたかったの?隊長!不正行為を働いたイノリ隊員に厳格な罰則を求めます!」


 シュンに髪を三つ編みに結われながら、本間隊長にノアは訴えかけた。


 「ふふふ・・・」


 思わず本間の口から笑いが零れる。


 彼の目には全て眩しく映る。


 激闘の合間の凪の時間を、彼はしみじみと噛みしめていた・・・


 ・・・・・・・・・

 

・・・・・・


・・・


 その数日前・・・


 「これで終わって下さい!!!」


 必死な祈りにも似た声と共に、突き出されたルシアの手から真っ赤なビームが放たれる。それはヘドロの塊のような怪獣のコアを貫いた。


 「ぐぉおおおおおお!!!!!」


 凄まじい断末魔が、雲一つない青空に響く。


 市街地の下水道を突き破って出現したヘドロの集合体怪獣は、燃え上がり、灰になって散っていった。


 「はぁ・・・はぁ・・・やっと終わりました・・・」


 肩で息をする赤い女神に、


 「流石ママね。やってくれると思ってたわ!」


 小悪魔が無邪気に笑いかける。


 二人ともヘドロに汚され苦しみながらやっとの思いで得た勝利。彼女達だけではない。戦車や戦闘機で女神達と共に戦った隊員達も疲労困憊なのだ。


 指令室の本間隊長は総撤退をねぎらいの言葉と共に命じようとした。


 その時、


 「まだです!」


 モニターを凝視してたオペレーターが声を上げた。


 「強大なエネルギー体が発生しています!ルシアさんの目の前!!」


 指令室で声が上がるまさにその時、


 ルシアの目の前、何もない空中にぽっかりと大きな穴が開いた。


 それは五年前、ギガントクルスと名乗った異形が姿を消した時と同じような・・・その時とは比べ物にならないほどの大きな穴。


 ゾク・・・


 ルシアの背中を冷たいモノが走った。


 そんな彼女の表情を見て、ノアの表情も引き締まる。


 その穴の向こうから・・・


 「パオ――――――――ン!!!!!!」


 辺りに轟くような咆哮をあげて・・・巨大な象のような怪獣が現れた。


 後に『鈍獣』という名で記録に刻まれるそれは、肩から地面までの体高がルシアの倍ほどもある。ソレは一歩歩みを進める度に鉄筋コンクリートの建物を紙屑のように踏みつぶしていった。


 「何よコレ・・・」


 戦車内で、イノリが思わずつぶやいた。


 いつしかその巨体は完全に地上に現れ、ソレが出てきた穴は何も痕跡を残さずに消え去った。


 長い鼻・・・大きな耳・・・紫の模様のような線がウネウネと刻まれた灰色の肌。特筆すべきはギョロリトした大きな二つの目・・・その瞳はよく見ると、人の顔のようで・・・黒目の部分が、ニヤニヤと悪意のこもった笑みを浮かべる人の顔のようであるのだ。


 「パオ――――――――――ン!!!!」


 ソレが再び咆哮を上げると、雲一つなかった空に、どす黒い雲がモクモクと湧いてきて、バケツをひっくり返したような豪雨がザーザーと音を立てて降り始めた。


 「うぅぅ・・・これは・・・あぁぁ・・・」


 雨に打たれてノアが苦悶の声を上げた。雨はどす黒く全てを汚していく。それは女神たちにとってあまりにも過酷な状況。


 「ノアちゃん・・・ここは私に任せて帰りなさい。」


 ルシアの言葉に、


 「いくらママでも、それは笑えない冗談よ。」


 とノアは応える。


 「仕方ない子ね。」


 ルシアはそう呟くと、エナジーで造った赤い刃を鈍獣の目に向けて放った。


 それは開戦のゴング。


 刃は長い鼻によって叩き下ろされる。鈍獣はその鼻でルシアを薙ぎ払おうとするが・・・薙ぎ払うべき相手が・・・目の前にいない。


 鈍獣が刃に対処するその隙をついて、ルシアとノアは巨体の左右にそれぞれ回り込んだのだ!


 「最初から全力で行きます!!!」


 ルシアは赤いエナジーを、ノアは黒いエナジーをそれぞれ拳に纏って、巨木のような足に打ち込む!!!


 ズゥウウウ――――ン・・・


 地響きがあがる。


 手ごたえあり!!


 二人がそう確信した次の瞬間・・・


 「パオ―――――――ン!!!!」


 咆哮と共に、巨体が大きく持ち上がる。後ろ足で立った状態になって、それから・・・


 「ノアちゃん!下がって!!!」


 ルシアの言葉とほぼ同時に鈍獣の前足が地面に叩きつけられる!!!


 ズドーーーーーーーーン!!!!


 凄まじい衝撃に、


 「うぁあああああああ・・・」


 ルシアとノアのカラダが吹き飛ばされる!


 「このやろぉおおおおお!!!!!」


 幾つもの戦闘機が鈍獣の周囲を飛び回りながら機関銃を浴びせかける。


 「戦車部隊も続くよ!!!」


 イノリの号令に地上からも戦車の砲台が火を噴く。


 ズダダダダダダダ!!!!!!ズドーーーンズドーーーーン!!!!


 あまりにも巨大な敵を相手に人類の武器が果たして通用するのだろうか・・・なんて迷っている暇はない。出来る限りの全力を叩き込むしか出来ないのだ。


 「パオ―――――――ン!!!」


 鈍獣が長い鼻を振り上げる。


 煩い戦闘機を叩き落す気だ!


 その瞬間、


 赤と黒の閃光が、鈍獣の頭部を左右から襲った!それぞれのエナジーを纏ったルシアとノアが、矢のような跳び蹴りを巨体に向けて放ったのだ!!


 ドゴーーーーン!!!


 ビリビリとした確かな感触を感じる。このままダメージを与え続ければ、この戦いは勝てる・・・ルシアは、その時はそう思っていた。


 「その調子です・・・そのままその場で戦い続けるんです。」


 隊長の指令がインカムを通して戦車部隊・戦闘機部隊に下される。その指令はチカチカと戦闘機のライトを使った合図でルシア・ノアにも伝えられる。


 「了解!ノアちゃんに任せて!!」


 そう言ってノアは、黒いヤリを作ろうとする・・・その時、ふらっと眩暈のようなモノを感じてしまった。


 ・・・力の使い過ぎ?・・・そんな・・・もう少し堪えてよ私のカラダ・・・


 歯を食いしばるノアの前で、


 「パオ――――――――――ン!!!!」


 今までで一番大きな咆哮を鈍獣があげる。


 腹の底まで重たく響いて、それだけで気絶してしまいそうになってしまう。


 「ノアちゃん危ないっ!!」


 ルシアの声が聞こえた時、ノアの目の前に鈍獣の鼻が。その鼻孔から、どす黒い液体が放たれて・・・


 ドン!


 ノアのカラダが吹き飛ぶ。続いて、


 「くっ・・・ぅぅぅ・・・」


 という必死にかみ殺したようなルシアのうめき声。彼女はノアを突き飛ばし、代わりにその胸に鈍獣が放つ黒い液体を受けたのだ。


 「ママ!!」


 自分のせいでルシアが攻撃を受けてしまった。その事実がノアの心を酷くかき乱した。


 「お願い・・・ノアちゃん・・・落ち着いて・・・」


 地面に片膝つき、胸を手で押さえながら語り掛けるルシアの弱弱しい声は、ザーザーと降りしきる豪雨の音と、


 「パオ―――――――――――ン!!!」


 という咆哮にかき消されてしまった。


 「このぉ!!!」


 ノアは鈍獣に向かって走り出した。力をかき集めて小さな黒いヤリを作る。それはあまりにも細くて頼りないモノだったけれど、


 「私のヤリは・・・一度刺さったら死ぬまで抜けないんだから!!!」


 全身で体当たりをするようにすれば細いヤリでも突き刺さるハズ・・・足に突き刺して・・・動きを止めれば、あとは隊の仲間の皆が何とかしてくれる・・・


 ふと、ノアの意識がとびそうになった。激闘の後の連戦で限界はとっくに超えている。ほとんど気力だけで動いているカラダを無理やりたたき起こすかのように、ノアは下唇を噛みしめる。


 ・・・今ここで・・・倒れるわけにはいかないの!!!


 そんなノアの必死を嘲笑うかのように、鈍獣は彼女の小さなカラダに長い鼻を巻き付けた。


 「うぁああああああああ・・・」


 ギリギリと締め上げられながら、ノアのカラダが高く掲げあげられる。


 隊員達はそれを助けようとするが・・・


 「こちらボブキャット・・・エンジントラブルが発生・・・これ以上の飛行は無理と判断。戦線を離脱します・・・」


 戦闘機から次々に悔しそうな報告が上がる。黒い雨はベタリと戦闘機のエンジンや主要な機関にとりついて、まともな飛行を出来ないように阻害してしまったのだ。


 「こちらファイアーイーグル・・・エンジントラブルが発生・・・折角なんで一泡吹かせてから緊急脱出してみます!」


 シュンの機体からとんでもない無線が入る。


 「おい!一泡吹かせるって・・・何を考えている!!!」


 戦闘機のチームリーダーが無線で無謀な若い隊員を止めようとする。


 「大丈夫っす!自分生命線長いんで多分死にません!!!」


 返ってきたのはそんな返事と、


 「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 という勇ましい叫び。シュンの操縦する戦闘機は真っすぐに鈍獣の後頭部へと突っ込んで行った。


 ドカーーーーーーン!!!


 爆発と共に彼の戦闘機は鈍獣の後頭部深く突き刺さった。それは巨大な獣にとって、人間でいえば爪楊枝くらいの大きさに過ぎないけれど、爪楊枝が深々と後頭部に刺さったのを想像してほしい。つまりは、そう言う事なのだ!


 「パオ――――――――――――ン!!!」


 痛みからくる叫びなのか、怒りの怒号なのか・・・鈍獣は咆哮を上げた。それとほぼ同時に、


 「「お兄ちゃん!!!」」


 ルシアとノアがほぼ同時に叫んだ。思わず、無意識に叫んだ。その声は誰にも届かなかった。もし届いても、例えば先生を間違えて『お母さん』と呼び間違えるくらいの些細なことに過ぎないと思われただろう。事実、叫んだ二人も自分がそう呼んだことすらすぐに忘れてしまった。


 フヨフヨと漂うシュンのパラシュートをノアは見た。彼の無事に安心する一方で、自分が今なすべきことを瞬時に悟ったノアは、


 「あなたの相手は私よ。よそ見しないでね!」


 そう言って細いヤリを鈍獣の目に向けて放った。


 グサリ!!!それは鈍獣の目に突き刺さった。


 咆哮を上げ、何度もズダンズダンと激しく足踏みする巨大な象。ノアは、鈍獣の怒りを全て自分に向けられるようにしたのだ。


 もちろん・・・その代償は決して安くは無かった。


 ギュゥウウウウウウウウウウ!!!!


 締め付けが強くなり・・・


 ミシッ!!!ミシミシッ!!!


 カラダ中の骨が悲鳴をあげる。


 「・・・っ・・・っ・・・・ぁ・・・!!!」


 ノアは口から漏れそうになる声を必死に堪えた。それは周囲に心配をかけたくないため・・・間違ってもシュンのような馬鹿な行動をとる者が出ないようにするために、必死に悲鳴を殺して・・・


 「くっ・・・んン・・・こ・・・こんなハグ・・・何でもないわ・・・よ・・・」


 と強がった。その声に、言葉に、怒りを覚えたのか、嗜虐心をそそられたのか、鈍獣は鼻の先端で、ノアの胸を弄り始めた。


 「んふぅ・・・ふぁ・・・な・・・なにを・・・っっ・・・!!!」


 幼い胸を弄られる悦虐に苦しめられ、ノアのカラダはピクンピクンと反応してしまう。


 「ノアちゃんを放しなさい!!」


 ルシアが赤い剣を作り上げ、鈍獣の足を斬りつけようとする。だが、消耗しきったエナジーで作られた剣は巨大怪獣に傷一つ付けることも出来ない。


 「うぁ・・・あぁあああああああああああああ!!!!」


 ノアの苦悶の喘ぎが響く。あぁぁ・・・彼女は今、胸元のオーブから、鼻でエナジーを吸われているのだ。


 ドクンドクンドクン・・・


 ただでさえ残り少ないエナジーが啜られていく。


 「うぁ・・・あぁぁ・・・んくぁああああ・・・」


 普段の勝ち気な彼女からは想像もできない表情で・・・切なげに眉をよせ、目を潤ませて口をだらしなく開きながら悶えているノアは・・・今どれほどの苦しみを受けているのだろう・・・


胸を嬲られる苦しみ・・・エナジーを吸われる苦しみを知っているルシアは、知っているからこそ焦った。一刻も早く彼女をその責め苦から助けてあげたかった。


「こっちを見なさい!!」

 

 ルシアは鈍獣の前に回り込んで、


 「レッドフラッシュ!!」


 そう叫ぶと、彼女の胸元のオーブが激しく光った。


 目が眩んで隙を見せた鈍獣から、ノアを救いたかったのだ。


 だが、その思いは裏目に出た。


 咆哮を上げた鈍獣は前足でルシアを蹴り倒した。


 「うぐぅ・・・ぁぁああ・・・」


 黒い雨に濡れた地面に女神のカラダは叩きつけられる。


 そして・・・


 仰向けに倒れたルシアの胸を・・・


 ドスン!!!!


 鈍獣の大きな足が踏みつぶす!


 「ぐはぁ・・・あぁぁ・・・」


 一度だけじゃなく


 ドスン!!!!


 「がはぁ・・・」


 ドスン!!!!


 「うぐぅ・・・」


 ドスン!!!!


 「うぁ“あ“あ“ああ・・・」


 何度も


 何度も・・・


 雲はドンドン黒く垂れてきて・・・黒い豪雨は激しさを増していく。


 全てが黒に染められる中、


 「んぁああぁぁあああああ・・・・」


 「うぐぁぁああああああ・・・」


 ルシアとノアの苦悶の悲鳴が続いていた・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


 カッ!!!


 ライトが四方八方から鈍獣を照らした。


 そこに映し出されたのは、鼻でカラダを締め上げられながらエナジーを吸われ続けているノア。巨大な足に胸を踏みつぶされながら弱弱しく悶えているルシア・・・


 絶望的な状況だった。


 ピコン・・・ピコン・・・ピ・・・コ・・・ン・・・


 二人の胸元のオーブが弱弱しく点滅している。


 闇を照らして映し出した状況は、むしろ見ない方がよかった・・・そんな状態だった。


 戦闘機は勿論、戦車も黒い雨によって使い物にならなくなっていた。


 だが、ノアもルシアも、他の隊員達も、希望は捨ててはいなかった。


 「パオ――――――――――――ン」


 激しい咆哮を上げた鈍獣はカラダを高く持ち上げて、


 ズドーーーーーーーン!!!!


 激しい地響きを立てながらルシアの胸を踏みつけた。


 「ぐぁあああああ・・・」


 赤い女神の悲鳴が響く。そして、


 ズダァン・・・エナジーを吸いつくされたノアが地面に叩きつけられた。


 「うぁ・・・あぁぁあああああ・・・」


 衝撃に悶えるノアの上に・・・その場にいる全ての者に、黒い濁流が降りかかる。


 鈍獣は鼻を天高く掲げ、そこからどす黒い液体を噴射したのだ。


 ライトは黒く犯されその輝きを失い、辺りは再び闇に閉ざされてしまった。


 その中で、紫色にボウッと光るモノがある。ソレは鈍獣の皮膚の模様。ソレはウネウネと蠢き出して・・・


 鈍獣の皮膚から抜け出て、紫の長い蛇の様なミミズの様なソレが、隊員達に向かって這いずり寄って来た。


 最早戦車も砲台も黒い雨によって使い物にならなくなってしまった隊員達は、パンパンと支給された銃を紫のワームに向けて放つが、無論そんなもので仕留められるほど怪獣は甘くない。その場にいるほとんどのモノが死を覚悟したその時、


 「あんたの相手は・・・私が・・・してあげる・・・」


 紫のワームの前に、ノアが立ちふさがった。


 彼女がもう立っているのが不思議なことくらい、その場にいる誰もが分かっていた。


 「もういい!!」


 誰かが叫んだ。


 「これ以上、ボクたちの為に苦しまないでくれ!!」


 その叫びに、ノアは


 「はぁ?あんた何勘違いしてんの?・・・『ボクたち』じゃない・・・私達よ・・・私は『私達』のためにカラダをはってんの・・・あんただってそうでしょ?・・・もう二度とそんな寂しい事言わないで・・・仲間でしょ!」


 そう言い放った。


 そのノアのカラダに、紫のワームが絡みつく!片足をグルグルに締め上げながら這いずりあがり、股間を、臀部を何重にも締め上げて、柔らかな腹に蹂躪するように巻き付いて、幼い胸を∞の形に締め上げて、プックリ浮かび上がった乳首にワームの先端が噛みついて責め苛んでいく。


 「んぁああああああああああ・・・」


 もう堪えきることの出来ない喘ぎ声がノアの口からまろび出る。


 グチュグチュウネウネと、幼いノアのカラダをワームは蠢きながら嬲っていく。


 「んくっ・・・こんなの・・・なんでもな・・・あぁぁあああ・・・」


 強がることすら許されず、ノアは苦しみ悶え喘いでしまう。


 「ノ・・・ノアちゃん!・・・うぁ・・・ぁぁ・・・この・・・汚い足を・・・どけなさい・・・」


 鈍獣の足の下でルシアが叫ぶ。


 その言葉を聞いたからなのか、鈍獣は彼女の胸を踏みしだいていた足をどかした。その代わりと言うように、端で彼女のささやかな膨らみを弄り始める。


 「んンあぁ・・・ひぁぁ・・・な・・・何を・・・んぁぁ・・・」


 エナジーが尽き、守るモノの無くなった胸は、蹂躪されるがままにその責めに屈服してしまう。ルシアに出来ることは、胸虐に苛まれながら悶え苦しむことだけなのだ。


 「くふぅ・・・ひぁ・・・胸を・・・そんな・・・玩具に・・・しないで・・・んぁ・・・あぁぁあああ・・・」


 ヌルヌルと胸をいたぶりながら、鼻はルシアの胸元のオーブにあてがわれる。


 ・・・あぁぁ・・・私はこれからノアちゃんみたいに・・・エナジーを吸われる苦しみを・・・味合わされるのね・・・


 彼女の悲壮な覚悟は、悪い形で裏切られた。


 ぶちゅうううううう・・・


 鼻からゼロ距離で噴き出た黒い液体に、オーブがドロドロに汚されていく。


 「はぐぅっ・・・っぁ・・・・あぁああああああああ!!!」


 液体はオーブを・・・首筋を・・・ささやかな双丘をドロドロに犯していく。


 「んぁっ・・・くふぅ・・・ぁぁぁ・・・!!!」


 ドロドロと液体を出しながら、ソレを塗り込むように鼻は胸をオーブを嬲っていく。


 「うぁ・・・んぁ・・・あぁぁぁあああああ・・・」


 ・・・あぁぁ・・・どうして・・・胸ばかり・・・責めて・・・んぁぁああ・・・


 カラダを弓なりにして悶えるルシアに、チカチカしたライトの光が目に入る。


 『十秒後・・・目をつぶって、全力でその場を離れて・・・』


 ライトの光はルシアにそう告げた。


 ・・・あぁぁ・・・やっと・・・待っていた『希望』が届くのね・・・


 ルシアの胸元のオーブが・・・ほんの少し光を取り戻す。


 ドロドロに汚され嬲られながら・・・微かな希望が・・・祈りが・・・赤い女神にほんのわずかな力を与える。


 ルシアはそのわずかなエナジーを、両手両足に込めた・・・


 ・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・


 0!


 その瞬間、


 カッ!


 眩い光が走ったのを、ルシアは強く閉じた瞼の向こうに感じた。


 それは特殊自衛隊基地より派遣された戦闘機・・・それが積んだ強力なライトの光。どんな闇をも切り拓く、凶暴なまでの英知の閃光。


その閃光と同時にルシアは両手両足に込めたエナジーを噴射!鈍獣の元から離れた。


 「パオ――――――――――ン!!!!」


 鈍獣が凄まじい咆哮を上げ、前足を高く持ち上げた。


 「そうです。怒りなさい・・・あなたは、光の刺激を受けると暴れ出す傾向があります。」


 指令室で、本間隊長は呟いた。


 「そして・・・踏みぬきなさい!!!!!」


 ズドーーーーーーーーーーーン!!!!!!


 その巨体が地面を踏みぬいたとき、ズブズブと深く前足が埋まっていった。


 元より下水道を破壊して出現した怪獣により、地盤は弱くなっていた。そこに膨大な重量を伴った怪獣が何度も何度も激しく踏みつけたのだ。同じ場所を何度も何度も―――


 前足は上下水道を踏みぬき、地下の電線を踏みぬいた。


 ビリビリビリビリ!!!!!


 高圧の電流が鈍獣を襲う。


 「パオ―――――――――――ン!!!!!」


 鈍獣が叫ぶ。


 だが、まだ倒せてはいない。


 「はぁ・・・はぁ・・・もちろん・・・こんなモノじゃあんたを倒せないってのは知っているわ。」


 鈍獣の動きが止まると同時に、ノアを責めていた紫のワームは消えていた。


 「ノア・・・分かっているわね・・・私達の・・・ありったけを・・・込めて止めを刺すわ・・・」


 ルシアの言葉に


 「えぇ・・・もちろんよママ・・・この希望を・・・無駄にするわけないでしょ・・・」


 ノアはそう答えて・・・


 「たぁ!!!」


 二人は最後の力を振り絞って、高く飛びあがった。そしてありったけのエナジーを込めたかかと落とし・・・狙いは、後頭部に刺さったシュンの戦闘機!!!


 「いっけぇえええええええええええ!!!!!!!!!」


 ズダーーーーーーーーーン!!!!!!!!


 ビリビリとするほどの振動の後・・・


 鈍獣は灰になって消えていった。


 黒い雲は風に吹き飛ばされ、夕日がへたり込む二人の女神を照らしていた。


 「えへへへ・・・今度こそ・・・終わりよね・・・」


 「えぇぇ・・・きっとそうよ・・・」


 ルシアとノアの光景をモニター越しに見つめながら、本間隊長は深く息をついた。


 五年前・・・ルシアの件を報告しに中央へ出張したその当日に、基地は『ギガントクルス』という未曽有の災厄に見舞われて、何人もの隊員達が尊い命を落とした。

本間ユウダイは何度も何度も自問自答した。あの時、自分が基地を離れなければ・・・いや、自分が基地にいたとして何が出来た?・・・得体の知れない異形を前に命を落としただけでは?・・・こんな事を考えること自体、亡くなってしまった命に対する重責から逃げてしまいたいだけなのでは・・・死んで楽になってしまいたいという、自分勝手で卑怯な思いからなのではないか・・・と。


 偶然ではあるが、自分は生き延びた・・・生かされた・・・


 そんな自分を・・・彼らは・・・彼女達は希望と呼んでくれる。だから自分は、それに応えるために、必死に頭脳を働かせるだけなのだ。


 「ふぅ・・・」


 深くため息をついて、椅子に腰を下ろした。下ろしてから、立ち上がる力が出ない自分に気が付いた。自分でも気が付かない長い間、ずっと微動だにせず立ち続けていたことに気づいた。


 でもそんな事・・・前線で戦っている隊員達に比べたら何だというのだ。


 「総員、直ちに帰還してください・・・それから・・・ありがとうございます・・・アナタ達のおかげで、また大勢の命が救われました。感謝します。」


 隊長はそう指示を出した後、また深くため息をついた・・・


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・

 ・・・


 「隊長、お休みのところすいません、報告があるのですが・・・」 


 談話室に入って来たルシアが、一瞬言葉を失う。


 「ノアちゃん・・・その頭は何?」


 シュンの膝の上、ノアの頭は何本ものちょんまげが結われていて、まるでウニのようになっていた。


 「これっすか?・・・そうですね・・・コンセプトは太陽です。」


 ノアに代わってシュンが応えると、


 「どうかしらママ、私こんな姿でも美しいでしょ?」


 と、ノアが胸を張る。


 「今すぐ解いて下さい。ノアちゃんを玩具にしないで下さい。イノリちゃんもどうして止めなかったのですか?隊長、何を笑っているんですか!!」


激闘の合間の談話室、凪のような時間が流れていた。


 ・・・・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・


 「ふーん・・・なるほどねぇ・・・」


 銀色の髪の、細いカラダに黒い燕尾服を着た中性的なナニカが、スマホのような端末を弄りながら呟いた。


 「教祖様・・・お茶を入れてまいりました。」


 全身白装束の男性がソレに声をかける。


 「だからさぁ・・・ボクを呼ぶときは『パーラ』って呼んでくださいよぉ。『パ』の部分が可愛くて気に入ってるんですから。」


 「はっ・・・すいません!きょうそ・・・パーラ様・・・」


 「まぁ・・・君が煎れてくれるお茶は美味しいから、許してあげますよ。」


 そう言うと、パーラと呼ばれたソレは端末を眺めながらほほ笑んだ。


 ・・・君は『ママ』たる赤い女神の仲間にして、彼女が守る人類の守護神・・・だったら・・・人類が『ママ』に牙を剥いたらどうするのかな・・・


 ソレが見つめる端末には赤い小悪魔の画像が映し出されていた。


聖天使エンジェル・ルシア 第七話 『日々』

Comments

ありがとうございます。 苦難の後の日常回。そしてその次は・・・ 次回も楽しんで下さったら嬉しいです。

アヤワスカ

ノアかわいいですねぇ、親子ですねぇ・・隊長がもうお爺ちゃん役に当てはまりすぎてる・・。 なんというか苦難を乗り越えた後の日常回いいですねぇ・・。

TWO

コメントありがとうございます!今回はノアちゃんの魅力を書くことがテーマの一つだったので、そこを褒めてもらえてとても嬉しいです!

アヤワスカ

ノアちゃんかわいい……ババゴンnセイラちゃんはすっかりお母さんになりましたね。 そんな美少女ふたりにお兄ちゃん呼びされちゃってるあの男には、ちょっと腹パンを……(ゴソゴソ)

リスワン


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